戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey 作:パイシー
第14話「小夜を探して」
あの日の事は今でも覚えている。
「―――、あなたのすべてを賭けてかかってきなさい」
F.I.Sの野望を食い止めたあの日、マリアと自分は最後の決戦に臨んでいた。彼女らが根城としていた豪華客船の上で、2人の装者がぶつかり合った。掲げた理想のため、課せられた使命のため、どちらかが正しいなど些細な問題だった。
既にF.I.Sに所属していた者はマリアしか残っておらず、他のメンバーは既に無力化された後だった。どの道、マリアの願いは何も叶うことはなかった。
そして戦いが終わり、生き残ったのは自分だった。マリアは負けたというのに、すがすがしい表情をしていた。
「強くなったわね―――」
違う。
「大丈夫よ。あなたは優しくて強い子だもの」
こんなんじゃない。
「行きなさい。あなたの居場所に」
自分はこんな結末を望んでいたわけじゃない。
「大丈夫、あなたの
彼女の胸には深々と槍が突き立てられている。そして自分の手には―――。
翼とクリスはいつものように食堂で朝食をとっていた。いつものように食堂でクリスは席を探して、翼と向かいに座った。
「それで、小夜はどう探すんだ?」
「何も手掛かりがないのだ。地道に探すしかないだろう。装者なのだ。どこかしらに情報が載っているはずだ」
ヒビキの襲撃を受けてからというものの、小夜に関する情報を探していた。しかし結果は芳しいものではなくむしろ、小夜に関する情報だけが綺麗に抜き取られているという奇妙な状況だった。
「どうして小夜の情報だけが載っていないのだろうな」
「そんなにあたしらに知られたくないのかよ。なあ、もしかしてあたしら踏み込んじゃいけないところに来てるんじゃないのか?」
「わからない。だがまだこの世界に装者がいるのなら、暁たちが戻る間だけでもこちらの戦力になってくれれば頼もしいのは確かだ」
「隣、いいかしら?」
「ああ」
盆を持ってやってきた翼が隣に座り、目の前の翼と会話を続ける。
「あなた達、小夜を探してるらしいわね?」
「そうだけどよ。全然手掛かり無くて、どうしようかと思ってたんだ」
「待て雪音。その隣にいる私は誰だ?」
クリスはいつもの癖で隣の翼に反応してしまったが、すぐに隣にもう一人の翼が座っていることに気が付いた。
「えぇ!?センパイが2人!?」
「貴様、何者だ!」
声を荒げた翼に対して、もう一人の翼は特に何もするつもりはなく、そのまま朝食を食べている。
「こちらの響に会ったなら、察しが付くと思うけど?私はこの世界の風鳴ツバサ。あいさつ代わりにと思ってね」
よく見ると、隣にいるツバサは髪の結い方が違う。クリスたちも怪しい人間ではないと知って、すぐに矛を納めた。最初はびっくりしたが、ここは並行世界。翼が2人いてもおかしなことはないのだ。
「じゃあ、後で指令室で会いましょ。伝えたいことがあるわ」
ツバサはそれだけ言い残して、去っていった。
「った、なんだったんだ一体……」
「あれがこちらの世界の私なのか。やはり、少し違うな」
クリスたちも朝食を終えて、司令室へと向かう。こちらのツバサに小夜について調べていることを知られてしまった。果たして彼女が何を考えているのか、そればかりが募ってしまい小夜についての議論は続かなかった。
指令室へと向かうと、先に到着していた響達がツバサを見て驚いていた。
「揃ったようだな」
どうやらクリスたちで最後だったようで、キャロルが口を開いた。そして中央のモニターに情報を表示させた。
「昨夜、トゥエルノの死体が見つかった。解剖の結果、こいつは腹の中に通信機を仕込んでいたのが分かった。自分が死んだとき、部下全員に逃げるように自動送信されるように細工がされていた」
クリスたちからは、おおよその犯人の目星がついた。恐らくは、この世界のヒビキの仕業なのだろうと。天羽々斬を持っている彼女ならば、それができる。
「敵の基地のおおよその場所が分かった。脱走したイガリマは今ミカに探させている。お前たちにはその間、残党狩りに当たってもらう。スズチェンコだけでも捕らえろ」
キャロルが映し出したのは、ここからほど遠くない雑木林だった。車を使っていけば、すぐに迎える場所だ。
「そして、俺は今回の作戦立案で司令官代理を降りる。作戦の指揮はこいつが執る。俺は元の技術者に戻る。ギアの不調があったら俺の研究室に来い」
キャロルはツバサを指して指令室を去っていった。
「というわけで、これからは私を執る。こちらの世界のS.O.N.G初代司令官、風鳴ツバサだ。よろしく頼む」
その一言で、司令室に驚嘆の声が響き渡った。
「こっちの世界だと、翼さんが司令官!?じゃあ師匠は!?」
「あのセンパイが指揮官?大丈夫なのか!?」
「そうかだからこちらの世界の立花が天羽々斬を持っていたのか……」
「まさか翼が指揮官だなんて意外ね。でも大丈夫なの?」
装者全員が心配する中、ツバサはあきれた様子でため息をついた。
「まあ、皆の言いたいことはわかる。だがちゃんと弦十郎叔父様の太鼓判も貰った。こちらの世界では、叔父様は奏が死んだ時に辞職してな。それからは風鳴家の次期頭首だった私が後を継いだ。しばらくは父上や叔父様の補佐だったが、S.O.N.G結成と共に私が単独で指揮を執る事になった」
ツバサは持ち込んだカバンから書類を取り出し、全員に配布した。
「これからの作戦概要だ。脱走した装者2名の確保、それと、残党の捕縛が主だった目的になる。先日、トゥエルノの死体が回収された。敵も多少混乱しているだろう。これを機に敵の情報を聞き出すぞ」
渡された資料には、怪しいとされる人物とトゥエルノの解剖結果が載っていた。そして、切歌たちの脱走に関与したとして、この世界の響の詳細なデータも一緒に載せられている。
「そして2人の行方だが、キャロルの部下が捜索している。発見され次第、すぐに動けるように予め班を2つに分けておく。そちらの私、響、小日向の3人がこちらに残り、雪音、マリア、奏の3人に追跡を行ってもらいたい。追跡部隊はこちらの世界の響との衝突が予測されるから、覚悟してほしい」
「待って。セレナがいないけど、どうしたの?」
淡々と作戦説明をするツバサに、マリアが口を挟んだ。元々セレナが作戦に参加すること自体稀なので気付かなかったが、セレナがこの場にいないのだ。
「セレナ?……あぁ。彼女には別の任務がある。今回の作戦には不参加だ」
ツバサは完全にセレナの存在を忘れていたように見え、マリアは不満そうな顔をした。ツバサは特に気に留めていないようで、作戦の説明をつづけた。
太平洋上空を飛ぶ巨大戦艦、それがヒビキ達の根城だった。サンジェルマン達に遅れて帰還したヒビキは、ある人物の来訪を受けていた。
「それで、試供品は渡していただけましたかな?」
「うん。バッチリ渡したよ」
来訪者は、テンペラ―星人ビエントだった。現在地球に侵攻している宇宙人たちの親玉お抱えの闇商人であり、対価さえ用意すれば敵味方問わず商売を行う根っからの商人気質なのだ。
「それはよかった。では、これを」
ビエントはアタッシュケースを取り出し、中身をヒビキに見せた。中に入っていたのは数本の黒く濁ったLiNKERだった。今回わざわざビエントが出向いてきたのは、これを渡すためだ。
「ありがとう。じゃ、お代はこれでいいかな?」
ヒビキは回収したゼルガノイドのスパークドールを差し出した。ビエントはそれを手に取り、ちゃんと本物であることを確認した。
「確かにいただきました。では今後、スパークドールズを回収した際にはよろしくお願いします」
ビエントは静かに礼をして去っていった。彼とはそういう契約なのだ。スパークドールズを提供する代わりに、物資を提供する。今回の取引も、最終目的としてはヒビキが調を、ビエントが切歌を手にするという事で既に話がついている。
(待っててね、小夜。もうすぐ届くから……)
ビエントから手に入れたLiNKERを握りしめ、ヒビキは妹の事を考えていた。
新たな指揮官となったツバサが最初に持ち込んできた任務は、ミジー星人スズチェンコの追跡任務だった。トゥエルノの死体から発見された通信機から、潜伏しているであろうアジトの位置はおおよそ目星が付いており、そう苦労はしないはずだと説明された。
ツバサが出撃する装者として指名してきたのは、響、クリス、未来の3人だった。まだ切歌たちの行方が判明していないので、並行世界側の装者の力試しも兼ねての人選だった。
そして情報通り、敵のアジトらしき宇宙船が森の奥にひっそりと佇んでいた。
「こちらシンフォギアチーム、問題なく指定の場所に着いたぜ。情報通り、敵の宇宙船もある」
クリスは通信機の電源を入れて、本部に通信を入れた。
『了解した。では予定通り、雪音と響で中に潜入、小日向はバックアップとして待機、いざというときは殿を務めてほしい』
「了解です!翼さんとこういうやり取りをするなんて新鮮ですね!これからよろしくお願いします!」
「ダメだよ響。静かにしないと。これから潜入するんでしょ?」
未来に注意されて響は少し声を落として謝罪をした。幸い、敵側には気づかれていないようで、このままうまく潜り込めそうだった。
「それじゃ、行くぜ」
通信を切って、宇宙船の中に向かう。入り口は開いたままになっており、簡単に中に入ることができた。
内部はあまり入り組んでおらず、中央の部屋に向かい長い廊下が一つと、そこから枝葉が伸びるようにして設けられたメンバーの個室があるだけだった。
故郷の家族の写真、趣味のもの、気に入った地球のお土産品など各人の個性がにじみ出ており、読めない文字で書かれた書物も大量に置かれていた。
「……行くぞ」
クリス達は中央の部屋に入る扉を開けて、中に入る。中ではスズチェンコがスパークドールを弄っており、すぐにこちらに気づいた。
「大人しくしな!そうすりゃこっちで安全は確保してやるぜ」
有無を言わさずクリスは銃口を向け、スズチェンコに投降を迫った。
「どうしてこの場所がわかったの!?」
「その話は後だ。投降するのか?しないのか?」
スズチェンコは後ずさりしながら壁に手を沿わせる。そして隠し収納を開けると、何かを取り出した。
「動くな!」
クリスは威嚇射撃を行ったが、スズチェンコはわずかにそれをかわして、取り出したものを見せつけてきた。
「トゥエルノのとっておき、ここで使わせてもらうね!」
スズチェンコは手元にあった装置にスパークドールをかざして起動させた。すると周囲を眩い光が包み込み、クリス達も思わず目をつむってしまった。
「ゴルドラス!?クリスちゃ―――」
響は何かを言おうとしていたようだったが、クリス達の視界が光に覆われると同時にヒビキの声も聞こえなくなってしまった。
クリスが目を覚ますと、見知らぬ街角だった。意識を失った影響でギアも解除されており、周囲には響もスズチェンコの姿も見えない。
「どこだ、ここ……?」
クリスはゆっくりと立ち上がり、ここがどこかわかるようなものを探す。本部に通信をかけてみるが、反応がない。次に響の個人用回線にかけてみるが、少し待った後に出た。
『あっ!クリスちゃん!やっと出てくれた……!もう探したんだよ!今どこ?』
「どこって、分からねえよ。こっちもさっき目が覚めたばっかりなんだ」
『えっ?だって私が目を覚ましたのって、一昨日だよ?私の方が昔に飛ばされちゃったのかなあ』
響は今の異変の正体に心当たりがあるようで、何かを考えこんでいるようだった。クリスは誰かが走ってくるのを見て、すぐに物陰に隠れた。
「悪い、誰か来たみたいだ。後でかけ直す」
クリスはすぐに通信機を切って、やってきた人影を確認する。もしかしたら、敵地のど真ん中に放り込まれた可能性だってあるのだ。できるだけ誰かに見つかるリスクは避けた方がいい。
走ってきた人物は、2人組だった。しかも声からして、まだ子供のようだった。
(ったく、脅かしやがって……)
クリスがこっそり外を窺うと、その人影は非常に見覚えのあるものだった。そこにいたのは、いつか、写真で見た幼いヒビキそのものだった。目の前にいるのが信じられないが、信じるしかないだろう。
(マジかよ。タイムスリップってやつか……?)
「待ってよ、お姉ちゃん!」
少し遅れて、もう片方の人物がやってくる。口ぶりからして、小夜なのは明らかだ。クリスは顔だけでも見ておこうと、小夜の顔を凝視する。
「は……?」
クリスはそこにいた人影を見て、驚かざるを得なかった。何故なら、その人物はクリスもよく知っている人物だったのだから。
「もう遅いよ、小夜。早くしないと置いてっちゃうよ?」
ヒビキは『小夜』をからかうように言いながら、『小夜』に手を差し伸べた。姉としての優しさが垣間見え、本気で置いていくつもりは最初からないのが見て取れる。
「お姉ちゃんが走るの早いだけだって……」
『小夜』は息を整えながら、差し伸べられた手を取った。
ヒビキを追ってきた人物、それが『小夜』であった。しかし、クリスは目の前で起こっていることが理解できない。
何故なら、ヒビキを追ってきた人物……『小夜』は
次回予告
小夜の正体は、セレナと瓜二つの容姿を持った少女だった。それは敵の見せた幻なのか、それとも秘められた過去なのか。
クリスは過去の世界を脱し、秘密を解明する為にも過去の世界を奔走する。果たしてセレナの正体とは!?
次回、「4本目のガングニール」