戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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S.O.N.Gデータベース
ビーストLiNKER
 ウェルの死体、および所持品から採取されたLiNKER。ウェルがエボリュウ細胞を加えるという改造を施していたものの、その本質はスペースビーストの細胞が混入されたLiNKERである。
 外見は黒く濁ったLiNKERであり、男性であってもシンフォギアと適合できるまでに係数を爆発的に上げる。だが人体への悪影響は計り知れず、ビーストヒューマン化する危険性を孕んでいる。ウェルの場合、エボリュウ細胞に呑まれ、エボリュウそのものに変化してしまった。
 テンペラ―星人ビエント経由で入手されており、ヒビキやウェルは彼から購入したものを所持している。


第21話「追撃作戦開始」

 切歌達の追跡作戦の決行前夜、翼との特訓により最低限度の練度にまでは到達できた。後は明日に備えるだけだ。

 小夜が廊下を歩いていた時、見知った人物が前から歩いてきた。向こうもこちらに気づいたようで、気まずそうに眼を逸らした。

「シラベ、退院してたんだ……」

 この世界のシラベがS.O.N.G本部にいたのだ。小夜の体の事が分かってから、シラベがどうしているのかは知らなかったが、こういう形で再開するとは思わなかった。

「そう。私は定期報告にこっちに戻ってきただけ。すぐに現場に戻らなきゃいけないの。じゃあね」

 シラベは小夜を無視するようにその場を後にしようとした。だが小夜は久しぶりの親友との再会という事もあって、調の手を繋いで引き留めた。

「待ってよ。なんで退院したこと、黙ってたの?」

 小夜の体を治すことは、小夜を殺すことと同義であり、それがシラベにしかできない事なのは互いに知っているはずである。それでも小夜は、シラベからその真意を聞きたかった。

「私に自分を殺してっていうの?」

 シラベは突き放すように小夜に告げた。当然の発想だ。親友を殺せと言われて、それを受諾する人間はいない。だからこそ小夜はここでシラベの誤解を解いておきたかったのだ。

「確かに、私の体は治せないのかもしれないよ。でも私はそれでも前を向いて生きてこうって思ってて、私の新しギアが見つかったから、もうその必要もなくなったっていうか……」

 マリアからアガートラームを受け継ぎ、融合症例のデメリットを無視できるようになったお陰で急いで治療する必要はない。小夜はそう伝えたかったが、うまく言葉を紡げない。

「……分かったわ。とにかく、私が手を貸す必要はなくなったのね?」

 シラベの言葉に小夜は頷いた。小夜の体を無理に直す必要がなくなったお陰か、少しだけ表情も和らいだように見える。

「じゃあ、後はヒビキさんだけね。そうすれば、全部元通り」

「うん。だから、お姉ちゃんを連れ戻してくるよ。お義父さんの事とか、色々あるけど、まずは連れてこなきゃ」

 シラベとのわかだまりも解消され、小夜の中のもやが一つ晴れた気がした。これで心置きなく調、およびヒビキの追跡作戦に臨むことができる。バラバラになった3人が元通りになれるようにと祈りながら。

 

 

 翼はひとりでマリアの病室を訪れていた。作戦前の不安を解消したい目的もあったが、マリアが復帰できるか否かも気になっていた。

「入るぞ」

 中ではマリアがベッドに横たわりながら、ぼうっと外を眺めていた。ツバサが入ってきたのを見ると、体を起こそうとしたが翼に止められた。布団の合間から見える、うっすら血の滲んだ包帯が痛々しい。

「あまり無理をするな。まだ意識が戻って時間がたっていないのだからな」

「ごめんなさい。あまり落ち着いていられなくて」

 ここに運び込まれていた時、マリアはかなりの重体で、その命すら危うい状況だった。キャロルが的確な指示を飛ばし、何とか一命をとりとめたものの意識が戻ったのはつい先日の事である。まだマリアの治療は完璧ではなく、一日の内面会ができる時間もかなり限られている。

「もうギアを纏えるかわからない、ですって。アイドルなのに、自分の限界も分からないなんて馬鹿ね」

 マリアは自嘲気味に言ったものの、今の状態に不満を抱いてはいないようだった。むしろ、清々しているようにも見える。

「でも、無駄ではなかったのだろう?」

「不思議よね。もう戦えないかもしれないのに、すごい清々しい気分なの。セレナが前を向いてくれたからかしらね」

 マリアは弱々しいながらも、笑って見せた。

「私のアガートラームが、セレナを守ってくれる。そう思えば、こうなっても不満が湧かないのよ。でも一つだけ、頼んでいいかしら?」

「あぁ」

「私の代わりに、セレナの事を頼めないかしら?セレナを導いて、あの子が、本当にやりたいことを見つける手助けをしてほしいの」

 マリアは翼に手を伸ばし、翼もそれをとった。翼は内心、自分よりセレナを優先する所にマリアらしさを感じた。

「分かった。その願い、しかと聞き届けた。私の剣に誓おう」

「ありがとう。そろそろ時間でしょ?頼んだわよ」

 翼が時計を確認すると、面会時間の限界が近づいてきていた。翼はマリアに別れを告げて、病室を後にした。

 病室の外に出ると、奏と偶然出くわした。マリアのお見舞いにやってきたところのようだった。

「翼、マリアはどうだった?」

「一応元気だったわ。セレナの事をよろしく、だって」

「そっか。じゃ、今度の任務気をつけなきゃな。風鳴師匠」

 そう呼ばれて思わず翼は赤面した。この前の特訓の際、最後に小夜から一度だけそう呼ばれたのだ。思わず恥ずかしくなって、なるべく呼ばないようにと釘を刺したのだが。

「どうしてそれを!?」

「この前の訓練の映像、記録用に録画が残っててさ。マリアに見せたら喜んでたぞ?」

 そう言われてしまい、翼はそれ以上言い返すことができなくなった。本当はうっぷん晴らしも兼ねての小夜との特訓だったのだが、こうも好意的に取られると恥ずかしい。

「アタシがこっちのセレナと会った時さ、あの子は本当に道具みたいだった。敵が現れたら戦って、死んで、生き返って。また戦ってさ。本当に戦うだけの機械みたいだった。アタシがエレキングをうまく使えるようになってからは、翼も知ってる通り前線から外されて何とかマシになったけどさ。アタシじゃあの子の心を開くことができなかった」

 奏も小夜の変化について思う所があったようで、奏も翼たちに感謝をしているようだった。自分を顧みずに戦い続ける小夜と、かつての自分が重なって見えたのかもしれない。

「死ぬ気で戦う事と、死んでもいいって戦うことは違う。そんな簡単なことも教えられなかった。でも翼たちが来てくれたおかげで、あの子も自分と向き合おうって思ってくれた。だからさ、あたしとしてもお願いしたいんだ。アタシに仲間の大切さを思い出させてくれたみたいにさ」

 奏は翼の肩を叩いて病室へ入っていった。マリアと奏、2人から小夜の事を頼まれた翼は、2人の期待を裏切らないために決意を新たにした。

 

 

 

 作戦決行日、小夜たちは司令室に集められ、再度作戦の段取りを確認していた。そこにはツバサだけではなく、キャロルの姿もある。

「シュルシャガナ回収作戦の概要は以上だ。ガリィがミカのコアパーツを回収してくれたおかげで、オートスコアラー達も4機問題なく稼働している。現在先に先に現地に向かってキャンプ地の確保や監視を行ってくれている」

 モニターにはオートスコアラー達の位置情報が表示され、問題なく作戦は進んでいるようだった。「外に出撃用のヘリが出ている。担当装者はこれから出撃してほしい。残ったイチイバルと天羽奏は本部の防衛を行ってもらう。イチイバルのレイオニクスギアの再調整もこちらで行っておく。以上だ。こちらの戦力が手薄になってしまうのが不安だが、この作戦が成功すればレイオニクスが戦力に復帰し、こちらから打って出ることもできる。必ず成功させてほしい」

 キャロルの説明が終わり、小夜、翼、響、未来の4人の装者はヘリポートへと移動し、クリスや奏、ツバサに見送られてヘリに乗り込む。

「大丈夫なのか?以前、ヒビキに負けたと聞いたが」

 翼がヘリに乗り込もうとした時、もう1人のツバサに止められた。この世界のヒビキが絡んでいる以上、彼女との対決は避けられない。一度負けた翼がこの任務に向かって良いのかやはり不安なようだった。

「ヒビキの剣は教えた私自身が一番よく知っている。もし不安なら、私が代わりに行ってもいいのだが?」

 姿かたちが同じだからこそできる、替え玉作戦。確かに、ヒビキに剣を教えたツバサならば勝率はぐっと上がるだろう。しかも本部には作戦指揮を執った経験のあるキャロルもいる。確実な成功を狙うなら、ここで入れ替わった方が得策だ。

 だが翼はその提案に乗ることはなく、親指を立てて不敵な笑みを浮かべた。

「大丈夫だ。こちらの立花ヒビキが殺す剣で向かってくるのなら、私は誓いの剣で立ち向かうだけだ」

 マリアから託された思い、奏には到達できなかった夢、それらが今の彼女の背中に乗っている。ここで投げ出すわけにもいかないのだ。

「そうか、なら任せたぞ」

 もう1人のツバサもそれを汲み取ってくれたようで、それ以上は何も言わずに翼を送り出した。

 4人を乗せたヘリは乗り終えると同時に飛び立ち、作戦決行地へと向かう。ここから少し時間がかかるため、時間が経つにつれて緊張してしまう。

「あの、私以外の人たちは、会ったんですよね。こっちの私に」

 ヘリの中で、響が口を開いた。今ヘリに乗っているのは、ヒビキの義妹の小夜、ヒビキと戦った翼、作戦中に遭遇した未来だった。

「そうか。立花は会ったことがないのか……。そうだな、私も一度しか会ったことがないから詳しいことは言えない。ここはセレナが説明するのが妥当ではないのか?」

 視線が小夜に集まった。小夜はいきなり話を振られて、驚いたものの少し息を整えて説明を始めた。

「私のお姉ちゃんは、私を救いたいって頑張りすぎちゃったんです。止めようとしたお義父さんも、S.O.N.Gの人たちも、みんなを敵に回して……」

 小夜はそこから先を濁した。そこから先は言わなくても分かる。小夜を救うためには手段を選ばなくなったヒビキの剣を受けた翼なら、尚更だった。

「お姉ちゃんは今、この世界の聖遺物を集めて回っていて、それと私を救うことがどう関係してくるのか分かりません。でもそちらの響さんと比べて、手段を選んでいないのは確かです」

 小夜自身、ヒビキが何を考えているのかは分からない。以前に日本に帰ってきた時、電話で呼び出されて一緒に来ないかと誘われた。しかしヒビキが正しいとは思えずに断ったのだ。

「そっか……。でも、世界が違っても私は私なんでしょ?だったら、絶対に分かり合えるはずだよ!」

 響はある程度事情を聴いて、小夜を励ますように言った。小夜はヒビキを討って、義父や殺された職員の仇を討とうとは思ってはいなかった。小夜はもう一度姉を亡くすという最悪の事態だけは避けたいのだ。

 そんな最中、背後から突如巨大な影が現れ、その際の風圧でヘリが大きく揺れた。響たちが外を覗くと、何故かガンQが立っており、響たちめがけてゆっくりと前進してきていた。

「何の目玉!?さっきまであんなのいなかったのに!?」

「なんでガンQ?とにかく、応戦しないと!」

「とにかくサイバーゴモラを出します!ガンQなら、パワー勝負じゃないと!」

 小夜は即座に携行品の中から、ゴモラのスパークドールとデバイスを取り出し、サイバーゴモラを召喚した。ヘリの目的地までそう遠くはない。ここで何があっても撃墜されるわけにはいかない。

 サイバーゴモラは実体化するとガンQに向かっていき、体を抑え込む。ガンQはその巨大な目から、吸収光線を放ったが、紙一重でサイバーゴモラは死角に回り込んだ。背後から蹴りを浴びせて転倒させると、鉤爪を突き立てて投げ飛ばした。

 ガンQはフラフラになりながら立ち上がり、周辺の木々を浮かび上がらせ、同時に目から光線を放ってサイバーゴモラに攻撃を仕掛けてきた。しかしサイバーゴモラはビクともせずにガンQに肉薄した。

 しかし、それこそがガンQが仕掛けてきた罠だった。猛スピードで迫ってきたサイバーゴモラめがけて、吸収光線を放ったのだ。先ほどはいとも簡単によけられてしまったが、こうなってしまっては回避する余裕もなく、直撃を食らってしまった。サイバーゴモラの体はガンQに吸い寄せられ、体の半分が飲み込まれてしまった。

 だがサイバーゴモラは抵抗するそぶりも見せず、飲み込まれるのを受け入れているようにも見えた。サイバーゴモラの体が半分のみ込まれた時、突如としてサイバーゴモラの体が光り出してガンQが悶え始めた。

「そっか、サイバー超振動波でのカウンターだね!」

「はい!上手くいきました!」

 サイバーゴモラの必殺技、サイバー超振動波がガンQの体内を直接攻撃したのだ。不条理の塊といえるガンQに決定打を与えるには、脆い体内を狙うのが一つの策となりうる。

 弱ったガンQを逃がすはずもなく、もう一度爪を立ててサイバー超振動波を浴びせる。そしてそのまま爪で体を引き裂き、ガンQは爆発四散した。

 その場に残ったサイバーゴモラも流石にエネルギーの限界を迎え、すぐに光となって小夜の手元に戻ってきた。

「ふぅ……。一時はどうなるかと思ったけど、まさかサイバーゴモラがあるなんて知らなかったよ……」

 怪獣同士の戦いが見られて、少し興奮気味だった響だったが一つ危機を超えられて安心したようだ。

「サイバー振動波は咄嗟の思い付きだったんですけど、何とかうまくいって良かったです……」

 小夜は気が抜けてゴモラのスパークドールとデバイスを落としてしまいそうになったが、慌てて拾い直して携行品が入った鞄の中に戻した。

「さて、そろそろ到着するはずだ。皆、気を引き締めろ」

 ガンQの奇襲という予想外の展開があったが、響たちの野営地が無事に見えてきた。ヘリに乗っていた4人は、まもなく始まる作戦を前に、緊張せざるを得なかった。




S.O.N.G怪獣図鑑 
電脳怪獣 サイバーゴモラ
体長40メートル
体重2万トン
ステータス
力:★★★★☆
技:★★☆☆☆
知:★★★☆☆

 キャロルが保有していたゴモラのスパークドールを、サイバー怪獣として一時的に巨大化させた姿。レイオニクスギアのシステムが用いられており、基本的な仕様は同じである。
 これまでの課題だったスパークドールズから実体化させた怪獣の制御と、撤退を任意に行えるという部分が解消された。また、シンフォギアに依存しないため誰でも召喚できるようになったという利点も増えた。

装者達のコメント
響:そういえば夕べ、セレナちゃんが大怪獣バトルを必死に遊んでたのって……?
小夜:はい。サイバーゴモラの練習をしてました。ゲームだと、カウンターは一回も成功しなかったんですけどね……。
響:確かに。結構タイミングシビアだもんね。ゴモラとかは私もたまに使うけど、一回も成功したことないよ。

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