――
ロキ・ファミリアが団長、フィン・ディムナはギルド紋の認められた書簡にその文字を読んだ。
――
それは邪神を中心としたファミリアで構成されており、現状いくつのファミリアがあるのかもわかっていない状態だ。フィンの主神であるロキも天界では『悪神』や『狡知神』などと呼ばれ悪名高きものだったが、邪神はその比ではない。ロキが暇つぶしを目的とした行為ならば、邪神の目的は破壊そのもの。つまり、必ず死者が出るということだ。だからこそ現状、オラリオの治安を取り締まるアストレア・ファミリアを中心に、流通を縄張りとするガネーシャ・ファミリアの第二級冒険者たちが目を光らせているところだがその勢いは収まることがない。ほかのファミリアも注意はしているが、闇派閥は狡猾であり、かつ報復としてそのファミリアの高位冒険者ではなく入りたての初心者などを狙われる場合もあるため、すべてのファミリアが闇派閥の征討に乗り気なわけではない。むろん、早く征討されてほしいとは誰もが思っているが……。
「はぁ……僕の夢のためにも、まずは彼らどうにかしないとね……」
かつて神々が降臨した際、小人族が崇めていた女神フィアナの不在により急激に落ちぶれた種族。小手先が器用で、戦いには狩人のように弓や短剣を使い戦うものが多く、決して弱くはない。しかしそれでも、体格の不利有利をなくすことは難しく現状は少し差別されているのが現実だ。それもロキ・ファミリアの団長である彼の活躍により少しずつではあるが風当たりがよくなってはいる。
だからこそフィンの夢は、小人族の英雄になり自らがかつて崇めた女神フィアナの代わりになり小人族を繁栄させることだ。
「――フィン、少しいいか?」
書簡を机の上に投げ置くと、扉の奥から声がかけられた。
「ロマニか、構わないよ」
「すまんな、急ぎの用事だ」
と、云われたフィンが頭によぎったのは闇派閥のことだ。
嫌な予感が頭に浮かぶが、ロマニの表情から最悪な事態は起きていないだろう。
「そろそろアイズたちを大樹の迷宮に連れて行こうかと思うんだが……」
「もう、かい……?」
大樹の迷宮。
階層は19~24に位置している中層域だ。無秩序に繁茂した苔が鈍い明りを放っており、一番採取依頼の多い階層でもある。それゆえに第二級冒険者たちはここの階層を中心の生計を立てているファミリアも多く、探索ファミリアであるロキ・ファミリアは何百も訪れている。
「ああ。アイズたちもLv.2なって結構経つ、そろそろ次のステップに入ってもいいんじゃないかと思ってな」
「彼女たちが入ってもう一年経つのか……」
もう一年、まだ一年。
彼女たちの成長は著しい速さで実感しており、そう遠くない未来、彼女たちは確実にフィンたちと同じ目線に立つだろう。
特にアイズの成長は最年少でありながらヒュリテ姉妹やベートを超えており、早くてあとひと月でLv.が上がりそうだ。それに触発された三人も近いうちに強くなるだろう。
「彼女たちを見ていると、昔を思い出すよ」
「俺たちがまだLv.1のときか?」
「うん。あのときは今の彼女たちみたいに、先に立ってくれる僕たちみたいな人がいなかった。だからこそ安全に行こうと口癖にしながら、がむしゃらに下を目指した」
「でも、それが君の夢なんだろう?」
「夢だよ。もちろん優先して叶えたいことだけど、僕にはそれと同じくらい大事な家族ができてしまったからね。ここをないがしろにして叶えるんだったら、違う道を探すのもいいかもしれない」
「……昔の意気込みが嘘のようだな」
「さすがに二十年も経てば変わるよ。僕もロキ・ファミリアの団長だ。ゼウスとヘラのファミリアがなくなった今、オラリオを盛り上げていけるのは僕たちだからね」
「違いない。……で、行ってもいいか?」
「うん、許可するよ。と云っても、リヴェリアはなんて云ってるんだい?」
「リヴェリアもそろそろいいんじゃないかって。その前に四人で18階層まで来れるかテストするつもりだが」
「彼女たちのことは君たちに一任しているからね。くれぐれも大怪我か最悪なことは避けるようにね、彼女たちは――このファミリアの未来だから」
「わかってるよ。たまには君も訓練場に覗いてやってくれ。『勇者』と云われた君の戦い方なら、きっといい刺激になるから」
「時間があったらね。最近はギルドからの書類も多いから」
「
「それがほとんどだね。今年に入ってから小さなファミリアが二つ行動不可能なまでに追い詰められたみたいだ。すんでのとこでアストレア・ファミリアが駆け付けたらしいけど……眷属の六割は死亡、二割は行方不明、あとの二割は生き残ったけど精神にダメージを追ってオラリオから主神とともに退去したらしい」
「そうか……」
「皮肉なものだね」
「まあ、な。俺たちロキ・ファミリアは探索系のファミリアだから直接は関係ない。それでもいつか戦うことにはなるだろうな」
「書簡が送られてくるたびにいつも思うよ。なぜ同じ生き物なのに、殺しを受け入れることができるんだろうって……僕もファミリアのためならば殺しは躊躇しない、それでも無差別な殺しになにも感じないほど堕ちたわけじゃない」
「神同士のことはロキに任せておけばいいさ。俺たちは冒険者、目の前にある迷宮を攻略するだけ。途中にそんなことがあれば、後悔しない選択を取っていけば最後は笑って終わるはずだ」
「ふふん、君らしいポジティブな考えだね」
「いつ死ぬかわからない職業だからな」
「いや、君の考え方には昔から助けられたさ。
フィンがそう云うと、ロマニは面を食らったような表情を浮かべた。
「……あのときは、まあ……
「まったく、その言葉をリヴェリアに聞かせてあげたいよ。……左腕は、まだ治らないのかい?」
ロマニの左腕――は付いていなかった。
深層で取った獄彩鳥の首羽から下に伸びる紺色のマント。下には本来、火山灰のような白を基調とした、マグナスブルーの鉱石で彩られた鎧とともに二本の腕が伸びているはずなのだがロマニには一本しか付いていなかった。
「治す気はないからな」
「そっか……」
「ああ。じゃ、そろそろ行くよ、今日はリヴィラの町を案内する約束だからな」
「リヴィラの町か……まずはあそこで物資を購入しないことを教えるんだよ?」
「もちろんだよ、じゃあな」
「うん、頑張って」
ロマニはそう云うとフィンの部屋を出て行った。
扉が閉まり、遠ざかっていく気配を感じながらフィンは息を吐く。町で買ってきた革の回転椅子を回し窓際に寄った。いくつかあるうちの尖塔の最上階にあるフィンの部屋からは、黄昏の館のおよその全貌が一掃できた。
「『俺の戦い』、か……」
反芻されるのはあのときのこと。
ゼウス・ヘラファミリアが壊滅することになった元凶――三大クエストが一つ『隻眼の黒竜』討伐戦。
「君の戦いは、まだ続いているんだね――」
フィンの言葉は誰にも聞かれることはなく、透明な自身を写すガラスに吸い込まれていった。
①
「ここはリヴィアの町。君らも何度か来たことはあるけど、今日から俺やリヴェリアを伴わないダンジョン攻略でも滞在していいことになった」
「ほんと!? てことは18階層まで来ていいの!」
「ああ。でも19階層からはまだ俺たちが付き添うからな。今日は明日に向けてここで泊まることになるから、事前に云ったと思うが着替えを忘れたりしてるやつはいないな?」
「ん……大丈夫」
「だいじょーぶ! 動きやすいの持ってきた!」
「私も大丈夫よ」
「俺も持ってきた」
上からアイズ、ティオナ、ティオネ、ベートの順番でそう云った。
どうやら大丈夫そうだ、とロマニはうなずくと話を進めた。
「今日はリヴィラの町を案内するからな。来たときにいつも云っているが、ここでの買い物は極力、というかしないように。もし買い物をするときは回復ポーションや状態異常になったときだけだ。武器はゴブニュのとこで頻繁に見てもらってるから階層主にでもあたらないと壊れないだろうから、欲しいものがあっても地上の市場で買うように」
「はい!」
「どうしたティオネ」
「ごはんとか、宿とかは?」
「ごはんと宿もできるだけ自分で持ってきたものを食べて使うように。ダンジョンだと多少の荷物も邪魔になるかもしれないが、サポートがいない限りは自分で持っていき、帰るというのも冒険者の仕事だ。げんに俺やリヴェリア、フィンとガレスでダンジョンに潜っていたときは毎回潜るごとに荷物運びを決めていたからな」
「サポーターは雇っていなかったの?」
「雇うこともあったが、基本的にはダンジョン攻略を主としたファミリアだったからな。当時はゼウス・ヘラファミリアのサポートにつきたいやつがほとんどで、まだ中堅前後に属していたロキ・ファミリアについてくれる高Lv.サポーターはいなかったんだ」
「大変、だった……?」
「いや、それも踏まえてのダンジョン攻略だからな。昔喧嘩ばっかしてたリヴェリアとガレスはどっちかが荷物運びの役になるとわざと重たい物資を持ってきて嫌がらせをしてたり……なんてこともあった。まあ、ガレスは怪力の持ち主だったから、荷物運びで不憫な目にあってたのはリヴェリアばかりで、結局重たいものは俺に押し付けられるのがいつもの流れだった」
当時のことを思い出しているのだろう。ロマニの細められた目はどこか遠くを見ているような気もした。
「リヴィラの町に入る前にいくつかの森を通っただろう? 基本はそこの奥で野営をするんだ。近くには泉が沸いているところもあるから、人数が少ないときは誰かを見張りに立てて汚れを流したり、拭くこともできるぞ」
ちなみに当時、リヴェリアはここの泉を活用することはなかった。
泉が汚いとか、誰かに覗かれるとかではなく、
「さ、リヴィラの町を案内しようか」
リヴィラの町の散策は、ティオナの元気な掛け声とともに始まったのであった。
ぱちぱちと跳ねる燃え木が音を立てた。地上ではすでに日が暮れ、18階層もそれに合わせて水晶が淡い微かな光へと姿を変えている。町のほうも夜は鳴りを潜め、ところどころに見張り台の明かりが見えるだけだ。
「このお肉、おいしい」
ロマニたち一行は暗い森のはずれで火を焚き、キャンプを敷いていた。今回はロマニが食事の用意をしていたため、一同はロマニは持ってきた肉の味に舌鼓を打っていた。
「次から君たちのうち誰かに用意してもらうからな。それぞれが日持ちするものや、迷宮の中でもおいしいと思えるものを探して持ってくるんだ」
「このお肉はどこのものなの?」
噛り付くように骨までしゃぶるベートにタオルを渡しながらロマニは答えた。
「オラリオ商業区のお肉屋さんだ。あそこだと自分が好きな香辛料を持っていけばいい感じの燻製お肉にしてくれるんだ。さすがに野菜とかは無理だろうけど、魚くらいならスモークにしてくれると思うぞ」
「ふぅーん。保存食とかでもいいの?」
「それでも別にいいぞ。ただ中層を潜るくらいなら、値段があまり変わらない燻製肉を選んだほうがいい。いつもファミリアで食べている料理と差が出すぎたら自分がわからないところで体に不調やら、ストレスが溜まってベストな体調で挑めなくなる」
「ロマニたちの遠征のときはどうしてるのー?」
「遠征のときは最初に保存食を食べて、深層に入ってから味の濃い燻製肉を食べるようにしている。深層にもなるとたまに食べれる果実が木に実ってたりするんだ。それを探しながら目的層まで進む。帰りは深層を抜けたらまた保存食って感じだな」
ロマニから語られる迷宮内の工夫に、夢中で食べていたベートもいつの間にか口を止めて聞いてた。迷宮内ではいつもと違う、些細な感覚が自身の命を左右すると云っていたこと思い出す。剣や斧を振るいモンスターを倒す職業である冒険者では、生業を主とする住人からは一見野蛮ものだとみられるがその実どの職業よりも死と隣り合わせであり、繊細なものだ。体が資本なため、体調や食事には誰よりも気を付けなければならない。
「ねえねえ! ロマニはいつも団長たちと迷宮に潜ってきたんでしょ、なにかすごいことやおもしろいことはなかったの?」
「おもしろいこと……?」
「うん、なんか……英雄譚に乗るようなこと!」
「私も、聞きたい」
「確かに気になる……」
「……俺も聞きてぇ」
「――英雄譚、か……」
このオラリオには『迷宮神聖譚』というものがる。学区教科書とも呼ばれるほどメジャーな本である。ファミリアが生まれた当時から君臨したゼウス・ヘラファミリアが中心の物語であり、ティオナも何度も読み返して感想を嬉々とロマニに聞かせたことがある。むろんロマニとて読んだことがあり、寝る前に読んでしまい寝不足になってそのことに目敏く気付いたリヴェリアやフィンにお小言を貰ったことがある。
「じゃあ、そうだな。これは20年前以上、俺たちロキ・ファミリアの結成当初の話をしようか――」
第二話「 昔話に華を添えて 」
当時、ロマニ・シェナーンとリヴェリア・リヨス・アールヴは二人で世界を旅していた。
世界の果ては当然見たことなく、何年経っても終わりの見えない旅だ。
「――ちょっと待って!」
と、話をしようとするとティオネが止めた。
「何年もって云ってるけど、団長とロマニは同い年じゃないの? それか近い……」
リヴェリアとガレスはエルフとドワーフであり、その寿命は人間とは大きく異なる。ドワーフとて千は生きぬが百や二百を超すのは当たり前で、エルフの寿命はほとんど終わりがない。エルフの死の原因は疫病や怪我など、外的要因がほとんどだ。
「いや、この成りをしているけど歳は結構とっていてな。フィンやガレスはとうに越しているとだけ云っておこう。ちなみなんでかは秘密だ」
「えー! そこまで云うんだったらどうしてか教えてよ!」
「ずるい……」
「ははっ、内緒内緒。これはフィンたちにも云ってないことだからな」
「それってロマニが幹部扱いじゃなくて、食客扱いのことにもかかわってるの?」
「いや、それは関係ない。俺が
「なにそれ、ずいぶんいい加減」
「いいんだよそれでも。俺としては毎日フィンを見ているとそれでよかったと本当に思うからな」
「変な感じー」
「うん……早く続き」
「そうだな、じゃあ――」
アイズから続きを促されたため語りだす。
ロマニとリヴェリアがオラリオのことを知ったのは、オラリオの隣村に位置する地域であった。オラリオが存在する地域には国などがなく、オラリオ自体ギルドと大手ファミリアによって管理されているため、隣村と云いながらも距離にして歩いてひと月。馬で毎日走らせて一週間と遠かった。そのため、立ち寄るかどうか迷ったのだがリヴェリアが旅をしてるのならば見るべきだ、と選んだために向かうことになった。
出発当日。お互いに何年も旅をしているためすぐに長期の旅の準備を整え隣村の入口にて待ち合わせた。同じ宿舎に泊まっていたが、その日の食事だけ新鮮なものを摂ろうとロマニだけ先に出てお弁当を買いに行ったのだ。
「最近少し思ってたけど、ロマニってリヴェリアの……ぱしり?」
「違う……と云いたいが頼られることが多いとは云っておくか」
「ぱしりじゃねえか」
入り口で待ち合わせ、村で馬を調達した二人は荷物を馬に乗せて二人は歩いて向かうことにした。ひと月かかると云われた二人だったが、時間をかけて目的地に向かうのも旅の醍醐味だろうとそうしたのだ。
隣村から出て四日、事件が起きた。
最初の難関である渓谷にて、馬を狙ったバジリスクの番に襲われてしまいリヴェリアの荷物が渓谷へと消えてしまったのだ。馬は渓谷から抜け出すようすぐに走らせ、ロマニを前衛にとりあえずバジリスクの番は撃退した。荷物のほうも予備のものや、ロマニと共用で使えるものはすべて馬に移すことになった。そのときにリヴェリアがいまだ使っている櫛の話があるのだが、ロマニは一連の流れとしてあまり細かく話さずに話していく。
バジリスクの一件からはとくに危なげなくオラリオに進んだ。オラリオの外壁に到着したときにまず目についたは長蛇の列である。人、人、人、人人人――。オラリオの迷宮を聞きつけた者たちがあらゆる地域から集まり、一攫千金や名声などを求めやってきたのだ。結局オラリオに入ったのは翌日の日が頭の上まで登ったときだった。お互いに長旅で疲れていたためどこかで休もうと、適当な宿で部屋を取って湯あみなどをしてゆっくり休んだ。今日から本格的に見て回ろうかと思い、とりあえずダンジョンが見てみたいと意見があうと入り口のギルド職員に止められたのだ。
――
と。
一先ず行き詰ったロマニたちは昼食に無名の食事処を選び、おなかが膨れてから計画を立て直しに図った。いろいろ議論した結果……一時的にファミリアに入り、金銭を稼いでからもう一度旅をし直そうというところに着地した。それならばオラリオやダンジョンを見て回ることもできるし、今後の金銭関係も充実すると見込んでのことだ。
そして主神探しが始まった。
いくつものファミリアをめぐり、条件に似合うファミリアを探したのだがそんな高待遇のとも云えるファミリアを見つけることは到底見つけることはできなかった。なかには見目麗しいリヴェリアのみならば入れてやる、と云ったファミリアもいたがリヴェリアがそのことに激怒して立ち去った。その光景を見たロマニが少し感動的になっていたのは彼女には内緒である。もちろんそんな態度をとっていると襲われそうなったこともある。その都度ロマニが出て吹っ飛ばすというループが起き、主神が驚いていたのはいい思い出だろう。長旅を続けてきていた手前、荒事やその対処には慣れているのである。
数日間探し続けた二人であったが、ついぞそんなファミリアは見つからなかった。ゼウス・ヘラファミリアにも行ったのだが、何度か訪れても並んでいる人多く断念した。それにリヴェリアが乗り気ではなかったというのも大きい。当時のリヴェリアは……というより、まだ話には出てきていないのだが三人ともそれはそれは尖っていた。耳ではなく心や態度が。
当時のリヴェリアはプライドが高かったのだ。事実、容姿端麗・王族・
「あのリヴェリアが……」
「うーん、想像できるような想像できないような」
「ババアらしいと云えばらしいけどな」
「ベートさんリヴェリアに報告しておきます」
「なっ、アイズ!」
当時、覇者としてオラリオ、敷いては世界中に名を轟かせていたファミリアに入れば必ず下積みや下っ端から始まるに決まっていると考えていた。だからこそあまり人がいないファミリア、もしくは――新興ファミリアを探していた。
ファミリアにあてがなく、二人はオラリオ中心地とも云える噴水広場にてどうしようか悩んでいると声がかけられた。
『――緑髪の別嬪なエルフに、腰に剣を下げた黒髪の男。自分らやろ? 最近ファミリアに入れてもらおうとファミリアを荒らしてる子らは?』
目の前に立っているのは赤髪の糸目の子。スポーツタイプの衣装を着ており、身軽そうな印象を持つ。
『あー、僕。迷子かい?』
『うん迷子……って違うわーい! 迷子でもないし、そもそも僕じゃなくてうちは女や!』
『えっ……』
『こらぁ! なにそっちのエルフと見比べとるんや! なんかエルフのほうも満更じゃない顔しよってからに』
それが、ロマニとリヴェリア、ロキの初会合だった。
「それで――」
ばちんっ、とひときわ大きく火が鳴った。
気が付けば長く話をしていたようで、すでに足し木を入れなければならないところまで火が小さくなっていた。
「んー……っと今日はお終いだな」
「えー! ここまで来たんだから続き気になるよ!」
「ダメだな。明日は中層域に行くんだ。しっかり寝て、明日に備えないとな」
「んーんーぶーぶー」
「ほらティオナ、ティオネを連れていくんだ」
「しょうがないわね……私も気になるから近いうちに聞かせてよね」
「はいよ。アイズもベートも、自分で張ったテントで一人で寝るんだぞ」
ロマニは自分の鞄に付けている時計――といってもダンジョン内水晶と同じ素材であり、光の加減によって時間がわかる非常にアナログなもの――を見るとおよそ22時を過ぎていたのを見てまくしたてるように促した。自分から話していた手前、途中でやめてしまうのも可哀そうだが子供にこと時間帯に就寝して明日朝早く起きるのは酷だろう。それにリヴェリアにばれると絶対に怒られてまう。
「火番はやっておくから心配しなくてもいいぞ。眠れなかったら温かい飲み物でも出してやるからな」
集めておいた枝数本を火に入れると、もう一度拾った石に布を敷いた椅子に座りなおした。
地上と違い迷宮内ではモンスター以外の生物がいない。それゆえ火の明かりに寄ってくる虫などはいない。それよりも大きな虫はモンスターとして出てくるため、火番が務めるのは明かりの調整と不審者の警戒くらいだろう。
ロマニは四人が寝る時間になったので、適当に木を弄って火元を小さくした。
「ねえ、ロマニ」
声を頼りに横を向くと、テントに入ったはずのアイズが立っていた。
「どうしたアイズ」
「ロマニは、お父さんとお母さんに会ったことがある?」
「アイズの……?」
「うん」
「会ったことあるぞ」
「っ、どうだった?」
アイズのその質問に、ロマニはどう答えようか考える。
悪い人でもなく、強かな人たちだっただろう。彼が前衛で、彼女が魔法で後衛として援護していた。少しロマニとリヴェリアに被るところがあった。
「いい人たちだったよ。優しくて、それでいて自分には人一倍厳しい。君のお父さんのほうとは結構面識があってな、プライベートでお酒を飲みに行くような仲だった」
「ロマニとお父さんが?」
「ああ。別に約束とかしていなかったんだが、なにかと食事に行く場所がかぶってな……もしお母さんのことが聞きたければリヴェリアに聞いてみるといい。おもしろい話が聞けるかもしれないぞ」
「お母さんとリヴェリア……。リヴェリアは全然教えてくれなかった」
「聞いたことを教えてくれないほど意地悪じゃないぞ? 座学が終わったあととかは時間をとってくれるだろう」
「うんっ、聞いてみる」
「そうか。じゃあアイズももう寝るんだ。なにか飲んでいくか?」
「んーんー、大丈夫。おやすみ」
「おやすみ、アイズ」
小さく手を振ってからアイズは自分のテントに入っていった。10歳になってからはないが、少し前はリヴェリアの布団に潜り込んでいたのがロマニにはやけに懐かしく感じた。
「僕の苦労もたまにはわかってほしいよ……。よし、団長命令で君は一日団長だ」
――ロキ・ファミリア 小人の団長より