戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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第4話「怪獣のいる世界」

 撤収してきたマリアは、集中治療室で眠りに就いている響を見守っていた。この世界に来てはや3日。何故か響は2日間眠ったままだった。

「響っ!」

 いきなり扉を開け放ち、未来が入ってきた。後からやや呆れた様子のキャロルと翼が入ってきた。

「触るな。今ケアをしている所だ」

 中に入ろうとしている未来を引き止め、キャロルはパネルを操作して響の状態を確認していく。

「翼、無事だったのね。他のみんなは?」

「皆無事だ。雪音と奏も暁達と一緒に居住スペースを見に行っている」

 翼の言葉を聞いて、一安心した。ギャラルホルンで移動した途端、分断されて一時はどうなるかと思ったが、こうして再会できたのだ。

「セレナもここにいるのかしら?」 

「いや?見てないな。雪音の話だと、入り口で別れたらしい。壊された車を応急処置を施して修理工場まで運転していったらしい」

「セレナが運転!?ダメよ!万が一事故にあったら大変だもの!私が運転するわ!」

 まだ13歳のセレナが運転をしたと聞いて、マリアは居ても立ってもいられなくなった。すぐにでもセレナに会いに行こうと飛び出していこうとしたが、翼に止められた。

「まあ待て。セレナは成長した状態でこの世界に呼ばれたらしい。もう子供という年ではないのだから任せてみよう。可愛い子には旅をさせよと言うだろう?」

 翼に返す言葉もなくマリアは大人しくなった。セレナも成長していれば、マリアを煙たがるかもしれない。もしそれでセレナに嫌われてしまえば、明日からどうやって生きていけば良いのかわからなくなる。マリアはそう自分を納得させることにした。

「話は終わったか?」

 響の状態の確認が終わったキャロルが口を開いた。

「立花響のケアは大体終わった。ちょっとした実験のつもりだったが、『コレ』を付けないで怪獣を使役させるのはやはり危険だったな」

 キャロルは響のコンバーターユニットに何かの結晶体を装着して、マリアに投げ渡す。結晶体を取り付けられたソレは、二股の槍のようにも見えた。

「レイオニクスギア、専用のコンソールを使って軽い負担で怪獣を使役できるようにしたものだ。お前が持ってろ」

「ちょっと!それ響の―――」

「良いから黙ってろ。お前がしゃべるとややこしくなる」

 響のシンフォギアをマリアに渡した意図が掴めない。未来は当然抗議したが、キャロルに黙らされた。

「ガングニールは他のシンフォギアと事情が違う。専用の調整が必要になるかもしれないからな。まずはお前で試す。LiNKERも必要な時に渡す」

 キャロルはつまり、マリアを実験体としてしか見てなかったのだ。マリアの適合係数が低い以上、仕方のないことだがマリアは捨て駒のように扱われていることにあまりいい思いをしていなかった。

 

 

 クリス、切歌、調の3人はSONG基地内を探検していた。奏は今回の事態の報告をするのでこの場にはいない。クリス達はその間の時間潰しも兼ねて、この基地の間取りを確認しているのだ。

「にして、あたしらの世界とはちょっと違うんだな」

「それじゃ行くデスよ!じゃーんけーん、ポン!……やったデス!あたしが上のベッドデス!」

「くっ……」 

 割り当てられた部屋の前で、切歌と調がじゃんけんを早速始めている。部屋にあるのは2段ベッドと人数分の机と椅子。非常に質素な作りで、ただ寝泊まりするだけなら十分である。娯楽室や談話室も完備されているそうなので、個室が質素であることにあまり抵抗はなかった。

「てかお前ら馴染みすぎだろ。不安じゃないのか?こんなよく分からない世界に―――」

 クリスが2人の方を見たが、既に2人の姿はなく、トレーニングルームの方へと向かっているようだった。

「すごいデス!大怪獣バトルの筐体が置いてあるデスよ!しかも無料で遊び放題!ここは天国デスか!?」

 トレーニングルームと各自の個室はそう離れておらず、大興奮の切歌の声がダダ漏れである。クリスも追って中に入ると、本当にゲームセンターの筐体が置かれていた。しかも4台。それ以外にも、防音ガラスの向こう側では、資料室のつもりなのか怪獣図鑑が置かれているのが見える。

「クリス先輩!大怪獣バトルしましょう!」

 目をキラキラさせてはしゃぎまわる切歌とは対象的に、調は部屋の入口でじっと切歌を見つめているだけだった。いつものように、切歌と一緒になってふざけたりとかもしていない。

「はいはい。ゲームは今度なー。お前本当緊張感ゼロだよな。今は一応任務中なんだぞ?」

「でもでも!こんな物を見せられて興奮しない怪獣好きはいないデスよ!だってだって怪獣図鑑はもちろん、最新の超全集もある資料室!無料で遊び放題の大怪獣バトル!」

 切歌は遊園地に連れこられた子供のように色々と説明している。一応、そこそこ充実しているのは伝わってくるが、大怪獣バトルなんてやったことが無い上に興味もない。クリスからすれば、怪獣に立ち向かう兵器としか思っていないので、この部屋の存在意義そのものが意味不明だった。

 

 レギュラン星人トゥエルノは、根城にしている宇宙船でバルキー星人ジークの報告を受けていた。

「成る程、怪獣使いが増えたか……。養殖場を2箇所も潰されたのは痛いな」

「だろ?ボスがこれを聞いたらお怒りだぜ?」

 トゥエルノがリーダーを努めている『スペクトル』は、ボスの小間使いという性質上、慢性的に資金不足である。欲を言えば、強力なロボット怪獣を買って、一気に侵略を進めたい所だがそれは難しい。

「いや、もうボスには報告しちまった。スペースビーストのスパークドールズだけでも回収してこいだってさ」

 それを聞いて、ジークはがっくりとうなだれた。ペットのサメクジラに会いたい一心で帰ってきたのに、早速別の仕事が入ってきたからだ。

「オッケイ。行ってくるよ」

 哀愁漂う雰囲気を漂わせ、ジークは宇宙船を後にした。それを見たトゥエルノは、帰ってきたら何かごちそうでも用意しておこうかと思った。

 

 マリアはキャロルの命令で、一番最初に降り立った廃墟を探索していた。LiNKERも3つ持たされたので襲われても対処できる。

『なんでもいい、連中が落としていったスパークドールズを探せ。絶対にあるはずだ』

 今回の作戦はそれだけだった。キャロルからサンプルとして、スパークドールズを見せられたが、一見するとただの人形にしか見えなかった。どういう用途に使うのかも説明されず、乗り気はしなかったが一応キャロルは味方である。無意味に逆らう必要はないと思い、この作戦に参加することにしたのだ。

 マリアがキャロルに指示されたポイントに到着すると、キャロルに持たされたレーダーのスイッチを入れる。近くのスパークドールズの位置がわかると説明されたものだ。

(この辺かしら……?)

 レーダーの反応を頼りに、瓦礫を掘り起こすと、何かコンクリートととは違うものが少し見えた。マリアがそれを拾い上げると、グロテスクな肉塊のような人形が姿を現した。

「なにこれっ!?」

 目の前の人形を改めて見る。正直グロテスクすぎて見るのもためらうが、これも仕事なので仕方がないと諦めた。しかし、しっかりと持っていなかったことが仇になったのか、突如飛び出してきた影にスパークドールズをひったくられた。

「よう、ご苦労さん。これは頂いてくぜ」

 飛び出してきたのは、ジークだった。キャロルから渡された資料通りの風貌で、一瞬で判別がついた。

「ペドレオン回収完了っと。バグバズンも回収できたし、今日のところはここで引き上げるか」

 ジークが手元の端末を操作すると、一体の怪獣が転送されてきた。ゴメスを細くしたような違う一本角の怪獣だ。

「なるほど、アーストロンかあ。悪くない。じゃあお嬢ちゃん、こいつの相手でもしててよ、こいつのスパークドールだったらやるからさ」

 ジークはそう言い残して何処かへと姿を消した。

「もしもしキャロル?今の聞いてた?」

『ああ。スパークドールを取られたのは痛かったが、仕方ない。ここは試験がてら、ガングニールを使ってみろ』

 マリアはLiNKERを打ってガングニールを取り出す。響のように怪獣には詳しくないが、マリアはできるだけのことはしようと思い、聖詠を口にした。

『Granzizel bilfen gungnir zizzl 』

 次の瞬間、ガングニールから光が放たれ、一体の怪獣が召喚された。黒い体と鋭い一本角が特徴の怪獣だ。

『召喚成功だな。用心棒怪獣ブラックキングが出てきたか。よし、次は実戦データだ』

 マリアはブラックキングを召喚すると、必然的に五感がブラックキングと接続されているような感覚を覚えた。

(よし、これなら……!)

 もしここで剣や銃といった、マリアが使ったことのない武器を持った怪獣が出てきたらどうしようかと思ったが、体術なら多少の覚えがあったのでなんとかなりそうだった。

 アーストロンとブラックキング、互いに得物は持っておらず、そのまま肉弾戦に突入する。

 マリアはアーストロンを捉えて殴り倒そうと考えていたが、しかしブラックキングの攻撃をかいくぐるかのようにアーストロンは素早い動きでブラックキングに攻撃をしかける。

 ブラックキングは自分の懐に潜り込んできたアーストロンを蹴り飛ばし、距離を開ける。そして拳で追撃をしようとするも、アーストロンは後ろに退いて避けられてしまう。

(やっぱり、響みたいには行かないわね)

 マリアは普段自分が戦うような要領でブラックキングを操るが、ブラックキングの巨体では、攻撃が届くまでに時間差がどうしても出てしまう。それがアーストロンに決定打を与えられないのだ。

(どうしようかしら……。ゲームなんてやったことないし、怪獣の上手な使い方とか分からないし……)

 マリアはアーストロンの攻撃を防御するしかなく、マリアの体力だけが削られていく。LiNKERの効果時間が迫ってきていると思うだけで、焦り、無駄な攻撃を仕掛けてしまう。

 なんとか体当たりをしかけてアーストロンにダメージを与えたが、それでもこちらの消耗に比べれば微々たるものだ。

「どうしろっていうのよ、これ……」

 やはり、適合係数の低い自分では怪獣を扱う資格が無いのか、そう思い始めた時だった。

『マリア!ブラックキングは、パワーだけじゃないデスよ!』

 通信機から、突然切歌の声が聞こえてきた。

『ブラックキングはレッドキングと比べてパワーが低いデスけど、その代わり、バグマ光線や尻尾のなぎ払いで戦える怪獣デス!』

 切歌のアドバイス通り、尻尾を薙ぎ払うイメージを描き、ブラックキングを回転させる。 

 すると、ブラックキングの長い尻尾は見事にアーストロンを捉えた。アーストロンの体を薙ぎ倒し、初めて決定打を与えられたのだ。

「すごい……。さすが切歌ね」

『当たり前デス!SONGの怪獣殿下は伊達じゃないデスよ』

「怪獣、殿下?」

 通信機越しでも、切歌が胸を張っているのが想像できる。切歌のお蔭で、少し心に余裕ができた。LiNKERの効果時間は残り少ないが、このまま仕留めるのはそう難しくはないだろう。

「でも助かったわ。おかげで自信がついたわ。ありがとう、怪獣殿下」

 アーストロンはフラフラになりながら立ち上がり、なお立ち向かってこようとする。少し冷静になってみれば、アーストロンはこちらに真っすぐ進んでくることしかしていない。一見変則的に見えた動きも、こちらの攻撃を避けるための動きでしかない。

(じゃあ、まっすぐ、ギリギリで最大の一撃をぶつければ!)

 マリアはブラックキングにエネルギーを一点に集中させ、アーストロンをギリギリまで引き寄せる。避けるほどのスペースが無ければ、全力の一撃をぶつけられる。

 ブラックキングはアーストロンの肩を掴みかかり、口からマグマ熱線を放つ。真正面からブラックキングの最大火力をぶつけられ、アーストロンは悶え苦しみながら、爆発した。

 直後、LiNKERの効果時間も終了し、一気にマリアを疲れが襲った。偶然、爆発の衝撃で飛んできたアーストロンのスパークドールが頭に当たった。

「痛っ……。結構怪獣を使うのって、苦労するわね……」

『ご苦労だった。保険として出動させていた別働隊もゴメスのスパークドールを回収したと報告があった。作戦終了だ、すぐに回収のヘリを回す』

 マリアは瓦礫に腰掛けて回収のヘリを待つ。今回はなんとか戦えたが、これから先、もっと強い敵と戦うとしたら、どうなるか分からない。マリアはもっと強く、そして上手く怪獣を扱えるようになりたい。そう思うのであった。

 

 

 マリアの戦闘が終了した後、キャロルは一人、響の状態を見に来ていた。

「やはり、ガングニールを出し惜しみはしていられんか」

 レイオニクスコンソール無しで、怪獣を使役した場合でも、適切な処置を施せば一日ぐらいで全治する程度の疲労しかたまらない。

 つまり既に響は既に回復しているのだ。すぐにでもシンフォギアをまとって戦っても問題ないだろう。

 しかし、ガングニールの装者は他にいるのだ。響が戦わなければならない理由はないし、レッドキングを失う、敵に奪われるというリスクを考えれば、このようにコールドスリープして封印しておくのが最善というものだろう。

 もしマリアが苦戦せずにアーストロンを討伐すれば、このまま響を眠らせたままにしておくつもりだった。しかし、マリアは怪獣に関しては素人な上に、出撃の度にLiNKERを消費する。場合によっては浪費してしまうこともあるだろう。

 それならば、LiNKER無しで戦えて、尚且怪獣の扱いについても評価できる響を解凍した方が良いだろうとキャロルは判断した。例えそれが、レッドキングを失う結果に繋がったとしても、負けるよりかは断然マシだ。

 キャロルはパネルを操作して、響の解凍を始める。少し時間が掛かるが、今日中には目を覚ますだろう。

(こいつもレイオニクスではないし、無駄にしてもまた別のを呼ぶか)

 キャロルがこの世界のギャラルホルンを使い、別世界の装者を集めているのは、怪獣使いの遺伝子を持ったレイオニクスを集める事が目的の一つだった。レイオニクスでなければ、消耗品として使い捨ててしまえばいい。そう考えての計画だった。

 貴重なレッドキングを危険に晒すのは惜しいが、それよりレイオニクスを確保するほうが最優先だった。この世界のフィーネと同じ遺伝子を持った人間、それならば、レイオニクスギアを使った場合とは比較にならないレベルで怪獣のポテンシャルを引き出すことができるのだ。

 翼もクリスもメディカルチェックの結果でレイオニクスではないと結果が出ている。

 

 残る候補は、マリア、切歌、調、未来の4人。




SONG怪獣図鑑
用心棒怪獣 ブラックキング
体長:65メートル
体重:6万トン
力:★★★★☆
技:★★★☆☆
知:★★☆☆☆

 ナックル星に生息している怪獣。高い攻撃力と防御力を持ち安定して戦える反面、これと言ってなにかに秀でているわけではないので、一芸に秀でた怪獣に弱い。
 レッドキングと似たタイプの怪獣だが、レッドキングがパワー重視で一点突破型なのに対し、こちらはバランス重視で堅実な戦い方が要求される。
 マリアと共鳴し、必殺技の『HORIZON†MAGMA』を放つことができる。発動後は大幅にエネルギーを消耗するため、最後の一撃以外で使うことはない。

装者のコメント
切歌:ブラックキングはウルトラマンを苦戦させたこともあるほどの強豪怪獣なのデス!
マリア:ガングニールで呼び出したのが、『ブラック』キングっていうのも面白いわね。切歌がいなかったら、時間切れで負けてたかもしれないし、本当助かったわ。
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