「…といった次第でして」
「あ~、なんというか、その」
父親と比べられるあまり不貞腐れ、財産を売り払い魔王の新計画に参加したと。
おまけに見栄を張ろうとしたのか、この領地の競りが行われる際、競り合っていた金額の10倍の額を提示したらしく。
迷宮を整える金も残らなかったらしい。
(この部屋や儀式場の中途半端さは前当主の向こう見ずな散財が原因か・・・)
「そして、その1年後、デボレー様は冒険者に討たれてお亡くなりになりました」
「はぁ!?」
あまりのあっけ無さに岬は絶句する。
冒険者とは各街の冒険者ギルドに加入している者を指す。
「偶然、迷宮の入り口付近で特階級の冒険者とでくわしまして・・・・・・・」
ギルドにはランクがあり、ランクは最高位の特階級から順に1階級、2階級、3階級、4階級、5階級となっている。
ちなみに、特階級は英雄または勇者と呼ばれてもおかしくない強さの者を指す、特階級は世界でも10人いるかどうからしい。
「迷宮始めてすぐ勇者とエンカウントしたのか・・・」
生まれてからずっと不憫な人生を送ってきた前当主、死に方まで不憫だった。
「申しました通り、現在エスペルト家には経済的な蓄えはございません。見限り去っていった者が持ち出したか、デボレー様の散財で消えたかのどちらかです。おまけに傭兵を雇うのに他家から借金をしていたのですが、利子がとんでもなく高い条件で契約されていて・・・」
頼れる者は既にになく、居るのは使用人と幾人かの兵士、死してなおも続く前当主の散財。そしてエスペルトから何もかも毟り取ろうとする他家、まるでゆっくりと沈んでいく船を連想してしまう。
「…苦労されたんですね」
「…そのお言葉。心に沁みます」
よく見ると彼の目には涙が滲んでいた。
もしかしたら白髪なのは心労のせいなのかもしれない。岬はオルディを労いつつ問いかける。
「エスペルト家の成り立ちと現状は分かりました。他の、何故俺なのか、本当に人の命を奪わなくても良いのかを教えてください。あ、良かったらハンカチどうぞ」
「これはかたじけない。・・・岬様、まず岬様が懸念されておられる『相手を殺すか否か』について説明いたします。」
岬は頷く。正直召喚理由よりもそちらの方が知りたかった。
「戦う相手を殺すか否か、それは戦う者に委ねられますので進んで奪う必要はございません」
この言葉に岬はホッとした。
いくらなんでも無理矢理召喚した挙句、『貴方には殺し合いをしてもらいます』は嫌だ。
「そもそもこの迷宮王国計画は目的が幾つか有ります。1つ目は人間の戦力分散。2つ目はそれぞれ支配地域特有の物資または魔力の献上。3つ目は強者の育成・・・とでも言えばいいでしょうか」
「強者?魔族側の?」
「いえ、人間側・魔族側両方です」
この回答に岬は首を傾げる。
計画は人間界を支配するものではないのか?少なくとも1つ目と2つ目の目的は理に適っている。
「当然の疑問ですな、この計画の目的は魔王様が楽しむ為のものなのです」
魔王は闘争を好み、一騎打ちや戦場での指揮など戦いに関すること全般が好きらしい。
そして戦いが終わるのを嫌う。いつまでも戦い続けたいと願い、常に好敵手を求めている。
迷宮計画が進めば人間は窮地に陥る。窮地に陥ればどうにかしようと策を巡らせる。もしかしたら自分と対等に戦える者が出てくるかもしれない。
魔族側もそれぞれ支配した領地で王となり、それに相応しい軍勢を整えるだろう。
我こそはと思うものは、新魔王を名乗り挑んでくるかもしれない。
どちらも上手くいかなければ地上を支配して次の敵を探すだろう。探す間に支配した領地を見て回るのも一興。成功しても失敗しても魔王が楽しむことには変わりが無い。
「戦闘狂ってことですか?」
「戦闘を行うためのあらゆる努力を惜しまない方ですから戦闘狂と言えなくも無いのですが。外交を蔑ろにはしておりませんし、なんとも判断に困る方です。ですが、何においても強き者がこの上なく好きな方です。フォルド様の意見を求められることもありましたので」
ですので、と言葉を区切る。要は強くなれば問題は無い。
他家が政治干渉しても問題が無いくらいに、勇者や英雄と戦っても問題が無いくらいに強くなれば良い。政治・経済・軍事あらゆる面で。と聞いて岬はすごい勢いで首を横に振る。
「いやいやいや、俺は格闘技を齧っただけのずぶの素人ですよ?政治のいろはなんて知らないし、軍の率い方なんて分からないし、そもそもそんな世界を狙える連中と渡り合えませんよ!?」
自身のスペックの低さは理解している。おまけに齧った格闘技は畳みの上限定でしか経験が無い。
誰がどう見ても戦力外だ。しかし、オルディはそれをやんわりと否定する。
「いえ、渡り合えます。その理由が岬様を召喚した理由になります」
いつの間にかフェアが小さな箱を持ってきた。
それをテーブルの中央に置き、彼女は下がる。オルディが箱を開けると深い紫の宝石があった。
よく見ると、宝石の内側に血の塊があり、ピクピクと脈打っている。
「な、なんスかそれ?」
「高位の魔族は自分の力や知識、特性を宝石に封じ込め他の者に受け継がせることができます。特に名前があるわけで無いので、継承石とよんでおります」
それを取り込めば、その石を遺した魔族の力や特性を受け継ぐことができるらしい。
そして、継承するには相性があり、岬の世界で相性が良く、信頼に足る人物を探していたのだ。
(なおのこと俺より適役いると思うんだけどなぁ)
自分の何処がそんな高評価だったのかと考えながら宝石に手を伸ばす。
ちょうど手のひらにスッポリお納まる六角形の宝石をジッと見る。するとフェアとシャルは驚きの表情を浮かべている。
「どうしんたんです?」
「えっ!?あ、ああの。その」
「その継承石はフォルド様が遺された物。悪用されぬよう触れた者が即死するよう術が施されている。持てるのは継承に相応しい者だけだ」
「・・・・・・・え゛」
聞いて冷や汗がブワッと出てきた。
何気なく手を伸ばした石にそんな仕掛けがあるとは思わなかった。そして、触れてもなんとも無いという事実、それは本当に自分がこの石を受け継ぐ資格を持っていることになる。
「何はともあれ、貴方が継承に最適な人材であることは証明できましたな。いかがでしょうか?誓ってこれ以上の隠し事はございません。どうか私共にお力添えを願いませんでしょうか」
オルディが居住まいを正し、岬を見る。
岬はといえば、未だ踏ん切りがつかない様子。1度は引き受けた手前、「やっぱり拒否」はどうかと悩む。
しかし、オルディに加え、フェアと(多分)シャルも見つめてきた。視線に耐え切れなくなり岬は半ばヤケクソ気味に決心した。
(ああ、もうどうにでもなれ!)
「わかりました!わかりましたからそんなジッと見ないでください!出来る限りやってみますよ!」
「御決断、感謝いたします。改めまして、ようこそ岬様、エスペルト家の未来、貴方様に託します」
了承の言葉を聞いた瞬間、にこやかにオルディが微笑む。その言葉を待っていたと顔に出ている。
他の2人も喜び岬に声をかける。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
「あ、あのわかったから、あんまり頭下げないで・・・気が引けるから」
気が引けるとは言ったが、実際には頭を下げるたびに揺れる物体に目が行ってしょうがないというのが本音だったりする。
下半身が蜘蛛とはいえ、上半身は幼い雰囲気を残した美少女なだけに目のやり場に困っていた。
「良くぞ言った。それでこそ騎士だ!次期魔王よ!」
(騎士じゃないし人間なんですけど・・・)
自分はいつの間に騎士で魔王にされたのか、岬の肩に手を乗せ共に敵を滅ぼさんと意気込むシャル。
三者三様に喜んでいるようだが、岬は心の中で呟いた。
(あぁ。今日はもう何も考えたくない)
---と。