就職は異世界で魔王!?   作:羊頭狗肉

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第9話 能力開花の兆しと初戦闘

 ~翌日 岬の自室~

 

 昨日の話し合いから一夜明け、岬は携帯の目覚ましが鳴る前に目を覚ます。

さすがに体が習慣を覚えたのか最近は同じタイミングで起きるようになっていた。

 

 「こんな調子で金が無いことにも慣れるのかな・・・」

 

 昨日の岬への講義だった時間はいかにして資金を工面するかの会議に変わっていた。

しかし、まとまった額を手にする方法など思いつかず具体的な案はでなかった。

どうしたものか、と考えながら洗面所で顔を洗う。

 

 「あの、岬様、おはようございます。朝ごはんをお持ちしました」

 「あ、は~い。ありがとう。今開けるね」

 

 顔を洗っているとフェアが朝食を持ってきた。

扉を開けるとフェアと一緒にシャルも来ていた。

 

 「あれ、シャルさん?どうしたんです、ランニングまでまだ時間ありますけど」

 「む、その、昨日の殴った腹は大丈夫か?」

 

 どうやら昨日の一撃を気にしていたようだ。

未だ腹には鈍い痛みは走るが筋肉痛と大差の無い痛み。岬は笑って首を縦に振る。

 

 「大丈夫ですよ。フェアが薬を塗ってくれたし痛みもありません」

 「そ、そうか。では食事を取れ。食べたらまた走りこみに行くぞ」

 「では、準備しますので失礼しま・・・あれ?」

 

 フェアが部屋に入り、食事の用意をしようとしたがあることに気付く。

続いてシャルがどうしたのかと中を覗き込んだ。そして彼女も気付いた。

 

 「えっと、特に散らかってないよね?どこかおかしいかな、俺の部屋」

 「い、いえ、そうじゃなくて」

 

 気付いていないのは部屋の主だけ。

シャルは無い口でため息を吐き、部屋を指差す。

 

 「岬、貴様は起床してこの扉の前まで来たな?灯りはつけたか?」

 「え、灯り?いえ起きたときにはもうついて・・・あれ?」

 

 部屋を見回して岬も気付いた。テーブルや壁にある燭台は火が灯っていない。

つまり、岬は暗闇の中、明かりも無しに扉まで歩いてきたのだ。

目が暗闇に慣れたというレベルではない。光源も無しにまるで昼間のように明るく室内が見える。

 

 「えっ!?火がついてない!でもよく見える!なにコレ!?」

 「落ち着け、馬鹿者。やっと継承石を飲んだ影響が出始めた・・・と言った所だろう。フェア殿、とりあえず食事の準備を」

 「あっ!は、はい。すぐに準備します!」

 

 部屋のテーブルに朝食を並べ、3人が腰を椅子におろす。

岬とフェアはともかく、シャルは肉体が無いため食べる2人を見ながらさっきの説明を始める。

 

 「おそらく、飲み込んだ継承石がようやく体に馴染み始めたのだ。肉体を人間から魔族に近い物へと変えようと変化を始め、その結果暗闇を見渡せるようになったのだろう」

 「でも、変化のわりに余り突出した能力には思えませんが?」

 「馴染み始めたといったろ?これからどんどん肉体が変り能力も増していくだろう」

 

 継承石を継承するのは大抵、石を遺した者の血縁者や近しい者で尚且つ相性の良い者である。

他種族で人間が受け継いだ例もあるが、変化は様々。外見が著しく変わる者やまったく変化の無い者も居たそうだ。

 

 「とにかく、変化が起き始めているのは分かった。今後の経過に期待だな」

 「あまり見た目が変わるのは遠慮したいなぁ・・・」

 「なってからのお楽しみだ。ほら、さっさと走りにいくぞ」

 「い、いってらっしゃいませ」

 

 

 2人してフェアに「いってきます」といって外に出る。

途中の洞窟内部も岬は鮮明に見渡すことができ、少し良い気分だった。

 

 

~迷宮周辺 山中~

 

 「ふむ、体力は・・・判断に困るな」 

 「はぁ、はぁ、自分としては、努力の、成果と思いたいです」

 

 継承石による変化が起こったからなのか、これまで継続して続けてきたからなのか、はたまたその両方か岬の体力は多少の向上を見せていた。息切れはするものの、今までの息も絶え絶えの状態と比べればかなりの進歩だろう。

暗闇が見渡せた事も手伝い、岬は気持ちが高揚し、疲れながらも表情は笑顔だった。

 

 「っ!?岬、止まれ!」

 「は、はい!」

 

 突然シャルが静止を呼びかける。

 何事かとシャルの前方に目を向けるが何も見えない。と、シャルが足元の石を拾い茂みに投げ込んだ。

 

 「ギャッ!!」

 

 投げ込んだ茂みから甲高い声が響く。

ガサガサと茂みを掻き分け出てきたのは小柄な身長の生き物だった。

肌の色が緑色で耳はエルフのように尖っている。しかし、エルフのように端正な顔ではなく醜く、見るに耐えない。

数にして10体。各々が簡素な武器と防具を装備している。

 

 「えっと、ゴブリンってやつです?」

 「その通りだ。どうやらはぐれのようだな」

 

 ゴブリンは単体ではなく常に複数で行動する。

しかし、集団で動く者の中には爪弾きにされたり、自ら群れから離れる者もいる。

そういった連中のことをはぐれという。

 

 「な、なんか目が血走ってるんですけど・・・」

 「空腹なんだろうよ、目の前に人肉がいるんだから骨まで食いたいだろうさ」

 「あれ、エスペルトの権威って通じません?」

 「無理だな。それに奴らの頭の中は食うか繁殖のことしかないだろう。仮に話が出来るとしてあの様子で説得できるか?」

 「ですよねー」

 

 今にも飛び掛らんと包囲を縮めるゴブリン達。

全員が口から涎を垂らし、口元を三日月のように吊り上げ笑っている。

1目見て話し合いは無理と分かる。

 

 「貴様は身を守っていろ。可能なら倒せ」

 

 シャルは盾と剣を構え、前方の2体のゴブリンを斬り捨てる。

瞬時に2体の仲間が倒されたことでゴブリン達はシャルへの警戒を強める。

6体がシャルを包囲し牽制。残り2体が岬へと襲い掛かってきた。

 

 「ゲギャギャ!」

 「なに喋ってんのか分からないよ!日本語喋れ!」

 

 悪態をついて、ゴブリンの攻撃をいなしていく。

岬にとってこれは練習ではなく文字通り命懸けの初戦闘である。その事実が体の動きを鈍くする。またゴブリンは総じて小柄で的が小さい。そのため拳を振るうが掠るだけで決定打に至ってない。

 

 「グギヒヒヒィ」

 

 シャルに比べて岬が格段に弱いと悟ったのか、2体のゴブリンは醜悪に笑う。

片方は刃こぼれしている手斧を構え、もう片方は自身の爪を舐めてにじり寄ってくる。

 

 「ゲッギャー!」

 「うっ!」

 

 持っている斧を岬にめがけて投げつける。

一瞬硬直したが、横に身を捻り岬は斧をかわす。が目の前には爪を振り上げたもう1体がいた。

 

 「ゲギィ!」

 「ッ!!」

 

 上体を後ろにそらしたが、左頬を裂かれそのまま倒れこんでくる。

岬は仰向けに倒れ、ゴブリンは岬の胸で馬乗りになり、ニタァッと笑う。

 

 「~~~!!」

 

 その顔を見た途端、岬は恐怖に支配される。

無我夢中で目の前の緑色の小人を殴り飛ばし立ち上がる。

 

 「ゲハッグ!?」

 「はぁ、はぁ、・・・・・ふぅ!」

 「ガキュ!?」

 

 放った斧を拾い岬に斬りかかろうとしたゴブリンの鼻を右フックでへし折り、殴り飛ばした方の腹を蹴り上げる。

格下と思っていた存在からの思わぬ反撃にゴブリン達は後退る。

 岬は裂かれた頬が痛むことにも気付かず、敵と睨み合う。

 

 「まぁ、初の実戦でここまで出来れば上出来か・・・」

 

 いつの間にかシャルが2体の背後に立っていた。

彼女に気付き、振り返ろうとしたゴブリン達は同時に首が胴から離れ絶命した。

 シャルは岬に近づき頭に手を乗せる。

 

 「最初の方は目も当てられないが、さっきの動きはまあまあだった」

 「はぁ、はぁ・・・」

 「初めのうちはあれで良い。徐々に相手の動きを見ることに慣れる」

 

 まだ興奮が冷めないのか、岬は肩で息をする。

その様子を見て、シャルは頭を撫で、歩を促す。

 

 「今日は中々衝撃的だったろ?初の実戦は皆疲労が半端じゃない。今日はゆっくり帰ろう」

 「・・・はい」

 

 その後、迷宮に着いた岬は緊張の糸が切れたのか、シャルに寄り掛かるよう崩れ落ちた。

 シャルは思う。ゴブリンに襲われたのはある意味運が良かったと。

彼女は岬の浮かれた気持ちに気付いていた。しかし、それをどう諌めればいいのか分からないでいたのだ。

言って押さえつけるのは簡単だが、岬自身が向上心を保ったまま注意を促す言葉をシャルは知らなかった。

 

 力が芽生えてきたのは良い、それに喜ぶのも自然なことだ。そして力を得てそれを自覚したことによる万能感も。

普通の人間にはない力を得たことで、自分が他よりも優れている点があると優越感が岬に生まれていた。

優越感は過ぎると人を傲慢にする。努力する事を辞め、今の実力に胡坐をかき始める。そうなる前に誰かがどこかでその優越感を壊す必要がある。その為、ゴブリン達の襲撃は僥倖といえた。天狗になりかけた岬の鼻を折ってくれたのだから。

 

 (折れた鼻がきちんと元に戻れば良いが・・・)

 

 岬が慢心したかどうかまだ分からないが、初の戦闘で初めて本物の恐怖を味わったはずだ。

目が覚めて恐怖に縛られたままだったり、変なプライドが形成されていたら今後が心配になってくる。

これからの行く末が岬に掛かっているシャル達。「ままならないものだと」呟き、岬を部屋に運ぶことにした。 

 

 

~その日の夜 南の街 ブレイニー 酒場~

 

 迷宮から南に位置する街、ブレイニー。

隣国から隣国へ渡る際に必ず通り、自然と物も人も集まる流通の要となっている街である。

街の周辺には外敵を阻むための外壁が立っていて外から街の様子を伺うことは出来ない。

また、軍も駐屯していて東西南北に作られた門の警護をしている。

 

 その中の北の門、つまり、迷宮がある山脈への道へと通じる門。

そこから2人組の冒険者が1軒の酒場へ入り、カウンターに腰掛ける。

 

 「マスター、いつもの酒くれよ。しっかし、この時間稼ぎ時なのに閑古鳥だねぇ」

 「よし、わかった。桶に溜めた俺の特製ブレンド(客達の胃の中にあった液体)の酒だな」

 「スンマセン!金が無いのでお冷いただけませんでしょうかぁ!」

 「ごめんなさい、マスター。ガゼルが役に立たないもんだから今日も稼げなかったのよ」

 「え!?俺が悪いの?」

 

 ガゼルと呼ばれたこの男。茶髪のツンツン頭にオレンジ色のバンダナを巻き、金属製の胸当てを着けている。

他に防具らしきものは無く、腰に2本のショートソードを差している。髪の色と同じ瞳で相棒の女と酒場の店主を見る。

 

 「どうせ、また坊主が頭ん中で妄想した恋人とイチャこいてる間に獲物に逃げられたとかだろ」

 「マスター、貴方預言者の素質あるわよ?」

 「当たってねぇだろ!ただ戦闘前にすれ違った女の胸がデケェもん、だから・・・その・・・スンマセン、ネフィカ様」

 

 当たらずとも遠からずな原因を聞き、相棒のネフィカは感情を感じさせない蒼い眼でガゼルを見る。

ガゼル同様軽装で緑を基調とした服に背中に弓を背負っており、腰まである金髪を後頭部で結んでいる

その背中の弓に矢を番えてガゼルの眉間に狙いを定めた。

 ネフィカはまるでゴミでも見るかのような視線をガゼルに送る。マスターも呆れているのか白い目で苦言を放つ。

 

 「そんなんだから2階級にすら届かねぇんだよ。」

 「ぐふっ!」

 「もし戦場だったら、真っ先に突撃要員(捨て駒)にされるでしょうね」

 「がふっ!」

 「あと、坊主、宿泊費滞納3日分きちんと払えよ、飯代も込みでな」

 「ぐはぁ!・・・・あ、ふ、ふふふ!」

 

 トドメと言わんばかりにマスターがガゼルの借金内容を突きつける。

が、唐突にガゼルが笑い出し、テーブルの下に置いたあった大きな麻袋をカウンターの上に乗せた。

 

 「なんだこのゴミ袋」

 「ゴミじゃないって、実は北の山中でゴブリンの群れと遭遇してさ、かる~く捻ってやって奴らの身包みを頂戴したのさ!」

 「そうね、捻ったわね、既に死んでいたゴブリンの首を」

 「つまり手前ぇが殺ったんじゃねぇじゃねぇか」

 「まぁまぁ、マスター、確か鑑定できたよね?これで溜まってたツケはチャラってことで!!」

 

 麻袋から出て来たのは今朝方岬とシャルが倒したゴブリン達の身に着けていた防具や武器。

マスターは1つ1つじっくりと武具を見ていく。向かいではツケがチャラになる所かお釣りが出るだろうと期待するガゼル。

そして、その様子を冷ややかに眺めるネフィカがいた。

 鑑定が終わったのか、マスターはコップに水を入れ自身の喉を潤す。

 

 「ね、ね、いくら?いくら?多少は利子付いても良いんだけど?」

 「・・・・・ガゼル、あんた黙ってなさい」

 「むしろ田舎帰れ、ドアホ」

 「・・・・へ?」

 「どれもこれも手入れが全くされて無ぇ、防具は傷だらけ、武器は刃こぼれや血糊がベットリついてやがる。はっきり言ってガキの小遣いにもなりゃしねぇよ」

 「馬鹿なー!!」

 

 ゴブリンの死体を見つけ、武具が大量にあることだけに眼がいっていて、品質について頭が回っていなかったようだ。

そもそもゴブリン達が装着できる物なのだから通常の人間には小さすぎて装備することなんて無理だろう。

買い取り不可と言われ、ガゼルはこの世の終わりのように落ち込み隅で膝を抱える。やはりゴミ袋だったようだ。

もちろん2人は無視を決め込んだ。

 

 「それにしても、妙だな」

 「なにがよ?」 

 「北の山脈は以前、弱小魔王が居たが討伐されて以来、出没する魔物なんてスライムが精々だったはずだ」

 「あぁ、あの自称魔王ね、あれならガゼルも良い勝負したんじゃない?」

 「坊主が負ける方に全財産かけるわ」

 「それじゃぁ、賭けが成立しないじゃない」

 「てめぇは俺に賭けろよ!」

 

 薄情な相棒にガゼルが吼えるが2人は見向きもしない。

ネフィカは腕を組み腕の上にたわわに実った胸を乗せて会話を続ける。

 

 「要するに、魔物が活発化していると?」

 「偶然流れてきたって線もあるがなぁ」

 

 マスターは蓄えた髭をいじり、ネフィカと話す。

 

 「とりあえず、坊主と組むってことはしばらく北の山を行ったり来たりだろ?日銭の稼ぎがてら様子を見てきてくれ。ギルドに通して依頼しておくからよ」

 「任せてくださいよ、マスター!この俺がきっちりその役目」

 「テメェはまず、足を引っ張らないように気ぃつけろ」

 「居るだけで良いから。余計な仕事増やさないでね」

 「・・・・はい(泣)」

 

 彼なりに頑張ってはいるんだが世間の風は冷たかった。

 

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