数日後、平塚先生の授業が終わった後
「材木座ちょっと顔を貸せ」
と呼び出しを受ける。
案の定噂の二人についてなにか知らないかということだったので知らぬ存ぜぬを突き通す。
「そうか、やっぱりお前もしらないか・・・実は由比ヶ浜がな、毎日奉仕部の部室に来ているんだよ、二人はもういないのだからといっても、ここにいると二人が帰ってきそうだからといって下校時刻までずっといるんだ、始めは三浦や海老名もいたんだが、いまはずっと一人だ、お前に言うのもおかしいと思うがなんか声でもかけてやってくれ、私も行って話し相手になったりしているが正直どうすることもできん」
そういって先生はうなだれてしまった。
その日の放課後とりあえず行ってみるかと特別棟の方へ足を向けるがふと気が付く。自分が行って何を話せというのだろうか?それに女子との会話が苦手でありまともに話せない。それに気が付き、とりあえず自販機で飲み物でも飲んで心を落ち着かせようとしていると来客者なのか二人の女性が廊下を歩いているのが見えた、どうやら特別棟の方へ向かっているようだ、二人ともすごく美人でどことなく見覚えがあり誰かを連想させた。
「ハテ?一体どこで見たのだろうか?というか特別棟に一体何用なのだろう?保護者のようだが今日何かあったかしらん?」
階段を上っていく姿を見つつ考えてみるが学校の細かい行事までは把握していないため、誰かの面談とかそんなんだろかと思い首をひねる。
しばらくして二人の姿が見えなくなった為考えを戻す。
「来客より由比ヶ浜殿のことだったな、これに関しては自分は無関係というわけにはいくまい、我にも責任の一端があるであろう、なんとかできないであろうか?」
由比ヶ浜は比企谷と雪ノ下と友人関係であるし何とかしてやりたいという気持ちもあった、ジュースを飲み終わり色々考えてみたがまるで思いつかない、
「あのラノベを読ませてもなぁ・・・それに八幡の居場所を教えたりしたらそれこそ彼らの覚悟を無意味なものにしてしまうし・・・」
とりあえず当たって砕けろと覚悟を決めて奉仕部の部室の前まで来る、扉を開けようとして手をかけたときに中から平塚先生と誰かが言い争ってる声がしてただならぬ雰囲気を感じた為、やっぱ入るのやめようと思ったが、扉の方が内側から勢いよく開いた。
「あれーあなたも奉仕部の関係者かなー」
扉を開けた女性が声をかけてくる
「え?え、まあそのようなものですが、ど、どちらさまでしゅか?」
材木座は、あれ?さっき見たような?と思うが妙な威圧感に戸惑ってしまい若干噛んで返事をする。
女性から中に招き入れられるが部室内には平塚先生と泣いている由比ヶ浜がいる、状況がつかめずオロオロしていると
「わたしはねー雪乃ちゃんのお姉さんで陽乃っていうの、んでこっちがお母さんなんだよー」
と雪ノ下の姉を名乗る女性は中にいるもう一人の女性を指してにっこり笑う、
「それでどこかで見たような気がしたわけか、確かにものすごい美人だ、雪ノ下の姉というのもうなずける」
そう材木座が思っていると
「雪乃ちゃんの居所しらない?」
途端に陽乃の目つきが殺気のこもった目つきに変貌する、視線で人を殺すとはこのことなのだろうか、母親と紹介された方もこっちに強烈な視線を浴びせてくる
「いや、あの・・・」
材木座が言葉に詰まってると
「あーもういいから、携帯もってる?」
「へ?ええ、持っていますが」
と材木座は勢いに押されて携帯を取り出す。
「ちょっと貸して」
と陽乃は材木座から携帯を奪い取り勝手に操作して調べ始めた
「比企谷くんとはやり取りしてたみたいね・・・あなた友達かなにか?」
「ちょ、ちょっと、勝手に見るのは・・・」
そういえば雪ノ下の連絡先が入ってたと焦る材木座だったが、それを無視し陽乃は携帯をいじっている。
「なにこれ?この連絡先のとこにある勇者王とか飛影とかジョー東とか?なんなの?なんか人の名前っぽいのが少ないんだけど」
「そ、それはネットの知り合いで・・・オフで会う時の・・・」
「あーもいいわ、わかった、この最近メールしていた『氷の女王』ってのもそれね」
「・・・あ、あのもうよろしいでしょうか・・・?」
「写真も・・・特に雪乃ちゃんとか写ってる物もないみたいだし、最近撮った物も無いみたいね・・・ふーん生意気にもdropbox使ってるんだ、何このテキストファイル?小説?」
「は、はい、そういうのを書くのが趣味でして・・・」
「あっそ、・・・ほかにはゲームぐらいしかないわね、期待して損した、返すわ」
陽乃は携帯を材木座に投げてよこす。
「は、はい、ありがとうございましゅ・・・」
材木座は吹き出る汗をぬぐいつつホッとして携帯を受け取る、氷の女王の名前が出たときは焦ったがどうやら知らなかったようだ。
「それでさぁ・・・」
そんな材木座に陽乃はさらに質問をしようとするが、平塚先生が助け舟を出してくれた。
「そいつは部員ではないし今回の事件とは無関係だ、勘弁してやってくれないか?」
平塚先生がそう言った途端陽乃は道端に落ちてるゴミを見るような目つきに変わり
「もういいや出てっていいよ」
と材木座を部屋から追い出した。
「こ、怖かった、やはり血は争えないのだな、頭にこの間やったFF6のアルテマウェポン戦のBGMが流れて止まらなかったぞ」
材木座は床にへたり込みまだ止まらない汗を拭い取る。
「それにしてもひどい話だ、勝手に携帯を奪って置いて用済みと見るや勝手に追い出すとは」
このまま追い出されるのも何か癪なので中で何を話しているか盗み聞きをしてやろうと思い隣の部屋へ向かう
「話の内容によっては我に何かできるやもしれんし、奴らの助けになるやもしれん」
隣の部屋は運よく別な部活が使っていたのか鍵は開いていた。
「これは僥倖、運は我に味方してくれていたようだ」
そう思い中に入る、ちょうど誰もいないためさっそく聞き耳を立てる
『あなたの監督不行き届きでしょう!教師としての自覚はあるのですか?』
これは雪ノ下の母の声だろうか、平塚先生をなじるようなねちねちと文句をつけている、
『なんであなたのようないい加減な人が教師に・・・』
かなり酷いことを言っているのを聞き材木座は憤慨する
「平塚先生に罪は無いであろう、なんという母親だ、最近はやりのモンスターペアレンツという奴か?こういうのは家族の問題であろうに、むしろ迷惑をかけてますぐらい言うべきではないだろうか?」
『ねえ本当に知らないの?』
これは雪ノ下の姉だろう
『ヒッキーもゆきのんもどこに行ったかなんて本当に知らないんです』
由比ヶ浜はずっと泣いているようだったがそれを意に介さず尋問のように質問を繰り返していた。
『西へいったとまでは情報つかんでいるのよ?名古屋駅でそれっぽい二人組を目撃したって聞いたからね、そのまま名古屋か大阪か、はたまた因縁のある京都かなぁ?知り合いがいるとか、いきたかったところとかあったんじゃないの?じゃあもう一回始めから聞くね?あの日の前日の二人の行動をもう一回始めから・・・』
「由比ヶ浜殿が知っているわけなかろう、二人がいなくなって一番つらいのは彼女だぞ、それをなんだこの陽乃という輩は」
材木座はまたも憤慨する
「二人が辛い目にあっているのは聞くだけでわかる、それに今日まで一体何人が泣いたのか、八幡も雪ノ下殿もボッチだの孤高だのとのたまっていたが自分らにかかわってる人間関係ぐらい把握せぬか!もうこれはもう地獄だ、駆け落ちとはこうも周りを不幸にするものか」
何かしようにも自分には何もできないことに気が付き情けなさとやるせなさでいっぱいになる。
「気軽に書いたラノベがこんな状況を生み出すとは」
いっそのことみんなにあの二人はここですと言ってしまおうかと一瞬考えた。
しかしそれをしてしまうとあの母親の様子だと大騒ぎしておそらく比企谷は確実に退学になるだろうし、雪ノ下も転校か留学とかになり二人は永遠に会えない状態にされるかもしれない、雪ノ下の家は権力者なので比企谷にも雪ノ下にも酷い結末が待っているのは容易に想像がつく。
ふと雪ノ下の連絡先が登録されてたことを思い出す。藁にもすがる思いで、雪ノ下に今の状況をメールする、奉仕部を盗み聞きしているが由比ヶ浜と平塚先生が雪ノ下家の姉と母を名乗る者によってひどい目に会っている、二人を助けてくれ、自分ではどうすることもできないと。
ちなみに雪ノ下姉の話から東海か関西方面へ逃げたと思っているようだとも付け加えておいた。
メールを送って数分後隣の部屋の様子が一変する。
『雪乃ちゃん?ようやく連絡をしてくれたね、今どこにいるの!ダメよ!勝手なことをしてないで帰りなさい!・・・なんですって!また比企谷くんでしょ!かわって・・・え?今打ち合わせ中だから無理?いったい何を・・・え?雪乃ちゃん何をいっているの!居場所は絶対突き止めるから!おおよそはつかんでいるのよ!今知り合いとか総動員して探してるから時間の問題よ!謝るなら今のうちよ!・・・ちょっと!あなたそんなこと言ってどうなるかわかっているの?雪乃ちゃん、絶対捕まえるからその時は覚悟しなさい!・・・え?好きなだけ探せ?誰も知らない?どういうこと?』
どうやら雪ノ下が姉へと電話してるようだった、しばらく話をしていたようだが姉の『雪乃ちゃん!?』という絶叫にも似た声とともに終話したようだ、突然静かになった
と、携帯にメールが届く
『送信済みのメールとこのメールを破棄すること、どうしても困った時はまた連絡をください』
「ふー、一時はどうなるかと思ったぞ、しかし何とかなったようだ、よかった」
材木座が指示通りにメールを削除していると隣から扉が開く音が聞こえる、ようやく帰るのかとホッとしていると
『この責任は平塚先生、あなたに取ってもらいますから覚悟しておいてください』
この声は雪ノ下の母だろうか、捨て台詞が聞こえる、こういう捨て台詞はアニメとかでは負けた方が発する言葉だし、一介の保護者に教師を辞めさせられるわけなかろうと材木座は高をくくっていて一件落着したと思っていたが相手が悪かった。
それから一か月後平塚先生は教師を辞め総武高校を去ることになった。