戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey 作:パイシー
任務の出撃時間が迫る中、調はいつものように切歌の眠る集中治療室の前にいた。切歌は順調に回復しているとは言え、明日死ぬかもしれない命が、一週間持つかどうかの命になっただけだ。日を追うごとに食事も喉を通らず、眠れない夜が続いている。
「おい、時間だぞ」
集合場所にやってこない調を見かねてか、クリスがやってきた。調はすぐにクリスの所に駆け寄 ろうとした時、一瞬ふらついてクリスが慌てて支えた。
「おい!大丈夫か?」
「えぇ。まだ貰った栄養食がありますから」
調はポケットからゼリータイプの携行糧食を取り出して、口にねじ込む。一瞬咳き込んで吐き出してしまいそうになったが、半ば無理やり飲み込み、少し息切れしながらも完食した。
「これで、作戦中は持ちます。万一の時はLiNKERを多めに打てばなんとかなります……」
必死に平常を取り繕う調に対して、クリスはそれ以上追求することができなかった。これ以上追求してしまえば、調が壊れてしまうような気がしたのだ。
響がいない。数字にすればたった一人装者がいないだけなのに、この場にはそれ以上の『なにか』が欠けているように感じられた。
クリス達6人が装甲車に乗り込み、リディアン跡地に到着すると、スカルゴモラ迎撃作戦の準備を進める。市街地へ逃げないようにするための誘導ルート、捕縛するための装置、敵侵略者が現れた際のフォーメーションの確認など、確実に捕らえるための準備を続けていく。
調は一人装甲車の中に残り、本部との連絡を行っていた。準備は順調で、スカルゴモラの進行速度も変わらずにまっすぐこちらに向かっている。
スカルゴモラが刻一刻と迫る中、クリスはペンダントを握りしめてスカルゴモラを待つ。今度こそ、絶対に響を助けると心に誓い、震える手を必至に押さえた。、
「大丈夫だよ。クリス、私がやるから」
震える手を取り、未来がスカルゴモラ迎撃の一番手に名乗り出た。未来は響と戦うことを避けたがると思っていただけに、意外な一言だった。
「そっちこそ大丈夫なのか?あのバカと戦うんだぜ?」
「ちょっとだけ不安はあるけどね。でも響があんな姿にされるのはもっと嫌なの。私の手で元に戻せるなら、戻してあげたいから」
未来はクリスに向かて優しく微笑み、クリスの震えは収まった。
「それじゃ、後はよろしくね」
未来が覚悟を決めた時、スカルゴモラが視界に現れた。未来たちなど眼中にないと言わんばかりに真っ直ぐこちらに向かってきている。
(待ってて、すぐ助けてあげるから)
『Rei shen shou jing rei zizzl』
ペンダントを握りしめ、未来の聖詠でゼットンが姿を表した。スカルゴモラはゼットンの姿を見て、戸惑ったかのようにその場で立ち止まった。だがゼットンはスカルゴモラに向かっていき、ためらうことなくスカルゴモラを殴り飛ばした。
「これはこれはお揃いで」
周囲の空間が歪んで数のゴブニュを引き連れたテンペラー星人ビエントが姿を表した。セレナ達はペンダントを握りしめ、ビエントたちの前に躍り出た。クリスもスカルゴモラの相手を未来に任せて、ペンダントを構える。
「悪いけど、てめぇにあのバカは渡せねぇ。商談だかなんて知るかよ」
「では残念です。お客様でないというのなら、ここで片付けてしまいましょう」
「行くぞ!」
クリスの合図でキリカはLiNKERを打ち、それぞれのギアを身にまとう。
「へえ、それがあなたのギアなんだ」
手錠を外され、自由になった腕を動かしながらシラベはキリカのギアを眺めた。外見の特徴は調のシュルシャガナとほぼ同じだが、武装は両腕に取り付けられた盾のみと非常にシンプルなギアである。両足にはブースターのようなものが備え付けられ、機動力に特化したギアのようである。
「ええ。ごちゃごちゃした装備は、戦闘の妨げですからネ!」
キリカは足のブースターで跳び、向かってくるゴブニュの群れに飛び込んでいく。
「アタシが先行するデス!取りこぼした敵をお願いしマース!」
一番槍を申し出たキリカは、敵の中に入ると両腕の盾で周囲の敵を殴り飛ばし、続いて盾の縁から刃を展開してを投げ飛ばし、繋がれたワイヤーで巧みに操る。投げ飛ばされた盾は敵の関節を切り裂き、次々と機能停止に追い込んでいく。
「しっかたねえな!」
クリスはガトリングを構え、セレナも敵陣に向かっていく。キリカから見て、死角になっている範囲を攻撃し、セレナは真っ直ぐキリカの所へ向かうべく敵を薙ぎ払う。だがそれでも敵の数は多く、中々数が減らない。
「私が援護します」
最後列で様子を窺っていたシラベが口を開いた。ギアのバイザーが閉じ、祈るようなポーズを取ると、敵陣の中に突っ込んでいったセレナの姿が消え、直後にゴブニュの頭部が切り落とされ続いてセレナが違う地点に出現した。
「マジかよ……」
「セレナちゃんに傷がついたら大変なので、周囲の背景と同化させてます。集中力が必要なので、黙って私を守ってください」
一方のキリカは、クリスが破壊した残骸を踏み台にして跳び上がり、別の地点に降下しては盾を投げ飛ばして敵を薙ぎ払う。クリスからすれば、狙いがつけづらく、フォローに回りにくい。シラベがセレナを守ってくれているので、セレナを気にかけなくて良いのは幸いだった。
クリスは後列からの支援が難しいと判断し、キリカの元へ向かった方が早いと判断した。だが、セレナを実質護衛しているシラベを放って敵陣の真ん中へと向かう訳にはいかない。クリスは装甲車の壁を叩き、中の調を呼び出した。
スカルゴモラとゼットンの戦いも終始ゼットンが優勢であるようで、すぐに救援は必要なさそうである。ならば、調にこちらの世界の彼女を護衛させるのが妥当な判断である。
「おいすまねえけど、こっちのお前の護衛頼めるか?アタシはあっちに行く」
「はい。大丈夫です」
調は装甲車から降りてLiNKERを構える。相変わらず無理をしているように見えるが、今は彼女に任せるしかない。クリスはグリップを握り、敵の中へと突っ込んでいった。
ゼットンとスカルゴモラの勝負は常にゼットンが主導権を握っていた。スカルゴモラはパワーだけで言えばゼットン以上のものを備えていたが、スカルゴモラに戦意がなく、あくまでこちらに対する反撃程度しかない。もしスカルゴモラが本気でゼットンに襲いかかってきたなら、厳しいが、現状なら未来1人で撃破できるはずである。
ゼットンの一兆度の火球がスカルゴモラの頭部を直撃し、大きく体勢が崩れた。すかさずスカルゴモラを殴り飛ばした。だがスカルゴモラは必至の抵抗をするべく、角にエネルギーを集中させた。紅い稲妻を帯びた2本の角をゼットンに突き立てまいとする。即座にゼットンシャッターを展開したために直撃こそ免れたが、ゼットンシャッターに亀裂が入り、すぐに崩れ去ってしまった。
スカルゴモラの攻撃はそれでは止むことを知らずにゼットンに殴りかかる。一撃一撃がゼットンの身体に一撃一撃が重く響く。だがゼットンは負けじと頭部を押さえ込み、口を大きく開けさせる。スカルゴモラの抵抗のせいで、長くは押さえることが出来ない。ゼットンは短時間でチャージできる最大の火球をスカルゴモラの口内に放った。火球はスカルゴモラの脳天を貫き、スカルゴモラはゼットンに身を任せるように倒れた後、光りに包まれながら消滅した。それと同時に3つの小さな影が宙を舞い、地面へと落下していった。
「響!」
スパークドールズ化した響を回収するため、ゼットンを撤退させて落下した地点へと向かう。ゴブニュを率いていたビエントもそれに気付いたようで、ゴブニュの一部を未来に差し向けた。
「残念ですが、彼女は私の商品です。渡しませんよ」
未来は
ビエントはゴブニュと必死に戦う装者達を尻目に、ゆっくりと響が落ちた地点へと向かう
「渡さない?それはこっちのセリフだ!」
だが包囲網の綻びを抜けたクリスがゴブニュを飛び越え、ビエントを無視して真っ直ぐ響の元へ向かう。
響が落ちた方角に向かい、たどり着いたのはちょうどイベントなどで使われるホールの中だった。老朽化が進んでいるのか、天井は崩れ落ち、天井から指す陽の光がスポットライトのように響のスパークドールを照らしている。
クリスは響を拾い上げると二度と離さないように強く握りしめた。
直後、後ろから火球がクリスめがけて発射され、被弾する直前にクリスはリフレクターを展開して起動を反らした。
「困りますねえ、私の商品を取られては」
軌道をそらされた火球はホールの壁に激突し、鉄骨が崩れるような音がした。絶妙なバランスで残っていた建物が、今の衝撃で崩れそうな音が聞こえてくる。
「ゴブニュだってタダではありませんからね。ここであなたを排除させていただきます」
ビエントは背中の羽を広げ、威嚇するように両腕のハサミを広げた。響を回収できた時点で作戦は成功。後はビエントに見つからないようにこの場を立ち去ればよかったのだが、クリスの機動力では逃げ切ることは難しい。ならば、答えは1つしかない。クリスは胸元に響を隠し、銃口をビエントに向けた。
クリスの弾丸が放たれると同時に、ビエントは飛び上がってそれをかわす。ビエントの放つ火球はリフレクターで弾き返すも、空を舞うビエントには当たらない。
「あなたにはその商品の価値がまるで分かっていない!私の方がもっと有効に活用できるのに!」
「分かってねえのはそっちだ!こいつは金で語れるような奴じゃねえ。金でしかこいつを見れねえお前が触れていいもんじゃねんだ!」
急降下してきたビエントを弾き飛ばし、着地したビエントがクリスに肉薄し、的確に響のスパークドールを奪い取ろうとする。クリスは負けじとビエントのハサミを蹴り上げ、響を守った。
「戦いというのは本当に面倒です。間合い、攻め手、守り手、立ち回り、考えなければならないことが多いのに、儲けにならない。本当に面倒ですよ」
ビエントはゆっくりと、クリスの様子をうかがいながら呟いた。ホールが崩れるまで時間はあまりない。決めるなら、次の大技で倒すしかない。
「商売の邪魔になるから、どうしても必要なのですよ。私の代わりに戦って死んでくれる誰かが!」
先に仕掛けてきたのはビエントだった。クリスの頭上を跳び、不規則な動きでクリスの背後に立った。クリスはしゃがみ、ビエントの懐からスパークドールズに変身するためのアイテムを奪い取った。
「しまった!」
ビエントは奪われたソレも奪い返そうとしたが、クリスは先に響のドールに使った。
響の記憶や経験といった彼女が今まで体験してきたことのすべてが脳内に流れ込み、一瞬どちらが自分なのか分からなくなる。だが、クリスは己を見失わないようにと覚悟を決め、それらを響きの記憶として受け入れた。
結果、響に変身すると思っていたクリスの姿は変わらず、代わりにガングニールのガントレット、ブースターが装着され、首元には響のマフラーが巻かれた。
「スパークドールズでそのような変化がもたらされるとは、彼女だけでなくあなたも回収したほうが良いかもしれませんね。これは人間採集が捗りそうです」
ビエントはクリスも捕獲しようと襲いかかるが、クリスのブースターが火を吹き、勢いに乗せた拳がビエントを地面に叩き落とした。着地したクリスは起き上がるビエントに蹴りを入れて、客席までふっとばした。
「ぐっ、何故だ!彼女の記憶には、あなたと彼女とでは戦闘スタイルが違いすぎるはず!何故使いこなせる!」
「決まってんだろ。いっつも一緒にいたからだよ」
クリスと響が一緒にいた期間は、それこそ一年と少ししかない。だが、いつも隣で共に訓練をし、死地を抜けてきた仲である。クリスは響の動きの癖や長所を思い描きながら力を振るう。それだけでクリスの身体は自然とついてくる。
「最高の商品だ……。地球人のスパークドールズは希少価値で売れると踏んでいましたが、こうなるのであれば、もっと高く売れる!地球人同士の融合実験はまだしていませんでしたからねぇ!」
クリスの攻撃で急所を突かれたはずのビエントはそれでも尚、響を確保しようと立ち上がる。だが今はクリスもその対象に含まれているのは明らかだ。ビエントは今までの速度からは考えられないような速さでクリスに肉薄した。全速で迫ったが故にクリスを捕まえられると確信したその刹那、クリスのブースターが火を吹き紙一重でビエントをかわした。クリスは大弓を展開し、1本の矢をつがえて狙いを定める。この距離であれば、確実に急所を仕留められる。響の力が上乗せされた今なら、元を絞るのにそこまで時間はいらない。ただ、この矢にすべての神経を注げばいい。
「閻魔様によろしくな。クソ野郎」
上下逆さまの状態ではなったクリスの矢はビエントの脳天を貫き、ビエントの身体はホールの壁に縫い付けられる格好となった。ビエントはまだ息が残っており、最後の抵抗を繰り出そうとしている。だがそれを阻むようにしてホールの天井が崩れ出し、ビエントの身体は崩れてきたガレキの下敷きとなった。
ビエントにとどめを刺したことが引き金となり、ホールの天井や壁が次々と崩れだしている。崩落に巻き込まれる前にクリスは、全速力でホールを後にした。
外に出るとゴブニュ達が糸の切れた人形のように停止しており、装者達が一斉にクリスの所に駆け寄ってきた。
「クリス、そのギア……」
「あぁ。あのバカとあたしのギアを合わせたものだ」
クリスがギアを解除すると、同時に響のスパークドールが弾き出され、クリスの手に収まった。
「小日向さん!ゴモラのスパークドールも見つかりました!これで全部です!」
スパークドールズの捜索にあたっていたであろうセレナが、ゴモラのスパークドールを持って未来のところへとやってきた。後からレッドキングのドールを見つけたキリカが合流し、スカルゴモラに使われていたスパークドールズが揃った。
「これでミッション終了、だな」
クリスの言葉に未来も頷き、響を助け出すことができた達成感に安堵した。
響救出作戦の後、回収したスパークドールズの復元作業をキャロルを筆頭に編成された研究班が行っていた。響が復帰すれば、装者達に流れていた陰鬱とした空気も一掃されるはずだった。
響が回復することを願い、クリス達は落ち着かない様子で司令室にいることが多くなった。簡単な書類整理や、哨戒任務、キリカが持ってきた元の世界のレポートに目を通すだけの時間が流れた。
そうした日々が続いたある日、キャロルが司令室にやってきた。キャロルの顔を見るなりクリスがキャロルに駆け寄った。
「一応、処置は終わった。立花響の復元は完了した。怪獣のスパークドールズとは勝手も違うし、何しろ怪獣と融合していたからな。復元には手間取った」
響が元に戻ったことで装者達の緊張が一気に解けた。未来は脱力しクリスに支えられる。
「だが戻せたのは体だけだ。ヤツの記憶、意識はバラバラの状態で怪獣のスパークドールズと同化してしまった。それに小夜に試させたが、シンフォギアも起動しない。問題は山積みだがな」
「では、立花はもう元には戻らないのか?」
悲観的な結果を話し始めたキャロルを前に、キャロルは首を振った。まだ希望的観測が残っているようだ。
「現状では成功率が低いが、こちらの世界のヒビキが持ち去った聖遺物回収すれば成功率は上がるだろうな。小夜の時は使えない手だったが」
キャロルが示した希望、それはこの世界のヒビキが持ち去った聖遺物だった。
「アイツの隠れ家を捜索させた所、奴は侵略者と取引して手に入れた宇宙船か何かに乗っている可能性が高い。恐らく日本上空にいるはずだ」
キャロルの発言に、全員の気が引き締まる。ヒビキが持ち去った聖遺物を取り返し、響を復活させる。そして標的がヒビキに定まったことで、必然的に彼女との決着は不可避となった。
S.O.N.Gデータベース
小夜の治療申請
ヒビキが妹を治療するために何度も申し出て、全て却下された申請。当時は装者の立場が高くない上に、S.O.N.Gがまだ結成して間もない頃だったために聖遺物を用いた小夜の治療は許可されなかった。
それ以外にも、聖遺物そのものと言える小夜の存在が国連に知れ渡ってしまうため、彼女を守るために却下せざるを得なかったという背景がある。
もしこの申請が通っていた場合、小夜は聖遺物として収容されただけではなく、人間との違いや再生能力の限界を研究するための実験材料として使われていたのかもしれない。
絶対に死なず、また強靭な再生能力を持つ彼女は、研究材料だけではなく、無限に臓器が提供できる臓器バンクとしても非常に有用であるのだから。