預言者と孤高の姫君   作:公私混同侍

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招かれざる客人

ハドリアに指定された門にやって来た恭夜。約束の時間はとうに過ぎている。壁には木製の樽がピラミッド状に積まれていた。預言者に指示によって中には大小様々な石が入っている。

ザッザッザっという音が門の外から聞こえてきた。見回りの兵士が足を止める。鍵が施錠されているのを目視するが、欠損を確かめることなく立ち去ってしまった。

 

「おっせーよ、待ちくたびれちまったぜ」

 

ハドリアが地ベタに座り愚痴をこぼす。

恭夜が来るまで草をむしっていたようだ。土が剥き出しになっている。

 

「なぁ、ハドリアはこの世界の事情に詳しいのか?」

 

「なんだぁ?遅れて来たと思えば詫びの一つもないのかよ」

 

「ああ、悪かった。ほら、これが好きなんだろ?」

 

恭夜は持ち出していたリンゴをハドリアに投げた。

 

「へへっ、わかってんじゃん」

 

満足そうにリンゴをかぶりつく。咀嚼する時間が異常に長い。待てども待てども食べている。恭夜は待つのを諦め踵を返した。

 

「アンチャンはさ、もし歴史を変えることができるとしたらどうする?」

 

脈絡のない問いに恭夜は唸る。悩んだ末、

 

「サリーが望む未来になるのなら歴史を変えることに躊躇いはない。でも、もし歴史を変えたことで大切な人たちが傷ついたりするぐらいだったら俺はその人も守りたい」

 

「ふーん、結構アンチャンって感情任せに行動するタイプなんだ。メチャクチャなこと言ってるもん」

 

「逆にハドリアにも聞きたいんだけど、このビザンツ帝国ってこの後どうなるんだ?」

 

「そんなことお姫様に直接聞けばいいことじゃん。簡単だろ?」

 

「そりゃそうだけど……」

 

「ハッハー!さては何が正しくて、何が間違ってるのか分からなくなってるってわけだ」

 

ハドリアの指摘に恭夜は沈黙する。

 

「アンチャン、あそこ見てみ」

 

指し示された先は城壁に設けられた通用口だ。恭夜の場所から見ると扉が半開きなっている。人影は感じない。だが、嵐の前の静けさに相応しい不気味な雰囲気がある。風が吹けばキーキーと耳障りな音を発する。

鉄塔から見張りの兵士が監視の目を光らせてはいるが建造物などの死角が多く、とても目が行き届いているとは言い難い。

 

「どうしてあの扉は開けっぱなしになっているんだ?」

 

「そうだな、敵を誘きだすための罠かもしれないぜ?」

 

「誘きだす」という表現はいささか妙だ。付近にいた見張りの兵は既に立ち去っている。それに都市全体で防衛に徹するにしても、敵の侵入を簡単に許してしまうほどの余裕などあるはずがないのだ。この国に劣勢を覆せるほどの余力もなく、外敵の戦意を削ぐのような持久戦に持ち込むしか選択肢がない。よってハドリアの見解は誤りである。ここにゲルマやヘレナがいれば即座に反論できたのだが、そのことを嫌ったのか知識量で劣る恭夜を呼び出したのだ。

 

「ほんと惜しい。だってさサリーやゲルマがもう少し早く来ていたらコンスタンティノープルは滅びずに済んだかもしれないんだぜ?」

 

「コンスタンティノープルが……滅ぶ?どうしてそんなことがわかるんだ?お前は――」

 

扉が半開きの通用口から男たちの話し声が聞こえる。その声は次第に大きくなり、人数も増えまるで合唱でもしてるかのようだ。あまりの騒々しさに鉄塔から見下ろしていた監視兵がその「正体」を補足した。イェニチェリだ。

 

「あ、あんなたくさん……一体何が起こってるんだ!?」

 

「いい加減気づきなって。もう始まってるんだから。コンスタンティノープル、最後の攻防がさ」

 

オスマン帝国の常備軍は通用口が施錠されていないことを発見し、外壁を破壊する手間を掛けずに侵入することができたのだ。

埃を巻き上げながら、多数の人影が暴れ馬の如く城内を蹂躙する。遅ればせながら駆けつけたビザンツの兵士は実戦経験に乏しく、圧倒的な物量と機械化されたオスマン帝国のイェニチェリ相手に劣勢に立たされてしまう。

門前では激しい戦闘が繰り広げられ恭夜は逃げ惑うしかない。ハドリアは助けようともせず闇に溶けて消えてしまった。

恭夜が宮殿に引き返そうとすると、大量の水が押し寄せる。洪水となった激流は敵味方関係なく襲いかかった。激流は正門にぶつかり衝撃で崩落してしまった。

この大洪水を引き起こした人物は一人しかいない。

――ルナだ。

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