戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey 作:パイシー
第1話「怪獣大魔境」
夏休みも終盤に差し掛かろうとしていたある時、立花響は史上最大の危機を迎えていた。錬金術師キャロルが起こした魔法少女事変を越えるような修羅場がすぐそこまで来ていた。
「ねえ未来」
「ダメ」
「まだ何も言ってないよー」
目の前でうなだれている響は未消化の宿題の山を前に、早速敵前逃亡を図ろうとしているようだった。
「どうせゲームセンターに行きたいっていうんでしょ?最近はマリアさんとかクリスが出撃代わってくれてるから、今のうちに宿題片付けなくちゃって響が言ったんじゃない」
響は魔法少女事変が解決してからと言うものの、S.O.N.Gの出撃、家族水入らずで旅行、エルフナインを入れて8人で夏祭りに行ったり、花火大会をやったりなど徹底的に遊び倒してしまったのだ。
加えて、最近始まったゲームセンターのゲームにドハマリしたせいで、未来の目を盗んでは切歌と一緒に遊びに出かけているらしい。最近はクリス、調、未来の3人でその話題で少し盛り上がってしまえるほどである。
「未来は大怪獣バトルやったことがないからそんな事言えるんだよー。一回でいいからやってみよう?ね?ね?」
『大怪獣バトル』。最近流行りの怪獣を操って戦う対戦格闘ゲームらしい。一応男子向けのゲームに分類されるのだが、何故か響と切歌は夢中で遊んでいる。最近では積極的に布教活動も行っているらしいが、成果は出ていないようだ。
「いいから宿題。今日の分終わったら、一緒に行ってあげるから」
「本当!やった!未来大好き!」
死んだ魚のような有様だった響が、一気に水を得た魚のように生き生きと宿題に取り組み始めた。
(この集中力が最初から出てくれればなあ)
一応シンフォギア装者としての仕事には熱心なのだが、その熱意がなぜ宿題に向いてくれないのかと1人悩む未来だった。
響が宿題に取り組むこと数時間。途中で何度か逃げ出そうとしたが、何とか未来が決めた今日の分が終わった。そして約束通り、2人でゲームセンターに遊びに来ていた。
「あっ響さん!」
「おおっ!切歌ちゃん!」
たまたまゲームセンターに遊びに来ていた切歌とばったりと会った。後ろから、調と少しやつれ気味のクリスがいるのを見るに、事情は大体同じなようだ。
「響さんも大怪獣バトルやりに来たデスか?じゃあ一戦どうデス?」
「ふっふっふ。いいのかい切歌ちゃん?私はあれから色々動画とか見て勉強してるんだよ」
「私も昨日までの私と違うと思い知るといいデス。響さんのキングジョーなんて、私のドラコのドラコで解体してやるデスよ!」
2人はお互いで盛り上がって、ゲーム筐体の前に座ってゲームを始めた。
「お前も大変だな」
少し離れた席で座っているとクリスが話しかけてきた。
「クリスも大丈夫?最近色々と忙しいみたいだけど」
「まあ先輩とかと3人で回してくのは結構辛いんだけどな。その上あの2人の面倒も見なくちゃいけないから、楽じゃない。でも、あたしは十分楽しいんだ」
疲れていたクリスの顔は、少しだけ笑顔になっていた。未来はクリスの身の上はよく知らないが、それでも、彼女が十分充実しているということだけは伝わってきた。
響と切歌の対戦が第2回戦に差し掛かろうとしていた時、未来以外の4人からアラームが鳴った。それを合図として、4人の顔が一気に強張り、耳の無線機に耳を澄ます。
「出撃?」
通信が終わった頃を見計らって、響に話しかけると響は少し戸惑ったような表情を浮かべた。
「うん。そうみたい、でも、未来にも来て欲しいって」
正式な装者ではない未来を連れて行くことに、響だけではなくクリス達も戸惑っているようだった。しかし、未来が出す答えは一つだった。
「いいよ。行く。私も響のお手伝いができるなら行きたい」
「未来……。分かった。行こう」
響は未来の覚悟を改めて確認すると、それ以上何も言わなかった。
S.O.N.Gの司令室に到着すると、既に風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴが待機していた。現在風鳴司令は不在なので、実質的にエルフナインが司令官として振る舞っている。
「お待ちしてました。ギャラルホルンに活性化の兆しが見られたので、みなさんを招集しました」
司令室ではエルフナインが周囲に指示を飛ばしたり、相談をしたりして忙しそうにしていた。周囲の慌ただしさから今回の事態の重さが伝わってくる。
「今回のケースは異例中の異例です。ギャラルホルンを伝って、向こうの世界から通信が飛んできました」
それを聞いて、装者達に動揺が走った。基本的にギャラルホルンは並行世界へ渡る為の扉。並行世界から干渉など不可能に等しいと考えいていたからだ。
「恐らく、向こう側の世界にもギャラルホルンがあるものと考えられます。通信の内容を今から出します。ブリーフィング代わりにご覧ください」
エルフナインはモニターに映像を出した。モニターには『SOUND ONLY』の文字しか無いが、流れてきた音声は、信じられないものだった。
『こちら、S.O.N.G所属のキャロル・マールス・ディーンハイムだ。こちらの世界が侵略者の攻撃を受けている。そちらの世界から援軍が欲しい。そちらの世界にギャラルホルンがあることは確認している。至急シンフォギア装者、もしくは適合者をこちらの世界に送ってほしい。以上だ』
通信の相手は、並行世界のキャロルだった。あまり取り乱すイメージのない彼女だが、その口調から少し焦りが見えていた。
「今回の作戦は、キャロルがS.O.N.G所属の世界に渡り、現状の調査、及び事態の解決です。この後、キャロルと何回か通信を取った所、既にセレナさんと奏さんが戦線に参加しているようで、詳しい状況は彼女たちから聞いて欲しい、とのことです」
エルフナインがキャロルからの通信に付け加えた。そして並行世界への渡航のため、ギャラルホルンが保管されている部屋に移動した。
「では未来さん。これを」
未来は神獣鏡のシンフォギアをエルフナインから受け取り、エルフナインはギャラルホルンの起動に取り掛かった。
「今回風鳴指令は別件で不在ですが、私にできる限りのサポートはしますので、健闘を祈ります」
エルフナインの操作でギャラルホルンのゲートが開く。7人は覚悟を決めて、並行世界へと足を踏み入れた。
「あれ?」
響が並行世界に降り立つと、周囲は瓦礫の山と化していた。しかも、一緒にいるのはマリアだけである。
「私達、7人で来ましたよね……?」
「そのはずだけど……」
周囲を見渡しても、人がいる気配はない。まるで、嵐が通り過ぎたあとのようだった。
「おーい!未来ー!翼さーん!クリスちゃーん!」
声を上げてみても、響の声が虚しく響き渡るだけで状況は変わらなかった。
「やっぱり、罠だったのかしら……」
突然の分断に遭ったマリアが、険しい表情で状況の分析を始めていた。
「そんな!キャロルちゃんを疑うんですか?!」
「こんな状況になれば、どうしても考えちゃうわね。元々敵だったわけだし」
マリアも、これが罠であると信じたくはなかった。もし罠であれば、最悪の事態であるという事の証明になってしまう。その可能性を信じたくはない。
周囲の探索を始めようとした時、周囲の瓦礫がうごめく音がした。何かが這い出ようとしてるのが瓦礫の動きでわかる。
「誰かいる……?要救助者?」
「きっと私達の声が聞こえたんですよ!行ってみます!」
「あっ!待ちなさい!」
マリアの制止を聞かず、響は瓦礫に近寄って手を差し伸べようとした。しかし、瓦礫の山から出てきたのは予想だにしないものだった。
瓦礫の下から出てきたのは、異形の怪物だった。ノイズとは似ても似つかない、昆虫人間といったほうが正しいかもしれないほどの怪物だった。
昆虫人間は、こちらを見て響の存在を知ると、その手の鉤爪でいきなり襲いかかってきた。
「嘘っ!?」
響は咄嗟に昆虫人間の攻撃を避けて距離を取る。更に瓦礫の山から昆虫人間が次々と現れ、マリア達は囲まれてしまった。後から現れた個体の中には、『何か』を咀嚼しているような個体もいた。
「何こいつら。ノイズ、じゃないわよね……?」
「スペースビースト、ですかね。どうしてこんな所にいるのか分かりませんけど」
次の瞬間、包囲網の穴めがけ、いきなり響はマリアの手を引いて駆け出した。響は拳で戦う都合上、マリアを守りながら戦える保証はない。マリアもLiNKERを多く持っていない以上は無駄な戦闘は避けなければならない。
マリアは一瞬戸惑ったが、すぐに響に合わせて走り出す。
昆虫人間達は走り出した響達をすぐに追ってこなかったのが幸いだった。たまたま近くに廃ビルが見つかったので、そこに身を隠す事ができた。
「ちょっと、スペースビーストって何?なんであなたがそれを知ってるのよ……」
「マリアさんは知りませんか?大怪獣バトル」
方向も分からずガムシャラに走ってきたせいで、2人とも肩で息をしていた。
「大怪獣バトル?ああ、最近切歌がハマってるっていうゲームね。それがどうかしたの?」
「それの、元になった特撮の一つに出てくる敵にスペースビーストっていうんですよ……」
マリアはそれを聞いて、耳を疑った。テレビの中の怪物が現実世界に出現するとは思えない。しかし、切歌がよく響の名前を出していたので、彼女のが嘘をついているようには見えなかった。
「アレの名前は、確か……。バグバズンブルード。テレビ本編には出てこなかったので、少し思い出すのに時間がかかりました」
「名前なんかこの際どうでもいいわよ……」
せっかく披露した自分の知識が不要なものと一蹴され、響は目に見えて落ち込んだ。マリアはそれを気にかけず、外の様子を窺う。バグバズンブルードの群れがこちらを探しているようには思えない。
「スペースビーストは人間を食べるんですから、気をつけてくださいよ」
響からの助言で、マリアはバグバズンブルードの何体かが食べていたモノがなんであったのかを理解してしまった。自分たちがもう少し早ければ、間に合ったのかもしれないと思うと、少し悔しい。
「でもスペースビーストって意外と小さいのね。大怪獣バトルの原作って言うから、もっと大きいと思ってたわ」
「いいえ違いますよ。あれは特別小さいやつです。しかもアレは―――」
響がそこまで言いかけた所で、地面が大きく揺れた。地震とは比べ物にならない程大きい揺れで、マリア達は廃ビルの外まで避難せざるを得なかった。
外に出ると、地震が収まり、巨大な虫のような怪物が姿を現した。バグバズンブルードといくつか共通点を持っているが、全体的なフォルムが異なった。
「成る程、アレが親玉ってわけね。さしずめバグバズンって所かしら?」
「はい。アレが、スペースビーストは大体あんな大きさなんです……」
バグバズンの大きさに2人は驚きを通り越して、笑うしかなかった。響達の世界でも大型ノイズであそこまで大きい個体はほぼいない。強いて言えば、フロンティア事変の時のネフィリム・ノヴァを持ち出してやっと一回り小さいレベルだ。
バグバズンは大きく吠えると、周囲を手当たり次第に踏み荒らし始めた。よく見ると、ゆっくりとこちらに向かってきているようにも見える。
「とんでもない世界に来ちゃったわね……。怪獣の世界って……」
「まさかゲームの世界に来ちゃうなんて想像もできませんでしたよ……」
イグナイトモジュールや絶唱を駆使しても、アレほど大きいものは足止めが精一杯で撃破は難しい。しかもスペースビーストの性質上、負ければ響がそのまま捕食されてしまうのは間違いない。
そう考えると、響達は逃げる以外選択肢はなかった。しかし、既に周囲をブルードの群れに囲まれているようで、逃げ道も先程より細くなっている。
「バグバズンの巣に飛び込んじゃったみたいですね……アハハ」
「呑気に笑ってないで逃げる方法を考えなさいよ……」
マリアは胸のアガートラームを起動させて、一気に活路を開く事も考えた。しかし、相手がノイズでない以上、こちらが優勢とは限らない。場合によってはマリアの刃が届かない可能性もあるのだ。
絶体絶命の状況の中、一つの声が聞こえた。
「薙ぎ払え!ミーモス!」
次の瞬間、巨大な黒い影が現れ、バグバズンを殴り飛ばした。マリア達を囲んでいたブルード達も一瞬にして薙ぎ払われた。
「やっと見つけたぞ。やはりアイツラを回収に向かわせたのは正解だったか」
一冊の分厚い本を持ち、怪獣を使役している少女は、響達にも見覚えのあるものだった。
「キャロルちゃん!」
「待っていたぞ、シンフォギア」
響達を助けたのは、この世界のキャロルだった。キャロルの手に握られた本から光が放たれると、キャロルが放った怪獣、ミーモスが動いた。
バグバズンもミーモスに応戦するも、キャロルの指示から繰り出される素早い動きに翻弄されていた。ミーモスは回し蹴りでバグバズンを蹴り飛ばして転倒させた。そして次にバグバズンが起き上がるのを見計らい、全身から金属片をブーメランのように飛ばし一気に切り刻みバグバズンを撃破した。
役目を終えたミーモスは光となって消え、キャロルの本の中へと戻っていった。
「ひどい妨害に遭ったな。今回はこちら側のミスだ。途中でアイツの妨害されてな」
バグバズンを討伐したキャロルは本を閉じて響達に歩み寄ってきた。しかし警戒心は解いておらず、敵はまだ残っているようだった。
「あーあーあー。やってくれたな」
瓦礫の上から、キャロルが勘付いていた存在が顔を見せた。
「レギュラン星人トゥエルノ。珍しいじゃないか。ヘッドが直々にお出ましとは
「そりゃそうさ。こっちだってモタモタしてねえ。敵の戦力が増えるってんなら、さっさと潰しておくに限る」
トゥエルノは瓦礫の上から飛び降りて、周囲の状況を確認する。周囲にいたスペースビーストたちが全滅していることを再確認すると、呆れたような仕草をとった。
「スペースビーストをあそこまで育てるの、大変だったのによお。ボスはスパークドールズくれねえから、こっちは怪獣揃えられねえのによぉ。あームシャクシャする!出てこい!ゴメス!」
トゥエルノが合図をすると、空から一体の怪獣が転送されてきた。古代怪獣ゴメスである。
「こいつら全員を踏み潰してやれ!」
トゥエルノはゴメスに指示を飛ばすとどこかへ姿を消した。ゴメスは大きく咆哮を上げると、響達めがけて向かってきた。
「ちょうどいい機会だ。立花響、ゴメスを倒せ」
「え?倒せってあんな大きいのを!?無理無理!いくらなんでも無茶ぶりすぎだよ!」
「オレがやってみせただろ?お前も怪獣を呼べ。シンフォギアを起動すればできるはずだ」
響はどうすればいいのか分からなかったが、次の瞬間、脳内にイメージが流れ込んできた。とある怪獣の記憶、とある孤島で、「王」と呼ばれるほど強い怪獣の記憶である。
『Balwisyall Nescell gungnir tron 』
響が聖詠を唱えると、シンフォギアは展開されずに胸のガングニールから光が放たれ、一体の怪獣が現れた。
「レッドキング……!」
どくろ怪獣レッドキング、その強い怪力で以て怪獣たちの王と言わしめるほどの強さを誇る怪獣である。
レッドキングは吠えると、そのすべてが響に伝わってくる。響は自分がレッドキングであるような錯覚さえ覚えた。
響はレッドキングを操り、ゴメスに向かう。響がレッドキングの戦い方を思い描くだけでレッドキングは思い通りに動いてくれる。その豪腕でゴメスを殴り倒す。ゲームとは勝手が違うので、完全にレッドキングがついてきてくれるわけではないが、それでもレッドキングは思い通りに動いてくれている。
響の戦闘スタイルとレッドキングは相性が良く、ゴメスに反撃の余地を与えずに攻撃を加えていく。ゴメスはレッドキングの猛攻の前に為す術もなく、すでにフラフラだった。
響はゴメスが弱ったその瞬間を見逃さなかった。レッドキングが右の拳を大きく握ると、赤い炎が吹き出し、腕も少し黒く変色する。レッドキングは炎の勢いに身を任せ、ゴメスを貫く。ゴメスはレッドキングの一撃に耐えきれず、全身から炎を吹き出しながら爆発四散した。
レッドキングはゴメスを撃破すると、光となって消えていった。同時に響も倒れ込み、マリアに支えられる。
「大丈夫?相当集中してたみたいだけど……」
「結構堪えました。かなり眠いですよ」
「しょうがないわね。私がおんぶしてくわ。あなたは寝てなさい」
マリアは響を背負い、キャロルと共に歩き出す。
「これから基地へ向かうぞ。他の装者も回収部隊が動いてるから安心しろ」
怪獣を操る宇宙人との戦いはこうして幕を開けた。何も情報のないこの世界で、マリアはあの怪獣軍団に勝てるのか、他のみんなは無事なのか、不安を感じていた。
SONG怪獣図鑑
どくろ怪獣 レッドキング
体長:45メートル
体重:2万トン
ステータス
力:★★★★★
技:★★★☆☆
知:★★☆☆☆
多々良島に生息する怪獣たちの王とされる怪獣。非常に凶暴な怪獣として知られ、怪獣と縄張り争いを行っている光景がよく見られる。
最大の武器はその腕力で、岩を投げつけて攻撃する場合もある。
響と共鳴することで発動する必殺技は、『我流・溶岩拳打』。片腕を一時的にEX化させて放つ最大の一撃である。
装者のコメント
響:ゲームでも現実でも、私の最高の相棒ですッ!