戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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S.O.N.Gデータベース
武装組織F.I.S
 かつてマリアが所属していた武装組織。本編世界と違い、組織を率いているのはウェル博士であり、マリアはあくまで象徴的な存在でしかない。
 セレナが生きていることを知ったマリアの平和な世界を作りたいという願いに賛同した人間で構成されている。この世界の斯波田事務次官に、過激派アイドルファンクラブと揶揄されている。
 本編世界との大きな違いとして、規模がけた違いに多く、ノイズと訓練された軍人が所属しているため、シンフォギア装者だけでの対処には困難を極める。
 ただし怪獣戦の訓練は受けていないため、小夜との相性は最悪であり、キングジョーに変身されるとウェルが製造した怪獣を出撃させなければならなかった。
 


第18話「救世の悲愴」

 セレナを見送ったマリアは、S.O.N.G本部に戻るとキャロルに無理を言ってセレナが乗るヘリに乗せてもらった。ただし、本人にバレないように操縦士として。セレナと別れる前、嫌な予感がしたのだ。別れる寸前のセレナの顔には見覚えがあった。フロンティア事変の時の、自分を押し殺している顔だ。

「ほら言ったらどう?アイドル大統領さん?」

 セレナが降下するのを見て、ガリィが副操縦席に乗ってきた。恐らくこのまま降下してしまえば、マリアが来たことがバレてしまう。なら、少し遅らせてセレナから離れた地点に降下する方がいい。

(嫌な胸騒ぎで終わればいいんだけど……)

 名目上は、セレナのバックアップという名目で出撃しているため、見つかっても問題はない。しかし、それではセレナの本心を聞くことができない。優しいセレナなら、きっと自分に気を使ってしまう。この作戦に挑むセレナの決心を踏みにじってしまうかもしれないのだ。

「もう少し後でね」

 マリアは降下するタイミングを1人見計らっていた。

 

 

 セレナとウェルの刃が交差し、2人の力が真っ向からぶつかる。ウェルが起動させたアガートラームはフォニックゲインを得られない為に、セレナのガングニールよりスペックで劣る。だがウェルはシンフォギアの研究に携わっていたのだ。実力や経験のなさをカバーできるだけの膨大な知識を持っているのだ。真正面からぶつかり合えば、結局は五分五分の勝負になってしまう。

「お前のせいだ!お前さえいなければ!マリアは幸せでいられたのに!」

 ウェルは無数の短剣を召喚してセレナに差し向ける。セレナも直感的に槍で弾きながら短剣を回避する。何本かはよけきれずに体に刺さってしまったが、引き抜けばすぐに傷は塞がった。

「お前さえいなければって、私たちを引き合わせたのはあなたじゃないですか!」

「違う!あれはマリアの為だ!お前がどう思うと関係ない!」

 ウェルはセレナにとびかかり、セレナの首筋を狙う。セレナは槍ではじき返し、逆にウェルを突き刺す。しかしウェルは体の筋を逸らし、鎧で衝撃を受けた。

「マリアは間違いなく、英雄だった!絶えない人間の争いに心を痛めて、平和な、いつか見た未来を作るために必死だった!それなのに、お前はそれを踏みにじったんだ!」

 セレナとウェルの一進一退の攻防は続く。ウェルの剣が鎖のように展開し、セレナのリーチの外から攻撃を仕掛けてくる。セレナは槍に剣を絡ませて捨てることでウェルから剣を取り上げた。

「そのアームドギアも、元を正せばマリアのものなのに!貴様はそうやって何もかも奪い取るのか!」

「……私だって、好きでこの力を振るってるわけじゃない。本当なら、マリア姉さんとだって……!」

「そんなのただの言い訳じゃないか!結局君はただの人殺しだ!」

 ウェルの言っていることに偽りはない。事実、この世界のマリアは、武装蜂起事件の最後でセレナとの一騎打ちの末に敗れて死亡したのだ。

「この死体風情が!胸のシンフォギアに生かされているだけの人形がぁ!」

 ウェルは短剣を引き抜いて、セレナに向かってくる。セレナは捨てた槍を拾って巻き付いた剣を払って、振り向きざまにウェルの腹を突き刺す。鎧に守られていないその部分は、セレナの槍を易々と貫いた。そして完全に槍がウェルの体を貫くと同時に、槍の刃先が展開する。そこから周囲に赤い粒子が展開されて、ウェルのギアが強制的に解除され生身の体に戻る。ギアが解除されると同時にセレナは槍を引き抜いて、ウェルの体を引き抜く。

「ぐっ……。何故だ……!なぜ負ける!死体ごときに!」

「……」

 セレナは、ウェルが投降してくるようならそれを受け入れるつもりでいた。セレナとて無作為に殺したいわけじゃない。だが、ウェルにその意思はないうえに、このまま生かしておけば自分の秘密を周囲に言いふらすつもりなのだろう。ならば、この場で始末してしまうしかない。

「あの黒いLiNKERは、エボリュウ細胞を組み込んで僕がさらに改良を加えたものなんだぞ!それなのに!」

 ウェルは2本目の黒いLiNKERを取り出して、再度投与しようとする。セレナはその前にウェルに止めを刺そうとする。

「そうだ、もっとだ……。もっと力があれば、こんな化け物なんて倒せるんだ。エボリュウ細胞!もっと力をよこせぇ!」

 だがウェルの方が早く、黒いLiNKERを投与してしまった。ウェルはそのままアガートラームを再起動させるつもりだったのかもしれないが、ウェルの体に異変が訪れた。

 それは短時間にLiNKERを投与しすぎた結果なのか、それとも上がりすぎた適合係数とエボリュウ細胞の何かしらの反応が起きたのか。全身から電撃を発しながら異形へと変貌し、更に肥大化していく。

「モット力ヲオオオオオオ!」

 変貌し終えたウェルは何かにとりつかれたかのように叫び声をあげた。それは力なきものが力を求め続けた哀れな末路のようであった。愛するものを喪った絶望に囚われ、その復讐に駆られた男は、異形進化獣エボリュウとなり果ててしまった。

 セレナはシンフォギアを解除して、キングジョーに変身することも考えたが、ガリィから渡されたデバイスがあったことを思い出し、アタッシュケースの傍まで戻る。

 アタッシュケースを取り出し、ゴモラのスパークドールをデバイスの読み込み部分にかざした。

『CYBER GOMORA realize 』

 スパークドールズがデバイスに吸い込まれていくと、光となって射出されてサイバーゴモラとして実体化した。

 サイバーゴモラはエボリュウに掴みかかり、軽々と投げ飛ばす。更に両手の爪でエボリュウを切り裂き、断面から黒い液体が垂れてくる。

「図ニ乗ルナァ!」

 異形へとなり果ててもウェルとしての自我は残っているのか、サイバーゴモラに襲い掛かる。全身からめちゃくちゃな方向に電撃をまき散らしながら、サイバーゴモラに掴みかかり電撃を纏った両手のムチを打ち付けた。しかしサイバーゴモラは少し怯む程度のダメージしか受けていない。

 それからもエボリュウの攻撃は続いた。もっと力を、もっと力をとうわごとのように叫びながら何度も何度もサイバーゴモラに鞭や電撃を浴びせたが、それがサイバーゴモラに響くことはなかった。

 もはや、目の前にいるのは敵ですらない。マリアを喪ったという現実を乗り越えられず、セレナに復讐することにとりつかれた哀れな怪物でしかない。

 サイバーゴモラはエボリュウをいとも容易く組み伏せ、両手の爪を深々とエボリュウに突き立てた。エボリュウはもだえ苦しみながらも電撃で反撃したが、サイバーゴモラはびくともしない。

「モットオオオオ!モット力ヲオオオオオオオ!」

 セレナはこれ以上ウェルの悲しい叫びを聞いていられず、サイバー超振動波で仕留めようとした時だった。

 突然エボリュウが電池が切れたようにピクリとも動かなくなったのだ。そして光の粒子となって消滅してしまった。セレナはそれを見届けるとサイバーゴモラを撤退させ、手元に戻ってきたスパークドールとデバイスをケースの中に戻した。

 そしてエボリュウが消滅した地点へと急いで向かう。ここからはそう遠くはない、アンチLiNKERが効いている時間もそう長くはない。まだウェルが生きているのなら、とどめを刺す必要がある。

 エボリュウが消滅した地点に到達すると、誰かがウェルと一緒にいるようだった。ウェルがその人物に何かを告げており、その人物の顔が驚愕の色に染まっているのが見える。

 ウェルはその人物にすべてを告げて、最期に安らかな表情を浮かべて事切れた。

 最期にウェル博士が会って、。なぜならその人物は、今朝別れたばかりのマリアだったのだから。

「マリア、姉さん……」

「セレナ?」

 ウェルが事切れたのは遠目でもわかったので、セレナは纏っていたシンフォギアを解除した。だが、なぜマリアがここにいるのかが理解できない。それにもしかしたら、先ほどの話もすべて聞かれてしまったかもしれない。

「どうしてここにいるの?」

「セレナが心配になったの。だって、セレナ、すごい辛そうな顔をしてたから……。そしたらDr.ウェルがいたのよ。ねえ、今の話、本当なの……?」

 マリアはウェルからすべてを聞いてしまったようだった。セレナが必死に隠し通してきた、マリアを殺してしまったという事実を、ウェルのせいで全部ばらされてしまった。

「……そうだよ。その人の言ったことは本当だよ。今まで、隠してたのは、そのことを知られたくなかったから」

 セレナの衝撃の告白を聞いて、マリアの動揺がより大きくなった。もう下手に隠しても仕方ない。()()()()()()()誤魔化しても、いつかはバレてしまうのは分かっている。ならば、ここでいっそ潔く明かしてしまおうと考えたのだ。

「そう……。でも、セレナにも何か事情があったのよね?言いたくなければ、言わなくていいわ……。無理に聞いちゃ、いけないことだものね」

 マリアはセレナを責め立てることも問いただすこともしなかった。ただ伏し目がちであり、必死にいつもの優しいマリアを取り繕うとしているのが見える。セレナは自分の秘密を知られてしまったという事は、次にすることは、一つである。自分の秘密を知ってしまった以上は、生かしておくわけにはいかない。

 立花小夜は融合症例である。マリアのようにLiNKERを投与する必要も、ペンダントを取り出す必要もない。この場で聖詠を詠えば、すぐにでもマリアも殺すことができる。

 セレナはマリアに救いを求めていたのだ。自分を人殺しであると知らないマリアならば、姉妹関係のやり直しができると思っていた。人殺しであるという現実から目を背けさせてくれる心のありどころになってくれると思っていた。

 その為に、セレナはできることは全部してきた。S.O.N.Gのデータベースの自分に関するデータはロックをかけて、並行世界の装者からは立花小夜という存在を知られないようにと尽くせる手は尽くしてきた。

 自分はセレナ・カンデンツァヴナ・イヴであると振る舞い、前線には立たずにシンフォギアを使わないことでガングニールの装者であることも徹底的に隠してきた。

 あくまで自分はセレナであると振る舞い続けることで、『立花小夜がマリアを討った事で、F.I.S武装蜂起事件は終幕を迎えた』という事実に辿りつけないようにした。

 だが、現実は異なるものだった。誰かのお節介のせいで、自分がこの世界のセレナであると露呈され、クリスが敵の罠で過去に飛ばされたせいで自分が小夜であるという事も知られ、そして、マリアが心配してついてきてしまったせいで、自分がマリアを殺したという事実も知られてしまった。

 並行世界のマリアは、自分に優しい姉だという事は分かっている。セレナに気を使って、いつも通りのマリアと振る舞おうとしている。

 この世界の立花ヒビキもそうだった。優しい姉だった彼女も、マリアを殺さざるを得なかった自分に同情し、小夜を救うために奔走した結果、暴走して世界を敵に回してしまった。並行世界から来た翼も、自分が並行世界の人間であることを突き止めた瞬間、今にも切りかかってきそうな気迫を見せた。

 ならば、目の前のマリアもきっと変わってしまうのだろう。セレナを救おうと苦心し、ヒビキに手を貸してしまうかもしれない。そうなってしまったら、自分のせいで並行世界の装者もバラバラになってしまう上に、またしてもマリアを敵対することになる。

(あぁ、そうか……)

 一番の秘密を知られてしまったセレナは、一つの結論にたどり着いた。非常にシンプルで、簡単な答えである。

(もう一回、最初からやり直せばいいんだ……!)

 セレナはゆっくりとマリアに歩み寄り、隙を伺う。セレナの導き出した答えは、マリアが敵に回る前に殺してしまうというものだった。

 可能性の数だけ存在する並行世界。それならば、様々な可能性のマリアがいてもおかしくはない。だからこそ、このマリアに執着する必要はないのだ。いくらでも替えが利くのならば、一人や二人を殺したところで変わりはない。あの時と同じようにすればいい。セレナは自分に必死に言い聞かせて、覚悟を決める。

『Balwisyall Nescell gungnir tron』

 ガングニールのリーチに入ったところでセレナは聖詠を詠い、シンフォギアを展開する。槍を構え、マリアの心臓めがけてセレナは一直線に突き出した。

 マリアは直前で察知したようで、セレナの槍を回避した。

「セレナ!?」

 槍を回避できたのは、完全に無意識の行動だったようで、セレナが攻撃してきたということにマリアは驚いていた。

「どうしたのセレナ!?」

 セレナは黙って槍を構えなおす。きっとマリアは自分をせき止めようと説得するだろう。そうなってしまえば、セレナの心が揺らいでしまう。そうなってしまえば、本当にセレナが望んでいたものが手に入らなくなってしまう。

「セレナ!やめて!槍を収めて!」 

 マリアは相当訓練でも積んでいるのか、完全にセレナの攻撃を見切って回避してしまう。先ほどからの攻撃をすべて紙一重で回避している。

「セレナ!何とか言って!」

「違う……」

 マリアは、LiNKERを取り出すこともしなければ、シンフォギアを構えることもしない。セレナは、自分のためらいを断つためにも、マリアに隠し続けてきた真実を話す。

「私は、立花小夜。立花ヒビキの義妹!セレナじゃない!」

 セレナは、立花小夜として槍を振るう。マリアは突然の宣言に驚きを隠せず、動きが鈍った。

 もう一度、もう一度だけでいいのだ。初めからやり直して、自分は人殺しであるという事実をなかったことにする。例えその過程が矛盾に満ちていたとしても、小夜はそれを貫き通すのだと決めたのだ。

 アンチLiNKERを投与せずにギアをまとった以上は、何度か死ぬかもしれない。でもいいのだ。13歳の時に、自分はフィーネの策略で死んでいるのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。初めから死んでいる以上、何度死のうが関係ない。

 小夜はもう一度やり直すために、アームドギアの握りなおした。




S.O.N.G怪獣図鑑
異形進化怪獣 エボリュウ
体長:52メートル
体重:5万3千トン
ステータス
力:★★☆☆☆
技:★★★★☆
知:★★★☆☆

 ウェル博士がエボリュウ細胞を過剰投与したせいで変貌した姿。通常のシンフォギアにおける、XDモードに相当する形態ではあるが、力が暴走してしまい、かえってパワーダウンしてしまっている。
 完璧に使いこなせていたならば、アガートラームのアームドギアも展開できたが、ウェル本人が制御できていないので、もっと力を、もっと力を、と暴れまわる怪物と化してしまった。
 その姿はマリアを喪ったという空白に耐え切れず、復讐固執し続けた哀れな男の末路、といえるのかもしれない。
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