戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey 作:パイシー
セレナと小夜
平行世界の同一人物同士であるセレナと小夜は、思考パターンが似通っているため、本来であれば息のあったコンビネーションを発揮できるポテンシャルを秘めている。
だが2人の関係を阻害しているのがマリアの存在である。彼女の存在のせいでセレナが対抗心を燃やしている為、息が合わなくなってしまっているのが現実である。
ヒビキの1件でセレナは小夜も大事な姉妹であると認めたものの、互いが無意識に自分が上だと思っているのでこの問題が解決されたとは言い難い。
尚、純粋に年齢で言えばセレナが上で、体の発育で言えば小夜が上であるため、どちらが上かという問題は永遠に論争が続く問題になってしまう。
セレナが目を覚ますと、電車の中で揺られていた。外には、見たことがないような山と海岸線が広がっている。
「え?……え?」
一瞬、セレナはまたシラベに拉致されてきたかと思い、周囲を見渡す。だが、シラベの姿は見当たらず、隣には小夜とマリアが座っている。
「あ、目が覚めた?すぐ寝ちゃったから覚えてないかな?」
隣の小夜が口を開いた。ボストンバッグのようなものが見つからないので、また無理やり連れてこられたというわけでもないようだ。
「どうして、私はここにいるんですか?」
「やっぱり覚えてないかな?3日前、キャロルさんになんて言われたか覚えてる?」
セレナは小夜の言葉でキャロルが3日前に行っていたことを思い出した。
3日前、キャロルの指示の下、キングギャラクトロンの性能テストが行われていた。オリジナルとは乖離したキングギャラクトロンが、どのような性能を発揮するのか、それを確かめる実験が行われていた。今回は3人共通信機を装備し、誰がキングギャラクトロンの支配権を握っているのか明らかにする目的も含まれていた。
「それでは始めるぞ」
キャロルの合図でキングギャラクトロンの性能実験は始まった。今回の訓練の相手として、未来のゼットンが抜擢された。
「エグララグと戦う以上、融合獣タイプの聖遺物が戦力として加わってくれれば、戦局も有利になるはずだ。この訓練は必ず成功させたい。頼んだぞ」
キングギャラクトロンとゼットンが演習場に出現し、演習が始まろうとしていた。キングギャラクトロンは動くことはなく、ゼットンの様子を窺っているように見える。
『よし。それじゃ行くわよ……』
スピーカーから先に聞こえてきたのは、マリアの声だった。その口ぶりから、マリアが指揮を取り、キングジョー部分を小夜が、ギャラクトロンの部分をセレナが動かしていると思われた。
『最初は、グー!じゃーんけん、ぽん!』
だが、全員の予想とは裏腹に、スピーカーから聞こえてきたのは、3人がじゃんけんをする声だった。キャロル達は3人が役割を分担して戦っていると思っていたのだが、それとは真逆の方法を撮った3人が信じられなかった。
じゃんけんの結果、勝利したのはセレナだったようだ。スピーカーからは嬉しそうなセレナの声が聞こえてくる。
『それじゃ、いっきますよー!』
セレナは調子よくゼットンに向かっていき、キングジョーの腕でゼットンを殴りつけた。ゼットンは攻撃を受け止め、掴んで投げ飛ばそうとする。
『痛い痛い痛い!セレナちゃんちょっと貸してよ!私の腕がちぎれるから!』
今度は小夜の声が聞こえたかと思えば、キングギャラクトロンがかなり無理のある姿勢で
『待ってくださいよ!ちゃんと正々堂々と私が勝ったんですから、私が戦います!』
『ううん!だって半分私の身体なんだよ!ぞんざいに扱うのは流石に許せないよ!』
『ちょっと2人とも落ち着いて!』
キングギャラクトロン内部で大喧嘩が起こっているようで、主導権を誰が握るか決まったはいいモノの、その戦い方で今度は揉めているようだった。
『じゃあじゃんけんが嫌なら、私と小夜さんで動かすってことでいいですね?小夜さんはキングジョーの部分を担当してください』
『え?うん。わかった』
『それじゃ、せーので行きますよ。せーのっ!』
今度は小夜とセレナの分担で動かすことが決まったようで、キングギャラクトロンは突然両足を上げてその場で尻餅をついた。突然の尻もちは身体に響いたようで、キングジョーの腕で尻をかいた。
『いったた……。ちょっと両足上げたら転んじゃうじゃないですか!』
『だって普通左足から上げるじゃないですか!』
今度は上げる足の左右で揉めていたようで、またしても2人で喧嘩が始まり、先ほどと同じようマリアが喧嘩を諌めている。
だがゼットンが喧嘩をしている2人を見逃すはずもなく、キングギャラクトロンがこちらに攻撃をしてこないと判断すると、いきなりキングギャラクトロンを蹴り飛ばした。そしてキングギャラクトロンは起き上がって反撃しようとするが、今度は両腕を上げてしまい、ゼットンにそのまま投げ飛ばされた。
それからというものの、妙に息のあわない動きが続き、キングギャラクトロンはゼットンにされるがままだった。
この惨状を見て、キャロルは怒り心頭といった様子で、怒鳴りつけた。お前ら、いいかげんにしろ、と。
セレナはそこまで思い出し、なんで自分がここにいるのかを思い出した。
「あぁ、確か、キャロルさんに息を合わせろって怒られて、今合宿に向かってる最中なんでしたっけ……」
キャロルから事前に日程は渡されていたが、まさかここまで出発が早いとは思わなかった。まさか寝ている間に連れてこられるとは夢にも思わなかった。
「セレナちゃん、起こしに行ったんだけど、起きなかったからってガリィさん達で乗せたんだよね。今ここには私達以外いないから、問題ないよ」
この場にシラベがおらず、セレナはすぐに襲われるような心配がないと安心した。
「あ、そろそろ着くよ」
電車が間もなくして停止し、小夜達は荷物をまとめて電車の扉の前に立つ。小夜がドアの脇のボタンを操作し、ドアを開いて駅を降りると、野山とコンビニがあるだけののどかな風景が広がっていた。駅前には小さな観光案内所も存在しているが、本当にただあるだけでそこまで賑わっているようには見えない。
「えっと……ここは?」
「私の実家の近く。ヘリじゃ遠すぎるから、飛行機と電車でここまで来たの」
小夜の案内で彼女の実家へと向かう。ここから少し歩く場所にあるようで、マリアと小夜とで荷物を分担することになった。
車通りの少ない道路やあぜ道を通り、どんどん人気のない方向へと向かう。人の多い都市部で暮らしているセレナには、ここが本当に人が住んでいるのかと疑ってしまうほど、新鮮な光景である。
「さてと、着いたよ」
駅から歩くこと20分弱、小夜に案内されたのは塀に囲まれた大きな一軒家だった。屋敷と呼ぶには小さすぎるが、それでも普通の家と呼ぶには大きい。表札にはしっかりと『立花』と刻まれ、ここが小夜の実家であるという事実にゆるぎはないようだった。
「ちょっと待っててね」
小夜はポケットから鍵を取り出して鍵を開けると、セレナ達を家の中に招き入れた。
「一応お手伝いさんとかに頼んで、定期的に掃除してるんだけど、ちょっと汚れてるかも」
外から家の大きさはなんとなくわかったが、中にはいるとその大きさがより一層感じられて圧巻された。加えて、小夜がお手伝いさんと言ったことが衝撃的だった。
「お手伝いさんなんているの!?もしかしてこの世界のセレナってお金持ち……?」
「ううん。お金の殆どはお姉ちゃんが持ってっちゃったから、私はちょっとだけ。この家を管理するだけのお金しか無いの。お給料もあんま余裕ないし……」
小夜はやや乾いた笑いを浮かべ、あまり金銭状況に余裕がないというつらい現実に哀愁を感じた。
家の中に通されると、中は静まりかえっており、荷物を置いて客間に通される。ここは小夜の実家だというのに、家族の一人も姿を見せない。
「それじゃ、私ご飯作ってくるから、待っててね。部屋の中は好きに使っていいから」
小夜はそれだけ言い残すと客間を後にした。気づけば時刻は正午を回っていて、相当長い時間移動していたことに気がついた。
「ねえマリア姉さん、ここの家、変だと思わない?」
「どうしたのセレナ?」
セレナはこの家についての違和感を正直にマリアに告げることにした。
「だってここの家、変に静かだと思わない?小夜さんの家族も出てこないし……」
「ええそうね……。でも小夜だって後で話してくれるんじゃないかしら?だってこっちのヒビキがああだった以上、小夜の家族だって黙ってるわけじゃないでしょうし」
マリアはヒビキの暴走やこれまでの足跡を知って、確信にまでは至らないものの、小夜の家族が既にこの世を去っているのかもしれないと思っていた。まだ憶測の域を出ないが故に、マリアはセレナにはこのことを話すつもりはなかった。もしかすると、今は別宅に避難していて、実家は小夜の担当になっていてもおかしくないのだ。中途半端に情報を与えて彼女を混乱させるようなことはしたくなかった。
「うん。ちょっと私、ここを調べてくるね。トイレの場所とかも知っておきたいし」
セレナは未だ釈然としないようで、客間から出ていった。マリア達に気を使ったのか、最初からこうだったのかは判断できないが、和風の家でこの部屋だけが洋室であったことが彼女を余計に不安にさせてしまったのだろうか。マリアはそんなことを考えながら、キャロルから渡された行程表に目を通す。二泊三日でどこまでできるかは分からないが、3人の息を合わせて、キングギャラクトロンの安定的な運用を目指すものである。
マリアと
そう思っていた矢先、マリアの手元にあった携帯から着信音が鳴り響いた。合宿の際に、ツバサから貸与されたもので、本部の誰から連絡がくるのかすぐにわかるようになっている。着信元は『クーちゃん』と表示されており、マリアは携帯を手に取った。
セレナが家の中を歩いていると、やはり不自然なほど静かなのが伝わってくる。ここまで広いのであれば、両親はおろか祖父母まで住んでいてもおかしくないのだが、誰かが生活をしている痕跡が全くない。きれいに掃除はされているものの、汚された跡がない。セレナが気になって庭が一望できる部屋を覗いた。勝手に人の部屋を覗くのは気が引けるが、今はこの疑問を解決する方が先である。
セレナが恐る恐る戸を開くと、中は非常に薄暗くわずかにさびた鉄のような臭いが漂ってくる。セレナが戸を全開にして部屋の中を覗くと、壁一面に広がった血痕が飛び込んできた。
驚いて腰を抜かし、顔から血が引いていくのが分かる。逆に異様な不気味さの正体はこの血痕にあるという確信が自分の胸の中の懐疑心を晴らしてくれるような気さえする。
(そう言えば聞いたことある……。日本だと、こういう山奥の家には妖怪が住んでて、旅人をとって食べることがあったって……!)
セレナは切歌に見せてもらった怪談集の事を思い返していた。当然昔話なので今それが作り話であると理解しているのだが、怪獣が跋扈しているこの世界では、その常識が通じないのではと思ってしまう。
現にこの家は駅から少し歩くので、すぐに遠くに逃げることはできない。それに、こういった場所では電車は一時間に一本くるかどうかという話が脳裏をよぎり、絶対に小夜からは逃げられないと言う結論が弾き出されてしまう。そのことが、小夜は自分たちをとって食うつもりなのではという妄想を加速させてしまう。
「セーレッナちゃん♪」
後ろから唐突に声をかけられ、セレナが悲鳴を上げようとした時、シラベが口をふさいで部屋の中に引っ張り込んだ。
「静かに。下手に騒がれると面倒だから」
シラベが戸を閉めたせいで部屋の中が暗くなり、セレナは必死に抵抗してシラベから離れようとするが、シラベの拘束が解ける様子はなく、むしろ拘束が強まっただけである。
ここの部屋が薄暗く、セレナの視界の端に血痕が映り、このまま殺されてしまうのではと不安がよぎる。
(この部屋、もしかしてーーー)
この世界のヒビキがそうだったように、シラベも彼女に賛同していた可能性だってある。もしかして家の中が異様に静まりかえっているのも、彼女がこの部屋で全員手にかけたからであるとさえ思う。
「御願いだから大人しくして。何にもしないから」
シラベの拘束から逃れようと必死なセレナを落ち着かせ、シラベは何か話をしようとしているが、パニックに陥った彼女には意味がない。
「大丈夫。別にとって食べたりしないから、ね?いいから私の話を聞いて!」
しびれを切らしたシラベはうっかり声を荒げてセレナを落ち着かせる。もはや抵抗も無意味と悟ったのか、セレナはとうとう泣き出してしまった。
「そこでなにをしているの!?」
先ほどの声を聞かれてしまったのか、マリアが戸を開けて部屋の中に入ってきた。部屋の中には、壁一面に広がった血痕、ギアをまとい、セレナを押さえつけているシラベ、そして涙目になっているセレナがいた。もはやここでなにをしようとしていたのか、火を見るよりも明らかである。
「セレナから離れなさい!」
「あっ、あの、すいません。別にそういうんじゃーーー」
「いいから早くどきなさい!」
マリアは聞く耳を持たず、シラベもせっかく捕まえたセレナを手放していいか迷ったが、このまま離さなければマリアに殺されるかもしれない。仕方なくセレナを解放する事にした。
解放されたセレナはマリアに駆け寄り、嗚咽を通り越して大声で泣き出してしまった。マリアはセレナを優しく抱きしめ、その頭を優しく撫でた。
「かわいそうに……ちょっと!あなたどういうつもりよ!セレナをこんなに怖がらせるなんて!この部屋でなにをするつもりだったの!?」
「い、イヤだから別になにも。私はただ、影武者に全部任せてこっちに来たけで---」
「こんな小さいセレナを狙うなんて最低!抵抗されないからって、弱いものいじめして恥ずかしくないの!?」
マリアは完全にヒートアップしていて、シラベの話を聞いてくれそうにない。セレナも少しは落ち着いたとはいえ、マリアの後ろに隠れてしまっており、完全にこちらを警戒している。
「だ、だから私は遊びに来ただけで、セレナちゃん成分を補充しようと……」
「だからこんな薄暗い部屋でセレナを無理矢理襲おうとしたのね!どうせ嫌がるセレナの顔が見たかったとか、そんな下らない理由なんでしょ!」
もう完全にマリアの中では『風鳴シラベはセレナを襲おうとした変態である』という図式で固定されており、シラベの言葉を変な風に解釈してしまう。シラベは弁明をするためにも一度マリアを落ち着かせようとする。
「あの、ちょっといいですか……私はただーーー」
「まさかこの世界のシラベがこんな変態だとは思わなかったわ。クリスからは捕まえてって頼まれたけど、一回ぐらいオシオキしたほうがいいんじゃないかしら……。大丈夫セレナ?痛い目に遭わされたりとかしてない?」
「えっと、その……いいから私の話を聞いてよぉ!」
あまりにも話を聞いてもらえず、堪忍袋の緒が切れたシラベの絶叫が家中に響きわたった。
そして騒ぎを聞きつけてきた小夜を挟んで、シラベとマリアとセレナの3人の話し合いの場が設けられていた。シラベはセレナのみならずマリアから汚物を見るような目を向けられており、マリアがギアをまとえたのならば、すぐに彼女に切りかかっていただろう。
「えっと、じゃあまずシラベの言い分から」
「私はそっちの世界の私を影武者に仕立て上げてこっちに遊びに来ただけ。小夜の家は場所しか知らなかったし、セレナちゃんが泊まってるってだけでいかない理由がないし。最近は小夜も忙しいみたいで全然私に構ってくれないし。だったらセレナちゃんで我慢をしようかなあって思ってたの」
「やっぱりセレナを襲うつもりだったんじゃない!この変態!こんなのが装者をやってるなんて大丈夫なの?地球を守る以前に、妹の平和を守って欲しいわ!」
マリアのセレナに向ける殺気が一層強まり、セレナを守るように抱き寄せた。シラベはマリアと保護者の女性に承諾を貰えれば、セレナを自分の妹として迎えようとまで画策していた。だがこのままそれを切り出せば、この場で殺されかねないので、その計画は虚しく、シラベの胸中で密かに頓挫した。
「と、とりあえず落ち着いて!このままいがみ合ったってしょうがないよ。さっきツバサさんに連絡して、明日の朝に迎えに来てもらうことになったから、それまでシラベは私と一緒に行動してもらうけど、それでいいよね?」
「うーん……。仕方ない。じゃあ小夜で我慢する」
さすがのシラベもマリアまで敵に回したくないのは同じだったようで、小夜が提案した案を呑み、大人しく引き下がった。
「それじゃ、お昼出来てるから用意するね。シラベ、手伝って」
小夜に連れられてシラベは不本意そうに厨房へと向かっていった。そしてすぐに更に盛られたうどんとめんつゆを持って戻ってきた。小夜とシラベ、マリアとセレナで向かい合うように座る。両者の間には未だぎこちない空気が流れていたものの、食事自体は非常にスムーズに進んだ。問題ごとを持ち込んだシラベを責める小夜、箸をぎこちない持ち方で扱うセレナをフォローするマリアと特に問題こそ無いものの、それが3人の中を深めたかとは言い難い雰囲気だった。
その夜、セレナは不意に目が覚めてしまった。シラベの恐怖が払拭されず、また慣れない布団がセレナの眠りを妨げていた。セレナはゆっくり起き上がり、少し夜風に当たろうと客間を後にした。
(やっぱり、床で寝るのは慣れないな……)
セレナが家の中を歩いていると、縁側に誰かが佇んでいるのが見えた。セレナは一瞬シラベが待ち構えているのかと身構えてしまったが、雰囲気がシラベのようなものとは違う事に気がついた。
「ん?セレナちゃん?どうしたの?」
庭先にいたのは、小夜だった。月の光に照らされて、遠目に見ると別人のように見えた。
「すいません。上手く眠れなくて」
「そっか、やっぱりベッドとか用意したほうが良かったかな?部屋は洋風にしたんだけど」
「小夜さんは寝ないんですか?」
「私はほら、死んでるから。気分で寝たりするだけ。今日はたまた起きてただけだよ。ちょっと待ってて」
セレナは近くにシラベがいないことを確認すると、小夜の隣に座る。小夜は入れ替わるように立ち上がると、すぐにお茶を持って戻ってきた。
「はいお茶。ちょっとぬるくなっちゃってるけど」
セレナはお茶を受け取り、口に含む。確かにぬるくなっているが、かえって飲みやすい温度になっている。
「……小夜さんはすごいですよね。私にできないことがいっぱいできて、私が持ってないものをいっぱい持ってます」
ふと、こぼすように漏れた一言がそれだった。小夜はセレナの言葉を聞いて面食らったようだった。
「そうかなぁ。そんなに変わんないと思うけど」
「だって、小夜さんにはこんな家があって、学校にも行ってて、友達だっています。料理だってできて、羨ましいです」
小夜はここに来て、セレナのことをあまり聞いていない事に気がついた。データとしては知っているものの、その事についてセレナに聞いたことがなかった。
「私はずっと施設で育てられて、学校に行ったこともないですし、友達だっていません。料理なんてしたことありません。だから小夜さんが羨ましいです。私が持ってないものを全部持ってて、私なんかじゃ足元にも及びません」
「ううん。私だってセレナちゃんが羨ましくなる時があるよ。マリア姉さんと仲良しでさ。ギアの扱いだって私より上手だし。私にないものを持ってるよ。学校に行ったって、特別なことなんてなにもないよ?私引っ込み思案だから友達もシラベしかいなくてさ、いっつもお姉ちゃんと3人で遊んでたっけ」
セレナはリディアンに復学したときのことを思い返す。まだ自分の運命も知らず、自分がただの少女であると思いこんでいたあの頃を。
「私は別に生まれた世界とか、条件が違うからって人ってそこまで変わらないと思う。並行世界から来たお姉ちゃんとか、マリア姉さんを見て思ったんだ。世界が違ってもお姉ちゃん達はお姉ちゃん達。性格も根本的には変わらない」
「そう、ですか……?」
セレナは小夜の言っている意味がわからなかった。周りの年の近い少女が全て学校に通っていて、ナスターシャ教授が気を利かせなければ、初歩的な計算すらできなかったかもしれないのだ。装者として剣を振るうことに抵抗感を覚えているセレナにとって、小夜が自分に憧れる理由が分からなかった。
「うーん……。じゃあちょっと模擬戦、してみる?」
小夜が切り出したのは突然の申し出だった。セレナから何度も申し出たことはあったものの、小夜から切り出すのははじめてのことだった。
「今まではさ、セレナちゃんからだったけど、今ならなにか分かるかもしれないよ?人気のない場所なら知ってるし、マリア姉さんたちにも迷惑はかからないし」
セレナは小夜が何を言いたいのかと考えてしまうが、でも小夜への対抗心から行っていない模擬戦であれば、いつもと違うものが感じられると思うのも確かであった。セレナは小夜の申し出を呑み、模擬戦を受けることにした。
小夜の案内で家を出ると、少し移動して開けた交差点に案内された。周囲の見通しはよく、車が走っている様子も無い。ただ信号機が無機質な光で照らしているだけである。
「ここなら車は来ないし、多少騒いでも誰も聞こえない。派手に戦えるよ」
互いの呼吸を整え、同じ聖詠で同じギアを纏う。そして両者ともにそれぞれの剣を構えて向かい合う。いつもなら、セレナから積極的に仕掛けてくるのだが、今回はセレナがそこまでの力では無かったというのも手伝って、セレナは動かなかった。
「それじゃ、行くよ」
小夜は剣を構えてセレナに切りかかった。当然セレナは剣を受け止め、小夜を押し返す。セレナは小夜の気持ちを無駄にしないためにも、真剣に小夜との立会に臨む。
2人の刃は交わり、真夜中の交差点にただただ剣戟の音だけが響き渡る。今までみたいにセレナがガムシャラに小夜に突っ込むのではなく、小夜の攻撃の合間などを突いた絡めても織り交ぜて、確実に小夜を追い詰めていく。だが小夜も負けじとセレナを体格差で押しつぶすように攻めていく。小夜が押しつぶし、セレナがその隙間を縫う。どちらも気が抜けない攻防戦が繰り広げられる。
そうして剣を交え続け、二人の間に沈黙が流れる。そこには会話など無く、お互いの剣を互いに示すだけの時間が続く。互いの実力は同じで、そこに大きな違いはないように見える。だが、技のキレではセレナが勝り、一撃の重さでは小夜が勝る。
一撃、また一撃と剣と剣が交差する。言葉などなくても、両者が剣に乗せた思いがぶつかり、ある種の対話とも呼べる奇妙な時間が続いていく。このまま剣を交えるだけの時間が続くと思われたが、ある一瞬、セレナの集中がほんの一瞬途切れた時だった。小夜の一閃がセレナの剣を弾き飛ばし、セレナの剣が離れた所に突き刺さった。セレナはすぐに取りに行こうと振り返ったが、小夜が首筋に剣先を向けた事で模擬戦は終了した。
「また私の勝ち、だね。何かわかったことがある?」
「負けてないです。私が油断しなかったら勝てましたから」
セレナは口では負け惜しみを言ったものの、何かを感じていたようで、小夜と目を合わせようとしない。小夜自身、猪突猛進に突っ込んでくるいつもの戦いぶりと比べたら、本当に負けていたのかもしれない。それほどの接戦だったのだ。
「本当、危なかったなあ。私とセレナちゃんの実力差なんてそんなモノだよ。冷静になれば、私達にそこまで差はないはず。本当に最後に決めるのは運次第ってところ」
結局の所、2人の勝負を分けたのは運だったのだ。今まではセレナの実力が十二分に発揮されていなかったというだけなのだ。
「……次は絶対に勝ちますからね」
セレナはそれだけ言い残してその場から去っていった。と言っても帰る場所は同じなので、未だ小夜に対して素直になれないだけなのだが。小夜もすぐに追いかけた。
翌朝、マリアが目を覚ますと隣にセレナが寝ていない事に気がついた。シラベにさらわれたのではないかと不安になり、部屋を出て急いで探す。すると、床の間の前でシラベが何かを見下ろしていた。
「あなた……ッ!」
シラベを追求しようとすると、彼女に口をふさがれ、静かにするように促された。シラベが足元を指差すと、小夜とセレナが2つ布団が並んでいるというのにもかかわらず、同じ布団で眠っていた。2人は決して寄り添うように眠っていないものの、その寝姿は姉妹と呼んでも差し支えないほど似ていた。
少しすると呼び鈴が鳴り、小夜達が目を覚ましてしまった。2人はいつの間にか同じ布団で眠っていた事に驚き、一瞬硬直したが二度目の呼び鈴で我に返り、小夜が急いで玄関へと走っていった。
小夜が戻ってくると、ツバサがやってきて逃げ出そうとしていたシラベを捕まえて速やかにギアを取り上げて手錠をかけた。
「ちょっとつーちゃん!なにこれ!?」
「見ての通りだ。まだ懲りないのか?罰としてしばらく泊まり込みで本部勤務だな」
「ちょっと待ってよ!セレナちゃんがいるっていうのに、真面目に仕事してる場合じゃないでしょ!?私はいつか色んな世界の小夜を集めて小夜ハーレムを作るっていう計画が……ぐふっ!」
途中まで言いかけたところでシラベはツバサの拳骨制裁を食らい、その場で押し黙った。それ以降はふてくされて大人しくなり、邪な野望について喋らなくなった。
「今回は折角の合宿だったのにシラベのせいで迷惑をかけた。本当にすまない」
ツバサは深々と頭を下げ、シラベの頭を無理やり掴んで頭を下げさせた。
「い、いいえそこまでしなくていいんですよ!?私達も、シラベが来てくれたお陰で色々と気づけたこともありましたし……」
小夜が3人を代表してシラベのフォローをした。シラベは一瞬得意そうな笑みを浮かべたが、ツバサに足を踏まれて、すぐに涙目でツバサを睨みつけた。
「それでは私はこれで失礼する。残り日数は少なくなってしまったが、せめて楽しんで欲しい」
ツバサは最後にそれだけ言い残し、シラベを引きずって帰っていった。シラベ本人もことの重大さは理解していたようで、文句こそ言っていたが、おとなしく引き下がっていった。
もっと暴れて抵抗するものと思っていたマリア達は、あまりにもあっけない幕引きに唖然とせざるを得なかった。
2日後、シラベの乱入以外は問題なく予定を終えたマリア達は、本部に帰還した。本部の門をくぐると、目を覚ました響が出迎えてくれた。
「セレナちゃんお帰り!いやぁセレナちゃんもこっちに戻ってきてるなんてびっくりしたよ!」
響は検査衣のままセレナに抱きついた。響が目を覚ましたことは驚きだったが、まさか数日でここまで回復するとは予想していなかった。
「響。まだ完全になおってないんだから、大人しくしてないと」
「ごめんごめん!でもみんな帰ってきたって聞いたら落ち着いていられなくって!それじゃまた後でね!」
未来に窘められて響は本部の奥へと戻っていった。そして入れ替わりになるように、報告書を持ったキャロルが現れた。
「立花響は無事に目を覚ました。イガリマの装者の除染作業も再会する見通しだ。だが、これだけは伝えておかなければならないだろうな」
キャロルは淡々とした口調で報告を続け、響の現状についての説明を始めた。
「結論から言えば、奴は全部覚えていた。自分が怪獣になっていた事は知らなかったようだが、目を覚ますとS.O.N.G側の怪獣に攻撃されたと言った。本人も相当混乱しているようだったのでな。スカルゴモラに関する情報は一度全てロックした。当然証言するのも禁止だ」
マリア達はキャロルの判断に異を唱えることはしなかった。彼女の判断は妥当なものであり、響にも不都合な事実は知らないでいた方が幸せであると判断したからである。
「さて、必要な事務連絡はこれぐらいか。一度休憩を入れて、キングギャラクトロンの模擬線を行う」
キャロルの指示で早速キングギャラクトロンを使った模擬戦が行われることになった。演習場にインペライザーが召喚され、クリスがその中に乗り込んだ。そして少ししてキングギャラクトロンが現れ、すぐに無線が入った。
『こちらキングギャラクトロン、準備完了です』
今回は小夜が主導権を勝ち取ったのか、通信機からは小夜の声が聞こえてきた。確かに怪獣戦に一番慣れている小夜がキングギャラクトロンを操れば、勝率は一番高くなるだろう。
結局の所、キングギャラクトロンは当初の想定通り小夜の強化形態として扱われると、観戦していた全員が思っていた。マリアとセレナが巻き込まれたのは欠陥なのだと判断した。
だが実際に模擬戦が始まるとその考えが覆された。
『セレナちゃん!ギャラクトロン部分の担当をお願い!』
『はい!』
『姉さんと私で一緒にキングジョーで攻撃するから、息を合わせて!』
『分かったわ!』
キングギャラクトロンの動きは見違えるほど改善されており、それどころか小夜を中心としてそれぞれのパーツを担当することで、小夜の判断が回らない部分をフォローしていく。
キングギャラクトロンの機動力の違いはハッキリと分かった。それは欠陥だったのではなく、3人で分担して操作することで2体の怪獣の潜在能力を最大限に活かすために必要なものだったのだ。
3人の緻密な連携により、キングギャラクトロンはカミソリデマーガを相手ともせずに一蹴し、ものの見事に撃破してみせた。カミソリデマーガが手加減していたという事実を差し引いても、この事実は最初からすれば大きな進歩だった。
『……戦闘終了。これなら実戦にも応えうるだろうな。本部防衛の要として申し分ない』
今回の模擬戦の結果をキャロルは冷静に分析していた。しばらくして、マリア達が戻ってきた。今回の模擬戦は非常にいい結果だったものの、既に疲労の色が見えている。
「帰還早々の模擬戦ご苦労だった。しばらくは休んでくれ」
「ええ。そうさせてもらうわ。あそこまで動けるようになったのは良いけど、セレナがかなり疲れてるみたいだしね」
セレナはマリアに背負われており、どうして今回のように小夜に合わせるようにしたのかはわからないが、セレナの変化が今回の結果をもたらしたのは確かだった。
S.O.N.G怪獣図鑑
融合獣型聖遺物 キングギャラクトロン
体長:65メートル
体重:7万4千トン
ステータス
体:★★★★☆+★★★☆☆
技:★★☆☆☆+★★★★☆
知:★★★☆☆+★★☆☆☆+★★★★☆
キングジョーを強化するべく、アガートラームを介して召喚された怪獣を合成させる予定が、ギャラクトロンが召喚された為に合体してしまった偶然の産物というべき怪獣。
スカルゴモラ同様ウルトラマンベリアルが素材に含まれていないので、外見が大きく違い、両怪獣の特徴が色濃く出ている。キングジョーの腕はペダニウムランチャーと換装可能であり、ギャラクトロンの腕にはギャラクトロンブレードが装備されている。
操縦は3人で行うので、3人の息が合わないとただ硬いだけの鉄塊となってしまうのが弱点。また、調のバトルナイザーと特別な設備が必要なので、S.O.N.G本部周辺以外で運用不可能という欠陥を抱えている。
デスフェイサー戦はひっ迫した状況だった為に奇跡的に息があった。