戦姫絶唱シンフォギア Concerto 〜歌と詩で紡ぐ物語〜   作:鯛で海老を釣る

6 / 7

久しぶりの投稿となりました。

仕事が思いの外忙しくなったのと、マスターとプロデューサーを兼業しつつ新作ゲームを積むとこうなるのですね。


幕間 「QUEENS of MUSIC」開催前の空白の3カ月
初動


◇◇◇

 

 

 

イオンとアーシェス、それに現場に居合わせた未来は、響を先頭に2課の仮本部となっている潜水艦の長い廊下を歩いていた。

長く続く廊下は潜水艦の大きさを想像させ、アーシェスとイオンの2人は、特に変わり映えのない景色ですら、物珍しそうに周りを見渡しながら響に着いて行く。

 

 

「到着だよっ!」

 

 

長く続く廊下の先に待っていた横開きの自動ドアの前で響は立ち止まり、2人に振り向き声を掛ける。

 

声を掛けられたイオンは、思わず身を強張らせる。響の人柄を信頼して付いてきてみたものの、未知の世界に足を踏み入れるのは、やはり緊張するものである。この先には一体何が待っているのか、そういった真剣な面持ちで前へと進んでいく。

 

センサーが反応し、ドアがスライドする。

 

そこでイオンとアーシェスを待ち受けていたものはーーー

 

 

 

パーンッ!パパパーンッ!

 

 

 

部屋中に鳴り渡るクラッカー音。

 

 

 

「―――ようこそ! 人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!!」

 

 

 

「…………へ?」

 

 

 

2人を待ち受けていたのは、そんな言葉と共に降り注ぐような歓迎の嵐だった。真っ先に出迎えたのは何故かシルクハット被っている赤毛の巨漢で、その後ろには制服姿の何人もの男女が拍手を浴びせてきている。その中には、一際目立つ青髪の女性と小柄な白髪の女性も見える。

 

更には、クラッカーや紙吹雪。長テーブルに所狭しと並べられた料理。真っ先に頭に浮かぶのは「歓迎会」といった装いである。

 

イオンは、思いもよらなかった光景に、目を点にして驚きを隠せずに呆けているところに、赤毛の巨漢が一歩前に出る。

 

 

「驚かせてしまってすまない。これが2課での歓迎の仕方なんだ。挨拶がまだだったな、俺はここの司令官を務めている風鳴弦十郎だ」

 

 

弦十郎は、友好的な態度でイオンたちに向けて逞しい手を差し出す。

 

 

「ど、どうも」

 

 

『よろしく』

 

 

響と未来、それとおそらく響から聞いていたのだろう弦十郎以外のメンバーは、アーシェスが喋ると同時に、驚きや不思議そうな表情を見せる。誰しも突然声が頭に直接聞こえてきたら戸惑うものである。

 

 

謀らずとも逆にサプライズを決めたことなど露知らず、差し出された手に対し順に握手を交わしていく2人。イオンは緊張しているのか圧倒されているのか若干ぎごちなく見えたが、真相は本人のみぞ知るところである。

 

 

 

「イオンくんにアーシェスくん。君たちの事は響くんの報告から伺っている。何でもシンフォギア無しにノイズを倒した、と」

 

 

「私はただアーシェスと未来ちゃんを何とか助けようと夢中なだけで…。たまたま、私の詩魔法が通用したからみんな無事でした。運が良かっただけですよ」

 

 

自分に対する弦十郎の評価は大袈裟だと首を横に振りながら呟く。それは、卑下でも謙遜でもなく、心から本当にそう思っているのだと感じさせる迷いのない真っ直ぐな言葉だった。

 

 

『だとしても』

 

 

矢継ぎ早にアーシェスが発する。

 

 

『イオンが僕たちを助けてくれたことに変わりは無いよ。運が良かった、っていうのは本当かもしれない。正直、もしもの時、僕はこの身体を犠牲にしても二人を逃がすつもりだったけど、イオンが勇気を出して立ってくれたから、僕たちは無事なんだ』

 

 

アーシェスは、イオンに向き直り、肩に右手を優しく置くと語りかける。その声色はとても優しく穏やかだ。

 

 

『僕がこんな事を言うのは烏滸がましいけど、やっぱりイオンは成長したよね。僕は全然だけどさ』

 

 

それはまるで、長い間見守ってきたかのような言葉。

 

 

『改めて、ありがとう。イオン』

 

 

「ううん。あなたがいつも側に居てくれたから、今の私はあるの」

 

 

自分の肩に置かれている機械の手を、両手で包み込む。大切なものを無くさない為に、離さぬように。

 

 

「私の方こそ、ありがとう。ーーーあなた」

 

 

顔を上げ、温度など無いアーシェスの掌を慈しむように愛おしいように、そっと朱の差した頰に寄せる。そして、花が咲いたようなに満面の笑みで答えた

 

 

「ーーーそういうのは家でやってくれると我々も非常に助かるのだが」

 

 

咳払いと共に弦十郎から二人へ声が掛かる。それもそのはず、歓迎会を催していたら、当事者二人が人目も憚らずナチュラルにイチャイチャし始めたのだ。この場の責任者として弦十郎は、否応なく軌道修正に入ったのだった。

 

 

「いや、家でならいいのかよ」

 

 

弦十郎に続いて声が飛ぶ。声の主である白髪の少女が二人の前へと人波を割って出てくる。その後ろには苦笑を浮かべた青髪の少女もいる。

 

 

「っ!?」

 

 

弦十郎と白髪の少女の二人によって、自分たちだけの世界から戻ることが出来たイオンは、周囲の様子を見渡す。大人たちは微笑ましく見ている者から苦笑を浮かべている者などそれぞれだ。響は何だか見てはいけないものを見てしまったかのように、視界を両手で塞いでいるが、よくよく見ると手の隙間から覗いている。未来は、口元に両手を当てて頬を若干赤くしている。

 

 

少女とロボットのやり取りなのだが、イオンの表情や仕草がそれを感じさせないくらい真に迫ったものだったのだろう。自分が何をやらかしたのか理解した途端に、イオンの顔は真っ赤に染まる。

 

 

「ご、ごごごめんなさい!あの、その…あぅ…」

 

 

羞恥やら気まずさやら申し訳なさなど、様々な感情が濁流になって押し寄せ、完全にパニックになったイオンは目を回しながら弁明の言葉を探す。

 

 

「なに、気にするな。それより貴方達が異世界から来たというものだな。事情は報告である程度は聞いている。私の名は風鳴 翼という。よろしく頼む」

 

 

「…雪音クリスだ」

 

 

狼狽えているイオンに助け船を出すように青髪の少女ーー翼が自己紹介を始める。続いて白髪の少女ーークリスが短く自己紹介を行う。翼の丁寧な対応とは対照的にクリスはぶっきらぼうな物言いだったが、クリスをよく知る者なら不器用なクリスらしい挨拶と感じるだろう。

 

 

「イ、イオンです。イオナサル・ククルル・プリシェールって言います。長いので元の世界ではイオンって呼ばれていました」

 

 

『僕はアーシェス。みんな話は聞いているかもしれないけれど、人工知能ではないよ。遠隔操作されているロボットといえばいいのかな』

 

 

一人と一機の自己紹介が終わると、他の職員も次々に声を掛け始める。その中に響と未来も加わり賑やかな輪が二人を囲む。

 

 

 

 

ーーー暫くして

 

「互いに自己紹介も済んだみたいだな。親睦を深めることは結構だが、君たちを招いた理由を説明させてもらうぞ」

 

 

用意されていた食事や飲み物が数を減らした頃、弦十郎が声を掛ける。

 

 

「分かりました。聞かせてくれますか」

 

 

イオンが向き直ると、空気を読んだ職員達は離れていく。話し足りないのか唇を尖らせる少女が1名いたが、保護者兼親友の少女に手を引かれ連れていかれた。

 

 

「細かいところは掻い摘んで話させてもらうが、我々には条件付きではあるが並行世界へと干渉できる術がある。だか、これは管理出来るようなものではなく、聖遺物『ギャラルホルン』が引き起こす現象だ。我々はこのギャラルホルンについて全貌を把握出来ていない」

 

 

「聖遺物……」

 

 

『ギャラルホルン……』

 

 

「そんな中、ギャラルホルンは明らかに異常な反応を示した。そして、その異常な反応とほぼ同時期に現れたのが君たちだった。我々としては、この二点は繋がっているものと想定し、ギャラルホルンにより異世界へと渡ってしまったであろう君たちを2課の保護下に置かなくてはならないと考えている。もちろん、元の世界へと帰す手段を見つける為だ。これがひとつ目の理由となる」

 

 

「ひとつ目…?」

 

 

「あぁ、ふたつ目はこれだ」

 

そう言って弦十郎は胸ポケットから、2課所属のなら見覚えのあるペンダントを取り出す。それを見た職員や響たちは驚きを隠せずに声をあげる。その手に握られていたのは装者が所持しているギアのペンダントであった。

 

 

「それは……」

 

 

「おいおいマジかよ、おっさん。そいつが適合者って言うつもりか?」

 

 

「えぇーーーーっ!!!本当ですか師匠っ!!」

 

 

三者三様の反応をする2課所属の装者の面々の中、イオンは静かにペンダントをまじまじと見つめる。

 

 

「これは…何ですか?」

 

 

「聖遺物『アイアスの盾』の欠片が組み込まれている。こいつは未だ適正反応をひとつも示さなかった代物ーーー今日まではな」

 

 

薄々と自分がこれから何を告げられるのか理解してきているイオンは、おずおずと自らを指差す。

 

 

「その通りだ、イオン君。ノイズを倒した時に使った…『詩魔法』と言ったかな。それを使用したと思われるタイミングで僅かだがペンダントが発光したのを確認した。我々はこれを偶然という言葉だけで片付ける訳にはいかない。手に取ってみてくれるだけで良い。イオン君、それだけで答えは出る筈だ」

 

 

イオンは短く頷くと両手で受け皿を作る。そこにペンダントがゆっくりと置かれる。

 

 

「ーーーっ」

 

 

皆が固唾を飲んで見守る中、ペンダントが手に収められた後、イオンの目は驚愕で見開かれる。

 

 

「頭の中に…これは、歌詞…なのかな?」

 

 

「ーーー決まりだな」

 

 

弦十郎は、複雑そうな表情を浮かべながら重く頷いた。

 

 

「心の底から浮かぶ歌詞。それを我々は『聖詠』と呼んでいる。

『聖詠』を紡ぐことでシンフォギアを身に纏い、ノイズと対抗出来るようになる……その者たちを『装者』という』

 

 

弦十郎が話しながら目線を2課所属の3人の少女に移す。

 

 

「率直に言う。我々はイオン君たち2課所属の装者。つまりは対ノイズの戦力としても迎え入れたいと考えている。知らない世界に連れて来られ、右も左も分からない君たちに対して卑怯な言い方なのは承知の上だ……。しかし、適合者に加えて新たにノイズと対抗する事が出来る術を持っているイオン君たちを、我々もノイズに立ち向かう為に無視することは出来ない」

 

 

「だが、イオン君たちはこの世界の災厄に関わることの無い者だ。生き死にのある戦場へと向かわせることは本来あり得ないことであり、このまま我々の庇護の下、元々世界へと帰る方法が見つかるまで窮屈かもしれんが、安全な場所で待っていてほしいとうのも本音だ」

 

 

「………」

 

 

『………』

 

 

この世界がノイズという人類の天敵に脅かされていることを2課に向かうヘリの中で響から聞いた二人は知っている。

自分たちがいた世界もまた『シャール』という生物に人々は怯えて過ごしていた時期があり、イオンたちはこれを解決した。境遇こそ近いものはあれど状況はまた違う。ノイズは対話による説得は通じない。ただ人間を塵へと変えるだけの殺戮兵器みたいなもので対抗手段も限られている。だからといって、助ける義理がある訳ではない。寧ろ、首を突っ込む事こそ野暮である。

 

 

だが、この二人が助けられる人が目の前にいるのに無視が出来るかどうかという事ならーーー

 

 

「ーーー手伝わせてください。私の詩が少しでも多くの誰かを助けることが出来るなら」

 

 

『うん。イオンならそう言うだろうと思っていたよ』

 

 

答えは明白であった。

 

 

 





次回「イオンちゃん学校に行く」

感想欄に見てみたい展開とかあったら書いてくれると反映されるかもしれません(ネタ集め)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。