戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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第38話「暗黒の魔神」

 敵の根城めがけて宇宙へと飛び立った響達と入れ替わるように、青い炎のようなものに包まれたイズマエルが姿を現した。

 ゼットンとデマーガが召喚され、調もマイクの前に立って深呼吸をする。自分たちはこの作戦の要ではないが、響達が安心して帰還するためにも、勝たなければならない。

「調、大丈夫デスか?」

 隣で控えている切歌が心配そうに声をかけてきた。病み上がりである彼女は前線に出る許可が降りなかったが、ファイブキングを制御できた時のことは認められ、こうして調のメンタル面での補助を任されている。

「大丈夫だよ切ちゃん。響さん達が安心して帰ってこられるように、負けられないもん」

「じゃあ、思いっきり歌って、大勝利、納めるデス!」

 切歌が見せた笑顔を見て、調は覚悟を決めて、歌う。今回用意された装置は、調の力を最大限に引き出すためのものである。フォニックゲインをチャージする都合上、レイオニクスギアの強化は遅れてしまうが、調が歌っていない間でも強化が一定時間持つように設計されている。長期戦を考慮し、調が休息をとれるようにすることがこの装置の最大の特徴だった。

『こちら救護班。風鳴シラベ、キリカ・A(アルバ)・テイラーの両名の準備完了。いつでもいいわ』

 万が一装者が負傷した場合に備えて、シラベ達が回収部隊として今回の作戦に参加している。何も抜かりはない。全員が自分にできる最大限のことをすれば、勝てる戦いである。調はそう確信すると、マイクを掴み、もう一度切歌の方を向いて、最後の覚悟を決める。

「では、行きます!」

 息を整えて、マイクに歌を込める。自分に課せられた期待を裏切らないように、自分にできる精一杯のことをするために。

(もうレイオニクスとか関係ない。私は私。月読調として、私の気持ちを歌に乗せる……)

 調の思いを込めた歌は、一度S.O.N.G保有の聖遺物にフォニックゲインを吸収させ、一定量溜まった段階で怪獣たちに向けて放出される。フォニックゲインを受け、デマーガはカミソリデマーガに、ゼットンはEXゼットンへと進化した。

 触手に絡め取られていたデマーガが触手を切り裂き、ゼットンの火球がイズマエルを大きく後退させた。続くカミソリデマーガがすれ違いざまにイズマエルの肩に生えていた角を叩き斬る。先手を取ることに成功し、緊張していたS.O.N.Gの職員たちも少し緊張が和らいだ。スペックだけで言えば、あの2人の怪獣に敵うわけがないのだ。いくら敵が最強のビーストでも、多勢に無勢となれば型なしである。この場にいる誰もがそう思っていた。

 だが、その予想は用意に打ち破られることになった。イズマエルの花弁のような右腕から粉のようなものが撒き散らされ、周囲を黄色い花粉が覆い尽くす。

「まずい!ラフレイアの花粉だ!直ちに周囲の装者は退避しろ!喉まで焼かれるぞ!」

 キャロルが指示を飛ばすより早く、モニターに映された戦場では、花粉が付着した周囲の草木が燃え始めていた。更にそこから延焼し、周囲の建物まで燃え始めている。いくら怪獣が強くても、それを召喚する装者が倒れてしまえば意味がない。

「回収班!直ちに装者を回収。回収後速やかに周囲を封鎖し、作戦再開まで待つ!」

 確かに、EXゼットンとカミソリデマーガの2体を相手にして勝てる怪獣などいない。ましてや今回は敵は総力戦を想定しているのだ。装者が不利になるように調整された個体というのを想定していなかった。

『駄目……敵の糸に翼さんたちの足が絡まって、あんまり遠くまで行けない……!キリカちゃんの盾を全力で展開してるから、なんとか花粉の直撃は避けてるけど、いつまで持つかわからないし……』

 シラベの厳しい発言に、一同に緊張が戻ってきた。こういう時、こちらの世界のキリカのアームドギアが盾で助かった。もし彼女がいなければ、ここで全滅していただろう。

『にしても、視界も全然利かない……。怪獣に指示出してる翼さん達も手探りみたいで、攻撃も殆ど当たってないっぽい……。怪獣の悲鳴っぽいのが聞こえるし……』

 ラフレイアの花粉は非常に可燃性の高い物質で構成されている。そんな状況でEXゼットンの100兆度の火球は言うまでもないが、他の怪獣が盛っている熱線や火器を使えば一体が一瞬にして燃えてしまう。キリカの盾など意味はなさず、そこに隠れている装者全員が一瞬で全身に火傷を負うだろう。

 響達がこちらの世界にやってくるより前、ラフレイアと交戦したことがあったが、その時はまだ完全な状態で残っていた自衛隊の発砲した機関銃の火で一瞬で大部隊が全滅、防火服をまとって救護活動に当たった救急隊職員すらも全身に火傷を負い、逆に救助される結果となった。あの時は小夜のキングジョーで強引に撃破したが、今回はそうは行かない。既に小夜は宇宙に旅立ってしまった上に、小夜一人でイズマエルを撃破できる保証がない。キャロルは次の手を考えるが、刻一刻と追い詰められていく状況に焦りを感じて思考がまとまらない。

「あたしが行く」

 そんな時、司令室に瀕死状態だったはずのクリスが現れ、作戦の参加に名乗り出た。前回の戦闘の傷が癒えきっていないのは容易に見て取れ、立っているのもやっとのようだ。

「あたしのインペライザーなら、中に乗っているあたしは燃えないし視界だって利く。火なんて出さなくても、怪獣をぶん殴れる。まさにあたし向けの状況じゃねえか」

「待て雪音!その傷で戦うつもりか?悪いが、死にに行くつもりなら許可はできん」

 怪我の体を圧して出撃しようとするクリスをツバサは当然のように却下した。だがクリスはその程度であきらめる気はないようで、引き下がる様子はない。

「じゃあ、あたしがあの花粉を止めたら即撤退して、後はセンパイ達に任せる。どっちみちこのままじゃジリ貧になって負けるだけじゃねえか」

 クリスの指摘は最もだった。視界の利かない中で、イズマエルの位置を正確に探知し、ラフレイアのパーツを正確に破壊できる保証はどこにもないのだ。

「……ラフレイアの花弁を破壊したら即時撤退しろ」

 この状況を打開できるのはクリスのインペライザーしかないとツバサも分かっていたようで、不満そうにクリスに出撃許可を下した。

「分かってるぜ。じゃあ、ちょっと行ってくる」

 この戦いの勝敗を決めかねない重大な大役を背負っているのに、クリスは不適な笑みを浮かべて司令室を出て行った。それは、ツバサに余計な心配をかけ避けないために無理をして笑ったのか、クリスの本心を読みとることができなかった。

(最初は別人と思っていたが、やはりクリスはクリスだ。本当、素直ではない)

 ツバサは死地へと向かった、平行世界の親友の生還を祈った。

 

 

 インペライザーに乗り込むと、クリスは次々と計器のチェックをした。まだ傷は癒えきっていないが、自分だけが寝ているということはできない。自分にもできる事がしたい。その思いがクリスを今回の行動に駆り立てた。

『いいか。スペースビーストは、その生まれ故に特殊なビースト振動波を前進から常に放射している。レーダーにも写っているはずだ。それを頼りにしろ』

「ああ、見えてるぜ。すっげえでかいのがな」

 今、インペライザーのレーダーに移っているのは、アウフヴァッヘン波形で象られた交戦中の怪獣と、それらとは違うもので象られた怪獣。クリスは操縦桿を握りしめ、イズマエルに向け進撃する。 

 カミソリデマーガやEXゼットンは手探り状態でイズマエルに攻撃を仕掛けているものの、イズマエルには届いていない。

 インペライザーは一直線にイズマエルにつかみかかり、ラフレイアの花弁を探す。中に乗り込んで操縦するが故に、このような状況でその強みを発揮するが、イズマエルの輪郭しか分からないが故に、視覚が利かない状況では勘で目標を見つけなければならない。

 当然 イズマエルも黙っているはずがなく、インペラいざーをふりほどき、回避する体勢も整えぬ間に鉤爪で切り裂いた。インペライザーの自動修復機能がダメージの心配をさせないのは頼もしいが、中のクリスはそうではない。イズマエルの与える衝撃で傷が痛む。

「ったく、大人しくしてろよ……」

 痛む胸を押さえながら、再びイズマエルに挑む。レーダーに映っているのは、正面から見た姿とおぼしき地点なのでラフレイアの花弁のある右腕はこちら側から見て、左側にあるはずだ。

 クリスは左側に回り込み、イズマエルの腕を掴む。案の定、花弁に当たるような部分が見え、クリスは狙いを定める。

「ここだ!」

 インペライザーは花弁をつかみ、一気に引きちぎる。すると花粉の放出が止まり、イズマエルの苦しむ声が周囲に響きわたる。

『よくやった!後処理はファラにやらせる!早く撤退しろ!』

 花粉の放出が止まってしばらくすると、いったいの怪獣の咆哮と共に、突如として周囲に竜巻が発生した。花粉は全てその竜巻に飲まれていき、靄がかかっていた視界も晴れていった。

 視界が晴れると、竜巻の中心に一体の青い巨鳥が佇んでおり、竜巻に集められた花粉は一カ所に集められて、空高く舞い上がっていった。

『ファラの動力源として使っていたマガバッサーのスパークドールを起動させた。風の魔王獣の力なら、燃える花粉を大気圏外まで打ち上げることなど造作もない』

 視界が晴れ、クリスも役目を終えて撤退しようとしたとき、イズマエルの右肩から太い触手が伸び、インペライザーを捉えた。怨恨を晴らすかの如く強く締め付けるそれは、クリスが撤退するために必要なコックピットの開閉さえできない。

「クソっ!これじゃ逃げられねえ!」

 両腕をおさえられ、何とか頭部のバルカンで応戦するが、雀の涙程度のダメージしかない。そして遂には無重力光線でインペライザーが浮き、その馬力で踏ん張る事すらできなくなった。

 クリスのピンチを察知し、カミソリデマーガ達が助けにはいるより早く、イズマエルの全身にあるビーストの頭から炎や電撃が一斉にインペライザーの胴体を打ち抜いた。その衝撃を逃がすことすらできず、インペライザーの巨体は宙を舞い、爆発しながら周囲の市街地へと落下した。

『負傷した装者の回収を急げ!』

「分かってる!」

 ツバサの迅速な指示がでるより早く、シラベはクリスのところへと走っていった。クリスの落下地点さえ分かれば、直接テレポートして救助に向かえるのだが、それがわからない以上、直接走って探しに行くしかない。

「雪音!」

 翼はすぐにでもクリスを助けに行きたかったが、イズマエルを放置することはできない。だからこそ、翼と未来は踏みとどまり、イズマエルを討つべく立ち向かうのだ。

 2体の怪獣はイズマエルと真っ向からぶつかり、己が持てる全ての武器をぶつける。イズマエルの触手がカミソリデマーガの刃を捉え、動きを封じたが、直後にEXゼットンの火球が触手を焼き切った。

 自由になったカミソリデマーガすかさずイズマエルに切りかかり、首を落とすことは叶わなかったものの、肩の一部を削ぐことに成功した。続いて火球がイズマエルを襲うも、カウンターで放たれた電撃と火球が相殺した。

 イズマエルの力は徐々に削られ、今まで対等であった実力差がより顕著に現れるようになっていた。まだイズマエルが押し負けてはいないものの、このまま力を削ぎ続ければわからない。

「このまま押し切るぞ!小日向!」

「はい!」

 勝機を確信し、イズマエルへと向かう。EXゼットンの展開する壁を盾にしながら距離を詰め、イズマエルに肉薄したカミソリデマーガが腕を切り落とした。イズマエルのさっきが揺らいだ一瞬を逃さず、カミソリデマーガの刃が、ノスフェルの頭部を狙う。

(あの再生能力まで残っていると厄介だ……)

 潰せる不安要素は潰しておくに限る。イズマエルの片腕の反撃を避けて、カミソリデマーガの刃がノスフェルの喉を貫いた。だが、ノスフェルの顔を潰されたイズマエルが最後の抵抗として放った一撃が、ノスフェルの体制が崩れていただけにあらぬ方向へそれ、一直線にS.O.N.G本部の方へと向かってしまった。

「しまった!」

 今からカミソリデマーガを向かわせても、身を盾にして守ることはできない。他の怪獣を召喚しても、即座に本部の盾になるように操るのは難しい。

 万事休すかと思われたその時、虚空から一体の黒い影が現れ、即座に展開した光の壁が盾になった。本部に襲いかかるはずだった火球は、黒い影に阻まれ、防がれたのだ。

「え……?」

 光の壁の向こうにいたのは、EXゼットンだった。だがゼットンの機動力でも一瞬であそこまで移動はできない。テレポートしたと考えるのが自然ではあるが、未来はそれに気づいていないようだった。

「嘘……発動した……?」

 まさか未来もテレポートがこんな土壇場で発動するとは思っていなかったようで、驚愕の表情を浮かべた。

「小日向、よくやった!」

 偶然の一撃に助けられたとは言え、これ以上イズマエルの攻撃を許す訳にはいかない。カミソリデマーガにフォニックゲインを収束させ、蒼ノ一閃を放つ。通常のデマーガのときとは違い、フォニックゲインが伝わってくる速度や質が違う。

「最後に一撃、一際大きいのを食らわせてやる……!」

 普段のシンフォギアでは、一撃を放つのがせいぜいだが、今のカミソリデマーガならば、いくらでも打てるような気がする。それほど今のカミソリデマーガにはフォニックゲインがチャージされていた。

 今度は蒼ノ一閃を斬撃として放つことはなく、刃に乗せたままでイズマエルを切り裂く。ただでさえノイズを一掃する一撃を、刃に乗せたまま何度も打ち付けられているのだ。イズマエルはそれだけでも致命傷となりうる。

 カミソリデマーガは最後に、イズマエルにとどめを刺さず、その巨体を遙か上空へ打ち上げた。

「小日向!もう一度できるか!?」

「え!?はい!やってみます!」

 未来はできる限りのことをしようと願い、EXゼットンがそれに応えるようにしてイズマエルが打ち上げられた先に転移した。

「合わせるぞ!」

「はい!」

 カミソリデマーガは最後に、蒼ノ一閃を2振り、十文字を切るように放ち、それと挟むようにEXゼットンの百兆度の火球がイズマエルを襲った。

 2体の最大の攻撃を受けたイズマエルは、逃げる余裕さえなく、空中で爆発四散した。その爆発は非常に大きく、地上から見ていた翼たちからもハッキリと分かるほどだった。

『こちら風鳴シラベ。致命傷を負ってたクリスさんを発見。瓦礫の下に逃げて、なんとか生きてたみたいだけど、傷が開いちゃってる。すぐに救護の準備を要請します』

『こちら本部、了解した。イズマエルの討伐をたった今確認した。撤収作業を始めてくれ。エグララグの下へと向かった部隊が壊滅した場合に備えて、各装者は急速に当たれ』

 イズマエルを討伐し、地上での戦いは一幕降りた。しかし、まだ敵の首魁であるエグララグが残っている以上、油断はできない。

(後は任せたぞ、立花……)

 翼は宇宙へと旅立っていった仲間に、できる限りの激励を静かに飛ばした。

 

 

 イズマエルが地球へと降下を始めた時、すれ違いになるようにして響達は大気圏を抜け、敵の本拠地に向かっていた。

「いや、ビックリだよね。まさかこっちのクリスちゃんは宇宙船も操縦できたんだぁ……」

「クーちゃんって気軽に呼んでくれていいよ。まあ、これでも教官だったからね~。ちょっとギアを纏えない時期があってさ、その間に色々勉強してたから、勉強するくせがついちゃったってだけ。色んな勉強したな~。格闘術、剣術、射撃、応急処置。一回アメリカ軍とか自衛隊とか言って、研修に行った事もあったっけ~」

 宇宙ゴミを避けながら、クーちゃんは器用に

「別にこれの操縦なんて簡単だよ?戦闘機の操縦ができれば楽勝だって。ちょっと宇宙ゴミが邪魔だけど」

 クーちゃんは冗談混じりに宇宙船の操縦について言ったものの、全く注意力を落としていない。まだ彼女にも余裕が残っている証拠である。

「さて、着いたね。全員戦闘準備。これから敵の本拠地に突っ込むよ」

 宇宙ゴミの群を抜けると、敵本拠地が見えた。宇宙船、というにはあまりにも大きく、城塞と呼んだ方がしっくりくる巨大さである。

「本拠地の図面は手元にあるけど、どこに出るか分かんないから、突入後はまず現在地を確認して、それからエグララグと本番。道中のエタルダミーはアタシ等が片づけるから、とにかく小夜を送り込むことが大事。オッケー?」

「はい!」

 響達の返事を聞いて、クーちゃんはまっすぐ宇宙船を敵の城塞のハッチを破壊して中に突っ込んだ。響達は用意されていた宇宙服を身にまとい、宇宙船を降りて内部に乗り込む。ハッチの中はクーちゃんが扉を破壊したせいで、中の空気が外に流れ出ているが、クーちゃんがハッチの操作パネルを発見し、それを操作するとハッチが閉まり、風も止んだ。

「いや~。ダメ元でもやってみるもんだね。壊れたハッチも閉められるなんて、さすが宇宙人。あたしらの常識が通じない」

 ハッチ周辺には、警備にあたっているはずの部下もいない。船内に入る扉を通っても、警備に回っているのが感じられない。

「……静かすぎますよね……?」

「うん。多分見えてるはずだから、エリガルみたいな毒ガス吐ける怪獣でも置いてると思ってたけど、それすらない。とりあえず、空気は地球塗装変わりないみたいだし、最低限の装備だけ残して宇宙服脱いじゃお?邪魔だし」

 クーちゃんが安全を確保し、一同は宇宙服を脱ぎ捨てて、持ち込んだ図面で現在地を確認する。

「とりあえず、場所は問題ないみたい。最初につーちゃんと理想の場所ってことで目星つけてた場所に出れたみたい。こっからグルっと回ってブリッジを目指すよ。多分えぐらラグもそこにいるはず。途中エタルダミーと戦うことを考えると、小夜を中心にあたしら3人で護衛する。いいね?」

 作戦の段取りを再確認した後に全員がギアを装着し、クーちゃんを先頭にしてブリッジを目指す。エグララグさえ倒してしまえば、この戦いは終わる。全員はこの戦いを終わらせるべく、駆け出した。

「ところで、こっからどうやって行くの?」

 少し走ったところで、響がクーちゃんに確認をとった。今回の作戦の具体的な立案に参加したのは、ツバサとクーちゃん、キャロルだけである。響達も敵地の図面を理解できるだけの時間はなかった。

「うーんと、こっから格納庫を抜けて、回り道しながら上を登っていけばブリッジに到着。待ち伏せされてるかもだから、今回は遠回りなんだ」

 クーちゃんは手元の地図を逐一確認しながら、着実に船内を駆け抜ける。道中、警備として用意したつもりだったのか、小型のスペースビースト、ユートム、ゴブニュが待ち構えていたが、響達の敵ではなく、容易に撃破してしまえる。

「そろそろ格納庫だけど……。ほら来た」

 格納庫の奥から、巨大な影が歩いてくるのが見える。それは近づいてくると、一体の巨人であるということが分かった。ゼルガノイド、以前切歌が変身した怪獣が目の前に立っているのだ。

「これがエタルダミー?思ってた以上に本物だね。とりあえず、ここは行くしかないんだけ、ど!」

 クーちゃんがアームドギアを取り出すと、クリスのものとは大きく異なるランチャーとなった。更には体中に砲身のようなものも展開され、クリスとは対照的に攻撃的な姿となった。

「じゃ、後はよろしく。あたしはこいつを倒して、追いかけるからさ」

 クーちゃんはランチャーを構えてゼルガノイドに向けた発砲した。さながら火の玉とも言うべき巨大な砲弾は、ゼルガノイドを後退させ、響達が進む時間が生まれた。

「絶対、後で会おうね」

「当たり前でしょ?怪獣がなくても、戦いようなんていくらでもあるんだから」

 圧倒的に不利な状況であるにも関わらず、クーちゃんは不適な笑みを崩さないままヒビキ達を見送った。

「さて、と。じゃ、お仕事始めよっか。これだけ広ければ、派手に暴れても誰も文句言わないし」

 クーちゃんは、引き金を握りしめ、単身ゼルガノイドへと向かっていった。

 

 

 クーちゃんに送られ、場内を進む響達。だが、新たなエタルダミーが響達の足を止めた。

 少し開けた大広間のど真ん中に、記憶にも新しい陰が立っている。装甲(アーマード)メフィラスと、テンペラー星人ビエントである。

 2人は何も言葉を発することはなく、無機質な人形のようにこちらを見据えている。

 そして響達が大広間に足を踏み入れたのを確認すると、響達めがけて一直線に襲いかかってきた。だが響達もそれをよそうしており、響がビエントを、セレナが装甲(アーマード)メフィラスを押さえることで小夜は守れた。

「小夜ちゃん!行って!」

「私たち二人なら、なんとかなります!早く奥まで!」

 2人が2体のエタルダミーを押さえていられる時間はそう長くはない。小夜はこの時間を無駄にしないためにも、無言でうなづいて船内の奥を突き進んでいった。

 クーちゃんから託された間取りでは、大広間を抜けるとすぐにエグララグがいるであろう部屋にたどり着く事になっている。

 最後の扉までは小夜が想定していたよりも早く到着し、最後の覚悟を決めて中に入る。

「早かったじゃないか。一人、と言うことはエタルダミーは他が押さえているか。もっと数をおいた方が時間稼ぎにはなったか」

 部屋の中は、幾多もの鏡が漂い、距離感や平衡感覚を狂わせる。その中心部にエグララグはたたずんでいた。

「君は、世界が憎いと思ったことはないか?」

 いきなり戦闘になると思っていたが、意外にも、エグララグが吐いたのは、たった一つの質問だった。

「自分をこんな風にした世界が憎い、姉を奪った世界が憎い、一度は考えたことがあるだろう?」

「……どういう意味?」

「君のことは十分調べさせてもらってね。君と私は似ている。君の身体を私の技術で再調整すれば、過剰適合に悩まされずに戦える。ましてやキングジョーだ。星の一つや二つ、容易に手にできる」

 エグララグは小夜を迎え入れるような仕草をした。確かに、一度は考えたことはある。マリアを手にかけた後、自分は悪くない。悪いのは、自分たちを引き離した世界であると、逃れようとしていた。

「ううん。憎くない。だって、姉さんが教えてくれたから。自分の弱さを呪うより、それを受け入れて生きていくことが大切なんだって」

 だが生きる意味を無くしていた自分はもういない。マリアに助けられ、いくつもの戦いを経験し、自分はこれからどうやって生きていけばいいのか、それがはっきりとわかっているからだ。

「私は、世界が憎い」

 エグララグの全身にひびが入り、それが砕けるようにして崩れていく。崩れた破片はスパークドールとして一点に集まり、エグララグの手に納まった。

「その昔、ウルトラマンベリアルに心酔した愚かな奴がいた。ソイツはベリアルを復活させるエネルギーを集めるために、ウルトラマンになれる生命体を作ろうとした」

 エタルガーの中から出てきたのは、漆黒の巨人だった。ウルトラマンを思わせるような特徴こそあるが、所々の造形が歪んでおり、顔に大きくついた傷や、右肩に焼き付いた『09』の焼印が痛々しい。

「そしてベースとなる生命体として、様々な星の生命体が選ばれた。地球人やモネラ星人のような高い知能を持った生命体を集め、ウルトラマンに変身するのに最適な種族を探した。その実験体の一体が、私だ」

 エグララグは顔の傷を撫でた。彼の境遇を、小夜は理解できないでもない。だが、共感することは出来なかった。

「レゾリュームルギエル、あの男はそう呼んだ。そしてこういった。他の実験体を倒して、最後の一人になれば解放するとな。私は必死に戦い、最後の一体となった。だがあの男はこう言ったのだ。『元に戻れぬ失敗作は不要』とな!結局は私と最後まで争った地球人を選んだ!私は宇宙に捨てられ、ジュピアと出会うまで宇宙をさまよい続けた。私の全てを台無しにしたあの男と、地球人への恨みを抱いてな!」

 再びエタルガーのスパークドールズを取り出し、手から生成した漆黒の短剣状のアイテムを突き刺した。

『DRAK LIVE! ETERGER!』

 黄金の外殻を身にまとい、エグララグは軽く肩をならした。小夜との決別がハッキリした今、エグララグが攻撃を待つ理由はない。すぐにでも襲いかかってくるかもしれないのだ。

「故に、私は憎いのだ!私にこのような屈辱を味あわせたこの世界が!私から自由を奪った地球が!奪って、奪って、奪い尽くす!全並行世界の地球を手に入れるまでだ!」

 完全な逆恨み、エグララグが地球を狙う理由はそれだった。だが、彼を放置していれば、この世界だけではなく、響達や、セレナ、奏の世界まで危うい。この戦いは負けることが許されない戦いである。この場で彼を止めなければならないのだ。

「もしあなたが実験体だっていうのなら、その実験体にされた地球の人の辛さだって理解できたはず!それなのに復讐だなんて、それがあなたの理想だっていうの!?」

「理想だと!?戯言だ!」

 エグララグはしびれを切らして小夜に襲いかかる。小夜もその姿をキングジョーへと変化させて立ち向かう。地球の命運を左右する、最後の戦いが今幕を切って落とされたのだった。




S.O.N.G怪獣図鑑
ベリアル融合獣 レゾリュームルギエル
体長:55メートル
体重:5万5千トン
ステータス
体:★★★★☆
技:★★★☆☆
知:★★★★☆


 かつて、ウルトラマンになれる生命体を作る実験で生み出された試作型融合獣の一体。ベリアルが制作した怪獣カプセルと、遺伝子を無理やり体内に埋め込まれて誕生した。
 戦闘力のテストとしては最高の実力を誇り、他を寄せ付けない実力を見せたものの、ベリアルを復活させるための捨て駒としては強すぎるという理由で、破棄されたという経緯がある。
 その後、最後まで残った実験体だった地球人の遺伝子とベリアルの遺伝子を掛け合わせることが決定した。
 その生い立ちから、にせウルトラマンベリアル、と呼んでも差し支えない。使用されたカプセルはアトロシアスと同じものだが、こちらはベースとなったダークルギエルやエンペラ星人の特製が強く出ている。
 ダークルギエルの出自や、ウルトラマンとして制作された経緯もあって、その姿はウルトラマンベリアルと酷似している。
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