守護騎士が往く 作:○坊主
破軍学園の一年生、
前回の七星剣武祭の選抜戦で活躍していたにも関わらず、その後姿を晦ましてしまった生徒だ。
いたという過去形なのは一輝自身が学園で留年という形になってしまったがために会う機会が限りなく減ってしまっただけでなく、彼が姿を消してしまったがために一度も会っていないから。
一体何があったのか学園側からも何ら発言がなかったがために聞くことすらできなかったが、一輝がどうこうして解決できる問題ではないと察したために、素直に受け入れるしかなかった。
また留年という誤解を招くような発言であったが、黒鉄 一輝という生徒は学力に関しては全くと言っていいほど問題ない。唯、彼のことを調べていけばすぐに彼が抱えている重大な欠点が資料内から出てくることだろう。
彼は生まれつき魔力が低かった。それも平均の十分の一。
ただそれだけで留年までの道筋が決められてしまったのだ。
去年の記憶を振り返る。
今でも現状はそこまでよくないものの、去年は本当にひどい一年だったと改めて思う。
生まれたころから家から見放され、がむしゃらに一人で生きてきた。
あの時は本当に怒りを感じたものだ。
存在しないものとして扱ってきた者に対してここまでするのかと。
だがそれでも諦めなかった。諦めるわけにはいかなかった。ここで諦めてしまえば本当に自分という存在はなかったものになってしまうと、そう確信していたからだ。
周りの一年生が授業に出ている中、自分一人が許されない現状で彼ができることと言えばその時間を使って自分を高めるための修行を行うしかなかった。来る日も来る日も、早朝に起きて日々のトレーニングをこなし、己の数少ない魔力をうまく扱うべく鍛錬する日々。
その生活に少しの変化が現れたのは、ほぼすべての学生が喜ぶであろう一大イベントでもある夏休み。その初頭だった。
出会ったのは本当に偶然であり、互いに互いのことは全く知りもしなかった。
一輝はあの日のことを忘れない。
向こうが忘れていたとしても、あの出会いが一輝を支える数少ない柱の一つになったのだから。
(……今どこにいるかはわからないけど、無事にやっているって僕は信じているよ)
夏休みの間だけの関わりであったものの、共に鍛錬へ明け暮れた日々を忘れない。
彼と関わるにつれてあまり興味がなかった漫画や小説が一輝の寮部屋に増えてしまったのは今では良い思い出だ。
そうだ。帰ったら休憩がてらに買っていた新刊を読むとしよう。
そんなことを思いながら一輝が暮らしている第一学生寮405号室への扉を開けた。
数十秒後、少女の悲鳴が朝の静寂を引き裂き、天を貫いたのであった。
――――
「はぁー!はぁー!…ゴール…ッ!!」
「お疲れ様、ステラ」
「へ、平気よこれぐらい…っ!」
まだまだ肌寒い四月の早朝。
巨大な敷地を有する破軍学園の敷地の前に、二つの影があった。
一つは正門の前で浅く呼吸をしながらスポーツドリンクを飲むジャージ姿の黒鉄 一輝。
もう一つは一輝が休憩している間に遅れて到着し、ヘトヘトになりながらも自分の足で立っている異国の皇女 ステラ・ヴァーミリオン。
体力維持のために常日頃からトレーニングを行っている一輝だが、この早朝に行われているのも日課と言っていいものだった。
全力疾走に+してジョギングで緩急をつける独自の高負荷トレーニングを毎日二十キロ。常人であれば途中で倒れるのが必至である。現に
「本当にすごいなステラは…はい、スポーツドリンク」
「えっ、……うん。ありがと」
あまりの疲労からなのか、顔を真っ赤にしながらも素直(?)に受け取って飲み始めるステラを見て、間接キスになってしまっていることに一輝は的外れなの申し訳なさを感じながらも破軍学園の正門を見つめる。
「ようやく始業式か…」
一輝にとって感慨深いものがある。
去年は何のチャンスも与えられないまま過ぎ去ってしまった一年であるが、無駄な一年ではなかった。
あの時、学園側からあのような処遇を受けていなければ今こうしてステラと出会うこともなかっただろう。
新たな門出に至る前にステラの生着替えを見てしまい、なし崩し的に決闘。それをなんとか乗り越えてあれ以上に不平不満がないように関わりながら始業式開始前までやってきた。
今年は理事長が新たに変わり、
待ち続けたチャンスに嫌でも気分が高揚しているのがわかるのだ。
「なんだか楽しそうね。イッキ」
「そう見える?実は会いたい人がいてさ」
「…もしかして、女性?」
「ま、まあ女性ではあるけど…」
「そう。さようなら」
「ま、待って!!話を聞いて!女性ではあるけど僕の妹なんだ!!」
ハイライトを無くした目をするステラに対して必死に違うと主張する一輝の言葉にステラはすこし冷静になった。
一輝の過去は新理事長である黒乃から聞いている。
だからこそ、妹と呼ぶ女性に多少なりとも興味がわくもの。
「そういえば決闘の時も妹がどうのって言ってたわね」
「うん。その妹が今年の新入生として入ってくるらしいんだ。実家を飛び出してからご無沙汰だったから、久しぶりに会えるとおもうと嬉しくってね…楽しみだなぁ」
「一つ聞くけど、…その妹さん、血が繋がっていないとかいう設定じゃないでしょうね?」
「いや、どこにでもいる血の繋がった普通の妹だけど…設定?」
「ふむ、ならよし」
何を許されたんだろ?
よくわからなかったが、一輝はよくわからないことは深く追求しないのがポリシーだ。
思考を変えて、『始業式』の看板へと視線を戻す。これから始まる日々に思いを馳せる―――。
(危なかった…一輝の本棚にあった物を勝手に読んじゃってたのがバレちゃうところだったわ…)
そんな一輝のポリシーをまだよく知らないステラは自分の軽い失言に内心ひやひやしているところだった。
一輝が自分の着替えに括目したあの後、決闘を行なって敗北を喫した。
ステラは負けず嫌いではあったが、決して負けを認めない少女ではない。
あの決闘では見事に一刀で切り伏せられて気を失ったものの、錯乱するようなことはせずに素直に負けを受け入れた。
そして勝者である憔悴しきって眠っている一輝を知るために近くの本棚へと手を伸ばしたのだ。
最も本を読んだからといって彼の全てを知れるわけでは当然ない。それに勝手に人の物を読む行為はいけないことでもあることは理解した上でも尚、好奇心に勝てなかったと言っていいだろう。
多くを知ることはできずとも、彼の趣味趣向を知ることが出来る。
そうやって数冊の本を読んでいたのだが、幼いころから英才教育を受けて強くなることを念頭に生きてきたステラにとって、とても衝撃的なものだったと言っていいだろう。
娯楽だけでなく、教養として用いられることがある漫画、ライトノベル。
一輝が持つその本すべてが衝撃的なものだった。
一輝が寝返りをうった音が耳に届かなければそのまま数時間かけてでも読み更けていただろう。
そんな本に一つ、あったのだ。不慮の事故から常にそばに居ながらも、家族のように接しながら、血が繋がっていないであろう。そんな少年と少女の繋がりを。
(でも、大丈夫よね。いくら何でも一輝がはっきりと血が繋がったって言ったもの。いくら何でもそんな関係になっているわけがないわ)
皇女は存外、知ったばかりの知識に影響されやすい性格であった。
後日一輝が居ない間に再び読書に耽ったのちにジャパニーズNINJAを某少年漫画の影響で勘違いすることになるのは今は関係ない話だ。
――――
「いやぁ~気づけばもう始業式の時期なんだなぁ。もうそんなに経ったとか本当に信じられないわ。もう歳かな?」
「なにを馬鹿なことをおっしゃっているのですか?貴方はまだ現役の学生でしょう?」
「いやそうなんですけど…学園から離れてもう半年ほど経つとなるとこう…思うところがあってもいいじゃないですか」
一輝とステラが日課としているトレーニングを終えて帰宅して十分も経たないうちに正門の前に新たな男女二人が立っていた。
一人は破軍学園の制服を身に着けた傍から見ても何ら問題のない一般男子生徒。
そしてもう一人は学生服ではなく、フランスの貴婦人を連想させる純白のドレスを身に纏い、日傘で日光から肌を守る金髪の少女。
まるで年単位会っていなかったかのような発言をする少年を少女が窘めた。
窘められた少年はべつにいいじゃないかという態度で接しているが、実年齢で言えば少年のほうが年下である。多少老け顔であるが、少女よりも年下なのだ。細かいが大切なことである。
「ところでいつまで正門の前で立ち尽くしているのです?まさか報告を怠るつもりではなくて?」
「いやいやそんなことはないですよはい。ただただ感慨深いなぁとね。ん~これから3年間学生生活がんばるかー!」
大きく背伸びをしながらそう宣言する少年に対して金髪の少女は「はっ?」と普段では聞くことのない反応を見せた。
「一体何をおっしゃっているのかしら?貴方は
「いや、言った通りのことを述べたまでですよ。俺は
去年在籍している事実があるにも関わらず、一年生である。つまりいうところの留年である。
振り返って恥ずかしげもなくそう答える少年に少女は絶句した。
「ちょっ!?お、お待ちになられて!?それはどういう!?」
「さって成果の報告に向かいましょうか!
先輩の制止を軽くスルーしながら門をくぐって駆けだす少年が向かうは破軍学園の中心。
彼も含めた新入生達が新たな風として破軍学園を一新していくのだが、現時点でそれを理解している人物は極少数であった。