守護騎士が往く 作:○坊主
彼女は学園無敗の最強の騎士だ
親愛する兄が言った言葉が脳裏に残る。
黒鉄家に産まれ、育ってきた
魔力量だけではない。戦闘の心得、魔力制御、戦略。そのどれもが自分より劣っていた。これは紛れもない事実であり、最上級生であっても彼女に勝てる人物は極少数なのが現実である。
その極少数に確実に入る自身の肉親。学園だけでなく、数多くの武芸者の技を見ただけで剣術を模倣し、己の技へと昇華させる『
それだけで珠雫の興味を引くのに充分だったのだ。
己の能力をフル活用した戦いを行うことが出来る。
手加減をせずとも、全力を打ち破りながら向かってくる相手が学園内にも存在する。
それだけで珠雫の戦闘意欲が湧き出てくるというものだ。
(ふふふっ、東堂刀華…貴女相手に私の限界を試す機会があることを、楽しみにしていますよ)
足元で疲労困憊で立ち上がることが出来ない生徒たちには目もくれず、普段の珠雫からは想像もできない極めて好戦的な笑みを浮かべて訓練場から立ち去った。
久しぶりに出会った美人な先輩がヤンデレバトルジャンキーになりかけている件についてどう思う?
そんな馬鹿なことを脳内で思いながら
武が東堂先輩とまた選抜戦で戦おうと約束したであろう日。はっきり言ってしまえば引き分けで両者が疲労困憊で倒れ、戦闘が継続できなくなったすぐのことだ。
戦闘終了後のことを武自身はよく覚えていない。先輩が何かしゃべったことに対して何も考えずに反応してしまったのだが、おそらくそれが決勝でまた戦おうといった約束だったのだろうかと空を眺めながら思う。
授業が終わって破軍学園昼休み。
九条武は一人で寝そべりながら昼食を済ましていた。
友人である一輝は同じクラスの生徒達から弟子入りを志願され、それに答えるようにトレーニングを行っている最中だ。彼は動きを見る目がとても鋭い。数センチの動きズレも修正し、より高みへと生徒達を高めていくだろう。それだけの技術を有している。
初めに難癖をつけてタコ殴りにしようとした生徒でさえ一輝は受け入れて修行をつけてあげているのだ。人の良さが染み出ている。だからモテるんだろうなぁと空を眺めながら考える。
自分は一輝と同等の武術技能があるわけでもない。一輝の下僕(ステラ談)のステラ・ヴァーミリオンのように魔力が溢れているわけでもなければ、その気になれば真水を作り出し、空間の水分を凍らせて凍土へと変れるであろう黒鉄珠雫のように魔力制御が特に秀でているわけでもなかった。
そんな自分がどうやって東堂刀華と引き分けることが出来たのか。今それを考えると本当によくそこまで持ち込めたと感心する。
「あのぉ~九条君。ちょっとお時間いただいてもよろしいですか?」
「ん?いいですけど――えっと…
「はい。覚えて頂けてうれしいですよ」
最後のおにぎりを食し終え、身を起こすと背後からそう声をかけられた。
振り返ると眼鏡をかけた少女。新聞部所属のクラスメイトがメモを片手にこちらを見ていた。
武の反応に良かったと笑顔を浮かべているが、初日から一輝のことを詳しく知りたがっており、結構話している姿を見かけることから人の顔と名前を一致させるのが少し遅い武でも正解することができた。
昼休みの時間を使っていたということもあってそう時間も取られなかったし、聞かれたことも軽い問答ぐらいだったことは助かった。武は取材という行為に慣れていない。いや、慣れている人のほうが少ないと思うが、取材行為に良い感情を持っていないのが本心だった。
それを汲み取ってくれているのか、数回の質問で済ませてくれた加々美に感謝したほうが良いのだろう。
「ちなみに、武君は学園最強の騎士と称される生徒会長 東堂刀華先輩と浅からぬ縁があるとか…」
「浅からぬ縁って…一体どこからそんな情報流れてるんですかね?」
「あれま、気づいていないの?黒鉄君やステラさんは注目されるのは当然ですけど、武君も注目されてるんですよ?去年のダークホース、まさかの留年!?って感じのスクープでですね」
「まじかよ…」
「それだけでなく学園生徒会長もやけに張り切っている姿が見られているということですし、今年の選抜戦はとても有意義なモノが見られそうで楽しみですよ!ではでは話してくださってありがとうございました~!」
駆けていく後ろ姿を見送りつつも武は破軍学園の選抜戦ことを考える。去年は一輝を選抜戦に出させないために授業を受けることを禁止させ、選抜戦に出ることが出来る生徒も一定ランク以上は禁止させられていた。
しかし今年は新理事長の下、破軍学園を再び強豪校へと変えるためにランク制度など関係なく、やる気のあるものだけが出場し、そしてランク関係ない抽選によって選ばれた相手と戦って無敗の生徒達を代表へと認定する方式に替えられた。これによって去年ランクという机上の数値で涙を呑んだ生徒達もやる気になっていることだろう。
つまるところ去年の情報がない精鋭たちも今年から活躍してくるということ。
グラフ上ではない、実践慣れしている生徒たちがどれだけいるかはわからないが、まだ見ぬ強敵に想いを馳せる。破軍学園の七星剣武祭選抜戦の選考が行われる一日前のことだ。
破軍学園の『選抜戦』
それは七星剣武祭と同じ実戦形式で行われる一対一の決闘だ。
制限時間は無制限。勝利条件は相手の意識を奪うこと、又は相手のギブアップ。実践形式であることは普段生徒たちに義務づけられている
命の危険が当然存在するが、可能な限り教師や職員がストップをかけることもある。だがそれも確実ではない。去年の戦いは自棄になった生徒が大怪我の状態で暴れ、そのまま失血死しかけることもあった。
そのため参加するのは個人の自由。戦闘向きではない
大まかに三日に一回の頻度で行われる勝ち上がりのトーナメント形式で、去年は無敗の生徒を5名ほど決めて代表にしていた。
今年は新理事長 真宮寺黒乃の下、選考ルールを変えるようである。
勝負の際のクジ運も必要であるが、あくまでも本人の意思を聞いてから代表に選ばれる。仮に無敗で勝ち残った生徒が代表になる意向を示さなかった場合、それよりしたの成績の者、詰まるところ一敗の生徒から教師が選ぶ形に変えるということ。
基本的には七星剣武祭に出場できること自体が名誉なことであるため、辞退する生徒はいないだろうが保険のためらしい。
そんな大まかな説明を受けつつ、参加するか否かのボタンが手帳のデスクトップで表示される。
一度『はい』を押すとその時点で選抜戦の始まりだ。
武はなんの躊躇いもなく『はい』のボタンを押す。
軽い電子音が流れ、試合参加を表明。対戦相手は事前に知らされている。何も恐れることはない。
入場を促すマイクアナウンスが自分を呼んだことを確認して、武はリングへと続く扉を開いた。
『さぁさぁついに今年もこの時がやってまいりました!七星剣武祭に至るふさわしい者を決める破軍学園選抜戦!実況は放送部の
『どもー』
『早速ではありますが、選手の紹介と参りましょう!まずは破軍学園でもトップクラスの破壊力を有するその力で昨年、数多の生徒達を打ち倒し破軍学園において序列第4位という実績を遺しています!真正面から豪快に!そして正々堂々と粉砕していく様からついた二つ名は『
紹介に合わせて坊主頭の巨漢が拳を挙げる。
砕城の後ろに座って応援する生徒達から大歓声が上がる。
『流石初日の最初の試合ということもあって歓声も一際大きいですね』
『なかなかにいい男ねー。うちは生徒達を見るのは今年が初めてだから、序列4位がどれほどのものか楽しませてもらうよー』
『はい。西京先生のエールも伝えてもらったところで次は対戦相手の紹介です!
去年から彼を知っている生徒達は驚かされたことでしょう!前回の選抜戦は途中で棄権し、試合を見る機会は少なかったものの、その少ない試合数で学園序列1位『
紹介され、四方に備えられている観客席に会釈する。
初日の初戦とあって満席で迎えられている今からの戦いに、武は観客の声援を背に受けつつも精神を静かに落ち着かせた。
去年は緊張でガチガチになってしまっていたものの、今年はそのようなことはない。慣れた可能性もあるが、やはり実戦を経験した以上、このぐらいの状況で揺らぐわけにはいかない。
「九条武」
「ん?どうしたんですか砕城先輩」
これからすぐにでも試合が始まるというのに砕城は武に声をかけた。声をかけられたからと言えど気を緩めるようなことはしない。ただ相手に伝えたいことがあったからだ。
「…去年の選抜戦、身勝手ながら見させてもらった。相手の攻撃を真正面から防ぎきる。その胆力、その行動力。実に素晴らしい。それも我らが生徒会長 東堂刀華を相手にしても尚凌ぎきったこと、実に驚愕した」
「んー…ありがとうございます」
褒めるためだけに声をかけたのだろうか。
そんな考えが頭に浮かんでくる武を他所に砕城は続けた。
「某は今、これまでで一番沸き立っている。この学園生活において初日の相手以外、俺と真正面から打ち合おうとする者はいなかった。どんな相手も某を前にすれば攻撃を避けるか諦めて受けるかしかいなかった。だが貴殿は違うだろう?どんな相手であっても、どんな能力であったとしても、貴殿は退かない。それが貴殿の戦い方だろう?」
「――その通りですよ砕城先輩。俺は退かない。どれだけ相手が脆弱であっても、どれだけ相手が強大であっても。
「実に良き言葉だ。であるならばしかと受けてみよ。『
「……なるほど。先輩の破壊力が勝つか、俺の防御力が勝つかの勝負ですか。受けて立ちます」
『おぉーっとぉ!試合開始前から砕城先輩の高評価に加えて正面突破と宣戦布告だぁ!これに対して九条選手も受けて立ったァ!!これは初戦から熱い戦いが期待できそうです!!』
武の返答に解説者がこれでもかと盛り上げる。
「障害を打ち砕け。《
「護れ。《
九条と砕城。双方軽い言葉を数回交わした後に
砕城は身の丈ほどの刃渡りを有する斬馬刀を。
九条は
『それでは本日初戦の試合、開始ッ!!』
両者が獲物を手にして構えたのを見計らって、開始の合図が送られた。