戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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S.O.N.Gデータベース
セレナのガングニール
 この世界のガングニールの融合症例であるセレナのシンフォギア。
 本編世界と違ってフロンティア事変終盤で融合症例が治癒されなかったせいで、聖遺物との融合が進んでいる。適合係数も上昇し続けており、アンチLiNKERを投与しなければシンフォギアを纏う度に死亡するレベルにまで上がっている。
 再生能力も強化されており、再生を通り越して不死のレベルにまで達している。ただし死なないだけなので、痛覚などはしっかりと感じる。
 アームドギアの特性は奪い取る事であり、セレナの視界にあるものをセレナに移すことができる。一時的にしか収めることしかできないが、元の所有者が死亡する等して戻る場所がなくなった場合、セレナのシンフォギアの一部として組み込まれる。


第17話「過去との決別」

 キャロルが並行世界の装者を招集する2か月前、ツバサに聖遺物の申請を却下されたヒビキは実家に帰っていた。目的は立花の家が持っている資金と人脈を獲得する為である。

「何を言ってるんだヒビキ……。家を継がせろなんて」

「小夜を救うために必要なんだ。この家のお金と、コネクションがさ。だから、全部ちょうだい」

 洸は今何が起こっているのかを知らなかった。どうして今ここで家督を譲り渡すことが小夜を救うことにつながるのかが理解できない。

「小夜に何かあったのか!?まさか、誰かにけがをさせられたとか!?」

「違うよ。多分、病気みたいなものって言った方がいいかな。とにかく、早く小夜を助けたいんだ。その為にはね、すごいお金とか人脈が必要だから、ちょうだい?」

 ヒビキは、手元にペンダントを忍ばせていつでも天羽々斬を展開できるようにしている。もし交渉が決裂したなら、切り伏せてしまえばいい話だ。

「なんだって!?小夜を置いてきたのか!?一緒にリディアンに入れる時に小夜を頼むって言ったじゃないか!

 やっぱりだ。洸は小夜に入れ込みすぎるあまり、彼女の事となると冷静さを欠く。昔から小夜ばかり構っていて、寂しい思いをしていたのを覚えている。

「だって、私が傍にいたって何も変わらないもん。私じゃ小夜は治せないよ。だから一刻も早く治してあげられるようにこうしてきたのに」

「なら、小夜を救急車なり使ってうちまで連れてくればよかったじゃないか!小夜の気持ちも考えたのか!?」

 洸はヒビキが小夜を捨てて逃げてきたと完全に思い込んでおり、こちらの話を聞くつもりなど無いようだった。だがまだ交渉は続けられるかもしれないのだ。

「違うよ。私だって、小夜の事を考えてるよ。これが小夜にとっては最善で―――」

「じゃあ小夜がそう言ったのか!?小夜が早く治してくれって言ったのか!?言って無いんだろう?それじゃ結局、お前の独り善がりじゃないか!」

 ヒビキの見え透いた嘘を洸はすぐに見抜き、独善だと糾弾した。ヒビキは間違っていると、ヒビキのやり方じゃ、小夜は救えないと彼は言った。

「違う……。普通のやり方じゃ、小夜は救えないんだ……!」

 ヒビキは洸に否定されたことで、我慢ができなくなった。元々ヒビキが想定していた中では最悪の状況なのだ。交渉は決裂し、力づくで手に入れるしかない。

 聖詠を詠い、天羽々斬を纏って刀を構える。洸はヒビキが突然、刀を構えたことに驚き、腰を抜かした。未だヒビキの中では覚悟が決まらない。これを振り下ろせばいいのに、手が震えて振り下ろすことができない。

「ごめんね、お父さん」

 それでも、小夜を救いたい一心で、自分の中の迷いを断ち切るようにまっすぐ刃を振り下ろした。なるべく苦しまないように、確実に急所を狙う。

 気が付けば、足元には父親だったものが転がっている。これでもう後戻りができなくなった。こうなってしまった以上は、絶対に小夜を救わなければならない。例え世界中を敵に回しても、小夜を救うのだとヒビキは心に深く誓った。

 

 

 キャロルが部屋で小夜の対策に頭を悩ませていると、ガリィ・トゥーマーンが戻ってきた。他のオートスコアラーに比べ、長期間の運用ができる彼女にはスパークドールズの回収や並行世界の調査を任せていたのだ。

「ガリィ、戻ったか」

「はぁい、ただいま戻りましたぁ。えぇっと、頼まれてたスパークドールズの内、ハンザギランとバラバは敵の錬金術師に奪われちゃいましたよ。でも、シーゴラスとキングクラブは回収できたんで十分ですよね?」

 持っていたケースから2つのスパークドールズを取り出してキャロルに見せる。元々、敵との争奪戦が予想されていただけに、半分持ち帰れただけでも収穫はあったと言える。

「そうか。ご苦労だった」

「もうそれだけですかぁ?超獣のスパークドールズって超レアなのに、確保するのにすっごい苦労したんですよぉ?」

「お前にはまだ働いてもらう。先ほど、ミカがやられたようだ。こちらが招集した装者3名と共に向かってもらいたい」

 キャロルはガリィをひたすら無視して、指示書を手渡した。指揮官としてツバサが帰ってきたが、まだ彼女は経験が浅い。ガリィに構っている余裕などないのだ。

「はいはい。マスターも人形遣いが荒いですね。じゃ、行ってきますよ」

 相手にしてもらえなかったからか、不機嫌そうにガリィは去っていた。並行世界から装者を招集する以前から、彼女にはあちこち動いて貰っている。彼女も彼女なりに遊びたいのかもしれない。

「……ひと段落したら休みでも与えるか」

 人形に休みが必要なのかはわからないが、気晴らし程度のものは必要なのかもしれないとキャロルはぼんやりと考えていた。

 

 

 S.O.N.G本部から帰ってきたセレナは一人部屋でうずくまっていた。自分が小夜だとクリス達に知られてしまった。あの様子では、きっと響にも伝わっているだろう。

 加えて、自分の正体を知られたことが気になって、短絡的に襲い掛かってしまったことは逆にマズい。もしかしたら、敵とみなしてクリス達に襲われるかもしれない。

 そんなことを考えていた時、通信機の呼び出し音が鳴った。セレナは恐る恐る通信機を手に取った。恐らく発信者はキャロルだ。

 要件はいったい何なのだろうか。クリスに襲い掛かったことで何かの罰でも与えるつもりだろうか。いくらこの体が不死とはいえ、痛覚がある以上心を壊しにかかってくるのだろうか。

 いつまでも通信は鳴りやまず、セレナは通信をとった。

『オレだ。やっと出たか』

 通信の主は、キャロルだった。怒鳴り散らされるかと思ったが、意外にも彼女の声は落ち着いていた。

「どうしたんですか?」

『アイツの居場所が分かった。始末してほしい』

 通信の内容を聞いて、セレナに戦慄がはしった。アイツ、キャロルがわざわざセレナにそれを伝えたという事は、それが指す人物は一人しかいない。

『一体どこに行方をくらましていたのかと思っていたが、今さっきS.O.N.G宛てに果たし状を送り付けてきた。並行世界の装者を派遣して余計なことを喋られるとこちらでもフォローしきれない。この前暴れた罰も兼ねてお前に出撃させることにした。準備しておけ』

 キャロルはそれだけを伝えると一方的に通信を切った。所詮はこの程度の扱いなのだ。生きていても死んでいても同じなのだから、道具同然として扱う。今のセレナにとっては理想の関係だった。

 その日の夜、夕食は何にしようかと考えていた時、呼び鈴が鳴った。奏が来るにしては遅すぎる。そもそも、キャロルがわざわざ奏をよこしたとは考えにくい。

 来訪者が誰かと不審に思い、外を窺うと、スーパーの袋を持ったマリアが外に立っていた。セレナは他に誰もいないことを確認すると、鍵とチェーンを外して扉を開けた。

「こんばんは。一緒にディナーでもどう?簡単なものしか作れないけど、私が作るわ」

「えぇっと、いいけど……。ちょっと待っててね」

 セレナは急いで家の中に戻って片づけを始める。姉と一緒に撮った写真やツバサから送られた寄せ書きを見ないところに隠す。マリアがそれを見たところでどうしたところでもないのだが、見られたくないものは見られたくない。

「入ってきていいよ」

「ええ、じゃあ。お邪魔するわ。キッチン、借りるわね」

 マリアは持ってきた荷物を下ろし、どこから持ってきたのかシンプルなエプロンをつけて台所に入っていった。

 慣れない並行世界に来て、色々と忙しいはずなのにマリアの手つきは慣れたもので、スムーズに準備は進んでいた。

「セレナ、お皿はこれを使っていいかしら?」

「え?あ、それで大丈夫だよ」

 既に時間のかかる下ごしらえは済ませていたようで、後は火を通したり細かい味の調整だけだったようだ。調味料の位置や皿を使ったいいかという簡単な質問こそされたが、マリアは滞ることなく夕食の支度を済ませた。

「はい。おまたせ」

 しばらく待って出てきたのはハンバーグだった。形こそ少し歪んでいるが、それでも焼き加減、匂いから決して粗末なものではないのが伝わってくる。

「ごめんなさい。運んでる最中にちょっと潰れちゃったの。でも味は問題ないから」

「うん。いただきます」

 セレナはハンバーグを口に運び、味を確かめる。

「……おいしい」

「そう、良かった……」

 マリアは口では気にしてないように見えたのだが、やはり出来栄えが気になっていたようだった。裏で相当練習していたのかもしれない。

「じゃ、私もいただきます。……うん。ばっちりね」

 続いてマリアもハンバーグに手を付ける。お互い食事中ということもあってか、それほど会話が弾んではいないが、しても当たり障りのない世間話で、マリアから自分について探るような質問はしてこなかった。

「ねぇマリア姉さん」

 食事を終えて、食器の片づけが終わった時に思いきってセレナは口を開いた。

「どうしたの?セレナ」

「マリア姉さんは、聞かないの?私が誰なのかって」

 セレナはマリアの知っているセレナではない。その事実こそ間接的に明かしたものの、セレナ自身が話すことはなかった。

「マリア姉さんは、怖くないの?私がセレナじゃないかもしれないのに」

 自分は立花小夜であるという事実は、まだ自分の口から打ち明けてはいない。クリスや響が彼女に話していても不思議ではないが、それでもセレナは確かめておきたかった。

「無理に聞き出すつもりはないわ。セレナが話したい時に話してくれれば、それでいいの。だって、私にとってあなたはセレナなんだから」

 マリアはそれ以上何も言わなかった。セレナは自分の正体を無理に追及されないと分かって安心したが、同時にその優しさが苦しかった。

 

 

 翌日、セレナはキャロルから支持された合流地点で待っていた。マリアも別件で出撃するようで、セレナを見送った後にS.O.N.G本部に行くらしい。

 集合時刻になると、上空から迎えのヘリが降りてきた。セレナがそれに乗り込むと、中にガリィが乗っていることに気付いた。

「どうしてあなたがここにいるの?」

「ミカの回収任務。あなたを送ったついでにね」

 セレナはガリィ、というよりオートスコアラーが苦手だった。何考えているのか分からないときがある上に、遠慮というものを知らずにこちらに踏み込んでほしくないところまで踏み込んでくる。

 そしてキャロルから情報を与えられているので、お茶を濁したりもできない。特にガリィはこちらの神経を逆なでしてくるだけに嫌いなのだ。

「本当つれないわねぇ。あそうそう、マスターからこれを渡してくれって頼まれたんだったわ」

 ガリィが取り出したのは、アタッシュケースだった。セレナがそれを受け取って中身を見ると、奇妙なデバイスと、ゴモラのスパークドールが入っていた。

「レイオニクスギアの機能だけを抽出したものよ。まだスパークドールズの実体化と制御しかできないけど、その内バトルナイザーの模造品も作るって言ってたわ」

 セレナは黙ってアタッシュケースを閉じて、外を眺める。旅立った街は既に見えなくなっていて、眼下には山が広がっている。

「そろそろ作戦地域が近いわ。ヘリで近くに降りるのは難しいから、開けたところにパラシュートで降りてもらうわ」

「分かった」

 セレナは備え付けのパラシュートを背負って、荷物を確認する。ガリィが持ってきたデバイスとスパークドール、上がりすぎた適合係数を調整するためのアンチLiNKER。これだけあれば戦える。セレナはパイロットから降下する合図を確認すると、ヘリから飛び降りた。

 訓練通りにパラシュートを開いて、木の少ない場所を狙って降下すると、パラシュートを脱ぎ捨ててアンチLiNKERを取り出す。敵がどこに潜んでいるのか分からない以上、いつでも投与できるようにしておいた方がいい。

「お待ちしてました。時間通りで助かりますよ」

 空から降下したのを見ていたのか、敵から近づいてきた。セレナは振り返り、足元にアタッシュケースを置いて構える。

「良い場所でしょう?好き放題暴れても目に付かない。戦うなら最高の場所だ」

「呼び出した要件はそれだけですか?」

「ああそうだ。僕が君らに果たし状を送れば、君が送られてくると思っていた」

 今回の敵、それはジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。通称Dr.ウェル。F.I.S蜂起事件でマリアたちに手を貸していた研究者であり、セレナ達が並行世界から装者を呼ぶ前に何としても排除しておきたかった人間だ。

『Balwisyall Nescell gungnir tron』

 セレナはすぐにアンチLiNKERを投与し、ガングニールを纏う。この男に容赦する必要はない。一秒でも早く仕留める。それだけだ。

「おっといけない」

 ウェルはガングニールの一撃を避けて距離をとった。あまりにも決着を急ぐあまり、攻撃が単調だったのが仇になってしまった。

「僕だって無策で装者に挑むわけじゃない。僕だって策を用意してきたんですから」

 ウェルはポケットから黒く濁ったLiNKERを取り出し、自分の首筋に投与した。そして、もう片方のポケットから、シンフォギアのペンダントを取り出した。

「フォニックゲインは利用できませんが、誰でも適合者となれる特別なLiNKERですよ。宇宙人の手を借りるのは癪に触りますが、あなたを始末できればそれでいい……!さあ、応えろ!アガートラーム!」

 ウェルのペンダントが光り輝き、ウェルの体を白銀の鎧が包み込む。神々しさを放ちながらも、どこか歪みを感じさせるその輝きは、彼が思い馳せる『エイユウ』への憧れの象徴のようだった。

「待たせたな……。さあ始めようじゃないか、破壊を、苦悩を!」

 ウェルはアームドギアを構えてセレナを睨む。セレナはここで過去に決着をつけるべく、に真っ向から挑みかかった。




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ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス
 Dr.ウェルの名で知られる研究者。この世界ではエボリュウ細胞の研究に努めていたが、その危険性から学会を追われた身だった。しかしその研究を利用しようとしたフィーネに拾われて、彼女がF.I.Sに取り入るための材料として利用される。
 F.I.S内でまだ幼かったマリアと出会い、F.I.S崩壊後はマリアとナスターシャ教授と共にハンバーガー屋を経営していた。
 その後マリアがシンフォギア装者としてCIAに採用された際に、セレナの真実を知ってしまう。セレナが日本の研究機関に拉致されたと勘違いしたウェルは、マリアの頼みもあってセレナの保護という名目の拉致計画を画策する。
 実験体であったメタモルガを使ったこの計画は見事に成功し、マリアとセレナを10年ぶりに再会させた。
 マリアに好意を持っており、武装蜂起事件後に彼女にプロポーズをするつもりでいた。マリア本人もウェルを悪くは思っていなかったため、成功していたならばマリアとセレナ、ウェルの3人で幸せな家庭を築いていたのかもしれない。
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