戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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最終話「小夜曲は星の瞬きと共に」

 クーちゃんは、レイオニクスギアを発言していないながらも、ゼルガノイドとは対等に渡り合っていた。クリス以上に火力に特化させたイチイバルは、圧倒的な体格差をものともしていない。

(やっぱり、人目を気にしないで暴れ回れるのって、最高!)

 ゼルガノイドの腕を吹きとばしつつ、格納庫の中を縦横無尽に駆け回る。ツバサから前線に出ることを禁じられたのも、クーちゃんは戦闘中は周りの目を気にせずに乱射して回るからである。

「さてと、気分もアガってきたし、とっておき、いっちゃおうかな!」

 先ほどから何発かゼルガノイドに直撃させているが、致命傷までには至っていない。このまま着実に削っていけば、いつかは倒せるかもしれないが、時間がかかればかかるほど、響達に負担がかかる。できることなら、短時間で決着をつけたい。

 クーちゃんはランチャーを二丁、空中に放り投げ、さらに二丁取り出して構える。

「さあて、あたしのワンマンショー、楽しんでいってよね!」

 絶勝の歌とともに、4丁のランチャーが組み合わさり、一つの巨大な戦車となる。ゼルガノイドと比べるとまだまだ小さいが、クーちゃんは不適な笑みを浮かべて乗り込んだ。

 レバーを操作し、戦車はバック走行をしながらゼルガノイドにミサイルを撃ち込む。先ほどまでの砲撃とは桁違いの火力にゼルガノイドは大きく後退し、戦車はゼルガノイドの急所を狙える狙撃ポイントを探す。胸のカラータイマーを破壊すればその活動は停止するはずだが、それを破壊できるだけの火力を放つには、ゼルガノイドが振り返った瞬間を狙うしかない。

「やっぱ思ったとおりには行かないよ、ねっ!」

 ゼルガノイドを襲う砲撃は激しさを増す一方であるが、中々ゼルガノイドは背中を見せない。エタルダミーにどれほどの知性が受け継がれているのかは分からないが、クーちゃん自身、ここまで苦戦するとは思ってもいなかった。 

 クーちゃんは一度狙いを変え、ゼルガノイドが無防備になった瞬間ではなく、足を狙う。胴体と比べて的が小さいが、このまま砲撃を続けていても、いたずらに時間を消費するだけである。

「いっただき!」

 ほんの一瞬だけ、ゼルガノイドが油断した一瞬を狙って、4門の砲門から両足めがけて一気にミサイルを打ち込む。バランスを崩したゼルガノイドはうつ伏せに倒れ、すかさずその下に潜り込む。

 その巨体に押しつぶされそうになる前に、今放てるだけの砲弾を一斉に打ち込む。そのままでは潰されてしまうが、クーちゃんは黙って潰されることはなく、カラータイマーごとゼルガノイドをうちぬいた。撃ち抜いた穴に飛び込み脱出すると、格好良くポーズを決めてみせた。同時に背後のゼルガノイドは粒子となって消滅し、絶唱で生み出された戦車も無傷でその場に残った。

「っつ~。ひっさしぶりの絶唱は効くなぁ~」

 だが流石にクーちゃんはギアの負荷に耐えられず、ギアを解除した。ところどころ痛む体を押さえて、軽く咳き込むと、手に付いた血糊を持ってきたスカーフで拭き取った。

「さてと、助けに行こっか」

 痛む体にムチを打ち、響たちを助けに向かう。本当は休んでいなければならないが、少しぐらいは無茶をしてもバチは当たらないはずだ。

 

 

 響とセレナは2対2という対等な条件でありながら、苦戦を強いられていた。元々装甲(アーマード)メフィラスは複数人でかからなければならない相手である上に、ビエントの援護も相まって、装甲(アーマード)メフィラスに集中することができない。

 もしここにクリスがいれば、ビエントを引き付けさせて、その間に装甲(アーマード)メフィラスを撃破することができたかもしれない。しかし、今は自分より経験の劣るセレナしかいない。どうすればいいのか、必死に考えを巡らせながらこの場の最適解を探す。

(イグナイトを使ってもいいけど、それこそ仕留められなかった無理だし……。どうすれば……)

 セレナが一度装甲(アーマード)メフィラスに敗北していることが頭をよぎり、自分がビエントを引き離す囮を買って出ることができない。セレナのリーチなら、空を飛ぶビエントと渡り合えるかもしれないが、万が一のことがあれば、マリアに合わせる顔がない。

「立花さん、一つ、提案があります」

 できるだけセレナに傷が届かないように守りながら戦っていると、セレナが口を開いた。やはり、このままでは埒が明かないと考えているのは自分だけではない。

「私が、あのテンペラー星人を先に倒します。その間、あのメフィラス星人を引き付けてくれますか?」

「え?」

 セレナが自分からビエントを引きつけるとは思ってもみず、思わず声が漏れた。

「でも、大丈夫なの?セレナちゃんだけで……」

「心配しないでくださいよ。私だって、元の世界じゃノイズ駆除とか結構やってるんですよ?それに、キリカさんとかがよく見てるアニメとかだと、私ぐらいの女の子が主人公としてよく活躍してるものです。だから、へいき、へっちゃら。です!」

 響を意識したのか、セレナは響の口癖を真似て強がりをみせた。本当ならば、響はセレナを止めたかったが、よく見ると、セレナの手が震えているのが見え、響の心が揺らぐ。どのみちどちらかがビエントを倒さなければならないのだ。響はセレナの勇気を買い、この場を任せることにした。

「じゃあ、お願いしてもいい、かな?」

「はい!任せてください!」

 セレナは響の背後から出ると、空を飛んでいたビエントの翅を絡め取り、響から引き離す。響も一歩踏み込み、装甲(アーマード)メフィラスの鎧の一点に打撃を集中させ、鎧を歪ませる。ビエントの支援がなければ、時間などいくらでも稼げる。

 ビエントは徐々に響きたちから引き離され、セレナは頃合いを見て、翅を引きちぎって墜落させた。そして間髪入れずにまっすぐ切り込み、ビエントの首を狙う。だが、ハサミに阻まれてそれは叶わず、セレナは大きくよろめいた。

 再度剣を構え直し、セレナは諦めずにビエントに立ち向かう。すぐに攻撃は弾かれてしまうが、すぐに体制を立て直し、ビエントのハサミを狙う。セレナの刃は簡単に捉えられ、ビエントは剣ごとセレナを放り投げた。だがそれはセレナの計算のうちだった。セレナは剣から手を離し、自分が放り投げられるのを阻止すると、セレナはすぐにガントレットから短剣を引き抜いてビエントの胸に突き立てた。思わぬ一撃にビエントはたじろぎ、セレナはさらに柄を蹴り込んで置くまで剣をめりこませた。そして投げ捨てられた剣を拾い、ビエントの背中に回り込んで、縦一文字に切り裂いた。ほんの一瞬の連続攻撃の前に、ビエントは対処する暇さえないまま、そのまま光の粒子となって消えた。

(ふぅ、なんとかなった……。立花さんは……)

 敵を倒し、セレナは一息つきたかったが、自分を苦しめた強敵を放置しておく訳にはいかない。すぐにセレナは響のもとへと向かう。響と装甲(アーマード)メフィラスは、分断こそ成功したものの、リーチの差に苦しめられているようだった。響の拳はリーチこそ負けているものの、歪んだ鎧ではその攻撃を相殺しきれず、逆に装甲(アーマード)メフィラスの攻撃の一つ一つが正確であるため、一撃でも当たってしまえば致命傷となりうる。お互いに実力は拮抗しており、時間だけをいたずらに消費している状況だった。

「立花さん!」

 響の間合いの外から、セレナは大きく切り込み、装甲(アーマード)メフィラスのサーベルを抑えた。そのお陰で響は回り込んで、頭を殴り飛ばすことができた。

「セレナちゃん!ありがとう!あとちょっとだけ抑えてて!」

 装甲(アーマード)メフィラスはセレナの拘束から逃れようとしているあまり、響に対処するだけの余裕がない。その間に、響はガントレットを一つに束ね、背中のブースターが火を吹いた。この一撃を確実に決めるために、タイミングは慎重に決めなければならない。じっくりと腰を落とし、そのタイミングを待つ。

 そして響が準備を整えたとほぼ同時に、セレナが振りほどかれて装甲(アーマード)メフィラスがこちらに向かってくる。響は溜めていた力を開放し、全力の拳で装甲(アーマード)メフィラスを殴りつける。響に勢いに圧され、装甲(アーマード)メフィラスの体は壁まで一直線に叩きつけられ、その鎧もとうとう砕けることとなった。

 だが致命傷にはならなかったようで、まだメフィラスには対抗する意志が見えた。だが響も黙っているはずがなく、一撃、また一撃とメフィラスへと重い一撃をぶつけていく。

 そしてメフィラスが残ったサーベルで響の体を貫こうとしたと同時に、響は飛び上がり、サーベルを足場にして更に上へと跳ぶ。そして空中で一回転すると、そのまま踵を落としてメフィラスの体を真っ二つに切り裂き、メフィラスは光の粒子となって消滅した。

「ふぅ、つっかれた……」

 敵を殲滅し、響は肩の力が抜けて自然とギアが解除された。セレナも敵が周囲に隠れていないが警戒をしながら響と合流する。

「あっれー?終わっちゃった?急いで駆けつけてきたのに」

 少しして、周囲に敵がいないことを確認し終えるとほぼ同時にクーちゃんがやってきた。なにもないように取り繕ってはいるが、クーちゃんの挙動の節々には不自然さが見え隠れし、相当苦戦していた事が伺える。

「お疲れ様です。こっちも一段落して、敵が隠れてないか確認してたところですよ」

「ふむ。関心関心。とりあえず船の中には幹部とかが隠れてたりはしないっぽいね。小夜も苦戦してるだろうし、行くよ!」

「はい!」

 響たちはクーちゃんと合流し、小夜がいるであろう部屋へと向かう。ここからであれば、すぐにたどり着けるであろう場所だ。小夜の負担を軽くするためにも、響達はまっすぐ部屋に向かった。

 

 

 響達が部屋の中に足を踏み入れると、キングジョーの巨体が部屋の壁に叩きつけられ、部屋が大きく揺れた。部屋の中央では、無傷のエタルガーが神々しく浮かんでいる。

「小夜ちゃん!大丈夫!?」

『その声、響さん達、ですね……。なんとか、耐えてはいますが、ちょっと厳しいです。』

 通信機越しに小夜の無事を確認できたが、状況が不利であるという事実に以前変わりはないようだった。

 響もすぐにレッドキングを呼び出して応戦するが、エタルガーの外殻は硬くレッドキングの一撃にビクともしない。、キングジョーを助け起こし、エタルガーに立ち向かうが、攻撃が効いている様子はない。そして、全く見当がつかない方向から、突如レッドキングが殴り飛ばされ、エタルガーは何事もなかったかのようにその場に佇んでいる。

「弱い。あまりにも、弱い」

 エグララグは悠然と空中に浮いていた。黄金の魔神(エタルガー)の何違いない強さを見せつけた。

 レッドキングはキングジョーと共に挟み込むようにして襲いかかるも、またしてもエタルガーは姿を消し、互いが互いを殴りつける格好となってしまう。そして虚空から現れたエタルガーが空中から2体を殴り飛ばした。

「何故だ……。地球人はこうも弱いのに、怪獣を使わなければ私と並び立つことすら不可能だと言うのに、なぜ私は失敗作の烙印を押されねばならぬのか……。強かった私ではなく!」

 エタルガーは自分の出自を呪うように、つぶやいた。響たちにはその真意はわからないが、小夜にはそれに対する答えが一つだけあった。

『そんなの、考えれば分かるじゃないですか』

 諦めずに立ち上がり、キングジョーの腕にペダニウムランチャーを装備する。直接攻撃が駄目ならと、遠距離攻撃を仕掛けるも、エタルガーには命中していない。

『あなたは力を求めることしか考えていない。誰かから奪って、自分を満たす今年考えられない。だから捨てられた。それだけのこと』

 ペダニウムランチャーから放たれる砲撃は、エタルガーにかすりもせず、代わりに背後の鏡が割れた。エタルガーはその音を聞いてなぜか戸惑い、その姿が大きく揺らいだ。先ほどまではしっかりとした実体として見えていたはずのエタルガーの姿が、まるでノイズの混じった映像のように不安定なものへと変化する。

「鏡……?なんで」

「とにかく、あの無敵の正体は鏡でよくわからないトリック使ってたことなんだし、全部叩き割るよ!セレナちゃん、準備はいい?」

「え?は、はい!やってみます!」

 残っていた2人はギアをまとい、辺り一面を無差別に破壊して回る。クーちゃんの砲撃は周囲の鏡をたたき割るのに十二分な火力を持ち合わせており、少しずつエタルガーの姿が全く別の場所に現れる。それは、今までエタルガーが浮かんでいた場所ではなく、その上、ちょうど響達を見下ろせる場所だった。

「侵略者の親玉のくせして、せっこいね」

「あいにく正々堂々と勝負をしに来ているわけではないのでね」

 エタルガーはゆっくりと降り立ち、独特な構えを取る。これでエタルガーに攻撃が通るようにはなったが、あくまで同じ土俵に立てているだけでまだ優勢になったわけではない。

 それを証明するかの如く、キングジョーとレッドキングの攻撃はエタルガーに直撃こそすれ、まるでダメージを受けている様子がない。あざ笑うかの如く2体の懐柔を薙ぎ払い、余裕の姿勢を見せた。まだエタルガーには届かない。外殻にヒビでも入っていれば変わったのかもしれないが、今はそんなことを考えている余裕などなかった。

「私の姿を暴き出したところで、エタルガーの体に傷一つ付けられないのでは無意味だ」

「ううん。そんなことはない」

 勝ち誇ったようなエタルガーに対し、響は未だに諦めていないようだった。彼女レッドキングも、諦めるどころか闘志を燃やしているのが見てとれる。

「一発でダメなら、10発、10発でダメなら100発撃ち込めばいいだけ!」

 レッドキングは大きく吠えて、エタルガーに襲い掛かる。響の気持ちに応えたのか、レッドキングの両腕はEXレッドキングのように大きくなり、エタルガーの外殻を殴り続ける。響の気合の一撃に、エタルガーの顔面にヒビが入った。その一撃はエタルガーも予想していなかったようで、逃れようとするが、とっさの回避ではレッドキングの猛攻をよけきることができない。

 そしてついにレッドキングの拳はエタルガーの顔面を粉々に砕き、エグララグの本体が露になった。響は露になった素顔を見て驚愕した。

「アトロシアス!?でも、ちょっと違う……?」

「貴様……。よくもエタルガーを砕いてくれたなぁ!」

 エタルガーの外殻を砕いたことは、エグララグの逆鱗に触れたようで、エグララグはレッドキングを殴り飛ばした。一部が砕けたことで、エタルガーの外殻が連鎖的に砕けていく。当初は顔しか見えなかったが、最終的には全身が露になった。

 ウルトラマンベリアルと酷似していながらも、どこか違う、ダークルギエルやエンペラ星人といった怪獣の特徴が強く表れたような姿をしていた。そして片腕の『09』の2文字がオリジナルとは別物であるということを物語っている。

 自らの姿を無理やり引きずり出された事にエグララグは激昂し、力任せにレッドキングを殴り飛ばした。そして腕を乱雑に十字に組み、そこから発射された光線でレッドキングは反撃する暇さえないまま撃破されてしまった。

 エグララグの怒りはそれでは収まらず、獣のようなうなり声とともに響達に襲い掛かるが、キングジョーが割り込んで妨害した。

「私の姿は、私が許したものだけに見せるものだ!貴様らのような人間に見せるものではない!」

 キングジョーが盾となり、エグララグの攻撃を防いだものの、響達から離れることができないためか、十分に戦うことができない。

『ここは私が食い止めます!早く逃げてください!』

「でも、小夜ちゃんを置いてくなんて……!」

『怪獣が出せない以上、ここにいたら危険です!大丈夫です!私一人で何とかしますから、先に行って、安全の確保をお願いします!』

 響は小夜を置いて一人で戦わせることには不安があったが、どのみちここにいては小夜の足手まといにしかならないことも同時に理解していた。

「それじゃ、先に行って待ってるから!絶対に帰ってきてね!」

 小夜に全てを託し、響達は部屋を去っていった。小夜もエグララグに立ち向かっていき、響達が逃げられる時間を稼ぐためにも組み伏せる。正直分の悪い戦いであるとは承知しているが、響達にまで被害が及ぶのは看過できない。

 響達が部屋を後にしてからしばらくすると、小夜も一転して攻勢に出る。キングジョーとレゾリュームルギエルの一騎打ちが始まった。パワーではレゾリュームルギエルの方が上だが、防御力ではキングジョーの方が上である。

 総合で見れば、互いの能力差はなく、互いに拳をぶつけ合うだけの勝負が続く。エグララグの光線ではキングジョーの装甲を破ることは出来ず、キングジョーも特別決め手を持たないが故に純粋な格闘戦に持ち込まざるを得ない。だからこそ、小夜は今打てる拳にすべてを乗せる。

 生きる意味を見失っていた自分に、平行世界から来た姉は言った。無いなら探せばいい、生きるのを諦めないでほしいと。その言葉は小夜に生きる意味となり、姉を殺めた自分と向き合う勇気をくれた。

 そして現れた姉の幻は自分に問うた。夢はなにか、本当にやりたいことは何か?と。小夜は答えた。世界を守り、みんなが笑顔で暮らせる世界を作りたいと。

 自分の義姉は笑った。そんなことは絵空事だと。そんな世界は来ないと。だが小夜は力強く答えた。絵空事だからこそ、美しい世界を目指すのだと。手に入らないから、必死に手をのばすのだと。

 平行世界からやってきた装者は、皆響が伸ばした手をつなぎ、世界を守ってきた。生まれた世界が違っても、響に出来たことなら自分にもできるはずだ。

(だから、伸ばすんだ!もう一度!何度でも!私の、夢のために!)

 拮抗を続けていた両者の拳だったが、小夜が意思を固めた瞬間、ほんの僅かだけ小夜の拳が、エグララグの拳をすり抜けてエグララグを殴り飛ばした。大きく体勢を崩したエグララグを、キングジョーは逃すことなく拳を浴びせ、戦いの主導権を握る。

 キングジョーの猛攻の前に、エグララグは反撃の体制を整える暇すらなく、大きく殴りつけられると同時に、壁に叩きつけられた。そして再度ペダニウムランチャーを装備し、その砲身に小夜の思いをすべて乗せて全身のエネルギーを一点に集中させて、エグララグに狙いを定めて放つ。今まで感じたことがないような反動とともに、ペダニウムランチャーの一撃はエグララグの体を貫き、エグララグは爆発四散した。

 エグララグを倒したと確信すると同時に、キングジョーの変身も解けて、全身を激痛が襲う。小夜は慌ててアンチLiNKERを打って、適合率を調節すると、部屋の外に出る。先程の戦闘の余波で、部屋だけではなく、この城塞すべてが崩れる音があちこちから聞こえてくる。バランスを失ったこの城塞は地球の引力に引かれて崩れながら地球へと落ちていくのだろう。

 だが小夜もこの城塞とともに死ぬわけにはいかないので、すぐに響達のもとへと向かう。

「小夜さん!」

 クーちゃんが戦っていた格納庫まで下りてきたとき、セレナが奥から駆けつけてきた。中々戻ってこない小夜を心配して戻ってきてくれたのだろう。

「大丈夫ですか!?勝ったんですよね?」

「うん、なんとか。ギリギリ勝てたって感じかな。私もボロボロだけど」

 セレナに支えられ、皆の待つ宇宙船へと向かう。城塞も上の方は崩れているようで、格納庫も崩れてきた上層部の重みに耐えられずに崩れそうである。

 そして格納庫の出口も近づいてきた時、クーちゃんから連絡が入った。

『もしもし!?セレナちゃん!早く引き返して!まずいよ。ここ、崩れてるんじゃなくて、無理やり軌道を変えながらまっすぐ落ちてるっぽい……。このままだとS.O.N.G本部直撃コースだよ!先回りして、早くつーちゃんたちを避難させないと!』

 先に宇宙船で撤退の準備を始めていたクーちゃんの声が通信機から聞こえる。この状況下でそんなことができるのは、一人しかいない。エグララグはまだ生きていたのだ。

 小夜はその通信を聞いて、まだ戦いが終わっていないのだ。であれば、自分がやることは決まっている。

『Balwisyall Nescell gungnir tron』

「小夜さん?」

 ガングニールを身にまとい、アガートラームのペンダントをセレナに握らせた。

「ごめんセレナちゃん。私、ちょっと行ってくる」

「え!?」

 セレナは一瞬いわれていることが分からないようだったが、すぐに意味を理解した。小夜は帰らないつもりでいるとわかるや否や、すぐに小夜の腕を引いて引き留めようとした。

「何言ってるんですか!?姉さんは、私たちに帰ってきてってお願いしてたじゃないですか!ここで残ったらーーー」

「大丈夫だよ。セレナちゃん。キングジョーの装甲は大気圏の摩擦ぐらい耐えられる。本当に危なくなったら、変身すれば大丈夫。それに、エグララグを本当に倒せれば、ここはバラバラ崩れて、大気圏との摩擦で燃え尽きるはず。本部だって守れるの」

「でも、小夜さんが無事に戻ってこれるわけが……!外は宇宙なんですよ!?」

「キングジョーに変身すれば、大気圏なんて突破できる。テレビとかでもキングジョーは宇宙から来たんだから、大気圏ぐらい余裕で突破できるって」

「でも……」

 セレナはなんとしても小夜と帰りたいようだったが、小夜がエグララグを完全に撃破すれば本部の危機も回避できると理解しているがゆえに強く引き止められないようだった。

「大丈夫セレナちゃん。私を信じて。絶対に追いかけるから」

 小夜はセレナに諭すように言い聞かせる。恐らく思いつく限りのことはやっただろう。キングジョーに変身すれば大気圏も突破できると言ったし、自分が言い出した以上、エグララグの撃破は自分がやらなければならないとも言った。あとはセレナが行ってくれるのを祈るだけである。

「……待ってますから」

 セレナは小夜がここに残ることに同意してくれたようで、小夜から託されたアガートラームを握りしめてその場から去っていった。

(また、嘘ついちゃったな)

 もしここに来たのがクーちゃんだったら、絶対に反対されただろう。なぜなら、今の適合率では、ギアをまとうことはできても、キングジョーへの変身はできない。セレナたちを先に逃がした為に、ここから脱出できる方法もない。

(それじゃ、最後の大仕事、始めようかな)

 もうこの城塞は限界が来たようで、格納庫も限界を迎えて崩れ出す。同時に天井から巨大な影が姿を現した。もはやそれをエグララグと呼んでよいのか、その異形は全身からツタのようなものを生やし、崩れていくガレキを無理やりつなぎとめて一つの巨大な怪物へと変貌していく。

「貴様に、この痛みが分かるか!?元に戻れぬ苦しみが!」

「分からないよ。私は、あなたのようにはならないから。自分の今を呪うぐらいなら、私は明るい未来を勝ち取るために戦うって、決めたから!」

 すでに格納庫は原形をとどめておらず、中に溜まっていた空気が外に放出されている関係もあってものすごい風が周囲を襲う。すでに大気圏に入っているのか、視界の端が少し青くなっているのが見える。大気圏内で燃え尽きさせるためには、2分以内に倒さなければならない。

「ならば味わうがいい!ここで散り、何も守れない絶望を!終わらぬ悪夢をな!」

 エグララグは巨大な塊から、一体の異形へと姿を変えた。ガレキを取り込み、変化を続けた彼は、エタルガーのような神々しさも、レゾリュームルギエルのような禍々しさもない、ただの獣同然の姿だった。

 小夜はアームドギアを握り、エグララグに組み付く。これがレゾリュームルギエルの固有能力かは分からないが、少なくともエグララグ本体を完全に貫いて、初めて勝利といえる。しかも、エグララグはガレキを取り込んで徐々に大きくなっているので、とにかく時間をかけるわけにはいかなかった。

小夜を振りほどこうと襲い来る触手を薙ぎ払い、中心部めがけてガレキを外していく。あと少しで中心に到達できるかというところで、エグララグに振り落とされ、地面を転がる。アームドギアを支えにして落下するのだけは避けられたが、残りは60秒もないかもしれない。

『Gatrandis babel ziggurat edenal』

 最後の一撃を放つため、最期の歌を紡ぐ。

『Emustolronzen fine el baral zizzl』

 姉との約束は果たせないが、小夜は後悔をしていなかった。

『Gatrandis babel ziggurat edenal』

 地上に残っているシラベやツバサは、これから先復興作業で忙しくなるだろう。

『Emustolronzen fine el zizzl』

 もう小夜がそれを見ることは叶わないが、この世界のS.O.N.Gが作る未来はきっと明るい未来なのだろうと願い、全身のフォニックゲインを一点に集中させる。

 もう二度と会えない親友や姉の顔が刹那に脳裏をよぎり、頬を涙が伝う。小夜は覚悟を決め、最期の一撃をエグララグに向けて放った。

 小夜の手から放たれた一撃は、エグララグの体を貫き、その中心にいた本体をも貫いたようで、エグララグを構成していたガレキが、バラバラになっていく。

「バ、バカな……。この私が、たかが小娘ごときに……!」

 崩れていくガレキの中から、無数のツタが絡み合ったような小さい影が零れ落ちる。その胴体には、小夜の放ったアームドギアが深々と刺さっている。

「おのれぇ……。滅べぇっ!滅んでしまえぇっ!」

 最期に見苦しい呪詛を吐きながら、エグララグは目の前で息絶えた。同時に小夜も倒れこみ、ギアも解除される。

 全身のフォニックゲインを使い切ったのだ。キングジョーの変身はおろか、もはや意識を保つことすら困難になるのは明らかだ。

(あぁ、マリア姉さんとの約束、果たせなかった、な……)

 薄れゆく意識の中、約束が果たせずに、マリアを悲しませてしまう事に罪悪感を抱き、そのまま意識は暗闇の中に沈んでいった。

 

 

 セレナが宇宙船に戻ると、出発準備を終えたクーちゃん達がセレナしか戻ってこないことに違和感を感じた。

「小夜は?」

「えっと、エグララグにとどめを刺すって残ってます。でも、後で必ず来るって……」

「はぁ!?何それ、ちょっと待ってて、すぐに連れ戻してくる!こんな状況で置いてけぼりにできるわけないし!」

 クーちゃんは操縦桿から手を離し、小夜の元へと向かおうとした。しかしその直後、船全体が大きく揺れ、ドックが一気に傾いた。既に地球の重力圏に入っているのか、宇宙船はドックの中を滑る。クーちゃんはなんとか逆噴射などを駆使して戻ろうとするが、それも虚しく宇宙船は城塞から投げ出されて、まっすぐ地球へと落ちていく。

「待って!このままじゃ小夜ちゃんが!」

「こればっかりは諦めるしかない、かな……。こんなところで無理に方向転換したら、こっちの船体が持たない。もう小夜を助けになんて行けない」

 クーちゃんは表面上は取り乱さないようにしているが、その頬には不釣り合いな冷や汗が滲んでいた。

「……。とりあえず、本部近くに着地させるよ……。つーちゃんに連絡して、回収してもらわないと……」

 小夜を見捨てる形で城塞から脱出となっていまい、一同は黙り込んでしまった。クーちゃんは小夜を喪ったという事実から目を背けるかのように、淡々と冷静に自分の役目を全うした。

 

 

 

 響達が地球に到着するという連絡を受け、推定座標周辺に向けて、シラベ達は出発していた。マリアの運転する輸送車に乗り、応急処置に必要な道具や担架を積んでいる。

「きれい……」

 本部を出ると、外はすっかり暗くなっていて、空にいくつもの流れ星が舞っていた。シラベが今まで見たことがないような量に、思わず魅了される。

「帰ったら祝勝会ね。セレナ達にいっぱいお祝いをしてあげなきゃ」

 運転席のマリアが漏らした。既に通信でエグララグを倒し、作戦は完了したということは伝えられているので、車内の雰囲気は明るい。

「日本の戦闘糧食(レーション)って美味しいデス……。やめられない、とまらない……」

 ブツブツ呟きながらキリカは持ち込んだ食事を食べている。小夜やセレナに用意した食事を食べられるのは我慢ならないが、クリスを始めとした一般人の救助で疲れている体に無理を言っているのだ。あまり強くキリカを責められない。

「ちょっと、それセレナちゃんに用意した良いやつなんだから、ちゃんと残しといてよ。ちゃんとあなた用のハンバーガーだって用意したんだし」

「なんか日本のは、甘くって微妙デスネ。それに、アタシだってハンバーガー以外も食べるんデスヨ?例えば……例えば……?」

 キリカはハンバーガーばかり食べてると思われたくないようだが、思い返してみればハンバーガー以外を食べる機会というのが少ないことに気がついてしまったようだった。シラベは思わずため息を漏らしてしまった。

「そろそろ見えてきたわ……。外で待ってるみたいだけど、小夜の姿が見えないわね。中にいるのかしら?」

 マリアがそろそろ到着することを告げたが、小夜が見当たらない、という一言が不安にさせる。確かに、今回の作戦は小夜を主軸に据えたモノで、小夜にかかる負担は決して軽いものではない。宇宙船の中で休んでいる可能性も否定できないが、それはそれで急いで処置をしなければならないので、不安を駆り立てる。

 シラベ達を乗せた車が到着すると、不安を拭うためにも、シラベは飛び降りて小夜の姿を探す。

「小夜!」

 急いで中に駆け込み、宇宙船の中を探すが、休んでいる小夜なんてどこにもいない。周囲で見張りでもしているかとも思ったが、響達が呼び戻す様子もない。そして何より、勝利したというのに響達の表情が暗すぎる。

「セレナお帰り。もう一人のセレナはどうしたの?近くにいないみたいだけど……」

 マリアも車から降りて、小夜がいないことに気が付いたようだが、セレナは真実を伝えることをためらっているようだった。

「小夜さんは、まだ生きてたエグララグを倒すために……」

 重い空気の中、セレナが言えたのはたった一言だった。もう戻ってこない。そういうことはできないが、マリアやシラベはその先を理解してしまったようだった。

「小夜さんは、最後に嘘をついたんです。キングジョーに変身すれば戻ってこれるって。でも、アンチLiNKERがないと小夜さんの適合率は安定しないので、キングジョーに変身できるほどの適合率まで上がりきらないって……」

 セレナは申し訳なさそうにすぐに言った。小夜が帰ってこれない。その一言は衝撃的すぎるものだった。今頭上で流れている流れ星の中で、小夜が燃え尽きていると暗に語っているようだった。

 小夜の再生能力は、あくまで失った体のパーツを再構築するものである。故に、大気圏との摩擦で細胞の一片も残らずに燃え尽きてしまえ再生する前に全身が灰となってしまう。

 キングジョーに変身して脱出できなかったという事実は、小夜の帰還が叶わないということを意味していた。

「なによそれ……」

 それを聞いたシラベが漏らした一言はそれだった。小夜を連れ戻さなかったことに対する怒りか、もう戻ってこないことへの悲しみか、少し声が震えている。

「なんで、何でよ!なんで小夜ばっかりこんな目に合うの!?小夜が一体何をしたっていうの!?どうして小夜は普通の女の子として暮らせないの!?ねえ、何でよ!」

 シラベはついにこらえ切れなくなり、その場で泣き崩れた。マリアは小夜の事を受け入れられていないようで、悲しみよりも、信じられないというような表情をして固まっている。

 この世界に襲来した宇宙人たちの侵略は、首魁であるエグララグが倒れたことにより阻止された。だがそれは、一人の装者の犠牲という大きい代償を支払って手に入れた、辛い勝利だった。

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