戦姫絶唱シンフォギア Concerto 〜歌と詩で紡ぐ物語〜   作:鯛で海老を釣る

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次話からシンフォギア成分増してきます。

今回はアルノサージュ9割のシンフォギア1割くらいです。




日常から非日常

◇◇◇

 

 

「あ、いたいた。あなたー!!」

 

 

腰まで届きそうな栗色の髪を風に揺らしながら、紙袋を両手で抱えた少女が雑貨屋と思わしき店の出入り口で声をあげる。その姿は、ミニスカートに肩出しヘソ出しと露出多めで、腰辺りにはマントのような広がり方をしている布の装飾が付いているものだ。「ポーラーズメモリーIII」と呼ばれる自身のお手製の衣装に身を包み、声をかけた方向へと歩みを進める。

 

 

『イオン、買い物は済んだの?』

 

 

店先で立っている「あなた」と呼ばれた真鍮色のボディに白銀色の装甲、通称「XR77プレミアム」と呼ばれるボディである機械じかけの騎士ーー『アーシェス』は機械の駆動とは思えない滑らかな動きで右手を上げて「イオン」と呼ばれた少女を迎える。

 

 

アーシェスは、全高2.5メートル超、背骨に五体を取って付けたような骨格フレームと意匠の凝った装甲だけで構成された、いかにもロボットのような様相をしている。

そんなものが立っていようものなら、たちまち人集りが出来るものだが、アーシェスの前を通り過ぎる人々は、一瞬視線を移すものの、足を止める事などは無かった。イオンという少女とアーシェスが一緒にいる光景は、どうやら此処では日常の一部なのだろう。

 

 

「ごめんね。待たせちゃったかな?でもね、これは仕方ないことだと思うの!」

 

 

『僕を待たせることは、イオンにとっては仕方がないってこと?』

 

 

どこかからかうような楽しげな声色でアーシェスは答えるーーといっても、アーシェスは肉声で話すのでは無く、伝えたい相手を対象に、心に直接言葉が伝わってくるような会話手段を用いる。

そのため傍から見れば不思議な光景そのものだが、当の本人達は全く気にする事なく会話を続ける。

 

 

「もうっ、あなたは時々意地悪なこと言うよねっ。そうじゃなくて、ーーこれこれ!じゃじゃーん!!」

 

 

イオンは唇を若干尖らせつつも怒ってる様子はなく楽しげだ。紙袋を地面に置き、上機嫌な調子でセルフ効果音を発し、青く透き通った瞳を輝かせながら興奮気味に中から、機械のパーツのようなものを取り出してみせる。

 

 

『それは、真空管?』

 

 

「正解!4ピンUXベースの整流用双二極菅TA-274Aにそっくりなんだけど、よくよく見ると別物でねーー」

 

 

『イオン、どうどうどう。』

 

 

「それでね!ーーあっ、ご、ごめんね?あなたは何時も私の話をちゃんと聞いてくれるから、ついつい夢中に…」

 

 

申し訳無さそうにしつつも、えへへ、とはにかみながら答えるイオン。そのまま真空管を紙袋に入れれば、アーシェスがそれを抱え上げる。イオンは、嬉しそうにお礼を言うとアーシェスの隣に立つ。

 

 

「それじゃあ、帰ろっか。今日は珍しいものが手に入ったし、荷物の整理もしたいから、家の中でのんびりしよう?」

 

 

『いいね。そうだ、偶にはイオンの工作が見てみたいな』

 

 

「いいけど…私の作業風景を見ても面白くないよ?あなたがそれで良いなら別にいいけどぉ」

 

 

一人と一機は他愛のない会話をしながら足並み揃えて帰路へとつく。その様子はまるで日常とも言うべき取り留めもないものなのかもしれない。だがイオンとアーシェスにとっては、掛け替えのないものなのだ。

 

それは、アーシェスが『この世界』での役目を果たした為に、端末の電源が近い内に落ちる事となっているからである。これは回避することが出来ない絶対のプログラム。お互い「まだ一緒にいたい」と想っているが、それを口にしてしまえば相手が困ることはお互いが分かり切っている。だからこうして頻繁にイオンとアーシェスは出掛けているのであった。少しでも思い出を多く残す為にーー。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

日はすっかり暮れてしまった。窓から射す夕焼けが室内を茜色に染める。私の隣にはすっかり寝落ちして、ソファーに体を預けて静かに寝息を立てているイオンの姿。寝顔が可愛い。

 

 

「んー……おきるよぅ……」

 

 

顔に掛かった髪を機械の手で優しく払ってみる。そのまま引き寄せられるかのように、気が付けば頭を起こさないよう撫でていた。いつもはイオンから強請ってきたりしない限りは無闇にやらないが、何だか今は無性にしたかった。すると、くすぐったかったのか身を少し捩らせる。幸せな夢でもみているのか表情は綻んでいる。

 

 

こんな時間が何時迄も続けばいいのにーーふと頭にそんな考えがよぎってしまう。壊された記憶を取り戻した。一緒にシャールと人間の争いを止めようと奔走した。一緒に移民船ソレイルの民を守る為に戦ったりもした。そんな濃い時間を過ごしてやっと訪れた平和な時間。タイムリミットはゆっくりだが着実に近付いて来てる今、イオンとまだ一緒にいたいと願うことは我が儘なのだろうか。

 

 

『少しくらい、いいよな。新生ラシェーラも落ち付いてきたみたいだし、贅沢言っている訳ではないしな』

 

 

思わず口に出していた。叶わないと分かっていても。イオンもきっと同じような事を考えているはずだ。まぁ、こんなこと考えていてもしょうがないか。さて、夕食の時間も近いしイオンをどう起こしてあげようかーーと思考を巡らせた時だった。一瞬だが、私とイオンの体が淡く光ったかと思うと、次の瞬間にはーー

 

 

 

ーーーー私の視界は暗転していた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

ーー視界に光が戻る。ここはどこだろう。新生ラシェーラにこのような場所は確か無かったはず。辺りを見渡してみると一面の緑が広がっている。少し開けた場所みたいだかーーと、周りを観察していると、少し離れた先に良く見知った少女の横になった姿を見つけ、驚きと喜びの狭間の複雑な気持ちを抑えつつ駆け寄る。

 

 

『イオン!!大丈夫!?』

 

芝生の上で横になっているイオンの体を抱え上げるようにして揺さぶる。少々乱暴な起こし方だが、状況が状況なので致し方なし。すると、私の腕から離れ、イオンは身を起こす。約5秒間ぼーっとした後、唐突にぱっちりと青い瞳を開き、

 

 

「……おはよ〜。私、眠っちゃってたんだ。」

 

 

まだ、頭が覚醒してないのだろう。のんびりとした調子で欠伸を噛みころしながら周囲をキョロキョロと見渡すと小首を傾げる。

 

 

「…あ、あれ?私たち部屋の中に居たよね?いつの間に外に…」

 

 

イオンは立ち上がれば、不安そうな面持ちで私を見つめてくる。起きたら見知らぬ土地に放り出されていたら誰でも不安を覚えるか。斯く言う私も不安だ。イオンの前だから格好つけているだけだ。

 

 

『イオン、よく聞いてほしい。信じてもらえるかは分からない。ここは、新生ラシェーラでは無い可能性がある。二人揃って何処かへと飛んでしまった可能性がーー』

 

 

「あ、あのー……?」

 

 

背後から女性の声がかけられる。イオンと私は揃って声のする方向へと顔を向ければ、そこには一人の少女が立っていた。制服を身に付けているところから学生だと推測できる。

 

 

「えと…あのぉ、こんにちは…?」

 

 

困惑の表情を顔一面に広げて苦笑いを浮かべ、白い大きなリボンが特徴的なその彼女は、イオンと私を見つめながら絞り出したかのように、おそるおそるといった挨拶をしてきた。

 

 

 

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