ある日、一人の青年が青空の下を歩いていました。
その青年は花の国と呼ばれる、花が綺麗な場所に住んでいましたが、いつの日か世界を見て回ってみたいと思い旅に出ました。
見たことのない蝶が飛んでいれば追いかけて、聞いたことのない声が聞こえれば駆け寄りました。
そんな気の赴くままに旅をしていると、一人の女性と出会いました。
女性はどこまでも包み込んでくれそうな深い緑色の髪を持ち、森のような優しい香りがしました。
青年は見たことのない女性だと歩み寄ると、女性は自分が故郷から飛び出してきた旅人だと名乗りました。
青年は女性の一人旅とは、なんとも頼もしい人なのだと感心しました。
お話が終わり、青年は女性と別れようと振り返ると、女性は青年の首根っこを掴んでしまいました。
青年が驚くと、女性は青年が気に入ったから「一緒に旅をしよう」と言いました。
オラリオの郊外、子供たちが預けられた教会で一人の修道女が物語を呼んでいた。
それは今から古い――というわけでもないが、それでも誰かの一生が簡単に終わるほど前の話だ。
「――この出会いが、二人の始まりでした…………はい、ということで続きは午後です。今日のお勉強と、お昼を食べてからにしますよ」
締めくくるように修道女が言うと、十人ほど集まった子供たちが口々に不満を漏らした。
「えー! つづきよんでよぉ」
「ごほんきになる!」
「おねがいせんせー」
「みたいみたい!」
そんな子供たちの様子に、困ったように頬へ手を当てる修道女。
ここ、教会と託児所を併せ持つ施設は地域の住民からの寄付と、オラリオの都市から与えられる基金で賄っている。一応は貧しいところではないにしろ、地域の、子供たちの両親から金銭を受けっとているため勉学の一部も教えなければならないのだ。
「んー……」
どうしようかと悩んでいると、修道女の背後、教会に勤める者の事務室から教会を取り仕切る老女――院長が現れた。
「いいんじゃないですか。その話は『
「院長……」
「やったー!」
「さすがだぜいんちょ!」
「ありがとー」
「あめちゃん! あげる!」
「もう、機嫌がいい子たちですね。
じゃあ、続きを。
青年と女性の旅には喜びもあれば、悲しみもありました。やがて青年と女性は世界の中心と呼ばれる、迷宮都市オラリオへと――――」
①
「『立っている地は違えど、見上げている空は同じ』……か」
そんな言葉を残した人間がいた。
名前はわからない。それでも言葉は残り続け、こうして空を見上げる者に想起させる。思えば、空を見上げるなんていつぶりだろうか。
「――あら。ロキじゃない。珍しいわね、あなたがここに来るなんて」
「ん?」
オラリオの外壁にて、オラリオの住民や営みを眺めていたロキの名前が呼ばれた。声のほうへ振り替えると、そこにはフレイヤがいた。
「おー。フレイヤも久しぶりやな。聞いたで、最近は大人しいしてるみたいやん」
「あら、その言い方だと私が色んなとこで騒動を起こしていたみたいじゃない」
「っけ、よう言うわ。
「ふふ、懐かしいわね。確かにあのときが一番楽しかったわ」
何かを思い出すように空を見上げるフレイヤの顔には笑みが浮かんでいた。
十年前――それはオラリオが『黒竜事件』に匹敵するほどの問題に巻き込まれた時期を表す。ロキの脳裏にも思い返されるのは、自身のファミリアの前線を張ったフィン、リヴェリア、ガレスの三人が主役ではなく、
『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン
『
『
『
の四人が主人公であった冒険譚。
その物語から十年後、ロキとフレイヤの両神は久しぶりに顔を合わせていたのだ。
「そちらのファミリアは上手くいってるみたいじゃない」
「まあ、ぼちぼちやな。フィンが故郷に帰ってティオネもついていってもうたし、アイズたんは
途方に暮れた様子を見せるロキに、フレイヤは楽しそうに笑った。その様子に気付いたロキは「なんやねん」と突っ込んだが、フレイヤは柳に風と笑い続けていた。
「
「彼女……? アイズたんのことか?」
そんなフレイヤの空気に疲れたのか、ロキは高さ五十メートルほどの空中に足を投げ出して座った。
「違うわよ――――『九魔姫』リヴェリア・リヨス・アールヴよ」
「…………」
リヴェリア――いや、ロキ・ファミリアの名前はあの日瞬く間に世界へと広がった。
それもそのはずで、災害と称され倒すことが不可能とされたあの黒竜を討ち執ったのだ。その朗報はヘルメスによって遠い地まで伝わり、黒竜を倒したその年のファミリアの団員募集は一〇〇〇を超す応募があった。さすがにすべてを捌くのは難しかったため、ギルドと連携することでまずは書類審査を篩とし、一般知識がある者を優先的に入団試験へと案内した。横暴な者はロキ・ファミリアに直談判と称し乗り込もうとしたが、すべて門番によって強制的にギルドへ返された。
ファミリアの事情はともかく、黒竜というモンスターはダンジョンモンスター、地上のモンスター含めかなり異質な存在だということがその後の研究で分かった。黒竜の亡骸自体は石化し、オラリオの郊外に削れず、動かずで鎮座している。しかし、戦闘後の地面に散った血液や鱗は石化しなかったため、ギルドによって部外者が完全に触れらない場所へ安置されている。一時期闇ファミリアによる強奪が目論まれていたようだが、すべてアストレア主導の下、ロキ、フレイヤ、ヴァハングファミリアの三陣営によって制圧された。話は逸れたが、黒竜という存在は通常のモンスターと違い、倒しても一切経験値が入らなかった。
ロマニ・シェナーンと黒竜の関係である。
それは初めてロキがロマニに
【スキル】
・宿命の戦い
その身に鉄を宿す。
初めはいきなりのスキル持ちに狂喜乱舞したロキであったが、落ち着いて考えてみれば奇妙な効果である。ロキが聞いていたスキルと言うのは攻撃力が一時的に上昇やパーティーの人数によって魔法効果が上がるなど、明確にその効果が示されたものだ。しかしどうだろうか、彼のスキルには効果など書かれておらず、ましてや『鉄を宿す』などという理解不能な文だった。初めは失敗して
結果は残酷なもので、何とかオラリオから矛先を背けることはできたがゼウス・ヘラファミリアの団員が九割死亡。その他討伐に参加していた者たちは前線数人を残して死亡。後衛の魔導士も四割が精神崩壊、二割が爪や牙の餌食となった。生き残っている者はその後も英雄として名を馳せた者ばかりで、オラリオ史上一番の壊滅的危機に陥った。そして、片腕を喪ったロマニからスキルの話を聞いたのはそのときだった。
『自身のスキルはあの黒竜と戦うためにある。
俺の可能性はすべて黒竜を討つために捧げ、宿命という星の下に繋がっている』
その言葉を聞いたロキは、彼に何と声をかければいいのか分からなかった。幸いロキ・ファミリアから参加していたのはフィンたち三人とロマニの計四人で、死亡者はいなかった。あの出来事でファミリアから去り、冒険者業を引退した者いたが子供の選択は自由でそれもありだろうと背中を叩いて見送った。
しかし、
どうだろうか。
目の間にいる彼は、逃げることもできず、顔を背けることもできず、誰かに助けを求めることもできず。ただ、課せられた宿命を討つ倒そうと藻掻いているではないか――! ロキは自身の安い涙を流さぬように目頭を強く捻り、黙ってロマニを座らせて頭を撫でた。
ロキは知っていたのだ。
あの黒竜が、かつて自分たちがいた時代の忘れものであることを。
神々が目を背けた存在を、小さな子供である彼に背負わせてしまったことを。
だからこそ言葉をかけることも、涙を流すことも、受け入れることも、何もできなかった。何も資格を持っていなかった。
――願わくは、彼の行く先に大いなる賛歌を
子供たちの喝采でも、神々の喝采でもなんでもいい。彼が成そうしていることを、誰も知らず終えることが無いように静かに願った。
それから再び――十年が経った。
黒竜の侵攻。ロマニは誰も、リヴェリアにすら弱音を吐露せず一人で戦いに赴いたが結果は振るわずオラリオの眼前まで姿を許してしまった。
オッタルが、フィンが、リヴェリアが、ガレスが、全霊を賭して挑んだが僅かな傷を付けるばかりであった。戦いは苛烈を極めたが最後――――。
②
黒い竜はとても強く、四人の勇者には刃が立ちませんでした。
何度も何度も立ち上がった勇者たちでしたが、ついに魔法使いへと炎が迫ってきます。
魔法使いは目を瞑りました。
魔法使いに炎が当たる瞬間、彼らには詩が聞こえてきました。
「――みんなはこの詩、知ってるかな?」
「しってる!」
「おかあさんがよくうたってた」
「そらのはてまでとどく!」
「かっこいい」
「よし。じゃあせっかくだしみんなで詠んでみようか……せーの」
「なもなきものはかみのえいこうをかたりつぎ!」
「ながあるものはかみのみてをしりつげる」
「ひるはよるへ……ものがたりをつたえ」
「よるはひるへうたをしめす」
「声なきもその者の叫びは大地に響き渡り 空の果てまで届く」
「てんははてまでいきめぐり」
「わがみをもって」
「けんとなす!」
「われはまったきなるもの」
「――幽谷の淵を歩く者。
すごいね、みんな。よく覚えてるね」
「しょーてんがいにいったとき、げきをみたおとながくちずさんでる」
「たしかに商店街でよく聞くね。私も初めて劇を観たときの日の夜は眠れなかったわ……主役の人がかっこよくて。私も結婚するならああいう人がいい」
「むりだよ」
「うん」
「あきらめたら」
「っは」
「ちょっと、最後の誰かしら?」
「――おっほん!」
「あ、院長……んん、続きを読むからね」
最後の勇者には何も見えず、何も聞こえませんでした。
感じるのは黒い竜だけで、最後の勇者は黒い竜を倒すために精一杯でした。
あと少しで倒せそうな黒い竜でしたが、最後の勇者と四人の勇者が協力しても黒い竜は倒れませんでした。
そして最後。
最後の勇者は黒い竜にすべてをかけることにしました。
三人の勇者が黒い竜を止め、魔法使いが魔法を放ちました。
黒い竜の姿が魔法使いの魔法で姿が見えなくなっとき、輝いた最後の勇者が――――
③
――彼自身が『
「ねえ、ロキ」
「なんや」
地平線を見ていたロキは、フレイヤからの呼びかけにぼんやりと答えた。
「私はね――バッドエンドが嫌いなのよ」
太陽の日が雲によって遮られる。
「……」
「魂の見える私は、その人物の行く末が凡そ分かる。赤色なら血に濡れた人生を、青色なら落ち着いた人生を、緑色なら平凡な人生を、黒色なら悪に染まった人生を。だからこそ十年前、白い色をした魂を持つ彼に興味を持った」
「可哀想な子やで」
一息置き、フレイヤは続ける。
「彼の――ロマニの魂は何色だった思う?」
そこで初めて、ロキはフレイヤの顔を見た。その顔はまるで何十年と自分が探していたお気に入りの作品が見つかったような、心が打たれた存在を見たかのような、およそフレイヤに似合わない表情を浮かべていた。
「魂の色は七色で、形があり、動きがあった。
でも彼の魂で一番目立つ色は――黄金。欲深き者が持つ魔性の金じゃないわ。それはまるで、雲間から降り注ぐ太陽のような光!」
フレイヤが雲のかかった太陽へ手を伸ばすと、まるでそれが当然であるかのように雲が流れて太陽が顔を出した。
きっとそれは――何かを祝福していた。
「私はね――ハッピーエンドが好きなの」
暖かい風が二人の間を吹き抜ける。
風に乗せるようにロキは呟いた。
「……うちもや」
その視線の先には、オラリオから走り出て行く緑髪の女性の姿があった。
④
これは――物語ではない。
人のための物語でもなく、
眷属のための物語でもなく、
神のための物語でもなく、
明日に紡ぐ物語でもない――。
恋を綴る物語でも、愛を伝える物語でもない。
竜は倒され、人と神の世は守られた。
これは、
――Fyrir hetjur Edda である。
最終話「
永遠にも、一瞬にも感ぜられた。
長寿を生きる私にとって、それは雨露のような時間だったかもしれない。
私はあなたがいない間、病を患った。
どんな生き物にも必ず一度は罹る病。
あなたがいないと完治できない、そんな病だ。
青い空が澄んでいる。
白い雲が泳いでいる。
赤い陽が輝いている。
ああ、今日はなんて良い日なのだろうか。
「――ただいま。少し寝坊したかな?」
「――馬鹿者。少しどころか……いや、気にするな。
――――
それはきっと、あなたが一番言ってもらいたい言葉だろうから。
——Fin——
以下、解説とあとがき。
主人公…ロマニ・シェナーン
主人公の名前を決める時、なにか綺麗な名前にしたいと考えたとき「ロマニズム」からとって「ロマニ」にしました。そうしてどうでしょう。まさかのFGOでロマニという登場人物が!!! 俺が先!(無謀な挑戦
まあ、さておき。
「シェナーン」はアイルランドの伝説「聖シェナーンと竜」から取っております。いろいろ端折るとシェナーンさんが竜を歌で改心させるというお話です。「エッダ(詩)」に注視したこの二次小説ではちょうど良いかと思いこちらを採用いたしました。
黒竜…
拙作最大の敵。
原作でも未だどんなものか語られておらず、私のオリジナル設定がこんもりと込められております。三首邪竜ことアジダクハを中心に各地の様々な邪竜伝説の塊にしております。
「ネタばれ」
この黒竜は、旧時代の生き残りである。
旧時代とは、神が天界に上がる前に暮らしていた地上世界のこと。これは、ダンまちの世界がレベルアップをして上がるほど神に近づく、という言葉から推察し、元は神も地上にいたんじゃないか、という考えからです。その時代の生き残り。神がそのとき倒せなかった存在が黒竜、というわけです。じゃあなんで神が黒竜を神の権能を使って倒さないかというと、黒竜は神の攻撃か、デバフを受け入れられないという特性があります。これも原作の黒竜がゼウスヘラファミリアの一件から、人間に甚大な被害を与えておきながら、さすがに神がなにもしないのはおかしい=人の手でしか倒せない、と考察いたしました。
最期は主人公自ら黒竜を穿つほど大きな剣となり、地面に深く突き刺して石化しました。十年後、奇蹟なのか黒竜の亡骸だけが灰のように消え、剣となった主人公だけが生き残った。
その他…
ヒリュテ姉妹をヒュリテと思ってました。一応目を通して書き直しましたが、残っていましたら大変申し訳ありません。
「あとがき」
末筆ながら、ダンまちの二次小説を書かせていただいた神の筍と申します。
実はダンまちは原作がネット小説のときから読ませていただいており、自分としても思入れのある作品です。あの規模の、あれだけの世界観が無料で読めた感動は今でも思い返すことができます。
この二次小説の設定自体はいろんな作品に対応できるような設定になっており、かなり昔からメモ帳に眠っていたんですが遂に文字時お越しをし、なんだかんだ3年ほど暇な時間に書いておりました。そのため、もしかするとどこかで矛盾や、文章の感触に差があるかもしれません。どうかその点につきましては、素人SSとして容赦してくださるありがたいです。
遅くなりましたが、拙作をお読みいただきありがとうございます。
お読みいただいた方と、これからお読みいただく読者様方に感謝を。
神の筍
《余談》
本来なら「サガ」にしようかと迷ったんですが、ロキが所属する神話体系の北欧では「サガ」ではなく「エッダ」なので「エッダ」になりました。