就職は異世界で魔王!?   作:羊頭狗肉

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第11話 模索と依頼と認識

~迷宮内部 岬の自室~

 

 シャルからエスペルトに残っている家臣の数を聞いてから3日。

岬はずっと頭を悩ませていた。

 

「・・・まさか6人だけだなんて」

 

そう、改めて人数を聞いたところ、非戦闘員のフェアを含めて6人しか居ないのだ。

オルディとシャル、フェアの3人、残りの3人の内1人は昨日紹介してもらったので挨拶は済んでいる。しかし、残りの2人は現在迷宮を離れていて直ぐには会えないとの事。

 

「う~ん、・・・現状のままじゃあ駄目だよなぁ」

 

今日まで訓練をしなかった日は無い。

ゴブリンとの戦闘以降はより精力的に取り組んでいる。

しかし、訓練を続けても自身は強くなるだろうが人員が増え、経済状況も改善されるわけではない。むしろ岬(戦力外)が増えたことでエンゲル係数が上昇している。

 

 今現在、岬の立場はある意味此処に来る前より酷い。

無職(フリーター)からヒモへとランクダウンしているのだから。

 

「・・・・よし!」

 

 現状では何の進展も無い。

なら進展があるように進展になりうる情報を探そう。

岬はオルディの私室へと急いだ。

 

 

~南の町 ブレイニー 酒場~

 

ガゼル達が宿泊施設として利用している宿屋兼酒場のカウンターに3人の人間が顔をあわせている。まだ開店前であるため他に客らしき姿は見当たらない。

3人の内の1人、酒場のマスターが深く息を吐いた。

 

「そうか、特に異常無し・・・か」

「マスターが言ってたように流れてきただけだったみたい」

「の、割には納得してねぇって顔してんぞ」

 

 マスターに指摘され、ネフィカは言葉を詰まらせる。

確かに山の生態系に異常らしき異常は見当たらなかった。しかし、ゴブリンの死骸にあった疑問は未解決のままで得心がいかないのが彼女の心境である。

 

「ガゼルが足引っ張らなきゃもっと進展あったかもしれないわ」

「いや、俺今回何も落ち度らしい落ち度なかったじゃん!?」

「坊主、自覚持て」

「過程見てないのに!?」

 

 確かに今回ガゼルはミスを起こさなかった。

しかし、悲しいかなそこは植えつけられた万年1階級冒険者という周囲の認識が事実を歪めていた。「どうせ相棒に負んぶに抱っこだったんだろう」、と。

依頼の成功過程を見ていない者からすればガゼルより優秀なネフィカが依頼をこなしたと見るだろう。

 

「まぁ、当然っちゃ当然だわな」

「理不尽だ!世知辛ぇなオイ!」

「その要因作ったのはアンタ」

 

 カウンターに両手をついて叫ぶがそもそも周囲の認識はガゼル本人の行動故である。

失敗に失敗を重ね、改善されるどころか失敗の内容だけがレベルアップしているとさえ思われている。

 

「まぁ、坊主の事は置いてといて、頼みてぇことがあるんだわ」

「毎度ご利用ありがとうございます!この冒険者ガゼル謹んでその依頼」

「てめぇが冒険者なら他の連中は全員勇者様だっつの」

「話が進まないから黙りなさい」

 

 新に依頼があると聞き喜ぶが一々反応が大げさ且つウザったい。

2人に静かにしろと言われ、ガゼルは回転式の丸椅子の上に正座と真剣なのかふざけているのかいまいち判断に困る姿勢をとる。

 

「・・・まぁ、依頼っとは言ったが」

 

 ガゼル(馬鹿)をしばらく見たがマスターは話を切り出す。

しかし、歯切れが悪く話題を進めようとしない。

遠慮がちに姿勢を正したままのガゼルが手を挙げる

 

「マ、マスター?」

「あぁ、悪ぃな、どう説明すればいいのか迷っちまってな」

「あ、足痺れてきたので姿勢変えてもいいすか?」

「・・・あぁもういい、そのままクタバレ」

「マスター、話の続き・・・」

 

 少しでもこいつが真面目だと思った自分が馬鹿だったと頭に手をあて、マスターは改めて話を進める。ネフィカにいたってはマスターに視線を固定して隣を見る素振りさえない。

そこに人間など居ないとでも言いたげだった。

 

「依頼ってのはこの街を出歩く時、怪しい奴が居ないか、居たらギルドに報告してほしい。出来れば何処を根城にしてるかもな」

「・・・つまり尾行?いまいち要領を得ないわね」

「ここ最近、奴隷の密売が頻繁に行われてるらしい」

 

 奴隷と聞き、2人の顔が真剣みを増す。

確かに現在この大陸には奴隷制度がある。しかし、それはキチンと法律上の手続きを踏んだ奴隷だ。

 

 主に経済的な理由で生活が立ち行かなくなった者がその身分となり様々な労働に従事する。奴隷と聞いて馬車馬のように働かせ、過酷に扱っても咎めの無い最底辺の身分者を想像するだろうが、奴隷という労働力を悪戯に殺さないよう法律は敷かれている。

 

 しかし、大陸全土にその法が行き届いているかというとそうでもない。

法が敷かれたのは2世紀ほど前。それまでの奴隷はイメージ通り人権と尊厳を無視された存在が普通だった為、今もなお根強く奴隷は道具、消耗品といった認識を持つ輩が後を絶たない。

 

 権力者や裏家業を営む者にとって法で裁かれることが無く、身分や暴力による理不尽を振りかざせる相手(奴隷)は必要不可欠だった。だが法が敷かれて奴隷の待遇が見直され、以前のように大っぴらに彼らに対して力を行使する事ができないばかりか入手さえ手続きが必要となった。

 

 そのため権力者の別邸や街の地下で秘密裏に売買が行われ、法の目に触れないよう奴隷に対する扱いも陰湿且つ狡猾なものへとなっていった。

 

 中には借金の片に無理矢理連れて行く者、商売の契約書に正規の手続きを踏んだ様に偽造する者、果ては人攫いに手を染める者まで居る。

 

「・・・この街で?」

「この街だからだよ。近くに町や村がないから物や人が自然と集まるからな」

「怪しい奴見つけてその場でふんじばっちゃ駄目なのか?」

 

 ガゼルの問いにマスターは首を横に振る。

 

「街で見つけられる程度の奴ぁ下っ端だ。大本を潰さねぇと場所変えてまた起こる」

「集まった所を関係者全員捕縛?」

「俺ら2人で?」

 

 2人の疑問に対してマスターは手を左右に振る。

規模はまだ不明だが流石にたった2人で解決できる案件ではないだろう。

 

 

「他にもギルドから信頼できる連中に声を掛けてもらってる。口の堅いこと前提のな」

「・・・口が堅い?」

 

 ネフィカは胡乱な視線を横に送る。

どう見ても横の相棒にその言葉が適用されるとは思えない。

マスターも同意見なのか腕を組んで目を瞑る。

 

「流石にこんなこと辺り構わず喋ったりしねぇよ!」

「まぁ、坊主の自制心と注意力に期待したいんだがな」

「疑わしきは罰したほうが良いわね」

「まだミスってないのに!?」

 

 やはり相棒を含め、彼への評価は低かった。

 

 

~迷宮内部 オルディの私室~

 

「街へ・・・ですか?」

 

 岬がオルディへと持ち掛けた相談は街に探索へ行くこと。

現在の日常サイクルでは戦闘面の強化のみでエスペルトが抱えている問題の解決にはなっていない。収入の見込みが無い今、例え低所得であっても収益を得ないと立ち行かなくなってしまう。

 

「はい、山と迷宮に居るだけじゃ思いつかない何かがあるかもしれませんし」

「ふむ、・・・一理ありますな」

 

 実際収入に困っていたのは事実。

街には何度も生活の足しに私物を売りに行っているし、これを機に何か手に職をつけるような仕事を見つけて経済面を少しでも軽くすべきだろう。

 

「わかりました、では私も同行いたします。売りに行く荷物をまとめますので明日の朝に出かけましょう」

「わかりました!よろしくお願いします」

 

 この世界に来て初めて人間の居る街へ行く。

少なからずどんな所なのか楽しみになる。岬は明日の準備のため部屋を後にした。

 

「・・・私は反対するものと思っていたのだがな、オルディ殿」

「シャル、貴女は反対ですか?」

 

 岬と入れ替わりに入ってきたのは漆黒の鎧を肉体として動く首無し騎士。

どうやら話を聞いていたらしい。シャルは腕を組み椅子に座る。

 

「・・・半々だな。今の岬に街へ行くことが吉と出るか凶と出るか判断できん。」

「というと?」

「確かに奴は確実に強くなっている。しかし、経験があまりにも不足している。街へ向わせるのは時期尚早ではとも思う」

 

 その経験を積みに街へ行くのだが、シャルは矛盾に気付かず話を続けている。

どうやら気持ち半々というよりも反対側のようだ。

 

「珍しいですな、シャルなら千尋の谷に突き落とした上に這い上がった手を踏んづけて蹴り落とす位すると思いましたが」

「・・・私の事をどう認識してる?私は悪魔か?」

「我等は魔族ですが?」

 

 流石にそこまではしないと反論しようとするシャルだが、オルディの言葉に苦笑気味に言葉を止めた。確かに魔族が悪魔で無いといっても説得力など無かった。

 

「この場合は鬼の目にも涙・・・でしょうか」

 

 にこやかなオルディの発言に抗議の言葉は出てこなかった。

 

 

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