戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey   作:パイシー

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Epilogue『夜明け』

 エグララグとの戦いが終わり、はや2週間が経過しようとしていた。響達を元の世界に戻す手続きや、残党狩り、復興作業といった事後処理に追われ、気がつけばそれほどの時間がかかっていた。小夜の死が受け止められず、件名の捜索活動が行われてモノの、小夜の痕跡は何一つとして見つからず、ついに先日死亡認定がくだされた。

 葬儀にはS.O.N.G職員と、装者一同が参列し、彼女の墓は2人の姉と同じく彼女の実家からほど近い霊園に設けられた。小夜の実家は、取り壊される話も持ち上がったものの、シラベの意向で彼女の義父名義で買い取り、シラベが保有することになった。

 小夜の葬儀では、小夜の早すぎる死を悲しむもの、未だに信じられずに呆然とするものと参列者の反応は様々だった。ツバサはただ一言、「小夜は2年前の時点で死んでいた。本当は、元に戻る場所に戻っただけなのかもしれないな」と漏らした。それは、小夜の死を受け入れられなかったツバサなりの解釈だったのかもしれない。

 そうして葬儀が終わり、シラベは荷物を持って小夜の実家にやってきた。本部から離れた土地にあるものの、ギアを使えばさほど往復に苦労はしない。

「シラベさん」

 持ってきた荷物を整理したり、ホコリの被った家の掃除をしていると、セレナが訪ねてきた。彼女たち別世界から来た装者は明日にも元の世界に帰る手はずが整っている。最後の別れのあいさつに来てもおかしくないのだが、保護者(マリア)がいないというのは珍しい。

「セレナちゃん?珍しいね。お姉さんはいないの?」

「はい。マリア姉さん、あの日からずっと元気がなくって。姉さんは取り繕ってますけど、見ていられなくて……」

 キャロルは小夜の死で、第2、第3のヒビキの登場を危惧していた。小夜の蘇生を目的に、反旗を翻す装者の出現は、この状況では対処しきれない。

「シラベさんは、あんまり応えてなさそう、ですよね?」

「そうでもないよ。私がここにいるのだって、小夜のことをまだ諦めきれないからだし。いつか、帰ってくるんじゃないかって。それに、みんなを裏切ってまで小夜を生き返らせても、きっと小夜は喜ばないだろうし……」

 シラベがこうして小夜の家を買い取り、住むことを決めたのも、小夜はまだ死んでいないと心のどこかで思っているから、というのもあった。いつかまた、小夜が帰ってきてくれるのではないか、

 縁側で2人並んで、空を眺める。セレナも、シラベのいるところだけは行きたくなかったが、それ以上に本部の重い空気が耐えられなかった。どこか行くとしても、本部から離れた場所というとここしか知らないから、こうしてここに来たのだ。

「すいませーん。宅配便です!ハンコお願いします!」

 特にすることもなく、2人とも無言でいると、突然宅配便のトラックがやってきた。何かを注文した記憶はなかったが、もしかすると引っ越し祝いで遠くで活躍している義父からかもしれないと、シラベは印鑑をもって宅配便を受け取る。長い髪を後ろで一つに束ね、目鼻の整った配達員から渡された伝票にハンコを押す。差出人含め、海外から送られてきたようで、すぐには差出人などが分からない。

(それに業者も聞いたことない……。パ……ユー?ブイ……?)

 しかもトラックは大型トラックの荷台には、カラースプレーで乱雑に書かれたロゴはシラベではすぐに判読することができない。流石に義父でもこんな怪しい業者を使うわけがない。

「それじゃ、荷物持つの手伝ってもらえますか?さすがに一人だと重いので」

「え?えぇ……。かまいませんけど」

 配達員に指示されて、トラックの荷台に回る。荷台に積まれていたのは、1.5メートルはあるであろう巨大な木箱だけだった。まるで棺桶のような大きさで、実際持ってみると、普通の荷物では考えられないほど重かった。少なく見積もっても50キログラムはあるだろう。

(重い……。誰よこんなの送り付けてきたのは……)

 庭先に木箱を移動させると、配達員はそのままトラックと共に去っていった。木箱全体を見渡すと、かなり厳重に封をされており、中の荷物は相当壊れやすいものということだけはわかる。

「ところでシラベさん。木箱ってどうやって開けるんですか?」

 木箱をじっくり見ていたセレナがつぶやいた。シラベが昔見た映画では、バールのようなものでこじ開けていたが、さすがにそんなものはここにはない。仕方がないので、神獣鏡(シェンショウジン)のクナイで中身をこじ開けることにした。

 だが、クナイは思った以上に短く、中々金具と木箱の間に入らない。何度か挑戦したものの、木箱の表面を削っただけで、中身が出てくることはなかった。

「ああもう!面倒くさい!」

 中々あかない木箱に対し、シラベはとうとうしびれを切らして、叩き壊して開けることにした。ギアのアシストがあれば、こんなものは簡単に壊せる。

 一度呼吸を整えて、全身全霊のかかと落としで木箱を壊して中を見ると、一通の手紙と装飾の施された棺桶が出てきた。セレナは手紙を拾い上げて、内容を読み上げる。

「えっと……『S.O.N.G本部の装者御中。この度の戦いの勝利、心よりお祝い申し上げます。その健闘をたたえまえして、ささやかながら祝いの品を送らせていただきます。パヴァリア、商会……?』多分これで合ってると思います。多分……」

「多分ってなにそれ、こんな重い物送ってくるなんて、悪趣味にもほどが、あるでしょ!」

 棺桶を開けようとするが、蓋が重くて中々開かない。蓋自体が重いというのもあるが、木箱に収まるギリギリのサイズで作られているというのもあって、指を入れる隙間もない。

「だってこの手紙、一応日本語で書いてあるんですけど、字が汚くて……。何か字もアルファベットみたいに歪んでてすごい読みにくいんです。多分、日本語に慣れてない外国の人が書いたんだと思うんですけど……」

「そんなこと、どうでもいい、から!これ、開けるの、手伝って!」

 セレナは手紙をポケットにねじ込み、シラベとは反対側を持って持ち上げる。2人がかりで蓋を持ち上げたことで、蓋はスムーズに持ち上がり、中に入っているものがやっと顕になった。

「え……?」

 パヴァリア商会を名乗る謎の集団から送られてきた正体不明の棺桶の中にはいっていたもの、それはシラベ達にとって全く予想していないものだった。

 

 

 翌日、響達は帰る前に、シラベ達が持ってきた棺桶の『中身』を見て目を丸くしていた。何故ならば、それはここにはないはずのものなのだから。

「小夜ちゃん、見つかったんだ……」

 正体不明の組織から送られてきたもの、それは五体満足の状態で眠りについている小夜だった。傷は完全に癒えており、いつ目を覚ましてもおかしくはない状態だった。

「正確には、復元したといったほうが正しい。オリジナルの小夜は回収こそされたが、絶唱のバックファイアと大気圏との摩擦で大破、その送り主が回収していなければ、本当に大気圏との摩擦で燃え尽きていただろうな」

 キャロルは棺桶の底に埋まっていた解説書に目を通していた。それは技術者が読むことを想定しているのか、表紙からして英語が並んでいる。

「小夜の送り主だが、闇市場に手を出してる錬金術師の集まりだ。金になるなら何であれ売る。金にがめつい守銭奴が仕切ってるところだ。小夜を復元して、こちらに恩を売ったつもりだろうな。何を売りつけられるかわかったもんじゃない」

 キャロルは悪態をつきつつも、小夜が戻ってきたことに内心安堵している面もあるようで、若干気が緩んでいるように見えなくもない。

「見ての通り、今の小夜は基底状態の聖遺物同様、フォニックゲインが無ければ目を覚まさない。本当なら最優先で復帰させたいが、こちらも装者のスケジュールが手一杯でな。しばらくは本部で保管することになるだろう」

「そして、だ。小夜についてはしばらく他の世界に預けることにする」

 ツバサが言い出したのは、衝撃的な一言だった。小夜が帰ってきたこともそうだが、小夜を他の世界の装者に管理させる事は誰にも予想できなかった。

「今この世界の装者は、シラベ、クリス、キリカの3人しかいない。それにこの混乱に乗じて小夜の奪取を狙う連中が現れないとも限らん。ならば、一時的に他の世界で預かってもらい、小夜が目を覚ましたらこちらの世界に戻すことにした。定期的にオートスコアラーを派遣するから、その時に小夜の容態を見て連れて帰らせる」

 小夜を預けることについて、具体的な説明がなされる中、小夜を誰が預かるのか、それだけはハッキリとさせなかった。ツバサは志願制と付け足したが、小夜を預かって良いのか、という迷いが二の足を踏ませているのだ。

「ここは、姉であるあんたが預かったらどうだい?」

 そんな沈黙を破るように、奏がマリアの方を叩いた。マリアは小夜の面倒を見きれる自信がないようで、快諾はしなかった。

「でも、私が預かって良いのかしら?私忙しいし、小夜と一緒にて挙げられるかどうか……」

「別にいいじゃないか。この中じゃ一番多く装者がいる世界だし、弦十郎の旦那もアホみたいに強いんだろ?だったら何が来ても守れるさ」

 奏の後押しもあり、マリアは小夜を預かりたいという旨を申し出た。ツバサもそういうのは分かっていたようで、マリアの申し出をすぐに承諾した。

「ああ。特に志願者がいなければ、そちらの世界に任せる予定だった。小夜を頼んだぞ」

 マリアは承諾を得て、眠っている小夜を棺桶から引き上げて、愛おしそうに優しく抱きしめた。やっと戻ってきた。世界を守った自慢の妹が戻ってきたという実感がマリアの心の中に満ちたような、優しい笑顔だった。

「さて、名残惜しいが、そろそろ帰還時刻だ。ゲートを開くぞ」

 小夜の処遇が決まったところで、響たちが元の世界に帰る時間がやってきた。長い間戦ってきて、愛着の湧いてきたこの世界と分かれるのは名残惜しいような気もするが、響たちもそれぞれが守らなけれならない世界もある。いつまでもこの世界に残る訳にはいかないということも十分理解していた。

「小夜を送り届ける都合もあるからな。先に立花達の世界から繋いで帰還させる。次はどちらからにする?」

「私は小夜さんのことが気がかりなので、立花さんたちと一緒に帰ります。そこからなら自分の世界にも帰れますので」

「じゃ、せっかくだからあたしも一緒に帰ろっかな」

 この世界を守った8人の装者は、バラバラではなく、全員で帰ることを選択した。常に一緒に戦ってきた装者達らしいと言えば、らしい選択だった。

「そうか。では全員同じ世界に転送する。本当、今回の戦いはよく戦ってくれた。この世界のS.O.N.G代表として、感謝する」

「そんな、私達は私達にできることをしただけですって!」

「ああ。本当にありがとう。では、元の世界でも健闘を祈る」

「はい!そちらこそ、頑張ってください!」

 響たちは名残惜しそうではあったものの、順番にゲートをくぐって帰っていった。奏も、ツバサやキャロルを励まして、ゲートをくぐっていった。

「そうだ。最後に一つ、忠告をしておこう」

 マリアがゲートをくぐろうとした時、キャロルが引き止めた。

「もしも、小夜が目を覚ましても、お前のことを覚えていないかもしれない。直したのは体だけで、記憶が引き継がれている保証はないぞ?」

 それはキャロルからの親切心からだったのかもしれない。小夜が目を覚ましても、それは小夜かもしれない。自分を姉と認識できないかもしれないし、ましてや敵として立ちふさがることだってありうる。だが、マリアの答えは最初から決まっていた。

「大丈夫。私はセレナのお姉ちゃんなんだから。覚えてなくても、覚えててもやることは変わらないわ」

「……そうか」

 マリアの満足そうな笑みを見て、キャロルはそれ以上警告することはなく、ゲートに消えていくマリアを見送った。

 そして最後にセレナが残り、ツバサとキャロルにあいさつをし、ゲートをくぐろうとすると、シラベがセレナを引き止めた。

「セレナちゃん。いつでも遊びに来てね。セレナちゃんが来たって聞いたら、地球の反対側にいても飛んでいくから。ご飯とか可愛い服とか色々用意して―――」

「嫌です」

「そんな事言わなくても……。もう寝てるところを連れてきたりは……って痛っ!スネ蹴られた!あ、待ってよセレナちゃん!」

 蹴られた足を抱えてうずくまるシラベをよそに、黙ってセレナはゲートを通っていった。先日は警戒されなかったがセレナがシラベに心を開いてくれるのは、まだまだ遠い未来の話のようだった。シラベはすぐにセレナを追いかけてもおかしくなかったのだが、今回だけは悔しそうにセレナが通っていったゲートを悔しそうに見つめるだけに留まった。

「さて、これから忙しくなるな。それにあのアダムに貸しを作ったとなれば、今後何をふっかけられるかわかったもんじゃない」

「まあそう言うな。ちゃんと小夜も無事だったのだから、今は喜ぶべきだ」

 キャロルは小夜を直したパヴァリア商会に貸しを作ってしまったことに不満があったようだが、ツバサがそれをたしなめた。

 これまで、10人以上の装者が暮らしていた本部だが、こうして半分以上が帰ってしまうと一気に寂しくなる。

「まあ、寂しくはなったがこれから忙しい。私達も私達で頑張っていかないとな」

 こうして、侵略者との戦いは幕を下ろした。まだ問題は山積みではあるものの、決してツバサ達は嫌な顔をしていなかった。奏者たちの結束は強まり、これからやっとこの世界のS.O.N.Gは出発することができるのだ。これからも、S.O.N.Gの戦いは続いていく。けれども、今の装者たちであれば、どんな敵とも戦っていける。その確信がツバサの希望となったのだから。

 

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