世界で一番かわいいヒロインは、この私、山田エルフなんだから!   作:冬希

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遊園地で告白し、付き合うことになった正宗とエルフ。しかし、紗霧は正宗に「女の子にヘラヘラして欲しくない」ということで小説のテストが行われた。それをエルフとともに乗り越えなんとか平穏な日々に戻った。その後アニメ化等々のイベントを経て忙しくなる日常。その気分転換として花火大会デートをエルフが考案した。それを聞いた紗霧は、私も花火デートしたいという強い気持ちで外に出る練習をした。その甲斐あって遂に外に出ることが出来、エルフ宅の庭で正宗やエルフと花火を眺めた。
そこで紗霧はエルフが正宗を想う気持ちを知った。
一方正宗は花火大会の翌日、紗霧のクラスメート神野めぐみに正宗と彼女がモデルの小説を頼み込まれていた。

そんな中、足立に大きな台風が接近していた。
そしてまた、エルフはそれを利用して大胆な行動に出る。



第四章 二人の秘密の小説

第四章 二人の秘密の小説

 

 

 

「どうしてそうなった…」

あまりに予想外のリクエストに俺はただただ困惑するしかない。

「どうしてって…私と正宗さんのラブラブライトノベルが欲しいんです!」

最初はそれこそ超有名どころしかマンガやライトノベルを知らなかっためぐみであったが、主に高砂智恵の手によってライトノベル沼にどっぷりとつかってしまった。

最初は「キモオタ小説」などと言ってたけどねえ…気がついたらここまで洗脳されているし高砂智恵恐るべし。

それはそれで嬉しいけどね。

 

「私めっっっちゃ期待してますから!」

相変わらず目をキラッキラさせてるな!

 

濁点三つくらいつけそうな濁った「あ」を俺の心の中で響かせる。

状況が状況なだけに、バレたら二人に何されるかわからん。

しかし、ここまでめぐみにはかなりの借りを作っているし…

しかもこうして悩んでいるあいだにも手を握られじっと見つめてくる。

こうした場面はラノベで幾度となく見てきたけど実際にされると手の温もりが思ったより…

 

ってそうじゃなくて!

 

さあどうする和泉正宗。正直この場面をノーで切り抜けられる自信がない!

むしろノーと言わせてくれるのか。否、イエスというまで粘られるだろう。

そしてこうして回答に悩む間にも俺は彼女に目で懇願されている。

それならもう書くよ!やってやるよ!後のことは後で考える!

 

紗霧やエルフのことを気にかけながらも、俺は圧と借りに負けた。

 

 

しかしヤケになってる心を隠しあくまでも冷静を貫く。

「わかった。ただ俺も仕事があるから少し遅れるがそれは勘弁してくれ。ただ夏休み終わりまでには書き終えるよう尽力するよ」

書くことそのことは余裕だろう。

この場合、隠す方に尽力すると言った方が正しいだろうな。バレたら何をされるかわからない。

「やったー!お兄さんさっすがー!ありがとうございます!」

「書くからには最高の小説にしてやるからな!待ってろ!」

ここまで期待してくれたんだから、応えないと。

 

いかに小説を隠すか。

俺は自転車をこぎながら考える。

紗霧は滅多に俺の部屋に入ってくることはないから大丈夫だろうけど、エルフは俺がいない間に冷房をつけて帰りを待つようなやつだ。

俺の部屋で俺の帰りを待ってくれることはすげえ嬉しいよ。嬉しいんだけど、このことががバレたら可憐な花が瞬時に毒牙に代わりうることを考えるとすごく怖い。

 

とりあえず俺の心を穏やかにするためにもこの小説の原稿は家に置いてはならないだろう。

基本的に俺は小説のプロットそのものはパソコンで行っているからそこは安心していい。けれども…

しかし、万が一めぐみがエルフにそのことを漏らしたら…

なんて様々な可能性を発見する度に悲惨な展開が脳裏を横切る。

 

とりあえず穏やかに過ごすために外出するたびにパソコンを持ち歩く他ない。

執筆時間も確実に二人が来ない夜、それも深夜にするしかないだろう。

 

 

「何をそんなに悩んでるの?」

交差点で自転車を停め悩む正宗を見つけたのは高砂書店の看板娘こと高砂智恵だ。

「な、なな、な、なにも悩んでませんよ」

隠し事をしている小学生みたいな弁明など効くはずもなく。

「いやそれは間違いなく悩んでいるムネくんよ!」

と容易に見破られてしまった。

 

「へー、めぐみちゃんとムネくんのラブラブライトノベルをリクエストされた…へー…」

なんでそんな目で見るんだよ。俺は「やむなく」了解したんだぞ、仮に何も借りがなかったら蹴ってたわそんなお願い。

「確かに妹さんにそれがバレたら怖いですねー」

だから悩んでたんだよ。

「でもまあ直筆で書くわけじゃないしパソコンの管理さえ気をつけておけば大丈夫なんじゃない?PIN知ってるのムネくんだけなんでしょー?ファイルの名前を変えてどこかに置いとけば大丈夫なんじゃないかなあ」

PIN、すなわち暗証番号は正直エルフや紗霧も知ってる可能性はある。

ファイル名変えてごまかすしかないか。

「とりあえずそれで誤魔化せるだけやってみるよ」

「じゃあ私も期待して待ってるからね!」

「えっ」

「当たり前じゃない!どこにも公開されないムネくんのオリジナル小説が読めるという大チャンスをみすみす見逃すわけがないじゃない!」

俺に体を預けて熱弁する。そうやって俺の小説を他の人に宣伝してくれたらいいのに。

「ああわかった、わかったから近つきすぎないでくれ。お父さんの目つきが怖い」

レジから百獣の王のような目ではっきりと獲物、ここでは俺を捉えている。この目つきだけで小動物なんかは一瞬で逃げ去ってしまうだろう、そんな野生な目だ。

「それじゃ、期待して待ってるからね!」

「できたら連絡するよ」

 

 

とりあえず俺は高砂書店で一つの打開策を手に入れた。

 

そういえば、であった日からはじめて紗霧に隠し事をするかもしれないな。

 

 

ただいまーとほぼ同時にルーティンをこなしてパソコンのスイッチを入れ、エクスプローラーを起動する。

「ん?」

一瞬で俺は注目の記事に視線を奪われた。

 

「週末にかけて発達しながら台風が接近し、関東地方に上陸するすおそれがある」

 

関東全域をすっぽり覆う予想図と緊急事態を煽る赤文字が画面上部をを独占している。

 

「雨が降れば涼しくなるかななんて思ってたけど、これはやりすぎだ」

「地球の運営さん対処が適当すぎ」

それに寄せられたコメントにもかなり同調できる。ほんと大げさなんだよ地球は。

 

とりあえず今週末台風来るのか。

 

 

その予報円は日が進んても変わることなく関東を覆い続ける。天候的にはあまり変わらず呆れた暑さを伴う晴れだけど、衛星画像を見ると問題のそれは目を作り、有り余る熱気を吸収し大きく強くなっていっていることが素人目にもわかる。そんな日が数日続いた。

 

 

来る「上陸すると思われる日」

暑さをもたらす太陽とは違い、重く厚い雲が空を支配していた。

かなり涼しくなったという意味ではかなりありがたいんだけど…

時折降ってきた雫が頬に触れることもある。そして生ぬるい風が吹き雰囲気をさらに不気味にする。

これまで暑すぎて昼間には泣けなかったセミも溜まった鬱憤を晴らすように力いっぱい叫んでいる。

嵐の前の静けさなんてものはなく、むしろ逆に不気味さと蝉の声がひたすら嵐の襲来に警鐘を鳴らしているようだ。

 

そして台風の襲来を知った京香さんがあわてて帰ってきた。幸いまだ雨は降り出していないらしい。

しかし、そう安心していられなかった。

 

窓に突然叩きつけられる雨で突然の大雨を知った俺は大慌てで家中の窓を閉める。

「紗霧、そっちは大丈夫か?」

万が一パソコンが雨に濡れてしまえばお陀仏だろう。

三人で協力して家中の窓を早急に閉める。

 

 

そういえばエルフ宅は大丈夫だろうか。あの家、窓の数は俺の家より多いし、あの日のように窓開けて全裸でピアノなんかしてようなら災難だぞ。窓を開けるだけで不快指数が上がるような日にそんなことはするはずはないと思うけど。

 

 

それから数時間も経過すると、雨風は共に強く、空き缶や木の枝のような道に落ちている小物は呆気なく飛ばされている。

それらが人を襲うこともあるだろう。そして時折歩いている人の中には傘に見切りをつけている人すらいる。

 

 

 

「和泉政宗!今すぐクリスタル・パレスに集合!」

それから夜になってから、隣の家からの招集命令が下される。ああ…なにかやってしまったのか…

俺は不安に駆り立てられ、役に立たない傘もささず大急ぎで向かった。

 

 

 

クリスタル・パレスの重厚な扉の鍵は空いていた。俺は吸い込まれるように侵入する。

 

暗っ!第一声はそれだった。

人がいるとは到底思えない明度。

窓は幸い閉まっていたが、全く違う不安が俺の脳を支配する。なんて言ったって電気が全くついていない。例えるならダンジョンだろう。おまけに外より少し冷えてる気がする。

雨風に晒された家の外壁が鳴り、ダンジョンはダンジョンでも特にサバイバルホラーなんかに出てくる廃洋館に思える。

 

そろそろおばけかなんか出てくるんじゃないか?

とりあえず家主を探そうと階段を上がる。

 

 

うわーーーーー!

 

登りきったその瞬間、擬似ダンジョンの奥から突然出てきた人間に俺は怯んで数段下がる。

 

「…あの。ほんとにお化け屋敷みたいなことやめてください」

「あら。結構楽しそうじゃない」

なんて、再び懐中電灯を顎に当てる。

「ほらーーー呪っちゃいますわよーー?」

なんでこんなにテンション高いんだろう…

「…んで、どうしたんだ?」

「どうしたって分からないの?停電よ、て・い・で・ん!」

「停電とか言っても俺の家はついてるぞ」

特に電気が切れるようなことはなかったよな。

「なにそれ!アンタの家ばかりずるいじゃない!」

「…いやお前なんかしただろ」

懐疑の目で事由を聞く。

「なにって、窓閉めて暑いから部屋の電気とクーラー全部つけただけよ!」

とか言って懐疑の目に対し「私は無罪だ」と主張する。

「思いっきりそれが原因じゃないかー!」

そんなことだろうなと思ってたよ!うん!

 

部屋を開けっ放しにして全部屋冷房いれるなんて、俺ん家より広い家で全館冷房なんて再現するようなもんだけどまあ当然こうなるだろう。

まあ要はブレーカーが落ちただけだろうし、さっと直し方をサーチして…

と事を進めようとしたそのとき。

 

「あっ」

懐中電灯が主の間の抜けた声を残し闇に溶けた。

 

「あはは…消えちゃった」

「ったく、しょうがないな…スマホの電気で…」

まあ懐中電灯の代理にはなるだろう。

「ちょっと待って!」

「せっかくだからこの状況を楽しみましょう!」

…ついに頭もおかしくなったのか。

「…は?」

素っ頓狂な声を素で出してしまった。

「は?って…この状況は神様がくれた二人の距離を縮めるチャンスなのよ!」

この前までの俺なら完全に開き直ってるけど原因はお前だ!なんて全力でつっこんでいたかもしれない。しかし、今の俺は違う。

悪くないな、と彼女のちょっとしたノリに付き合ってしまう。

俺も少し彼女の考え方に影響されてきたのか、はたまた彼女と楽しみたいという感情か。

 

 

「エルフは相変わらずだな…まあ怪我には気をつけろよ?」

そんなところも好きだけど。

「その時はマサムネが守ってね」

「…可能な限りな」

俺が例えば筋肉を全身に纏ったアスリートだとしたなら彼女を完全に守ることもできるであろう。

しかし俺は体ではなくペンで生業を立てる。あいにく本業のそれでは彼女を守ることは難しいだろう。でも、万が一そんなことがあれば身を呈して彼女を守ってやる。

 

 

なにはともあれちょっとした肝試しの始まり。分電盤を探してブレーカーを戻すだけではあるが。

 

真っ暗なので壁つたいに階段を降りる、そして後ろから俺の肩を借りてエルフがついてくる。階段を降りて左手に回って少し歩けば分電盤のある洗面所だ。

 

「あれっ」

階段を降りきった時、既に彼女の手は元あった場所になかった。

「おいエルフ…?」

俺は見えるはずもない彼女を探して右往左往する。頼りにならない視覚の代わりに触覚を活用するべく腕を伸ばす。

 

むにっ♡

 

 

その刹那時が止まった。ような気がした。条件反射で離してしまったが、瞬時にわずかな記憶を遡っては感触を再現し、脳内エルフで再現する。やはり間違いないな。

風雨が戸を鳴らして不気味な雰囲気の中、暗くてよく見えないけどきっと二人で見つめあってるんだろうな。

 

 

「…マサ…ムネ♡」

しかし聞こえたのは怒りとは逆に、明らかに俺を誘う声だった。

声から察するに、きっと俺の前には赤面した彼女が立っているんだ。

そして前から肩を掴んで近づいてきてとアピールをする。

一瞬は困惑した俺も、素直に彼女に身を委ねる。

いいんだよな…だって彼女だから。

徐々に彼女の息吹を肌で感じるようになってきた。

 

少し正宗より小さいエルフは背伸びをする。きっとよくあるカップルのキスシーンだろう。暗くて全容はつかめないけど、まさに二人だけのキスシーンと言えよう。

 

しかしその時。

外を照らした閃光によって一瞬お互いを認識した。

お互い、口付けを待つ甘い顔だった。

しかしその顔を強ばらせるヤツは遅れてやってきた。それは何の対策も防御もない二人の耳に痛恨の一撃を食らわせ、さらにその直後それにも劣らない彼女の悲鳴が再び俺の耳を突き刺した。

 

 

「ひいっ」

エルフはその場に耳を塞んでしゃがみこんでしまった。先までの威勢は何処へやら。

 

「怖いよ助けてマサムネ…」

彼女の肩はブルブル震えている。

「…さっさと電気をつけようぜ?」

「うん、そうすりゅ…」

肝試しは中止。震える彼女のために一刻も早く電気の復旧を進めるしかない。

スマホの灯りをつけ、リビングから椅子を持ち出し、分電盤のブレーカーを戻す。たった数分で終わるような作業ののちに電気は復旧した。

いつも通りの景色に明らかにいつも通りとは言えない彼女。電気がついた今も廊下の中心にしゃがみこんだままである。

 

「とりあえず今日はもう俺の家で過ごしな」

その一言が彼女を自身の意思で起き上がらせるには一番効果を発揮する言葉だろう。

 

「それならがんばる」

よっぽど不意の一撃が効いたのか、まだ声は震えている。まああれほど無防備だったところを襲われたんだし、無理はないか。

「おいエルフ、大丈夫か?」

「マサムネと一緒なら頑張れるわ。だからもうちょっと一緒にいて」

「今から俺の家に移動するぞ」

「わかったわ。でも、この手は離さないでね」

「俺はお前から離さない限り手を離さないからな」

「それなら安心だわ」

 

そして我が家に戻るべく再び電気を消し、扉を開けた。

 

「おい、エルフ。準備はいいか?」

「なんとかいけるわ」

この風だと間違いなく傘は役に立たない。隣の家なんだし、駆け込んでしまうのが一番だろう!

なんとか元気を取り戻したエルフとともに走り出す。

「施錠、完了!いくぞ!」

 

狂った風雨に身を投げ出した。距離にしておよそ二十メートルほどつっきり、そして俺らは我が家に駆け込んだ。

その間のわずか十秒程度でもずぶ濡れになってしまうほどの大雨だった。

 

「あら!二人ともびしょびしょじゃないですか!」

水たまりを踏み込んだのか、特に足首から下はびしょ濡れであった。

「このままでは二人とも風邪をひいてしまいます。晩御飯は私に任せて今すぐお風呂に入ってください」

当然断ることも出来ず、言われるがままに入浴する流れに。

 

 

「おーいエルフまだかー?」

俺は濡れた洋服から1枚のバスタオルに履き替え彼女の風呂を待つ。

「あなたも入ればいいじゃないー」

「今二人で入ったら家族会議もんだわ!」

「大丈夫よー」

いまここで一緒に入ったのが紗霧にでもバレたら…まあしばらくは口聞いてくれなさそうだ。

「まあ、超シスコンのあなたからしたら、妹の動向も気になっちゃうから仕方ないのかしらねえ。ええ。今日はあなたの妹愛に負けてあげるわ」

 

「兄妹二人の幸せを保証する」ことを遂行するには、自分自身の欲望を抑制しないと叶わないこともある、それを飲んでいる以上我慢しないといけないのよ。

でも、その分もマサムネにはいつか借りを帰してもらうんだから!

 

 

「おまたせー」

湯けむりに纏った彼女が現れた。

「…なによ、ジロジロ見つめて」

「いや、なんでもない」

と早々と風呂に進んでいった。

 

こうして平然を装っているが、風呂上がりで芳香漂う金髪美少女を前にして、正直欲望を解放するより平然を漂う方が難しい。

可能なら今すぐにでも抱きついてやりたいくらいだ。

 

「大変そうねえ、でもその気になるまで私、待ってるから」

彼女はそう言い残した。

 

「いつか…ね」

二人のより深い関係が、これまでの人間関係をこじらせることのなくなる日はいつになるだろう。

 

 

俺が風呂から上がると四セットの晩御飯が完成しており、腹を空かせた俺は夢中で食べ進めた。

 

そして、その後の俺は仕事の原稿を進め、二人が寝静まった時を見計らって依頼の小説を書き進める。

 

 

依頼の小説、すなわち俺とめぐみの小説はまだ展開は決まってないが、序盤は実際に起きたことをモチーフにして描写するつもりだ。

 

最初は紗霧を強引にでも(本人は良心でやっているとはいえ)部屋から引きずり出そうとする、紗霧にとっての難敵だった。

いざ家に上がらせ聞いてみれば「学校はインターネットよりも楽しいですよ」と理由をつけ、「インターネットを解約しろ」などとんでもない発言をした。

さすがの俺もこの意見は大反対。

しかし、その方法は絶対却下ではあるが俺も紗霧の引きこもりそのものは改善しなければと思っていたのでできる限りは協力したいとは思っていた。

そして彼女は少しずつやり方を改善し、「お互いの好みを作ってまずは歩み寄る」作戦に移行した。

そうしてなんとか紗霧とめぐみは打ち解けることが出来た。

 

こうして振り返ってみると、紗霧が今みたいに一部の人限定とはいえ心を開けるようになったのはめぐみのおかげなんだなあ。

スーパー委員長などと自慢してたけど、あの状況を打開するのはたしかにその名に恥じない行動力とコミュ力だと思う。

…たまにとんでもない発言が飛んでくるがな。

 

そんな彼女のラブノベル、かー。

 

俺が色々考えながら執筆を始めるが、その瞬間にまた一段と雨風が強くなってきた。

 

「うーん、停電でデータが消えても嫌だし、今日は上がるか…」

 

俺が布団に入るとより雨風の音が聞こえる。

明日、何事も無かったらいいけど。

 

 

翌日。

 

久しぶりに覗いた太陽が眩しい。自然の光で照らされた俺…と?

ちょっとまて。

 

今眼前に繰り広げられている状態と昨晩の矛盾を必死に検証する。

俺は昨晩執筆をして一人で寝たはずだ。

間違いなく一人だった。停電によるデータ損失を恐れて眠ったんだ。

 

しかし…

 

しかしなんでお前がそこにいるんだ…山田エルフっー!!

寝ぼけた目を擦り擦ってもそこにいる。

気がついたら俺と同衾していたんだ。

しかも律儀に俺の方を向いてえっー!

まだ朝六時前なので未だに眠っている。

俺の理性は驚きで抑え込まれてる…とはいえ。

万が一ハメを外したら襲いかねない、そんな寝顔だ。ハッキリって天使だよもう!

 

 

「おはようマサムネ」

さあ天使のお目覚めだ。

「おはようエルフ」

私がここにいるのは当然と言わんばかりのエルフ。

「どう?私との同衾は」

「正直最高でした…じゃなくてなんでお前がここにいるんだよ」

「えへへ、サプライズよ!」

 

昨晩の出来事を思い出すと理由が自然に繋がった。

あくまで推察でしかないが、犯人は恐らく昨日の夜と同じだろう。

わかるよ。暗いとより雷光が目立つもんな。

 

「さて朝ごはんにしましよう!」

エルフは意気揚々と部屋を飛び出した。

 

俺も少し遅れて部屋を、そのまま家も出て二つの家の様子を見る。

(やべ…門の鍵を閉め忘れてたよ…)

しかしこの雨風の中、外に出ようとする人もいなかっただろう。彼女の庭を荒らしたのは雨風だけだった。

 

俺は箒とちりとりを携え落ち葉を一箇所にまとめる。集まるのは強風に耐えられなかった蒼々とした葉っぱばかりだし、一応日頃から掃除はなされているようだな。

ひと拭いする程度の汗をかいて家に戻る。そろそろ朝ごはんができる頃だろう。

 

「ありがと、マサムネ!」

「おつかれ、兄さん」

「お疲れ様です、正宗さん」

三人で俺のことを出迎えてくれた。

台風一過の快晴。今日は歴史的に気持ちがいい朝だな。

そんな日は仕事原稿も捗りそうだ。

 

台風一過の太陽が見つめる空の元、俺は溜まった原稿に集中した。

 

 

 

昼夜を問わず原稿をひたすらに進める。そんな日がおよそ十日ほど続いた。

 

「終わったあ」

ターンっとかっこよく送信キーを押しそのままひと伸び。

 

八月の入りにかけて様々な仕事が舞い込んで来た。三人の手助けを借りても、それでもてんてこ舞いな日々だった。

しかし、ようやくそれに一旦終止符を打つことができたのだ。

さて。仕事のことは一旦忘れ、例の課題にとりつこうか。

一応展開の骨組みは完成している。しかし、執筆できる時間そのものが短いので日数はどうしてもかかってしまうだろう。

まあとりあえずお昼くらいは世間一般的な高校生のようにのんびりしよう。そうしよう。

 

そして、その翌日の昼。

 

「お仕事完遂おめでとう!マサムネ!」

と、俺の部屋のドアを蹴破る勢いでエルフが祝福してくれた。

「これで時間を気にすることなくいちゃいちゃできるわね!」

と俺に猛烈なハグをしてきた。嬉しいけど、この光景を紗霧がみたら嫉妬するんだろうな。

 

 

そういえば俺の家にずっといるような気がするけど、エルフ自身のお仕事は大丈夫なのかな。

ありがたい話なんだけど、俺のヘルプ全てを引き受けてくれただけに、仕事の足を引っ張っていないか不安になる。

「まだ大丈夫よ!締め切りはしばらく先だし!」

えっへんと腰に手を携えてはいる。しかしまだ不安だ。

「そんな怪訝な目つきをしないで頂戴。今回は本当よ!」

と言い、自身の携帯のメモ欄もといTo Doリストを見せつけてきた。

確かに締め切りは先だ。

「ね!わかったでしょ!」

 

仕事がなさすぎて不安になるほどだが、きっといわゆる「やる気マックスファイヤー」の時に終わらせてしまったんだろうな。

彼女はやる気を出すととんでもない効率で作品を産み出す。

そのやる気を出すまでが大変なんだが。

まあ、常に全開を発揮できたら例えるなら異世界モノで「チートすぎてつまらない」となってしまうように、逆に全てを投げ出してしまうかもしれない。特に逆境を好む彼女にとっては。

 

「時間は与えられるものではなくて作るもの。私も、あなたも努力して仕事を早く終わらせて作り出した時間。その時間をどのように使おうと私たちの勝手なんだから!さあ!マサムネ!私の手をとって!」

と俺はすぐにクリスタル・パレスに連れられた。しかしそこには本当に様々なものがある。本棚いっぱいのラノベ漫画類はもちろんのこと、ゲームカセットやCDも所狭しと並べられ、場所を淘汰され追い詰められた弱者のごとく参考書等々がひっそりとある。確かにここなら時間を無限に潰せそうだ。

 

 

ここからしばらくは昼間はエルフや紗霧と時間を過ごし、夜は執筆という日々が始まる。

二人に隠し事をしていることが少しうしろめたいけど…

 

カタカタと止んだはずのキーを叩く音が響く夜。

その音が二人の眠る隣室にまで響くようなことはないだろう。

 

俺もそう思っていた。まさかバレることはないだろう。

 

 

 

 

 

「ねえ、最近夜中になんか執筆してるけど、何書いてるの?」

 

ねえ、バレるの早すぎませんか?まだ執筆開始してほんの数日だと思うんですけど。

なんでわかったんだと疑問を投げつける前に、彼女は語りだした。

 

「私があなたが寝た頃かなーって思う時間頃に行ってもいつも机の明かりは点いているんだもの。それにあのタイピングの早さは間違いなくサーチではなく執筆」

 

深夜、部屋を訪れる度に終わったはずの執筆に没頭する正宗。

またあの編集長に仕事を増やされたのかとでも思ったけど、それはわざわざ深夜に執筆を行う理由にはならない。

趣味の小説だって同じように毎晩深夜に執筆を進める理由には繋がらないし、その事実だけで隠し事をしていると察するには充分すぎる材料だ。

 

「まったく…せっかくお仕事を終えたというのに、自ら仕事を増やすなんて正直執筆バカもそこまで極まれば怖いレベルだわ」

 

執筆バカと言われ返す言葉が見つからない。

確かに仕事の執筆と遊びの執筆は違うけど、普通の人間ならここまで仕事をこなせばしばらくは執筆から離れたくなると思う。

 

「どうしても書き留めたい傑作なアイデアでも浮かんだの?」

仕事を終え、ハグまでされて祝福された俺。

そんな俺が夜な夜な隠してまで仕事をしていた。流石にエルフには悪い。

ここは隠さずに話そう。話すべきだ。

 

「俺はめぐみに頼まれ、俺とめぐみの架空の恋愛小説を書いてたんだ」

 

あくまでも架空と押す。ここで俺は何を言われようと耐える決心はできていたかと言われれば出来ていない。

 

 

「ふーん、マサムネと彼女の恋愛小説ねえ」

深く腕組みをして続けた。

 

「確かにそれは隠す理由もわかるわね。現実の自分と小説上にプロットされた自分のアバターとで恋人が一致しないとなれば確かによく思わない人も出ても仕方ない」

 

情報復唱とその感想を少し。

そして、自慢の金髪をさらっとたくし上げ出した答えは罵倒でも意見でもなかった。

 

「でも面白そうね。完成したらぜひ読ませて」

 

「えっ」

薄笑いを浮かべ読ませてほしいと言うエルフ。

 

正直俺にとっては意外な意見だった。

エルフの言った通り、自分の恋人が、自分以外の恋人とお付き合いする話なんて普通の人なら拒否反応を起こしてしまうだろう。

 

「なぜかって、私はマサムネもマサムネの書く小説も好きよ。それに、あなたの描くひとつの恋愛観も伺い知ることもできる機会じゃない」

 

まあ確かに、俺の書く小説はあくまでも「妹との恋愛」だからな。

俺は今までに普通の恋愛小説を書いたことがない。はじめての赤の他人との恋愛小説となれば、少しは俺の恋愛観をさらに伺うことができるだろう。

 

「ようしわかった!待ってろエルフ!」

 

俺も心の雲が晴れた気がするよ。

 

「あなたのことをさらに知るチャンスよ。見逃すわけにはいかないわ!」

 

その晩。俺は執筆を進めるか否か悩んだ。作品として期待されているので早々に片付けたいという感情もある。

しかし、せっかくの休みに深夜まで執筆をしているのも確かに「なんのために頑張って休みを作ったんだ」と咎められても無理はない。

 

「今日くらいは早めに寝るかあ」

パソコンをぱたんと閉じた。小説はもうエルフには隠す必要ないし、深夜に執筆を進めることも必要もなくなったんだから。

 

「おやすみ、世界」

なんてね。

 

正宗が眠りについた数十分後。

今日も彼女は現れた。

「安らかに眠っちゃってる。何をされても起きないんじゃないかしら」

目の前に眠る愛し人。彼を今ならひとりじめできる。そう思うだけで頰が紅くなってしまう。

 

「そうはさせない」

 

誰!?

 

 

…まあ暗闇をまとっていて少し見えないにしても今の声の主を特定するくらい、今の私には容易いこと——。

 

「紗霧も起きていたのね」

 

「最近エルフちゃんが夜な夜な兄さんの部屋に行っては戻ってを繰り返してたから怪しいと思ってた」

 

「ふふふ、そうね。でも、私が毎晩、マサムネの部屋に出向いている事実に気づけるあなたも実は私と同じことを企んでいたんじゃない?」

 

「ぐっ。否定はできない」

 

「でもまあこんなところで無駄に競い合っても仕方ないし、今日は二人で同衾しましょうよ」

 

その翌日。

 

「…俺はまだ夢を見ているのか」

夢から醒めた夢なんてよくある話だ。きっとそれなんだろう。そうなんだ。

ああ…天使二人が俺に優しい寝息を奏でている。

天国の入口で天使二人がハーブを奏でている絵をたまに見かけるが、まさにそれ。

そうか!俺はもう死んでいるんだ!ここは天国だ!

 

 

 

しかし、天道に登りかけてた俺はすぐに人間道に連れ戻されることになる。

「紗霧さん?エルフさん?」

開かずの間の方から声が聞こえる。

やばい。部屋にいない二人を探しに自ずとここに来るぞ!

さあどうするさあどうする。

とりあえずまずは起こそう!三人で同衾なんて真似が京香さんにバレた…

 

「紗霧さ…」

突貫してきた京香さんを前に、俺は為す術もなく固まることしかできなかった。

 

 

「正宗さん?これはどういうことが説明してくださる」

気がつけば俺はリビングで京香さんと二人向き合って座っている。

当然話題は今朝の同衾事案だ。ほんとにあれは夢だったんじゃないの?

 

「あれはどういうつもりだったのですか?」

「いや本当ですって、俺が起きたら二人が俺を挟んでいて」

「あなたからベットに誘って不純異性交遊を持ちかけたんじゃないですか?」

「し・て・ま・せ・ん!」

恋人と妹を同時にベットに誘うってどんな精神を持ってるんだよ!

まあ二人が潜り込んでるのに気づかない俺も俺だがな。

 

「おはよう…マサムネ…?」

今回の事案の第一人者と思しき人二名がリビングに降りてきた。

「二人でなにやってるの?」

「元はと言えばお前らが元凶だろー!」

朝から声のトーンをあげすぎた。

頼む、頼むから真実を言ってくれ。

「…まあそうね、恋人同士、ベットを共にするのは当然の話だと思うの。私はそう思ったからマサムネの部屋に行ったんじゃない!そしたらエロマンガ先生も一緒に入りたいって言うから入ったのよ!」

「そんな恥ずかしい名前の人はしらないっ」

…まあとりあえずはなんとかなってくれそうだ。

「なるほど。疑ってすみません、正宗さん」

「疑いが晴れてよかったです」

 

…ここで終われば良かったけど。

 

「…ならもう四人一緒に同じ部屋で寝ればいいじゃない。京香ちゃんも本当は寝たいんでしょ?マサムネと」

…えっ。なにを言いだすんだこの小悪魔。

 

「えっ、い、いやべべっべっ別に私が正宗さんと寝たいとは」

ちょっと前までは氷帝などと言いくるめられていた彼女が一瞬で熱くなってしまった。効果は抜群だ。

 

「ねえねえ、ちょっと羨ましがったんでしょ」

「ぐっ…」

この小悪魔天使め…

「ほら、京香さんの口から言いなさいよ、マサムネと一緒に寝たいって!」

 

ああああああああああああああこれ以上は見てる俺の方が恥ずかしい。

とりあえずこの場を…

「正宗さん!」

去れなかった。

「いや別に私はあなたと一緒に寝たくて寝たいんじゃなくて、健全的睡眠を確保するべく仕方なく…」

はわわはわわと腕をぶん回しながら説明する京香さん。

もう見てられないよ。

「…はい。四人でリビングで寝ましょう」

意見に賛成、というよりかは降参の声だ。

 

こうしてしばらくは四人はリビングで寝ることになった。こうなってしまうと仕事を夜の間にこっそり進めることが出来なくなったのだ。まあエルフには小説を書いてることを打ち明けてるから昼に書くこともできるけど…

それに、京香さんがいればエルフや紗霧が夜這いをしてくることもなくなる…

 

「どう?家族と一緒の部屋で寝ている中、私と同衾する気分は?」

京香さんがいようが彼女にとっては関係ないのだ。

「お前、ほんとブレねーよな」

「それに今日は特別なのよ」

なんて言うと、自慢げにパジャマ類の全てを布団の外に投げ出しはじめた。

 

「…今晩は寝かせないわよ、マ、サ、ム、ネっ♡」

と言い最後にパンツを投げ出した。

 

おい…待てや、パジャマ類全てを投げ捨てたってことは…今エルフは…

 

これが、これが「夜這い」と呼ばれるものなのか。

脳髄を沸騰させなんとか分析するも、「夜這い」という答えは変わらない。

 

「なーーんてねっ!今投げたのはダミーよっ!あなたにはまだ私の"本気"を知るのはまだ早いわっ!」

ああよかったよ助かったよ!万が一、二人にバレてたらお前の命どころか俺の命すら保証できんからからな!

 

結局京香さんの掲げた「健全的睡眠」の達成は叶わなかった。結局その達成にはその元凶エルフを元の家に戻す他対策のしようはないだろうな。

 

 

 

 

それから二週間ほどこんな夜が続き、ついにめぐみと俺の小説が完成した。

とりあえず読んでもらうのはめぐみの他に智恵、エルフの二名。人数が少ないので三枚刷って渡してしまうつもりだ。

智恵は高砂書店に行けばすぐに会えるだろう。

 

まあとりあえず一番は第一人者にわたそうか。

 

「はいもしもし、めぐみんでーす!」

相変わらず元気な声だ。

「小説完成したから渡したいんだけど、今から大丈夫か?」

「本当ですか?私ずっと待ってました!楽しみにしてます!場所はこの前と同じ場所で!今からダッシュで用意しますので!」

「俺も今から向かうから、事故とかには気をつけるんだぞ」

「はーい!」

約束は簡単に取り付けられたので、当事者のめぐみんに読んでもらうべく俺は前のファミレスへ向かう。

 

 

「待ってました!ありがとうございます!」

「挿絵までは流石に用意出来なかったよ…紗霧にはちょっと明かしずらくてね…」

「分かってます!こんなこと書かせたなんて知れたら次会う目がありませんから」

実際にパンツ脱がしという被害に遭ってるからな。

「それは否定できない…」

「それでは家に帰ってゆっくり読ませてもらいます!」

持ち前のクリアファイルにしまい込む。

受け取ってくれる人が喜んでくれた、それだけで小説の書きがいがあるってものよ。

 

 

「そういえばお兄さんの高校にも文化祭ってあるんですよね?」

小説ばかりで高校のことはあまり把握出来ていないが、あるのは確かだ。

「あぁ…そのはずだが」

「そのはずだが…って、なんでそんな曖昧なんですか!文化祭っていうのは高校のイベントでクラスみんなで協力して成功させ、仲を深める一大イベントじゃないですか!」

 

悪いな。我々文字書きにとっては文化祭というのは「学園ものの小説にとって展開を進める一大イベント」という認識なんだ。

でも、今回渡した小説は文化祭がひとつのメインなので今は全くの不勉強という訳でもない。

まあいずれにせよ、リアルの文化祭情報はまだ仕入れていない。

「確かにそうだけど、何をするかまだ決めてすらいないのは本当だぞ」

「本当に話題にすら上がってないんですか?」

「ああ。女の子同士の会話ならそれが話題になってることはあると思うけど」

しかし、クラスメイトとあまりプライベートな関わりがないので文化祭の話題もその分あがらない。クラスメイト唯一とも言えるプライベートな関わりを持つ智恵も話す内容はだいたいラノベのことだし…

「ふーん。それで文化祭はいつなんですか?」

「確か第三金曜及び土曜日だったかな」

「本当に曖昧なんですね…」

カレンダーを用いて改めて日を示す。

「九月二十一日と二十二日だ」

「楽しみに待ってます!」

「いやちょっと待て、その日なら好きな時間に行けばいつでも会える訳じゃないぞ?」

「分かってます!シフト分かったら改めて集合時間と場所を決めましょ!」

…確かにめぐみと一緒なら文化祭も楽しめそうだな。絶対俺より詳しいし。

「約束ってことで!今日はありがとうございました!」

「おう、めぐみも気をつけてな!」

 

 

続いて智恵に渡しに高砂書店に向かう。

 

「ありがとう!ムネくんのどこにも出版されていないオリジナル小説、大切にするよ!」

よかった今日は俺を捕縛し捕食しようと企む野獣はいない。

「ところでうちの文化祭のこと聞いていいか?」

「へえ、ムネくんが文化祭を気にするなんて…クラスメイトに好きな娘でもできた?」

「残念ながらそうじゃなくて、友人にその事を聞かれて『うちはどうなってるんだろう』と気になっただけだ」

釣れないわねーと腕を組む智恵。

「実は何をやろうって候補はいくつか上がってるんだよねー」

俺の知らない間に進行してたらしい。

「で、その第一候補は」

「フィーリングカップル」

「それって確か…」

「うん!男女でペア組んで色々やるやつ!」

絶対あかんやつやんけそれ…

俺のクラスでそれをしようものならめぐみもエルフも黙ってはいないだろうなあ…

 

「文化祭じゃお化け屋敷やタピオカジュースのお店に並んで定番で競合するクラスが多いのが難点なのよねー。ボクの高校は学年贔屓なしに「企画書」のみの書類選考だからいいけど。それでも大抵気合いの入った上位学年がかっさらって行っちゃうのが現状かなあ。あーあどこかに「企画書」書く人が得意な人、いないかなあ!」

そんなやついたら俺も頼りにしたいわ!

「ね?素晴らしい発想力で素晴らしいラノベを世に送り出す素晴らしいムネくんならほかのクラスの追随を一切許さない、素晴らしいぶっとんだアイデアを考えてくれるよね!」

やけに「素晴らしい」で押してくるな。

 

「残念ながら恋愛経験皆無なのでそれは無理です」

「そこをなんとか!!」

「いや、本当にそういうことに関してはクラスのほかの女の子の方が詳しいと思う。これは断言出来る」

「むーームネくんでも難しいかあ」

まあそういうの考えるの得意そうなヤツが一人心当たりあるんだけど。

「まあ企画書は俺が出すよ。ここまでクラス貢献出来てないのも悪いしね」

「やったー!企画書のプロが書いてくれる!これで優勝間違いなし!」

「いや俺企画書書くの苦手なんだけど」

書くのが嫌で本文ママで編集部に持ち込むからな。

「でも流石にド素人よりは書けるでしょ?」

「…保証はできないけど。でも俺がライトノベル作家であることはなんとか隠してくれよ?」

「分かってるって!私ずてに書けば問題ないでしょ?」

「なんなら俺の家に持ち帰ってもいいか?」

「いいけど…」

「余裕あったらほかの作家に相談してみるわ」

作家同士の関わりをまさかこんな所で使うなんて。

「なるほど、それは心強い!」

「なにか進展あったらまた呼んでくれ」

「うん!頼りにしてるよ!」

 

ひとつの約束をまた取り付け、最後の一冊をエルフに渡すべくクリスタル・パレスへ向かった。

 

 

「マサムネの純愛ラノベ楽しみに待ってたのよ

!ゆっくり読ませてもらうわ」

嬉しそうに持ち上げる。

「ところで文化祭について相談したいんだけど」

俺の中でのフィーリングカップル第一人者、山田エルフ大先生に相談を持ちかける。

「文化祭同行のお誘い??それならもう少しロマンチックになさい!」

「うーんもうちょっと内情的な感じかな。内容について相談があってね」

「ふーん。まあ聞いてあげてもいいわ」

間違いない。今回の案件で一番頼りになるのはエルフだ。

「うちの文化祭、フィーリングカップルをやる可能性が高くてね」

それを言った途端、上品に飲んでいたはずの紅茶を下品に吹きかけるエルフ。

「マサムネのクラスでフィーリングカップルってなんのネタなの?」

「いや本当だって!!」

「…それで私に相談しに来たわけね」

「頼むから高校の範疇を超えないでくれよ?」

「えーーそういうのはエロマンガ先生の方が詳しそうだけど」

いや紗霧にそれを任せるとフィーリングカップルじゃなくて本当に変態の集まりになっちゃうから。

「高校の範疇って言われても私高校行ってないからわからないわ。もう少しどこまでいいのか具体的に教えて」

うーん、それは確かに俺も分からないや。

「そうね、定番なところだと膝枕とか耳かきとかでしょうね。あとは前後から抱いてみたり、ラップ越しにチューしてみたり…」

なるほど。

「でもさ、そこまでやるならいっそ生キスさせたらどうよ!」きっと盛り上がるわ!」

「相手が彼女持ちだったらどうするんだよ!」

「そんなの彼女持ちが出るのが悪いんじゃない。そもそもキスなんて普通でしょ?」

やっぱり常識の範疇も広かった。

「確かに盛り上がるだろうけど、そこまでやりすぎると女性陣が集まらなさそうじゃないか?」

「そう?女子高校生なんて所詮性欲の塊…」

こいつ女子高生に滅多刺しにされるぞ。

「いやいやいやいや、人前だとまた話は別だろ!」

「むーん残念」

生徒会の検閲にかからない内容じゃないと意味が無い。

例えば、それが高校生に相応しくない行為だとしたらまあ即一蹴されるだろうな。たとえそれがどんなに有力な企画書だったとしても。

「せめてラップキスくらいまでにしとけ」

「文化祭なんだからもう少しはっちゃけてもいいと思うけどねえ」

「せめて企画書に書けるものにしてくれ!」

「そんなものいくらでも誤魔化せるでしょ?」

いや怖い!発想が怖い!

…前言撤回。こいつはフィーリングカップル第一人者じゃなくて「フィーリングカップルを用いてやらしいことを企む第一人者」だわ。。

「名案が浮かんだらまた教えてあげるわ!」

「迷案はやめてくれよ?」

 

 

まあなんだかんだ二人もそれぞれの喜ぶ顔が見れてよかったよ。もちろん、紗霧には秘密って約束でね。

 

 

 

しかしその翌日。

「…兄さん、私に隠してることない?」

 

…はい。バレました。

「ご、ごめんよ紗霧、これはめぐみに頼まれたからやったことで…」

できる限りの言い訳の御託を並べる。言い訳といっても「頼まれたこと」くらいしか言えないけど。

「むー」と紗霧。

「本当にごめん!」

俺は手を閉じて最大限詫びる。それを紗霧は見下ろすように椅子に座っている。

「仕事が終わっても執筆してるから何を書いてるかなーって気になってたけどそういう事だったんだ。へー」

 

…どうやら俺が夜な夜な執筆していることは筒抜けだったらしい。まあエルフの夜這未遂が原因だろうからどうしてかは咎めない。

 

「…その小説、もう完成してるんでしょ。私にも読ませて」

 

「は、はい!!」

 

俺はあわてて印刷をしてそれを紗霧に見せた。

紗霧がそれを読んでいる間、部屋で正座待機をしているが…とにかく怖すぎる。本当は今すぐにでもこの場を去りたいが、去った日には後ろから出刃包丁で後ろから刺されるかもしれない。

 

そして沈黙の口は遂に開いた。

 

 

「…兄さんってこんな小説もかけるんだ。兄さんがこれまで学校を舞台にした小説を書いたことなかったでしょ」

 

…どうやら小説に対して否定的な感情はないらしい。助かったのか、俺。

 

「まあ、書いてはいないけど読んではいるからな。一応、学園ラブコメの定番のような展開だし」

 

俺の恋愛経験は恋愛ラノベ頼りになってしまっているが、それなりのレパートリーはあると思う。

 

「あらっ、結局エロマンガ先生も読んだのね」

「そんな名前の人、知らない!」

紗霧が話しているところに突然の刺客が窓から現れた。

 

「だからそこは玄関じゃないっての!」

俺の注意に耳を傾ける素振りすらなしに当然のように窓から入ってくる。

 

「まったく…ケガだけはするなよ」

「その時は救護よろしくね!」

「俺がその場にいればな」

「ところでフィーリングカップルのことなんだけど」

「え、兄さんのクラスでフィーリングカップルやるの?」

あーあ。エロマンガ先生に知れちゃったよ。

「フィーリングカップルってあれでしょ、女の子が男の子にに色々とえっちなことをやる…」

「えっちなことはやんねえよ?」

やっぱり勘違いしてやがる!そんな不健全な文化祭あってたまるか!

「えーざんねん」

 

「まあせっかくだし、私の脳裏に浮かんだアイデアを聞きなさい!」

まあ全く期待してないけどな。

 

 

「足を舐めるってどう?」

却下!!!ド却下!!!どこの中世だよ!!!

「壁ドンして告白!」

あらそれはなかなかいい案じゃないか。

「靴下やパンツを捧げる!」

衣服を脱がせるのはやめてくれ!!

 

この後もいくつもの案が浮かんだが、結局採用されそうなのはほとんどなかった。

 

 

 

 

(兄さんは鈍感だから気がついてないと思うけど、小説を書かせることで自然とめぐみちゃんのことを考える機会も増えるだろうし、彼女なりのアピールなんだろうなあ)

 

 

(ついにめぐみちゃんが動き出したわね…まあ誰が来ようとマサムネは私のモノなんだけどね。それにしてもあのマサムネオタクのムラマサちゃんは何をやってるのかしら。そろそろ行動を起こしてもおかしくないというのに)

 

こうして、正宗争奪戦にスーパー委員長神野めぐみが加わったのだ。

5章に続く。

 

 

 

 

 




第4.5章に「今回正宗が書いた小説の内容」という設定でEXとしていつか投稿予定です。
簡単に言うと神野めぐみifルートになります。
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