戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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第35話「幽槍・ガングニール」

 

 

メフィラス星人ジュピアの侵攻、謎の装者フィーネの出現と立て続けに異常事態に見舞われ、ツバサはキャロルと2人で執務室で意見交換を行っていた。キャロルは黙々と今回の戦闘データなどに目を通して意見を自分の中でまとめているようだった。

「それで、お前はどう思うんだ?」

「ジェロニモンの能力を考えれば、フィーネを名乗った人物の正体は必然と絞り込めるだろう」

 ジュピアに敵対しているとはいえ、フィーネがこちらの敵にならないとも限らない。ガングニールの適合者となればアメリカ政府のデータベースや日本に残っているデータを探せばその正体は容易に割り出せる。問題は彼女がジェロニモンの能力で蘇生された人間なのか、それともジュピアが雇って呼び寄せた装者なのか、という点が不明であるということだ。それが分からない以上、特定には時間がかかるだろう。

「まだ正式な決定にする訳にはいかないが、侵略者と敵対するシンフォギア装者となれば、我々の戦力に加わってくれるかもしれない。敵と断定するのは早計だな」

 戦いが熾烈を極めるに連れて、装者たちの負傷が目立ってきている。徐々に回復しているとはいえ、今後のことを考えると戦力は一人でも多く確保したいのがツバサとしての意向だった。

「そうか。確かに交渉の余地が無いと決まったわけじゃないからな。立花響はどうした?帰還報告が届いていないが……」

「あぁ。そのまま保護した一般人の保護を続けると報告を受けた。相手は小夜の親戚を名乗っているが、セレナの話を聞く限りではかなり不審な点が多い。」

 侵略者の中でも重要な立場にあると目されているジュピアが出てきたのだ。戦いは終盤に向かっているというのが現在のS.O.N.Gの見方である。

「それと、暁切歌の除染もかなり進んだ。時期に目を覚ますはずだ。ギアがまとえる段階まで回復した時点で、元の世界に送り返せ。さすがにそこから先は面倒を見きれん」

 キャロルは手元にある切歌の治療経過を見ながら告げた。元々、LiNKERを要する装者については期待していなかった。最悪の場合、響達を逃がすための囮とするつもりだったのだ。だが、調はレイオニクスとして覚醒し、マリアは小夜の戦意を維持するために欠かせない人材となった。その中で唯一、切歌だけが貢献するどころか調を拉致するという面倒な結果を持ち込んだ。装者の数は多いに越したことはないが、切歌にこだわる必要はないのだ。

「それでは失礼する。他の仕事が待ってるからな」

 キャロルはそれだけ告げて執務室から去っていった。一人残されたツバサの憂いは、まだ晴れない。

 

 

 調は今日も切歌の治療室の前で彼女の見舞いに来ていた。経過は至って順調で、目を覚ます日もそう遠くないと聞いて、少しだけ安心している。

「……またここにいたの?飽きないね」

 廊下の奥から、こちらの世界の自分がやってきた。以前、彼女に押し切られて仕方なく彼女の影武者を頼まれたのだが、すぐにばれてしまったのは記憶に新しい。

「もう、しっかり影武者やってよ。妙に大人しいからバレちゃったじゃない」

 シラベは顔をあわせるなり悪態をついた。普段は意識することがなかったが、こうして顔を合わせると、体の大きさや雰囲気がまるで違う。平行世界(もしも)の自分がここまで変わるともはや別人である。今のところ、一番相違が少ないのは翼ぐらいのものである。

「ごめん……」

「ま、私たちってほとんど別人みたいなもんだし、はいそうですかってできたら苦労はしないか……」

 シラベは自分にもっと不満をぶつけたいようにも見えたが、調の態度を見て、あまり強くは言おうとしないのが見て取れる。だが縮こまっている調を見て、少し苛立っているのも事実のようだった。

「切歌ちゃん、だっけ?大切な人に構うのはいいけど、実戦で足引っ張らないでよ」 

「う、うん。ごめん……」

「ばぁっ!」

 シラベが悪態をついている最中、通りすがりのクーちゃんがいきなり現れ、2人を驚かした。調は驚いて声も出ず、シラベはまたか、といった顔をした。

(これが、こっちの世界のクリス先輩……。全然違う人、本当にクリス先輩なのかな?)

「もうダメだよ、そんなこと言ったら?シラベちゃんってばただでさえ友達が少ないんだから、仲良くしてくれる人は多い方がいいでしょ?」

「別に。私には小夜がいるし、セレナちゃんの方がだってしますし。余計なお世話ですよ。クリスさんは黙っててください」

 やはりシラベもクーちゃんに苦手意識があるようで、クーちゃんがやってくるなり鼻を鳴らして去っていった。

「ごめんね~。シラベに悪気はないんだけど、口が悪くってさ。あんなんだから、小夜(セレナ)以外の友達がいないんだよね。まあ、本人があそこまでストレートに言ってくるってことは、そこそこ信頼されてるってことなんだけど……。仲良くしてあげてねっていいづらいけど、邪険にしないでくれるとうれしいな。はいこれ、差し入れ」

 クーちゃんが差し出したのは、コンビニでも売られているあんぱんだった。特に何の変哲もないあんぱんだが、調達の世界のクリスが食べているのと同じメーカーが出しているあんぱんのようだった。

「こんなんでごめんね。今お金無くてさ~。切歌ちゃん、早く治るといいね」

 クーちゃんは本当に挨拶によっただけのようで、調に簡単に謝罪をして去っていった。クーちゃんとクリスは雰囲気やしゃべり方こそ違うものの、『後輩思いの先輩』という点はあまり変わらないようだった。

(でもこれ、こしあん……)

 平行世界(もしも)のクリスは、やはり限りなく本人に近い別人であるということに変わりはないようだった。

 

 

 クリスが訓練を終えてシャワー室にはいると、たまたま未来と小夜がいた。2人ともシャワーを浴び終わった後で、ゆっくり話し込んでいる最中のようだった。

「そう言えば小夜ちゃん、こっちの私って今どうしてるの?」

「そうですね……。小学校を卒業してから、会ったことがないのでよくわかりませんが、多分元気だと思います。昔、よく遊んでもらってたんですけど、リディアンじゃなくて、地元の学校に行ったとしか聞いていないんですよ」

「へえ、まあ私もここにいること自体偶然みたいなものだし、それも私なんだよね……」

「そういや、おまえは両方の世界のほとんどの奴らと面識があるんだよな?アタシら結構違うから、最初は戸惑ったりしただろ?」

 クリスは手早くシャワーを終わらせて、未来の隣に座る。最初は小夜しかいなかったが、今ではこちらの世界の装者全員がここにいる。両方比べてみると、クリスとクーちゃんのように別人に近いものから、そこまで相違がない人物もいる。マリアのように比較のしようがない人物もいるが、

「最初はビックリしましたよ。みんな知ってる顔なのに、ぜんぜん別人みたいで。あのときは私も私のことでいっぱいいっぱいでしたし、そこまで意識する余裕もありませんでしたが」

まだクリス達がここに来て一年も経っていないが、最初の頃が遠い昔のように感じる。最初はここまで長期にわたってこの世界に留まるとは思わなかったが、時間の早さを実感させられる。

「みんな大変!セレナが飛び出して行っちゃったの!」

 クリス達が話に花が咲かせていると、あわてた様子のマリアが駆け込んできた。セレナが飛び出していった、その一言で全員が臨戦態勢に入った。この世界にきて一番負傷の激しい彼女が

「おい、何かあったのかよ」

「さっき、響から援軍要請があったの。また敵が攻めてきたって。それを聞いたセレナが飛び出して言っちゃったの。場所はここからそう遠くないし、ギアのアシストがあればセレナでも行ける場所なの。お願い、セレナを止めてくれないかしら?」

 マリアの申し出を受けて、クリス達はギアを取り出して身構える。幸い、本部防衛に支障をきたすような人数ではない上に、敵の本丸をたたけば消耗戦を避けられる。ツバサを説得するには十分だ。

『緊急事態発令、ペドレオン、バグバズン、アラクネアの侵攻を確認。装者は迎撃準備にあたってください。繰り返します---』

 だがそれを阻むかのように敵襲を告げるアラートが鳴り響いた。クリス達はすぐにでもセレナを追いたい気持ちを必死にこらえ、司令室へと向かった。

「来たか。状況を説明する。マリアが言ったように、セレナが逃げ出した。恐らく行き先は響が護衛している一般人のところだろう。すぐにでも回収部隊を編成したいが、敵の侵攻がある以上、まずは本部防衛が最優先だ。本部防衛には小夜、小日向、奏の3名が、回収部隊には月読と雪音、もう一人の私が向かって欲しい。フィーネを名乗るガングニールの装者と交戦になる可能性がある。そうなったら、対象の保護が最優先だ。生きていれば状態は問わん」

 ツバサから各人に通達が出された。しかし、本部防衛の観点から、遠征任務に当てられていなかった調が回収任務に当てられることには違和感があった。

「いいか、敵のメフィラス星人は例鬼楠であることが確認された。あのジェロニモンは野生の個体以上の能力がある可能性が高い。シュルシャガナができることならファイブキングを操り撃破して欲しい。無理ならレイキュバスで凍りづけにしろ。援軍を派遣する」

 隣に控えていたキャロルが今回の作戦に付け足しをした。レイオニクスが操る個体が強いことはファイブキングの騒動で証明済みである。確かに調は切り札になりうるが、いたずらに戦力を消耗しない為に彼女の力を使うほかない。

「それでは作戦を開始する。各人、配置につけ!」

 ツバサの号令で装者を含めた全職員が配置につく。回収部隊に任命された装者達は、マリアの運転する装甲車に乗り込み、防衛任務に当たる装者と本部の入り口で別れた。

 

 

 現場に到着すると、そこはリディアン跡地よりさらに奥にある、廃墟だった。何かの処理場だった跡があるが、ボロボロになった建物からは推測することが難しい。

 中からは金属音がかすかに聞こえ、敵襲から響が孤独に戦い続けてるのが分かった。

「行くぞ」

 翼の合図で中に入り、敵影を探る。だが中は不気味なほど静まりかえっており、敵がいないことを確認すると、音のする方へ急いで向かった。

 音の場所にたどり着くと、その光景に翼達は目を疑った。戦っていたのは、武装したジュピアと、報告にあった謎の装者(フィーネ)が交戦していた。響の姿は見えないが、今はとにかくジュピアを撃退することが最優先である。

 クリスは2人めがけてガトリングで牽制し、翼と調がその間に割って入る。続いて調のコンテナから放たれた鋸がジュピアの装甲を削り、わずかに後退させた。

「雪音!月読!そいつは任せるぞ!フィーネは私に任せておけ!」

「あいよ!」

 クリスはフィーネとの相手に翼を専念させるために、ジュピアを押さえつけて、建物の外まで押し出した。翼はクリスたちが出ていったのを確認すると、剣先を向けた。

「貴様、そのガングニールはどうした?もう2人、この辺にいたはずだがな」

「……知らないわ。これは初めから私の物よ」

「しらを切るつもりか……!」

 彼女が報告どおり、1人でジュピアを撃退し、また補給もなしに彼と対等に渡り合っていたのなら、相当な手練ということになる。もし戦闘になった場合、苦戦は免れないだろう。

「今、貴様は捕縛命令が出ている。抵抗しなければ手荒な真似はしない」

 フィーネを刺激しないように、翼は慎重に投降を促す。彼女がS.O.N.Gを狙ってきた敵の手先でないのなら、不必要な争いは避けるはずだ。

「それで、あなたは私に何をするつもりなのかしら?」

 少し考え込んだ後、フィーネが発した言葉がそれだった。翼は次のカードを考える。まだ完全に彼女を信用できるわけではないので、武装を解いて、彼女警戒心を和らげる事は非常にリスクが伴う。仮面で素顔が見えないが、彼女がこの世界のフィーネと仮定した場合、武装解除と同時に襲いかかってくる事もありうるのだ。

「こちらとて、貴様の身元を確かめねばならない。フィーネを名乗っている以上、放置するわけにもいかん」

「そう。悪いけどこちらにはあまり時間がないの。ここで時間を浪費する訳にはいかないもの」

 フィーネは翼の要求を呑むつもりはないらしく、槍を向けた。翼はこうなるようなことは想像していたが、フィーネが投稿してくれることも内心期待していた。だが、それが叶わないとなった今、彼女を撃破しなければならない。

「あなたこそ、ここで大人しくしてれば悪いようにはしないわ」

「断る。貴様には答えてもらわねばなるまい。立花の行方、そのギアの出所、貴様の正体をな!」

 翼はフィーネを捕まえるために、先に勝負を仕掛けた。油断できるような相手ではないが、翼とて素人ではない。対等には渡り合えるはずだと信じていた。

 向かってくる翼にフィーネは動じることもなく槍を振るう。一太刀交え、フィーネの戦い方が響のような豪快なものではなく、マリアや奏のように訓練されたマニュアルに従った戦い方をしているのが伝わってきた。それは彼女が一人ではなく、組織の人間であることを意味している。

「貴様、どこの人間だ?」

「アメリカ、とだけ答えてあげるわ」

 フィーネはそれ以上のことを語らず、翼との刃を交える。彼女の戦い方に迷いはないが、それとは違う何かを感じる。間違いなくフィーネは手練れだが、一撃一撃に彼女自身の心が乗っていない。本当に学んだとおりの機械的な戦い方をしている。

「このままではラチが開かん……。やむを得ん!イグナイトモジュール、抜剣!」

 対人戦でのイグナイトモジュールの使用は躊躇するところもあったものの、装甲(アーマード)メフィラスと戦わせているクリス達に負担をかけてしまう。確かにフィーネを捕まえることは重要だが、あくまで翼達の目的は地球を守ることなのだ。目の前の敵を放置していい理由にはならない。

 イグナイトモジュールを身にまとい、改めて2本の刃を構えて向かう。フィーネは姿が変わったのを見て、驚いたような素振りを見せたが、槍を握り直して翼と合間見える。

(正直な話、二刀はそれほど得意ではないが、四の五の言っていられないか)

 翼は利き手でマリアの槍を受け止め、逆手の剣で彼女の槍をねらう。彼女の槍を弾き飛ばせれば、彼女の攻撃手段はなくなる。彼女も投降してくれると翼は確信した。

「さすがにこけおどしじゃ、無いわね!」

 翼の出力があがったのを体で感じ取り、フィーネはマントをひるがえして翼から距離をとった。ボロボロのマントではマリアが使っていたときのような強さは見せなかったものの、翼を少しだけ引き離すには十分な力を持っている。

「流石に分が悪いわね……」

 フィーネはギアの性能差を実感しているのが分かり、撤退をしようとしているのか周囲の様子を伺い始めた。翼は彼女を捕らえるべく、最後の一撃を構える。

「逃がすか!」

 翼は剣を一本の大剣に束ね、フィーネの喉仏に狙いを付ける。実際に首をはねるわけではないが、彼女への最後の威嚇としてそこを狙うしかない。

 最後の一撃を構え、ブレることなくフィーネに向けて一直線に突き進む。直前で止まるとはいえ、手を抜くようなことはしない。

「待ってください!」

 フィーネの首に刃が届こうとしたとき、セレナが二人の間に割って入り、翼は足を止めざるを得なかった。セレナはギアをまとっているが、息を切らしていて、今さっきここに到着したようだった。

「風鳴さん、待ってください。その人、悪い人じゃ、無いん、です」

 絶え絶えの息でセレナは翼を引き留める。翼は勢いを無理矢理殺したために、剣を放り投げて強引に攻撃を逸らすことしかできなかった。

「セレナ!なぜ邪魔をする!」

「待ってください。だって、この人は……」

 セレナはなにか言いたいようだったが、それを言うことをためらっているようだった。実際、フィーネもセレナの言いたいことを察してしまっているようで、逃げるに逃げられずにいるようだった。

「この人は悪い人じゃないんです。ただ、なにか事情があって私達と一緒にいられないだけで……」

「確かに、セレナの言うとおりなのかもしれない。だがセレナ、目的を履き違えるな。私達はこの世界の平和を守るために戦っているのだ。一刻の猶予もない今、分かり会えるだけの時間があるか?」

 イグナイトの起動限界が迫る中、翼は小刀を取り出し、フィーネを見据える。彼女を殺すつもりはないが、セレナのようにゆっくり対話している時間もないだろう。

「話し合って分かり合える。立花のように綺麗事で解決できればそれに勝るものはない。どうしたって分かり合えない事だってある。時には剣を取り、誰かを傷つけなければならないことだってある。私は立花のように真っ直ぐは生きられない。ならば、私が立花の代わりに剣を取り、汚れ役を買って出るしかないだろう……!」

 響の手を不必要に汚さないためにも、剣を取り、敵と戦う。それが翼の結論だった。立花響は正義のヒーローである、という定義を崩さないためにも彼女に任せられない汚れ仕事を引き受ける。それが響と付き合いの長く、やや不器用な翼が決めた彼女なりの接し方だった。

「だから、違うんです。この人は―――」

 なおフィーネを討たんとする翼に、セレナはしびれを切らし、セレナを押しのけて進もうとした翼を突き飛ばし、同時にイグナイトの時間が切れて翼のギアが解除された。

「ちょっと、失礼します!」

 いきなりセレナに突き飛ばされ、何が起こっているのか理解できていない翼を尻目にフィーネの仮面に手を伸ばす。フィーネは仮面を取られまいと引き下がったが、セレナは迷わずにフィーネの仮面を殴り飛ばした。セレナの全力を持った拳はフィーネの仮面を打ち砕くのに十分な力を持っており、仮面を砕かれたフィーネは素顔を晒さないように顔を伏せた。

「いつ、分かったの?」

「最初にあった時から、です。それに、私を助けてくれたじゃないですか。悪い人には思えなかった。ただ、それだけです」

 フィーネはセレナの言葉を受けて、笑みをこぼしつつ、ゆっくりと顔を上げる。顕になったフィーネの顔を見て、翼は驚愕せざるを得なかった。

 

 

 フィーネとジュピアを引き離したはいいものの、苦戦が続いていた。連携に問題はない。実力も十分に出せているのにもかかわらず、それでもジュピアとの実力差は圧倒的だった。

「本当にシンフォギア使いというものは不快です。あと少しであの娘を仕留められるはずだったのに」

「そんなん知るかよ!」

 ジュピアの義手が変形し、サーベルとなってクリスに襲いかかった。銃身で剣を受け止め、ゼロ距離で発砲する。銃弾はジュピアの装甲を貫くことは叶わなかったが、

「あたしらはてめえの都合なんざ関係ねえよ。テメェらがあたしらの星を荒らすから、それを収めているだけだ」

 クリスは少し距離を取り、弓を展開してジュピアの関節を狙う。だがその発想もジュピアには読まれており、あっさりと装甲で弾かれる。短く舌打ちをしてガトリングでジュピアを牽制し続ける。もしこの場でミサイルや手榴弾が使えれば、あの装甲を歪めて弱点を作ることだってできたかもしれない。一つ弱点が生まれれば、消耗戦は避けられる。だがそれは前衛を買って出てくれている調ごと吹き飛ばす事になりかねない。彼女を下がらせても爆風を完全に避けられるほどの時間があるとも限らない。

「本当に目障りです。羽虫のごとく、叩き伏せれば、あなた達は黙るのでしょうか?」

 ジュピアはバトルナイザーを取り出し、ジェロニモンを召喚した。召喚されたジェロニモンは大きく吠え、クリス達を踏み潰そうと足を上げた。

 すかさず調もレイキュバスを召喚し、ジェロニモンを押しのけた。レイキュバスは冷凍ガスでジェロニモンを氷漬けにし、

「おい!あの、でかい混ざったやつじゃねえのか?あれ結構強いんだろ?」

「すみません。私もあれ以降何回かやったんですけど、駄目でした。素材になってる怪獣は呼び出せるので、私の怪獣は今5体です」

「しれっとすごいことになってんだな……」

 現状、一人同時に一体までしか保有できないという状況の中、調が5体も連れていると知り、キャロルが調を切り札として据えている理由がわかった気がした。

「5体?それがどうしたというのです。数だけが多くても、戦況が覆ることはありえませんよ」

 ジェロニモンはすぐに起き上がり、背中に生やしている羽を飛ばし、レイキュバスを押し返す。

「レイオニクスの怪獣は野生の個体とは似て非なるもの。まだ覚醒して日の浅いあなたに遅れを取る理由はありません」

 ジュピアの言動とは裏腹にジェロニモンはレイキュバスの冷凍ガスで氷漬けにされ、身動きが取れなくなった。だが同時にジェロニモンの周囲に火の玉のようなものが上がり始め、レイキュバスを襲う。調はガンQを召喚して一時的な盾とするも、不規則に動き回る火の玉を吸収しきれず、レイキュバスも撃墜することができない。

「そして、レイオニクスはただの怪獣使いではない!」

 ジュピアの言葉に呼応するように、氷が内側から打ち破られてジェロニモンが動き出した。火の玉に翻弄されているガンQを掴み、いとも簡単に投げ飛ばした。続いてレイキュバスを殴り飛ばし、圧倒的な実力差を見せつける。

 それだけに飽き足らず、レイキュバス達の指揮に気を取られている調を隙を突き、蹴り飛ばした。クリスは地面を転がった調を守るためにジュピアの前に立ちふさがって押し返そうとするも、クリスの弾丸はジュピアの装甲に弾かれて落ちていく。

「当然、レイオニクス当人が死亡すれば、怪獣だって消滅します。ですからレイオニクスのステータスには、当人の強さも考慮されます」

 サーベルを構え、ジュピアは調にとどめを刺そうとする。調は急いで立ち上がり、ジュピアから逃れつつレイキュバス達を操って少しでもジェロニモンに押し勝とうとしたが、全て虚しい抵抗でしかなかった。

「レイオニクスはただ1人残ればいい。あなたがファイブキングを制御できてしまうのは大変不都合です。不要な芽は摘み取ってしまいましょう」

 ジュピアは跳び上がると同時に調を回り込み、サーベルで調を貫こうとした。

 だが調の体にサーベルが貫かれる衝撃が来ることはなく、代わりに誰かに突き飛ばされるような感覚が襲った。

 反射的に目をつむっていた調が恐る恐る目を開けると、そこには胸元を貫かれ、血を流したクリスが立っていた。ジュピアはサーベルを引き抜いてクリスを蹴り倒した。

「クリス先輩!」

 調はクリスを反射的に抱えた。クリスなりに急所は外したようだが、どの道この傷では助からないかもしれない。

「しっかりしてください!クリス先輩!」

 クリスは調に何かを伝えようとしているようだったが、目に見えて弱っているので何を言っているのかを理解するのは難しい。

「残念ですねぇ。あなたが弱いばかりに、お仲間が次々と倒れていきます。いっその事、あなたが死んだほうがお仲間のためではないですか?」

 ジュピアの刃先は既に調を捉え、本来であればクリスの犠牲を無駄にしないためにも、ここは逃げなければならないはずなのに、調の体は動かない。抵抗しないことを良いことに、ジュピアは剣を振り上げた。

『Zeios igalima raizen tron』

「何!?」

 だが今度は空か舞い降りた1人の影がジュピアの剣を弾いた。

「……調が弱い?当たり前デス。欠点だらけデス。アタシが一番良く知ってるデスよ」

 その人物は、鎌を構え、ジュピアを睨みつける。その声、武器、仕草を見て、曇っていた調べの顔が明るくなった。

「だからこそ、アタシたちは9人でここにいるデス。今思い出したデス。アタシたちはみんな弱くて、間違えてここまで来たデス。手を取り合って、弱いところを補い合って、みんなでここまで戦ってきたデス!」

 彼女は鎌を構え直し、ジュピアに切りかかる。ジュピアは動揺しているのが伝わってきたが、すぐにサーベルで応戦する。

「早く逃げるデス!早く手当できればクリス先輩が助かるかもしれないデス!」

「ありがとう……切ちゃん!」

 調のピンチに駆けつけた人物、それは致命傷を負い、前線を退いていたはずの切歌だった。

「暁切歌、一回限りの大立ち回り、見せてやるデス!」

 切歌は血反吐を吐き捨てると、調が逃げる時間を稼ぐために命をかける覚悟をした。

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