ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生with軍師の娘   作:雑賀衆見習い

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イキキル⑥

~苗木視点~

マークさんの手によって、事件の真相は明らかになった。舞園さんが僕にコロシの濡れ衣を着せようとしたこと、舞園さんが桑田君をコロそうとしたこと。

………正直、知りたくなかった。

 

「舞園さん、聞かせてもらえませんか?桑田さんを殺害しようとした理由を」

 

マークさんが舞園さんに問いかけるも、全然反応が無い。

でも、知りたい。一体どうして、一緒に脱出しようと誓った舞園さんが、僕を騙したのか…

 

 

 

「はいはーい!その質問に関しては僕がお答えするよ!」

「「「「!」」」」

 

先ほどの重苦しい空気に不釣り合いな高い声でそう言いだすのは、どこからともなく現れたモノクマ。

 

「もう!突然現れないで下さいよ!ビックリするじゃないですか!」

「うぷぷぷぷ、マークさんはびっくりさせられる側の気持ちが分かったかな?それはそうと、舞園さんも怖いねぇ、あんなかわいい顔して一緒に出ようと約束した相手を身代わりに自分だけ出ようとヒトゴロシをするなんてね。桑田クンも桑田クンで工具セットなんて持ってきて何するつもりだったんだろうね。あぁ~想像しただけでもゾクゾクするぅ!」

 

まるでこの間観てきた映画の感想を話すような口調で、興奮したように嬉々として語りだすモノクマ。今ここで起きたことをすごく喜んでいるようにも見える。

 

「でも、もっと面白くなると思っていたのに、マークさんのせいでコロシアイは無くなりました。とってもガッカリです…」

「あなたの趣味嗜好なんてどうでもいいです。それより、舞園さんの理由って何ですか?」

「いや、マーク、どうでもいいってことはねぇんだけど…」

 

うん、桑田君に賛成。コロシアイが起きなかったことを残念がるモノクマも、それをどうでもいいと切り捨てるマークさんもおかしいと思う。

 

「うぷぷぷぷ、口で説明するより、実際見てもらったほうが早いよね。というわけで、こんなものをご用意しました!」

 

そう言うと、部屋のドアが開き、二体のモノクマが大きなテレビを抱えて入ってきた。

 

「舞園さんの“動機DVD”を流したいと思いま~す!」

「やめて!」

 

反射的に舞園さんが飛び出すが、それ以上の速さでマークさんが抑え込む。

舞園さんも抜け出そうとじたばたしているけど、全然抜け出せそうにない。マークさんってひょっとして腕力あるのかな?

 

「それでは、どうぞー!」

 

その言葉を合図に、テレビの画面がついて、舞園さんの“動機DVD”の再生が始まった。

その映像は、舞園さんが所属するグループのコンサート映像のようだった。

舞園さんをセンターに、大事な仲間たちと踊っている映像がしばらく流れた後、あの忌々しい声が聞こえてきた。

 

「超高校級のアイドルである舞園さやかさんがセンターマイクを務める国民的アイドルグループ。そんな彼女たちには華やかなスポットライトが本当によく似合いますね。ですが…」

 

そこで、画面が突然暗転した。そして、僕らは信じられないものを目の当たりにした。

 

「えっ⁉」

「はぁ⁉」

 

荒れ果てたステージ上からは舞園さんの姿は消えていた。だが、それ以上に目を引いたのが、ステージ上にぐったりと倒れこんだほかのメンバーたちの姿…

有り得ないはずの光景に目を奪われていると、映像の大型モニターに何故かモノクマの顔が映し出された。

 

「訳あって、このアイドルグループは解散しました!彼女たちがアイドルとして活動することも、スポットライトを浴びることも二度とありません!つまり、舞園さやかさんの“帰る場所”は、もうどこにもなくなってしまったのです!」

「では、ここで問題です。この国民的アイドルグループが解散した理由とは⁉」

 

その後、再び暗転した画面に『正解発表は“卒業”の後で!』と表示された。

 

「…なるほど、仲間の安否を知るために、今回の事件を起こした。ということですか…」

「うぷぷぷぷ、こんな本当かどうかも分からない映像一つでコロシを計画しちゃうなんて怖いねぇ。しかも一緒に脱出しようと約束した苗木クンに罪を被せようとするなんてアイドルも何もあったもんじゃないよね。うぷぷぷぷ………あれ、マークさん?」

 

マークさんはモノクマの言葉にも反応せず、顎に手を当ててなにか考え込んでいるみたいだ。

 

「まぁいいや、面白いことは起きそうにもないし、あとは非難するなりコロすなり好きにすれば?」

 

じゃ~ね~、と三体のモノクマが部屋から退出する。とはいえ、僕にはこの重苦しい空気はどうしようもなかった。桑田君もおそらく同じ、マークさんは考え中みたいだし、マークさんから解放された舞園さんも押さえつけられた状態のまま動こうとしない。

そんな空気に耐えられなくなったのか、桑田君が口を開いた。

 

「なぁ、舞園、今の映像が理由で…」

「…えぇ、そうですよ。私にとって、アイドルという仕事は私のすべてだったんです。何を犠牲にしてでも“あの場所”を今まで守ってきたんです。なのに、なのに………帰る場所が無くなったってどういうことですか!なんで私がこんな目に合わなきゃいけないんですか!私は、どうしても確かめなきゃいけなかったんです!だから…だから私は!」

「だから、苗木さんを騙し、桑田さんを亡き者にしようとしたんですね」

「しょうがないじゃないですか!ここにいたって仲間のことも私の居場所についても何も分からないじゃない!」

 

舞園さんにとってアイドルというのは、きっと何にとっても代えがたいものなんだろう。幼いころからの夢をかなえるために、一体どれほどの努力をしてきたのだろう。

水中を息継ぎ無しで全力で泳ぎ続けなければいけない世界…

思えば、学校の授業こそ出席していたけど、下校時にはいつも事務所の車が迎えに来ていた。土日でも基本的にはスケジュールが詰まっているという話だったし、私生活なんてものは、存在しなかったのかも知れない。

それだけ大変な生活を続けてでも、アイドルであり続けた舞園さん。

 

「舞園さん」

「な、何ですか。苗木君」

「………一つだけ、聞かせて」

 

僕が気になるのは一つだけ。

 

 

 

 

 

~舞園視点~

きっかけは、幼いころにテレビで見たアイドルに憧れたことだったと思う。両親は仕事で家を空けることが多く、一人で留守番することも珍しくなかった。

そんな私にとって、その寂しさを紛らわせるのがテレビだった。だから、テレビで見るうちに、アイドルを見て、そうなりたいと思ったんだろう。ただ、芸能事務所に入ってからはレッスンを通じて自分を追い込むうち、どうしてアイドルを志したのかは忘れてしまった。

それでも、私には幼いころから努力を続けてきた“アイドル・舞園さやか”が何より重要だった。だから、アイドルとしての私を守るためなら、どんなことでもした。

こういうことを言うと、枕…を思い浮かべる人もいるだろう。でも私は、というより私が所属する事務所では、そういうことは絶対ないと断言できる。

別に規律がしっかりしているとか、道徳心があるとかじゃない。

枕に限らず、裏でのつながりや非公式な取引を別の事務所に所属するアイドルが行った場合、私の事務所はそれをいち早くキャッチし、証拠を押さえたうえで、その事務所や所属アイドルに圧力を加えるのだ。そうやって競合相手を抑え込み、仕事を獲得していく。

たまに、そういった圧力を加えても屈しない人もいたが、そういう相手には遠慮なく不正を公開していた。私たちの事務所にとっては競合相手を減らすことが目的であるため、相手が芸能界から消えたとしても何も問題ないから。

そして、容赦がないのは私の事務所に所属するアイドルとて変わらない。もし私たちのグループの誰か一人でも裏での営業があれば、翌日には全員が解雇を言い渡される。自分たちが他事務所に脅しをかけているため、自分たちがそれをされれば身動きが出来なくなるのが分かっているからだ。

そんな風に追い込まれて、芸能界から追放されたアイドルを私は何人か知っている。だからこそ、私は裏での営業を絶対にしない。自分の夢を、そんなくだらないことで失いたくないからだ。

 

ただ、裏での営業をしないだけで、当然自分磨きは欠かさなかった。そのうえで、営業先や番組などで何を求められているのか、率先して読み取るように努めた。下積み時代から自分のファンや番組プロデューサーの考えや意向の読み取りを続けていくうち、相手の表情から考えていることが何となくわかるようになった。苗木君の考えを読み取ったのもここからきている。

顔を見ただけで考えを読み取る力と、裏での事務所の力。この二つが、私を「超高校級のアイドル」たらしめる力なのだ。

 

それでも、トップアイドルを続けていくには並々ならぬ努力が必要で、私生活など存在しないに等しかった。でも私はそれでよかった。私にとってはアイドルこそがすべてであったから。

そんなある日、学校に鶴が迷い込んだ。学校に動物が迷い込むなんて確かに珍しい出来事だけど、それでもしばらくしたら勝手に飛び立つだろうと思っていた。周りもおおむねそんな感じだった。ただ、しばらくしても一向に飛び立とうとしないので気になっていると、校舎から一人の生徒が走っていった。そのあと彼が鶴に何かすると、鶴はすぐに飛び立っていった。最初は彼が追い出したと思っていたけど、後になって鶴がビニール袋を誤って飲み込んでおり、弱っていたことが分かった。彼はのどからそれを取り出したようだ。つまり、彼は鶴を助けたのだ。

その日以降、鶴の恩返しになぞらえて『六中の恩返し待ち』なんて呼ばれる彼が、苗木誠のことが何となく気になるようになった。

 

そして、私は『超高校級のアイドル』として、希望ヶ峰学園にスカウトされ、閉じ込められてしまった。

最初は、自分が知っている人も居たし、みんなで協力して脱出する雰囲気もあって、特に問題はなかったけど、二日目、三日目となるにつれ、だんだん不安のほうが大きくなった。

そして、私は………あのDVDを観た。

信じられなかった。誰かが裏で営業を?いや、それは無い。私のグループのメンバーは程度の差はあれど、みんな芸能界を生き抜く覚悟がある人たちだ。そんな危険な橋を渡るとは到底思えない。しかも大型モニターにはモノクマの顔、何かが起きているとしか思えなかった。

 

確かめないと。守らないと。自分の居場所を。

 

 

 

 

どんな手を使ってでも!

 

 

 

 

そこから、私は計画を立てて実行した。まずは包丁を用意し、苗木君の部屋に向かった。怯える演技も、昔女優として出演したときに培ったものだ。苗木君をだましているとき、時折胸にチクリと刺すものがあったが、みんなの安否を確かめるために無視した。部屋の交換とネームプレートの交換を済ませ、あとはメモを見てノコノコやってきた桑田君を包丁で刺せば、それで終わるはずだった。

予想外だったのは『超高校級の野球選手』の反射神経と、反撃だった。私は彼の反撃によって手を負傷し、包丁を落としてしまった。

このままでは、自分が殺される。無我夢中で私はシャワー室に立て籠った。立て付けが悪く簡単には開かないのは知っていたので、これで一時的にやり過ごせると思った。でも、もし彼が工具セットでこじ開けたら?もう帰ったと安心して出たところを襲われたら?明日、襲ったことを問い詰められたら?

そんな恐怖感に襲われていた時、部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。

まさか、もう戻ってきたのか、まずい、どうすれば…考えても考えても、思考がまとまらない。

すると、シャワー室のドアがガタガタと揺れだした。

だめ、コロされる。いやだ、死にたくない。私は必至で怪我をしていないほうの手でドアノブを握った。

するとすぐにドアの揺れは止み、部屋に入った誰かはすぐに出ていった。助かったと思っていると、また誰か入ってきた。しかも今度は二人。そして片方は………

もう一方の部屋にいるはずの苗木君だった。

シャワー室のドアが開いて、助かったという安堵の気持ちが一瞬、でもすぐに、このままでは濡れ衣を着せようとしたのがばれてしまうという焦りが沸き上がってきた。そこで私は、苗木君に話した『私を襲おうとした人物』を桑田君にすることにした。

あとはこの場をやり過ごして、またやり直そう。そう思っていた…

 

でも、その目論見は簡単に崩れ去ってしまった。マークさんの手によって。

こうなってしまっては、もう苗木君を利用するのは難しいだろう。明日になれば今回の一件で、全員に警戒されてしまうだろう。

もうおしまいだ。ここから出ることも、みんながどうなったか知ることも、もう私には出来ない。

 

「舞園さん」

「な、何ですか。苗木君」

「………一つだけ、聞かせて」

 

何を聞きたいんでしょうか。いっそのこと裏切られた復讐とかで包丁で刺してくれたら…

 

「舞園さんは、今でも外に出たいと思っている?」

 

どうして今更そんなことを、もうどうしようもないのに

 

「…出たいですよ。私には、あの場所しかなかった。小さなころから、トップアイドルになるために、今はトップアイドルの座を守るためだけに生きてきたんです!アイドルは私のすべてだったんです!だから、どうしても確かめたかった…」

「………だったら、確かめに行こう」

 

………え?

 

「…何言ってるんですか。分かってるんですか!私は貴方を騙したんですよ!」

「今まで舞園さんが、アイドルとしてどれだけ努力をしてきたのか、僕には正直想像もつかない。でも、それだけ必死に守ってきたなら、簡単に手放しちゃだめだよ」

 

どうしてここまで言えるのか。一体、どんな裏があるのか。

そう思って表情を読み取るけど、本当に私を心配しているようにしか見えない。

 

「一体、何が目的なんですか。私に何をさせたいんですか!」

「約束しただろ。僕がここから君を出してみせる。どんな手を使っても絶対に、って」

「………え?」

 

あんなの、ただの口約束じゃ………

気づくと私は苗木君に抱きしめられていた。

 

「もう一度言うからよく聞いてね。僕がここから君を出してみせる。どんな手を使っても絶対に」

 

ああ、今ようやく分かった。

私の周りにいた、利害関係でつながっているわけじゃなく、ただ純粋に誰かを助けたいと思う心。そんな優しさに、私は惹かれたんだ。

 

「………ごめ……なさい。苗木…くん……ごめん…なさい」

 

そのあとは号泣しまって、うまく言葉を紡げなかった。

騙した相手にすがって泣くなんて、自分でも都合がいいなと思う。でも今は、今だけはそれでもいいと思った。

そんな私でも、今私をやさしく抱きかかえてくれている苗木君なら許してくれそうな気がした。

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