世界で一番かわいいヒロインは、この私、山田エルフなんだから!   作:冬希

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プロローグ
━━━俺の、山田エルフに対する第一印象はまず良いものではなかった。

高慢で、俺の邪魔をして、売り上げで優劣をつけ、サボりがちで。
極めつけは俺からエロマンガ先生を奪おうと小説勝負までしかけてきた。
その時はなんとか勝つことが出来た。
それをきっかけにして話す機会が増えていった。
話してみると第一印象に反し実は結構いいやつで、エロマンガ先生こと紗霧ともすぐに打ち解けてしまった。

こいつといる日々はすごく充実して楽しい、そう気づけたのは仲良くなってからすぐだった。悪かったはずの初期印象はどこへやら。

俺は幼い頃こいつの小説に救われた。
やっぱり、エルフのファンで良かった。


また、多忙な日々を過ごす中でもエルフには色々お世話になった。
にしても最近、特にあいつといる俺はいつも笑っている気がする。

そんな中、エルフとの遊園地デートの日がやってきた。
そうなった経緯を軽く話すと、バレンタインに俺は彼女から随分と立派なケーキを作ってもらっており、そのお返しを渡すホワイトデーでの出来事がそれに起因する。
ホワイトデーの少し前、紗霧のクラスメイトである神野めぐみからとあるボックスをもらっていた。彼女にもバレンタインをもらっており、その中には俺がホワイトデーのお返しとしてやって欲しいことがリストになったいわゆる「逆・ギフトボックス」が入っていた。

その箱を見たエルフはじゃあ私はと言わんばかりに「お兄さんと一日遊園地デート権」を選択したのだ。

「この機会に気持ちを伝えよう」と、俺は気持ちを伝えるひとつの大きなきっかけにしたいと思い、遊園地デートを行うことになった。



第一章 エルフと記念の一日

冬の透き通った空の元、俺はとんでもない時間にクリスタル・パレスもとい山田エルフ宅の前に立っていた。

 

 

始まりは、夜明けとともに目覚める俺のルーティンをぶっ壊した何十通にも渡るLINEと必要以上のモーニング?コールだった。

最初のメッセージが送られたのは午前三時半すぎ。深夜からなにやってるんだ。

あいつのメッセージに俺がはじめて応える頃には最初のそれからおよそ一時間が経過していた。

本来であれば大声で言ってやりたいところではあるが、なにせ今日はあいつと遊園地デートであるし、ぐっすり寝ている紗霧を起こすわけにもいかない。やむなく俺はやんわりと怒るほかなかった。

 

「ちょ、今何時…」

「メッセージにはちゃんと応答しなさいよ!」

俺の小言なんて聞かぬわといきなり小言を噛ませてやがった。

「せっかくのマサムネとの一日、一分たりとも無駄にしたくないのよ!」

それは嬉しいけど、一番最初のメッセージを送った時間で既に三時間半無駄にしてるじゃん。

「その埋め合わせとして、今日は四時半まで私といること!」

「朝帰りでもする気か!」

つい勢いで声を荒らげてしまった。幸いにも紗霧は目覚めなかった。

「いえ、私と家で夜デートよ!」

「家ってすぐ隣じゃないか…」

もう呆れたツッコミしか入れられない。

「…今えっちな想像したでしょ!」

いきなり変なことを言い出したぞこいつ。

「夜、二人、麗しい女の子とふたりきり…あなたくらいの年頃なら考えかねないわ」

いや酷い偏見!

「お前それが狙いだろ!」

それなら俺もツッコんでやる。

「っ…………そ、そんなこと考えてないから!」

声と反応で頭まで赤く蒸気を発する彼女の姿は容易に想像出来た。話題振ったのはそっちなのに。

「と、とにかく今すぐに私の家の前に来なさい!五分以内!用意スタート!」

 

突然すぎる時間制限が発生した。それに反論を試みたが間延びした電子音を聞かされただけだった。

 

こうして俺は冷たい星空の元立たされた。「クリスタル・パレス」の名すら寒く聞こえる。ただその中の灯りだけは心なしか温かみを感じる。

 

身を縮こませエルフを待つ。にしてもあいつ五分で準備させておいて10分以上待たせてるじゃないか。

 

「待たせたわ!」

クリスタル・パレスの扉が開く。溢れ出る光の中で一際輝くエルフ。

その中でも一際強い一筋の光は鉄さび色した門を照らす。

 

「さあ、行きましょ!」

エルフは正宗の手を引っ張る。二人は強い光を放つ居城から今日の舞台へと場所を移動を開始した。

 

「電気!!」

閉められた門も光までは遮ることは出来ない。しかしそれが幸いし、無駄な浪費を防ぐことが出来た。

 

 

「で、今日はどこ行くの?」

俺はエルフから行くところを伝えられていない。今日の予定はもっぱら彼女任せである。

「あいっ変わらず鈍いわねー」

悪いな、小説漬けで外界のことには疎いんだよ。

「まるで異世界からこの世界に迷い込んだ人みたい」

「いやそれはない」

そもそも集合時間だけで行く場所を察することが出来るのかこの世界の住民は!

しかし、「いやそうでしょ」などと言わんばかりに彼女は腕を組み相槌をしている。

 

「喜びなさい!今日の行く先は千葉ニューアドベンチャーワールドよ!」

 

あの、もう少し静かに喋れませんかね早朝ですよ。

「あー聞いたことあるな」

ツイッターを介して見聞きしたことはあるが、まだ一度も足を運んだことはない。

「なんでそんなにテンション低いのー?こんなにも麗しい私と二人でアドベンチャーワールドなんて高校生の夢じゃない!」

「しーーっ!まだ早朝だぞ」

徐々に大きくなる声に慌てた俺は反射的に指を彼女の唇にあてがう。

 

「…………」

何か言いたそうなエルフ。光があまりないからわかりにくいが、かなり赤面している。まあそりゃそうか。

 

「マサ…ムネ…」

ん?案外怒ってない?

「えっち!」

「わわ!ごめんて!ごめんて!」

「もう…責任取ってね…」

ん?なんか勘違いしてるぞこいつ!

でも反論はできなかった。自分がやったことだし。

 

 

なんとか五反野駅に着くことが出来た。未だに東の空含めて暗く、ほんの気持ちばかりの星が瞬く。

まだ始発すら出ておらず、人はいつもより疎らである。このあと溢れんばかりの人を抱えるのだろう、その時をじっと待っているようだ。

 

疎らだった人が整列し出した時、ご来光よりも早く人工的な光がホームの端を照らした。

それに乗車することおよそ25分。地下駅である八丁堀駅にて乗り換えをする。

そこで京葉線に乗り換え、暗い地下を脱出するとようやく太陽を拝むことが出来た。

 

そしてさらに三十分程度。今回のメインステージに到着した。

 

 

 

 

 

「さあ着いたわ!」

「って誰もいないじゃん!」

「そりゃ、開演まで結構時間あるからねえ」

テンションが上がるエルフに対して、イマイチ実感の湧いていない正宗。

「まあ終わってみればその待つ時間も楽しかった思い出になるから!それは私が保証するわ!」

自信満々に言い切った。頼りにしてよさそうだ。

そして、エルフに手を引かれながらチケットを購入した。「案外高いなあ」など本音を漏らす正宗をまあまあとなだめる。

 

「ほう、もう結構人がいるんだな」

既に門の前には数人くらいのグループが結構並んでいる。ざっと百人くらいだろうか。

二人はその後に場所をとる。ようやく落ち着いた。

 

「さあ、あと二時間弱。私と"ここで"遊びましょ!」

「あと二時間弱!?」

待つとは聞いていたが、そんなに長いとは聞いてない。

「当たり前じゃない。まずは入る前の時間を楽しむのよ!このドキドキ、たまらないでしょ?」

いや中があまり分からないからドキドキもなにもないのだが…。

 

しかしこれを言ったら殺される。せっかく来たのだから楽しもう。

 

「でもここから離れたらほかの人に並ばれちゃうでしょ。ここで遊ぶとは言っても何をするのさ」

「じゃーん」

嬉々としてリュックサックから出して見せたものは俺でも知っている二つ折のあのゲームだった。

いやこんなところでDSかよと俺。

いやほかに何かやることあるとエルフは見つめ返してくる。

仕方なくゲームを始める俺。

俺もこのゲームの名前は聞いたことがある。シナリオが良いとよく絶賛される「ポケ○ン不思議のダンジョン、空の探検隊」だ。

 

どうやら主人公キャラクターとペアになるキャラクターは決まってるようだ…が、なにか違和感がある。

「…っておい!主人公俺の名前じゃねえか!」

それだけでない。パートナーの名前も律儀に「エルフ」になっている。

「なによ!その方が興奮しない?『私を守らなきゃ』って気にならない?」

「いや、やってる側すごく恥ずかしいわ!」

「えー でももう決めちゃったもんは変えられないから、頑張ってね♡」

あざとすぎるウインクが威力をはね上げてやがる、正直めっちゃかわいい。性根は置いといて。

「そうね…普通にやるだけじゃつまらないから、私が倒された回数分なにか奢ってね♡」

いや俺このゲーム初めてなんですけど?

「せめて!せめてそれを言うなら一周してからにしてくれ!無駄に緊張してストーリーに集中できん!」

「うーん、それもそうねえ。ストーリーを読ませるのが大きな目的だから、それができなきゃ本末転倒よねえ」

エルフは腕組みをしながら言った。

まあパーティの名前が名前だけに現時点でもう緊張してるがな。

「しょうがないわね。見逃してあげましょう」

なんで上からなんこの人!?

 

「…というか、さっき『私とここで遊びましょ!』って言ってたよな、お前はいいのか?」

「ええ。あなたがゲームをプレイして、私がそれをいじる、それが私の遊びよ! それで不満なら鬼ごっこかなんかする?」

「絶対ダメ」

いい高校生が一応中学生女子のおまえを追いかけ回すとか、周りから怪訝な目で見られること間違いないな。

 

 

時刻は八時を回った。

 

各々が話題に華を咲かせ笑顔を輝かせている。

これが、いわゆるメジャーランドの力なのかもしれない。俺もドキドキしてきたよ。

 

「ところでさ、入ったら何をするの?」

閉ざされた門の先には豪華な建物が屹立していおり、通路からは奥にそびえる切り立つ山が見える。山とは言っても自然の山ではなく、アトラクションのひとつなんだろう。

 

「まずは優先権なるものを確保よ!各アトラクションには優先権なるものがあるの!それがあると並ばずに入れるわ。まあ人気アトラクションとなると、それを持った人が列を作るんだけどね」

「まずはひとつ優先権をもらって、その後乗るアトラクションに並ぶのか」

「その通り。まあ私がエスコートするわ。必ずあなたを楽しませるから期待しておきなさい!」

自信満々に腰に腕を回すエルフ。これは期待できる。

 

 

時間が近づいてくる。開園の時間が近づき人は皆立ち、扉に吸い寄せられていく。「扉には触らないでください!」という制止の声もあまり意味を為してない。

 

 

時に八時三十分。重い扉が開いて人並みが動く。人の濁流が改札に押し寄せる。その時、煩雑な人の配置は一度整理され、抜けた途端に一気に発散される。その先は我先にと駆け出すケガを恐れぬ男達もいれば、早速と言わんばかりの自撮りを撮るカップル、はしゃぐ子供とその親と様々だ。

「ほらぼさっとしてないでいくわよマサムネ!」

「は、はひぃ」

人前で話すことはあっても人に押しつぶされることは滅多にない彼は、もう既に人波に溺れかけていた。四方から押し寄せる大小様々な圧力によって二人は離れかける。

「全くもう、あんた男でしょ!」

エルフは袖を引っ張り離れないように正宗を密着させた。

「さあ行くわよ!私にデレデレしていると死ぬわ!」

「は、はい!」

いや本当に死にそうなのが怖い。

 

エルフは体を使ってなんとか流れの中で位置を確保した。

安堵の息をひとつするエルフのすぐ後方に未だに慌ただしい正宗がいる。

「バッグの下の方に埋もれた?」

バッグに顔を突っ込み荷物をかき分ける。

「だって盗まれたら嫌じゃん」

深呼吸とともに答えた。

「いやあんたねえ、そういうのはすぐ取り出せるようにすること!」

流石に入りがこんな無秩序だなんて思わないよ。

悪い悪いと軽く謝っている間にぐしゃぐしゃになったチケットは切られた。

 

「さあ!のんびりしてる暇はないわ!」

いまいるほとんどの人は「優先権」を確保しようと必死である。

朝一番の行動の素早さが午前中の回れるアトラクションの数を左右する━━ってエルフは言ってた。

変わって一回くらいだろうけど、後々になると大きな一回になるんだってさ。

 

 

人波に自ら呑まれ「優先権」を確保しようとしていく二人の裏。

「あのラノベ作家である山田エルフと和泉マサムネがここにいる?」

「エロマンガ先生G」の件で動画上とはいえ公衆の前に出た二人、特にラノベ読者の中でも顔を知られていた。

しかし、どうせ偽物なりコスプレだろとまだ信じるものは少ない。

しかしそうとは知らず、二人は湖の前に出来た行列に並んでいた。

その横をすらすらと人が追い抜いていく。これが優先権なるものか。

 

 

「ねえ、あれ山田エルフと和泉マサムネじゃない?」

隠そうとしてもその明らかに日本人離れした金髪を隠すことは難しいだろう、最もアイツの場合はむしろひけらかしてる気すらするが…ダッフルコートを正装の上にきてる故に少しは判断しにくいかもしれないけど。

「まっさかーコスプレかなんかじゃないの?そもそも執筆が忙しくてこんなとこ来てる暇ないでしょ」

俺のコスプレってなんだよ。執筆、確かに忙しいけど休みくらいはあるわ。

まあとりあえずまだ疑いの段階で助かった。

しかし、いずれは噂を試さまいと人は集まるだろう。

しかし正直本日ばかりは一般人として楽しみたいからあまり注目されても困る。

それはエルフもきっと分かってるだろう。

 

「私を注目してる…してない?」

いや、むしろ恍惚の表情に近い気がする。

「今日ばかりは注目を集めたりしないでくれよ…?」

頼んだよとばかりに念を押しておく。

「ええ…分かってるわ…」

惜しいけどって小さく聞こえた気がする。まあ分かってくれればいいか。

 

その時、携帯が振動した。

今の俺には「まさか携帯番号が漏えいしていて、この場にいる誰かがいたずら電話をかけたのか?」とすら思えるほどに人の目を気にしていた。幸いにもその電話は紗霧のものであったが、一瞬出ることをためらってしまった。

 

「兄さん…今どんな感じ?」

「人がやばい。テレビで見るまさにそれ」

もうなんの比喩もない、嘘偽りなんて当然ない。

まあ紗霧がいったら数秒でノックダウンだろう。言わないけど。

「ううぇ…」

「わ、悪い想像させちゃったようだな…」

「吐き気がした」

でも、そんな場所で平気でいられる正宗が少し羨ましくもあった。

「死なないでね…」

「絶対に生きて帰るよ」

「絶対!絶対ね!」

もう少し運営や安全管理を信用してあげてくれ。

「生きて帰って、今後の糧にするよ」

今後の小説に活かすよと言いたいところだが、正体を周りにバラしたくないから濁すしかない。

「うん、わかった」

「紗霧も気をつけてな」

 

 

「もう~愛しい妹からの電話~?」

電話が切れた途端に待ってましたとばかりに茶化すエルフ。

「ま、まあそうだな」

羨ましくなんてないよと言ってそうな瞳。

「ところでこれはどういうアトラクションなんだ?」

あまりこの話は良くないと強引に話題をすり替える。

「テーマは沈没した海賊船。我々の乗る深海調査艇エ…未来号は、大昔の嵐で沈んだ海賊船を発見した!」

なるほどなるほど、まあメジャーランドなるものではよくあるテーマだろう。

 

「…楽しみじゃないの?」

期待通りの反応が見られず心配そうに顔を覗かせる。

「楽しみじゃないというか、これが人生で初めてのアトラクションだからイマイチ想像が出来ないんだ」

「なるほど、まあ見てなさい。終わってみればきっとあなたは充実感・余韻で溢れているわ!」

自信満々に話すエルフ。

楽しそうに話す彼女を見て俺まで笑顔になっちゃうよ。本当に初めてのメジャーランドでエルフと一緒に来れてよかったと思う。

ちょっと目立ちたがり屋さんなところがあるけど、盛り上げ方は超一流。一緒に話すだけでワクワクしちゃう。

そんな魅力が彼女にはある。

 

「楽しみに待ってるよ」

心底の笑顔を見せた正宗にエルフも良かったと思わんばかりの笑いを見せた。

 

三十分もしたか。湖の下へと続くと見られる螺旋階段と地下道を歩いた。

またその先にも列はあるが、さっきの列と比べるとごく小さなもので、あと五回くらいで乗れると思う。

「行ってらっしゃーい!」と見送るスタッフさんや絶え間なく流れる注意事項。出番が近づいてるんだな。

このアトラクションについて分かったことは一回六名であること、昔沈んだ沈没船を深海調査艇で探検すること。

のみである。不安二割楽しみ八割といったところ。

予想に反し深海調査艇「に似た乗り物」は絶え間なく現れては人を乗せていく。まあ一台しかなかったらあれだけの人数をさばくのは不可能だろう。

なんて思っていたらすぐ出番だ。

 

「さあいくわよ!深海調査艇デート!」

エルフに手を引かれ乗り物に乗った。正直この段階では深海調査艇だなんてとても言えないが。

全員の安全確認がなされるとすぐに発進、暗がりへと進んでいった。

どこかのスピーカーから深海調査艇未来号を軽く説明している人の声。どうやらこれは科学を結集して作られた最新型で、海底火山の調査をするために作られたらしい。結構本格的だな。

そしてしばらくすると静止した。

 

「ようこそ深海調査艇、未来号へ!」

の掛け声とともに電気がぱあっとついた。

周囲を近未来的な装置に囲まれ、前方に遥か彼方に広がる水平線が広がる。

 

「さあ!これから我々は海に潜ります!変わりゆく景色、しっかり目に焼き付けてくださいね!」

 

実際に潜ってるような感覚がする。これがいわゆる"体感型アトラクション"なのか。外の景色もかなり現実的に描写されている。ふと目覚めてここにいたら本当にそこにいるって思ってしまうだろう。

周りが深くなるとライトがつき、海の奥底を照らす。もっともまだ底なんて全く見えないけど。

「深さ200メートルを過ぎると光は届かなくなります。一般的にここまでを表層と呼び、ここから先を深海と呼びます」

しばらく海についての説明がなされる。

 

子供ならそろそろ飽きそうだなと思えてきた時。

「なんだあれは!」

ライトは底に眠る何かを映しだす。

「接近します!」

 

「これは…昔沈んだと思われる海賊船です!」

 

そこには何隻もの海賊船が沈んでいた。海賊同士が激しい争いを繰り広げた故に多数の船が沈んだらしい。

中には大きな穴が空いた船もある。そりゃ沈むわ。

「中を覗こう!」 「いや、それは危険だ!何があるか分からないんだぞ!」

「歴史的財産が眠っているかもしれない!歴史に俺らの名を残すチャンスだぞ!」

「だからといって危険を見過ごすことはできない!」

「いやまて、ここは判断を"乗組員"に委ねようじゃないか」

え?

「海賊船の中、見たいよな?見たいという人は手を挙げてくれ!」

「「「「はーい!!」」」」

エルフ含めた半数以上が挙手をした。あわてて俺も手を上げる。

「よし!それでは船と船の間に入る!」

まさに多勢に無勢。こんなんで大丈夫なんだろうか。というかこれ手をあげなかったらどうなってたんだろうか。

ライトは大きな穴を照らす。

 

突然異物が映し出された。

「きゃあーっ!」目の前の出来事に居合わせた女性陣は声を荒らげる。もちろんエルフも例外ではなく、正宗の腕を強く握ってくる。

 

「おっと、これは海賊の骸骨だねー。大丈夫、襲ったりしないから!」

いや襲う訳ないだろ!でも本当にリアリティあるなあ。一瞬ドキッと来たよ。

まあ、今ドキドキしているのは別の理由なんだが…。

「マサムネ、こわくないの?」

「怖いというよりびっくりしたというか…」

高鳴る胸をなんとか抑えようとする。

人生初の深海調査艇デート(?)は沈没船やら骸骨やら大騒ぎだな。

 

探検を進めていくこと5分。画面には陽炎のようなモヤが映し出された。

未だに二人は密着している。

「あれは我々の調査している海底火山だ。この火山を調査して海底火山のメカニズムの解明に繋げるのさ」

なにか足の方から熱気がする。そこまで再現するのか。

 

「「異常事態!異常事態!」」

サイレンの音がけたたましく響く。それに呼応するようにガタガタ揺れ始める。

「きゃっ」

「エルフ!しっかりつかまれ!」

白い煙が満たし、で煙の中から禍々しい溶岩が顔を出そうとしている。

「隊長!海底火山噴火です!

「分かってるわ!緊急浮上!」

「それが…熱でエンジンが危ないです!」

「知るか!ここで死ぬか上で死ぬかどっちがいいんだ!尽くせ!乗組員の命を守れ!」

いや命を守るのか死ぬのかどっちだよ。

「緊急浮上!乗務員全員安全を確保せよ!」

その瞬間、上から固定するアームが下ろされた。腰を固定され立ち上がることが出来ない。

「乗客全員安全確保!」

がくんという音ともに違和感が襲う。

「おい、これまさか…」

その声は一瞬で途切れた。液晶の景色はほとんど変わらない。

隣のエルフは叫びながらも笑っている。俺はそれどころではない。じっと黙って顔をひきつらせこらえている。

液晶に光が差し込む。その直後衝撃と共に停止した。

「…マサムネったらそんなに汗かいて、怖かったの?」

「い、いや怖くなんて…」

内心怖かった。

 

「おめでとう!あなた達は海底火山から無事に生き延びることに成功した!さらに、噴火の瞬間という大変珍しい資料を手に入れた!そのお祝い・お礼として、出口で素晴らしいものを受け取ってもらう!忘れないようにな!それではまたいつか会うその日まで!」

 

活気溢れる声を残し、入口で乗った乗り物は再び動き出した。先程の余韻を残し暗闇を進むこと数十秒、乗る前に聞いたような明るい声がまた出迎えてくれた。

 

「お疲れさまです!深海調査艇・未来号!楽しめたでしょうか!まだまだ沢山アトラクションはあります!良い一日を!」

腰のロックが外され、降りるよう促される。

 

「楽しかったわねマサムネ!」

「ふう死ぬかと思った。でもいいな、こういうのも」

入口とは湖の反対側に建物の出口が設置されている。どうやら湖とその周囲の木々で出口を隠してネタバレを防ぐ仕組みらしい。

出口には「お祝い品」を配る人がいた。

そのお祝い品は…

「あははは!マサムネったら変な顔!」

━━━━━急上昇中に撮られた写真であった。

ここでも当然のようにエルフはカメラ目線を決めている。

「せっかくだし額縁買ってく?」

道の外れには額縁を販売しているエリアがあった。

正直言うと、この表情が額縁に飾られる羞恥と記念に買いたいという欲望が対立している。

さあどうしようか、なんて悩んでるその手には既に額縁に飾られた己の変顔があった。

「せっかくだし自分の部屋にでも飾らなきゃね!」

「ああああああ恥ずかしいぃぃぃ!!!」

顔面真っ赤にしてしゃがみこむも、額縁は大事に両手で支えられていた。

「既に予約済よ!マサムネとの思い出を逃がさないためにね!」

くぅ、こいつはいちいち憎たらしいことをしてくる。

でも気遣い?に少しは感謝してるからな!

 

「ありがとう、大事に取っておくよ」

「あら、素直ねマサムネ!いつか動画で出して見なさいよ!大ウケ間違いないわ!」

「絶対やらないからな!そんなことしたら俺二度と執筆活動なんてできなくなるわ!」

それに、この思い出は二人のものにしたいからな。

 

 

 

次は最も人気の高いアトラクションの一つだとエルフは言っている。入口から望むことが出来た山がそれだ。

どうやら廃鉱山を駆け抜けるジェットコースターみたいなものだと言う。

先程の深海調査艇よりそこそこ列が長いが、今回は優先権がある。

長い列の隣をスラスラスイと進むの、気持ちいいな。決して言葉にはしないがみんな思ってそう。

ちなみにこのアトラクション、普通は「上昇→急降下」の順であるがいきなり急降下から始まるのだ。確かに鉱山は地下もあるけども。

エレベーターを上ると先程と同様、数回で全員乗れそうなくらいの人数が並んでいた。

10人乗りのライドが加速するとその直後に悲鳴が聞こえる。

エルフは怖いの~?なんて肩を叩いてくる。

いや怖いよ!人生初のジェットコースターだぞ!

 

なにより気になるのが乗ってる乗客例外なくかっぱらしきものを着ているのはなんだ。

 

「おい、これ濡れるのか?」

「本アトラクションは水を被ります。濡らしたくないものには十分注意してください」

「当たり前じゃない!『濡れる』もひとつのアトラクションの楽しみじゃない!」

おふた方ともありがとうございます。

「濡らしたくないもの」にひとつ大きな心当たりのある俺は再びあわててバッグを見たが、幸いにもそれは入っていない。

 

「ちょっとあんた、まさか原稿…」

抜き忘れてたら災難になってたかもしれない。

ジェクチャーで安全を伝える。

「まさかこんなところにまで仕事持って来ないよねー」

いわゆるジト目と言われる目付きで見る。

最も持ってきたとしても単なる抜き忘れだろうけど、これまでの傾向を振り返られて弁解にはならなさそうだ。

 

 

「さあいってらっしゃーい!」

いやまて早いって!

たとえ言葉にしようと制止の声なんて届くわけがないけど。

その後ライドとその乗客ははエルフの耳をつんざく悲鳴とともに地下へ落ちていった。

 

ひんやりした空気を猛スピードで切り裂く。正直少し寒い。

気がついたら水滴がカッパに付着していた。濡れるってそういうことか。

「って…」

安心したのもつかの間。水滴なんかとは比較にならない異常な量の水が小さな滝のごとく進路を塞いでいた━━━━。

 

「アカンわこれ濡れるー!」風邪引きを覚悟した。

 

 

 

…ってあれ?何事もなく抜けていったぞ。

 

鉱山の外に出ると付着した水滴は飛び、結局ほとんど乾いたままかっぱは返却したのだった。

 

「途中の滝、夏以外は水が流れないで光だけなのよ。つまらない」

腕組みしてすこし愚痴をこぼすエルフ。

いや俺はこれで良かったと思うけど。濡れて外の寒い空気に晒されたらたまったもんじゃないよ。夏ならいいけど。

 

 

 

そろそろお昼時になる。売店、特に料理を提供するお店はこれからドっと溢れる人で大忙しになるだろう。

 

「ねえねえ!マサムネ!見て!見て!」

意気揚々と携帯の画面を見せる。

 

「和泉正宗先生と山田エルフ先生、遊園地デート!」

そう赤文字でデカデカと掲げられた掲示板。さらに二人の写真まで掲載。下手すりゃ盗撮だぞこれ。

「でもまあ大きな騒ぎにはなってないし、逆に対策したら変な噂が流れそうだし…とりあえず経過観察でいいと思うけどなあ」

そもそも、対策するとしてこの人混みの中どう対策するんだ。

「それもそうね…さあ下僕ども!好きに噂すればいいわ!好きに『エルフはマサムネの愛人』『マサムネはエルフの下僕』なりなんなり呟けばいいわ!」

「恥ずかしいわ!」

 

幸いにもこの後も大きな騒ぎには発展しなかった。

ときどき話しかけられるけど…

 

その後は観覧車に乗り、お化け屋敷に入った。どれも予想を大きく超える出来栄えだ。

観覧車で見える東京湾と都心部、そして遠くに望む富士山は素晴らしいの一言に尽きたな。もしかしたら大きな一軒家であるクリスタル・パレスも見えたかもしれない。

そして、お化け屋敷。正直言うとこれまでは子供だましだろとか思ってた。

そんな気持ちでここに入った。

 

…叫び声が止まらなかったよ。息付く暇なんてありゃしない。

「こういう物には慣れてるし平気平気!怖かったら私の陰に隠れなさい!」なんて強がってたエルフも気がつけば俺の陰に隠れてたしな。

「本物はやっぱ怖いんだなあ」なんて簡単な問題で済む程ではない。それどころか少し血生臭さも感じた気がする。

 

まあ、どのアトラクションにも言えることだが、「待っただけの見返りはある」ことは間違いない。

メジャーランド、見直した。

 

お化け屋敷から出た正宗は携帯を確認する。

 

そこには一件の着信履歴が残されていた。

「うわっ神楽坂さん」

まさかの担当編集からの直々の電話である。

心当たりがあるだけに怖いが、担当編集者からの電話は無視出来ない。

 

「和泉先生!!どうですか?エルフ先生とのデートは!」

開口一番、予想通りの一言が飛ばしてきやがった。

 

「いやーーもうネットで大変なことになってますよーーたくさんのパパラッチに囲まれてデートしてるようなもんですよそれ!」

 

「デートと分かって電話かけたんですか?」

 

「はい!」

自信満々だなおい。

 

「あの担当編集から電話?」

さらに横からエルフがカマをかけてくる。

「貸しなさい!」

そして有無を言わさず正宗から携帯を奪取する。

「ちょっとアンタ?私たちのデートを邪魔しないでくださる?」

「あららーお久しぶりですーどうですか?この前から彼とはうまく付き合えてますか?」

「あったり前じゃない?それを妬んで電話してきたの?」

「ええ。全てが全てそれが理由だという訳ではありませんが」

「それなら切るわよ!」

「よく人の話を聞いてください。全て『ではない』と言ってるじゃないですか。我々と彼との都合ってのもあるんですよ。あなた一人に彼を独占させるわけにはいかないのです」

 

「はあ?マサムネが今日『私のために』休みを作ったはずよ!」

「ええ。その話は聞いています。私は過去の話をしているのではなく、未来の話をしているのです」

「はあ?アンタ達の未来と私がなんの関係があるのよ」

「ええ。大ありですとも。まあ和泉先生が『良い作品』を作ってくだされば私たちはなんの文句はありません」

「ああそう!なら切るわよ!」

 

強引に通話を切った。

 

「マサムネ!いまここで誓いなさい!」

「なんだ突然」

「私は!これからも良い作品を作ります!ほら復唱!」

「私は!これからも良い作品を作ります!って何を言わせるんだ」

「アンタの担当者、アンタが良い作品を作ればあの人も私たちには関与しないと言ったの」

なるほど。

「そんなの当たり前じゃないか。任せな」

それが俺の「義務」なんだから。

 

 

 

夕方。

基本的にエルフに手を引かれ続けた日。二人でこんなに楽しめたのは今日が初めてだろう。

観覧車にお化け屋敷、どれもエルフが太鼓判を押すのもわかった。

 

時々変な視線を送られることはあったが…

友達と遊ぶことがこんなにも楽しいなんて、今日ほどほかの同年代の人が羨ましく感じた日はない。

友人と学校で色々話したり、出かけたり、買い物したり。まあ友達が全くいない訳でもないので、特段憧れていた訳では無いが、改めてこういう機会に触れてみたら気が変わった。めっちゃ羨ましいわコノヤロー!

 

 

 

俺は初めてエルフと行動を別にした。流石にトイレにまでついてくる程変態ではない。

そろそろ気持ちを伝えたいと心を整えるためにはちょうど良い場所だ。

 

 

「エルフと付き合ったらすごく楽しいんだろうなあ」そんなことは前々から考えているけど

でも、「紗霧はどう反応するか」とか、「ムラマサ先輩にどう思うか」とか他人の評価ばかりが先走ってしまってまだ肝心の一言が言えていない。言わないと後悔することなんて分かってるのに。

 

 

「そんな理由をつけて逃げてるんでしょ」

 

「伝えるべきことすら伝えられなくていいの?」

 

「このままだと有耶無耶なまま終わっちゃうよ?」

 

そうなんだよ!全部分かってるんだよ!

 

「ほら、あまり考えすぎてると待たせちゃうよ。愛しの友人を」

 

現実逃避をする自分を深層心理は許さない。

 

「今がチャンスだと思うよ。後のことなんて後で考えな。いけないことは自分に嘘をつくことだ」

 

手を洗いながら自分を鏡で見る。

 

「頑張れ。応援してるから」

 

うん。俺伝えてくるよ。

 

伝えたい感情、嘘偽りなく拳に握りしめた。

 

緊張しながらトイレを出た。ゆったりと一歩一歩を鼓動で感じている。

 

 

 

━━━しかし、そう悠長としている時間はなかった。

 

「このままではエルフが危ない!」

 

エルフは男達に取り囲まれていた。サインを求めている様子もなく、何よりも彼女は嫌がっている。

 

走れ正宗!

 

 

 

 

「おい!俺の"彼女"に何やってるんだ!」

 

エルフと男達の間に入って黙って睨みつける。

双方動かず長い長い数秒。

 

 

「けっ、お嬢ちゃんいい彼氏もったじゃねえか。おめえもその心意気、忘れんじゃねえぞ」

 

その男達は二人から目を背け、歩き出した。

 

 

 

「マサ…ムネ?」

 

「あああああ!!!」

 

事態に気がついた正宗声に出さずに叫んでは一瞬で紅潮させる。

完全に計算違い、暴発である。

これから告白しようとする人を恋人と呼んでしまったのだ。

でもここで引き下がる訳には行かない!

さっとエルフの方へ振り返る。

 

 

「エルフ!俺はお前が大好きだ!俺と付き合ってくれ!」

 

なんか言わされたような告白になってしまったが、最初から告白するつもりでここに来た以上仕方ない。

 

返事を待つこの数秒がすごく長く感じる。

 

 

━━━━「ええ。私も大好きよ、マサムネ。ありがとう…ありがとう!」

 

「やっ…やった…」

 

緊張から放たれ力の抜けた正宗をエルフが支える。

「伝えてくれて本当にありがとう…ありがとう!」

「エルフ…受け入れてくれてありがとう!」

二人はそれぞれの感謝を述べた。

 

そして暫くの抱擁の後、歩き出すと日は既に沈みきっていた。

 

 

二人が"恋人"になって初めて乗るアトラクションは既に決まっているらしく、手を握り案内された。

その先にドーム状の建物があった。

今回乗るアトラクションのテーマは「宇宙旅行」

 

「二人ならばどこへでもたどり着けるはずよ!」

とエルフは付け足した。

確かに、彼女となら困難も一緒に笑って乗り越えて辿り着けそうだよ。当然そんなアトラクションではないと思うけど。

 

ポスターには

「これからあなたは恵まれた星、地球を飛び出し宇宙を旅します」

そんな言葉と地球を飛び出す宇宙船が描かれている。

 

 

一時間ほど並んでようやく順番が近づいてきた。宇宙船の如く精密機械に取り囲まれた空間をたくさんの人数がずっしり並んでいる。いつもなら見ただけで遠慮してしまうだろう。

しかし、「待ったら待っただけの楽しみがある」ということがわかった。

今回もすごく楽しみだ。

ざっと十人くらいが乗ると扉が閉まり暗闇に沈んでいく。

 

「さあいってらっしゃーい!」

アトラクションそのものはさっきの鉱山のやつと似たようなものだ。

違うことといえば、視界には星空だけ。それ以外は「レールすら」見ることが出来ない。つまり、いつどこで急落下があるのかわからない。心の準備ができないのだ。

 

 

無作為に急降下急上昇左折右折を繰り返す。暗くてお互いの表情は探れないけど、握った手でなんとなくわかる。結構エルフって怖がりなのかもな。

なんて思ってるとあっという間に終わってしまった。すごく濃い時間だったな。

 

 

「夏だったらもうひとつくらい乗れたのに…」そうぼやきながらドームを振り返った。

今朝言っていた「一回の重み」がすごく伝わってくる。

しかし、冬の時期は無情に終わる時間も早いのだ。

 

しぶしぶ出口へと歩み出す。散りばめられた装飾は建物や木々をも彩り、昼間とはまた違う景色を作る。

特に昼間は味気なかった廃鉱山という設定だった山ですら装飾で飾られており、その麓はしっかりとそれを記録として端末に残す人でたくさんだ。

 

そして出口にも記念撮影をする人が溢れる。

もちろん二人も例外ではない。

 

「はいっチーズ!」

二人の記念日。心からの笑顔をそれぞれの端末に保存した。

 

 

 

「また来ようよ。仕事がない日にさ」

出口から少し離れた駅へのコンコースで二人はアドベンチャーワールドの建物を眺めていた。

「次はお泊まりね!」

その隣に佇む一際大きな建物を指さす。

「へえ、ここホテルも経営してるんだ」

「ホテルに泊まる人は営業時間が終わってから二時間も遊ぶことが出来るのよ!並ぶ時間もすごく短い!最高じゃない!」

 

 

「絶対今度また、泊まりで!一緒にいこうね!絶対よ!」

「おう!また二人で、今日より楽しもう!」

また来ると誓いの指切りをして、二人はその場を去った。

 

帰りの電車は一本見送ることで二人隣で無事座ることが出来た。

 

「おつかれ、エルフ」

正宗を引っ張り通した彼女は襲いかかる睡魔に身を任せたようだ。

 

 

 

「東京~終点、東京です~。お忘れもののございませんようご注意ください」

 

起こす人を失った二人、仲良く終着駅に送られた。

 

エルフは八丁堀着く前に起こせばいいか…

それにしても…無防備な寝顔はまたかわいいな…

 

「…ふぁ?」

起こしてあげると天使は情けない声とともに意識を取り戻した。

「ほら、乗り換えるぞ」

彼女の手を取ってなんとか乗り換えを促した。

 

このようにうとうとする彼女をリードし、家、もといクリスタル・パレスに無事帰還を果たしたのだった。

 

「さあマサムネ!まだまだこれから!」

さっきまでの眠気はどこへやら。しかし、朝の彼女とは違ってすごく疲れが出ている。

「とはいってもすげー眠そうに見えるけど…」

「いやいやそんなことはありえないわ!」

「頼むから寝てくれ。明日に響くぜ?恋人として最初のお願いだ」

「恋人の」この一言には弱い。

 

「ぐぅの音も出ないわ…仕方ない。今日はお休みさせてもらうわ!」

「明日また頑張ろう!おやすみな、エルフ」

「ちょっと待ちなさい!」

背を向けかけた正宗を止める。

「少し顔貸しなさい!」

正宗は少ししゃがむ。

 

 

ちゅっ

 

 

えっえっえっえっえっ。

ほっぺたを中心に電気が体をおそう。

 

「夜デートができなくなっちゃったからね!ふふふっ!それじゃおやすみ!」

小悪魔的笑顔と共に彼女は階段を上っていった。

 

しばらくして正宗は熱をもち硬直した体をなんとか動かし和泉宅へと到着した。

 

「ただいま…」

家の中は空き家と勘違いするほどに暗い。きっと紗霧は寝てしまったのだろう。部屋の電気も暗い。

 

 

「紗霧…」

俺はエルフと付き合うことになった。それはとても嬉しいことであるが、その反面絶対に解決しなくてはならない問題がひとつある。

 

 

━━━それは、他の女の子関係の清算だ。

 

第二章へ続く。

 

 

 

 

 

 

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