守護騎士が往く   作:○坊主

2 / 7
2話

  

「はい喧嘩はそこまで」

 

 一年一組に立ち込める怒気と魔力のぶつかり合いがその一言によって見事に両断された。

 空気すら焦がす灼熱の炎も、空間を凍らせるほどの凍てつく冷気も。どちらも互いに干渉しないよう、透明な壁によって遮られた。二人の伐刀者(ブレイザー)によって引き起こされそうであった悲劇は爆発する寸前で止められたと言っていいだろう。

 

「「っ!?」」

 

 一触即発の状況を生み出して教室を戦場に変えようとしていた二人は割り込まれた事実に驚愕する。

 なぜなら彼女らは破軍学園新入生の主席(ナンバーワン)次席(ナンバーツー)である生徒であったのだ。

 

 学園主席で入学し、『紅蓮の皇女』の二つ名を持つ。ヨーロッパの小国ヴァーミリオン皇国の第二皇女 ステラ・ヴァーミリオン。

 方や学園次席であり、同じく『深海の魔女(ローレライ)』の二つ名をもつ名家 黒鉄家の鬼才。黒鉄 珠雫(しずく)

 

 伐刀者(ブレイザー)ランクで見ればAランクとBランクという極めて突出した人物だった。

 そんな二人のやり取りに一般生徒たちは固唾を飲んで見守るしかなく、彼らのことを知っている黒鉄 一輝ですら彼女を止めることは無理だと匙を投げた状況を立った一言。そして一つの行動だけで全てを収めて見せた。

 

「…本気じゃないとは言え、私の魔力を遮断するなんて…」

「…どなたです?」

 

 二人は先ほど争っていたことを一旦棚に上げてその人物を視認する。当然ながら新入生たちにとっては当然初めて見る生徒であった。

 髪は短く揃えられており、清潔感がしっかり出ている。制服を着ているためどれだけ化はわからないが、しっかりと鍛えられていることは二人でもよく分かった。

 しかし今先ほどホームルームが終わった時点でこの教室に入ってくる生徒は一体何者なのか?

 その答えは彼女らが慕う人物がよく知っていた。

 

「えっ…まさか…九条君!?」

「よっす。久しぶりだな一輝!」

 

 一輝にとってはまさかの邂逅。

 しかし彼以外の生徒たちは頭にクエッションマークを浮かべながら只々彼らを見ている他なかった。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ本当に久しぶりだよ!去年突然いなくなったと聞いてから全く君の情報が入ってこなくて心配したんだよ!」

「いや~それに関しては正直すまなかった。俺も衝動的に学園飛び出してたもんだからさ。一輝の連絡先聞くの忘れてたし、伝える手段ないまま今日まで引っ張っちまった」

 

 慌ただしい初日を終えて学園内の売店から適当な食べ物を見繕った一輝たちは休憩がてらに公園スペースまでやってきていた。一輝の既知の親友ということでステラと珠雫は双方とも渋々怒りを収めてここまでやってきたのだ。

 ステラと珠雫は一輝が去年黒鉄家の圧力と前任の理事長たちによって何をされていたのかを知っている。それに関して他の生徒たちが一輝に対してどういう態度で接していたかも理解していただけに、一輝があそこまで親しくしていることに驚きがあった。

 

「ねぇ…イッキがあそこまで嬉しそうにしているクジョウって人、あんた知ってる?」

「いえ、初めて聞きました。ですが、お兄様を知っているということは少なくとも二年生。…去年の腐った連中たちの中でもお兄様に味方してくれていた人はいたんですね…」

 

 親しく話している二人を背に、先ほどまで戦闘を起こそうとしていたステラは知っているかと問いかけるが、珠雫は今年入学した身。彼に対して全くの情報はない。だが、自分が慕う兄があそこまでの表情を見せていることに対して、普段以上に心を許していることは珠雫に理解できていた。

 よかったと思う反面、悔しくないと言ったら嘘になる。

 隣にいる牛乳女であればよからぬことを考えていると思って警戒していたが、彼は男性。気を許せる仲間として一輝は接しているのだ。去年の心の傷を自分が癒してあげる立場に収まっていたかったとそう思った。

 

「――で、一輝に対して大層な好意を寄せているであろうあの美女二人は一体どちら様よ?彼女?いや、妻?」

「―――。…い、いやいやいや。突然何言ってるの!?ステラと珠雫とはまだそんな関係じゃないって!?」

「嘘つくのが下手か。顔真っ赤にして『まだ』とか言ってる時点でそんな関係になりつつあることは一目瞭然だわ。ちくしょうもげろモテ男め」

「もげろってなにさ!?」

 

 珠雫の心境を語っている間、九条という生徒は一輝についてくる二人の女性に対して問いただしていた。最もすぐに察せるぐらいわかりやすい反応をする一輝をからかうのが楽しくなったのは一輝には内緒だ。

 一輝の肩に腕を回して話していたがそれをやめて、ステラたちに向き合った。

 彼女らもこちらに気づいて姿勢を正す。

 

「さて、一輝の反応から大体察したとは思うが改めて自己紹介を。俺の名は九条 (たける)。一輝と同じく留年したために一年一組に所属する。これからよろしくな!」

 

「「「一年生!?」」」

 

 さわやかに自己紹介する九条に対して、三人の驚愕が重なるのであった、。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~…ったく、無茶をさせる」

 

 場所は変わって理事長室。

 ようやくごたごたが終わったと新たに就任した新理事長 神宮寺(じんぐうじ) 黒乃(くろの)は盛大に息を吐いた。

 腐った上層部を叩き出したことによる嫌がらせの報復行為や、留年生 黒鉄一輝が起こした国際問題に発展しかねない覗きからの衣服キャストオフ事件。その二つだけでも面倒であるというのに、今度は強引に留年させろと言ってくる生徒がいる始末。全く面倒極まりない。

 そもそも生徒が望んで留年させろと理事長に直訴してくることが前代未聞。普通に却下しようとしたら今度は国がらみの要人から頼みを聞いてくれと連絡が届いてきたときは流石に胃腸薬に手を伸ばしたくなった。

 

 一学生が一体どんなルートを用いれば要人から一報贈られることになるというのか。細かい内容は貴徳原(とうとくばら) カナタから聞いているから実際には理解しているのだが、如何せん馬鹿なことをするなと声高に怒鳴りつけてやりたいところだ。

 世間を騒がせている解放軍(リベリオン)とやりあって大怪我を負ったとか、その過程で要人を助けたなどの報告で怒っているのではない。勇敢と無謀は違うのだと、人に社会を教えている者の責務として教育する義務があるが、やるべきことはやり遂げて生きて帰ってきている以上どうこう言う必要はないだろう…が、だ。

 

「うぃーっす。…ん?くーちゃんなんか面白いことでもあったの?」

「…寧音(ねね)か。先ほどの私を見て面白いことだとどうして思った?面倒事に決まってるだろう。黒鉄といい九条(こいつ)といい、無理させるなと言ってやりたいところだ」

「へー。くーちゃんがそこまで気にかける生徒がいるんだ。んん~ちょっと気になるねぇ?」

「余計なちょっかいかけるなよ?お前は調子に乗るとあいつら以上の面倒事を持ってくるんだからな」

 

 わかってますよ~と右手をひらひらさせながら意思表示をする着物を着た小柄な女性。名は西京(さいきょう) 寧音(ねね)

 新理事長である黒乃とは学生時代のライバル関係にあたっている人物であり、『夜叉姫』の異名を持つ。伐刀者内でも世界指折りのトップランカー。本来ならば教師ではないため、学園内に勝手にはいることは許されていないのだが、黒乃が腐りきった教師陣を大量にリストラしたために人員が不足していたため、臨時講師として手伝いを頼んたことでやってきたのだ。

 

 学生時代からの知り合いということもあってか、自分に対して砕けたいつも通りの口調で接してくるが咎めるようなことはしない。むしろ敬語を使われた日には全身に蕁麻疹が発症してしまいそうなぐらい想像できなかった。

 

「しっかし、くーちゃんも酷なことをするねぇ。学園きっての落ちこぼれ(ワーストワン)と呼ばれている生徒の卒業条件が“七星剣武祭優勝”だなんて普通に考えればお前は卒業させないって言ってるようなもんだよ?」

「だがお前はそうとは思っていないだろ?条件があったとはいえ、私に勝って見せた男だ。そのぐらいやってもらわなければ私があいつらを破軍学園から叩き出した意味がない。就任して数年後に結果を出しましたでは遅すぎる」

「まぁね。動きを見ればすぐにわかるさ。皇女サマの動きを見切ってすぐさま模倣するあの技も大概チートってやつだ。正直この学園内でも対抗できる奴なんて一握りなんだろ?ま、選抜戦勝ち抜くのもその特定のやつらと当たらなけりゃ余裕でしょ。ま、無理なんだろうけど」

「まぁな。わざわざ卒業させないためにありもしない校則を作ってまで圧力をかけていた奴らだ。意地でも《雷切》に当てたがるだろうよ」

「前年度の七星剣武祭4位(・・)の壁がどうなるか。見ものだねぇ」

 

 二人しかいない広めの空間に楽しそうに笑う声が響く。

 破軍学園の代表を決める選抜戦が行われるまであと少し―――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。