「・・・・とまあ先日色々八幡と話し合ってな、おかげで寝不足だが、まあ偽物カップルの原案は我が出したのだがそれ以外方法は難しいとのことでな」
「・・・ゆきのんとヒッキーは毎晩一緒に寝てるんだ・・・・」
「え?そこ?・・・いやまあ、確かにうらやまけしからんがこういう状況だし、駆け落ちだし」
「・・・ずるい!絶対あたしいくからね!ゆきのんはメール見てるんでしょ?」
そういうと由比ヶ浜は携帯を取り出しものすごい勢いでメールを打ち出す
「平塚先生も結婚できそうなんでしょ?いいことばっかりジャン!」
「マテマテ、現実はアニメやラノベのようにはできていないと我は平塚先生に言われた、それに八幡達も所詮は我々と同じ高校生だ、何やら上手く行っているように聞こえるがかなりの綱渡りをしていると思う、ゆえに今後どうなるかわからん」
「でも・・・」
「由比ヶ浜殿、結論を急いではならぬ、急いては事を仕損じると言うであろう、順を追って対処していかぬと何もかもがおじゃんになるぞ?」
「でも!あたしだってヒッキーとゆきのんのこと大好きだし!」
「あの二人もそれを分かっておるから偽物カップル作戦なのであろう、大体あの雪ノ下殿が我に涙ながらにお願いしてきたり八幡も何度も頼むと言っていたのだ、それを無下にするほど我は不義理な男ではない、それに付き合うと言っても本気でやるわけではない、あくまでふりだ、ただ八幡は何やら修学旅行の件がどうこう言ってて因縁のようなものがあるようだし、由比ヶ浜殿が嫌ならまた考えるが」
「だって、それじゃ中二の気持ち踏みにじってるようなもんじゃん、あんまりだよ・・・」
「いや別に、むしろ由比ヶ浜殿のようなトップカースト上位の女子と形ばかりとはいえお付き合いできるとはむしろ願ったりかなったりだ、だって我女子からいつも白い目で見られてるし・・・ってかこの学年の大半の男子は同じこと言われたら飛びつくと思うのだが、我のクラスでも由比ヶ浜殿の人気はすごいものだ、むしろなんでお主らはそんなに頼みにくそうなのだ?」
「だって・・・ヒッキーは本物が欲しいって、偽物の関係なんて・・・」
「なんだかわからぬな、本物がどうこうというのは以前奴との雑談で聞いたことあるような気もするし、昨日言っていた黒歴史とやらのことなのか?、察するにお主らの間柄の話なのであろう、我にはあまり関係ないから気にする必要は無い」
「ほんとうにいいの?」
「うむ、では由比ヶ浜殿、我とお付き合いいただけますかな?」
「うん、中二よろしくね」
そうしてここに期間限定の偽物カップルが誕生した。
「それで中二、これからどうするの?」
「うむ、まずはだ」
雪ノ下から来た計画の詳細メールを見る
「うーむ、こっちに来るつもりがあるなら資格をとれとあるな、なんか色々書いてあるが・・・うーむ、講習受ければとれるような工場関係の資格はまだわかるが簿記とか会計とか由比ヶ浜殿は計算は得意なのか?」
「うん、数学は苦手だけどさ文化祭の時会計事務ちょっと手伝ったりしてたからそういうのは大丈夫かな?」
「あと高校はちゃんと卒業しろとある、八幡も雪ノ下殿も今後のことを考えて仕事の合間に大検取る予定だそうだ」
「そうなんだ、ヒッキーもゆきのんも頭いいからね、すごいなぁ」
「他には高校卒業まで絶対住所を教えるなともあるな」
「えーどうして?メールがダメなら手紙ぐらい書きたいよ・・・」
「由比ヶ浜殿の場合、教えると何も考えなしで来るかもしれないとか、不用意に送った郵便物から居場所がばれる可能性があるとのことだ」
「うー、そっかーんじゃあ卒業まで我慢だね!」
「いや待たれよ、本当にいいのか?きちんと考えさせてから行動させろとも書いてある、せめて一晩でも考えた方が良かろう、おぬしの人生だぞ?大学とかにもいきたいのではないのか?」
「うん、本当はさ、ゆきのんやヒッキーと同じ大学に行ってさ、また奉仕部みたいに一緒に居られたらなって考えてたんだ、でも二人とも居なくなっちゃったから目標も無くなっちゃってさ・・・」
また由比ヶ浜の顔が暗くなってくる
「うーむ、山形にも大学はあるが、特にやりたいことがあるわけでもないのにいきなり遠くに行くのも不自然だしな、雪ノ下殿の姉上はああいっていたがおそらくおぬしの行動は監視されてる可能性もある、おそらく我もそうであろう、目立つ行動は禁物だな。」
「そっか・・・少し考えてみるよ」
「そうした方がいいな、とにかく考えてみよ、我も毎日ここに来るようにする、形ばかりとはいえ彼氏役だしな」
「わかった、んじゃあ今日はもう帰るね」
「鍵は我が返しておこう、鍵の場所を覚えないといけないしな」
「ありがと、んじゃあね」
由比ヶ浜は軽く手を振って帰宅する
一人残った材木座はメールを再度見直す。要求事項はまだまだ多い
「さて、由比ヶ浜殿の決意がかたまったら我のラノベ読ませろともあるのだが、この為に一部だけ残させたのか?だとすると八幡はすさまじい策士だな、しかし本気であの落ちを目指すつもりなのか?どうするつもりなんだろうか」
猛烈な不安に駆られながら材木座も部室を後にする。
数日後、結局由比ヶ浜は比企谷と雪ノ下とともに行く道を選んだようだ、ラノベを読ませたとき由比ヶ浜はかなり驚いていた
「ヒッキーとゆきのんはこれを目指してるの?」
「そのようなことを言っていたが実のところはわからん、だがこれまでは微妙にシナリオ通りに来てしまってる、おそらくこれに近い何かの形を取ろうとしてるのかもしれない」
「こんなこと・・・でもこれならゆきのんともヒッキーとも・・・」
ぶつぶつ言っているようだが、こんなん許す親がいるとは思えない、やはり家を捨てないとどうにもならんだろう現実は厳しいのだ。
「ところで中二はどうするの?」
「我は物書き関係の仕事に就きたくてな、一応大学進学の予定だ、それにそのラノベには我のような人は登場していないであろう?」
「うーん確かになんか知り合いによく似た人たくさん出てくるけど中二みたいな人はいないね」
「八幡がパクリパクリとうるさかったのでな、現実をパクってやったのよ!でも自分をパクるのは気が引けたのでやめたのだ、そしてこの有様だ・・・」
「でもそのおかげでゆきのんは助かったんでしょ?よかったじゃん」
「よかったかどうかはまだわからん」
その後、奉仕部では由比ヶ浜が毎日資格の猛勉強をすることとなる、奉仕部は顧問も部長もいなくなってしまっているが、今回のゴタゴタで存在がうやむやになっている上に教室も空いているので、知らないふりをしてそのまま使わせてもらうことにした、材木座も受験勉強の傍らネットから資格の過去問題を拾って来たり、取り寄せたりと細かい所を色々手伝っていた。
一応付き合っているという体を成すために一緒に帰ったりしていたが、デートとなると資格試験の会場まで一緒に行くとか申し込みの書類を受け取ったりして帰りに一緒に食事をする程度とかで大して色気のある話にはならなかった。
その間も材木座は雪ノ下の携帯に資格試験のスケジュールを送ったり、近況や資格試験の合否の連絡を入れたりとまめに橋渡しを行っていた。
比企谷ともたまに話をさせてもらっていたが、仕事が忙しくなっているとのことで冬になるころには材木座が一方的にメールをするだけとなっていた。
そして由比ヶ浜も材木座の手伝いの甲斐もあって卒業までに結構な量の資格を取ることができた。
卒業式当日、学校に来るのも最後になった日の奉仕部部室
「今日で最後だな」
「中二、今までありがとう」
「うむ、由比ヶ浜殿も良く頑張られた、誇っていいぞ」
「えへへーありがとう」
「・・・本当に行くのか?」
「うん、今日はクラスのみんなで打ち上げやるから明日だよ。ゆきのんが移動手段手配してくれてるんだ」
結局細かい打ち合わせなんかもあるので本人同士の連絡が必要になり携帯での連絡は記録が残るため自宅の電話や公衆電話で連絡を取っていたそうだ。
「・・・左様か、それなら何も言うまい」
「中二は打ち上げとかいかないの?」
「ボッチの我にそんなお誘いがあるわけなかろう、もうしばらくここにいる」
「なんかヒッキーみたいだね。んじゃあね中二、今までありがとう」
「うむ、八幡達によろしく伝えておいてくれ」
「あ!中二!ちょっと目をつぶって?」
突然妙なことを言い出す、言われるがまま目をつぶる
すると頬に柔らかい感触があった。
「今までのお礼だから、ヒッキーたちには内緒にしてね?」
そういってぽーっとしている材木座を残し由比ヶ浜は走って出て行った。
材木座とて男だ、正直由比ヶ浜へドキッとしたこともなんどかあったし恋愛感情が無かったというのは嘘になる、実際このまま比企谷の所へいかずに自分と一緒に居てくれたらと妄想したことも一度や二度ではない、しかし由比ヶ浜がこちら見るときは自分ではなく自分を通して比企谷や雪ノ下を見ているというのが透けて見えるため一定の距離を保っていたのだった。
「波乱万丈の高校生活であった・・・」
がらんとした奉仕部の部室を見てつぶやく、本来は自分がここに立っているはずは無かったのだ。
王道的な展開だと今この時この場所で比企谷達は互いの想いを伝えてたのかもしれないが、今回の駆け落ちの原因を考えるとおそらく違うことが起きていたのだろう。
全ては体育の時に親しくなった比企谷に自分の書いたラノベを見てもらうことから始まった。
書いたラノベを見せていくうちに調子に乗って奉仕部の面々を主人公にして駆け落ちラノベを書いてしまったことから周囲の運命は大きく変わってしまったのだ、今ここに比企谷たちはいない。
自分が何も書かなかったら?もしくはいつも通りのファンタジー物だったとしたら?
そんなことを考えるが
「仮定の話など考える意味が無いとか八幡なら言いそうだな」
そうつぶやき自虐的に笑う
「・・・そういえば昔読んだ誰かの本に『人生は例外しかない』なんて書いてあったな、人によって人生は全く違う、普通の人生なんてないという意味だったと思うが我らの場合例外中の例外だろう」
ふと昨日まで由比ヶ浜が使っていた椅子を見る、偽物とはいえこんな自分に淡い恋愛感情と孤独に過ごすはずだった高校生活にわずかな彩りをくれたのだ、ちゃんとお礼を言うべきだったなと先ほどの柔らかい感触があった頬をなでながら少しだけ後悔をする。
「・・・結局一人になってしまったな」
由比ヶ浜と過ごしてた間には生徒会長の一色やその他数名の女性も来たりしていたが、なにしろ男が材木座ということもあり女性は顔を出すだけですぐ寄り付かなくなっていた。
ただ比企谷の妹の小町だけは何か感づいてるらしく由比ヶ浜と真剣に話していることが多かった。
シスコンの比企谷のことだからおそらく連絡は取っていたのかもしれない。
もしかすると他の女子とも密かに連絡を取っていたのかもしれなかったが、それを確認することはしなかったし、逆に比企谷や雪ノ下にも詮索するようなこともしなかった為今となっては藪の中である。
「依頼も一件も無かったし我は人払いとしても役に立ったようだ」
最後にそう呟くともう誰も訪れることが無い部室に鍵をかけ材木座は卒業証書を手に学校を後にした。