戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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第37話「悪魔の降り立つ日」

 ジュピアとの戦いや真夜の一件が終結してから数日後、小夜は久しぶりに戻ってきた自宅で1人思いにふけっていた。真夜については、セレナから聞かされている。生き返った自分の姉の話を聞いて、それがずっと小夜の心に影を落としていた。

「小夜、いるよね?」

 ベッドの上でうずくまり、ぼうっとしていた時、シラベがやってきた。小夜はベッドから降りて、出迎えようとするが、足元に転がっていた雑誌に足を滑らせてテーブルにスネをぶつけてしまった。

「やっぱり……ってまた部屋散らかってるじゃない。すぐに片付けるからおとなしくしてて」

 シラベはテーブルの上に合鍵を置くと、慣れた手つきで周囲の片付けを始めた。ついつい片付けを後回しにしてしまいがちなのが小夜の悪い癖だが、こうしてシラベが片付けてくれるだけに中々の癖を治せずにいるのがもどかしい。

「そういえば、今日はセレナちゃんのところじゃないんだね」

「流石に小夜が落ち込んでるのは放って置けないよ。どうせ、生き返った方のマリアさんのことでも考えてたんでしょ?会いたかった~とか」

「まあね。姉さんとゆっくり話なんてできなかったし、今の私を見てほしいって気持ちもあったし……」

 小夜の話を聞き流しつつ、スムーズに片付けを終え、一息つく。

「あ、髪もボサボサじゃない。せっかく小夜ってきれいな髪してるのにもったいない」

 今度は小夜の髪が乱れているのが気になったらしく、バッグからくしを取り出して小夜の髪を整える。そして予備のヘアゴムで後ろで一つにまとめる。

「はい。小夜って本当もったいない。ちゃんとおしゃれすればかわいいのに」

「別にいいよ。だってシラベみたいに誰かとデートするわけじゃないし。それにお化粧しても戦ってればすぐ落ちちゃうし」

「私だって好きでやってたわけじゃないけどね。ただ告白されたから、仕方なく付き合ってただけだし。もうちょっと早くセレナちゃんと会えてればなあ。セレナちゃんを口実に断れたんだけどねぇ……。はい、おしまい」

 小夜の髪を結い終えて、ようやくシラベも一息つくことができた。小夜は立ち上がり、お茶と茶菓子をシラベに差し出した。

「ごめんごめん。ちょっと出すの遅れちゃった」

「ううん、大丈夫。それにしても、こうして二人っきりでゆっくりすのも久しぶり。最近は本当色々とバタバタしてたから」

 シラベが小夜の家にくるのも久しぶりだったが、2人でこうしてはなすのも久しぶりである。 FISの事件の後、ヒビキの離反や、侵略者達の襲来と立て続けに事件が起こったせいで、なかなか時間を作ることができなかった。

「そう言えば、向こうの響さんとかが帰った後、どうするかって考えたことある?ツーチャンがさ、次の山場が最後の戦いになるかもしれないって言ってたし。そうなったら私と小夜でにんむにあたるとかいってた。クーちゃんは聖遺物ごと敵を倒しちゃうから無理だって。一応国連本部に増員要請は出すみたいだけど、それまでは私と2人っきりで戦うことになるってさ」

 シラベがこの家にきた理由はそのことを聞きにきたようだった。小夜は今ここで気がついた。響達はこちらの世界の人間ではない。この戦いが終われば元の世界に帰るのだ。

「そっか、姉さん達も帰っちゃうんだっけ……。考えてなかった」

「まあ、私だってよく考えてなかったし。セレナちゃん達帰っちゃうのかぁとか考えちゃうと寂しいよね」

 これまでS.O.N.Gでは侵略者を撃退することに意識が向いていたが、ツバサ達の見方が正しければ、それももう終わるのだ。その後の処理の事なども考える必要があるだろう。

(お姉ちゃん達が帰った後、か……)

 ツバサ曰く、扱いは一般職員だが、書類上はS.O.N.Gの備品として扱われているらしい。正直死なない上に巨大ロボットに変身できる自分はこのまま戦い続ける以外に選択肢はないと思っているが、侵略者がいなくなれば、キングジョーに変身する必要だってなくなる。そうなったとき、小夜は自分の身の振り方をどうすべきか悩んでいた。

 そう思っていた最中、S.O.N.G本部からの着信が鳴り、小夜が電話をとった。

「もしもし?」

『小夜か?テレビをつけてみろ』

 ツバサからいわれたとおり、リモコンをとってテレビをつけてみる。すると、そこには黄金の魔神(エグララグ)が映っていた。

『地球の諸君。私は、エグララグ。各地で活動している宇宙人、スペースビーストの主にして、地球を狙っている者だ。先日、私の腹心がそちらの世話になった。故に、今回は私が直々に手を下そうと思う』

 画面の端に成層圏とおぼしき画像が移り、怪獣とおぼしき影が青い膜に包まれて浮かんでいた。

『手始めに、私のスペースビースト、イズマエルを24時間後に地球に降下させる。場所はS.O.N.G本部上空。これより私エグララグは、地球に対し、正式に宣戦布告させてもらう』

 エグララグは一方的に宣戦布告を宣言した後、画面から消え、ちょうど放送していたであろうニュース番組の司会者達が困惑している場面に切り替わった。

「これって……」

『敵の首魁が本気を出してきた。これが最後の戦いとなるのは間違いない。至急、本部に集まって欲しい』

 ツバサとの通話はそこで切れた。以前、デスフェイサーとの戦いで姿を見せた黄金の魔神が、地球に対して正式な敵対宣言を下した。小夜は胸に不安を抱えながら、本部へと向かう支度を始めた。

 

 

 小夜たちが本部に到着すると、既に作戦会議の準備が終わっており、すぐに作成された資料を受け取った。会議室いっぱいに両世界の装者が勢揃いしている様は壮観だが、規定人数いっぱいまで人のいる会議室は少し息苦しくも感じる。

「よし、揃ったな」

 全員が揃ったところでツバサが口を開いた。小夜は急いで資料に目を通し、内容を頭に入れていく。内容自体は推測される敵の正体や、対策、出撃する編成などが記載されている。

「では最後の作戦を説明する。まずエグララグが体として使用している怪獣は、時空魔神エタルガーという事が暁らの話でわかった。こちらの世界では制作されていない作品の種族だが、急いでガリィに資料を取りに行かせた。多くの平行世界を渡っている侵略者で、ウルトラマンでさえ手を焼く強敵とのことだ。そして、エグララグ本体はそれを越える程の実力者という可能せしが高い。そこで我々はイズマエル戦と並行て別働隊も編成での奇襲作戦を仕掛ける。今回の作戦が成功すれば、残党の掃討を残してこの戦いは終わる。皆、気を引き締めてかかってほしい」

 モニターにはエタルガーの写真や各スペックを表示させ、同時にイズマエルについても詳細なデータが公開されていく。いずれも強敵ばかりで、その後でエグララグ本体を相手にしなければならないとなれば、ここが最後の山場であると実感させられる。そしてキャロルがモニターを切り替え、装者の配置や作戦の工程について詳細に記した画面になった。

「では作戦の説明に移る。まず、イズマエルの相手を天羽々斬のカミソリデマーガ、神獣鏡(シェンショウジン)のゼットンをを中心に編成した部隊で迎え撃つ。レイオニクスであるシュルシャガナにはこちらに残ってもらう。そして鹵獲した敵宇宙船を用いてイズマエルと入れ違いになるように、強襲部隊を送り込む。LiNKERの補給が見込めない以上、必然的に1号装者のみとなる。こちらの世界の雪音クリス、立花響、小夜、セレナの4名で行う。天羽奏とイチイバルは各装者のフォロー、残りの装者は本部防衛任務に充てる」

 作戦に参加するメンバーが発表され、全員に緊張が走る。クーちゃんはやっと出撃できると知り、武者震いを見せているのみで、セレナを送り出すことに未だにマリアは不安感を拭いきれないのが見えるぐらいである。

「イズマエルはあらゆるスペースビーストを混ぜ合わせたようなやつだ。恐らくこれまでのビーストはこいつの細胞から培養することで生み出されたと仮定していいだろう。エタルガーにもかつての敵をエタルダミーを召喚する能力もある。本来であれば、各個集中して撃破したいところだが、今回は作戦の都合上無理だ。敵が第二波を送ってくることを想定し、この作戦は長引けば長引くほど不利になることを覚悟しろ」

 キャロルの説明はそこまでだった。最後の作戦、と聞いて

「では明日の朝、出撃準備に移る。作戦終了後に別世界の装者は元の世界に帰還することになるので、作戦開始前に心残りがあるようなら、済ませておくといいだろう。質問は適宜受け付ける。以上、これにて解散とする」

 作戦会議が終了し、全員が思い思いに散っていく。久しぶりの出撃で嬉しそうにしているクーちゃんを除けば、皆が深刻そうな表情をしている。泣いても笑ってもこの作戦が、そのままこの戦いの終結に直結する。勝っても負けても、これが最後だと言う事実が装者全員の胸に重くのしかかる。

「これで最後、か……」

 シラベから話が聞いていたが、まさか後も突然最後の戦いが始まるとは思ってもいなかった。一気に9人も装者が増員され、自分の隣で戦ってくれることが当たり前のように感じていたが、それももう終わるのだ。小夜は最後の戦いが終わっても後悔しないように、尚の事気を引き締めた。

 

 

 その日の夜、小夜はツバサに招かれて食堂にやってきた。最終作戦前の壮行会を兼ねて、豪華な食事を振る舞うらしい。

 指定された時間にやってくると、装者だけでなく他の職員達がビュッフェ形式で並べられた料理を、自分の皿に料理を盛っているのが見える。先程の作戦会議の静けさがが嘘のような盛り上がりを見せており、明日が作戦ということを忘れそうになる。

「あれ?小夜ちゃん食べないの?」

 あまりにも予想と違う雰囲気で唖然としていると、響が声をかけてきた。その皿には既に山盛りの料理が盛られている。

「い、いえ。今来たところですから……待っててください。すぐに料理を取ってきますので」

「ゆっくりで大丈夫だよ!私向こうの席でもう未来と食べてるから!良かったら来てね!」

 響は手を降ってテーブルの方へと向かっていった。小夜も自分が食べる量を皿に盛って響達が食べているテーブルへと向かう。マリアと食べるべきかも迷ったが、彼女は翼と一緒にセレナに対して今後の話をしているようで、とても近づけるような雰囲気ではなかった。

 比較的に落ち着けると思っていた響たちの席についても、食事に手が伸びない。最終作戦の緊張もそうだが、響たちと別れると突然言われて未だに気持ちの整理がつかないのもある。

「あの……」

 だがそんなことなど気にしていないように、いつも通りに振る舞っている響達を見て、小夜は口を開いた。もしかしたら、響達が自分たちの不安を晴らしてくれるかもしれないと一抹の不安を抱いた発言だった。

「響さん達は、この作戦で勝ったら元の世界に帰るんですよね?寂しかったりしませんか?」

「うーん。寂しいっちゃ寂しいけど、そんな寂しいとか感じないかなぁ。未来はどう思う?」

「私は響みたいに並行世界に行った回数は少ないし、寂しいかな。でもそれはこの世界が平和になったってことだし、安心の方が強いかな」

 響たちの答えは、小夜の予想していた通りのものだった。彼女たちと触れ合って、小夜は自分なりに成長できていると思っていたのだが、まだまだ未熟な面も多い。響と比べると、まだまだ自分は遠く及ばない存在のように思える。

「どうしてそう思えるんですか?もう会えないかもしれないのに」

「だって、会えなくなっても私達が頑張ったことはみんな覚えてるから。例え違う世界でも、私達は同じ地球で毎日頑張って生きてる。そう思うと、寂しいっていうより、負けないように頑張ろうって思うんだ」

 響の話を聞いて、小夜は考える。マリアから聞いた話では、響達は今の段階にたどり着くまでは決して楽な道のりではなかった。小夜たちだって、その日その日を生きるために戦ってきた。響達が教えてくれたこと、気づかせてくれたこと、それは数え切れないくらいあるからこそ、寂しさを越えて戦おうと思えるのかもしれないという結論に至った。

「そう、ですか……。そう思えるようになれば、響鬼さん達が帰った後も寂しくない、のかもしれませんね……」

「そうそう。今はとりあえず、ご飯に集中!まずは明日の戦いに勝たないと!さあ!食べるよ!」

 太陽のような笑顔を一瞬だけ見せて、食事に戻った。小夜も戦いに負けないためにも、精力をつけるために食事に集中した。

 

 

 翌朝、響達は鹵獲した宇宙船を前にし、作戦開始の時間を待っていた。最後の戦いを前に、緊張をした面持ちで強襲部隊の面々は地上に残る奏者から選別などを受け取っていた。

「では立花、こちらは任せてほしい。立花は立花にできることをやってこい」

「はい!任せてください!敵をバッチリ殴り倒してやりますよ!」

 響は翼が用意した弁当箱を受け取り、小さく敬礼をして宇宙船に乗り込んでいった。

「セレナ、大丈夫?やっぱり今回の作戦は辞退したほうが……」

「大丈夫だよ姉さん。今回は小夜さんもついてるし、そう簡単に負けないよ」

「姉さん、私が絶対にセレナちゃんを守るから」

「そう……?本当なら、私もついていきたいけど、流石に宇宙船は操縦できないもの。あなたに任せるしかないのかしらね。いいこと?あなたもしっかり無事で帰ってくるのよ?こっちのセレナだけとかは許さないから」

 マリアは小夜にセレナを託し、去っていった。それも、セレナだけではなく、小夜の生還も条件として示した。

「さ、みんな揃ったね?じゃ、敵の根城に乗り込む覚悟もできてるよね?ここを出たら、撤退なんてできない。助からないってあたしが判断したら、見殺しにするしかできないし、あたしらが負けたら例えイズマエルを倒せても負け。残酷なこと言うけど、あたしらは特攻隊みたいなもん。例え最後の一人になってでもエグララグを倒さなきゃなんない」

 もう間もなく出発となった時、クーちゃんは全員を脅すように厳しい説明をした。最終的にエグララグを倒さなければ意味がない。まるで突き放すような残酷な発言に、一同の緊張が高まる。

「ま、脅すようなこと言っちゃったけど、全員生きて帰ってくるのが一番。みんな頑張ろ?」

 だが最後にクーちゃんは笑顔をみせて、場の空気を緩ませた。作戦開始時間までもうあまり時間はない。

『……作戦開始時間になりました。これより、最終作戦を開始します』

 作戦開始のアナウンスが鳴り、出発の準備をしていた宇宙船が本格的に宇宙へ飛び立とうとする。急いで全員が配置に付き、轟音とともに、響達を乗せた宇宙船は宇宙へと飛び立っていった。

「……さて、私達も気を引き締めるぞ、小日向」

「はい!」

 敵の根城に向かった響たちの宇宙船を見送り、翼達は自分たちにできることをすべく、戦いの覚悟を決める。

 そして程なくして、悪魔が地球へと降り立った。

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