戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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S.O.N.Gデータベース
アガートラーム(小夜)
 小夜がマリアのペンダントを使って変身したシンフォギア。
 マリアのものと異なる点として、アームドギアが大剣一つになっていて、短剣を使った搦め手が使えないという欠点を抱えている。
 だがマリアどころか全装者中トップクラスの火力を誇るため、使いこなせれば非常に頼もしい戦力となる。



第20話「嶽鎌の行方」

 響たちはツバサの要望で、作戦室に集められていた。

「今日は、新しい装者を紹介したい。と言っても、多分皆知っていると思うが……」

 作戦室の扉が開き、全員の視線が入り口に向いた。

「はじめまして。立花小夜です。アガートラームの装者として、これから作戦に参加します」

 立花という名前を聞いて眉をしかめた翼、不機嫌そうなクリス。戸惑う未来と事情を説明しようとする響、意外なカミングアウトに驚いている奏、小夜の姿を見た装者達の反応はそれぞれだった。

「前回の作戦でマリアが負傷して、しばらくは動けない。しばらくは小夜がその代わりとして戦う。ギアの適合係数も申し分ない」

 ツバサは淡々と説明をつづけた。そして機器を操作すると、モニターに様々な地図と、切歌たちが通ったであろうルートが記された画面を表示させた。

「脱走した装者の進行予測はこれだ。この予測に合わせてオートスコアラーを配置、装者はこちらが指定するポイントで待機してもらう。そして遭遇次第オートスコアラーで足止めをしつつ確保する。メンバーは、そちらの世界の私、小日向、小夜、響の4人だ。雪音、奏の2人はこちらの基地で護衛任務に就いてもらう」

 発表された作戦に参加するメンバーと、各々の待機場所が表示された。待機地点自体もそう離れておらず、状況によっては囲い込めるように配置されている。

「それと、敵が使ったLiNKERの解析結果が出た。私たちが制作したLiNKERをベースに、スペースビーストの細胞を混入させることで、強引に適合係数を向上させるようだ。通常のLiNKERと比べて強力な反面、使用者自身に怪獣化のリスクがある。恐らく、敵が使うLiNKERは全てこれと同じと考えていいだろう」

「すいません」

 機械的に説明を続けるツバサに対して、未来が話を遮った。

「切歌ちゃんたちを脱走させたのは、この世界のヒビキなんですよね?何が目的なんですか?それに小夜ちゃんって一体……?」

「ああ。すまない。そちらの世界とは事情が違うのだったな。小夜、そちらの世界でいう所のセレナはヒビキの義理の妹だ。小夜は融合症例のままで、症状が進みすぎて治療もできない。ヒビキはそれを解決しようと、私たちの敵に回ってしまったのだ」

 流石にツバサは小夜が死体であるという事実は隠した。別段教える必要もなかったし、下手に教えればメンバーの不和につながりかねないからだ。教える情報は絞らなければならない。

「じゃあ、こっちのヒビキとも分かり合えるかもしれないんですね?」

 未来はやはり響と戦いたくはないようだった。和解できる希望があると思い、その目から少しだけ希望が見える。

「あぁ。アイツにまだ人を信じる気持ちが残っているのならな……」

 ツバサは敢えて回答を濁した。聖遺物を使って小夜を助けたいという申し出を受けていれば、もしかしたらこうはならなかったのかもしれないと、後悔していた。

「とにかく2人とも助けたいのなら、これ以上手をこまねいているわけにはいかない。準備ができ次第、すぐに出撃する。説明は以上だ。各自、解散してくれて構わない」

 ツバサの一言でその場は解散となり、丁度昼飯時だったというのもあり、装者達は食堂へと向かうことになった。

「ねえねえ、セレナちゃん?小夜ちゃん?どっちで呼んだらいいのかな?」

 食堂の席は、響と未来と小夜、クリスと翼と奏という組み合わせになった。席に着くと、さっそく響が話しかけてきた。

「えぇっと、好きな方で大丈夫ですよ。いきなり呼び方を変えると大変そうですし……」

 小夜は話しかけてくる響より、目の前の席に座っている翼とクリスに気が言ってしまう。翼は露骨にこちらを疑っている上に、クリスも隠そうとはしているが、こちらを疑っているのは同じなのが分かる。

「ねえ響。私状況が飲み込めてないんだけど、このセレナちゃんはただそっくりなだけの、響の妹さんなの?」

 食いつくように質問を続けていた響を止めるためにか、未来が口を開いた。小夜はどこから答えていいか分からなくなっていただけに、この質問は嬉しかった。

「はい、私はこの世界のセレナで間違いないですよ。ただ色々複雑で……この世界の響さんとは義理の姉妹です。まあ話すと楽に長くなりますが、この世界では私がガングニールの融合症例なんです」

 小夜はそこから先を話すかを考えた。マリアを殺したという事実と向き合うと決めたのだが、食事中に話すような内容ではない。

「へえ。じゃあ後で、セレナちゃんの事もっと聞かせてよ!この世界の了子さんとか、マリアさんの話とかさ!」

 小夜はこれから仲間になる並行世界の装者の為にも、これまでの戦いについて、話す覚悟を決めた。

 

 

 食事の後、響たちが使っている部屋に小夜は呼ばれた。そして、これまでに起きた事件についてすべてを話した。地球人同士のレイオニクスバトルを目論んだフィーネとの戦い、そして些細な勘違いから姉と対峙することになっていしまった事件の事を。

「そっか……。色々、辛かったんだね」

 響と未来は小夜の話を聞いて、少しだけ同情するような目を向けた。だが、すぐにいつものように笑って見せて、それ以上追及するようなことはしなかった。

「でもセレナちゃんが前を向いて、これからも生きてこうっていうなら、私は全力で応援するよ。こっちの私とだって、きっと分かり合えるよ」

「そうだね。響も色々あったけど、こうして6人で頑張ってこれたんだもん。きっとうまくいくよ」

 響を後押しするように未来も優しい笑みをみせた。直後、部屋に翼がやってきた。2人とも背格好までそっくりなので、見分けがつかないが、響の世界と違いすこし緊張しているように見える。

「ここにいたのか。小夜、向こうの私が呼んでいた。演習室で待っているとな」

 セレナではなく、小夜と呼んだので目の前のツバサは並行世界側のツバサだった。

「あっはい!分かりました!」

 小夜はすぐに礼をして、部屋を出た。演習室へと続くエレベーターまでそう遠くはない。胸のアガートラームもしっかりつけているので、八つ当たり気味に襲われても対処できる。

(今までペンダントつけてなかったから、忘れそうになるんだよね)

 ウェルから回収された方のアガートラームは現在解析中で、このアガートラームはマリアから借りたものである。絶対に無くすわけにはいかない。

 演習室に着くと、ギアを纏った翼が剣を構えて待っていた。予測していたとはいえ、実際に敵に回った所を見るのは小夜の胸を締め付ける。

「来たか。ギアを纏え」

 翼はこちらを見るなり、アガートラームを纏うように言った。こちらを出合頭に攻撃する気はないようで、じっとこちらを待っていた。

『Seilien coffin airget-lamh tron』

 小夜はアガートラームを握りしめてアガートラームを纏う。手には大剣が握られ、襲い掛かってくるであろう翼を待つ。

「マリアから受け継いだそのギア、実力を見せてもらおうか」

 翼は見覚えのある構えをとって、小夜に向かってきた。小夜は大剣で翼の剣をはじいたが、翼はその隙間を縫うように小夜の体を蹴り飛ばした。小夜は大剣を振ったせいで回避が間に合わず、壁に叩き付けられた。翼は攻撃の手を緩めず、小夜の腕を掴んで引き寄せて投げ飛ばし、小夜の首元に剣先を向けた。

「その太刀筋、お姉ちゃんの……」

 ずっと感じていた既視感の正体がやっとつかめた。ヒビキの剣と似せているのだ。動きにはまだぎこちなさが残っているが、比較的近い動きをしている。

「そうだ。天然理心流、私も少しかじったことがあってな。ノイズ相手には役不足だが、人を殺めるのには向いている。まさかこちらの立花が使ってくるとは思わなかったが」

 翼は小夜から離れて、手を差し伸べた。小夜には翼が何を考えているのか分からなかった。てっきり、自分がヒビキの妹だと知って、襲い掛かってきたのだとばかり思っていたのだから。

「私が立花と戦った時、助けてくれたのだろう?ならば、私もそれなりの礼をしたい。剣に慣れていないなら、私が教えよう」

 小夜は翼に助け起こされ、大剣を構えなおす。アンチLiNKERで適合係数を下げる必要がないとはいえ、小夜に剣術の心得はない。正直翼がここで指南を申し出てくれたのは嬉しかった。

「ありがとうございます……。てっきり私をスパイと思われちゃったのかなって不安になりましたよ」

「正直な所、私も複雑な気持ちではあるがな。だがここでセレ……小夜を襲ったところで何かが変わるわけではない。むしろ、貴重な戦力を減らしてしまうどころか、皆のひんしゅくを買いかねない」

 翼は小夜がヒビキの妹だと知って、やはり敵だとは疑っているようだった。だが、翼なりに分別をつけて、小夜に接することにしたようだった。

「はい!じゃあ、よろしくお願いします。後、私の事は、セレナでも小夜でも好きに読んでもらって構いませんよ」

 小夜も自分なりに翼に握手を求めた。翼もそれに快く応じてくれて、小夜が思っていたより早く良好な関係を作ることができて安堵した。

「いいかセレナ。これからこちらの立花と戦うという事は、この剣と戦うという事だ。忘れるな」

 それから、小夜と翼の一対一の特訓が始まった。だが剣については素人の小夜が、百戦錬磨の翼に敵う道理などなく、姉の不完全な模倣でしかない剣ですら勝てなかった。

「その剣は貴様の姉とは違う。同じように振るってもダメだ」

 翼は戦いを通して、小夜に剣の扱いを叩き込んでいく。小夜も力任せに振るったり、姉の記憶を頼りに振るうのではなく、当てることを意識して、一直線で攻めてくる翼の剣を薙ぎ払う。

 結果、翼の剣を弾いて体勢が大きく崩れた。小夜は翼の懐に踏み込み、更に一撃を浴びせようとしたが、蹴りが小夜の鳩尾を蹴り上げた。小夜の体勢が逆に崩され、追撃の蹴り、止めの一閃で小夜の体は真っ二つに切り裂かれてしまった。

 小夜の体はすぐに再生し、ゆっくりと起き上がった。一度意識を失ったせいか、ギアが解除されてしまった。

「大丈夫か!?」

 翼にとっても小夜を切ってしまったのは不本意だったようで、すぐに駆け寄ってきた。しかし明らかに致命傷なのにすぐに回復したのを見て、驚いてもいるようだった。

「はい……。私は、死ねないからだですから、大丈夫です」

「そうか……。いや、詳しい事情は聞かないでおこう。今はとにかく、剣を使いこなせるようになってもらわなくてはな」

 翼は小夜の事情より、小夜が戦力になる事を重視しているようだった。小夜はすぐに立ち上がり、再度アガートラームを纏う。翼もまだまだやる気のようで、剣を構えなおした。

「もう一度、お願いします!」

 小夜は剣を構えて翼と対峙する。小夜はマリアから借りたアガートラームの名に泥を塗らないためにも、諦めずに翼に向かっていった。

 

 

 切歌達の乗った装甲車は、追っ手に阻まれてヒビキ達との合流地点に遅れていた。

「またウルフガスデスね……。野獣包囲網にでもハマったデスか?」

 ヒビキの協力者を名乗る女性から貰ったLiNKERを使って、指示されたルートを逃げてきた。だがキャロルにはそれもバレているのか、こうして定期的に追っ手の怪獣が現れる。ウルフガスだけではなく、アロンやギラドラスといった様々な怪獣が送り込まれ、何度も撃退してきた。

 LiNKERの残りも少なくなってきた。できるだけ戦闘は避けたいが、このままでは先に調を奪われてしまうのが先だろう。

 切歌はLiNKERを手に取り、一度装甲車を停止させる。指示された合流ポイントまでそう遠くはない。ならば周囲の安全を確保してから、ヒビキとの合流ポイントへと向かえばいい。

「じゃあ調、いってくるデスよ」

 調の頭を優しくなでた。手首に着いた跡が痛々しいが、今となっては大人しい。最初の頃は食事に手を付けないといった抵抗も見せたが、今は切歌に従順になった。バトルナイザーもシュルシャガナも今は切歌の手にある以上、逃げ出してもすぐに捕まえられるのだが。

 装甲車を降りると、ウルフガスが唸り声をあげて近づいてくる。切歌はLiNKERを投与して、イガリマを纏う。

『Zeios igalima raizen tron』

 大鎌を構え、切歌はウルフガスの群れに向かっていく。何度も戦っている相手なので、今更苦戦するようなものでもない。

 しかも今使っているLiNKERに変えて以降、体が軽く感じるようになっていた。今までのものとは比べ物にならない快適さに、並行世界に来てよかったと感じる程にまでになっていた。

「調は絶対に渡さないデス!」

 切歌の鎌はウルフガスの群れを薙ぎ払い、あっという間にウルフガスの群れをせん滅する。最早こうなってしまってはただの作業に過ぎない。

 気が付くと、ウルフガスの群れは全滅していた。この『作業』を終えると、調の食事の時間になっている事を思い出した。

 シンフォギアを解除してすぐに車内に戻ると、備蓄してあったレーションを取り出して調の前に広げる。

「さあ、調。ご飯デスよ」

 一口スプーンにすくって調の口に運ぶ。調は口を開いて、切歌の差し出したご飯を食べて咀嚼する。最初の頃は無理矢理口にねじ込んだりしたが、今は素直に食べてくれるので切歌もスムーズに食事をさせることができるようになった。

 これが逃げ続けている切歌の日常だった。追ってくる怪獣を撃退し、調にご飯を食べさせて移動する。誰にも邪魔はされないし、キャロルのように調を捕まえようとする人間もいない。切歌にとってはまさに楽園というのにふさわしい生活である。

 だが彼女はこれが、歪み切ったものであるとは気付いていない。




S.O.N.G怪獣図鑑
獣人 ウルフガス
体長2メートル
体重:130キログラム
ステータス
体:★★★☆☆
技:★★☆☆☆
知:★☆☆☆☆

 キャロルが放ったと目されている怪獣。日中はガス状の生命体として存在し、夜になると獣人として活動する。群れで行動する習性があり、知能は低いが社会性は高い。
 通常に撃破する分には問題ないが、場合によっては周囲の町を破壊するレベルのガス爆発を起こすことがあり、対処には用心しなければならない。

装者達のコメント
切歌:調は誰にも渡さないデスよ。アタシが調を守るデス。
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