戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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第34話「悪魔の侵攻作戦」

 衛星軌道上に無数に浮かんでいる宇宙ゴミを隠れ蓑にするようにして、一隻の宇宙船が浮いている。エグララグ達の根城となっている宇宙船は、宇宙ゴミに紛れていながらも近づくとはっきりと分かる程の存在感を放っていた。

 そこのブリッジにて、エグララグは地球を見下ろしながらメフィラス星人ジュピアと晩酌に興じていた。この時ばかりはエグララグもパワードスーツを脱ぎ、素顔を露わにしている。

「こうして飲んでいると、昔を思い出すな。2人しかいない所とか特にな」

「ええ。昔は私とボス2人しかいませんでしたから。ビエントもあの装者も死んで、ずいぶんと寂しくなったものです」

 まだほかの惑星など考えていない、遙か昔のことである。ジュピアが道の病に冒され、自暴自棄になっていた時、通りかかったエグララグがそれを見事に治して見せたのである。それ以来、ジュピアは命を救ってくれた恩を返すべく、こうして従者として仕えてきた。彼のためにもてる全てを振るい続け、気がつけば、宇宙を荒らすギャング一味としてならず者の一大勢力になっていた。

「ビエントも、あの少女もいなくなってからここもずいぶんと広く感じる」

「ええ。ビエントを喪ったのは痛手でした。まさか彼の慢心が彼自身を殺める結果になるとは」

「ああそうだ。だから次は報復の時間だ。弔い合戦といこうじゃないか。ジュピア、任せてもいいな?」

「さようでございますか。かしこまりました。明日にでも支度を始めましょうか」

 エグララグの一声で、次の標的をはっきりとシンフォギア装者達に向けた。地球侵略をする上で一番の障害になっている彼女たちを倒せれば、もう不安な点はない。

 ジュピアは酒を楽しみつつ、次の作戦の算段を考える。地球に来て、彼が直接動くのは初めてのことである。企みを考えているジュピアの手には、黒いバトルナイザーが握られていた。

 

 

 響が目を覚ましてから、妙な出撃が続いていた。日本あちこちに怪獣が出現し始めたのだ。当然装者達がこれにあたり、次々と撃破しているのだが、全く作戦の意図が読めない。

「ただいま戻りました……」

「ご苦労だった。次の出撃まで休んでくれ」

 ツバサは戻ってきた調から報告を受けていた。本来であれば撃破した怪獣のスパークドールズも届いているはずなのだが、それがない。

「また、か。今週に入ってもう10件目か。装者の数が多いことが幸いしたな。敵はなにを考えているのか……」

 現在本部に残っているのは調、そして小夜とセレナとマリアの5人である。翼と奏で東日本、クリスとクーちゃんが西日本で出現した怪獣の討伐に当たっている。できることならば、響も戦線に加えたいのだが、未来の希望もあって本部で静養している。

 エグララグが地球にやってきてからと言うものの、奇妙な時間が続いた。最初は敵も体勢を立て直していると考えていたが、今はなにも考えずにデタラメに攻めているとしか思えない。まるで自暴自棄になったかのような作戦を展開するような相手ではないとわかっているだけに、ツバサは対策に困っていた。

(何かの陽動のつもりなのか、それとも何かの布石なのか……)

 調の報告を元に作成した報告書に目を通しつつ、ツバサは考える。調がファイブキングを召喚できないという事実が気になるが、だが現状装者側が用意できる最高戦力がここに集まっている。そう簡単に敗れるということは考えにくいが、ツバサの気が休まることはなかった。

 

 

 任務の合間、セレナは市街地に来ていた。幸い、本部周辺に怪獣が出現していないので彼女にも余暇を楽しむ時間はある。

(やっぱりまだ日本語って難しいな……。姉さんとか小夜さん連れてくれば良かったかな)

 セレナがこれからどうするかを考えていたとき、ふと司会の隅で動くものが見えた。なにやらこちらの様子を伺っているように見えるが、こちらに接触してくる様子はない。もしかしたら敵のスパイかもしれないし、そうでなくてもあんな怪しい動きでこちらを見ている時点で警戒しなければならない。

 相手から見えないようにこっそり近づき、こちらを探している隙を見て、後ろから話しかける。

「えっと。あの……」

「ひぃっ!」

 相手は短く悲鳴を上げ、セレナも思わずびっくりしてしまった。相手はセレナよりも年上の女性で、どこかで見たことあるような後ろ姿をしている。

「えっと、何かご用、ですか?」

「あ、あぁっ……えっと、セ……じゃなかった……えっとなんだっけ……そう!小夜!小夜ちゃんに会いに来たの!」

「はぁ……。私は小夜さんじゃなくて、セレナ・カデンツァヴナ・イヴですが。小夜さんの親戚ですか?」

 セレナをこそこそ見ていた人物は、キャスケット帽を深くかぶり、色眼鏡をかけているので顔はよくわからない。だが、小夜の名前を言い換えたということは、彼女の事情をよく知る親戚かもしれない。とりあえずは探りを入れて、彼女の正体を探る。

「え、えっと、そうそう!私は小夜ちゃんに会いに来たの!ほら、ここのところ物騒じゃない?大丈夫かなーって心配になって!えっと、あなたは小夜ちゃんの友達?」

「えぇ。まぁ」

「そうなの!?じゃあよろしくね!セレナ、ちゃん!」

 女性はセレナの手を強く握る。先ほどまでの動作やしゃべり方のたどたどしさ、どう考えても小夜の親戚ではない。彼女のストーカーか何かであると見て間違いないとセレナかは確信した。

「あの、ところであなたは……?」

 セレナに指摘され、女性は初めて自己紹介をしていないことに気がついたようで考え込む。セレナは誰かに似ているような気がするのだが、思い出せない。声や所作は確実に見たことがあるはずなのに思い出せないことに鬱憤がたまってしまう。。

「ご、ごめんなさい!自己紹介してなかったわね!私はマ、マ、ま……真夜(まや)立花真夜(たちばなまや)よ!よろしくね!」

 真夜と名乗った女性は表面上は明るく振る舞っているものの、喋り方に吃音が混じっている時点で怪しすぎる。それに、見え隠れしている顔の特徴はどう見てもアジア人のものですらない。やはり真夜と名乗った女性は小夜の知り合いではない。セレナはそう確信した。もしかすると、アメリカから小夜を拉致するために来たスパイかもしれないのだ。

(とりあえず、適当なことをいって帰ってもらおう)

 いくらセレナが小夜に対抗心を燃やしているといっても、こんなストーカーと会わせるほど鬼ではない。適当に町を案内して、予定が合わなかったと言って帰ってもらおうとセレナは考えた。

「それじゃ、ちょっと確認するので、その間町を案内しますね!」

「ありがとう!この辺、全然知らないから、道も分からなくて困ってたのよ!」

 セレナは支給された携帯電話で確認する振りをして、真夜を案内する。頃合いを見て、小夜本人に確認した方がいいだろう。本当に親戚である可能性だってあるのだ。

「真夜さんはどこか行きたいところとかあります?」

「えっと、うん……。そうね、まずはランチとか食べられる場所とかあるでしょ?そこに連れてって欲しいわね」

 セレナは最初、小夜へのお土産を買っていくためにお菓子屋や服屋が選ばれると思っていた。だが真夜が飲食店を希望するとは全く考えていなかった。基本的にS.O.N.Gの食堂か、物珍しさに寄ったコンビニでご飯を済ませているセレナにとって、この辺りの飲食店事情は完全に専門外だった。だがセレナは頭をフル回転させて真夜の期待に添えるような飲食店を考える。

(思い出すのセレナ。F.I.Sの人たちの話を思い出すの。絶対においしいご飯屋さんがあるはずなの)

 幸い、名前だけならセレナが知っているお店がちらほらと並んでいる。

(持ってるお金から考えて、高そうなお店は入れないし……。日本人が気軽に食べてるものといえば……)

 もしここに小夜がいたならば、適当なラーメン屋に案内するのだが、日本人の食事上に詳しくないセレナはラーメン屋に入るという発想ができなかった。

 ふとした時、セレナは見慣れた看板の文字を見かけた。日本はおろか、世界中にチェーン店を展開する世界的なハンバーガー屋である。日本限定メニューでも頼めば満足するはずである。

(ハンバーガー屋さん!これなら、きっと!)

「あのお店にしましょう!今ちょうど限定メニューが出てるんですよ!」

「ハンバーガーのお店……?セレナちゃんのおすすめならいいけど……」

 真夜を連れて店の中に入る。正直言ってこういう場所ではどう頼めばいいのか分からないが、ちょうど他の客もいたので、それをマネして注文をする。

 運ばれてきたハンバーガーのセットを手に取り、2階の席へと向かう。

「思ったより、小さい……?」

「どうかしました?」

「あ、ううん!なんでもないの!最近食べてなかったから、ちょっとビックリしただけ!なんでもないの!」

 真夜の様子はかなり不自然で、引きつったような笑みを浮かべながらハンバーガーの包みを剥がして食べる。セレナも限定の2文字を頼りに選んだメニューであるので、セレナも味の保証はできない。

 だがこのハンバーガーを食べてからというものの、真夜は明らかに何かを言いたそうにしている。目が泳いでいるのに黙々と食べている様は正直不快である。

「えっと、何かありましたか……?」

「え?いや、ちょっと慣れない味だなって……」

 やはり、外国から来たであろう真夜にとって日本のハンバーガーは口が合わなかったようだった。そこでセレナはとあるものを持っていたことを思い出した。

「あの、これ食べます?」

 セレナが取り出したのは、少し前にキリカからもらったケミカルバーガーである。貰えた事自体は嬉しいのだが、セレナの口には合わなかったのでずっと持ったままなのだ。

「あ、ありがとう……。いただくわ……これケミカルバーガー?!やった!これ好きなのよ!この味がいいのよね!まさかここで食べられるなんて思わなかったわ!あなたはウェルの知り合い!?」

 キリカは言っていた。このケミカルバーガーはアメリカではそこそこの人気はあるものの、海外輸出は失敗続きであると。アメリカ人以外にはジャンキーすぎて敬遠されたり、口に合わないらしい。

 故に例外を除けばこのハンバーガーを食べて感激した人間は高確率でアメリカ人らしい。つまり、立花真夜という名前で小夜の親戚であるというのは真っ赤な嘘であり、当然偽名である。真夜本人もそれに気づいてしまったようで、冷や汗をかいてそのまま脱兎の如く逃げ出した。

「あ、待ってください!あなたは結局誰なんですか!」

 セレナは逃げる真夜を追いかけて、ハンバーガー屋を飛び出した。不幸中の幸いか、食べ賭のハンバーガーなどは全て持ち去ったようで、片づけもそこまで時間はかからない。加えて、走りながら食べていることを考えれば、体の小さいセレナでも追いつけるかもしれない。

 律儀に片づけを終えてセレナは真夜が走っていた方向へと向かう。道中、携帯電話を操作しながら真夜の正体を問い合わせる。小夜に電話すべきかと考えたが、真夜の存在を伏せておきたいセレナにとって、小夜に電話をするわけにはいかない。この状況で頼りにできる人間は一人しかいない。電話帳から目的の番号を探し出し、電話をかける。

「もしもし指令の方のツバサさんですか?!」

 セレナが電話の相手として選んだ相手は、この世界のツバサだった。小夜とのつきあいが長い彼女ならば、真夜の正体も知っているかもしれない。

『風鳴司令と呼んでもらってもかまわないのだが……。そんな事よりどうした?敵襲か?』

「さっき、真夜っていう小夜さんの親戚と一緒にいたんですけど、どうも怪しくて正体を聞き出す前に逃げれられちゃたんです!何か心当たりはありませんか?」 

『小夜の親戚……?いや、そんな事はないはずだ。ヒビキの協力者を洗い出すために親戚周りを調べたが、真夜なんて名前はなかった。ヒビキに次ぐ侵略者側の装者かもしれない。なんとしても正体を暴いて欲しい。こちらもその人物を捜してみる』

「はい!」

 セレナは真夜の走っていったであろうルートを辿り、彼女の姿を探す。土地勘のない真夜は確実に逃げ切るためにも人通りが少なく、かつ遠くに逃げられそうな道を探すはずである。

(いた……!)

 ほとんど勘頼りの不安定なルートだったものの、無事に真夜のいるところまで追いつけた。セレナはアガートラームを握りしめ、相手の出方を探る。場合によっては、また人を切らなければならないのだ。

「もう、危ないところだったわ……。バレたら一巻の終わりっていうのに、なにやってるのよ、私……」

 真夜は息を切らしながら周囲にセレナがいないことを確認している。セレナは背後からゆっくり近づき、真夜を取り押さえようと忍び寄る。あまり時間をかけては意味がないので、一気に距離を詰めなければならない。

 後一歩で真夜を捕まえられると思ったそのとき、背後から忍び寄る気配を気取られ、伸ばした手を掴まれて、背負い投げされて真夜に取り押さえられてしまった。

「誰!?……って、セレナちゃん!?なんでここに……?」

「だって突然逃げ出すから、追いかけてきたに決まってるじゃないですか……。いきなり逃げるなんて酷いですよ」

 真夜はセレナが追いついてきたことに驚いていたようで、セレナも背中の痛みをこらえながら真夜と向かい合う。

「えっと、ごめんなさい……。ビックリしちゃって……あはは」

 真夜はセレナを起こすと、ついでに服に付いた土なども落としてくれた。だが目を合わせようとしてくれず、目が泳いでいる。セレナを投げ飛ばしてしまったことに対して必要以上に動揺しているようにも見える。

「それじゃ、単刀直入に聞きます。あなたは一体誰なんですか?」

 セレナは真夜を刺激しないように、優しく問いかけた。真夜もどう答えていいのか分からなかったようだが、少し間を置いて、話す決心をしてくれたようだった。

「私は、事情があって本名は言えないけど、小夜に会いに来たただのアメリカ人よ。ウェルとは前の職場で色々とお世話になった人で、ケミカルバーガーもよく食べてたわ」

 真夜の話に対してセレナは黙って話を聞いていた。彼女の正体に迫るためにも、一言も聞き逃す訳にはいかない。

「ねえお願い。小夜に会わせてくれないかしら。一目会うだけでもいいの」

 真夜の頼みを無碍にする理由もないが、セレナがその判断を下せるかと言われれば、非常に判断に迷うところであった。彼女のこの態度は演技で、実は小夜を狙っている可能性だってあるのだ。

 そんなセレナの思考を遮るかのように、何も前触れもなく現れた怪獣が吠えた。今まで怪獣が現れるような兆候は見受けられなかった上に、警備の厳しいこの地域で侵略者が潜伏していたとは思えない。

 怪獣の出現を見たセレナは、すぐさま本部に無線を入れた。この異常事態であれば、なにかしらの情報を手に入れているはずである。

「こちらセレナ。目の前に怪獣が出現しました!指示を!」

『ああ。こちらでも把握している。該当する怪獣は、怪獣酋長ジェロニモン。怪獣を蘇生させる能力を持っている。総力戦も考慮した作戦プランを検討中だ。各地に配備した装者達も呼び戻す』

「了解しました!真夜さんを連れて一時避難します!」

『了解。こちらも響を向かわせる。回復したばかりで無茶はできんが、露払い程度ならできるだろう』

 ツバサとの通信を終え、セレナは真夜の手を取って逃げようとする。ここでレイオニクスギアを発現させて立ち向かおうにも、彼女の安全を確保しなければ巻き込んでしまう。

「逃げますよ!」

「えっ?う、うん!」

 セレナはそのまま走り出す。周囲の道や避難所の位置は頭にたたき込んである。ここからでは少し遠いが、逃げられない距離ではない。

「セレナちゃん!」

 大通りに出ると、上から響が飛び降りてきた。真夜は響の顔を見て驚いたようだが、響は真夜独特の雰囲気を見ても全く動じない。

「あなたが真夜さんですね?避難所まで護衛します!」

 響に真夜を預け、自分も本部に帰投しようと考えていた時、空間が歪み、黒い人影が現れた。メフィラス星人ジュピアである。その手には、黒いバトルナイザーが握られている。

「まさか、私が直々に戦場に出てくるなんて思いませんでしたよ」

「バトルナイザー!?なんで!?」

「別に珍しいものでもないでしょう。レイオニクスは各惑星に一人現れるもの。私たちの中に一人ぐらいいても不思議ではないでしょう。特に、私はジェロニモンがお気に入りでね。アレがいれば絶対に劣勢にならない」

 ジュピアは見せつけるようにバトルナイザーを見せる。侵略者が幹部を倒されても平然としていた根拠は、ジュピアにあったのだ。ジェロニモンの生死を入れ替える能力があれば、倒された見方を無限に生き返らせることができるのだ。

「少し計画に誤差が出ましたが、まあいいでしょう。すぐに修正できる」

 恐らく彼は手負いの響では返り討ちにあうのが関の山だろう。セレナが戦うと仮定した場合でも、真夜を守り抜くことは難しい。であれば、ここでの最適解は一つしかないだろう。

「立花さん。真夜さんを頼みます」

「セレナちゃん、大丈夫?」

「ええ。私だって立派なシンフォギア装者ですから。一人でも戦えます」

 真夜を響に預け、セレナはペンダントを強く握りしめる。正直なところ、怖いわけがないが、引き下がるわけにはいかない。

「うん。すぐに応援を呼んでくるから、それまで頑張ってね。私もすぐに戻るから」

 響はセレナを信じ、真夜を抱えて跳んでいった。セレナも聖詠を詠い、ギアをまとう。剣を構えて、ジュピアと向かい合う。

「素晴らしい。この世界のあなたもそうですが、愛情とは本当に素晴らしいものです」

 ジュピアとセレナはしばらく互いの様子を伺っていたが、その静寂を破ったのはジュピアだった。彼の発射した光弾をセレナの剣が弾き、戦いの幕が上がった。

 飛んでくる光弾をかわしながら、セレナはジュピアの懐に飛び込み、大きく開いた傷口を狙う。だがジュピアも黙ってはおらず、セレナの刃を弾き飛ばした。セレナの小さい体ではジュピアの懐に容易に飛び込むことはできても、ジュピアの腕力に耐えきれず一緒に吹っ飛ばされてしまう。

 空中で姿勢を立て直し、ジュピアの背中を見せないように着地をしたものの、目の前にジュピアが迫っており、防御する暇も与えずにセレナを殴り飛ばした。ジュピアは地に伏したセレナの首を掴んで持ち上げる。最後の力を振り絞り、セレナはジュピアに一太刀でも浴びせんとするが、すぐにでもはたき落とされてセレナは対抗手段を失った。

「小さいあなたでは駄目でしたね。本当に残念でした。あなたの細い首を折ればすぐに終わります。ですが……」

 ジュピアはセレナの首に込める力を強め、セレナの顔が苦悶の色に歪んだ。

「どうせ死ぬんですから、苦しんでくれたほうが気晴らしになります。じっくりと絞めることにしましょう」

 セレナは必至にもがき苦しみ、一刻も早くジュピアの拘束から逃れようとするが、体格差もあってかジュピアの腕が離れることはなかった。

 まるでセレナの抵抗をあざ笑うかのように締め付ける力が強くなっていき、セレナのもがく力も徐々に弱くなっていく。そしてギアを維持することもできなくなり、抵抗を続けていたセレナの手足も力を失い、セレナは糸の切れた人形のように動かなくなった。既に瞳には生気を宿しておらず、意識が残っているかすら疑わしかった。

「弱い。あまりにも、弱い。もう少し粘ってくれると期待していたのですが、残念です」

 ジュピアの力では、ただの少女に過ぎないセレナの首を折ることなど造作もない。これ以上セレナが抵抗してこないとハッキリと分かっているので、ジュピアはこれ以上楽しむ必要もなく、そのまま握る力を強めた。

 

 

 全国に散っていた装者の中で、一番最初に現場に駆けつけることが出来たのは奏だった。セレナが一般人を逃がすために単独で敵と交戦しているという情報を受け、補充のLiNKERを受け取り、すぐに駆けつけた。調は出現したジェロニモンに対する切り札として出撃させるわけには行かず、翼達の帰還はまだ先である。響はまだ本調子ではないが故に、敵の幹部と対峙させる訳にはいかない。

(クソっ、こんな時に……!)

 装者が全国に派遣されると決まったとき、最終的に戦える装者はセレナしか残らないことははっきりと分かっていた。だが、あの時はまさか敵の幹部が攻めてくるとは予想することは出来なかったし、セレナがまだ他の装者と比べて幼いこと、彼女が本部防衛の要であるという理由で派遣することはできなかった。まさに最悪の事態とはこのことだった。

 奏が現場にたどり着くと、そこには見慣れない装者の姿と、右腕を切り落とされたジュピアの姿がそこにあった。

「まさかあなたがそうするとは……」

 ジュピアと対峙していた装者は、明らかに異質だった。傷んで変色した長い髪とボロボロに擦り切れたマント、そしてその隙間から垣間見える、先端の折れ、所々が傷んだアーマー。それはシンフォギアというより、亡霊と呼んだほうがふさわしい程、それは異質な雰囲気をまとっていた。

「本当に残念です。シンフォギア使いをひとり潰せると思ったのですが」

 ジュピアは傷口を押さえながら撤退していった。同時に本部に迫っていたジェロニモンも消滅し、ジュピアを対峙していた装者がこちらを向いた。仮面を被っているのでその素顔は分からないが、顕になったその姿は、奏も非常に見覚えのあるシルエットをしている。黒いガングニールをまとい、倒れていたセレナに手を伸ばす。

(狙いはセレナか……!)

 謎の装者がセレナを狙う理由はわからないが、得体の知れない人物にセレナを渡す理由もない。奏はアームドギアを構え、セレナに手を伸ばすその人物の前に躍り出た。

「悪いがこの子は渡せないな。お前は誰だ?」

 ガングニールの刃先を向け、謎の装者を牽制する。正面から対峙してわかったが、全体的に傷みきった黒いガングニールを纏う彼女の手足に、黒く光る枷のようなものが取り付けられていた。ボロボロのギアとは対象的に、その部分だけが真新しいのがかえって不気味である。

「……フィーネ」

 ジュピアの相手で消耗し、奏を相手取る余力もないのか、謎の装者はそれだけを言い残してその場から去っていった。奏はフィーネと名乗った装者を追うこともせず、彼女が逃げ切ったことを確認すると、背後で倒れていたセレナの方を向き直った。

「弱々しいが息はしてる……。間に合ってよかった」

 奏は安堵の笑みを浮かべると、セレナを担いでその場を後にする。ジュピアの撃退した謎の装者フィーネは敵か味方かは分からない。ただ今は、セレナが無事であるという事実を奏は喜んで受け止めるだけだった。

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