戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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第15話「4本目のガングニール」

 眼を開けると、途中で切れたロープと、顔を青くした姉の顔が入ってきた。足元には、乱雑に蹴り倒された椅子が転がっている。

「どうして?」

 姉は何をやっているの、と言いたげだ。

「お姉ちゃん、私、なんのために戦ってたんだっけ……。私、もう耐えられないよ……」

 大切なものを守りたいと願い、彼女はこの力を手にした。しかし、今となってはそれは絵空事で終わってしまいそうだ。

「おかしいよね。私だけが生き残って、こうしてのうのうと生きてるなんて」

 そんなことはないよ。姉は優しく抱きしめてくれた。いつだってそうだ。姉は自分を守ってくれる存在。自分にとっての正義の味方そのものだった。

 だけども、この時は、その優しさが胸に痛かった。

 

 

クリスは、目の前で起こっていることが理解できていなかった。何故セレナが小夜と呼ばれているのか。そもそも、この世界は何なのか。

 少し距離を置いて、響に通信を取る。スズチェンコが使ったスパークドールについて、何か知っているようだったので何か情報を得られるはずだ。

「もしもし?」

『あっ、クリスちゃん。どうしたの?』

「さっき、あの怪獣の人形について、なんか知ってるみたいだったが、なんか知ってるのか?」

『うん。あの怪獣はね、ゴルドラス。時空界っていう異世界に住んでる怪獣で、時間を歪める能力を持ってるんだ。だから多分、私たちは過去に飛ばされたんだよ。今どこにいるの?合流しよう』

「分かった。詳しい話は合流してからだな」

 クリスは周囲を見渡して、何か目印になりそうなものを探す。少し離れたところに、リディアンらしき校舎が見える。クリスは行ったことはないが、響から聞いていた場所、見た目と一致する。

「今、昔のリディアンの裏にいるみたいだ。そっちは?」

『えぇっと……。多分クリスちゃんとリディアンを挟んで反対側、かな。待ってて。そっちに行くから』

 響は通信を終わらせて、クリスはもう一度周囲を見渡す。未だに過去に来たという話が信じられないが、セレナの部屋にあった写真と目の前にいたあの2人が合致したのだ。信じるしかない。

「お待たせー!」

 響が走ってきて、クリスと合流した。全力で走ってきたようで、肩で息をしている。

「いやあ、良かった良かった……」

「大丈夫か?ちょっとその辺で飲み物でも買うか?」

「ありがとう……。でもクリスちゃんお金持ってるの?私お金使いきっちゃってさ、アハハ……」

 無理もない。元々、支給されている最低限度の資金しかないうえに、2日も1人で過ごしていれば、底をつくのは容易に想像できる。

「一応、な。まさか必要になるとは思ってなかったが」

 クリスは近くの自動販売機で水を2本購入し、一本を響に渡した。近くのベンチに並んで座り、響はのどを潤す。

「ふぅ~。生き返った~!」

 隣で水を飲んでいる響を見て、クリスは先ほど見たあの事を伝えるか悩んでいた。セレナが響の妹、そういうだけなら簡単だ。だが何故セレナはそのことを黙っていたのだろうか?セレナは何か知られたくない事があったのではないだろうか?そう考えてしまう。

 そして、もしこれを自分が他の装者に話せばどうなるかを考えてしまう。この世界の響をよく思っていない翼は間違いなく彼女を敵視するだろうし、マリアはセレナを守ろうとするだろう。

 そうなってしまえば、ただでさえ不安定な自分たちの絆は本当にバラバラになってしまう。それだけは避けたかった。

(そうだ……。あたしが黙ってれば、それでいいんだ。あたしが言わなきゃ、センパイらがセレナの事に辿りつくことなんてねえし……!)

 クリスは、セレナの事は黙っておこうという結論を出した。本当の事がはっきりするまでの間だけでも、黙っていれば今のままでいられるのだ。

「ねえクリスちゃん。どうしたの?」

 響に声をかけられてハッとした。クリスは、表面上だけでも取り繕って、この場だけでもやり過ごそうとする。

「いや、何でもねえよ……。ただ、さっきこの世界のお前を見かけたってだけだ」

「もしかして、セレナちゃんの事も考えてなかった?」

 響に図星を突かれ、クリスは咄嗟に目を逸らした。セレナの事を絶対に話すわけにはいかない。特に口の軽い響なら、どこから情報が漏れるか分からないのだ。

「な、なんだよ急に。別にアイツの事なんて……」

「ねえクリスちゃん。セレナちゃんってさ、私の事響さんって呼ぶんだよね。仲のいい切歌ちゃんとかは暁さんて呼ぶんだよね。何か心当たりはない?」

 クリスは返答に困った。ここで本当の事を話してしまうのか、それともしらを切って、誤魔化すのか。どう答えればいいのか、クリスは必死に考える。

「し、知らねえよ。あいつ自身は未来から来たって言ってるんだろ?それでいいじゃねえか」

 クリスは立ち上がって、ベンチから去ろうとした。やはり、このことは言えない。響にセレナの事を伝える勇気が出ない。

「クリスちゃん!」

 響はクリスの手を掴んで、振り向かせた。先ほどの発言は、響がなんとなく感じていた違和感を言っただけだと思っていた。だが違う、眼を見ればわかるのだ。完全にクリスが隠し事をしていることを感づかれている眼だ。

「クリスちゃん、最近何か隠し事してるよね?翼さんが負傷した時から、なんか変だよ。私でよければ相談に乗るよ?」

「……お前には関係ねえよ」

「関係あるよ!だって私たち、友達でしょ!相談してくれたっていいじゃん!」

 クリスは振りほどいて響から離れようとしたが、響は手を放さずにクリスをじっと見ている。

「私、クリスちゃんの味方だよ?私に力になれることがあったら、協力させてよ!」

 響の目は絶対に逃がさない、という意思が現れており、クリスはダメだと思わざるを得なかった。

「……分かったよ。話すよ、全部。だけど秘密だからな!他のやつにべらべらしゃべるんじゃないぞ」

 クリスはベンチ座り直して、話すことにした。セレナの事、この世界の響に襲撃されたこと、そして、セレナが響の妹じゃないかという事。

「……。これで全部だ。正直、あたしはどうしていいのか分かんねえ。そもそも、本当にアイツがお前の妹なのか。それとも、ただ単に仲が良いだけなのか」

 響はクリスの話を黙って聞いていた。聞き終わった後も、特に茶化すようなこともせず、表情は真剣そのものだ。

「じゃあさ、クリスちゃん。だったら、早く帰らなきゃね。クリスちゃんが見たこと、本当なのか確かめなきゃ」

「あぁ。話してスッキリした。ありがとうな」

「そっか、セレナちゃん、私の妹かもしれないんだ。じゃ、尚更早く帰らなきゃね」

 響は、いつものように笑顔を作った。やっぱり、響が仲間になってくれると心強い。クリスと響はすぐにでも過去に帰るべく行動を開始した。

 

 

 響たちが敵のアジトに潜入してから数分後、それを突き破るようにして一体の怪獣が姿を現した。

 外で待機していた未来は、すぐに通信機のスイッチを入れて、本部に連絡を取った。

「ツバサさん!怪獣が出ました!」

『了解。データベースに該当怪獣が確認した。超力怪獣ゴルドラス、小日向、迎撃できるか?』

「やってみます!」

 未来は通信を切ってシンフォギアを握りしめる。この世界に来た以上、響たちの足手まといにならないようにと特訓を重ねてきたのだ。今なら、戦える。未来はそう信じて詠った。

『Rei shen shou jing rei zizzl』

 握りしめたシンフォギアから光が放たれ、ゼットンが現れた。ゼットンは牽制として火球を放ち、ゴルドラスを後退させた。一兆度には程遠いが、それでも攻撃としては十分な威力だ。

(時間は限られてる……。早く決着をつけなきゃ……!)

 未来がゼットンを召喚していられるのは、今の所、2分44秒が最高記録だ。幻影に近い形で召喚した頃に比べれば進歩しているが、それでも時間が限られていることに変わりはない。

 ゴルドラスは大きく吠えて、ゼットンに向かってきた。ゼットンもそれに立ち向かい、ゴルドラスにラリアットを仕掛けた。ゴルドラスも負けじとその怪力でゼットンの腕を押さえ、投げ飛ばそうとする。

 ゼットンは抱きつくように姿勢を変えて、至近距離から火球を放って距離をとった。吹き飛ばされたゴルドラスは地面に倒れ込み、起き上がると同時に角を光らせ、ゼットンめがけて雷光を放った。

 未来はそれを見た時、ゼットンにゼットンシャッターを展開させず、胸の発光体で受け止めさせた。ゴルドラスの大技が当たる直前、ゼットンは手を合わせて特殊な力場を形成し、受けたエネルギーを変換して打ち返す。奏や響との特訓の末にやっと習得できた、ゼットンの代名詞的な必殺技、ファイナルビームである。

 ゴルドラスはバリアを展開して、それを防ごうとしたものの、あっさりとバリアは粉々に砕かれ、ゴルドラスは爆発四散した。

 同時に未来のゼットンも消滅し、集中力が切れた未来はその場にへたり込んだ。ファイナルビームはゼットンを象徴する大技の一つだが、発動タイミングがシビアすぎて、かなりの集中力を使うのだ。

(まだまだ特訓、かなあ……)

 一度深呼吸をしてから未来は立ち上がり、ゴルドラスが爆発した地点へと向かう。敵が使ったスパークドールズを回収することも、今回の作戦に含まれているのだ。

 

 

 響たちは過去の世界でスズチェンコの手がかりを見つけられず、どうしようかと悩んでいた時、突然視界が歪んで元いた敵のアジトに戻っていた。しかし何故か半壊状態であり、通信機が突然けたたましく鳴り響いた。

「はい!立花です!」

 いきなり着信音が鳴り、響はびっくりして大きな声が出てしまった。

『響か?よかった。無事だったんだな。雪音も傍にいるのか?』

「はい。クリスちゃんも無事です!」

『了解した。敵怪獣は小日向が撃破した。今敵のドールの回収に向かっている。撤収してくれ』

 ツバサは必要事項を伝え終えると、通信を終えた。声は平静を装っていたが、無線の向こうで安堵している様子が目に浮かんだ。

「さ、行こうか」

 響はクリスと手を繋いで、帰途に就く。彼女たちの目的は、ここからなのだ。セレナの正体を突き止める事。その為を果たすために帰ってきたようなものなのだ。

 クリスは自分の混乱を解くためにも、一歩踏み出した。

 

 

 スズチェンコは、ゴルドラスのスパークドールを握りしめて、ひたすら遠くへと走っていた。トゥエルノが万が一の為にと、自分に作らせていたスパークドールズにライブするための装置と、ボスにも内緒で隠し持っていたゴルドラスのスパークドール。

 いざという時は、敵か味方のどちらかを過去に送り付けることで身を守ると言っていたが、まさか使う羽目になるとは思わなかった。

「トゥエルノ、どこ行っちゃったの……?」

 ジークが倒されて以来、トゥエルノもいなくなってしまい、一人ぼっちになってしまったスズチェンコ。先輩に憧れたが、技術者としてくすぶっていた自分に手を差し伸べてくれたトゥエルノは今でも忘れられない。

「すいません。地獄からの誘いでーす。なんちゃって」

 いなくなったトゥエルノに思いを馳せていた時、いきなり目の前にヒビキが現れた。

「あれ?!君は、さっき過去に飛ばしたはずじゃ……」

 ヒビキは戸惑うスズチェンコを前に、一切のためらいもなく天羽々斬を纏い、胴体を切り裂いた。

「取引でさ、君ら3人を殺してくれって頼まれたんだよね。別に恨みはないけど、これも大事なことだから」

 切り伏せられたスズチェンコは痛みを抑えて少しでも遠くに逃げようとするが、ヒビキはそれを逃がさないと言わんばかりにスズチェンコの足に刀を突きたてた。

「て、停戦って、まさか……!」

「私は会ったことないんだけどね。でも、あなた達のボスは分かる人だよ。このままじゃ共倒れだし、美味しくないからって停戦することになったんだからね」

 ヒビキは短刀を引き抜き、スズチェンコに馬乗りになると、そのままスズチェンコの首をはねた。ついでに持っていたスパークドールを回収し、撤収しようとした時、誰かが走ってきた。

「誰?」

 向こうから走ってきた人物は、未来だった。響きも多少は面識があるが、辛うじて名前と顔を覚えている程度だ。

「あなた、この世界の響、だよね?」

 この世界の未来は、侵略者の来訪に伴って避難している。その口ぶりと合わせて、並行世界の未来であることは容易に想像がついた。

「そうだけど。別にあなたには関係ないでしょ?」

「あるよ!だって私たちの世界の翼さんを襲ったんだから。私たち、仲良くできないの?今は装者同士で戦ってる場合じゃなくて、協力し合う時なんじゃないの?」

「みんな仲良く、ね……」

 未来に言われてヒビキは少し悲し気で、どこか懐かしむような顔を作った。

「私がS.O.N.Gに戻らないのは、そこじゃできない事があるから。本当はね、私だって信じたかったよ。皆で共に生きる道ってやつをさ」

 ヒビキは意味深なことを呟き、転移の小瓶を割って撤退してしまった。未来はヒビキに聞きたいことがあったのだが、それも聞けなかった。結局、手元に残ったのはスズチェンコの死体だけだった。

 

 

 本部に帰還したクリスは、真実を確かめるべく、セレナを呼び出した。だが相手はあのヒビキの妹かもしれないのだ。迂闊に聞けば、こちらの身が危ない。

「あの、なんですか?」

 万が一戦闘になったことも考えて、クリスが呼び出したのは地下演習場だった。ここならば多少派手に暴れても、訓練をしていたと説明できる。

「なあ、今回の作戦で出た怪獣、知ってるか?」

 強引にお前が小夜なのか?と聞けば言い逃れされてしまうかもしれない。おそらく、セレナに正体を問いただすチャンスは一度しかない。ならば、確実に問いただせるように、少しずつ追及してくしかない。

「ゴルドラス、ですよね?でもスパークドールズは取られたって聞きましたけど」

「そいつの力でさ、あたしら過去の世界に飛ばされたんだよ」

 それを聞いて、セレナの表情が一変した。明らかに焦っているのが見える。クリスは、逃がさないように慎重に言葉を選ぶ。

「流石に遠目だったから、良く見えなかったんだけどさ、気になるものを見たんだ」

 セレナはどうしていいかわからないようで、何かを必死に考えているようだった。それを見て、クリスは最後の質問を繰り出すことにした。

「お前そっくりの奴が、小夜って呼ばれてたんだよ。何か知らねえか?」

「え、えぇっと……。何を言ってるんですか!私は、セレナですよ!マリア姉さんだって、ちゃんと私の事をセレナって―――」

「じゃあお前、自分がセレナだって証明して見せろよ。免許、持ってるんだろ?」

 S.O.N.G本部から離れているセレナは、特別に免許をとって、ここまで車で来ている。その免許証に名前が書いてあるはずなのだ。そこだけは絶対に偽れない名前が載っているはずなのだ。

「あたしの見間違いとか勘違いだったならいい。最後に確認するぞ。お前は小夜なのか?」

 セレナは俯いたまま、返事を返さなかった。それどころか、無言のままこちらへ向けて駆け寄ってきた。

『Balwisyall Nescell gungnir tron』

 非常に小さい声で、セレナは聞き覚えのある聖詠を詠った。シンフォギアを装着し、クリスに襲い掛かってきた。クリスは紙一重で回避し、イチイバルを取り出す。

 セレナのギアは、響と同じガングニールだが、その手には奏のものとは違う長槍が握られている。

(一体どこからギアを出しやがった!?まさか、あのバカと同じ融合症例か?)

 この世界の響が天羽々斬に適合していたのなら、ガングニールに適合したのは誰だったのか。クリスは少し気になっていたが、セレナがガングニールの融合症例だったなら彼女の態度共に彼女の正体を示す証拠となりうる。

 二課の名簿に『セレナ・カデンツァヴナ・イヴ』の名前が無かったのは、彼女がS.O.N.Gになってから所属した装者だったからではない。彼女は、『立花小夜』として名簿に載っていたのだ。

「すみません。困るんですよ、私の正体を知られるのは」

 セレナはその一言と共に、アームドギアを構えた。

 まさかこんな風にして戦うことになるとは思ってもいなかった。最悪の事態として想定していたとはいえ、クリスは望まぬ形でイチイバルを展開させ、小夜を迎え撃つのだった。




S.O.N.G怪獣図鑑
宇宙恐竜ゼットン
身長60メートル
体重3万トン
ステータス
力:★★★★☆
技:★★★☆☆
知:★★★★☆

 ゼットン星をはじめとした多くの星で育てられている生体兵器。一兆度の火球、テレポーテーション、ゼットンシャッター、ゼットンファイナルビームと多彩な技と強い力を持ち、一度はウルトラマンを打倒した非常に強力な怪獣である。
 本編世界の大怪獣バトルでも強力な怪獣として実装されているが、バランスをとるためにプレイヤーが育成するという特殊な怪獣として実装されている。その育成もバランス調整が難しく、多くのプレイヤーがブモーと鳴く通称『養殖ゼットン』を見ることになった。

装者達のコメント
未来:ゼットンって、かなり強い怪獣だって響が言ってたから、頑張って使えるように特訓したんだよね。私も響の役に立てることがしたくて。
響:いやあ、特訓は大変だったよ。火球が明後日の方向に飛んでったり、バランス崩して危うく踏みつぶされそうになったりさ~。
未来:もう響!そういうことは覚えてなくていいの! 
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