戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

37 / 46
S.O.N.G人事ファイル
雪音クリス(NEO世界)
 シンフォギアNEO世界の雪音クリス。本編世界のクリスと容姿の違いはなく、黙っていれば見分けがつかない。加えて名前も同じなので、本人はあだ名の『クーちゃん』を自称している。
 NEO世界では、フィーネは小夜を利用することにしたため、普通の女の子として育った。なので性格は真逆で喋り方も全く違い、NEO世界のツバサとは幼馴染の関係にある。
 将来を期待されたミュージカル女優としても有名で、リディアンではなく演劇系の学校に通っている。その実力は高く、本気の演技はツバサですら見抜くことが難しい。
 一時期精神的ショックでギアが纏えず前線を引いていたが、現在は問題なく使用可能。ただし本人にトリガーハッピーの気があり、味方を巻き込むためシンフォギアチームには参加できなかった。


第32話「魔神降臨」

 セレナ救出作戦には、翼が自ら志願して参加していた。ヒビキへの雪辱を張らすために、翼は必ず彼女に勝利して見せると心に決めていた。作戦地までの運搬ヘリの操縦にはマリアが指名され、セレナの回収や負傷していた場合の治療が任された。

「不思議なものね。私もこうして作戦に参加できるなんて」

 操縦桿を握りしめたマリアが呟いた。ギアを纏えないだけで、その他運動には支障がないと判断されたが故の今回の作戦だった。総指揮を執っている翼曰く、負傷した彼女の運用実験も兼ねているとのことだった。

「セレナ達に何事もなければいいのだが……。こちらの立花の考えが分からない以上、どうしようもないのがはがゆいな」

 翼はこの時ばかりは響が不在で助かったと感じていた。S.O.N.G本部の意思決定会議では、ヒビキに対して殺処分が下されていた。翼としても、彼女とは相容れないと分かっていたし、真剣勝負の末に彼女に引導を渡すことになっても不思議ではないと考えていた。

 もし響の意識が戻っていたなら、きっと彼女は最後まで和解を試みたに違いない。翼は太陽のような輝きを持つ彼女には、このような汚れ仕事は知らずにいてほしかった。

「翼!あれ!」

 小笠原諸島上空を通過したとき、マリアが先を指差した。そこでは、小夜が変身したであろうキングジョーと、見たことがないロボットが対峙していた。

「すぐに確認するわ!こちらマリア。未確認の怪獣を確認。直ちに照合を要請します」

『こちら本部。怪獣の画像を受信した。すぐに称号結果が出るはずだ。……検索結果が出た。該当する怪獣は、デスフェイサーと見て間違いないだろう。だが小夜だけが無事なのも妙だ。付近に生存者がいないか確認しろ』

「了解!」

 通信機越しだったが、すぐにデスフェイサーの正体を突き止められた。マリア達にはそれがどのような怪獣なのかがわからなかったが、とにかく周囲に生存者がいないかを確認し始める。

「翼!ギリギリまでヘリを近づけるわ!周囲に誰かいないか確認してくれる!?」

「心得た!」

 翼は双眼鏡を取り出して、周囲の人影を探し始める。よく見ると、キングジョーは島を守るように立っており、その島の海岸では、小さな人影が必死にSOSの文字を書いているのが見える。

「誰かいるぞ!あれは……セレナと、雪音?この世界にもいたのか?」

「分かったわ!ヘリを下ろすわよ!着陸準備をお願い!」

 デスフェイサーに向かっていくキングジョーが起こした風圧で、ヘリは大きく揺れたものの、すぐにマリアは建て直して海岸にヘリを下ろした。

 当初の手はず通り、マリアは応急処置の準備を始め、翼は先に降りてセレナたちの救援へと向かう。

「あ、つーちゃん久しぶり!指揮はどうしたの?現場に来て大丈夫だった?」

 翼の顔を見た平行世界のクリスは、想像にもつかないほど友好的だった。翼たちの世界のクリスであれば、皮肉のひとつや二つでもいったのかもしれないが、彼女はそんな様子が一切ない。

「つー、ちゃん……?」

「あれ?じゃあこのつーちゃんも別世界から来たつーちゃんなんだ。細かい話はあとでするから、とりあえずあたしのことはクーちゃんって呼んでね!先にセレナちゃんがかなり弱ってるから、早くヘリに乗せてあげて」

 クーちゃんは状況を即座に理解し、浜辺に寝かせていたセレナを担いで翼と共にヘリに乗り込む。セレナはわずかに呼吸をしているようなそぶりがあるが、非常に弱々しく、いつこれが途絶えても不思議ではない。

「セレナ!よかった。生きてた……。すぐに元気にしてあげるわね」

 マリアはクーちゃんには目もくれず、セレナを受けとると容態の確認に移った。セレナの心拍数や血圧といたデータが次々と機材によって表示されていき、セレナがいかに危うい状況なのかが見えていく。

「心拍数もかなり低いし、呼吸もわずかしかない……。余程ひどい目に遭わされたのね。すぐにヘリを出すわ!すぐにセレナを本部に運び込むわよ!」

 セレナを簡易的な生命維持装置に繋ぎ、わずかにセレナの命を繋ぐ。この状態では焼け石に水かもしれないとも思ったが、何もせずにセレナを見殺しにしてしまうよりかはマシである。

「待って。念のために信号弾上げておくね。小夜にも伝えておかないと」

 クーちゃんはヘリの奥から拳銃を取り出すと、小夜に見えるように信号弾を上げた。小夜にもそれは分かったようで、うなずいたような仕草を見せた。

 再度ヘリを浮上させ、本部との通信を繋ぐ。一刻も早くセレナを助けたいと焦る気持ちもあったが、確実に助けなければならないので、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 マリアが口を開こうとした時、後ろに乗っていたクーちゃんがマリアから通信機を奪い取り、本部との通信を始めてしまった。

「あー、もしもしつーちゃん?あたしだよ。そうそうクリスクリス。セレナちゃんと一緒に逃げてきたはいいんだけど、セレナちゃんが小夜を助けようとして倒れちゃってさ。すぐに治療ができるようスタンバイしててくれる?セレナちゃんの様子?ちょっと心拍数がヤバイかな。小夜が起きた速度を考えると、多分絶唱を使ったと思うんだけど、血とか出てないし変かなって。うん。分かった。じゃ、あとはよろしくね」

 クーちゃんは勝手に通信を終えると、通信機をマリアに返却して後ろに戻った。クーちゃんの態度にはどこかよそよそしいものを感じており、マリアは妙な違和感を感じた。

「さてと。とにかく状況を整理しよっか。まず、ヒビキに捕まってたあたしは、セレナちゃんを使って逃げてきたの。あたしだけでも逃げられたけど、正直逃げて無事って言う保証がなかったし。誰か他に捕まってくれないかなーって思いながら待ってたんだ。ちょうどつーちゃんが助けに来てくれて助かった助かった。サバイバル訓練の経験はあったんだけど、お風呂とか入れないのはちょっとやだし」

「あ、そ、そうか……。それは、大変だったな」

 クーちゃんは本当に雪音クリスなのかと疑ってしまう。ここまで饒舌に話すクリスなんて見たことないし、態度や口調もまるで別人である。別の人生を歩んだクリスでもあるので、完全に同一人物ではないと理解しているつもりなのだが、ここまで別人だとその違いに戸惑ってしまう。

「それで、こちらの世界の立花はどうした?」

「立花?小夜ならさっき戦ってたじゃん。あの金色のロボットがそうだよ」

 クーちゃんの受け答えを聞いて、翼は思わずため息を漏らした。そうだった。この世界において、小夜=セレナと言う認識は広まりきっていないのだ。この世界の住人からすれば、セレナ・カデンツァヴナ・イヴという少女は立花小夜の別の名前という認識しかない。セレナと言う名前自体使いなれていないのだ。

「いや、立花ヒビキの方だ。すまない」

「そっか。ヒビキは多分セレナちゃんが殺したんじゃないかな。あたしが現場に行った時には、セレナちゃんと小夜しかいなかったし、何より、ヒビキがこれを落として逃げるなんて考えられない」

 クーちゃんが取り出したのは、焼け焦げたシンフォギアだった。ここまで傷がついたペンダントが存在するということは、セレナとヒビキが戦い、その結果であると示している。

「そんなバカな。セレナがそんなことをするわけがない。彼女がそんなことをするはずがない」

 翼はマリアに聞こえないように声を落とし、クーちゃんの言葉を否定した。セレナが人を殺したと聞けば、マリアが黙っていないだろう。マリアにこの話を聞かせるわけにはいかない。

「でもあたしはこの子のことをよく知らない。普段は違う性格を演じてて、本性はシリアルキラーでもあたしは驚かない」

 クーちゃんは弱々しく呼吸をするセレナに目を向けた。彼女は人の命を奪ったとは思えないほどに幼く、また翼から見てもセレナが人を殺すようには思えなかった。あくまでセレナはヒビキとの死闘を制してギアを奪い取ったのだと信じたかった。

「いや、そんなはずはない。セレナは誰より純粋で、素直な性格だ。そんな人の命を容易く奪える性格ではない」

「純粋、ね。ある意味それが一番恐ろしいのかも。自分が信じたことにまっすぐで、目の前に敵が現れれば、容赦なく斬り伏せる。本当なら、こんな子に武器を持ってほしくない。そんなに純粋なら、手を血で汚さずにいてほしい。少なくともあたしはそう思う」

 クーちゃんはセレナがヒビキを殺したと決めつけているようだった。それを頑なに認めたくない翼は、クーちゃんを自分とは相容れない存在であると感じた。だがヒビキを殺したと思っているからこそ、セレナには戦場に立って欲しくないと言うクーちゃんの言葉を聞いて、彼女にもクリスのような優しい部分もあると感じ、彼女を邪険には思えなかった。

 だが、ヒビキが既にこの世にいないと仮定した場合、翼の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。

(では、あのデスフェイサーは誰が呼び出したのだ……?)

 キングジョーと交戦していたデスフェイサー、その正体が気がかりだった。

 

 

 翼たちが飛び去った後も、キングジョーとデスフェイサーの戦いは続いていた。これまでは流れ弾がクーちゃん達に飛ばないように警戒しなければならなかったが、それも救助ヘリが間に合ったことで気にする必要はなかった。後は、デスフェイサーを撃破して帰還するだけである。

 だがデスフェイサーは小夜が考えている以上に手強かった。隙のない挙動、キングジョーと対等に張り合えるパワー、そして豊富な武装とまるでキングジョーを叩き潰すために作られたと疑ってしまう程である。

 キングジョーもペダニウムランチャーを装備して応戦しているとはいえ、その性能差を埋めきることはできない。

『ーーーしい』

 デスフェイサーのハサミがキングジョーの腕を捉え、それを間一髪ふりほどいた時、デスフェイサーが言葉を発した。

『本当に素晴らしい。あの少女を使ってタイラントを作らせる計画は失敗しましたが、代わりにあなたと戦えるとは思いませんでしたよ。こんな素晴らしい機会、そうそうない』

 その声に小夜は聞き覚えがあった。メフィラス星人ジュピア。マリアを負傷させ、装者達を混乱に陥れた存在を忘れるわけがない。

『我々の計画は本当にうまくいった。お陰でシンフォギア使いは4名も減らすことができました。とどめにタイラントをぶつけて全滅に追い込もうとしていましたが、まあいいでしょう』

 デスフェイサーのガトリングを受け止め、ペダニウムランチャーを打ち込む。だがデスフェイサーの装甲には敵わず、全て弾かれてしまう。

『あなたの姉は本当に優秀だった。あなたの戦闘データがあったからこそ、このデスフェイサーは完成したのですから。あなたを全力で叩き潰す最高の怪獣の完成です』

 キングジョーはペダニウムランチャーを捨てて、デスフェイサーに殴りかかるも、デスフェイサーはビクともしない。せめてもの抵抗として、デスフェイサーを投げ飛ばそうと掴みかかる。だがデスフェイサーも黙って見過ごしているはずもなく、キングジョーの腕を掴んでハサミで片腕を強く挟み込む。あまりにも強い力は、キングジョーの腕をあり得ない方向に曲がってしまう。苦痛に悶えるキングジョーに対し、デスフェイサーは逃さずガトリングの銃口を押し当てて連射する。

 デスフェイサーはそのままキングジョーを投げ飛ばし、空中を舞うキングジョーの足をアームを伸ばして捉えた。キングジョーは逆さ吊りになりながらも必死に抵抗するも、それでも振り払うだけの力は出ない。

 キングジョーの抵抗も虚しく、デスフェイサーの胸元がゆっくりと開き、一門の砲身が現れた。砲身には次々とエネルギーが充填されていき、砲身に光が集っていく。ペダニウムランチャーで発射を阻止しようとするが、デスフェイサーの攻撃を阻止することはできない。

 そしてキングジョーが再び放り投げられると同時に、デスフェイサーの胸元からエネルギーが放出され、キングジョーの胸を貫いた。逃げ場をなくしたエネルギーはキングジョーの内部を駆け巡り、空中で爆発四散、その破片が海に降り注いだ。

『ネオマキシマ砲、素晴らしい威力です』

 キングジョーの撃破を確認し、ジュピアが小さくつぶやくと、デスフェイサーを操って空の彼方へと消えていった。

 これで脱落した装者は5人。タイラントを使って残った装者を一掃する作戦だったが、ヒビキが倒されてしまった以上、自分でスパークドールズを取りに行くしか無い。

 だがデスフェイサーとタイラントの2体で攻めれば、より効率的にシンフォギア装者を一掃できるのだ。

 

 

 セレナが目を覚ますと、無機質な病室の中だった。小夜が心配で、急いで起き上がると、頭が割れそうな頭痛や、激痛が全身を襲った。

「駄目よセレナ起き上がっちゃ!」

 ベッドの隣で控えていたマリアがセレナの体を抑え、慌てて寝かせた。マリアがベッドの角度を調整し、セレナが起き上がらなくても部屋全体が分かるようにした。部屋の奥の方ではキャロルが各方面からの報告をまとめており、セレナの容態を確認し終えた後のようだった。

「体の消耗具合からして、イグナイトモジュールと絶唱を同時に使ったか。全く無茶をしてくれる……。本来ならバックファイアで死んでもおかしくはないが、適合係数の高さに救われたな」

 キャロルは無造作にセレナにレポートを渡し、マリアと共に目を通していく。レポートには、セレナの負傷箇所と治療の過程が記されている。

「今回は処置が間に合ったから、数日で動けるようになるはずだ。ギアも短時間なら使えるようになるはずだ。今は休んで体力をつけろ」

 だがキャロルの関心事はそれではなく、むしろ他にあるようだった。用意していた椅子に座り、ボイスレコーダーを取り出した。

「帰還したこちらの世界の雪音クリスからあらましは聞いている。だがあくまで伝聞でしかない。こちら側の立花ヒビキがどうなったのかを知っているのはお前だけだ。故にこれから報告をしてもらう。正式な記録として録音させてもらうからな。もし虚偽の発言をすれば処罰もあり得る」

 キャロルはボイスレコーダーのスイッチを入れて、セレナに問う。あの時、ヒビキとの戦いの結末を。

「では、立花ヒビキとの交戦結果を話せ。イグナイトモジュールはどのタイミングで起動した?」

 セレナは慣れない状況で緊張してしまうが、一度深呼吸をして、慌てずゆっくりと真実を話す。

「はい。こちらの世界の立花ヒビキさんは、私が殺しました。イグナイトモジュールは戦闘中、足りない力量を埋めるために抜剣しました」

 セレナは事実を包み隠さず、全てを話した。セレナの話を聞いてマリアは信じられない、といったような顔をしたが、キャロルはなにも言わず淡々と報告を聞いている。

「ヒビキを殺したか。ではあのデスフェイサーはなぜ動いている?ヒビキが動かしているのではないいのか?」

「それはわかりません。私は小夜さんを助けるために絶唱を使いましたから。後はこちらの雪音さんが言ったとおりです」

「そうか。今のところ話に矛盾点はない。ご苦労だった。小夜が戻り次第、その後の検証をする。ご苦労だったな」

 キャロルはボイスレコーダーをしまい、病室を去っていった。セレナは緊張が解けて一段落したのだが、マリアはセレナを不安そうな目で見ていた。

「ねえセレナ。人を殺したって本当なの?」

 マリアの不安は最もだ。虫も殺せないような性格のセレナが、人を殺したのかが信じられないようだった。あの状況でセレナが嘘を付くはずはないが、マリアはセレナの口から事実を知りたいようだった。

「ごめん、マリア姉さん。私には、それしかできなかったから……。どうすればこの世界のヒビキさんと分かりあえるのか分からなかったから、私には楽に逝かせてあげることしかできなかったの」

 ヒビキに手を下した理由は、非常にセレナらしい理由だった。セレナが致命傷を負ったヒビキを治療できるわけがないし、ましてや相手だって武装しているのだ。判断を下すのに長い時間があったとは考えにくい。

 セレナがヒビキを殺したのは仕方がないこと。セレナに落ち度はない。マリアは頭でこそ理解できていたが、どうしても飲み込めない。本当はセレナが人を殺す必要はなかったのではと考えてしまう。

 帰りのヘリで偶然聞こえた、クーちゃんの言葉が脳裏をよぎる。純粋とは恐ろしい。真っ直ぐであるからこそ、敵の命を奪うことに躊躇がない。

「ごめんなさいセレナ。ちょっと席を外すわ」

 マリアは席を立ち、病室の外に出る。本当なら、セレナを励ましたいのに、言葉がでない。小夜がそうだったように、セレナだって罪悪感を感じているはずである。だからこそ、セレナを励まさなければならないはずなのに、かける言葉が見つからない。

 マリアがどうすればいいのかわからなくなっていたとき、今まで聞いたことがないような程けたたましいサイレンが鳴り響いた。緊急非常事態を告げるサイレンである。マリアは急いで司令室に向かい、状況を確認する。

「来たか」

 司令室には現在戦える全ての装者が集まっており、モニターには小夜と戦っているはずのデスフェイサーが映っている。

「小夜は負けたのか。すぐに回収チームを編成する。早く小夜を回収して戦闘準備をさせろ」

「ちょっと!まだセレナを戦わせるの?!」

 キャロルの発言は耳を疑う内容だった。デスフェイサーがこの場にいるということは、小夜だって負傷しているはずである。彼女にも休息があってしかるべきなのだ。

「ああそうだ。デスフェイサーでここが全滅しては元も子もないからな。小夜なら死んでも回収すれまだ戦える。殿を務めるにふさわしい」

 マリアは思わずキャロルを殴りつけたくなった。だが、小夜の不死という特性が持つ価値も理解しているし、キャロルがこのような指示を出す理由だって理解できる。だが傷ついたセレナを戦場に向かわせるのを看過できない。

「大丈夫だよ、姉さん」

 司令室に、傷ついた状態の小夜がやってきた。胸を押さえ、少し足取りもおぼつかないが、ここまで戻ってきたようだった。

「大丈夫。すぐに動けるようになるから、まだ戦える」

「駄目世そんな状態じゃ!そんな体で無事に帰ってこられる訳ないじゃない!」

 小夜はすぐにマリアに支えられ壁によりかかる。少し遠くでは分からなかったが、小夜の体は濡れていて、ここまで必死に泳いで戻ってきたのだと分かる。

「だがどうする?デスフェイサーを倒す手立てがない以上、死なない小夜を盾にして逃げるほかあるまい。それともお前がレイオニクスギアを使って戦うのか?」

 キャロルの言葉にうまい返答が見つからない。未だに使ったことのない可能性に賭けるのか、それとも今使える手で生き残り、反撃の手を狙うのか。答えは見えているようなものだが、マリアはそれを告げたくない。

 セレナが悲しむと分かっていても、セレナを守るために自分が犠牲になるのが正解と口にしようとしたとき、また新たに司令室にやってくる人物が現れた。

「いや、手だてはある。スカルゴモラを出せばいい」

 これまで響の研究結果でも聞いていたのか、ツバサが司令室にやってきた。ツバサは研究レポートを握り締め、デスフェイサーを迎え撃つ準備ができたようだった。

「スカルゴモラを?無理だ、俺たちじゃ制御できない」

「ああ。だから、別の怪獣を使う。まだ試作段階だが、起動できる条件は揃っている」

 ツバサはスタッフにディスクを一枚手渡し、その中身をモニターに表示させる。

「シンフォギアは共鳴によりその性能を向上させることができる。レイオニクスギアが絶唱に対応していた以上、共鳴でその実力を高めることができるはずだ。これはその装置だ」

 モニターに表示されたのは装置と、その起動条件だった。ツバサは説明を止めずに続けていく。

「一応理論自体は完成していたものだ。まだ同じギア同士でしかできないが、ギアの性能を収束させた状態で怪獣を召喚できる。出力を安定させるために、その核には小夜が必要だ。怪獣に変身できる小夜ならば、怪獣を安定的に実体化させられる。そして、小夜と息をあわせやすい人間。シラベは今ここにいないからな、マリアに参加してもらう」

 ツバサの示した道、それは姉妹の絆を利用した作戦だった。セレナに負担をかけたくないマリアにとって、この作戦に乗らない理由はない。

「分かったわ。その作戦で行きましょう」

「まさか使えるレベルにまで達しているとは思わなかったな」

「ああ。ファイブキングの例が応用できたからな。すぐに準備に取りかかる」

 ツバサに導かれ、装者一同、機材がおかれている部屋に向かった。本部の一角にある空き部屋にはいると、大がかりな装置がおかれ、その傍らに機械に繋がれた調が座っていた。

「調?」

「ああ、彼女の力を使う。今回のことを帳消しにする代わりに、この作戦に協力してもらうことになった」

 そして少し遅れて車いすに乗せられたセレナがやってきた。まだ点滴などが繋がれたままで、本当に動けるようにしただけに見える。そしてその負傷具合に、装者達に動揺が走った。

「すいません、遅れました。私もこの作戦に参加します。まだ歌えるはずですから」

 負傷したセレナがこの作戦に参加できるとは思えなかった。だが、彼女が前線に立つわけではない。なるべく短時間で決着をつければいいだけの話である。

「今回は、小夜、セレナ、そしてマリアの3人の共鳴を収束させる。月読には適合率の制御を担当してもらう。ギアをの負荷は小夜に集中させて2人の負担を軽くする。当然だが長時間の使用はできん。せいぜい3分弱が限界だろうな」

 スタッフの指示に従い、小夜、セレナ、マリアの3人が機械に繋がれ、3つのアガートラームが首に巻かれる。各計器に異常がないことを厳重に確認し、作戦開始の時間が迫る。

「では作戦を開始する。頼んだぞ、3人とも」

 ツバサの合図で作戦が開始され、聖詠の三重奏が響き渡り、辺り一帯が光に包まれる。3機のレイオニクスギアが同時に起動し、暴走しないように必死に外部から制御をする。小夜のキングジョー、そして2人のギアから出力された怪獣を分解し、一つの怪獣に束ねていく。細心の注意を払いながら、ギアを出力し、一体の怪獣の生成に成功した。

 光が収束し、放たれた怪獣がモニターに映し出される。だが、その結果にツバサは眉をしかめた。

「妙だ。計画通りなら、小夜だけがいなくなるはずだが……」

 視界が開けてくると、装置には座っていたはずのマリアとセレナがおらず、調を残して3人の姿がなくなっていた。

「まさか、装者ごと融合したのか……?そんなまさか」

「仕方がない。元々安定的な運用の保証がないんだ。この程度の不具合は許容するしかない」

 キャロルはいなくなったマリアとセレナには気にもかけず、モニターに目を移す。本来の想定ならば、2人のギアでキングジョーの強化パーツを生成し、強化したキングジョーでデスフェイサーを迎え撃つ手筈になっていた。だが、実際に生成されたものは全く違うものだった。

 強化パーツをまとったキングジョーではなく、キングジョーの右半分と、そして見たこともない怪獣の左半分とが繋がった怪獣だった。

「すぐに解析を急げ。この現象を突き止めろ」

 困惑しているツバサとは対照的に、キャロルは目の前の怪獣に対して冷静だった。立場上はツバサの方が強いが、数百年の時を生きたキャロルの方が経験の差で想定外の事態にも冷静だった。元がシンフォギアであったからなのか、比較的すぐに解析結果は出た。

「スカルゴモラという前例があった以上、やはり特定も早かったな。もっとも近いのは……キングギャラクトロン、か。シンフォギアの反応は、アガートラームと……ガングニール?」

 だが解析結果はキャロルも眉もしかめる内容だったようで、少し考え込んでしまう。だが、ある程度の仮説は立てられたようで、仮説を打ち出した。

「恐らくは、だが、マリアの歌に小夜のガングニールが反応した結果、キングギャラクトロンに3人ごと融合してしまった。そう考えるのが自然かもだな。そんなことがありえるのかは分からないが」

 まだ明確な答えが出ていないが、キングギャラクトロンはデスフェイサーを倒すべく動き出した。キングギャラクトロンは緩慢な動きでデスフェイサーを掴み、突き飛ばした。キングギャラクトロン自身もまだ動きになれていないのか、動きには無駄が多く、力押しでデスフェイサーと戦っているように見える。

 キングギャラクトロンはペダニウムランチャーで伸ばしてきたハサミを打ち落とし、左腕に装備された大剣を盾にして銃弾を防ぐ。キングギャラクトロンはデスフェイサーに迫り、腕を掴み、引きちぎろうと力を込める。

『見た目が変わっただけかと思いましたが 、総合スペックも上がっているようですね。カラクリは分かりませんが!』

 デスフェイサーはキングギャラクトロンを振りほどき、その喉元をハサミでねらう。キングギャラクトロンは、それをかわしてハサミを引き延ばす。そして大剣でハサミと本体を繋いでいたワイヤーを叩き切った。

 腕を切られたデスフェイサーは一瞬動揺した様子で、ガトリングで牽制をしながら後退する。そして胸のハッチが開き、砲身が姿を見せる。ネオマキシマ砲で再度撃破をねらうようだった。だがキングギャラクトロンも黙っておらず、剣を展開して残っていたガトリングの銃身を切り落とした。

 デスフェイサーのエネルギーを充填する速度を上げて、自爆する覚悟でキングギャラクトロンを狙う。そのままキングギャラクトロンもペダニウムランチャーを捨てて突っ込み、砲身ごとキングギャラクトロンの胴体を打ち抜いた。

 砲身に充填されていたエネルギーは行き場を失い、デスフェイサーのあちこちから爆発があがり始めた。このままでは本部周辺地域が焼き払われてしまうのは火を見るよりも明らかだ。それを危惧したかのように、キングギャラクトロンの体から淡い光が放たれ、優しくデスフェイサーを覆った。デスフェイサーを覆った『膜』は、デスフェイサーの爆発を包み込み、周囲への被害を相殺した。デスフェイサーを撃破しただけでも十分な戦果だったが、その余波を押しとどめたと言うのだから、驚きの結果である。

 爆発が収まると同時に、デスフェイサーの残骸が周囲を転がり、レーダーに一人の生体反応が映った。

「やはり中に誰かが乗っていたか!すぐに捕縛を急げ!」

 キャロルはすぐに指示を飛ばして、デスフェイサーに乗っていた誰かの捕縛を急いだ。だが、突如として上空に生体反応が映り、疲弊していたキングギャラクトロンがなぎ倒された。

 いったいなにが起こっているのかが分からなかったが、その正体はすぐにモニターに映し出された。

 それは、大きさから言えば確実に怪獣であると断言できただろう。だが、怪獣とは思えないような神々しさが、それを怪獣と認めることを阻む。

 黄金の魔神、と称するにふさわしい光を放ったそれは、優雅に地面に降り立ち、足下からデスフェイサーの搭乗者を拾い上げた。

「映像の解析を早くしろ!あれの正体を突き止めるんだ!」

 キャロルがすぐに解析を行わせ、拾い上げられた者はヒビキではなく、メフィラス星人ジュピアであると突き止められた。だがそちらに注力をしてしまったせいで、黄金の魔神の正体を突き止める間で少し時間がかかってしまった。

『シンフォギア装者の諸君。初めて地球に降りたったのだ。名乗らせてもらおう。私は、エグララグ。君たちの星を狙ってきた、侵略者の親玉、と思っていただければ十分だ』

 黄金の魔神は、余裕を保ったまま名乗り、仰々しく会釈をした。スタッフも必死に解析を急いでいるようだが、敵の首魁が現れたというプレッシャーがそれを遅らせているようにも感じる。

『今はこの体を借りている身でな。あくまで今日は部下の回収と、軽いあいさつに寄っただけだ。これで失礼させてもらう』

 黄金の魔神はそういい残して空のかなたへと帰って行った。エグララグという黄金の魔神の出現で、装者やS.O.N.Gの面々に緊張が走った。

 決戦の日は、そう遠くないのかもしれない。




S.O.N.G怪獣図鑑
電脳魔神 デスフェイサー
身長:77メートル
体重:9万6千トン
ステータス
体:★★★★★
技:★★★★☆
知:無

 ヒビキが侵略者との取引で入手した巨大戦艦の真の姿。オリジナルの個体とは異なり、完全に異星人側の兵器として地球に襲来した。
 ヒビキがヤントラ・サルヴァスパを保有していた関係上、誰でも簡単に操縦ができ、かつ簡単に高火力で敵を薙ぎ払うという絵に描いたような理想の怪獣とも呼ぶべき存在である。
 ヒビキが最終的にこれの起動を視野に入れていたかは不明。

装者達のコメント
シラベ:ヒビキさん、こんなものを持ってたのね……。
ツバサ:そうだな。本当にこれでどうするつもりだったのか、それとも最初からこれを知らないで運用していたのか……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。