戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey 作:パイシー
ヒビキを撃退した翼たちは、一度キャロルと連絡を取り、状況の説明と支援物資の要請を行っていた。
『分かった。こちらからLiNKERを送る。こちらの居場所がバレてしまった以上、シュルシャガナを守りながら戦うのも厳しくなってくるはずだ』
「了解した。作戦の変更は、この世界の立花の撃退だけか?」
『ああ。ガリィ達にも作戦の変更を通達済み。アイツらだけで迎撃できるような雑魚は相手しなくていい。イガリマを含めた敵装者、侵略者が相手になるはずだ。シュルシャガナだけは必ず死守しろ』
キャロルはそれだけ言い残して通信を終えた。調が脱走した以上、切歌と戦わなければならない。その事実は回避できない事が全員に重くのしかかる。
「月読、大丈夫か?このままだと、暁とも戦うことになるが……」
重い空気の中、翼が口を開いた。切歌との戦闘が不可避となった今、一番辛いのは彼女だ。敵の狙いが彼女である以上、本部に返すわけにはいかないが、それでもケアは必要だった。
「大丈夫です……。今の切ちゃんが話を聞いてくれるとは思いませんけど、絶対に連れて帰ります」
調からは必死に不安を隠そうとしているのが伝わってきた。響たちも何か慰めの言葉をかけたかったが、中途半端な気休めは逆効果になるような気がして何も言えなかった。
「ちょっとじめじめしちゃったね!みんな、ご飯にしよう!」
重い空気の中、真っ先に口を開いたのは響だった。思い返してみれば、ヒビキの襲撃のせいで昼食をとるタイミングを逃してしまっていた。
「確か、カレーがあったはずだよね?未来、手伝って!」
「えっ?うん」
響は未来を連れて食事の準備を始めた。持ってきたのは簡素な戦闘糧食だったが、響は響なりに場を持ち直そうとしているようだった。
「セレナ?どうしたの?」
食事の準備をしている響を見て、小夜は何か思う所があったようで、食事の準備を続けている響を眺めていた。
「いえ。お姉ちゃんも、前にこうしてご飯を作ってくれたことがあったなって。ただ、お姉ちゃんはいつも塩とかの分量を間違えて微妙な味の料理しか作れなかったんですよね」
小夜は姉の作る変な味の料理を思い出して、笑顔がこぼれた。この世界のヒビキはヒビキなりに小夜を元気づけようとして料理をしてくれたが、本人は一切の経験がないので、できあがったのは妙にしょっぱいカレーであったり、味の薄いみそ汁等が出てきたことがほとんどだった。
「それで我慢できなくなって、私が料理を覚えちゃったんですよね。お陰でかなり腕も上がっちゃって、尚更お姉ちゃんは料理しなくなっちゃったんですよね……」
最初の頃は姉と同じく、調味料の分量を間違えていたが、今ではちゃんと人に出しても恥ずかしくないものが作れるようになった。この世界に響達が来た時に、クリスや切歌に振る舞ったが評判は上々だった。
「はいお待たせ!ちょうど4人分用意できたから、みんなで食べよう!」
思い出話をしていると、ちょうど支度を終えた響が戻ってきた。軍用の戦闘糧食を持ち込んだ紙皿に移しただけなのだが、それでも普通の料理とそん色ない仕上がりだ。
全員にいきわたり、食事を始めると緊張していた場の空気が緩んだような気がした。
「……おいしい。テレビとかゲームだと、こういう料理ってマズいっていうけど、かなり美味しいね」
「確かに。スーパーとかのレトルトカレーとそこまで味が変わらないですよ。これ紙皿に移しただけですよね?」
「でしょ!?任務とかで遠くに行くと大体これ食べてるんだけど、世界が違ってもやっぱりご飯はおいしいからね!」
「そういえば以前、マリアにアメリカのレーションを食べさせてもらったのだが、アレは酷かった。マリア達はアレを食べていたというのだから、同情する」
「えぇ。アメリカのレーションは本当においしくないですから……。たまに切ちゃんと期限近いやつ貰ってきて食べるぐらい日本のレーションは味が良いんです」
出されたカレーを口にして、各々が感想を漏らす。先ほどまでの緊張した空気は完全になくなっており、先ほどでは考えられなかった笑い声が出始めた。
食事が終わるころには、すっかり空気も和んでいて、先ほどまでの口を開きにくい雰囲気はなくなっていた。
「さてと。じゃあお腹も膨れたことだし。頑張るぞー!」
食事を終え、響たちは円陣を組んで、これからの任務に向けて気合を入れ直した。
撤退したヒビキは、近くの森の中で呆然としていた切歌を回収し、自身が拠点としている空中戦艦に帰ってきていた。
いつも腰かけているコントロールルームでは雇った錬金術師3人が待ち構えていた。その向こうでは、テンペラ―星人ビエントと、彼のボディガードのイカルス星人フリッドが控えている。
「貴様!どういうつもりだ!」
真っ先に口火を切ったのは、サンジェルマンだった。プレラーティとカリオストロも何か言いたげだが、サンジェルマンにすべてを託すつもりらしい。
「貴様は言ったはずだ。この世界を救うと。その為に宇宙の敵に立ち向かうと!それなのに、何故敵を招いている!?」
サンジェルマンはヒビキの胸倉を掴みかかり、必死の形相で睨み付ける。その拍子に小脇に抱えていた切歌が床の上に落ちてしまった。
「私は嘘を言ってないよ。最終的にはこの世界を救うつもりだよ?ただ使えるものを使っただけ。向こうだってそのつもりじゃない?邪魔になったら切り捨てる。ある意味理想の関係だと思うけど?」
「貴様……!」
サンジェルマンは足元に転げ落ちた、まるで人形のように虚ろな目の切歌を見てヒビキに殴り付けた。殴られたヒビキはその場にひざまずき、殴られた頬を押さえた。
「バッカじゃないの……」
ヒビキは特に反撃することもなく、サンジェルマンにただ一言浴びせた。そしてゆっくり立ち上がり、あざ笑うように笑った。
「別に私は侵略者を倒して平和を守るとかどうでもいいんだよね。ただ邪魔だから戦ってるだけ。取引した方がどっちも得するって思ったから、私は取引してるだけだよ」
「だからと言って、こんな方法が許されるわけないだろう!」
サンジェルマンは拳銃を引き抜き、ヒビキの眉間を狙ったがプレラーティ達が慌てて制止した。
「もう待ってよ。あーし達で争っても意味ないでしょ?」
「離せ!やはりこいつこそが世界を脅かす悪だ!この世界の住人に代わって、私が成敗する!」
2人の制止を振り切り、引き金を引こうとしたが寸前のところで拳銃を取り上げられ、ヒビキは撃たれずに済んだ。サンジェルマンは拳を握りしめて、行き場のなくなった怒りを近くの壁に叩き付けた。
「……悪いが私たちはお前にはついていけない。ここで手を切らせてもらう」
サンジェルマンはそれだけ言い残すと残り2人を連れてその場を去って行った。部下の離反という予想だにしない事態だったが、ヒビキは全く気に留めていないようだった。転げ落ちた切歌を抱き上げ、ビエントに近づいた。
「お仲間さんに裏切られて、残念でしたねえ。よろしければ私の部下でもお貸ししましょうか?」
「良いよ別に。それより、検体はこれでいい?」
ヒビキは机の上に切歌を置き、ビエントは丁寧に切歌の体を触って感触を確かめた。
「ええ。十分です。この完成度なら、十分に商品として通じます」
ビエントは懐から首輪を取り出し、切歌の首に取り付けると切歌の体が大きく跳ねた。更にビーストLiNKERの入った試験管を取り出し、首輪に接続した。
「後これも。コレの制御装置です。これで多少は言う事を聞くでしょう。これは検体を用意してくれた報酬です」
ヒビキは腕輪型のコントローラを投げ渡され、自分の右腕に取り付けた。試しに起動スイッチを押すと、切歌が虚ろな足取りで立ち上がった。
「シンフォギアとはこの星の生物は面白いものを作ってくれましたよ。適合者の愛情に応じて適合させるとはね。薬品で足りない適合係数を補いたいのであれば、適合者の心をそれだけにしてしまえばいい。もっとも、愛を向ける対象から嫌われてしまえばこのようになってしまうわけですが」
投与された人間の心を歪め、病的な愛を強制的に抱かせることでギアへ無理矢理適合させる。それが侵略者の開発したビーストLiNKERの正体だった。そして長期に渡り投与を続ければ、愛していた対象に拒絶された時に生きる意味を失い、このように人形のような兵器として完成する。
ビエントはこれを使い、人形のようになったシンフォギア装者を販売するのが目的らしい。世界をやり直す事を目論むヒビキには関係のない話なのだが。
「後護衛として、フリッドをつけましょう。有効に役立ててください」
ビエントは深々と礼をした後、歪めた空間の中へと消えていった。ヒビキは小夜や調を連れ戻すために、次の作戦で使う怪獣のスパークドールズを用意した。
「ファイヤーゴルザ、ガンQと……後はノスフェルを再起動させればいいよね……。そうだ。これを渡しとくよ」
ヒビキは余っていたスパークドールズを一つ取り出し、フリッドに投げ渡した。
「メルバのスパークドールを渡しとくから、まずはそれで陽動を仕掛けて。その後切歌ちゃん達に戦ってもらうよ。だから適当に戦って、逃げちゃっていいよ」
ヒビキの指示にフリッドは黙ってうなずいて出撃していった。彼の素性は知らないが、とりあえず錬金術師のような正義感を振りかざして戦うタイプではないとは分かった。ヒビキはこの作戦を成功させるためにも、第2波の準備を始めた。
翌日、昼頃にS.O.N.G本部から飛んできたヘリが段ボールを投下し、届いた物資の中身を確認していた。中にはLiNKERとアンチLiNKERが合わせて10本弱、それと追加の食糧と作戦指示書が同封されていた。
小夜はLiNKERを調に渡してアンチLiNKERを懐に忍ばせる。サイバーゴモラやアガートラームでガングニールは使わなくてもよくなったが、使わなければならない状況を想定しなければならない。
「……では読みますね。まず、敵の襲撃があった場合、月読さんを中心に円陣を組んで守りながら迎撃。怪獣戦に突入した場合はサイバーゴモラと、響さんか翼さんのどちらかで迎撃するようです」
昨日の昼食での一幕もあり、まるでキャンプのような雰囲気で過ごしていたが、具体的な作戦内容を伝えられて再び緊張が走る。特に調は顔がこわばっていて、未だに切歌と戦うという覚悟を決めきれないようにも見える。
「大丈夫!私たちはいつだって、自分が正しいって事を続けてきたんだから、今回だってうまくいくよ!」
響の言葉で場の空気が少しだけ緩み、切歌を助けるという意思を固めた。
そして何かが始まる合図かのように怪獣の方向が響き渡った。響たちが怪獣を振り返ると、空から怪獣が大きな翼を広げ、自身の存在を誇示するように周囲の森に降り立った。
「空を飛ぶ相手か。なら、私のデマーガの方が適任だろう。月読、行けるか?」
レイオニクスギアの性能を底上げするためにも、翼は調の様子を見た。昨日、簡易的な処置は行ったものの、LiNKERを使わずにギアを纏っていた以上、無理はできない。
「はい。長い時間は無理ですけど、やれるだけやってみます」
調は早速LiNKERを首に打って準備を整える。呼吸を整え、2人は同時に詠った。
(切ちゃんを、助けてみせる……!)
『Imyuteus amenohabakiri tron』
『Various shul shagana tron』
翼のペンダントから光が放たれ、デマーガが召喚され、調の体をギアが覆う。
「あれ?違う……?」
だが展開されたギアはいつものシュルシャガナではなく、全体的に蝶のような意匠があしらわれ、どこか妖精にも見えるギアだった。
「心象変化による新しいギアか。これは心強い」
「やれるだけ、やってみます!」
調は決意を固め、胸の歌を詠う。いつかの時のように、それが切歌を助ける為に必要な力と信じて。歌の力を受け、デマーガの姿も新しいものへと変化した。
全身から青い光を放ちながら、鋭利な刃物を生やし、同時に全体の姿も生物的なものから機械的な無機質の体へと変化していく。
姿が変わったデマーガは大きく咆哮を上げ、両腕の刃を振り回した。
「カミソリデマーガです!その剣でバッサバッサとやっちゃいましょう!」
「何?サキモリデマーガ?ふっ。この私に相応しい名前だ!」
カミソリデマーガはメルバに切りかかり、メルバも両腕の鎌でそれを受け止め、二体の怪獣はつば競り合いをするも、調の歌の力で強化されたデマーガの方がパワーを押し切り、メルバの体に人たちを浴びせた。
2体の実力差は圧倒的で、すぐに決着がつくものと響たちは思っていた。だが、それを妨害するように一人の陰が翼に襲い掛かった。
『Seilien coffin airget-lamh tron』
咄嗟に小夜が反応し、大剣でその攻撃を防いだ。攻撃を仕掛けてきた人物は、大きく下がり、その手に持っていた鎌を構えなおした。
「迎えニ来たデスよ。調」
翼に切りかかった人物は、首輪をつけられた切歌だった。だがその様子は目に見えておかしく、明らかに翼たちに殺意を向けてた。
「暁さん!一緒に帰りましょうよ!マリア姉さんだって心配してました!」
「心配?帰る?あンなキャロルのいル所に戻るナんて真っ平ごメんデス。ソんなことヨり、調の方ガ大事デス」
切歌は鎌を振りかぶり小夜に切りかかる。小夜は再び大剣を盾にして翼を守るが、その巨大な見た目とは裏腹に、切歌の鎌はこちらの守りをかいくぐるかのように素早い動きでこちらに向かってくる。
「何度も何度モ、あたし達に怪獣を向けタ癖によク言うデス。調ヲそんな所に置いテおイたら、ロクなことニなラないデス!」
切歌はこちらの話を聞くつもりはなく、翼の命を狙って何度も襲い掛かる。小夜は何とかいなし続けて翼を守るが、それもいつまで持つか分からない。
『Balwisyall Nescell gungnir tron』
翼を守るため、響がガングニールを纏って切歌を取り押さえた。切歌は必死に抵抗を続けるも、体格差もあって拘束から逃れることができない。
「やめてよ切歌ちゃん!無理矢理調ちゃんを連れて行っても、調ちゃんは喜ばないよ!キャロルちゃんとだって、話せば切歌ちゃんのお願いだって聞いてくれるはずだよ!」
「うるサい!散々こっチを追いかけマわシて、今更話し合おウなんてムシが良すギるデス!」
切歌は響の隙を付いて蹴り飛ばし、距離をとった。
「コうなっタら仕方ないデス。コの明日なき対決に終止符を打ってやルデス!」
「待って!話し合おうよ!だって、私たち同じ人間なんだよ?」
切歌は響の言葉を無視して、スパークドールと短剣上のアイテムを取り出した。スパークドールの足に突き刺した。
「調ハ返してもラうデス。それだケなノに、何を話シ合うってイうんデスか?」
『モンスライブ!ゼルガノイド!』
切歌の体とスパークドールが一つになり、一体の怪獣へと変貌する。それは、どこかヒーローのように見えて、歪な怪物のようにも見える、異形そのものだった。
超合成獣人、ゼルガノイド。それが切歌が変貌した怪獣だった。
ゼルガノイドは抱えていた恨みや憎しみを吐き出すかのように、獣のような唸り声をあげた。
S.O.N.G怪獣図鑑
次元凶獣 カミソリデマーガ(サキモリデマーガ)
体長:60メートル
体重:7万トン
ステータス
体:★★★★☆
技:★★★★☆
知:★★★☆☆
異次元に住まうと言われているデマーガの亜種。この世界においては、翼のデマーガが調の歌を受けたことで進化した。
デマーガと比較した場合、全身が鋭利な刃物に覆われているのが特徴。そこから放たれる一撃は相手を容赦なく切り刻む。
初めてこの姿に進化した時に、翼は名前を聞き違えてしまい、サキモリデマーガが正式な名前だと勘違いしてしまった。
装者達のコメント
翼:やはりカミソリというのは締まらない。私の怪獣なのだから、サキモリデマーガに改名した方が良いとは思いわないか、雪音?
クリス:いやどうだっていいだろ……。怪獣図鑑にはカミソリで載ってんだし。
翼:そうか。だが私は諦めない。サキモリデマーガが正式な名前になるその日までは!