戦姫絶唱シンフォギア Concerto 〜歌と詩で紡ぐ物語〜   作:鯛で海老を釣る

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イオンちゃんとアーシェスが出逢って7年とは感慨がありますね





二色花

 

ーーー歓迎会から2週間後

 

 

 

「私が適合者で良かったのかなぁ」

 

 

『それがイオンを選んだのだから、いいんじゃないかな?』

 

 

胸元に掛かっているギアペンダントを摘み上げながらジロジロと眺めるイオン。雲ひとつ無い快晴の空から、季節を感じる強い日差しが降り注ぐ。ペンダントはまるでイオンの問いに答えたかのように、日の光を反射させ一段と輝きが増したように見えた。

 

 

あの後、聖遺物『アイアスの盾』は有事に備えておくとのことで、イオンの元に一時的に預けられる形となった。起動実験には慎重を重ねたいとの弦十郎からの提案により、暫くの間、異世界へと移動してしまったイオンの容態経過、『アイアスの盾』の状態観察をもって後日行われることとなった。

 

そして、その間に本来存在しない筈のイオンの身分や戸籍、その他様々な面倒くさい各種手続きを2課が全部用意して整えてくれたこともあり、今イオンはこうして堂々と外出をしているのである。

 

 

「そうなのかなぁ」

 

 

『そうだとも。まぁ少なくとも、今考えても進展はしないんじゃないかな。取り敢えずさ、遅刻する前に行って来なよ』

 

 

アーシェスがイオンの背中を軽くポンと押す。

 

二人が立っている場所は、2課の仮本部となっている潜水艦が、街に駐在する際に使われている港である。二人が会話している場所から数メートル離れた先には、クリスが「早くしろ」と言いたげな視線を送りながら立っている。

 

 

「…そうだよね。うん!行ってくる。少しの間だけお留守番よろしくね。あなたっ!」

 

 

『うん。任された。僕がいないからって寂しくなって泣かないようにね』

 

 

「もうっ、子供じゃないんだから。そーゆーあなたこそ、私がいないからって泣いたりしないようにね」

 

 

『うーん、否定しかねる』

 

 

「えぇっ!?」

 

 

「いつまで夫婦漫才やってんだ!そういうのは家でやれ!とっとと行くぞ!」

 

 

朝っぱらから見せ付けられたクリスは遂に痺れを切らし、港に催促の激が響く。

 

 

『ほら、クリスが怒ってるよ』

 

 

「あなたがイジワルするからいけないんでしょ。じゃあ、いってきまーすっ!」

 

 

『いってらっしゃい』

 

 

手を振るアーシェスに見送られながら、無邪気な子供のような笑顔でパタパタとクリスの元へスカートを靡かせながら駆けていくイオン。彼女が身に付けていたのは私立リディアン音楽院高等科の制服だった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ったく。なんであたしが朝からお前らのイチャこらを見せつけられなきゃいけねぇんだよ」

 

 

「えへへ、ごめんねクリスちゃん。アーシェスとお喋りするの楽しいから、つい」

 

 

「イチャついていたことに関しては否定しないんだな……」

 

 

二人はたわいのないことを喋りながら歩いていく。喋っているといってもイオンが話題を基本的に振って、それに対してクリスが相槌を打つことが専らである。

 

イオンとクリスの関係は比較的良好である。別段、他のメンバーと仲が悪い訳ではないのだが、クリスとは共に過ごす時間が長かったのだ。

 

 

何故ならーー

 

 

 

「暫く面倒を見てやるようにおっさんに言われてるから仕方ないけどよ。毎回毎回あたしが顔出すタイミングでイチャ付き合うのはどうにかなんねぇのか?」

 

 

ーーー世話係。

クリスは歳が一番近いという理由で弦十郎から身の回りをサポートしてやるよう言伝を受けていた。隠された理由として他人との付き合い方を上手くやれるようにと弦十郎がクリスを案じて任せてみたのだが、本人は気付いていない様子である。

 

クリスは当初、自分には向いていない、とはっきり断ったのだが、その場に居合わせていたイオンの捨てられた子犬のような目とあからさまに落ち込んでいる様子に見兼ねて勢いで承諾してしまったのだ。

一度引き受けたからには責任があると何かと世話を焼くクリスに、イオンがクリスに対し、他より強い友愛を感じるのは時間の問題であった。

 

 

「えっ、やっぱり弦十郎さんに言われてたから私に嫌々付き合ってくれてるの?私、クリスちゃんとは友達になれたつもりだったのに…」

 

 

「〜〜〜っ!べ、別にそんなこと言ってないだろ!その目やめろ!そ、それに友達って……その、あ、あたしも…なんだ、そんな風に最近は感じてたり、しなかったり…」

 

 

イオンがしゅんと落ち込み、困り顔でクリスを見る。その様子に目を逸らしながら、尻すぼみに答える。

イオンが自分の前では響や翼、2課の職員たちとは違う表情を見せたりと自然体な様子、(アーシェスを除き)真っ先に頼られるイオンから自分への信頼感、時折甘えるようにお願いしてくる子供っぽさ、日常生活では結構ドジなところがあり、ほっとけなさから庇護欲を醸し出す、など様々なことからクリスはすっかり絆されており堕ちていた(イオンちゃん欠乏症予備軍)

 

 

「よかったぁ〜。私だけが一方的かと思ったよ、嬉しいなぁ」

 

 

曇り顔から一転、眩しいくらいの笑顔を咲かすイオン。

 

 

「……お前、わざとやってる訳じゃないよな…」

 

 

「??」

 

 

イオンの満開スマイルにすっかり毒気を抜かれたクリスは、無自覚な小悪魔をジト目で一瞥すると溜め息混じりに小さく呟くのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「んじゃ、また後でな」

 

 

場所は私立リディアン音楽院高等科の職員室前。今日はイオンの初登校日、つまりは転校初日ということで、クリスがここまで連れて来ることとなっていた。

 

 

「うん、ありがとう。次は教室でね!」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(転校生がそんなに珍しいか?)

 

 

クリスは教室の自席に座り、頬杖をついて朝から姦しく賑わっているクラスメイト達をボーッと眺めていた。

 

イオンが転入するクラスはもちろんクリスが在籍しているクラスだ。夏休みを目前に控えた時期に来る転校生。既にクラスでは耳の早い生徒や噂好きの生徒たちにより話題は転校生で持ち切りだった。

 

 

「はーい、みなさん。ホームルームの時間ですよ」

 

 

教室の扉が開き、担任の女教師が教室へと入ってくる。先程までお喋りに夢中になっていた生徒たちは、自分たちの席へと戻っていく。

 

 

「今日はみんなも噂では聞いているかも知れないけど、転校生を紹介します」

 

 

全員が着席したのを確認すると、女教師は転校生の紹介を宣言した。この一言で教室内は再び騒がしさを取り戻す。女教師はそのまま、入ってきていいわよ、と廊下に向けて声を掛ける。教室の扉が開かれ一人の少女が入ってくる。

少女は教壇の前まで進むと、黒板に名前を書いていく。教室はいつの間にか、チョークで文字を書く音が響くくらいに静かになっていた。皆、興味津々という訳である。

 

 

「イオナサル・ククルル・プリシェールです。長くて言いづらいので、イオンと呼んでください。これからよろしくお願いします」

 

 

黒板から向き直り、教室内を見渡しながら軽い自己紹介の後、ぺこりと会釈するイオン。生徒たちは拍手でそれを迎える。

 

 

「イオンさんは、日本語が堪能ですが、最近海外から日本に引っ越されて来たばかりですので、みなさんでサポート出来るところはしていきましょうね。それでは、少し早いですがホームルームは終了とします。次の授業まで時間ぎあるので、周りに迷惑にならない程度に親睦を深めておくと良いかもしれませんね」

 

 

女教師はそのまま教室から足早に出て行く。少し間を置いてからイオンの周りに生徒たちが押し寄せ、転校生行例の質問タイムが始まる。突然の人波に困惑しつつも律儀に質問全部に答えているイオンを他人事のように眺めているクリスに、イオンから助けを求めるアイコンタクトが送られてくる。

 

 

「お・こ・と・わ・り・だ」

 

 

クリスは、ワザと大きな口パクでイオンからの救援信号を断る。自身の性格を分かっている上で、クリスとてわざわざ火中の栗を拾うような真似はしたくないのだろう。

 

拒絶されたイオンは途端に余裕を無くしたのか、見るからに狼狽え始めている。しかし、『美少女転校生』という好奇の対象となったイオンを女子高生達は掴んで離さない。

 

 

「えっと、あの〜…ク、クリスちゃーん!」

 

 

「このバカっ!」

 

 

遂に名前を呼びあげる強硬手段に出るイオン。そっちから助けてくれないなら、こっちから近付いて巻き込んでいくという悪魔的な発想である。これには思わずクリスも声を上げてしまう。イオンの誘導とクリスの発言に自然と注目はクリスへと移る。

 

 

「雪音さん、知り合いなの?」

 

 

クラスメイトの一人がクリスの態度を見て、関係性を伺ってくる。突然の転校生に対して、バカ呼ばわり出来るということは一定以上の付き合いが無いと出来ない軽口なので当然の疑問である。

 

 

「あ、あぁ、ちょっとした知り合いっていうか…」

 

 

「私とクリスちゃんは友達だよ。まだこっちに慣れていない私にすごく親切にしてくれたんだぁ。それにねーー」

 

 

「は、はぁ!?ちょっと待て、何言ってるんだお前!」

 

 

クリスはそれとなく誤魔化そうとしたが、イオンが遮るかのように言葉を被せる。邪魔立てされたクリスはイオンをジロッと睨むが、当の本人はそれに気付くことなく、嬉しそうに更にペラペラと語り出そうとするので、止めに入ったクリスが席を立ち上がったところでチャイムの音が校舎に鳴り渡る。

 

その後、イオンは『雪音さんの友達』という認識が拍車となり、放課後を迎える頃には、すっかりクラスに馴染んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

かくして、イオンの学校生活は幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

ーーこの件以来、仲良しコンビとしてクリスとイオンはなにかとペアで数えられるようになるが、それはまた別の話である。

 

 

 





タイトル名が浮かばない時は、ガスト作品のBGMタイトルからテキトーに取ってます。



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