預言者と孤高の姫君   作:公私混同侍

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忘却と再生の輪廻

「陛下、ヘレナそしてルナ。三人は過去を歪曲させ、真実を無に帰し、生きとし生ける者達の時間と夢を奪ったんだ。運命の審判は平等に訪れるのさ。支払ってもらわなくちゃね。失われた時の代償を――」

 

ハドリアは実体化し恭夜の前に立つ。拳銃を差し出した。

 

「な、何でだよっ!?手が勝手に……!?」

 

恭夜は抵抗していた。見えざる力が働いているようだ。拳銃が手に吸いつく。腕が地面と水平になるように持ち上がった。

 

「じょ、冗談だろ!?う、嘘だ!どうして……こんなことが……」

 

恭夜は銃口が向けられた先に愕然とした。

 

「恭夜……様?」

 

「ハドリア!てめぇの仕業か!?」

 

ハドリアは冷たい眼光を放ち恭夜に抗うことのできない力を送る。禍々しい気が上空に漂い曇天を生み出した。全身の震えが止まらない。恭夜は引き金に指をかけた。

 

「くっそぉぉぉ……ヘレナさん……逃げてくれ……」

 

「さあ、お姫様。いや、預言者様?あんたの力を見せてみなよ。このままじゃアンチャンに人殺しをさせちまうぜ?」

 

「そのようなこと、ワタシはさせません!恭夜様、ごめんなさい――」

 

恭夜は引き金を引いた。ヘレナを直視できず目を瞑ってしまう。大木は光に包まれ視界が真っ白になる。広大で優しい光は混沌に包まれたコンスタンティノープルにも届いた。

恭夜は恐る恐る目を開けた。ゲルマとルナの姿がどこにもない。

両腕を上げたまま拳銃の感覚を確かめている。

 

「……拳銃が……ない!?」

 

「やっと正体を現した。ゲルマはともかく、ルナに危害が及ばないよう現代に(かえ)したんだね」

 

恭夜の前にはヘレナが無傷で立っている。だが、先ほどの光景とは明らかに違う部分があった。

 

「ヘレナさん?それって……拳銃だよね?」

 

「はい。ごめんなさい、恭夜様。ワタシは今はっきりと自らの力に気づくことができました。ハドリア様、あなたのオモチャはワタシの手にあります。このような結果で満足でしょうか?」

 

「ハッハー!ハーハッハッハ!」

 

ハドリアは豪快な高笑いで答える。サリーは舌打ちした。陛下は虚をつかれたような顔つきをしている。

 

「預言者様はもちろん気づいているんだよなぁ?時間の流れを力任せに捻曲げれば魂の集合体は更に強大になるってことをさ」

 

「強大になる?」

 

「つけ入る隙が無くなるということだ。あのハドリアという男、何をしでかすかわからないぞ」

 

サリーが追い詰められた剣士のような台詞を吐いた。

 

「だから何だと言うのですか?ハドリア様はただワタシのような異邦人が気に入らないだけではないのですか?」

 

「自惚れんなよ。時間を操れるからって関係のない奴らを巻き込むなって言ってんだ。そもそも預言者様は時間の使い方すらまともに知らなかったんだ。それが突然覚醒して、今こうして拳銃を奪ってみせた。簡単だろ?」

 

「ではハドリア様はワタシにどうしろと?」

 

「あるべき場所に帰ればいいのさ。預言者様が愛した国へ。そこにはいるんだろ?預言者様の帰りを待ちわびてる奴らがさ」

 

「ワタシの帝国はあの燃え盛るコンスタンティノープルであり、一度ならず二度も滅び去った古の帝国はワタシの手によって再建されるのです」

 

「違うだろ?この世界は預言者様がいるべき世界じゃない。本来はもっと離れた手の届かない、このハドリア様ですら想像もできないような途方もない世界さ」

 

恭夜とサリーはハドリアの心が洗われるような問いかけに反応した。

 

「生まれ変わったヘレナさんの国――」

 

「それが新生ビザンツ帝国だというのか?」

 

「ハドリア様はワタシを元の世界へ帰して頂けるのですか?」

 

「預言者様、いや、お姫様が強く願えばね。導いてやるよ、全力で」

 

「ハドリアはヘレナさんやルナを殺そうとしてたんじゃないのか?」

 

恭夜はしんみりとした空気を壊さないよう聞いた。

 

「最初はそのつもりだったけどな」

 

「ならどうして?」

 

「アンチャンを見てたら心変わりしちまったんだよ」

 

「俺のせい?」

 

「アンチャン、この時代の人間じゃない癖に命懸けでお姫様を守ろうとしたじゃん?首はねられそうになったり、崖登ったりしたり、敵の軍勢に立ち向かったりしてさ」

 

「あれはしょうがなかったんだ。俺なりに一生懸命だったってだけだよ」

 

「ほとんどは事故みたいなものかもしれない。けどさ、サリーもルナもゲルマもそういうアンチャンの愚直で不器用な人柄に惹かれて、一緒についていこうって思ってんだ。それにお姫様も例外じゃないしね」

 

恭夜はサリーを探した。すぐ傍にいるはずなのにサリーの存在を確認するとほっとしたような笑顔を見せつける。サリーも照れ隠しのような態度で応える。

ヘレナは恭夜の横顔を不思議そうに眺める。

 

「恭夜様の心にワタシが入り込む余地は無いようですね……」

 

ヘレナはぼそりと呟いた。恭夜、ハドリアと行動を共にしていた頃の会話を思い出したようだ。

 

「決心がつきました。ワタシはハドリア様と共にあるべき場所に帰ります」

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