戦姫絶唱シンフォギア Never Ending Odyssey 作:パイシー
天羽 奏
この世界のギャラルホルンの効果で、並行世界から招集されたシンフォギア装者の一人。
招集された時点では、まだ宇宙人の侵攻が本格化する前だったが、状況の変化に伴いキャロルに雇われるという形で協力している。
怪獣の召喚もできるが、出撃の度にLiNKERを消費するため、仕事の大半は侵略計画の事前阻止と、異星人の暗殺が占めている。
因みに彼女が招集されてから、響達がこちらの世界に来るまでは3ヶ月ほど経っていない。
キャロルは、切歌に押し切られて調を捕獲できなかったことに苛立ちを感じていた。レイオニクスの力があれば、こちらの戦力増強は思いのままにできる。力を酷使すれば調の命に関わるが、元々消耗品として装者を喚んだのだから、1人や2人死んだ所で関係ない。
『調に指一本でも触れれば、容赦はしないデスよ……』
力づくで調を確保しようとした時、切歌はそう言った。別に、切歌を倒すことは難しくない。しかし切歌という怪獣を喚べる駒を一つ失ってしまう上に、装者の連携を乱す危険性がある。そうなれば、キャロルの本来の目的どころか、地球防衛すら難しいだろう。
「随分とご立腹みたいじゃない?」
司令室で調を確保する算段を立てていた時、奏が突然入ってきた。今は作戦時ではない上に、夜も遅いので司令室にいるのはキャロルと奏の2人だけである。
「あのイガリマの子と喧嘩してたみたいだけど、どうしたの?」
奏は差し入れのつもりなのか、缶コーヒーをキャロルに渡す。
「余計な詮索をするな。お前は黙って戦ってればいい」
「あのシュルシャガナの子が、探してたレイオニクスだったんだろ?」
「なんのつもりだ?」
キャロルは天羽奏という人間が嫌いだ。細かいことにこだわらず、何も考えていない単純な人間かと思いきや、抜目がない。彼女も戦力増強の為に並行世界から召喚した人間の1人だが、余計なことまで詮索してくるせいで、扱いにくい事この上ない。
「別にどうもしないよ。一応仲間だし、心配してあげただけ」
キャロルは奏を無視して、作業を続ける。調の保存が難しい以上、制御装置を使ってコントロールすればいい話だ。調を人質にとれば、切歌の謀反も未然に防げて一石二鳥だ。
「じゃ、邪魔しちゃったね。あたしはもう寝るわ」
奏はキャロルの反応が素っ気なくなったのにつまらなくなったのか、司令室から出ていった。
(まったく、何を企んでるんだ……?)
奏が去った後、キャロルがデータのアクセス履歴を確認すると、誰かがデータにアクセスした跡があった。誰がアクセスしたのかのは、火を見るよりも明らかだった。
翌朝、奏の手には一枚のUSBメモリが握られていた。昨晩、司令室から回収してきたデータが入っているものだ。翼にこれを渡せば、奏の目的はひとまず完了なのだ。
「あら、奏。おはよう」
奏がこのデータをどうやって翼に渡そうか考えていた時、たまたま翼が通りかかった。
「翼、おはよう。これから一緒に朝ごはんでもどう?」
「ええ。いいわ」
翼と共に食堂へと向かう。道中、簡単な世間話で会話が弾む。怪獣のことを理解したくて、太平風土記に目を通しした、初めて触った大怪獣バトルはちょっと難しくて合わなかった等、他愛のない内容だったが、あっという間に食堂についてしまった。
「そうそう、翼。これ、あげるよ」
手早く朝食を済ませ、翼にUSBメモリを渡した。
「これは?」
「中は見てからのお楽しみ。昨夜ちょっと司令室に忍び込んで取ってきたんだ。まあデータ自体はここのパソコンからなら自由に見れるやつだから、こうして渡す必要もないんだけどさ」
翼は不思議そうな顔をしてUSBメモリを受け取った。パソコン自体は各自の寝室に備え付けてあるので、別で用意する心配はない。
「それじゃ、あたしは別で仕事が入ってるから、先行くね」
奏は手を振って翼と別れた。渡したデータの内容は、セキュリティ権限がなくても閲覧できるものに絞られる。けれど奏は翼なら、自分の言いたいことが分かってくれると信じていた。
哨戒任務という口実で奏は街へ出ると、セレナの家へと向かう。SONG本部に全く顔を出さないセレナに何かあれば連絡をする。翼たちか来る前から続けている習慣だ。
「おーい、いるー?」
奏が声を掛けると、奥からバタバタと慌てるような音がして、セレナがすぐに出てきた。
「もう、来るなら言ってくださいっていつも言ってるじゃないですか」
「ごめんごめん。あ、ちょっと待って」
セレナの乱れた髪型を直し、「Z」のようになっていた髪留めを元に戻す。セレナは簡単に髪を整えて奏を奥に通した。
「今お茶入れるので、待っててくださいね」
「あぁ、ありがとう」
セレナが麦茶を用意して奏の前に座る。奏は一口だけ口にして一息ついた。
「あの、今日はどんな用事ですか?」
「レイオニクスが見つかった」
その一言を聞いて、セレナの顔が変わった。怪獣同士の戦いが重要なこの世界において、レイオニクスの存在は戦況を覆すような力を持っているのだ。
「シュルシャガナの子がレイオニクスの素質があったんだってさ。持ち怪獣はまだ無い」
「月読さんが、ですか」
「ま、元の世界でもフィーネの魂を宿してたって話だ。ありえない話じゃない」
レイオニクスの確保は、キャロルがギャラルホルンを使う最大の理由でもあった。恐らく、キャロルはどんな手を使ってでも調を捕らえようとするだろう。
「それで、いつになったらSONG本部に来るの?キャロルが寂しがってたよ?」
奏が突然話題を切り替えられ、一瞬困惑したようだったが痛いところを突かれて、すぐに目を逸らした。
「えぇっと……。その、ですねマリア姉さんにどんな顔をして会えばいいのか分からなくて……」
セレナは申し訳なさそうにそう答えた。周囲にはマリアと話す練習でもしていたのか、そういった関係の本であったり、コピー用紙を束ねた台本のようなものが散らばっている。
「そんな理由?別に普通に会えばいいじゃないか。久しぶり~って」
「そうできれば良いんですけど、なんて言うか、まだ私の中で気持ちの準備ができてなくて……」
奏はそこまで聞いて、思わず笑ってしまった。この前大怪獣バトルに誘った時のマリアとどこか重なったのだ。
「もう!なんですかいきなり!」
「いやいや、やっぱり姉妹なんだなって」
マリアも、大怪獣バトルをやらせるまでがかなり大変だった。そもそもゲームという物自体に触れたことが殆ど無いマリアは、セレナと同じような反応をしていたのだ。結局始めたら、思いの外のめり込んでしまっていたが。
「よし、じゃああたしがなんとかしてやるよ。いきなりマリアが無理なら、翼とかね」
「が、頑張ります……」
「じゃああたしは帰るわ。お邪魔したね」
奏はひとしきりの用を済ませて、セレナの家を後にする。奏でがこちらの世界に来てから3ヶ月、妹分として接してきたが、彼女には幸せになってほしいと奏は思っていた。
セレナの家を出ると、レイア・ダーラヒムが待ち伏せをしていた。やはり、警戒パトロールという口実はバレていたようだった。
「マスターから伝言を預かってきました。月読調が囚えられていた廃工場跡を調査せよ、とのことです」
レイアは端末を取り出し、廃工場跡までの地図を表示した。町外れにあるので、少し遠いが別に歩いていけない距離ではない。
「あいよ。サボってたことはお咎め無しってことでいいのかい?」
「それは成果次第、だそうです。それでは私はこれで」
奏に端末を手渡し、レイアは去っていった。奏も一応上官であるキャロルの指示に従って廃工場跡へと向かった。あまり彼女の機嫌を損ねたくはない。
地図に従って廃工場に入ると、少しだけ腐臭がした。この前の戦いで戦死したレイビーク星人の死体が転がっていて、あちこち派手に荒らされていた。
(随分と派手にやったなこりゃ……)
あちこちの壁が歪んでいた所から、切歌が相当焦っていたことが伺える。調が囚えられていた地下研究室についても、隠し扉が凹んでいる上にしらみつぶしに探し回ったのか、壁にいくつも亀裂が入っている。
「もしもし、キャロル?地下研究室みたいなの見つけた。どうする?」
『了解。通信記録を中心にデータを集めてくれ。奴らのボスの正体が知りたい』
「あいよ」
奏は端末とコンピュータを操作して、データを吸い出していく。しかし、残っているのは通信の内容だけで肝心の相手がわからない。
「こりゃダメだ。内容しか吸い出せないよ。相手はボス、としか分からないな」
『やはりか……。一応データの解析を行いたい。回収を続行してくれ』
「了解」
奏はデータの吸い出しを続行し、それが完了すると端末を回収し、研究室を出た。他にある施設といえば、怪獣を収容していたと思しき巨大な倉庫が見えるぐらいだ。
その倉庫にしても、何かがいるような気配こそすれ、目を凝らしてみても、何も見えない。
「キャロル、ひとしきり探し回ったけど、データ以外に目ぼしいものはないよ」
『そうか。敵の待ち伏せに警戒しながら、撤収してくれ』
「あいよ」
奏は来た道を引き返し、出口を目指す。奏は見落としがないかを再度確認するが、やはり誰か立ち入った跡があるぐらいしか見当たらない。
ようやく入り口まで戻ってくると、予想通り、敵が待ち伏せていた。
「スズチェンコ、か。これは随分なお迎えだね」
ミジー星人スズチェンコが護衛用の地底ロボットユートム2体を連れて待ち構えていたのである。敵はわずか3体だが、退路を塞がれている以上、突破するしか無い。
「デイトナをやった娘じゃなかったか、残念。君に恨みはないけど、敵だもんね。倒すよ」
「なるほど、やられたお仲間の弔いってわけか」
奏は隠し持っていたLiNKERを口にして、空の容器を投げ捨てる。重要なデータは回収できなかったが、ここでスズチェンコを討ち取ればキャロルの手土産にはなる。
「悪いが、返り討ちにしてやるよ!」
『Croitzal ronzell Gungnir zizzl』
ガングニールを身に纏い、スズチェンコに突っ込む。ミジー星人は戦闘に長けた種族でないことは分かっているので、怯むことはない。
スズチェンコは咄嗟にユートムを盾にして、奏の攻撃を防ぐ。奏のガングニールはスズチェンコの体ではなく、ユートムを一体破壊するだけだった。
「甘いッ!」
奏は破壊したユートムを足場にして、跳び上がりスズチェンコの背後に回る。この間合なら、ユートムを盾にはできない。
「悪いけど、こっちも伊達に星人を追う仕事してないんだわ」
しかし、奏のガングニールがスズチェンコの体を貫くことはなく、空を切るだけだった。スズチェンコはどういう理屈なのかは不明だが奏と距離を離していた。
「この工場は、僕の庭なんだ。だから、こういうこともできる!」
スズチェンコは残っていたユートムの背中のハッチを開き、スパークドールズを入れた。するとユートムの両腕がムチのように変化し、金属の軋む音が野獣の咆哮のように唸り始めた。
「スパークドールズの使い方は、別に怪獣を実体化させるだけじゃない。こういうこともできるんだ」
主人であるスズチェンコの姿が消えると同時に、改造ユートムはこちらに襲いかかってきた。奏でがこれまで相手にしてきたユートムからは信じられない速度だった。
ユートムはスズチェンコが連れている護衛用のロボットとして、これまで何度も対峙してきた。しかし、ここまでのスピードとパワーを実現した個体は初めてである。
(改良型、ってか。こっちも時間が限られてるし、さっさと片付けるか)
奏はガングニールを構えて、ユートムの様子を窺う。いくらユートムが強化されてるとは言え、その強度に変化はない。しかし、両腕のムチでアームドギアを絡め取られてしまえば一気にこちらが不利になる。
一撃でいいのだ。それだけ叩き込めればこちらの勝ちだ。
奏は一気に駆け出し、ユートムの直前で跳び上がる。伸びてきたユートムの触手が奏の足を捉えたが、奏は逆にそれを利用してユートムの喉元にガングニールを突き立てた。ユートムは大きくよろけ、触手の拘束も緩んだ。
体を投げ出される格好になった奏は上手く着地をして、ユートムに刺さったガングニールを思いっきり蹴り込んだ。ユートムの頭はそのまま崩れ落ち、残された体も膝を付いて倒れた。胸の所にあるハッチが開き、中にあるスパークドールが顔を出した。
「グドンか。まあ、一応収穫はあったね」
スパークドールを回収した奏はキャロルとの通信を開いた。
「もしもし?敵の待ち伏せに遭ったけど、グドンのスパークドールを回収できたよ。このまま帰投して大丈夫?」
『あぁ。早く今回のデータを解析したい。帰投してくれ』
キャロルの許可ももらい、奏はグドンのスパークドールを持って帰ることにした。敵のボスの正体は結局不明だったが、収穫があっただけでも奏は良しとすることにした。
その夜、クリスは翼に呼び出されて演習棟の屋上に来ていた。今晩は、たまたま満月で月がよく見える。
「なんだよ、こんな時間に呼び出して」
「雪音、セレナと会ったそうだな」
翼はいきなり本題に入ってきた。かなり真剣そうな眼差しでこちらを見ており、話の内容がなんとなく伝わってくる。
「え?そうだけど、それが?」
「何か、おかしな点はなかったか?」
「おかしな点……?」
クリスはセレナに会ったあの日の事を思い返す。何故か成長していた所とか、何故か作った食事が和食だったとか、そんな程度の話だ。
「成る程、これで確信が持てた。雪音、落ち着いて聞いてくれ」
クリスの話を聞いた翼は、ある一つの結論に辿り着いたようだった。少しそれを言うことに戸惑いのようなものもあったようだが、最早ためらっている暇もないのだろう。
「クリスが会ったセレナは、偽物かもしれない」
翼が言い放った言葉は、衝撃的なものだった。
SONG怪獣図鑑
地底ロボット ユートム
体長:2.8メートル
体重:2トン
ステータス
力:★★☆☆☆
技:★☆☆☆☆
知:☆☆☆☆☆
スズチェンコが使役していた自動兵器。肩書こそ地底ロボットだが、宇宙ギャングの間では、割りと安価で手に入る警備用ロボットである。
スズチェンコが使役していた個体は、スパークドールズを読み込むことで怪獣の力を宿す改造が施されている。能力発揮中は力が2段階上昇する。
しかしあくまで警備用ロボットなので、一体一体の戦闘力は非常に弱い。シンフォギア装者ならば、蹴散らすことは造作もない。
装者のコメント
奏:なあ、この地底ロボットって間違ってないか?コイツ宇宙で生産されたんだろ?
キャロル:知るか!