メ号作戦   作:シラー

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なんか筆が乗ったので書きました。


落伍

「まもなく木星軌道に進入します」

 

冥王星沖での惨敗から十日後、第一艦隊残存艦艇は木星に到達しつつあった。先頭を漕ぐのは旗艦『きりしま』でそのすぐ後ろに駆逐艦の『しらぬい』が後を着いていた。

天本は被害状況を確認を兼ねて、機関室を訪れていた。

 

「先任機関士、主機の状態は? 」

 

「一応ですが応急処置は終わってます。しかし、出力八割が限度です。今でも六割で回してます。八割で回せば三十分で限界ですね」

 

腕を組み、苦々しげに話す先任機関士は己の無力さを感じていているのがありありとわかった。

 

「補機の状態は? 」

 

「推進材を半分使いきってます。予備を足しても六割程度です。全力で吹かせば二時間くらいで使いきりる量しかないです」

 

「わかった。主機を潰さないよう頼む」

 

舌打ちしたい気持ちを抑え、機関室を後にする。問題は敵と接触するかだった。機関室を訪れる前に砲雷長に確認したところ、一番主砲は無事だが二番主砲は一発持つかどうかだという。ミサイルも残弾は半分しか残っておらず、交戦は無謀で戦闘どころではないのが本音だった。閉じている艦橋の隔壁のロックをはずし、艦橋へ入る。

 

「遊星爆弾(ふた)、型式MN1。コリジョンコース、左舷通過、距離一四〇〇(ひとせんよんひゃく)。木星軌道通過します」

 

レーダー手を兼任している副長が読み上げる。

遠くでぼんやりとさえ見えない虚空を進む遊星爆弾。この距離から撃って軌道を逸らせるか? いや、無理だ。この射程圏外では無理だ。それでも。例え無駄であってもと、撃ちたくなる気持ちを押さえ込む。

 

あの青かった地球を醜い赤い色に枯らした悪魔の兵器。我々はもう、あれを止められない。己の無力さを再確認させる(遊星爆弾)は尾を引くことさえなく行きすぎていく。

 

第二次火星沖会戦。戦いに勝って、戦争に負けた。辛うじて戦線は支えられても、その先が続かなかった。一会戦ごとに支払う莫大な物資とそれに比例するの人命。阻止できたのは艦隊による直接攻撃。艦隊を使わない間接的な手段は我々の防御を障子紙を破るようにあっさりと貫いて大地を干していった。

根本的な機関の出力の低さから来る火力の弱さとそれに伴う防御の脆さ。新たに開発された陽電子衝撃砲(ショックカノン)という決戦兵器。聞えは良いが内実はあまりにも情けなかった。搭載しているのは巡洋艦以上、しかも艦首に一門、連射は不可能。聞こえの良い、しかし内実を伴わない兵器での作戦は艦隊を磨り減らし、やっとの思いで敵に痛打らしきものを与えたとしても、それを上回る兵器での攻撃は勝利に沸く我々を一夜で現実に引き戻した。

 

地球に降り注いだ遊星爆弾の雨は地球の体力を着実に奪っていった。破壊される大地をただ眺めていることしか出来ない国連宇宙軍を嘲笑うように敵は遊星爆弾を降らし続けた。

地下都市に逃げ込んでも、遊星爆弾に付いている敵性植物は日に日に汚染を地下に広げていく。閉鎖区画は月毎に広がり、生存を脅かす。徐々に押し寄せる恐怖に首まで浸りながら、今日を生きていく人類は希望など彼方に置き忘れ、絶望に身を焦がしつつ、現実逃避からか暴動に走る日々。明日を無事に迎えられることを願い、眠りに就く。

 

そんな日々もあと一年。それで終わる。科学者たちの結論は簡潔で、無情だった。地球人類は生存競争に負けたのだ。敵のカタチや何かであるかさえ知ることもなく。地球人類の絶滅という事実によって。

 

「後方に重力震。艦影4!!」

 

下らない回想は副長の声で吹き飛んだ。

 

「総員、戦闘配置。『きりしま』へ発光信号。『敵艦見ゆ』」

 

「了解」

 

戦闘配備が完了するまでのわずかな時間がもどかしい。

 

「艦種識別、巡洋艦(ひと)、駆逐艦(さん)。距離二〇〇〇(ふたせん)、急速に接近中」

 

「『きりしま』より返信、『撤退を優先せよ』とのことです」

 

「機関室、どれだけ出せる」

 

「辛うじて第四戦速が限界です。それも三十分持つかどうか」

 

「敵艦発砲!!」

 

くそったれ、口を思わず突きそうになる声を飲み込んで、指示を出す出すことに集中する。

 

「先任機関士、死にたくなければ持たせろ。航海長、回避運動急げ!! 。砲雷長は応戦用意!!」

 

無音の赤い矢は木星の強力な磁場の影響を受けてねじ曲がる。なかなか当たりはしないが恐ろしいことに変わりはない。蛇行して回避を続けるが敵艦のほうが(速度)が上だ。このままでは追い付かれてしまうことは確実だ。

 

「まもなくエウロパの軌道に進入!! 重力が不安定です」

 

あとを追うガミラス艦は構わず突っ込んでくる。羨ましくなるほどの安定性だ。

 

「主砲射撃用意よし」

 

「射撃開始」

 

緑に光る光線は回避する必要さえ認めないのかそのまま突き進む敵艦に命中。当然の如く弾かれ怯むことさえなくぐんぐんと近づいてくる。

 

「航海長、エウロパに迎え!!。エウロパの割れ目に滑り込むんだ!!」

 

「か、艦長本気ですか!? 」

 

「やれ!! 」

 

「り、了解!!、進路そのままエウロパへ向かいます」

 

「通信、『きりしま』に送れ。『我、囮として戦線を離脱。『きりしま』は直ちに離脱されたし』だ。」

 

「わ、わかりました」

 

「艦長、ガミラスはついてきますか? 」

 

「やつらは付いてくる。ガミラスの指揮官は有能な奴だ。奴さん、冥王星ではカ二号の二の舞を避けて後ろから来たんだ。陽電子衝撃砲(ショックカノン)を恐れてる。ならそれを積んでない俺達(しらぬい)を追ってくるさ」

 

「しかし」

 

不安そうな砲雷長は質問を重ねるが天本は軽く肩を叩き大丈夫だと言う仕草をする。

 

「大丈夫だ。俺達は冥王星から生き延びたんだ。今度も生きて変えれる」

 

 

結果から言えば『しらぬい』は生き残れた。大破状態でほぼほぼ航行不能。慣性の法則に従いボロボロになりながら残った僅かな推進剤でスラスターを吹かして、軌道を修正しながら帰投したのだ。帰還したのは『ヤマト』が出撃して冥王星が陥落する少し前だった。

 

 

 

 

 

極東管区行政府第四庁舎

国連宇宙軍幕僚本部 第三会議室

 

第三会議室では藤堂極東管区行政府長官以下、土方空間防衛総隊司令、芹沢軍務局長などの高級幹部のごく一部揃っていた。その部屋では怒りに震える天本の声が部屋の壁を叩いていた。

 

「一体どういう事ですか!! メ号の第一艦隊が囮というのは。我々は軍人です。戦えと言うのならばいくらでも戦いましょう。しかし囮と言うことを何も言わずに出撃させると言うのは無駄死にです!! 」

 

「天本君。先程も述べたように、『ヤマト計画』の為に必要な事だったんだ。理解してくれ」

 

「理解? 一体何を理解しろというのですか!! 敵基地を叩くなどと嘘をついて、巡洋艦七隻、駆逐艦十二隻をむざむざに死地に追いやって。これのどこが作戦なんですか!! なんのための幕僚本部ですか!! 」

 

「やめんか、天本。我々も苦しいのだ。わかってくれ」

 

土方の制止を天本は振り切った。例えクビになっても構うものかと言葉を続けた。

 

「土方司令、あなたもご存知だったのですね。あの作戦が囮でしかないことを」

 

土方は沈黙でそれに答えた。

 

「あのとき、出撃前に質問にお答えいただいたあれは嘘だったと。そういうことですね」

 

「天本君、君の不満はよく分かる。戦友を失って不安定になっているのだろう」

 

感情的になって追求をやめない天本に今度は芹沢が間にはいる。しかし諭すことを試みたその発言は天本の最後の自制心を絶ちきる一撃だった。

かつかつと芹沢の席に近づくと口を開く。

 

「芹沢軍務局長、貴方は何をいっいるのですか。戦友を失って不安定? 当然でしょう。貴方に騙され殺されたのだから。作戦説明の時に貴方は仰りましたよね。君達が最後の希望だと。たのむと」

 

今までのように激することなく静かに発された言葉は部屋に静かに染み渡る。回りも何も言えない空気で天本は喋ることを止めない。

 

「しかし実際は『ヤマト計画』の為に使い潰されることが決まっていたのですね。司令部は我々を信じておられなかったのですね。必要だったのは沖田提督。他はいらなかった」

 

「そんなことはない。我々は君達を信じている」

 

「ならなぜ教えていただけなかったのですか」

 

「それが最高機密だったからだ」

 

「我々を円滑に囮にするための、ですね」

 

思わず鼻白んだ芹沢に言葉をぶつける。

 

「帰還してから伺いましたよ。最高機密として現場に知らせなかったのは貴方の強い意向が働いたそうですね」

 

それは、としか言えない芹沢を放置して天本は背中を向ける。芹沢がそれを見て安心したように息を吐いた瞬間。

振り返り様になんのためらいもなく拳を叩き込んだ。

 

「あんたみたいな軍人がいるから!! 現場を見ないで、ただ上の理論を振りかざして、どれだけの軍人が死んだと思っているのですか!!」

 

無様に床に叩きつけられ、一瞬、何をされたのかわからないという顔をした芹沢は声をあげる。

 

「け、警備を呼べ!!」

 

その言葉で現実に引き戻された藤堂等は思わず天本を抑えにかかる。一瞬で会議室は怒号と悲鳴の鳴り響く場所になった。土方が天本を取り押さえようとしても天本は強引に振りほどこうとする。天本に伸びた手は胸ぐらを掴み、誰かが脇腹に蹴りを入れる。まさしく乱闘真っ最中の会議室は更なる混乱に陥ることになる。

誰かが呼んだのか警備員が、扉を蹴破るように会議室に突入したのだ。室内の状態に驚いた警備員は、芹沢に殴りかかっている天本を見て、慌てて天本に飛びかかる。振りほどこうと暴れる天本に容赦なく殴り付け、とっくに投げ捨てられた制帽は土足に踏みにじらる。団子の中から辛うじて顔を出した芹沢は顔を真っ赤に怒らせていた。

 

ようやく落ち着いたのは十分近くたってからだった。混乱を落ち着かせたのは『ヤマト』からの急報だった。

 

「会議中失礼します、『ヤマト』より入電、『我、冥王星を陥落せり』です」

 

その報告は会議室の落ち着きを取り戻すには十分だった。

 

「やってくれたのか。『ヤマト』が」

 

いち早く混乱から戻ってきた藤堂がポッツリと呟く。小さかったが、部屋に響いた。




鈍色の盾もちゃんと書いてます。
三日いないに投稿できればなと思ってます。
今後もヤマトは気が向いたら続けようかなと。
もし書くとすれば2202編ですかね。
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