戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey 作:パイシー
並行世界に到着した翼は、目の前の現実が信じられなかった。目の前に広がっていたのは、瓦礫の山と、巨大な蜘蛛の巣を作っている巨大怪獣だった。それに、一緒にいるのは調だけで、他の5人については全く見当たらない。
「どういうことだ……?月読、これはどういう……?」
「分かりません。ただ、あの怪獣は確か切ちゃんが好きだった奴……確か名前は、バンピーラだったはずです」
翼はますます状況が飲み込めなくなった。切歌が最近ゲームにハマっているのはマリアを通して聞いていた。しかし、それに出てくるキャラクターが現実の生物として存在しているというのはどういうことなのか。
「とにかく、情報を探そう。他の皆がどうなっているのかも気になる」
翼は調を連れて音を立てないように動く。バンピーラは巣の上から獲物を探しているようだが、幸いこちらには気づいていない。このままなら逃げ切れるかもしれない。
「成る程、あなたが剣さんなのね」
逃げ道を塞ぐようにファラ・スユーフが立っていた。キャロルが味方ということを考えれば、彼女も味方であると考えるのが普通だが、どう見てもそういう風には見えない。
「マスターからは、あなた達の回収を命じられてはいますが……」
ファラはおもむろに怪獣の人形を取り出し、翼達に見せつける。
「別に、”回収が間に合わなかった”という事にしても構わないですよね」
ファラは人形に口づけをすると、人形を放り投げた。すると人形は強烈な光を放ち、巨大な怪獣に変化した。
「古代怪鳥レギーラ。スパークドールを回収するのには苦労しましたが、別に良いでしょう」
レギーラは翼達の真上で旋回し、威嚇をするかのように鳴いている。まるで、バンピーラにこちらの位置を教えているようだ。
「貴様!キャロルの仲間ではないのか!?」
「ええ、仲間ですよ。あなた達の仲間かどうかは、別ですが」
ファラは空間転移の小瓶を割り、その場からそそくさと退場してしまった。時を同じくして、バンピーラが翼達めがけて突進を始めた。レギーラはバンピーラに体当たりを始め、バンピーラも糸を吐いて応戦を始めた。
「走るぞ!」
2頭が争っている間に少しでも距離を取ろうと翼と調は走り出す。バンピーラとレギーラの戦いは頭上を取っているレギーラが優勢だが、ファラの言葉が正しければ、勝ったほうがこちらの敵になるだけである。
「一体どうなってるんだ……?怪獣無法地帯にでも迷い込んだか?」
「いざとなったら、シュルシャガナの機動力で」
「ダメだ!バックアップが揃っていない以上、お前に変身させるわけにはいかない!」
調はLiNKERも少数ながら持ってはいる。しかし、ウェル博士が改良したものではないので、使用には副作用が絡む上にシンフォギアからのバックファイアを治す手段もないのだ。魔法少女事変の一件で、無茶はできないと分かっていたが、それでも調は歯がゆい思いに駆られた。
バンピーラ達から距離をおいた時、いきなりバンピーラの巣が爆ぜた。更にもう一体の鳥のような怪獣がバンピーラの巣を焼き払って姿を現した。
「3体目、だと……?」
翼は自分を落ち着かせようと必死に自分に落ち着けと言い聞かせる。しかし増える怪獣と調も守らなければいけないという責任感から、逆に焦りを生んでしまう。
「翼!大丈夫!」
焦る翼を助けに奏が姿を現した。
「奏!?助けに来てくれたの?」
「そう。キャロルから頼まれてね。ファラだけじゃ心配だからって」
奏が助けに来てくれたお陰で、翼も少しだけ落ち着く余裕ができた。月読も助けが来てくれて安心したようで、強張っていた顔が少し緩んだ。
「バンピーラに、レギーラ、そしてバードン……。こりゃ酷いね。一旦退くしかないか……。この近くに拠点があるし。そこならバックアップができるはず」
奏の提案で2人は拠点へと向う。最後に見た怪獣たちの乱戦は、バンピーラの劣勢という状況のようだった。
「さてと、ちょっと粗末だけど、ここが私達の拠点。ゆっくりしていってね」
奏でに通されたのは、比較的小規模な地下シェルターだった。最低限の衣食住はできるようになっており、数日間の籠城も可能にしているような印象を受けた。
「さてと、まずは調ちゃんにはこれあげるよ。無いと困るでしょ?」
奏は貯蔵庫を開けて、LiNKERの入った注射器を調に投げ渡した。
「LiNKER?どうして?」
「あたしもこっちの世界に来てビックリしたんだけどね。どうもこっちだと改良型LiNKERが量産できてるみたいでさ、SONGに本部に行けばいくらでも補給できるらしいのさ」
奏は引き続き貯蔵庫を漁っており、なにかを探しているようだった。
「お、あったった。翼にはこれね。とりあえず一個しか無いから、翼に渡しとくわ」
奏が翼に渡したのは、シンフォギアのコンバーターユニットのような結晶体だった。だが肝心の聖遺物の欠片のようなものは見受けらなかった。真ん中に穴が空いており、コンバーターユニットをさせるようなスロットが設けられている。
「これは?」
「レイオニクスコンソール。シンフォギアで怪獣を召喚できるようになる補助器具だよ」
奏は自分のコンバーターユニットを見せて、既にコンソールを付けていることを示した。
「怪獣を召喚する……ってシンフォギアにそんな機能はついてないはずだけど?」
「その通り。怪獣を召喚するのは、この世界でしか動作しない特殊機能。そのコンソールがなくても使役はできるけど、正規の適合者でもバックファイアが酷いからね。それを緩衝材にするってわけ」
奏の話は信じがたい内容が含まれていたが、翼はあんな非現実的な光景を見てしまったので、納得せざるを得なくなってしまった。
翼はコンソールユニットを装着し、少し眺めてみる。非常に独特な形をしており、その見た目はクワガタのように見えなくもない。
これからどうしようかと考えいていた時、突然シェルター全体が大きく揺れた。
「何!?」
「地上の怪獣決戦に動きがあったのか……?」
翼は怪獣という存在がどういうものなのかは分からない。ノイズの一種なのかもしれないし、あるいはこの世界に実在している本物の生物なのかもしれない。けれど、この世界で生き残るためには、怪獣を召喚して戦うのが一番であると理解した。
「よし、じゃ準備ができたことだし、行こうか。怪獣退治」
「ええ。でも私一人で行くわ。何かあったら、月読をSONG本部に連れてって」
「……分かった。いってらっしゃい」
翼の決意を見て、奏は特別引き止めるようなことはしなかった。翼は地上へ上がるはしごを登り、地上へ出る。
怪獣の三つ巴の戦いを制したのは、バードンだった。バンピーラの死骸が無残に転がり、レギーラは逃げたのかその姿を消していた。
バードンは周囲の廃墟を荒らし、何かを作ろうとしているようだった。
(……行くぞ)
翼はレイオニクスコンソールを付けたシンフォギアを握りしめ、聖詠を唱えた。
『Imyuteus amenohabakiri tron』
そこから先はいつものシンフォギアと違った。翼の脳内に様々なイメージが次々と浮かんでは消えていく。古今東西、ありとあらゆる怪獣のイメージ。その中で、翼はある怪獣の記憶を呼び覚ます。
「出でよ!デマーガ!」
次の瞬間、シンフォギアから光が放たれ、一体の怪獣が実体化する。溶鉄怪獣デマーガ、日本の言い伝えをまとめた太平風土記にも登場する怪獣である。
「防人の生き様、見せてやろう!」
デマーガは翼の言葉に反応するように大きく吠えた。
バードンはデマーガを敵と認識し、空中に飛び上がって襲いかかってきた。翼はそれに動じること無く、撃ち落とすイメージを作る。するとデマーガの背びれが一瞬光り、口から熱線を発射した。
デマーガの熱線は、空中のバードンを正確に捉え、撃ち落とした。それを見て、翼は怪獣の扱い方を把握していく。翼がデマーガの戦い方を思い描くと、デマーガはその通りに動いた。
デマーガは落ちてきたバードンを殴り飛ばし、更に熱線で以てバードンの羽根を完全に焼き払った。そしてバードンは熱線で自慢の羽根を焼き払われ、ノロノロと地上を這いずり回る。デマーガの攻撃に驚き、どこかへと逃げようとしているようだった。
「逃がすか!」
デマーガは翼の意志に応えたかのように、腕の一部から鋭い刃のようなものを生やした。僅かに蒼い光を帯びたその刃は、バードンの背中を一閃のもとに切り伏せた。その太刀筋はどこか、翼の蒼ノ一閃に似ていた。
バードンは背中を切られ、うめき声のようなものを上げながら、爆発四散した。
「勝った、のか」
翼はデマーガに指示を送っただけとは言え、少し勝利の高揚感に駆られていた。デマーガも戦いが終わると、翼に礼を言うかのように光の粒となってシンフォギアの中へと消えていった。
デマーガが消えた後、一瞬疲労感に襲われたが、少し立ちくらみがする程度に和らいだ。
「お疲れ様。どう?初戦の感想は」
翼の勝利を感じ取ったのか、奏が調を連れて地上へ上がってきた。
「不思議なものね。怪獣を使って戦うというのは」
「まあ最初のうちだけね。この後回収部隊が来るみたいだし、それまで拠点で休んでたらどう?」
「そうさせてもらうわ」
この世界で初めての勝利を掴んだ翼は、奏と共に拠点へと向かう。翼はこれまで体験したことのない戦いを経て、響たちにもあの戦いぶりを話してみたい気持ちでいっぱいだった。
「ほう、デマーガを引き当てましたか。私はてっきりメカザムでも出すかと思ったのですが」
翼の戦いを遠目に見ていたファラは素直な感想を漏らした。その手には回収したレギーラとバードンのスパークドールが握られていた。
「全く、手当たり次第に焼き払おうなんて、ミカの行動には困ったものね」
この場にいるのはファラ1人だけだ。バードンを召喚して暴走させたミカは既に撤退済みで、事後処理のためにファラが出てきたのだ。
「ミカにスパークドールを渡すなとアレほど言ったのに、誰が渡したんだか」
ファラ達オートスコアラーはシンフォギアを持たない故、怪獣を使役して戦わせるにはスパークドールズに頼る他ない。しかしミカのように複雑な思考ができないオートスコアラーは、スパークドールズを浪費させる結果に終わる危険だってあるのだ。
しかし、今回の出撃は風鳴翼が召喚した怪獣についての情報を得られたので、悪い気はしなかった。
「はてさて、あの剣さん、どうやって導きましょうか?それとも、潰してしまおうかしら?」
ファラは笑みを浮かべながら転移を行う。ファラ達にとって新しい戦力となるシンフォギア装者。それを導いて、一線級に育てようか、それともこちらの手持ちを使って全滅させてしまうのか。ファラはどちらかにしようかと悩むことさえ、楽しんでいた。
SONG怪獣図鑑
溶鉄怪獣 デマーガ
体長:50メートル
体重:5万5千トン
ステータス
力:★★★★☆
技:★★★☆☆
知:★★☆☆☆
日本の歴史書である太平風土記に記されている古代怪獣。体の79%が溶けた鉄で構成されており、体温は非常に高い。
身体能力はそこまで高くないが、溶鉄光線が最大の武器として敵を焼き尽くす。
翼と共鳴することで発動する必殺技は、『蒼ノ一閃』。ツルギデマーガの状態を再現し、刃から蒼ノ一閃を放つ。ダークサンダーエナジーを用いないので、刃の色は蒼くなっている。
装者のコメント
翼:天羽々斬と勝手が違うので、最初は戸惑ったが意外と頼りになる相棒だ。