世界で一番かわいいヒロインは、この私、山田エルフなんだから!   作:冬希

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遊園地デートを成功させ付き合うことになった正宗とエルフ。
紗霧と神楽坂さんによる試練を超えなんとか現状の生活を保つことが出来た。
花火大会の直後。めぐみに正宗はめぐみとの純愛小説を依頼された。
それを遂行し、数人に渡した俺はそれぞれに文化祭のお話をした。文化祭、もうそんなに近づいてるんだなあ。

そんな中、夏休みも残り十日くらいとなり再び締め切りに追われるエルフ。
しかし、彼女いわく「スランプに落ちた」といい、仕事が出来ないらしい。
そこで正宗が投じた打開の一手。それはエルフをどのように導くことになるのだろうか。


第五章 「スランプから始まる同棲生活」

第五章 「スランプから始まる同棲生活」

 

 

 

「ここがエルフ王女のおられる城か」

貴族のような金と赤の派手な衣装を纏った王子正宗は馬を操り招待された城へとやって来た。

 

しかし、広いお城に警護の人間はおらず。

ましてや扉も開けっ放し。

「すげえ無防備だけどここでいいのか?」

これは罠なんじゃないか。俺を誘い込む罠なんじゃないか。そんなはずはないのだが、敵軍が俺の行動を予想していたのなら有り得る話ではある。念の為馬を降り臨戦態勢を整え中に踏み込む。

しかし、奥に進んでも敵味方関係なしに、人がいない。

記載された部屋を目指して慎重に進んでいく。廊下の最奥部。これまでで最も広く、煌びやかな部屋が見えた。

 

「王子!」

「王女!」

 

白銀を纏ったドレスに身を包んだエルフ王女とマサムネ王子は空いた豪華な扉を挟んで対峙した。

 

「王子。我が居城なるクリスタル・パレスへようこそ。今私たちは時間も、ゲームもなんでもあるわ!さあいちゃつきましょう!」

言動はとても王女とはかけ離れたものではあるが、周りの景色との調和は取れているためまさに王女そのものに見える。間違いなくこの世界ではエルフ王女だ。

 

「王子!耳かきをしてあげますわ!私の膝に横になりなさい!」

かなり現代っ子な王女であるが、もうこの際関係ない。

 

「さあ見なさい王子!我が居城から眺める雄大な景色を!」

森と青い空が地平線の奥まで広がっているだけではあるが、 確かに雄大だ。

 

「おい!あれはなんだ!」

王子——正宗が振り返った先。ある一線以降は暗黒の闇。空と森の境界線もそこから先はひとつの闇に繋がっている。

さらに、それが景色を飲み込みながらじわりじわりとこちらの城に近づいてきている。

 

「クソっ!逃げるわよ!」

とても王女とは似つかない吐き文句と共に王子を引っ張る。

そのまま流れるように馬に飛び乗り

「さあ、走りなさい!」

と手綱を思いっきり引き馬を走らせる。ここまでまるで王女とは思えない、鍛錬された流れ作業だ。

「逃げるたってどこに?」

正宗も負けじと馬を操り木々をかいくぐる。

「分からないわ!遠くの果て、逃げて逃げて逃げまくるのよ!」

その闇は居城をも飲み込み闇に葬る。

闇はさらに加速していく。

「クソっ逃げられないかっ」

 

闇の奥から手が伸びてくる。それは焦る王女を完璧に捉え…

「マサムネー!!!」

「王女ー!!!」

 

 

「!?」

闇に飲まれる既のところで現実世界に引き戻された。

「…どうやらいつの間に寝込んでいたらしいわ」

昨晩は新作ゲームの攻略で夜を明かしていた。その影響もあってかそのゲームに少し影響された夢だった。

 

「…全く。なんなのよ、いいところだったのに」

迫る闇…エルフにはひとつ心当たりがあった。

少し前、自信満々に正宗に見せつけたもの、今はは目を伏せておきたい事実だ。

 

 

「エルフ、あいつ締切大丈夫なのか?」

ひょんな事で彼女の締切を知った俺は今彼女と全く同じことを気にしていた。

もっとも、当時はゆっくりこなしてもお釣りが出る程度には余裕があったはずなのだ。

しかし、その後も一行に仕事をしている様子がない。

確かにあいつは締切ギリギリになるまでやらない。しかし、追い詰められた時のアイツの作業能率はわかりやすく言えばチート級だ

しかし、それでも不安になるものはなる。

もちろん遅れるとは思っていない。思いたくない。夏休み終盤になっても延々と宿題をやらない子供の親の悩みをたまにテレビで聞くけど、きっもこういう気持ちなのだろう。

 

「きゃーーっ!」

一般的なお母さんについて考えていた俺は突然の悲鳴に飛んで開かずの間に押し入った。

押し入ったその先には見覚えのある矢が数本。

さらにそれに続かんとばかりに本人まで飛び込んできた。

「エルフー!紗霧が怖がってるだろ!」

紗霧は腕を付き腰を引いている。

「ごめんなさい、でもマサムネの家に入るにはこれしかなくて」

「いや玄関使えよ」

「玄関は今封鎖されているわ」

ほら見ろどうしようもないだろと目が語っている。

「封鎖?」

しかし、理由はまもなく自然な形で判明した。

俺は呼び鈴の主の元へ行く。

 

「和泉先生」

俺を見下ろす金髪——山田クリスさんだ。

俺を圧倒する立ち姿の元、俺は背筋を震わせている。

 

「妹が来てないかね」

「妹がお世話になっております」の一言すら言わせぬ威圧感で回答を求められる。ここでは嘘つこうがつかまないが彼の餌食になってしまうんじゃないか。

「はい、二階にいます」

頭を下げているので彼の表情の変化はわからない。怒りで我を忘れて襲ってくるかもしれない。当然、内心はガクガクだ。

 

 

「うちの妹が迷惑をかけて本当に申し訳ない!」

瞬て彼の長身が一瞬で俺よりも縮こまってしまい、玄関先で二人で頭を下げている不思議な風景が出来上がってしまった。

 

 

 

俺はクリスさんにお茶を入れた。話題は当然彼の妹のことである。

「エルフはやる気を出しさえくれれば最強なんですが、やる気を出すまでが大変なんですよね」

当然そんなことは十も百も承知だろう。でもそこが彼女らしさであり、作家としてのひとつの明暗だ。

 

「だからといってそれは仕事をサボって良い理由にはなりません。やる気があろうがなかろうが、締切までには提出する。それが作者としての前提です」

 

仕事…か。

彼女と出会った時こう言っていたな。

「私は遊びでやってるのよ!だからこそ本気になるの!」

って。彼女にとって締切というのは期限ではなく、どちらかと言うと節目のようなものなのかもしれない。

「この日をすぎると上がうるさくなるから出来れば書き上げたいー」みたいな。

 

「山田エルフ先生はおそらく締切というものを軽視しているのでしょう」

正しくその通りだ。

 

 

「私は強硬手段に出ることもありました。締切が近づきなんとか間に合わせるために強制的にカンヅメにしたりと。しかしながら悪い風習は治る気配がありません。仕事は仕事、遊びは遊び。ケジメをつけてほしいものです」

 

いや、それは違う。ケジメがあるからこそ彼女は傑作を世に送れるんだ。

自分が持てる最大の力以上の力を発揮出来る時しか執筆をしない。それは「少しでも良い作品を世に送り出したい」という強い願望とやる気がないと出来ないことだろう。

「執筆をしたくない」のではなく、彼女の明確な基準を満たさない限り「執筆をしない」なのだ。

 

「ケジメが全くない訳ではありません。その証拠に彼女は執筆を遊びだと言っていました」

「遊び…か」

「そして、遊びだからこそ本気を出す。それが彼女のポリシーなんです」

彼もそこには薄々感じていたのか、呆れや怒りに関する感情は感じられなかった。

もちろん、それが締切を破っていい口実にはならない。

「本気だからこそ、やる気になるまでやらないのです。だから締切を守らせるのではなく如何に彼女にやる気を出させるかを考えるべきだと思います」

 

ここでふたりは黙り込んでしまった。

自分の欲望を自分で叶えてきた彼女をどのように奮起させるか。

 

 

 

山田クリスさんは早い段階で家を出てしまい、エルフと生活した時間はそこまで長くないと南の島で聞かされた。

だから一緒に住んでいたのがどの程度の期間だったのか、家内での絡みがどの程度あったのかはわからない。

しかし、クリスさんが彼女にどれほど多大な影響を与えていたとしても、今一番彼女を動かすことのできる者は自分であるべきなんだ。

 

「俺がなんとかしてみせます。エルフの彼氏として、ライバルとして」

なにか閃いたわけでもない。ただ未来の俺に仕事をぶん投げただけに過ぎない。

でも、未来の俺ならやってくれるさ。

 

「…はい。わかりました。全て和泉先生にお任せします。しかし、山田エルフ先生にとっては遊びでも我々にとっては仕事です。もし締め切りに間に合わなければそれ相応の対応をとると思ってください」

一瞬彼の威圧感に怯みかける。しかし奥歯を噛んでこらえる。

 

彼女を変えることができる人は沢山いるかもしれない、

その中でも俺は最も彼女を変えることができる人間であるべきなんだ!

 

「お任せください!」

俺は胸を張った。当然、なんの打開案もない今の時点ではそれは虚勢だろと思われていても仕方がない。

しかし、例えそうだとしても後でその印象を覆してやる。覚えとけ。

 

「頼みましたよ、和泉先生」

再び黒のリムジンに乗った彼はそう言い残した。編集者として彼女の改心について悩んでいた先と比べて、優しく儚いその声は、「家族」として彼女を変えて欲しいという彼の願いが潜在していたのかもしれない。

 

家族として、編集者として二人のクリス先生と対峙し相談した俺は早速先の自分に投げられた課題をこなす。

 

彼女のやる気を奮起させ、執筆させることはすなわち、それは締め切りに追われる彼女を助ける方法にもなる。

有り余る財産でなんでも夢を叶えてきた少女のやる気を奮起させる方法…そんなものあるのだろうか?

 

いくら悩んでもなかなか答えが浮かばない。

腕を組み完全に静止した俺をようやく動かしたのは妹の天井を介したコミュニケーションであった。

 

「はーい!」

俺は天井に向けて声を届けた。

 

「どうした、紗霧」

開かずの間には紗霧とエルフが二人、それも深く暗い顔で俺を見つめてくる。

 

「エルフちゃんの悩み、聞いてあげて」

 

エルフの辛さに同調したのか、声はえらくトーンが落ちている。

 

「…悩み、か。俺に出来ることなら協力させてくれ」

 

 

このおてんば娘の悩みってなんだ。しかし、それが彼女の創作意欲を削っている可能性はかなり高いだろうな。

 

俺とエルフは二人、俺の部屋の真ん中に座り込む。

 

 

 

「…私の悩み、聞いてちょうだい」

 

疲弊しきった顔で話は始められた。

 

「私、今スランプかもしれないの」

 

 

彼女のそんなネガティブ発言は初めてかもしれない。

壁にぶつかればぶつかるほど燃える彼女がこんなにも——。

 

いま、彼女はエルフ史に残りうる大きな壁にぶつかっているだろう。

そして、どのように救うかでライトノベル作家としての生き方が変わってしまうだろう。少し大げさにいえば、いま俺は彼女の運命を握っているのかもしれない。

 

 

「スランプ…なるほどそれは大変だ」

 

それこそ執筆している者なら誰しもが抱えるような悩みではある。

彼女のスランプだから異常事態なのだ。初めての感情を前に、エルフ自身も解決策は分からないだろう。だからこそ俺が手助けをする必要があるのだ。

しかし、スランプなんて当然解決法は人によって変わってしまうためだけに、結局、最終的には自身の力で解決せざるを得ない場面が多くなりがちで難しい。

それに、彼女に残された時間もない。

 

さらに問題はこれだけでは済まない。

本人が「やる気マックスファイヤー」であるときしか基本的に執筆しないと豪語している彼女がスランプの状態で執筆をするなんてありえない。

 

 

「スランプに陥っているのに、兄貴のヤツは仕事しろ仕事しろって…本当に面白い小説を書かせようとしているの?期限を守ることこそが全てなの?」

 

そして、スランプが引き起こす副作用、編集者との摩擦。

 

 

震える握りこぶしが分かってくれない編集者への怒りを体現している。

 

「私だってどうにかしようと探りを入れてるもの。積んでいたゲームもやった。楽器を演奏したりした。小説のことを忘れて遊び呆けてみた。でも遊んでいる私を見ると締切は大丈夫なのかとせがんでくる」

 

…まあそれだけだと遊んでいると見られても仕方はないがな。

 

「クリスさんにはスランプだという話はしたのか?」

 

「いえ、してないわ。スランプと言ってもどうせ仕事仕事だもん。だから、見つかりそうになったらやっているフリをする、そんなイタチごっこが続いているの。全く進まない原稿にしびれをきたしたのか、いつの間にか見張られてたりすることも最近多くなった。もう兄貴のせいでめちゃくちゃよ…!!こんなんで小説が書けるわけがないじゃない!!」

 

ついに涙のひとしずくが頬をつたう。

 

かつてない大きな壁にぶつかっているのに全く分かってくれないお兄さんとの摩擦。それがさらにモチベーションが削りとる負のサイクルにはまっている。

 

俺だって神楽坂さんにせがまれ強引に書かされたところで良い作品なんて生まれるわけがないもんな。

 

 

「じゃあ、もしたった今スランプを脱したとしたら小説を書くのか?」

 

「ええ。それさえ脱せれば脱したという喜びで捗るでしょうね」

涙を拭いながら答えた。

 

彼女のスランプの根源を取り除くこと、これが俺に課されたミッションだ。

 

とはいえ、スランプなんて治し方には人それぞれだ。

執筆をほっぽりだして旅に出る人もいれば、ひたすら趣味の小説を書く人もいるだろう。

それらをエルフが試していた結果、クリスさんに見つかって今に陥った。

 

さあ、どうする和泉正宗よ。

 

悩んでいると、自然と自分がスランプに陥った時のことを探っていた。

 

 

それはエルフと小説勝負をした時。俺は何がなんでも彼女に勝つぞと意気込んだはいいが、意気込みすぎてしまい結果沼にハマってボツを連発していた。

 

それを打開したのは紗霧という存在だった。ムラマサ先輩の時の出来事もあって、いま「世界で一番可愛い妹」が出版及びアニメ化されている。

 

 

このような二つの大きなきっかけでスランプを脱したんだ、俺は。まああれをスランプと呼んでいいのかは微妙だけど。

 

とりあえずなにか大きか「きっかけ」を与えること、それが今の彼女に道標となるのかもしれない。

俺にとっては紗霧が道標となっんだ。それなら俺が彼女の道標になればいいのか。

 

 

 

「よし、エルフ。今日から締切まで俺と二人きり、この部屋で生活しよう」

 

 

 

兄貴の問題も、スランプから脱する方法を詮索するにも、おそらくこれがもっとも手っ取り早い。

それに彼女、今までは一人でスランプを抜けようと頑張っていた。それが今日からは二人で詮索する。間違いなくそっちの方が効率もできることも多い。

 

 

「…この部屋で二人?」

エルフはぱちくりと潤った瞳の奥、正宗の顔を見つめる。

 

 

「俺がスケジュールを組んで、その通りに動いてもらう。でも、もしそれで不満とかがあったらどんどん言ってほしいし、取材とかがあれば俺はできることなら協力する。これでどうだ?」

 

 

結局はまたカンヅメになるということだ。

しかし、今回は違う。カンヅメはカンヅメでも彼氏と実質同棲。しかも編集者も監視しにくい場所だろう。

それなら、今後の私の運命を彼に託してもいいじゃない。

 

「ええ。マサムネ、ありがとう。頼らせてもらうわ」

ようやく彼女の笑顔を拝むことが出来た。

 

「ああ、早くスランプを脱していつものお前に戻るんだぞ!」

「ふふふ、私とマサムネの力があれば百万馬力よ!」

「そうだな!」

 

この笑顔を、エルフを救うために!

 

 

 

 

「兄さんの部屋にしばらくエルフちゃんがいるってことでいいの?」

「そういうことだ、これがあいつを助ける最善の手段だと思ったんだ、許してくれ」

 

これがもし単なる同棲だとしたら、しばらく羨望や嫉妬で口を聞かなくなっていたかもしれない。

しかし、こうすることて今、そして未来の彼女を救えるなら…

 

「わかった。エルフちゃんを助けてくれるって信じてるから」

 

「任せろ!以前以上のエルフにしてやるから!」

自信満々のグーサインを紗霧に見せつけた。

 

 

 

「なるほど、私は構いませんが一つ条件があります。 夜寝る時扉を開けといておくこと。よろしいですね?」

「わかりました」

クリスさんに非常に似てるな!その視線!平然を装う俺は悟られない程度に震えている。

 

まあ扉の鍵を開けてくれた方が俺も安心だし、あいつのことだから鍵を閉めたその日には、俺は…

 

 

「まだそういうことをするのは、はやいですからね!」

いや俺何も言ってないよ!

…あらぬ俺達を脳裏に描いてしまったらしく、強面は緩みに緩んでしまった。…これくらい緩んでくれた方が接しやすいんだけどなあ。

 

 

 

 

ここで予定を確認しよう。本日は八月二十四日である。

そして、締切は九月九日である。

二週間の間に解決策を模索、成功させさらに小説を仕上げさせる必要がある。

加えて九月に入れば学校も始まる。

そして、忘れてはならないのは以前約束した、文化祭の企画書である。

それらを全て「ToDoリスト」にぶち込みスケジュールを管理しなければならない。

 

 

 

問題は山積みであるが、俺とエルフの慌ただしい同棲生活は幕を開けた。

 

 

さて、どのように導けば良いのか。

俺は料理をしつつサーチを行う。

 

 

 

「気分転換をする」

…はもう色々やってきたと本人が言っていたな。

「スランプであると自覚をする」

…自覚がなければ告白もないだろう。むしろ、普段勝気しかないような彼女がスランプであると認めるほどにひどいものなんだ。

「時には諦めることを視野に入れる」

…諦めることは現状不可能だろう。

「付き合う人を変える」

俺は悪くないぞ。

 

 

 

 

そもそも、自分に圧倒的自信があるような彼女がなんでスランプに落ちたんだ?

いわゆる「病み期」か?

それとも、自身の能力を超える人を見つけて自信をなくしたのか?

 

 

なんとか深く考えてみようとはするけど、どうもこれまでのあいつの言動からしては考えにくい事象ばかりだ。

あいつの病み期とか想像すらできないが、自身の能力を超えるやつが来たら逆に燃えるようなヤツだ。現にムラマサ先輩と出会った時だってあいつは終始強気だった。

 

じゃあ、仮に本当に病み期がやってきたとして、何がきっかけでそれは訪れたのか。

俺と彼女が一緒にいた時、ほとんどがポジティブな発言だったため、メガティブエルフを脳内で作り出すことが出来ない。

 

 

再び模索は振り出しに戻る。

今度はスランプの解決法からではなく、彼女の言動から原因を探ってみる。

 

 

「スランプになったから、気分転換をしていたら編集長に目をつけられた。スランプの状態でさらに監視下におかれ小説を書いたところで良い小説なんてかけるわけがない」

 

…ん?

 

よく考えてみればスランプとは言っていたけどそれが具体的になにがどうとかは話していなかった。例えば「アイデアが浮かばない」とか「いい比喩が見つからない」とか。

 

ただ「スランプになった」の一点張りだ。

さらに、その後の編集長がなんだかんだという出来事はスランプになった発端には直接の関係はない。

 

 

…結局はやる気が出てこないだけなんじゃないか?

俺も筆はとっても気分が乗らずに筆が進まないなんてこと、あるしな。

やる気が出ない時ってのは例えばアイデアが浮かばなくて、筆が進まないとか。

ましてやその気分転換とか言って夜遅くまでゲームなんかしてみろ。寝不足による気だるさで執筆どころじゃないだろ。そんな中強引に仕事をやらされたら俺だってたまったもんじゃないよ。

 

 

要するにやる気が出ない状態が続いており、執筆に手をつけず編集長に怒られているといういつも通りのあいつに帰着する。

 

 

とりあえず夜更かし厳禁で生活リズムを整えること。今日は特に。

 

 

「おーい、ご飯だぞー」

夜になるも俺の部屋には明かりが灯されていない。

「おい?エルフ?いるのか?」

名前を呼んで、さらに軽くノックしても返事はない。

「おい?大丈夫か?」

不安をよぎらせつつ許可の声なしに部屋に踏み込む。

 

 

…それじゃあ仕方ないか。

部屋の中、静かな彼女の鼻息の音だけが聞こえていた。

「色々大変だったもんな」

いま、彼女を起こして良いものか。

でも、ご飯冷めちゃうしなあ。

 

 

「…?」

俺が起こそうと顔を覗きこんだその刹那、寝ていたはずの彼女がそっと目を開けた。

「ちょ、マサムネ!?」

「エルフ、おはよう」

俺はあくまで平然を装う。

一方いきなり視界が彼に奪わたエルフの脳内は「もしこのまま寝ていたら…」とやましい妄想が頭に粘着している。

 

「おはようじゃないわ!一体私にどんなやらしい仕掛けを施したのか答えなさい!」

「ご飯ができたからお前を呼びに行こうとしただけだよ!」

「呼ぶだけならそこまで覗き込む必要ないじゃない!」

「それは謝る!でも何もしてないのは本当だ!」

たしかに彼女の寝顔をのぞき込んだのは確かだ。しかし、京香さんに釘を刺されているし、お前の考えてる邪なことなどできやしない!

 

「美少女の寝顔を覗いておいてなにかひとつ言うことないの?」

「ごちそうさまでした!」

「ちがーーう!」

 

…まあ少しは元気を取り戻したのは間違いないだろうな。今日はもちろん早寝させるけど。

「とりあえず飯が冷める!」

「ちょっとマサムネ、アンタ責任から逃げようとしてるでしょ!」

「いやお前だって俺の寝顔幾度も見てるだろ!」

「美少女とそこそこの差は大きいのよ」

「それを言うな!」

そこそこってなんだよ。認めるけど。

 

今後、京香さんにエルフの誇張で妙な勘違いをされなければいいけど。ある意味一つ気をつけなければいけない可能性だな。

 

 

「あら、マサムネ。あんた料理上達したじゃない」

「京香さんが家にいない日は基本的に俺が作ってるからな」

「正直私より正宗さんの方が料理上手だと思います」

いや、流石にそこまでではないと思うが、正直そこら辺の高校生よりはずっと料理は上手いと思う。

「仮に小説で生きられなくなってもそっちの道で生きられるじゃない!」

「縁起でもないこと言うな!」

「冗談よ冗談」

笑い声で食卓が満たされた。

 

 

「今日はとりあえず執筆はしなくてもいいから日付が変わるまでには寝ろよ?とりあえず今日だけはしっかり寝るんだぞ」

「言われなくてもそうするわよ。食事を終えたら眠くて眠くて」

なんて、だらしなく欠伸をする姿は明らかに女を捨てている。

 

「鍵を開けておく」という条件をなんとかエルフに飲ませ、彼女の就寝を待った。

 

おやすみ、エルフ。

俺は彼女に続いて眠りに落ちた。

 

 

翌日。

「おはようございます。正宗さん、エルフさん」

二人はエプロンを着た京香さんに起こされた。

「おはよう…ございます」

俺は寝ぼけ顔で立ち上がり、カーテンを捲る。

夏の太陽はまだまだ力強く地を、部屋を照らしている。

「おい!エルフ、起きろ!」

京香さんのモーニングコールにも直射日光にも応じない頑固な彼女を起こす。

「もう…朝なの?」

リアルに呼応した寝言のような弱い声。

「もう朝ですよ」

ここまで日光を当てても分からないのか?

「ここまでぐっすり眠れたのは初めてかもしれない」

「そりゃ良かった」

「朝ごはんはできてますよ、準備が出来たら一階へ来てください」

「はーい」

朝ごはんは栄養バランスの取れた和食中心なメニューだ。京香さんもこうやって、エルフの体調管理に一役買ってくれている。

ここでエルフが余計なことを言わないか少し不安だったがそれも杞憂に終わり、名だけの同棲生活は最高のスタートダッシュを切った。

 

 

 

そんな規則正しい同棲生活に進捗があったのはその二日後のことであった。

 

乱れた生活習慣を強制的に正され、本調子に戻ったエルフはついに動き出した。

 

 

「さーて、マサムネ?ちょっとおつきあいいただけるかしら?」

そう彼女は回転椅子に腰掛け足を組んでいった。

 

「もしかして、ようやくやる気が出たのか?」と俺はその指示に従わまいと彼女の指示を待つ。

「私の仕事部屋にあるクローゼットの奥にウェデングドレスがあったと思うんだけど」

 

ウェデングドレスとはまた大層なものを持っているな。

「持ってきてくれない?」

「それは構わないけど、何故?」

「何って、私が着るためよ!」

「ほへ?」

間の抜けた声を出してしまった。こいつ、マジだよな?まあそりゃあ俺に着せられても困るけど…

 

でも、もしかしたらこれが小説に関わるなにかかもしれない。

そんな可能性を信じて俺はエルフ宅へ乗り込んだ。

 

 

「いっぱいあるなー」

間違いなく日本製ではないものもある。資料集めの一環で資料集を閲覧することもよくあるのに…世界は広いのか、エルフの行動範囲が広いのか。まあその両方だろう。

 

その中でひときわ目立つ光沢を放つ衣装。それがエルフ依頼の一品だ。

 

…これ、持ち運ぶには大き過ぎる。

装飾も剥がれやすいだろうし、ダンボールかなんかに詰めないと大変だよな。

仕方ねえなあ。と、俺はしぶしぶ空いて投げ出されたダンボールを組み立て、衣装を畳み彼女の元へ届けた。

 

「そう!これよこれ!」

俺の部屋に居座る女王様もといエルフは、光を乱反射させ煌めく衣装を指差し高笑いした。

「で、これでなにをするんだ?」

俺は腰に手を回し問う。またぶっ飛んだことを言い出しそうな雰囲気しかない。

「さあ今から乙女が着替えるわ!ただちに部屋から退出なさい!」

 

質問に答えろよ!という訴えも簡単に退けられ、自分の部屋から追い出された俺は腕を組んで待機している。

…まあ、着替えるんだから仕方ないよね、きっと。

ここで変に誤解されても困るし。

 

マサムネ!待たせたわ!

 

彼女の甲高い合図の後に吸い寄せられ、俺は彼女の晴れの姿を目に留める。

 

「………………」

 

言葉にならないという言葉があるように、人間は驚きすぎると言葉を失う。

あえて言うなら、彼女を言葉でいいくるめるのはもったいないと言ったところか。

 

「何か言いなさいよ!」

そんな"急かせ"、エルフには自覚がないだろうけど今の俺には難題だ。

 

「ごめん、言葉が浮かばなかったよ」

俺は素直にそう言った。

「そうでしょう、そうでしょう!」

ふふーんと最高の笑顔を金属光沢とともに輝かせる。

 

「…で、なにをするんだ?」

「なにって、取材や取材!私のためなら取材ならなんでも応じるって誓ったでしょ!」

 

あれは誓ったと言っていいのか!

 

「でもまあ名案が浮かんだのはアンタのおかげも少しばかりはあるから感謝はしているわ。だ・か・ら・こ・そ、この大役をあなたに引き受けたの!」

大役ってなにをさせるんだよおい!

 

「マサムネ、『ガータートス』というのをご存知かしら?」

誘惑せんと少々色気づいた声で問いを投げてきた。

「名前だけは聞いたことあるな…ブーケトスのお婿さんバージョンで、ガーターベルトを未婚の男性に投げる…のであってるか?」

「まあ七十五点と言ったところね。今からそれをやってもらうから」

「はあ?」

 

俺が問い返した理由は言わずもがな、その行為だ。

ガーターベルトというのは、ストッキングを留めるためのベルトである。正直下着に非常に近い。

主に海外の結婚式ではそれを結婚式でスカートに潜って外し、それをボールかなんかに引っ掛けて未婚の男性に投げる「ガータートス」が人気を集めている。

当然、ガーターベルトを取ることは不純異性交遊に抵触しうる。

その刺激性ゆえ、日本で行われることは少ない…が、生憎その刺激的要素もエルフにとっては良い餌としかならないのだろう。

 

それに、それを小説化する上で避けられない問題だってある。

「…おまえ、その小説が全年齢対象として世に出るんだぞ。大丈夫なのか?」

そんな刺激的な小説、山田クリス先生という検閲に引っ掛かりそうだけど。

「大丈夫大丈夫!表現でそんなものいくらでも濁せるわ!」

「いや濁せても行為は行為だろ?」

「我が文才を信じなさい!さあマサムネ!私の華麗かつ淫靡な体から、ガーターベルトを取り外しなさい!」

 

…と、エルフは軽く言っているが万が一この行為が紗霧や京香さんに見つかろうものならしばらく家に入れてもらえなくなってしまうかもれない、超危険行為なんだぞ。

しかしようやく湧き出た彼女のやる気を殺すわけにもいかない。

それらの問題を天秤にかける。

今回のこの同棲の目的は「彼女のやる気を出させ、締切に間に合わせること」であることは確かだ。

その達成のために多少のリスクを負う必要はあるが…

 

しかしここで迷っている訳にもいかない俺は結局自分の欲を決め手に引き受けることにした。

 

 

「しょうがない。始めるぞ?」

「あら、やけに素直じゃない」

「正直俺もめっちゃ怖えよ、なにせ今後の信頼関係とか俺に対する好感度みたいなものとか様々なものを賭けてるんだからな」

おっと、これ以上声を荒らげたら隣に響いてしまう。

これは正直恋人関係になっていなければやっていなかった。たとえ取材でも。

 

 

「いくぞ」

俺は深く息を吸い覚悟を決めた。

「いつでもいらっしゃい」

 

 

今の俺は、例えるなら湖の湖底にあるダンジョンの宝物を探る冒険者だろうか。

今回の目的の宝物であるガーターベルトはすぐそこにある。

それを番人、ここでは京香さんに見つからないうちに回収する。

それが今回の課せられたミッションだ。

当然、本ダンジョンにも妨害はある。

 

それは

 

「おっと、見とれてはいけない。一刻も早くやることを済まさなければ」

 

欲望に塗れた自我と、

 

「マサムネのえっちな視線を感じちゃう…」

 

明らかに狙っている言動を放つ淫魔だ。

 

それらは主に組んで攻撃をしてくる。主に精神的に。

 

しかし、幸いなことに距離はない。時間さえかからなければ…!

 

「マサムネ…そこはだめ…」

 

 

こいつ…絶対狙ってるだろ。

俺は悪くないんだとひたすらに自己暗示でエルフについて考えることを停止させる。

 

 

 

「ほれ、どうするんだこれを」

思考停止で獲得した宝物を彼女に見せつける。

 

「まさか、あんたこれを使って…」

俺が潜ってる時と同じ声だ。

「いかがわしい方向に考えるのをいい加減やめろ!」

油断をすると調子を崩されるな本当に。

 

 

「…で、結局これでいいのか?」

彼女の体に見とれている時間を含めても、時間としてはほんの一瞬の出来事である。

「いいのよ。このような小さな取材を繰り返していくんだから」

つれないわねえと仏頂面を含んだ顔で言い捨てた。

 

その翌日。資料を得たエルフは遂に執筆を開始した。

彼女の邪魔はしまいと俺も共に執筆や企画書書きを開始した。部屋にはキーボードを叩く音だけが淡々と刻まれている。

 

ふう。と彼女が一息つく。

「久しぶりにこんなに集中したわね…」

俺も外の夕暮れではじめて時間の経過を体感した。

 

「で、結局どんな内容なんだ?」

「それは愚問よ!読んでからのお楽しみにしていなさい!」

 

まあとりあえずこの同棲作戦は成功したみたいだな。よかったよかった。

あとはお互い、良い小説を仕上げるのみである。

 

 

九月に入って、俺は高校が始まって部屋を開けることが多くなった。

しかし、もう彼女について心配はしていない。

むしろ俺の企画書の方が不安である。

あれから情報が全く入らないのだ。

 

 

「智恵!文化祭のこと全くわからないんだけど!」

そうして俺は不安に駆られ高砂書店へ向かった。まさに今の俺は脱稿を迫る編集者の気分を味わっている。

「ごめんごめーん、なかなかやりたいことがまとまらなくて!締切前日までには間に合わせるから!」

「頼むよ!直ぐにかけるものじゃないから!」

 

もちろん「フィーリングカップル」これだけで書ける内容にも限度ってものがある。

とはいえ、

「ムネくんの企画書に見合うような最高な提案をひねり出してるから!」

とまで言われるとこちらも文句は言えない。ましてやそこまですごいものは書ける自信はあるとはいいきれないけど、やはり期待されるのは嬉しい。

「ありがとう。ただなるべく早く頼むよ」

「任せとけって!」

 

 

「ところで、ムネくんの小説読んだんだけどさ」

用を済ませ帰ろうとする俺を話題をシフトし引き止めた。

 

「どうした?」

「あれ、うちの高校の文化祭、もっと絞れば伝統行事をモデルにしてるでしょ」

伝統行事——毎年正宗の高校で大いに賑わうイベントがある。

名を「No.1カップル決定戦」という。

部活動のエースとマネージャーというベタ中のベタから、クラスの推薦で半ば強引に引きずり出されるカップル、果ては来場者の夫婦まで様々な人が参加する一大イベントだ。

「やはりお前には筒抜けか」

元々めぐみに向けた小説だったので参考にしても大丈夫かなとは思っていた。

「まあ確かにネタにしやすいものね!やる方は小っ恥ずかしいけど、学園モノラノベならこれを見逃すわけもないって訳か」

「まあね!書きやすいし!」

「今回のカップル決定戦は少し見る目が変わりそうだなあ」

含み笑いで呟いたその一言は、作者にとっても嬉しい言葉だ。

その作品の中の人間の感情によって、現実世界の自分の得る感情を揺さぶられることはすなわち、その作品に少しは感情を移入してくれたことになるのだから。

「ありがとうな、智恵!」

「これからも期待してるぞ!」

二人は手を振り別れた。

 

そして、集中するエルフと共にまた人の心を動かせんと言葉を紡いでいくのだった。

 

 

 

 

————その数日後、締切まで二日前。

 

 

九月七日(金曜日)

——脱稿。

 

「脱稿おめでとうございます!エルフ先生!」

「ふふふ、私達にかかれば最高の小説を締切までに書くなんて容易なものよ!」

 

俺へのあの取材が文庫化されてこの世に最高の文章として放たれるのは誇らしいけど、少し恥ずかしいな。

「文庫化、楽しみにしてますから!」

「楽しみにして頂戴!アルミちゃんにも最高のイラストを頼んであるから!」

 

俺とエルフが初めて事実上の同棲をして作った作品。

その作品もきっと色々な人の心を動かして、笑わせて、泣かせてくれるんだろうな。

 

 

第六章へ。

 





本編を読めば分かりますが本編のタイトルもじってます。

智恵ちゃん可愛いけどなんでこんなに薄いんだろ、特典CDにもちゃんとキャラソンあるしそのクオリティはやばいしもう少し日の目を見せてあげてください(願望)
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