就職は異世界で魔王!?   作:羊頭狗肉

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文章の書き方を変えてみました。




第8話 練習と講義と今後の課題

 「まぁ、人間の身体能力、それもその辺の一般人と大差無いスペックではな・・・」

 

 武器を取りにいっていたシャルが戻り、オルディとの手合わせの結果を話すとさもありなんといった風に辛辣なコメントが返ってきた。

 

 「蟻が氾濫した川を渡るようなものだな」

 

 確かに岬は改めて魔族の生き物としての格の違いを知った。知ったが・・・。

 

 「せめて、もう少しオブラートに言葉を優しくしてもらえません?」

 「現実はしっかり現実として認識しろ。それよりも武器を選べ」

 

 ズイッと押し付けるように渡された箱の中には先程同様に武器が入っていた。

ダガー、投げナイフ、手甲、トンファー、メリケンサックと近接戦を主体にした武器が詰まっている。

 

 (メリケンサックつける魔王なんて居ないだろうな・・・ん?)

 

 箱の中を漁りながら武器を選んでいく。

すると、ある物を手にして漁るのを止める。

 

 「これは・・・」

 「ほう、たしかに貴様の武器として最適ではないか?」

 

 手にした武器は手から腕まで鋼鉄で覆われている手甲。全体的に黒く、所々紅い線が描かれている。

左手の方は指が鋭く研がれた爪が付いている。右手の方も爪が付けられているが、手首の隙間に腕の幅とほぼ同じの刃が仕込まれている。拳打や爪で倒せない相手には仕込みのダガーを使うのだろう。

たしかにある程度の攻撃力はありそうだがもう手甲というよりもジャマダハルと言った方がしっくり来そうだ。

 

 「な、なんかこれ着けたらまともに握手できないんじゃ、ペンを持つのも難儀しそう・・・痛っ!」

 「否定的な意見ばかり言ってないで着けろ」

 

 先程からまったく武器が決まらないことに焦れたシャルが岬の頭を小突く。

また殴られるのは嫌なので着け始める・・・が。

 

 「す、すいません。どうやって着けるんですか?」

 「手甲の着け方も知らんのか・・・教えるから自分で着けられるようになれ」

 

 シャルに手伝ってもらい、何とか手甲を着ける。

材質が特別なのか手に持った時も感じたが、重さをあまり感じなかった。

 

 鏡を前に装備した姿を見て構え、幼い頃に教わった基本的な動きを行う。

鏡が映す自分を相手と想定し、顔、胴体への拳打を放つ。腕は重さを感じない上に、特に動きを阻害しない。

しかし、体力の無い岬はしばらく動いた後、息を切らして床に倒れた。

 

 「岬、どうだその武器は?」

 「はぁはぁ、まだ・・なんとも言えないですけど、はぁ・・・他の武器よりはしっくりきます」

 「では、今後はその武器の使用を前提とした訓練を取り入れて行う・・・が」

 

 今後の特訓方式が決まった。つらいけど頑張ろうと思っていた岬だが、

シャルが言い放った発言は、その思いすら甘い考えであると悟らせる。

 

 「貴様の体力の無さには不安が残る。これから毎日外を走るからな」

 「はぁ、はぁ、・・・あの、外ってのは、・・・はぁ、?」

 「もちろん、迷宮の出入り口を出発点として山周りを一周だ。安心しろ、私も一緒に走ってやる」

 「あの、・・・少し、まって」

 

 シャルは決定事項なのか走るコースを考えていて、岬の言葉を聞こうとしない。

そもそも鎧を依り代にしている彼女に肉体疲労は無い、道案内としては適役だろうが一緒に走ってもらってもこちらの肉体と精神の疲労が増すだけに思う。

 

 岬が召喚され2日目の今日、早くもこのまま続けていけるのか不安になる岬だった。

 

 

 

~岬が召喚されてから7日目 クラーレの私室~

 

 

 「姫様、おはようございます。御食事の用意が整っておりますので御召し変えを」

 「・・・オルディ、私はいつ岬と会えますか?」

 

 クラーレの問いにオルディは眉を顰め、首を横に振る。

岬も自分を召喚したクラーレについて聞いてきたが、人となりを教える程度にして時が着たら会わせると、面会を控えさせている。

 

 「岬様にもお伝えしましたが、今はまだお互いを会わせられる段階ではありません」

 「他家の間諜はもう居ません。彼を召喚したのは私です。せめて一言話しが」

 「どうか、お聞きわけください。せめて迷宮が迷宮として機能するまで・・・」

 

 その言葉を聞いて、今度はクラーレが眉を顰める。

家臣の裏切りと父の散財。それに伴う迷宮の整備すら満足に行えない経済難。

結果、部屋から部屋へ行き来するだけでも労力がいる住みにくい迷宮(我が家)。

 

 家臣の中に混じっていた他家の間諜は始末したが、完全に居ないとは言えない。

今のエスペルトはいつ裏切り者が出ても不思議ではないのだから。 

ならば、岬が迷宮とエスペルトの軍勢を整えてからの方が危険性は少ない。

 

 「・・・わかりました」

 「姫様、ご理解いただけて何よりですがその・・・」

 「・・・何?」

 

 最後まで岬を召喚することを躊躇していたクラーレ。

召喚したことへの責任感もあるのだろうが、普段は大人しい主が彼の事となると別人かと思うほど行動的になる。

岬が召喚された日から毎日、深夜にこっそり彼の部屋に行こうとしていた位だ。すべて阻止したが。

ダメな父親にかわり不遜ながら娘か孫のように思っていた主の意外な一面にオルディは戸惑う。

 

 「・・・せめて、こちらをお向きなってくださいませんか?」

 「ごめんなさい、今なんとなくそちらを向きたくないの」

 

 どうやら完全に拗ねてしまったらしい。

正当な理由を説いても、会えないことには変わりない。理解はしても納得はしてないと態度で表現していた。

オルディはその後、岬の訓練時の様子や、どんな食事を好むのかをクラーレに聞かせ機嫌を取り続けた。

 

 

~迷宮周辺の山中~

 

 「どうした、またペースが落ちてきたぞ」

 「はぁ、はぁ、・・・げほっ!」

 

 シャルが体力作りにと始めた山中ランニング。始めて今日で5日目となる。

もう5日と言おうかまだ5日と言おうか判断に困る日数である。

 

 最近の岬の生活サイクルは起床してスグに山中をランニング。その後シャルと戦闘訓練を行い、昼食後にオルディとフェアからこの地域の事と迷宮の整備についてを教わっている。

 休憩時間は設けるが、肉体的疲労が半端じゃない。午後の座学が終わり、自室に着くと泥のように眠る。

自分の為にしてくれいることは分かっているが、度重なる疲労に精神が参りかけていた。

 

 (ここって北海道の酪農高校?距離が半端じゃない。あぁ、ジンギスカン食いたい)

 

 体は動かしているが頭は現実逃避しかけていた。

シャルが檄を飛ばすが岬の耳にはあまり届いていない。既に足元も覚束無いのか何度も躓きかけている。

 その様子にシャルは足を止め、岬に近づく。手を引きゆっくり歩き、腰に付けてあった水筒を渡す。

 

 「とりあえず走らなくても良い、歩いて呼吸を整えろ。急に止まるのは体に良くない。あと・・・ほら水だ」

 「んぐ、・・・はぁ!はぁ!」

 

 岬は呼吸が乱れに乱れて返事ができず、首を振ることで返事をする。

しばらく手を引かれて歩き、道の開けた所で休憩を入れる。

 

 「す、すいません。何度も休憩しちゃって」

 「気に病むな、貴様の体力向上のためにしているのだ。始めてまだ5日、そんなすぐに成長するものか」

 

 たしかにそんなに早く成長が見られるなら苦労は無い。しかし、自分に足並みを揃えてもらっていると理解しているのでどうも心苦しい。継承石を飲んだものの、これといって変化が見られないこともあって焦ってしまう。

 

 (協力するって言ったのに、今のままじゃ役立たずだよなぁ)

 「急がば回れだ。世話になったと思うならその恩を返すためにゆっくり急げ。死んだら恩を返せんぞ?我等の陣営に死霊術師はもう居らんしな」

 

 岬の表情から考えを読み取ったのか、シャルが正論を述べる。

どこか哀愁を秘めた声で言う騎士を岬は見上げた。相変わらず首が無いため表情は分からない。

しかし、どこか遠くを見つめている様に思える。

 

 焦っても良い、着実に歩を進めよ。目的があるのならそれに向かい歩け。限られた時の中を精一杯ゆっくり歩け。

しかし、決して走るな。走り出したら止まるまで気付かない。振り落としたものや見落としたものに気付かないのだから。

 

 「私の剣の師が口癖のように言っていた言葉だ」

 「どこか・・・哲学的な言葉ですね」

 

 伝えたいことは分かり易く、この言葉を紡いだ人が何か大切なものを失ったことを窺わせる。

 

 「そうか?感じ入る物があったのなら聞かせて良かった。・・・柄にも無く説法じみた事を言ったな、走り込みを続けるぞ」

 「はい!」

 

 身体的にも魔力的にも劣っている現状。それをすぐさま解決する術は無い。

焦りもあるが、今は目の前にある課題をこなせる様になろうと岬は走り出した。

 

 

~迷宮出入り口付近~

 

 「足が留守になっているな、さっきから拳打ばかりしか打ってないぞ!」

 「はぁっ!」

 

 走りこみが終わり休憩をとった後、岬はシャルとの戦闘訓練を行っている。

しかし、岬は格闘技を少し齧っただけの素人。攻撃方法が拳と蹴りに偏りがちとなっている。

 

 「牽制に蹴りを使うな!支えの足を払われたら終わりだぞ!ほらっ!」

 「うわっと!」

 

 拳しか使ってない事の指摘を受け、蹴りを放つが狙いを付けたわけではない。

ただ言われて思い出したように動かしただけの蹴りは避けられ、体を支えている足を払われそうになる。

いや、実戦なら払われていただろう。シャルが手心を加えているだけだ。

 

 「何の為の手甲だ。指先の爪は飾りか?足運びが素直すぎてどこに動くか丸わかりだ!」

 「ぐふぉうっ!」

 

 足運びの動作が染み付いているだけに岬はそれ以外の動きをすることが出来ず、シャルには攻守ともに動きがわかり易く見える。岬が慌てて出した右拳は防がれ、進行方向に先回りされて腹を殴られる。

 

 「基本に忠実なのは大切だが、基本に縛られすぎだ。流派同士の試合ではないのだから状況に合わせて即座に動けるように考えろ!」

 「は、・・・はい」

 

 腹を押さえながら何とか立ち上がる。

シャルは剣を鞘に納め、姿勢や構えの指摘を行う。

 

 「構えは好きに構えろ、余程突飛なもので無ければそれで良い。だが貴様は蹴りを放った後、よく構えが崩れる」

 

 指摘の通り、岬は蹴りを放つと構え始めの体勢に戻ろうとする。その隙を何度もシャルに突かれているのだが。

 

 「構えた状態で放つ拳は良し、しかしそれ以外は点数を付ける事すら出来ないくらいに酷い。特に足運びは動く距離が短い上に進行方向がわかり易い。せめてフェイントを織り交ぜるか、1度忘れて自身に合った動きを見つけろ」

 「ジ、ジャル゛ざん゛」

 「・・・・・どうした?顔が蒼いぞ」

 

 シャルは先程の訓練での問題点や改善点を挙げていたが、岬の顔色があまりにも酷いので言葉を止める。

岬は口を押さえ、シャルにお辞儀をすると茂みの中に飛び込んだ。

 

 「・・・・・腹を殴ったが少々力を入れすぎたか?」

 

 自身の腕が鋼の腕であることを失念していたシャルだった。

 

 

~昼食後、迷宮内部 地下1階~

 

 「では岬様、現在の迷宮の状況を説明いたします。といっても簡単ですので疑問な点がございましたらお聞きください」

 

 拳型の痣ができた腹をさすりながら岬は頷く。その横ではフェアが甲斐甲斐しく痣に薬を塗ろうとしている。

 本来なら座学についても山中のランニングと平行して行うはずだったが初日から4日目までは岬の体力がもたず、あまり進んでいなかった。

 

 (今でも体力残ってるか微妙なんですけど・・・)

 

 しかし、教師陣がスパルタなのは既に理解しているので口には出さない。

とにかく、聞き逃しが無い様に耳を傾ける。

 

 「昨日はこの迷宮周辺の地理と迷宮の役割をお伝えいたしましたが覚えておいででしょうか?」

 

 復習の意味を込めているのかオルディが聞いてくる。

間違っていないか、不安に駆られつつゆっくり脳内で反芻し答えていく。

 

 この迷宮は大陸の北部にあたり、最寄の街は以前見た地図の通り、南へ5時間ほどにあるブレイニーという街。

他に街や村は無く、南西と東の関所を兼ねた砦を越えないと他の街や国には行けない。

 

 この迷宮は人間側の戦力分散と地域特有物資または魔力の回収及び輸送のためにある。

 魔力は迷宮に侵入した人間の感情から吸収。迷宮の主の間に設置された魔王像が核の役割を果たし、迷宮全体に魔力を吸収する効果をもたらす。補足として、あくまで感情からであり、人間から直接吸収でするものではない。理由として魔力を無差別に回収すると魔族側にも影響を受ける上、放つ魔法も威力が落ちるため。

 

 「補足と言うか余談ですが、感情は怒り、悲しみ、不安といった不の感情からの方がより多くの魔力が回収できます。しかし、上出来です。これで次の話へ進めます」

 

 岬の回答に満足気に頷き、話を進めていく。

しかし、にこやかな顔から一転して苦笑したような顔をする。

 

 「次に迷宮の整備方法についてなのですが・・・え~、大変非常に心苦しいことをお伝えせねばならないのですが」

 (あぁ、ここでも何かあんのね)

 

 本来なら土の妖精であるドワーフに依頼して迷宮や砦といった建築物の構築や増築を行う。

が、前当主デボレーの起こした不祥事がきっかけで妖精族からエスペルトの依頼は全て拒否されていた。

要するに、建築業者が「お宅からの依頼はご遠慮させていもらいます」といわれたのだ。

 

 「それとこれをご覧ください」

 「・・・山の断面図?」

 

 オルディが出した羊皮紙はこの山を真横から見た状態の断面図。山脈の中腹より上辺りに迷宮の入り口が書かれていて、そこから階数ごとの区分けされている・・・のだが。

 

 「・・・2階だけ?」

 「はい、実はこの迷宮、現在この階を含め2階層しかございません・・・」

 「・・・例によって例のごとく前当主が原因?」

 「・・・はい」

 

 ドワーフには依頼できない。その為、魔法と肉体労働で元々あった1階層から地下1階を作ったそうだ。

しかし、オルディ達はドワーフ達と違い洞窟を掘る知識や経験など無く、洞窟が崩れない様に注意して作っていたがこれ以上自分たちで作るのは危険と判断。現在は増築はしていないとの事。

 

 そして最大の難問、資金が無い。

 迷宮の維持費や食費はお金が必要だ。しかし、今のエスペルト家はその維持費にさえ困っている。

幸い食費の方は山や川の幸を取ってくればいいのであまり困ってない。が、迷宮の維持費となるとそうもいかない。

各部屋の調度品や武具の整備、(起こった事は無いが)戦闘によって痛んだフロアの修復、、(今はまだ無いが)作動した罠の再設置等、様々な費用が必要となる。

 

 「今後の課題は、資金の確保、迷宮施設の充実になりますが・・・」

 「そう上手くいきませんよねぇ」

 

 言葉にすれば簡単かもしれないが、実際にエスペルトを取り巻く環境がそれを難しくさせている。

資金の確保というが、安定した収入は無い、今ある物をや山で獲ってきたものを売っても微々たる物。

迷宮施設はドワーフが居ないことには先に進めない。

 

 迷宮の拡張と整備については一時保留、ただし各部屋の整備はできる範囲ですることが決まり、次にどうお金を工面するかを話し合うことになった。整備方法は整備ができるようになってからでも遅くは無い。目の前の死活問題から終わらせようと満場一致で決まったのだ。

 

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