戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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第16話「融合症例」

 S.O.N.G設立の少し前、キャロルはツバサへの報告書を持って、彼女の執務室に向かっていた。しかしその道中、ヒビキがツバサに詰め寄っているのが目に入った。

「なんで聖遺物の使用許可が下りないんですか!?小夜の為なのに!」

「何度も言っているだろう。これから二課は解体されて、国連直属の別組織に変わる。これからは聖遺物の確保、収容、保護が我々の主な仕事になるんだ。私情で聖遺物の運用など許されるはずがない」

 ツバサの言っていることはもっともだ。キャロルも聖遺物の収容施設の設計についての報告書を持ってきたところなのだ。

「だって、小夜は世界を救ったんですよ?それなのに、救った世界でこんな仕打ちを受けなきゃいけないんですか?こんな世界、間違ってるとは思わないんですか!?」

 興奮して掴みかかろうとしたヒビキを避けて、ツバサが落ち着かせるべく肩を掴んだ。

「ヒビキ、剣を教えた時に言っただろう?私たちの剣は世界を守る剣だと。これは、仕方のない事なんだ。小夜1人の命と60億の命、天秤にかけるまでもないだろう?」

 小夜を救うには、彼女が犠牲になるしかない。世界を守るという事はそういう事なのだと、ヒビキに諭そうとしているようだった。

 だが、ヒビキの反応は違った。ツバサの手を振り払い、彼女に背を向けた。

「だったら、こんな世界。間違ってると思いますよ。私は私の方法で小夜を救います」

 ヒビキはそれだけ言い残すと、その場から走り去っていってしまった。

 それが立花ヒビキを二課所属の装者として見かけた最後の姿だった。

 

 

『Killter Ichaival tron』

 クリスはイチイバルを纏い、クリスはセレナを迎え撃つ。胸のコンバータユニットが青く染まり、シンフォギアが展開される。

 小夜の槍を受け止め、クリスは距離を取りながら狙いを定める。実の所、イチイバルというものはこういう状況には向いていない。クリスの武器は、翼のように峰打ちもできないし、響のように受け止めることもできない。

 つまるところ、人を殺すことしかできないのだ。セレナに真実を問いただすためにも、彼女のを死なせるわけにはいかなかった。

「正体を知られると困るってなんだよ!最初から言ってくれれば、あたしらだってできることがあっただろ!」

 クリスの言葉を聞かず、セレナは一直線にクリスの急所を狙ってくる。一方のクリスはセレナを傷つけるわけにもいかず、威嚇射撃を行う事しかできない。

(仕方ねえ……!)

 イチイバルの白兵戦に弱いという欠点を補うため、一応最低限の護身術は心得ている。普段の戦闘では使う場面に乏しい故に正直不安だが、やるしかない。

 まず腰から、ミサイルを乱射してセレナの周りに打ち込む。狙いなど付けていない。所詮は爆風で目くらましができればそれでいいのだ。大方の予想通り、セレナは煙を抜けてきた。セレナの足を止めることができたおかげで、クリスも大弓を用意する時間を稼ぐことができた。

(新技、行くぜ!)

 魔法少女事変以後、使えるようになった新技は、まだ一本しか矢をつがえる事しかできないが、今はそれで十分だ。クリスの予想では、セレナが放った矢を回避する隙に距離を詰める事ができるはずだった。

 だが、結果は予想とは大きく異なった。クリスの放った矢をセレナは回避することなく、セレナの胸に矢が深々と突き刺さったのだ。

「嘘だろ!?」

 心臓を貫かれ、セレナはその場で一瞬止まった。だがすぐに動き出し、胸の矢を引き抜いて捨てた。セレナの胸からは血が流れておらず、空いた穴もすぐに塞がった。セレナは槍を構えなおし、大きく飛び上がった。落下の勢いに任せてクリスを串刺しにするつもりらしい。

「化け物かよ……」

 クリスは再び矢を召喚して2撃目に備える。クリスの知っている融合症例とは違うが、セレナが死なないというのであれば、手加減する理由はない。マリアに何か言われるかもしれないが、ここでやらなければセレナに殺されるだけだ。

 セレナの槍先の一部が花弁のように開くと、周囲に赤い粒子のようなものが散布され始めた。それと同時にクリスの胸元のコンバータユニットが点滅をはじめ、セレナが落下してくるのと同時にイチイバルが解除されてしまった。

 クリスは紙一重でセレナを回避し、距離をとる。セレナは床に突き刺さった槍を引き抜き、こちらをまっすぐ見据えている。

「どうなってんだよ、お前……」

 この世界のセレナは、まるで装者を殺すためだけに作られた人形のようだった。何故かセレナは心臓を貫かれても無傷、シンフォギアを解除する謎の技を持っている。面影こそセレナと同じだが、クリスには未知の怪物にしか見えなかった。

「私のアームドギアの特性は、奪い取る事なんですよ」

 ここにきて、やっとセレナが口を開いた。ギアを展開できないのを知っているのか、ゆっくりとこちらに歩いてくる

「私が『欲しい』って思ったものをすべて奪い取って、自分の力に変える。それが私のアームドギアです。あくまで一時的に奪い取るだけなんですけどね」

 この世界に来た時、クリスのイチイバルは明らかに様子がおかしかった。突然ギアが解除されるのは、この世界特有の現象か何かと思っていた。

 だが違う。犯人は、セレナだった。彼女がギアの適合係数を奪い取り、強制的にシンフォギアを停止させたのだ。

 セレナが槍を指揮棒のように振ると、虚空からクリスのガトリングが出現し、狙いを定める。

「奪ったものを持っておけるのは、せいぜい数十秒が限界なんですけど、ここであなたを仕留めるには十分です」

 クリスは絶体絶命のピンチを乗り切るために、何ができるかを考えていた。シンフォギアが使えないのなら、どうにかしてセレナの攻撃を逸らすしかない。

「じゃあよ、あたしが死んだら、すぐにばれるんじゃないか?」

 クリスの一言でセレナの動きが一瞬止まった。その隙を逃すクリスではなく、セレナから距離を離す。セレナの言葉が本当ならば、時間を稼いでいれば再びシンフォギアを纏うことができる。セレナの手の内が分かった今、すぐに応戦できるはずなのだ。

「セレナちゃん!」

「お前!何やってるんだ!」

 セレナがクリスに銃口を再び向けた時、響がキャロルを連れてやってきた。響はすぐにガングニールを纏い、セレナに掴みかかって槍を奪い取った。

「……どいてください」

「どかないよ!私たち同じ人間でしょ?話せばわかるって!」

 セレナは響から武器を奪い返そうとするが、響ががっつりつかんで離さない。セレナの細腕では響の握力を上回ることができないようだ。

「響さんには関係ないことですよね?」

「そんなことないよ!クリスちゃんから聞いたよ。この世界のセレナちゃんなんだよね?理由があって隠してたんだよね?なら、話を聞かせてよ。この世界のマリアさんの事とか―――」

 響がマリアの名前を出した途端、セレナは血相を変えて響の不意を突いて槍を奪い取った。響は思わず距離をとって、クリスとキャロルを庇う要に立ちふさがった。セレナは響も狙いに付けたようで、すぐにでも襲い掛かってきそうだ。

「やめろセレナ!」

 キャロルが2人の間に割って入り、魔法陣を展開して岩塊を射出してセレナを吹き飛ばす。壁に叩き付けられたセレナの体から血が飛び散ったが、キャロルが魔法陣を引っ込めると、セレナの体には傷一つついていなかった。

「いいから落ち着け。ここでこいつらを手にかければ、お前の事を他の人間にも説明しなくてはならなくなる。並行世界のお前の姉にもな」

 マリアの名前を出されて、セレナは悔しそうにギアを解除した。すぐにセレナはポケットから注射器を取り出して、首元に打ち込んだ。注射器には赤いLiNKERが補充されているのが見える。

 セレナはキャロルに何も言わず、黙ってその場を後にした。セレナは終始うつむていて、その表情は伺えなかった。

「おい、何がどうなってんだよ。あいつはセレナか?それとも小夜なのか?」

「いや、両方だ」

 意外にもキャロルは響たちの問いにスムーズに答えてくれた。もう隠してはおけないと判断したからなのかは分からないが、そのままキャロルはセレナについて説明を始めた。

「もう10年以上前になるか……。マリアとはぐれたセレナが偶然立花洸に保護されたのがすべての始まりだった。だが、本人が名前を言わなくてな、仕方なく小夜として立花家に引き取られた。表向きには、洸の連れ子ということにされてな」

 更にキャロルは言った。この世界ではセレナがガングニールの融合症例になり、F.I.Sの事件の最後で本当の姉であるマリアを亡くしたのだと。それ以来、彼女は心から笑わなくなったという。見せても、それは取り繕った空虚な笑顔だとキャロルは言う。

「セレナはガングニールとの融合が進みすぎて、今じゃ何をやっても死なない。まさかオレも永遠の命を持った人間がいるなんて思いもしなかったさ」

 キャロルはそれだけを言い残して、その場を去ろうとした。だが途中で何かを思い出したようで、最後に一言だけ付け加えた。

「お前たちは外の世界の人間だ、小夜についてはこれ以上詮索はするな」

 演習場からキャロルがいなくなり、その場には静寂だけが取り残された。

 

 

 S.O.N.G本部から極秘裏に派遣されていたミカ・ジャウカーンは、森の木々に隠れた一台の装甲車を見つけた。逃げた方向や途中の監視カメラの映像を追って、大まかな地域しか分からなかったが、これで調の確保に向かうことができる。

 キャロルから言われた手順に従い、された写真と照らし合わせてそれが目標の装甲車であることを確認する。

「見つけたゾ。えーっと……この発信機をあそこに打ち込んで……」

 幸い、目標の周囲に護衛らしき人影は見当たらない。ミカが掌の発射口を装甲車に向け、発信機を射出した。

「悪いけど、そう簡単にゲットさせるつもりはないのよね」

 目の前には一人の女が現れ、ミカが発射した発信機をキャッチして握りつぶした。

「あーし、こういう任務って向かないと思うのよね。こういうのはサンジェルマンの方が向いてるきがする……ってあなたに言っても無駄よね」

「むー?誰だゾ?」

 任務を妨害されて不機嫌そうにしているミカに対し、女はわざとらしい程丁寧にお辞儀をして名乗った。

「あーしはカリオストロ。雇われ錬金術師ってとこかしらね。あなたに恨みはないけど、アレを守ってって言われてるの。だから、あなたを通すわけにはいかないわ」

 カリオストロはノイズが封じられているジェムを一個だけ取り出し、アルカ・ノイズを召喚した。ミカはノイズを討伐すべく構えたが、直後周囲が亜空間に覆われて、周囲の風景が森の中から荒野に変わり、晴れていた空も宇宙空間のようになっている。

「今度出す新作のアルカノイズよ。まだ調整中なんだけどね」

 続いてカリオストロは短剣型の道具とスパークドールズを取り出した。

「まあ、これを使ったのはこのためなんだけどね」

『モンスライブ!ガンQ!』

 そのまま短剣をスパークドールズの足に突き刺すと、カリオストロの体が光を包まれて巨大な眼球のような怪獣に変身した。

「退屈してた分、派手にいくわよ!」

 ガンQの眼から光線が放たれ、ミカを焼き払おうとする。牽制として水晶を打ち込むが、少しぐらい狙いを逸らす程度しか効果を発揮しない。

「こうなったら、マスターから貰った奥の手で行くしかないゾ!」

 ミカの腕の一部が開き、中の空洞が露出する。隠し持っていたスパークドールズをセットして、水晶の代わりに射出する。

「ファイヤーゴルザ、出番だゾ!」

 腕から放たれたスパークドールズが巨大化し、元の姿となってガンQを殴り飛ばす。ガンQは光線を放ってファイヤーゴルザに応戦する。ファイヤーゴルザも熱線を放ってそれに答えたが、何故かガンQは光線の出力を弱めて、わざとファイヤーゴルザの熱線を受けた。

 勝った、とミカは思ったもののガンQに直撃した熱線は眼に吸い込まれていき、完全に吸収してしまった。ファイヤーゴルザはガンQと交戦勝負は分が悪いと判断し、格闘戦に持ち込む。元々腕力の高い怪獣だったという事もあって、ファイヤーゴルザは軽々とガンQを投げ飛ばした。そして馬乗りになり、ガンQの頭を殴り続ける。この距離では、ガンQの光線より、ファイヤーゴルザがガンQを倒す方が早い。ミカは今度こそ、勝負が決まったと確信した。

 ガンQは最後の抵抗のつもりなのか、眼から放った紫色の光がファイヤーゴルザを包み込む。ミカは無駄なあがきとして歯牙にもかけなかったが、それを浴びたファイヤーゴルザは、ガンQの体内に吸い込まれて行ってしまった。

「あ、あれ!?どうなってんだゾ?!吸い込まれちゃったゾ!?」

 拘束から解き放たれたガンQはミカの体を見下ろしてそのまま踏みつぶした。ガンQの足元には彼女のを構成していたであろう木片等が転がり、同時に亜空間の崩壊も始まった。カリオストロは慌てて変身を解いて身を隠す。その手には、ガンQとファイヤーゴルザの2つのスパークドールズが握られている。

「はぁ……。持続性に問題ありね。こんな簡単に崩れちゃうんじゃ商品にならないわ」

 手の中の回収したスパークドールズを眺めながら、試作品ノイズの不甲斐なさをカリオストロは呟いた。小夜曲(セレナーデ)




S.O.N.Gデータベース
セレナの真実
 この世界において、セレナは立花小夜として育てられた。元々は内戦の激しい地域の出身であり、立花家の勧めで偶然ボランティアに参加していた立花洸によって、保護された。
 保護された時点では、名前が分かるものを何も持っておらず、かつ文字も読めないという有様だった。何とかしてセレナという名前を聞き出すことに成功したものの、洸が嫌な思い出を忘られるようにと願いを込めて、小夜曲(セレナーデ)に因んで立花小夜と改名された。
 尚姉のマリアはセレナの助けを呼びに彼女の傍を離れており、セレナは死んでしまったと思い込んだまま、拉致されてレセプターチルドレンになった。
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