守護騎士が往く 作:○坊主
「始まったね」
「そうねイッキ。タケルがどんな戦いをするのかは知らないけど、惨敗なんて結果は御免被るわよ」
「ははっ。惨敗という言葉は恐らく彼に一番似つかない言葉だろうね」
「…お兄様がそこまでおっしゃるなんて…それほどなのですか?」
「あたしから見ればなかなかいい線いってそうだけど、ね」
「あんたが言うとどっちの意味なのかわからなくなるわ…」
一輝たちは双方の横顔を見る。試合を見るにあたっては最高のポジションに座っている。
選抜戦の初戦を行うのは一輝の友人 九条武。
その次の第二試合はこの会場で《
同じく第二試合で別会場では《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオン。
第三試合では別会場で珠雫のルームメイトである心は乙女の
そして第四試合、この会場で《
生徒数も多いためか一日に行われる試合日程もかなり多い。
そのためかなりのハードスケジュールで組まれた選抜戦で全員が全員の試合を観戦することは叶わなかった。が、それでも同じ学年の友の試合は気になるもの。試合会場的にステラも急げば間に合う距離のため、今回同席している。
「うん。さっきの解説でも言われていたけど、武は強い。それこそ学園最強と引き分けるぐらいにはね。どんな戦い方なのかは見ればすぐにわかる。彼のようなタイプの騎士はそんなにいないからね」
一輝の視線はすでに試合開始の合図が済んでいる会場から離れていない。
相手がどんな戦術を用いているかを見逃すほど一輝は暇を持て余していなかった。
『うぉーっと!砕城選手、斬馬刀を振り回す!!対する九条選手はそれをずっと眺めているが大丈夫かー!?』
「振り回せば振り回すほど斬撃の破壊力を増す。それが某の
「もちろんですよ先輩。実に豪快で、その巨体に見合う能力だ。だからこそ、防ぎがいがある」
試合開始と同時に頭上で斬馬刀を振り回す砕城に対して九条がとった行動は静観だった。
相手がどのタイミングで攻撃を仕掛けてくるか。それを見極めるのに武は自身の
「…やはり面白い。あえて某の最重量となる攻撃を受けるつもりか」
「当然。護る者ってのはどんな攻撃が来たとしても避けてはいけない。後ろに護る者がいるときに避けたりなんてすれば後ろに当たってしまうから。…もし先輩の攻撃で俺が一撃で倒れるようであるなら、俺はその程度の生徒だったってことです」
「ふっ、なら望み通り全霊を持って挑ませてもらおう」
斬馬刀を振り回しながらも互いに一歩も動いていない。
いつまでこの時間が続くのか。そう考える生徒が出る前に砕城が先手を打つ。正面から斬馬刀を振りかざし、そのまま突進。
宣言通りの正面突破だ。
「うぉおおおおおおおおぉぉぉぉお!!」
『おぉっとぉ!砕城選手が先に仕掛けたァ!振り回せば振り回すほど斬撃重量が累計加算される砕城選手の
振り下ろされる巨大な刀身から発せられる魔力が平均的な斬撃でないことを語っている。
斬撃を重ね、重量を底上げした砕城雷の力は一撃で地を割ることが出来る。非常に攻撃力が高い攻撃だ。何もせずに生身で受け止めればバターの如く体を割き、すぐさま黄泉へと連れて行ってくれるだろう。
「ちょ、ちょっとなんでタケルはなにもしないの?本当に大丈夫なの?」
「心配ないさステラ。あれが彼の戦い方なんだ」
「相手の動きを見てからカウンター狙い…ですか?確かにそれならわかりますが…」
今にも攻撃されそうな状況にも関わらず、構えたまま動かない九条を見てステラは本当に大丈夫なのかと声をあげた。あまりの微動のなさに珠雫も逆に警戒の目を持つぐらいだ。
「カウンター狙いじゃない。彼はさっき砕城先輩の攻撃を受け止めると宣言したんだ。つまり彼は文字通り相手の全力を受けきるつもりなんだよ。…動くよ」
珠雫の考えをやんわりと否定し、試合が動くと一輝はステラ達に告げた。
砕城が放つ
「―――《金剛壁》」
直後、ガキィン!と激しい音が鳴り響く。
「な…なんと…!!」
砕城が放った最重量の斬撃が武に触れることなく防がれたのだ。
地を砕く一撃は、いかなる防御も文字通り叩きつぶす。それを確信していた砕城は眼前で防がれてた現実に目を剥いた。
武が持つ霊装で防御したのではない。武の眼前にバリアのような壁が現れ、彼を砕城の攻撃から完璧に護ってみせたのだ。まさに宣言通りに。
「くっ…ならば壊れるまで叩くのみよ!!」
上段からの叩きつけを、下段からの切り上げを、勢いを利用した突きを。自分が思い浮かぶ攻撃を繰り返し、眼前の壁を破壊すべく行動に移す。
「うらぁぁぁああああ!!」
甲高い音を放ちながら一方的に攻撃を仕掛ける光景が数分続く。
攻撃する側も動き続けているため、体力を消費する。段々と攻撃する頻度が減っていき、砕城は肩て息をしながら攻撃を一旦停止させた。
その結果を観客たちはあり得ないものを見たかのように静かに見ていた。
「はぁ…はァ…」
「…確かに受け切ってみせましたよ。砕城先輩」
先ほどと変わらず、無傷で静観に徹する武が存在していた。
幾多の攻撃を受けながらも何事もなかったかのように佇むその姿に、砕城は頭を抱える。五体は無事、体力消費は多かったが魔力は十分。で、あるというのに下手に動くことが出来なくなった。
相手はまだ攻撃すらしていないのだ。自分はまだ反撃すらされていないのだ。
ノーダメージしか表示されない相手にただただ殴り続ける虚無感。これ以上は自身の力で越えることができないのではないかという思考が精神を蝕んでいく。
「まだだ…まだだァァアア!!」
「《金剛壁》」
しかしまだ勝ち目がないわけではない。
砕城は宣言通りに真正面から打ち勝つことをその場で諦めた。
それはつまり勝負で負けを認めるということだ。しかしそこまでしても一矢報いたかったのだ。
正面から打つと言っている以上、相手も正面にしか壁を張っていない。そしておそらくそれは一枚の壁。側面や背面にはおいていないはずだ。
先ほどと同じように連撃で相手の意識を正面に引き付ける。十、二十と斬撃を叩き込む。そして五十もの斬撃を放とうとした瞬間で砕城は方向を瞬時に切り替えた。
即ち、不意打ちである。
「クレッシェントアックスゥゥウウ!!」
最初の攻撃も含めた数百を超える累計加算。それらが凝縮された武の背後から放たれる大薙ぎ。
武の視線はまだ正面。
これなら行ける―――。そう確信した。が、
ガギャアン!!
と見えない壁を斬馬刀が叩く。その反動で砕城は己の霊装から手を放してしまった。
一体何がと砕城は武の背を見る。そして気づいた。
うっすらと、彼の周りを何かが覆っていることを。
「《金剛壁“
呆然とする砕城に武は告げる。二度目の《金剛壁》を発動した時点でこの技も使用していたと。
そして武は魔力を高め、自身を護る壁に色を付けた。
「な――――」
砕城の視界に入ってきたのはまさに日本が誇る一つの城。
城壁があり、城砦があり、そして城門まで目に飛び込んできたのだ。もちろんそこまで精巧なつくりではない。しかし大まかでもわかるレベルで城が試合会場に鎮座していた。
その光景に絶句する。
先ほど自身の斬撃を防いだのは、武がこの城で自身の周りを囲っていたからだ。それも先ほどまで気づかれないレベルの隠密性。そしてその防御力に言葉を失う。
去年の映像を見たときは正面、側面と一枚の板を小分けにして出し、壁を張る形で防衛戦を行っていた。
それが今ではどうだ?
一面ではなく、
「砕城先輩。……続けますか?」
「―――参った。ギブアップだ」
穂先を砕城に向けて伝える。これ以上はこちらからも攻撃を行うという合図でもある。
なんとか留めていた戦意が折れるのに、時間はかからなかった。
『し、試合終了!勝者は九条 武選手です!!』
先ほどとは打って変わって静まり返った会場に、試合終了を告げるマイクがやけに響いた。