戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey 作:パイシー
シラベが並行世界から帰還すると、ツバサが出迎えてくれた。
「ただいま、ツーちゃん」
「ああ。並行世界の任務ご苦労。それはお土産か?」
ツバサはシラベが肩から下げているスポーツバッグを指した。
「うん。向こうで見つけた珍しいものなの。自分用にお土産に持ってきちゃった」
シラベはそれだけ言い残して、その場を去って行った。そっけない態度をとったシラベを見て、ツバサは少し不審に思った。
未来は日課のトレーニングを終えて、昼食をとっていたのだが、どこか上の空だった。
「大丈夫ですか?」
偶然一緒に訓練していた小夜が向かいの椅子に座った。小夜に声をかけられて、未来は我に返った。
「え?あぁ、大丈夫。ちょっとぼうっとしてただけだから」
「響さんの事ですか?」
「うん……。今頃どこにいるのかなって」
響が見つかったという報告は未だない。規模こそ縮小されたものの、捜索は未だに続けられている。だが捜索が打ち切られるのも時間の問題で、響は人知れず死んでいるのではないかとさえ思ってしまう。
「大丈夫ですよ!響さんだってきっと生きてますって!」
「だと良いんだけど……」
小夜は未来にも元気になってほしいと思う一方、中途半端な希望を持たせていいのだろうかとも悩んでいた。その結果、今も部屋に閉じこもって出てこない調の現状があると考えると、小夜は本当に未来を励ましていいのかとも考えてしまう。
(でも、響さんはまだ生きてる可能性だってあるんだから、私たちも頑張らないと……)
だが響が死んだと決まったわけではない以上、小夜は自分を奮い立たせる意味も含めて、未来を励ました。
昼食を終えて、マリアの病室へ向かう途中、誰かが走ってくる音が廊下の奥から聞こえてきた。
「待って!小夜!その娘捕まえて!」
「え?」
小夜が聞き覚えのある声を聞き取った時、廊下の奥から現れた人影が小夜の鳩尾と激突した。腹に重い一撃を食らった小夜は、思わず腹を抱えてその場にうずくまった。
「だ、大丈夫ですか?!」
「ちょっとお昼のうどんが喉元まで……」
「セレナちゃん、大丈夫?」
「え?私は別に平気ですけど、そっちの人は大丈夫なんですか?」
「え?」
妙な事を言葉を聞いた未来がぶつかってきた人影を見ると、それは未来たちが見覚えがある方のセレナだった。
「小日向さん!?なんでこんなところにいるんですか!?」
「セレナちゃんこそ!」
「私は無理やり連れてこられて……。とにかく!マリア姉さんが近くにいるなら、匿ってください!」
小夜にぶつかって来たのは、未来たちの面識のあるセレナだった。相当急いでいるようで、汗をかいていた。
「と、とにかく!追われてるんです!早く匿ってください!」
セレナは鬼気迫る表情で、未来に迫る。未来も小夜を休ませる目的もあって、すぐにマリアの病室に駆け込んだ。
「あぁ、未来。いらっしゃ……」
病室に入ってきた3人を見るなり、マリアは硬直してしまった。当然である。入ってきたのは、見知ったセレナと、お腹と口を押さえた小夜、そして困惑する未来だったのだから。
「セレナが、2人……?えっと……」
「あっ、分かりにくいなら、私は小夜で大丈夫……。うぷっ……」
「姉さん!」
小夜は口を開いた拍子にうどんを吐き出してしまいそうになったが、ゆっくり深呼吸をして何とか押しとどめた。
セレナはすぐにマリアに抱き着き、マリアは戸惑いながらもセレナを優しく抱きしめた。
「私、すごい怖かったの……。無理やり連れてこられて……」
「なんですって?」
すっかり怯えきったセレナを聞いて、マリアの表情が一変した。キャロルの強硬な姿勢から考えれば、戦力になる装者を無理やり連れてこさせる事も十分に考えられた。
「誰がそんなことをしたの?まさか、キャロルが……」
「キャロル?違う、私を連れてきたのは、多分この世界にいる、月読さんなの」
「調が?どうして?」
この世界の調の名前が出てきたことで、小夜は何か思い当たる節があったようで、目を逸らした。マリアはどうしてこの場で調の名前が出てきたのか分からず、セレナの話をゆっくりと聞いた。
「えっと、マリア姉さんたちの世界に来たら、ちょうどシラベさんが来るのとタイミングが被っちゃって……。色んな服に着せ替えさせられて、写真もいっぱい撮られて、寝てる時に縛られて、無理やり連れてこられたの」
セレナの話を聞いて、マリアはますます状況が飲み込めないようだった。
「えっと、ごめん、マリア姉さん。それ、この世界のシラベだよ……」
話を聞いて、小夜は完全に革新したようで、口を開いた。セレナは小夜の態度が妙に感じたらしく、首を傾げている。
「自己紹介がまだだったね。私は立花小夜。この世界のあなただよ。呼びにくいようなら、小夜でいいよ。よろしくね」
セレナは平行世界の自分という予想だにしない出来事に、戸惑っているのははっきりとわかった。小夜はどうしても事情を説明しなければならないと思い、説明を続けた。
「それでね、この世界のシラベが多分セレナちゃんを連れてきたのは間違いないと思う。普段はおとなしいんだけど、一回スイッチ入ったりすると、止められなくて……。私も色んなところ触られたりしたし、色んなコスプレさせられて……」
小夜はスマートフォンを取り出して、少し操作すると、マリアたちに手渡した。そこには様々な服を着せられた小夜の写真が表示されていた。セレナたちもそれで状況が飲み込めたようで、セレナは同情の目を小夜に向けた。
「ごめんね。シラベも悪い子じゃないんだけど、多分舞い上がっちゃったんだと思う。だから、悪く思わないであげてね……」
小夜の言葉にセレナは黙って頷き、とりあえずシラベに変態の汚名が付くことだけは回避できた。
とりあえず、シラベの誤解を防いだ時、病室の扉を開けて、翼が入ってきた。
「失礼する」
翼はスーツに身を固め、肩にはS.O.N.Gのバッジを付けている。マリアたちの世界のツバサとは少し違う服装から、それがこの世界のツバサだとわかった。
「あら?あなたが来るなんて珍しいわね」
「ああ。装者が密かに連れこまれたようなのだ。……ここか?」
ツバサはアンチLiNKERを持ち、なにもない所に手刀で叩いた。空振りするはずだった手刀は、空を切るはずが、何かにあたり、誰かの声が漏れた。ツバサはすかさずアンチLiNKERを叩いた場所に突き刺すと、虚空から人の影が浮かび上がり、シラベの影が浮かび上がった。
「やはりこの部屋にいたか。勝手に装者を連れてきたりして、一体何を考えている?」
「ごめんつーちゃん。バレないと思ったんだけど……」
シラベは苦笑いを浮かべて、ツバサの脇を通って、走り去ろうとした。しかしそれは完全にツバサに読まれており、あっという間に首根っこを掴まれて、止まった。
「話は後で聞く。反省文も提出してもらうからな」
ツバサは小夜たちに謝罪をして、シラベを引きずって病室をあとにした。
「……あれがこの世界の風鳴さん?」
「ええ。この世界だと、S.O.N.Gの司令官になっててビックリしたけど」
病室に潜んでいたシラベがいなくなり、マリアたちの病室には奇妙な静寂だけが残された。
「それでマリアさん。調子はどうなんですか?」
「ええ。もうすっかりね。まだ検査も多いし、リハビリも残ってるから、前みたいには行かないけどね……」
マリアはいつものように照れ隠しのように笑ってみせた。
「一応、このまま何もなければ、ギアも纏えるかもしれないって言われたの。時間はだいぶ短くなるって言われてるけどね」
「マリア姉さん。何かあったんですか?」
口を開いたのはセレナだった。今までシラベに追われている恐怖もあって気にもとめていなかったが、やっとマリアがベッドに寝ていると自覚できたようだった。
「ええ。ちょっとこの世界のセレナを助けるために、ちょっと無茶をしちゃったのよ。でも大丈夫よ。すぐに元気になるから」
混乱していたセレナだったが、マリアが負傷したと聞いて、一つ確信したようだった。
「ねえ、マリア姉さん。私が姉さんの代わりに戦うってできないかな?」
「大丈夫だよ。私がマリア姉さんのアガートラームも借りて戦ってるんだから、別にセレナちゃんが戦う必要なんてないよ」
「そうよ。危ないわ」
まだセレナは小夜や未来と比べるとまだ幼い。調や切歌の前線復帰が望めない現状で、セレナを戦場へ送り出すのは非常に高いリスクを伴う。だが、セレナが引き下がるつもりはなく、少し考え込んだ後、小夜を指した。
「じゃあ、小夜さんと戦って、小夜さんがいいよって言ったら私もこの世界残ってもいい?」
それは、衝撃的な申し出だった。セレナは自分だけが元の世界に帰るということが嫌だったようで、意地でも仲間に加わろうとしていた。
「……いいわ。小夜、相手してもらっていいかしら?」
マリアもセレナの気持ちを汲み取り、小夜に模擬戦の相手を依頼した。
「うん。私は構わないけど……大丈夫?」
小夜も断る理由がなかったので、セレナの申し出を受けることにした。セレナはベッドから降りて、病室の出口へと向かう。
「じゃあ、演習室に案内するよ。あそこなら派手に暴れても被害は出ないから」
セレナを連れて病室を後にする。小夜は平行世界の人物とはいえ、過去の自分と戦うことになるとは思っても見なかった。
私はどうすれば正解だったんだろう。おかしくなっていく切ちゃんを助けるために、私は響さんたちを頼った。いつもみたいに響さんたちと力を合わせれば、きりちゃんだって助けられるって思ってた。
でも結果は違った。結局は響さんたちを危険に晒し、切ちゃんをボロボロにしただけに終わった。オマケに私は力に呑まれて危うく響鬼さんたちの敵になりかけた。黒い感情に呑まれていた私に『誰か』が手を伸ばしてくれたから、今こうしていられるけど、次はどうなるか分からない。
ガラスの向こうで機械に繋がれた切ちゃんを見る度、このバトルナイザーは壊してしまったほうがいいのかもしれないと何度も考えた。でも、シュルシャガナで刻んでも、外に捨てて戻ってきても、気がつくと手元には戻ってきてしまう。まるで呪いのアイテムみたいだった。
切ちゃんの意識はまだ戻っていない。それどころか助かる見込みすらない。今はこっちのツバサさんのお蔭で治療に時間を回してもらっているけど、もしクリス先輩や翼さんが負傷したら、LiNKERを消費しないと戦えない切ちゃんは真っ先に見捨てられるかもしれない。
どうして私だけにレイオニクスなんて力が宿っちゃんたんだろう。どうして私が生き残っちゃたんだろう。そんな自問自答をずっと繰り返していた。もしこのまま切ちゃんと会えなくなるなら、私も―――
「あっ!こんな所にいましタ!」
……横から聞き覚えのある声が聞こえてきた。すぐに振り返ると、そこには切ちゃんが立っていた。
「探しましタよ。はい!お土産のケミカルバーガーですヨ!元気がでます!」
そう言って切ちゃんはハンバーガーをくれた。日本語の発音がおかしい、話し方が違う、歩き方も違う、利き手も逆。そもそも切ちゃんはカゴいっぱいのハンバーガーを買わない。間違いない。この世界の切ちゃんだ。
「えっと、あなたは……?」
もしかしたらこの世界にも私がいて、そっちと勘違いしているのかもしれない。そもそも別の誰かと間違えているのか……。
「また忘れたんです?なら、何度でもいってやります!キリカ・アルバ・テイラー!CIA所属の[[rb:装者 > シンフォギアラー]]です!」
やっぱりだ。名前まで違うとは思わなかったけど、この世界の切ちゃんだ。いや、キリカさんって呼んだほうがいいかもしれない。
「そう、ありがとう」
私は素っ気なく挨拶をして、ハンバーガーの包を開けて、一口食べる。見た目こそ派手な色で、食べるのをためらうけど、実際食べてみるとそうでもない。むしろ、色んな調味料の絶妙なバランスがいい味を出している。
「……おいしい」
「やっぱりケミカルバーガーはおいしいですよネ!?化学調味料は各国で認可されているものだから体にも安全で、オマケに安く作れて日持ちもして、任務のお供にもちょうどいい。最高の一品デス!」
今更だけど、ケミカルバーガーになにか薬が入っているようには思えない。聞き慣れない単語が聞こえたときは驚いたけど、このキリカさんはいい人だ。
「あ、そうそう。あっちで│
間違いない。キリカさんはこの世界の私と勘違いしている。できればその誤解を解いてあげたいが、それをするとなると余計にややこしくなりそうだから、なにか問題がない限りは黙っていたほうが懸命なのかもしれない。
「さ、こっちこっち!」
キリカさんに手を引かれて、演習室へ向かうエレベーターに乗る。そして観客席のあるフロアで降りると、セレナが2人に増えて、向かい合っていた。片方は、この世界で出会った立花小夜として育ったセレナ、もう片方は私達のよく知っている方のセレナ。
「あ!ちょうど始まるみたいデス!」
ガラス張りの観戦席に移動すると、黒いツインテールの女の子が座っていた。どこかで見覚えがある気がして、とりあえず挨拶だけでもしておこうと思って、声をかけることにした。
「えっと、こんにち……」
「げっ」
座っていたのは、私だった。まるで鏡を見てるみたいにそっくりで、すぐにこの世界の私だと察しがついた。
「えっと、こっちの私……?」
「うんそう。とりあえず座ったら?」
こっちの私はかなりそっけない態度だった。もしかしたら昔の私もこうだったかもしれないと思うと、態度とか考えなきゃいけないかもしれない
「あれ?双子?でもそんなのドキュメントには……」
後ろでキリカさんが英語でブツブツ呟いている。必死に今の状況を理解しようとしているみたいだけど、すぐに納得してくれたみたい。
「あ!こっちは[[rb:並行世界 > パラレルワールド]]の方ですネ!どうりで素直だと思ったら……。あっ!ケミカルバーガーは……」
「いらない。どうしてそんなゲテモノを食べなきゃいけないの?」
キリカさんが差し出したケミカルバーガーを、こっちの私がはたき落とした。キリカさんは慌てて拾い上げてカゴの中に戻した。
「せっかくの食べ物を粗末にするなんて、もったいないですヨ!」
「そう思うなら、そんな物作る方が食べ物を粗末にしてるでしょ。もっとしっかりしたものを食べなさいよ」
「パラレルワールドの方はちゃんと食べてくれましたよ!?」
「えっ……。まさかあなた、あれを食べたの……?口に無理やりねじ込まれたとかじゃなくて……?正気?」
向こうの私はゴミを見るみたいな目で私を見た。確かに見た目だけで言えば最悪の食べ物だけど、実際に食べてみると美味しい。多分食わず嫌いだと思うけど。
そうこうしている間にガラスの向こうから、金属音が聞こえた。
「ちょっとどいて!もう、始まっちゃったじゃない」
こっちの私が私達を突き飛ばして、ガラスに食い入る様に見る。キリカさんは不機嫌そうに鼻を鳴らして席に付き、私も空いている席に座り、セレナたちの戦いを見守ることにした。
セレナと小夜の戦いは、終始小夜が主導権を握っていた。白銀のガングニールを身に纏い、アームドギアを構えずにセレナの攻撃をいなし続ける。
(全力で来てください、って言うから思わずこれ出しちゃったけど、いいのかなぁ)
調を助け出す時に偶然発現した、アガートラームとガングニールの中間とも言えるのがこのギア。だが小夜自身このギアがどういうものなのかはっきりとは分かっていない。前回の戦いでは、確実にヒビキを止めるためにアガートラームに切り替えたので、尚更このギアの実力を試す機会というのがなかった。
「どうしたんですか?私とは、戦う資格がないっていうんですか!」
セレナの攻撃は、長剣と短剣を組み合わせ、自分のリーチに誘導しつつ着実に相手を仕留めるような動きをしている。だが逆を言えば、こちらの急所を突くことに躍起になっていて、攻め手が単調になってしまっている。お蔭で小夜も攻撃を防ぐのが楽で、このままセレナが息切れするのを待った方が懸命にも思える。実際セレナも息が上がり始めており、攻撃の手も若干緩くなっている。
(本気で殴って怪我させちゃったらまずいし……。ここはギリギリ手加減してるってばれないレベルで……)
セレナの攻撃が緩んだ一瞬、小夜は拳を握りしめ、セレナの装甲が一番厚いであろう胸元に叩き込む。拳に込める力は若干緩め、手加減もしたつもりだった。
だが小夜の予想とは裏腹に、ガントレットは火を吹き、セレナの体は思いっきり吹き飛ばされて床を転がった。
「えっ!?」
小夜は思わず声を上げてしまい、セレナに駆け寄る。セレナは自分が知っている昔の自分より小さい。思いっきり攻撃すれば、マリアのようにベッドで寝込むことになってしまう。だがセレナは剣を杖代わりにして立ち上がり、小夜を睨みつけるようにして立ち上がった。
「今、手加減しましたよね?あなたにとって、私はそんな存在なんですか?どうでもいい存在なんですか?」
今の一言で手加減したことがバレ、セレナの逆鱗に触れてしまったようだ。彼女は全力の小夜を倒すことを望んでいるようで、力任せに剣を振りかざしてきた。
「私を子供扱いして、のけ者扱いして!」
向かってくる刃を白刃取りし、セレナの体を投げ飛ばす。
(どうしよう……。何か怒ってるし……。でもどこまでなら平気かもわかんないし……)
まさかこの状況で不死者である自分が枷になってくるとは思わなかった。これまで手合わせしてきた相手も、自分と同じぐらいか年上ばかりで、セレナのような子供を相手することなんてなかったのだ。本当に全力で相手をすれば、確実に死んでしまうだろう。
小夜は本当に困っていた。とりあえず腕のガントレットを合体させて、アームドギアを構える。剣を握ってみて、ゆっくりと翼が言っていたことを思い出す。
『まあ、この技を使うことはないだろう。隙きが大きい上に、装者との演舞戦ぐらいでしか使わない技だろう』
模擬戦で使うかもしれないと、息抜きに教えてもらった小技がある。セレナがそれを知っている可能性がないわけでもないが、試して見る価値はあるだろう。
小夜はゆっくり腰を落とし、フォニックゲインを剣先に一点集中させる。セレナも小夜が大技を繰り出すと分かっているようで、一瞬だけ笑みを浮かべた後、柄を握り直して守りの姿勢に入る。小夜の背中のブースターが火を吹き、小夜は一気にセレナに肉薄する。
セレナは小夜に驚き、防御が一瞬揺らいだ。彼女の油断など無視して、小夜はセレナの剣を真っ二つに叩き割り、反動でセレナの体が大きく崩れた。小夜は逆に反動を利用して飛び上がり、小夜の頭上を通過して後ろに回り込むと、セレナの後頭部に全力の手刀を叩き込んだ。本当はこの後、回し蹴りを使う技で、かつ本来はイグナイトモジュールの使用を前提に考えられた技だが、このギアの思わぬ特性が発見できた。
後頭部に手刀を受けたセレナは、衝撃に耐えきれずに気絶し、その場に倒れ込んだ。何かが割れた感触がしなかったので、死んではいないはずだが、小夜はセレナが心配だった。
セレナが言い出した模擬戦は、小夜の圧倒的勝利という結果に終わってしまった。
「ごめんなさい!」
あの後、医療室で検査を受けたところ、セレナは軽い脳震盪だったとわかり、意識もすぐに取り戻した。検査を行って、経過が良ければこのまま元の世界へ帰還という手はずになるらしい。
そして小夜は帰ってきて、マリアに頭を下げた。セレナを納得させるためとはいえ、彼女に怪我をさせてしまったことは、セレナにとっても不本意なことだったのだから。
「いいのよ。結局何事もなかったんだし。それより……」
マリアが病室の出口の方を指すと、頭に包帯を巻いたセレナが無言でこちらを睨みつけていた。小夜が気付いたのを見ると、不機嫌そうに去っていった。
「ごめんなさいね。きっとセレナもヤキモチを焼いてるんじゃないかと思うの。だから、ちょっとだけでも仲良くしてもらえないかしら?」
「えっ、うん……」
小夜は平行世界の自分と、仲良くやっていけるか不安しかなかったが、マリアに余計な心配をかけさせないためにも、努力しようと心に決めた。
一方のシラベは、反省用の独房に入れられ、反省文を書かされるという業務に追われていた。ギアも取り上げられ、書き終えるまでは外の奏とクリスが交代で見張りをしている。外からの救出は絶望的である。
「ねえつーちゃん。見てるんでしょ?反省文なら一回書いたんだから、見逃してくれてもいいんじゃない?」
『駄目だ。あんなものが認められるわけないだろう。大人しく書いてもらうぞ』
ツバサの性格からして、シラベがサボっていないか監視しているのは容易に想像できる。だが『勝手に並行世界の小夜を連れてきて、すみませんでした』とだけ書いた反省文らしきものを提出してしまった以上、見逃してくれる可能性は絶望的なまでに下がってしまった。
「せっかく小夜が戦うところを見られるっていうのに、無粋なことして……」
『聞こえてるぞ』
小夜とセレナの戦いを観戦中、またしてもツバサに見つかって無理やり連れてこられたので、不満を漏らしたところ、ツバサに釘を差されてシラベはため息を付いた。
数日後、未来たち5人は作戦会議という名目で招集され、司令室に集まっていた。現状戦場に立てる装者は調を含めれば6人。一切の制限がなく怪獣戦がこなせる響が欠けている上に、怪獣の知識に強い切歌もいない。こうして全員が集まったことで、その事実がより一層一同の胸に刺さった。
「すいません。遅れました」
少し遅れて調が入ってきた。少し支度に手間取っていたようで、少し服装や髪型が乱れている。
「月読、もう大丈夫なのか?」
「正直なところ、まだ、ですけど……。でも皆さんが戦っているのに、一人だけジッとしている訳にも行きませんし。私にできる限りで戦おうと思います」
切歌に致命傷を追わせてしまった。そのショックから未だ完全に立ち直ったとは言えないが、それでも調なりに前を向いて行こうと決心し、誰もそれ以上言わなかった。
「遅れてすまない。新しい装者の用意に時間がかかってしまった」
少しして、ツバサが3人の装者を連れて出てきた。だがそのメンバーは見覚えのある顔ぶればかりだった。
「装者の欠員を埋めるため、この世界の装者や並行世界の装者を連れてきた。レイオニクスの護衛や並行世界の装者業務の代理が主な任務になる」
「キリカ・アルバ・テイラー!CIAから派遣されてきたシュルシャガナの[[rb:装者 > シンフォギアラー]]デース!まずは友好の証に、ケミカルバーガーをどうゾ!」
キリカは背負っていたカバンからハンバーガーを取り出して、全員に配る。全員は戸惑っているようだったが、ハンバーガーを受け取り、キリカは笑顔を見せた。
「風鳴シラベ。ギアは│
対するシラベは面倒臭そうに素っ気ないあいさつをした。
「一応、私も簡単にさせていただきますね。セレナ・カデンツァヴナ・イヴ、アガートラームの装者です。マリア姉さんの『妹』で、怪我で戦えない姉さんの分まで頑張ります」
3人目はセレナだった。自分はマリアの妹であることを強調し、小夜とは目を合わせずにお辞儀をした。小夜に対する対抗心は未だに消えていないようだった。
「マリアの同意を取り付けるのに苦労したが、何はともあれ、これで欠けた人員は補充できるだろう。基本的に各世界にオートスコアラーを配置し、対処が難しい案件は彼女たちが動員される。行方不明者の捜索、救助にもあたってもらうだろう」
ツバサの口から、現状の彼女たちの仕事が告げられた。今までの装者では手が回らなかった部分を担当してもらうことが決まり、最年少のセレナを戦わせることに抵抗のあった装者も納得したようだった。
新しい装者も加わり、装者は9人にまで戻った。だが、見知らぬ並行世界の装者を前に、メンバー同士の不和があるのは間違いないようだった。
中でもクリスは、姿かたちこそ同じなのに、雰囲気の異なるキリカやシラベに対してなにか思うところがあるようだった。
S.O.N.Gデータベース
白銀のガングニール
小夜が調を助けるために、全力を振り絞った結果発現したギア。ガングニールのアンダーウェアに、アガートラームの装甲をまとったような姿をしている。
アームドギアは刃がガングニールのものと酷似した剣だが、変形させることで槍やトンファーなど応用ができる。ただし、小夜本人が使いこなせるかは別の話である。
実際の性能はガングニールとアガートラームを足して2で割ったような性能を持ち、両者の火力と手数を受け継いでいる。だがガングニールのアームドギアを展開したり、イグナイトモジュールを起動させるといったことはできない。
性能の高さより高い拡張性に富んでいるため、小夜が辿り着いた終着点、というよりかはこれから彼女自身の人生を歩むための始発点といった方が正しい性質のギアである。