戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey 作:パイシー
突如出現したファイブキングを前に、翼は撤退させていなかったデマーガを差し向け、迎撃に向かった。だがデマーガの腕はレイキュバスのハサミに掴まれ、必死の抵抗として吐いた熱戦はガンQの腕に呑まれ、メルバの翼で飛び上がってデマーガを地面に叩き付けた。
デマーガは完全に手も足も出ず、ファイブキングは続けて超コッヴの足で踏みつけ、ファイヤーゴルザの頭から吐き出した火炎弾で容赦なくデマーガを痛めつけた。
憤怒、慟哭、憎悪、絶望。そういったものが入り混じったようにファイブキングは叫んだ。その姿はまるで誰かの意志が強く反映されているようにも見えた。
「くっ、やはり月読の援護がなければ厳しいか……」
ファイブキングが焼き払った地点はまだ少し距離があり、自分たちがいる場所に火の手が迫るまでは時間がある。だがこの状況では撤退するにもヘリが近づけず、切歌の無事が確認できない以上、撤退できても彼女を見殺しにしてしまうことだってありうる。
『こちらS.O.N.G本部。ファイブキングの出現を確認した。何か知っていることはないか?』
翼が次の手を考えていた時、突如としてもう一人の自分から通信が入った。翼が顔を上げると、すぐ近くまでヘリが近づいていた。
「いや。何も分からない。突然アレは現れた。立花と月読に通信をかけてみたが、応答がない。オマケにこのままではデマーガが倒されるのも時間の問題だろう」
『了解した。こちらでも大方の解析結果は出ている。内部からイガリマ、シュルシャガナの反応がある。そして内部に怪獣とは別の熱源があることから、恐らくは調の変身した怪獣だろう。原因は色々と考えられるが、とにかくレイオニクスギアでは太刀打ちできん。小夜に対処をさせろ。小夜が時間を稼いでくれれば、暁の回収もできる』
「だが小夜は……」
先ほど小夜は負傷し、傷が癒えているかは分からない。加えて、融合症例として小夜がガングニールを使えば、彼女を苦しめることになる。もし小夜に余計な負担をかけるようなことになれば、マリアに合わせる顔もない。
「大丈夫です。私なら、いけます」
後ろから小夜の声が聞こえた。少しふらついてはいるが、傷は癒えて戦える程度には回復しているようだった。
『無理を言ってすまない。小夜』
「大丈夫ですよ。アンチLiNKERだってまだ残ってますし、へいき、へっちゃらです」
小夜は優しく笑ってアンチLiNKERを取り出し、自分の首にあてた。
「待て。セレナ」
だが翼は小夜を見送るようなことをせず、引き留めた。この状況では、彼女が切り札になるということは理解できている。だが、彼女を黙って見送るわけにはいかなかった。
「セレナ。一つだけ、約束してほしい。絶対に帰ってきてほしい。もしセレナに何かあれば、マリアに合わせる顔がない」
「はい!師匠の言いつけを守るのが弟子の務めですから!」
「セ、セレナ!私の事は師匠と呼ぶなと……」
小夜は話を最後まで聞かず、笑顔を作って走って行った。その笑顔は、非常に見覚えにある誰かに似ていた。
『Balwisyall Nescell gungnir tron』
小夜が走って行った先から、黒いキングジョーが出現し、撃破されかかっていたデマーガを守るようにファイブキングを止めた。だがキングジョーのパワーでも限界があるようで、ボディにひびが入り始めていた。キングジョーの全身にヒビが入ると、キングジョーの体は崩れるどころか、メッキが剥がれ落ちるように黒い外殻が剥がれ落ちて、中から金色の装甲が姿を現した。黄金に輝くその様は、
キングジョーはファイブキングを投げ飛ばし、その怪力でもってファイブキングを抑えつけた。同時に燃え盛っていた周囲の森が凍り付き、火の手がいったん止まった。
『ガリィに周囲の安全を確保させた。これからイガリマの装者を回収する。引き続きオートスコアラー達には周囲の安全確保を優先させるお前たちも救護ヘリに乗って撤退しろ』
凍った森の中にヘリが下りていき、未来たちもそこへ向かう。ヘリが着陸した地点に到着すると、救護スタッフが切歌をヘリに搬入している最中だった。
「お待ちしてました。切歌さんは辛うじて生きてます。今から搬送すれば、まだ助かるかもしれません。早くこちらに」
乗ってきた救護スタッフが未来たちにヘリに乗るように促した。だが響の無事が確認できていない以上、翼はヘリに乗り込むのは気が進まなかった。未来もどこか落ち着きがなく、上の空のように見える。
翼は通信機のスイッチを入れて、本部と無線を繋ぐ。
「すまない。立花と月読の安全が確認できていない以上、私たちは撤退することができない。先に暁だけでも本部に連れ帰ってくれないか?」
『了解した。そちらの意見はもっともだが、負傷した暁を安全に運ぶためにも、最低でも護衛の装者が同行してほしい。2人残ることは了承できない』
「……分かった。私が同行する」
「えっ?」
翼が護衛を申し出て、驚いたのは未来だった。装者として経験の浅い未来が護衛を兼ねて撤退し、
『そうか。道中でこちら側のヒビキが襲撃してくるかもしれないが、用心してくれ』
「ああ。小日向、立花たちを頼んだぞ」
翼は未来に残った仲間を託して、ヘリに乗り込んだ。未来はペンダントを握りしめ、響を探す。遠くの方では、ファイブキングの咆哮とそれを押さえるキングジョーの駆動音が聞こえてくる。
(……響たちはどこ?早く探さないと)
周囲の森を走り、響の影を探す。少しずつ氷が解け始め、ここが火の海になるのも時間の問題だった。
『Rei shen shou jing rei zizzl』
再度神獣鏡を纏い、全力で響を探す。だがその痕跡は見つからず、少しずつ木々に着いた火が燃え始めている。
「響!いるの!?どこ!?」
未来は響の名前を呼びながら、探すが響の姿が全く見えない。遠くでは、ファイブキングとキングジョーが戦っている姿が見える。キングジョーは先制攻撃こそ決められたが、ファイブキングの怪力の前には持ちこたえるのがやっとで、いつ押し負けるか分からない状況だった。
(響も心配だけど、セレナちゃんも心配だな……。一体どうしたら……)
このままでは響が見つかる保証はない。しかも小夜が負けてしまうのも時間の問題だった。未来は一度深呼吸をして考える。どうすればいいのか。もし響が隣にいたらなんていうのか。
考え抜いた末に、未来は耳元の通信機のスイッチを入れた。
「もしもし、小日向未来です。あの怪獣の弱点とか無いんですか?」
未来の出した答え、それは小夜を助けることだった。響だったらどっちとも助けると言う。そう信じての結論だった。
『こちらでも解析が進んでいるが、今のところ進捗はない。何とかして中の月読だけでも救助できれば状況は変わってくるだろうが……』
「中の調ちゃんは外から取り除けないんですか?」
『理論上は可能だろう。だが、どんな影響があるかが分からない。周囲一帯を巻き込んで爆発するか、或いはひどい後遺症に見舞われるか……』
通信機越しでも翼が焦っているのが分かる。状況は完全に八方塞がりで、このままいたずらに時間を浪費する一方だった。
『一つだけ、試したいことがあります』
通信機から聞こえてきたのは、小夜の声だった。顔を見上げると、キングジョーはファイブキングから少し距離を離していた。ファイブキングもキングジョーの様子を伺っているようにも見える。
『キングジョーの、シンクロゲイザーを起動させれば、中の月読さんと同調して能力を解除できるかもしれません』
『だが小夜も支配下に置かれるのではないか?危険すぎる賭けは了承できんな』
『でも月読さんを助けるには、もうこれしか残ってません!』
『待て小夜!』
ツバサの制止も空しく、キングジョーの右腕に巨大な槍が出現し、刃先が花弁のように展開する。展開された槍の中には、小さな刃が仕込まれており、キングジョーがファイブキングに肉薄して刃を突き立てた。キングジョーとファイブキングからまばゆい程の光があふれだし、ファイブキングが苦しみ悶えた後、2体の怪獣はそのままの姿勢で動かなくなった。
『しかたがない……。小日向、小夜のキングジョーには、他の装者と同調して性能を引き上げる機能が搭載されている。だが失敗すれば小夜も月読に呑まれて暴走してしまうが、成功すれば月読の暴走を止められるはずだ。どの道結果が出るまでは無防備だ。いざという時はゼットンを出撃させろ』
「は、はい!」
ツバサが現状について説明を付け加えたが、未来はイマイチ要領を得なかった。だが小夜を守れば調が助かるかもしれないということは分かったので、気を引き締めた。
未来は頭上から迫ってくる気配を感じ取り、扇を盾にして弾いた。その人物は、未来が探していた人物と同じ顔をしていた。
「あーあ。全員帰ったと思ったのに、一人残ってたか……」
ヒビキは刀を構えなおし、再び未来に切りかかろうとしていた。姿こそ響と同じだが、纏っている雰囲気や言動はまるで別人だった。
「ねえ、私たちって戦わなくちゃいけないの?私たちって分かり合えないの?」
「無理だよ。だって小夜のガングニールを取り除くには、聖遺物の力を使わなくちゃいけない、でもツバサさんはそれを許可してくれなかった。じゃあ私はどうすればいいの?戦えば苦しむ小夜を黙ってみてればいいの?」
「なら、私の神獣鏡でセレナちゃんのガングニールを取り除いてあげれば……!」
「そんなことをすれば小夜は死ぬ!」
ヒビキは痺れを切らして未来に切りかかってきた。未来は扇で剣を弾くが、ヒビキの剣はその隙間を縫うようにして襲い掛かってくる。未来は体を反らして剣を回避するも、剣先が頬を掠めた。
「どこまで聞いてるのか知らないけど、小夜はね、死んでるんだよ。今は胸のガングニールのおかげで生きていられる。そんな小夜からガングニールは取り除けない。でも小夜はガングニールに侵されて苦しんでる。じゃあさ、最初からやり直すしかないじゃん。小夜が死ななくて、マリアさんと幸せに暮らせる世界を作るしかないじゃん!」
ヒビキの言い分はもっともなものだった。妹の幸せを願う姉としては全うな発言だった。だが未来はヒビキの攻撃の手が一瞬緩んだのを見逃さず、ヒビキの剣を正確に打ち抜いた。撃ちぬかれた剣は真っ二つに折れて剣先が地面に突き刺さった。
「それは違うよ。あなたのそれは、自分の正義を押し付けてるだけ。あなたの考えた幸せを押し付けて、セレナちゃんは本当に笑顔になれるの?セレナちゃんの気持ちを無視して作った世界なんて、結局は偽物だよ」
ヒビキはそれでも抵抗を続け、小刀を取り出して未来に肉薄するも、ビットから放たれた光線でそれすらも弾かれた。ヒビキがうろたえた隙を逃さずに未来は閉じた扇でヒビキを殴り飛ばして地面を転がった。
「やっぱり、あなた弱い。私たちの立花響よりずっと」
「そんなわけない!私はそっちの私とは違う!邪魔するものは全て切り捨てた!あの私じゃ辿りつけない場所にまで届いたんだ!」
「だからだよ」
未来も、ヒビキがこうせざるを得なかった事情があるとは思っていた。世界中を敵に回してでも、妹を救いたいと願えるほど、彼女は純粋だった。だが未来はヒビキを否定し、胸のコンバータユニットを狙う。
「私たちの響は、いつだって悩んでばかりだった。あなたと違って、誰かと手を繋ぐことを諦めなかった。だから私たちは7人で今こうしてここに来た。あなたと違って、私たちの立花響は、みんなを照らしてくれる太陽だから!」
未来がヒビキの暴走を止めるために、胸のペンダントを狙い撃ちしようとした時、ヒビキがかすれそうな声で何かを詠っているのが聞こえた。思わず射撃を中止して大きく下がる。次の瞬間、ヒビキの体が浮かび上がり、背中から3対の翼が生えてきた。腕部には鉤爪を備えたガントレットが装着され、頭上には光の輪のようなものが出現した。
「私が弱いだって?いいよ。だったら全力で叩き潰してあげる」
ヒビキの口から血が垂れ流れ、それを拭った。この姿が絶唱によるものだという証にも思えた。ヒビキのアームドギアは杭のようになり、未来を逃がさないと言わんばかりに地面に突き刺さり、未来たちの周囲を回り始めた。
未来たちの世界の立花ヒビキとは程遠い、神々しい光を放つヒビキのその姿は自分が正義だと主張して憚らない、彼女の独善性を象徴するようだった。
だがヒビキの纏っているものがシンフォギアである以上、未来の神獣鏡で対処できる。
「止めてみせる。だって、あなたの作る平和なんて、絶対に間違ったものだから!」
未来がヒビキに狙いを定めて体を打ち抜こうとした時だった。静止していたキングジョーとファイブキングが消滅し、2人の間に調を抱えた小夜が降りてきた。その姿は、アガートラームとガングニールを合体させたような、白銀のギアに身を包んでいた。
「小夜……」
「やっぱり、来てたんだね。お姉ちゃん」
小夜はゆっくりと調を下ろし、ガントレットを合体させて一振りの剣を作り出す。
「月読さんと繋がった時ね、伝わってきたんだ。暁さんと一緒にいたいって思いと、過保護すぎる暁さんが嫌だっていう気持ちが。どうすればいいのか迷って、結局暁さんを喪っちゃったってすごく公開してた。ねえお姉ちゃん。お姉ちゃんがやってきたことって、本当に正しい事なのかな?」
「どうして?私は小夜が幸せになれる世界を作るんだよ?正しいことをしてるに決まってるじゃん」
ヒビキは自分が正義だと信じていた。フィーネの計画に巻き込まれて殺害された挙句、彼女の手ごまとして改造された。更に実の姉を殺さざるを得なかった小夜を憐れみ、ヒビキはその悲劇をなかった事に仕様と考えていた。
だが、小夜は考えを変えないヒビキを見て、一つの答えを出した。
「じゃあ、私はお姉ちゃんを……切るよ」
小夜はヒビキの言葉を聞き入れず、剣を握りしめた。その矛先をヒビキに向け、姉を切ろうとする意志に迷いはない。
「ねえお姉ちゃん。こんなこと止めよう?こんな事までして作った世界に価値なんてあるの?私ひとりの楽園ができれば、他はどうなってもいいの?」
「私は手段を選ばないって決めたの。小夜が幸せになれるのなら、どんな犠牲だって払う。世界だって敵に回して見せるってね」
「ならやっぱり、お姉ちゃんは私の敵だね。私は誰かを犠牲にして作った未来なんて嫌だよ。みんなが笑っていられる未来を作ってみせる」
小夜はヒビキめがけて飛びかかって切りかかる。ヒビキは空へ舞い上がって回避し、小夜のリーチから外れる。
「誰も犠牲にならない未来?そんな未来、できるわけないよ。小夜がその証だよ」
ヒビキは杭を操り、小夜体を貫こうとする。小夜は剣を使って弾き、杭を回避する。
「小夜が私を否定するって言うなら、無理やりにでも連れて行くよ。小夜にとって最善の世界を見せてあげる。争いのない世界をね!」
ヒビキは急降下してきて小夜に襲い掛かる。それは小夜に否定され、行き場のない感情を小夜にぶつけているようにも見えた。だれにも理解されず、ただ一人で戦う事を強要されたこの世界のヒビキは、小夜には自分の思いを理解してほしくて、襲い掛かっているようにも見える。
ヒビキの一撃は重く、小夜の剣でも弾かれてしまう。未来はヒビキの一撃から小夜を守るべく、ガントレットに狙いを定めた。未来から放たれた光線は被弾する直前にヒビキに悟られ、ガントレットをかすめる程度に終わった。だが、それでも小夜を守るという目的は達せられ、一瞬自由になった小夜がヒビキの翼を狙う。
「私はお姉ちゃんのものじゃない!私の未来は、私のこの手でつかみ取るものなんだ!」
小夜のギアが再度変化し、アガートラームのものに変化する。その影響でアームドギアも、大剣に戻った。
「イグナイトモジュール、抜剣!」
小夜はイグナイトを起動させ、再び大剣を振りおろす。力任せに振るった一撃だったが、大剣は途中で鎖のように分離し、避けたヒビキを容赦なく追い詰める。
ヒビキは空高く飛び上がり、再び小夜から距離を離す。そして杭を操り、未来や小夜を狙う。
未来は迷うことなく、杭を打ちぬいて破壊し、小夜の大剣が真っ二つに割れて音叉のように変形した。
「小日向さん!一緒に!」
未来は小夜の申し出にうなづき、神獣鏡のエネルギーを扇の先の一点に集めて小夜の大剣に重ねた。
チャージされた神獣鏡のエネルギーは、アガートラームの大剣を削りながら、調律されて一点に収縮されて未来が放ったものとは比べ物にならない速度でヒビキを狙う。想定外の攻撃に、ヒビキは回避しようとするも、既に遅くヒビキの片翼を貫き、無様にも地面に落ちた。
ヒビキのギアは解除され、小夜たちに負けた悔しさのあまり、地面を殴りつけた。
「なにこれ……。私、バカみたいじゃん。一人で頑張って、父親まで手にかけたのにさ、結局なんにもならないなんて」
「ねえお姉ちゃん。今からでも遅くないよ。みんなに謝ろう?」
小夜は、ヒビキに手を差し伸べ、今までの罪を償おうと勧めた。だがヒビキは小夜をにらみ返し、転移用の小瓶で撤退していった。
「お姉ちゃん待って!」
小夜の制止も聞かず、ヒビキは魔法陣の中へと消えていった。後に残ったのは、静寂だけだった。
『こちらS.O.N.G本部、今ヘリを派遣した。状況の報告を頼む』
ヒビキが撤退したのと同時に、ツバサからの通信が入った。未来は通信機に手を当てて、報告をしようとした小夜を止めた。
「この世界のヒビキに遭遇しましたが、セレナちゃんと力を合わせて撃退しました。怪獣はセレナちゃんが何とかしてくれたみたいで、調ちゃんも無事です」
『了解した。そちらの響は見つかっていないようだな?捜索班も向かわせている。小日向達は撤退して休んでくれ』
「……分かりました」
本当は未来も響の捜索に加わりたかったが、あてもなく探し続けても無駄に消耗するわけにはいかないと分かっていたため、不本意ながらもそれに同意した。
未来たちが本部に戻ってきて目にしたものは、集中治療室で治療中の切歌だった。キャロルが彼女の診断状況を説明してくれた。
「一応生きてはいる。スパークドールズを使ってこんな傷を負ったなんて聞いたことないが、如何せん装者の状態が状態だどうなってもおかしくはない。後はコイツの体力次第だ。明日には死ぬかもしれない」
状況は絶望的だった。響は行方不明、切歌は瀕死と切歌と調を連れ戻すという目的こそ達成できたものの、その結果は最悪としか言えないほど悲惨なものだった。
「行方不明の装者についても、現状進捗の報告はない。ガリィ達にも探させているが、殆ど痕跡も残っていない」
キャロルは淡々と事実だけを述べた。報告を聞いていた一同は、切歌たちの帰還を喜べずにいた。装者の数は減る一方で、戦局が苦しくなるのも時間の問題のように思われた。
「シュルシャガナは先ほど意識を取り戻したが、部屋に閉じこもったままだ。追加の装者も投入しなければな。今ツバサがアメリカ政府と交渉して、装者の派遣を要請できるようにしているところだ。この世界のシラベの報告にあった、並行世界のも呼ぶことになるだろう」
今この場にマリアがいないのが幸いだった。もしこの場にいたのなら、彼女はセレナを前線に出すことに反対し、またしても反発を招いていたのかもしれない。
「いいか。俺たちに負けるだの逃げるだのという選択肢はない。俺たちが負ければこの世界はそこで終わってしまう。俺たちはどんな手を使ってでも勝たなければならないんだ。例えそれが、戦死者を出す結果となったとしてもだ」
キャロルはそれだけを言い残して去っていった。ツバサが本部に戻ったことで指揮権は彼女に戻ったが、キャロルの考えは変わらない。去っていくその後ろ姿には、悪魔と罵られようが勝利を得ようとする姿勢が見て取れた。
「なんなんだよアイツ……。あたしらを捨て駒扱いかよ」
重い空気の中、口を開いたのはクリスだった。後輩2人は前線に出られず、響は行方不明。挙句それらをフォローするようなことも言わないキャロルという現状に嫌気がさしてきているようにも見えた。
「仕方ないさ雪音。敵は未知数の相手なのだ。こちらとて、容易く勝てるとは思えない」
「そうだけどよ……」
クリスは翼に言われて渋々黙った。クリスに限った話ではなく、装者のキャロルへの不信感、減り続ける戦力に対する不安、それらは装者の中で溜まっていくのは明らかだった。
それからというものの、響の発見報告はなく、正式に行方不明者として処理されることになった。このまま見つからなければ、戦死扱いになるという事実は、装者達の胸に重くのしかかった。
S.O.N.Gデータベース
ヒビキ絶唱態
ステータス
力:★★★☆☆
技:★★★★☆
知:★★★☆☆
NEO世界の立花ヒビキが絶唱により変異した姿。
その姿は彼女の独善性を示すかの如く、天使を模している。腕部は肥大化した手甲に覆われ、杭のように変異したアームドギアを操って戦う。
敵対するものであろうと、誰にでも手を差し伸べる響とは対照的に、敵対するものは全てなぎ倒し、自分の思いを貫き通す様は、本編世界の響とは完全に真逆の存在と言える。
単体の戦闘力は立花響とは比べ物にならないが、仲間と共に強くなっていく装者と比べると、ずっと弱い。