戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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第30話「戦場の刃、いつか世界を呑みこむまで」

 マリアはアガートラームを首に下げ、キャロルの研究室にいた。予想より彼女の経過がよく、ギアが纏えるかという起動実験を行う事になったのだ。

「それはウェルが持っていたアガートラームを調整したものだ。念の為、こちらでギアが解除できるようにしてある。LiNKERも濃度を下げた。ギアの安定した起動が確認出来た時点で実験は終了だ」

 キャロルの説明を受け、セレナ達が見守る中、マリアはLiNKERを打ち、一度深呼吸をして聖詠を口にした。

『Seilien coffin airget-lamh tron』

 直後、シンフォギアは起動しマリアの身体をシンフォギアが包む。ギアの展開が完了し、マリアの適合係数といった様々なデータが表示されていく。マリアがアームドギアを展開して軽く体を動かそうとした時だった。全身を激痛が襲い、その場に跪いた。直後咳込みだし、押さえた手が血が滲んだ。

「実験中止だ!早くしろ!」

 キャロルの操作でアガートラームが解除され、マリアの足元にペンダントが転がった。マリアを襲う激痛は収まり、肩で息をしながらゆっくりと立ち上がった。

「姉さん!大丈夫!?」

 小夜が駆け寄り、マリアを肩で支えながら立ち上がらせる。そして念のために用意していた車椅子に乗せて、バックファイアを抑える薬を飲ませた。

「装着自体はできるが、とても使えんな。今後も治療を続ければギアは装着できるかもしれないが、完治までは程遠いな」

 キャロルは今の状況を想定していたようだが、それでもマリアの復帰が絶望的という状況は彼女にも堪えるものだったようだった。

 未だにギアのバックファイアが尾を引いているマリアを見て、セレナは優しくマリアの手を握った。

「大丈夫だよ。私達がマリア姉さんの分まで戦うから、姉さんは治療に専念して」

「……ありがとう。2人共、無茶はしないようにね」

 マリアは弱々しくも笑って見せ、2人は決意を固めた。

 

 

 調は一人、切歌の病室から離れて市街地にいた。切歌を守るためにも、クリス達と力を合わせて戦うと決めたものの、切歌のことが頭から離れず、いつものように活躍できずにいた。

 ふとコンビニに寄って、どこにでも売っているようなアイスを買って出る。何の変哲もない、ただのアイスである。

(これ、切ちゃんが好きなやつだったな)

 封を開けて舐めると、食べ慣れた甘い味が口の中に広がった。食べ慣れた味のはずが、頬を涙が伝い、ほのかに塩気のようなものが交じる。物陰に隠れて、涙を必死に拭うも次々と涙が溢れてくる。せめて任務や訓練の時は切歌のことを忘れて目の前の的に集中しようとするも、そう思えば思うほど切歌の笑顔が脳裏をよぎる。明日には切歌が死んでしまうのではないかと不安で頭の中が一杯になる。

 徐々に声に嗚咽が混ざり始め、やがてアイスも食べ終えてしまうとその場で泣き崩れてしまった。本部では心配をかけまいと無理をしていたものが、ここに来て無理が祟って抑えきれなくなってしまったのだ。

「こんにちは」

 この姿を見られまいと必死に隠れていたつもりが、背後から聞き慣れた声が聞こえた。調が振り返ると、ヒビキが笑顔で立っていた。その出で立ちは響と同じなので、一瞬間違えそうになったが、響は今動けないことを考えれば、この世界のヒビキであるとすぐに分かった。

「ちょっと、お話しない?」

 ヒビキは敵対の意思はなく、調と話がしたいだけだったようだ。だが、調はそのつもりはなく、ヒビキが許せず、必死に涙をこらえながら向き合った。そして、ポケットに隠し持っていたものに手を伸ばす。

「やる気?シンフォギアと怪獣戦、どっちにするの?」

 調が取り出したのは、一丁の拳銃だった。調の小さい手には不釣り合いな程大きく、実際調も引き金に指を届かせるのがやっとである。

「へぇ。そっか。私を殺すんだ。でも、それ、正式に支給されたやつじゃないでしょ?」

「うるさい!あなたが……あなたが切ちゃんにあんな物を渡したから!」

 調は涙で滲んだ目で狙いを定めるも、手が震えて引き金を引くことができない。必死に引き金を引こうとするも、元々ギリギリで届いていただけに引き金を引けるだけの力が入らない。

「そんなの向けられたら落ち着いて話なんて出来ないよ」

 調が引き金を引けないことを分かっているのか、ヒビキは調に近づいて銃を蹴り飛ばした。蹴り上げられた銃は調の手を離れ、少し離れた場所に転がった。すぐにでも取りに行こうとしたが、ヒビキに背中を向けることは出来ない。

「確かに私が渡した改造LiNKERで切歌ちゃんがああなっちゃったのは事実だよ。だからさ、せめてものお詫びってわけじゃないけど、私が持ってる聖遺物を使えば、切歌ちゃんを治せるって言ったらどうする?」

 ヒビキが聖遺物を持ち去り、亡くなった聖遺物が必要であるという状況は知らされていた。それをヒビキ自身が提供してくれるなら、これ以上の話はない。

「もちろんタダでってわけじゃないよ?調ちゃんが私に協力してくれることが前提」

 ヒビキは空いた調の手を握り、何かを握らせた。調が確認すると、USBメモリだった。

「私の宇宙船の待機ポイントが入ってるよ。パソコンに挿せばすぐに分かるようにしてあるよ」

「私に何を……」

「簡単なことだよ」

 ヒビキは硬直した調の耳元でささやく。まるで調の弱みに付け込む悪魔のようだった。

「私にいくつかスパークドールズを持って来てほしいんだ。ある怪獣を作るのに必要なんだよね」

 いつ意識が戻るかわからない切歌を目覚めさせることができる。それだけで調にとっては非常に魅力的な報酬である。だが、そのために他の仲間を裏切るべきか?という疑問が脳裏をよぎる。

「別にそれは自由に使って貰って構わないよ。正直に私についてきてもいいし、それをキャロルちゃんに渡してもいいよ」

 ヒビキはその一言を最後にその場を去っていった。調の中では、切歌を治したいという思いと、仲間たちを裏切りたくないという思いが渦巻いていた。

 

 

 S.O.N.G本部に帰ると、備品の拳銃を持ち出した事でツバサに問いただされた。

「あぁ。ごめんごめん、アタシが渡したんだ」

 返答に困っていた時、奏が現れて調をかばってくれた。

「だってこの子はレイオニクスなんだろ?護身用道具の一つくらい持たせたって良いじゃないか」

「奏……。ならちゃんと申請を通してほしい。こちらでちゃんとサイズが合ったものを用意する」

「そうかい。余計な心配をかけてすまなかったね」

 奏が泥をかぶるという形になった事で、調については厳重注意止まりでそれ以上の処分が下されることはなかった。開放された調は部屋に戻り、備え付けのパソコンにヒビキから貰ったUSBメモリを差し込んだ。

 中には地図の画像が入っていて、そこが指し示した地点は、ここから程遠くない、かつて自分が捕まった時の工場付近の場所だ。ヒビキはここでずっと調を待っているのだろう。そして、持っていくべきスパークドールズの名前と画像のデータも添付されていて、一通り目を通す。

 スパークドールズが保管されている場所については知っている。キャロルの研究室の隣に保管庫が設けられているのは何度も見ている。演習用という名目でスパークドールズの持ち出しについては咎められることは少ない。

 だが本当に仲間を裏切って良いのか?という不安が脳裏をよぎる。切歌を助けるためとはいえ、仲間を見捨てて的に手を貸して良いのかいまだに迷ってしまう。

 気持ちを整理するためにも、切歌の病室に寄る。ガラス越しに眠ったままの切歌を眺めてどうすれば良いのか、もう一度自分に問う。仲間を裏切るのか、それとも仲間と相談してこの窮地を脱するのか。

「お前か。ちょうどよかった」

 調が考え込んでいた時、病室からキャロルが出てきた。手には切歌の現在のデータが表示されているであろうタブレットが握られている。

「コイツの現状を伝える。順調に回復しているが、それでも予断を許さないのに変わりはない。救出したガングニールの装者を優先的に維持することが決まった。見殺しにはしないが、本格的な治療は一時中断する」

 キャロルが告げた一言は調にとって衝撃的なものだった。切歌の目覚めが遠のく。LiNKERを必要としない響を復帰させれば、即戦力になるのは理解できる。キャロルの言葉通りなら、LiNKERが必要である切歌の優先順位が下がるのは理解できる。だが、調は未だに飲み込みきれない部分がある。

「ガングニールの装者が復帰次第、こちらの治療も再開する。それだけ伝えておく」

 キャロルはそれだけを言い残して去っていった。調はキャロルの宣告を受けて、保管庫へと向かう。

 キャロルは言った。響が復帰すれば切歌を治療させられると。そしてそのためにこの世界のヒビキから彼女の持っている聖遺物を回収しなければならないと。

 そしてヒビキは言った。調が彼女に協力すれば、切歌を目覚めさせることができると。彼女の居場所を知っているのは自分だけ。もし仲間に相談した場合、彼女から協力を取り付けることは難しくなるかもしれない。

 ならば、自分がヒビキに協力する見返りとして切歌を治してもらう。そして、聖遺物を取り返せば響も治す事ができる。仲間からは裏切ったように見えるかもしれないが、仲間を裏切らずに切歌も響も助けることができる。

(そう、大丈夫。これなら誰も傷つかないし、切ちゃんを助けられる)

 調は保管庫へと向かい、キャロルが研究室にいないことを確認すると、保管庫の扉を開けた。中では様々なスパークドールズが眠っており、記憶の中の画像と照らし合わせながら目標を探す。

 リストに載っていたのは、シーゴラス、ベムスター、バラバ、ハンザギラン、レッドキング、キングクラブの7体。一部はヒビキの手元にあるようで、集めなくても良いと書かれていたのもハッキリと覚えている。

 そして必要なスパークドールズを回収し、持ち出し用のアタッシュケースに詰める。保護用のカバーもかけているので思っていたより重くなってしまったが、このまま見つからずに外に出れば問題はない。

「何をしてるんですか?」

 不意に背後から声をかけられて、調はアタッシュケースを隠すように振り返る。振り返った先には、小夜がこちらを見ていた。その表情は非常に冷酷なもので、今まで見てきた小夜の印象とは似ても似つかぬものだった。

「別に。訓練用に怪獣を借りようとしてただけ。セレナには関係ない」

「そうですか。もし仮にそれを外に流そうとした場合、利敵行為とみなしてこの場で処分することも許可されています。念の為、その中身、預からせてもらってもいいですか?」

 小夜は調の後ろのアタッシュケースに手を伸ばす。調はそれを取られまいと立ち上がり、小夜を突き飛ばして走り出す。小夜に見つかった以上、捕まる前に彼女を撃退しなければならない。

 調が振り返ると、アガートラームをまとった小夜の姿が見える。調は少しでも走って逃げようとしたのだが、小夜が放った短剣が調の影に刺さり、調は何かに引っ張られるように倒れた。

「これ、翼さんの……」

 小夜が翼の影縫いを使えたことには驚いたが、翼ほどの精度がない。足止めは不完全だったようだ。

「やっぱり、見よう見まねだとこのレベルですね」

 だが追いかけてきた小夜から逃げるには不十分で、調はあっという間に追いつかれてしまった。小夜は調からアタッシュケースを奪い取り、短剣を何本か調の影に刺して調の動きは完全に止まった。

 小夜はアタッシュケースの中身を見て、調がスパークドールズを持ち出そうとしていたことが分かってしまったようで、一瞬悲しそうな目をした。

「これ、お姉ちゃんに渡そうとしたんですよね?大方、切歌さんを治すことが交換条件でしょうか」

「……だったら、返してよ。切ちゃんに早く良くなってもらうにはそれが必要なの!」

 不完全だった影縫いの拘束が緩み、調は辛うじて自由が利くようになった腕をアタッシュケースに伸ばした。だが小夜はその隙を見逃さず、調の喉元に剣先を向けて静止させた。

「私はS.O.N.G職員として、収容物の横流しは看過できません。もしこれを使って、私達を裏切るなら、あなたも切らなければなりません」

 小夜は必至に感情を押し殺しているのが見て取れ、調に対しては『仕事』としてこの場にいるようだった。

「セレナ、それを返して。切ちゃんを治すために必要なの。ヒビキさんだけが頼りなの。ヒビキさんが持ってる聖遺物だけが―――」

 そこまで言いかけたところで小夜は剣先をより調の喉元に近づけた。今迂闊に動けば、そのまま斬られてしまう。

「小夜。ご苦労だったな」

 調がどうして良いかわからなくなった時、職員を連れたツバサがやってきた。

「小夜に見張りを頼んだのは私だ。キャロルからお前の様子がおかしいと聞いてな」

 背後に控えていた職員たち離れた手付きで調に手錠をかけた。

「とにかく懲罰房行きだな。話は後で聞く」

 調は必至に抵抗してスパークドールズを奪い返そうとしたが、2人係で押さえられては抵抗も虚しく連れて行かれてしまった。

 

 

 調が連行された後、小夜は調の部屋を訪れていた。ツバサの依頼で、証拠品を集めるためでもある。

 そして中に入ると、パソコンの電源が入ったままになったのに気付いて画面を再度確認する。表示されているのは地図の画像データと、怪獣たちの画像と名前が書かれたデータが表示されていた。

「これって……」

 調がスパークドールズを渡そうとしていた相手は、ほぼヒビキで間違いない。調はどうにかして彼女と会い、これを受け取ったのかもしれない。小夜は耳に取り付けてあった通式のスイッチを入れて、無線を繋いだ。

「ツバサさん。今月読さんの部屋に来てるんですけど、やっぱりお姉ちゃんの差金で間違いないみたいです。お姉ちゃんが今いる地点も確認しました」

『了解した。後でそのデータを確認する。他には何かないか?』

「いえ。何も……シーツが少し乱れてるぐらいです」

『そうか。ご苦労だった。今日は休んでくれ』

 小夜は通信を終えると調の部屋を後にする。小夜は狡猾な手を持ち出してきた姉のことが気がかりだった。切歌が瀕死の重傷が負っているとなれば、彼女のことを思っている調がヒビキの誘いに乗らないわけがない。

 既に時間は深夜を回っていて、本部の中は静まり返っている。ガングニールによって生きている小夜は、厳密には人間ではなく、自律型の聖遺物に区分される。よって、食事や睡眠といった習慣もあくまで人間だった頃の名残として続けているに過ぎない。定期的にフォニックゲインを吸収さえすれば、休みなく活動が可能なのだ。

 そんな小夜に任された任務は、夜警任務だった。夜間の敵の襲撃や、先程の調のように夜間を狙って行動を起こす人間を監視するのが主な任務である。とはいえ、実際はほとんどやることもなく、結局は演習室で歌ってフォニックゲインを補充する時間のほうが圧倒的に長い。

 本部内を歩いていた時、ふとマリアの部屋の前で足が止まった。今マリアは病室で眠っているので、今この部屋に泊まっているのはセレナのはずなのだが、何か中から物音が聞こえてくるのだ。

(あれ、もう寝てる時間、だよね……?)

 小夜は念のためにゆっくりと扉を開けて中を確認する。

「Here we go!」

『我、王の名の下に!』

 ……何もなかった。すごく発音の良い掛け声が聞こえた気がしたが、小夜は何もないことを確認したので、そっと扉を閉じて見回りに戻ることにした。

 

 

 翌朝、調が渡された情報を元に、ヒビキ攻略作戦が開始された。今回は小夜、翼、セレナの3人が現場に派遣され、装甲車で任務開始地点まで移動している。指定された地点は、ヒビキが待っている地点より少し離れた場所で、そこから徒歩で向かう手はずになっている。

 今回の出撃する装者はLiNKERを必要とせず、かつシンフォギアによる交戦音を最小限に抑えられる装者が選ばれている。

 ヒビキが持っているレーダーがどこまで捉えられるかも分からないので、最低限度の通信機器だけを持ち、それ以外は目や耳を頼りに近づいていく。

 そして目標地点まで辿り着くと、そこには情報通りに巨大な戦艦が宙に浮いていた。ステンドグラスのような外観をしたそれは、兵器でありながら芸術作品のような美しささえ感じられる。

 翼達は声を殺して、ハンドシグナルだけで展開すると、三方向から分散するように戦艦に近づいていく。流石に天羽々斬には飛行装備は搭載されていない。何かしらの出入り口があるはずだ。

「あれ?調ちゃんじゃないんだ」

 頭上からヒビキの声が聞こえ、降りてきた。ここまでは想定通りだ。ヒビキを捕縛し、聖遺物のありかを聞き出せばいい。

「でもいいや。小夜が来たなら良いや。丁度いい」

 戦艦の下部が開いてヒビキが降りてくる。作戦はこの後、三方向から一斉に襲いかかり、またたく間に捕縛する。時間との勝負となる電撃作戦だ。

 狙うはヒビキの足が地面についた瞬間である。ギアをまとってはいないので、3人で襲いかかればまだ対処ができる。全員が剣の柄を握り直し、襲撃の瞬間を狙う。

 ヒビキの足が地面につくまで残り数秒。響を助けるためにも、ここで失敗はできない。そして、ヒビキの地面に足がつき、全員が一斉に飛びかかろうとしたその時だった。

「ありがとう。小夜を連れてきてくれてさ。手間が省けた」

 ヒビキは懐から拳銃を取り出し、有ろう事か不死者である小夜の胸を撃ち抜いた。強力な再生能力を持つ小夜に拳銃による攻撃は効かないはずだった。

 しかし銃弾を受けた小夜は、ギアが解除されただけではなく、その場に倒れてそのまま動かなくなった。

「何!?」

 あり得ない。実際、訓練中の事故で小夜は何度も負傷しているが、このような状況にはなったことがない。うっかり脳天を撃ち抜かれた時も、少し動きが止まる程度で、このように動かなくなるという事はなかった。

「驚くことはないよ。これ、対装者用のアンチLiNKER濃縮弾だから。撃ち抜かれればギアは解除どころか強制停止するんだ」

 ヒビキは動揺する一同に対して追い打ちをかけるようにジェムをバラマキ、アルカ・ノイズを召喚してみせた。一瞬固まっていた一同は、アルカノイズの出現で完全に小夜と分断され、助けに向かう事ができない。

「そこに倒れてるの、小夜じゃないよ。ただのシンフォギアで動いてるだけの死体。ギアが停止すれば、ただの死体に戻る」

 小夜達はアルカノイズをなぎ払い、小夜のもとへ向かうが、数が多いので中々辿り着けない。

「最初から、こうすれば良かったんだ。小夜が私の思い通りにならないなら、私の思い通りになる小夜にすればいい。こんな閉ざされた世界なんか壊して、小夜ごと世界を作り直せばいい」

 ヒビキはゆっくりと小夜に近づいていく。ヒビキをここで逃すわけにも行かないが、小夜を連れて行かれるわけにもいかない。

 セレナが剣をムチのように展開し、アルカノイズをなぎ払って道を作る。アルカノイズの包囲網を抜け、ヒビキの前に躍り出たのはセレナだった。だがあるかノイズの処理をツバサ1人に任せてしまっている以上、できるだけ短時間だ小夜を離脱させなければならない。

「どいてよ。そこに要られると邪魔なの」

 殺気。並行世界の同一人物とは思えないような気迫。思わずセレナは逃げてしまいそうになるが、引き下がるわけにも行かない。

 ヒビキは吐き捨てるようにセレナを見下すと、ポケットからペンダントを取り出した。

「そう、あなたも私の邪魔をするんだ。じゃああなたも斬るよ」

『Imyuteus amenohabakiri tron』

 ヒビキはギアをまとうと、セレナの急所めがけて剣を振り下ろした。ギアまで違うので一瞬驚いたものの、少し遅れてヒビキの剣を弾いた。危うく心臓が串刺しになるところだった。

 セレナはヒビキの剣を弾くのが精一杯で、全く攻勢に出ることが出来ない。殺気だけではなく、剣の腕もヒビキのほうが上回っているが故にヒビキの剣に対して有利に立つことが出来ない。

「別にあなたに小夜を守る必要なんて無いよね?どこから連れてこられたのか知らないけど、赤の他人なんだからさ!」

「そんなことはありません!」

 一瞬だけ響の太刀筋が緩み、セレナがヒビキを弾き飛ばして距離を離した。

「小夜さんはもう一人の私である前に、一人の仲間です。仲間がピンチなら、助けるのは当たり前のことですから」

 小夜とセレナが一緒に過ごしてきた時間は本当に短い。互いが互いをどう思っているかなんて確認する時間もなかった。実際セレナ自身も、小夜とマリアが一緒にいることに対する苛立ちのような感情をうまく説明できないでいる。

 だが、それが小夜を見捨てていい理由にはならない。仲間だから守る、セレナは当たり前の行動をしているつもりだった。

「じゃあ聞くよ?あなたと同じぐらいの時にフィーネに殺されて、わけも分からないまま融合症例に改造されて、生き別れたマリアさんを殺さなくちゃいけなくなってさ。どこに小夜が幸せになれる部分があるの?こんなメチャクチャな人生、私だったら嫌だよ。シンフォギアとも関係なくて、マリアさんと一緒に暮らせる世界にするよ」

 ヒビキの攻撃が緩んだのを見逃さず、セレナはヒビキに迫るが、すぐに剣を持ち直してセレナの剣を受け止めた。

「じゃああなたは小夜さんの答えを聞いたんですか?嫌だって、マリア姉さんと一緒に暮らしたいって一言でも言ったんですか?」

「……うるさい」

 ヒビキの剣を握る力が強まり、セレナが押し戻されてヒビキは鬼のような形相を見せた。

「部外者のくせに、偉そうに口出ししないでよ!妹の幸せを願って何が悪いの!?もう一回、小夜を笑顔にしたい。それしかもう私にできることはない!」

 ヒビキの剣は先ほどとは比べ物にならない強さと速さを持っており、油断すればすぐに押し切られてしまう。先ほどとは違い、繊細さがかけているのが唯一の救いだが、体格差も会ってセレナが不利であることに変わりはない。

「いい?小夜と長くいたのは私なの。小夜の幸せを分かってあげられるのも私、小夜の気持ちを一番知ってるのも私なの。あなたなんかにわかるわけがない!」

 勝負を決したのは、本当に一瞬だった。ヒビキの力に耐えられず、セレナの剣が揺らいだほんの一瞬。それをヒビキが逃すはずもなく、ヒビキの剣がセレナの剣を弾き飛ばした。ヒビキの剣はそれだけに留まらず、無防備なセレナに襲いかかり、彼女の体を切り裂いた。

「セレナ!」

 翼の呼びかけも虚しく、セレナは崩れ落ちた。ヒビキはセレナの体を蹴り飛ばし、小夜に近づく。だがセレナは諦めずにヒビキの足にすがりつくようにして彼女を止めた。

「へえ。まだ動けたんだ。ちょうどいい。せっかくだから実験台にしよっかな」

 ヒビキはうっとうしそうにセレナを蹴り飛ばすと、セレナの喉元を切り裂いた仰向けに倒れたセレナは血まみれになりながらも、ヒビキに手を伸ばすも、その力は段々と弱々しくなっていき、やがては糸の切れた人形のように動かなくなってしまった。

 ヒビキは小夜の体を小脇に抱えると、セレナを抱えて吸い込まれるようにして戦艦の中へと消えていく。

「待て!」

 アルカノイズの包囲網を突破し、なんとかヒビキの元にたどり着くも、既にヒビキは戦艦の中へと消えてしまい、後にはセレナが倒れていた血溜まりだけが残された。

 ヒビキを捕縛し、聖遺物を奪還するという作戦は、大失敗に終わってしまった。




S.O.N.Gデータベース
アンチLiNKER濃縮弾
 元々はシンフォギア装者を鎮圧するために研究されていたモノ。適合係数を大幅に下げることで、ギアを強制停止させて捕縛するために運用がされる予定だった。
 しかし、S.O.N.Gに装者の多くが所属してしまったことや、侵略者の襲来により研究は一時停止されてしまっていた。
 通常の装者が被弾しても、ギアが解除されて負傷するだけで済むが、融合症例である小夜が被弾した場合は、ギアが機能停止してしまうのでただの死体に戻ってしまう。
 死体にもどった小夜はフォニックゲインを大量に充填させない限り死体のままなので、事実上小夜に対抗できる数少ない装備である。
 欠点は量産性に乏しいので、連射ができないこと。
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