ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生with軍師の娘 作:雑賀衆見習い
~舞園視点~
私が泣き続けている間、苗木さんは黙って私を抱きしめてくれた。気づいたら桑田君は居なかった。多分先に帰ったんだと思う。ようやく落ち着いたと思ったら、マークさんが突然口を開いた
「で、どうするんですか?」
「えっと、何を?」
「舞園さんの処遇です。今回、彼女は苗木さんを裏切り、桑田さんを殺害しようとしました。これは到底許されることではありません」
確かにマークさんの言う通りです。私は苗木さんに捨てられてもおかしくない…
「特に何も考えてないよ。というか、そんなことしないよ」
「どうしてですか?彼女は貴方の信頼に付け込み、利用しようとした。これを無罪放免とすれば、今後同じことをするかもしれません」
分からなくもない。だって私の事務所でも、芸能界のルールに違反した人にはペナルティが課せられていた。それは罰を与えるというだけでなく、自分が何をしたのか分からせることで再びルール違反をさせないようにするためだ。
だから苗木君が私に何かしてもおかしくない。
「もう舞園さんは裏切ったりしないよ!」
「どうしてそう言い切れるんですか!すでに苗木さんは一度舞園さんに騙されているんですよ。それだけじゃない、今後もモノクマによる殺し合いを誘発させる“動機”がばらまかれるでしょう。そうなれば、貴方や舞園さんが狙われることだって出てきます。誰が狙われるか分からないこの状況で、再び彼女が貴方を切り捨てないって言えますか。舞園さんをここから出してみせるって言えますか!」
マークさんが圧力をかけるように、顔がどんどん険しくなっていく。でもそれ以上に、私は独りぼっちになってしまうのではないかと怖かった。でも、私は苗木さんを裏切ってしまった以上、文句は言えない…
そんな私の不安が伝わったのか、苗木さんが私を強く抱きしめながら、こう強く言い放った。
「マークさんの言うように、モノクマが何かしてくるかもしれない。僕や舞園さんが狙われるかもしれない。それでも、僕は舞園さんと約束したんだ。だから彼女のことは僕がここから必ず出してみせる!諦めないことが、僕の取り柄だから」
………今更ながら、騙してしまったことに対する罪悪感で胸が苦しくなった。私は、こんな人を身代わりにしようとしていたんだ。
「………フフッ」
「なっ!」
「ちょっと!苗木君に失礼ですよ!」
思わず声が出てしまった。でも、人の決意を笑うのはちょっとどうかと思う。
「あぁごめんなさい。いや決して馬鹿にしたわけじゃないんです。なんというか、あの人と同じだなぁ、と思っただけです」
「あの人?」
「知り合いに一人いるんですよ。たとえ敵がどれほど強大であろうとも、たとえ状況がどれほど絶望的でも、絶対に希望を捨てず、仲間を決して見捨てない、今の苗木さんによく似ている人が」
マークさんがとても楽しげにその人について語っている。表情もさっきとは全然違っていて、本当にその人が好きなんだと分かる。
「すみません、実は苗木さんを試していたんです」
「僕を試す?」
どういうことだろう。そもそも何を試していたんだろう。
「舞園さんが苗木さんを利用したのに気づいたとき、苗木さんが彼女をどうするのかを観たかったんです。舞園さんを切り捨てるのか。それとも彼女を守ろうとするのか。もし、それでも舞園さんを守るというなら、私は苗木さんの軍師としてさせてほしいな、って」
「え?じゃあ…」
「ええ、手伝わせてもらえませんか?この場所から、みんなで脱出するんです」
マークさんの申し出は、私たちと一緒に脱出するというものだった。確かに、マークさんの頭脳なら脱出に大きく貢献できるかもしれない。
「それはありがたいけど、どうして僕なの?軍師として仕えるなら、十神君のようなリーダーの素質がありそうな人のほうがいいような気がするんだけど…」
「いえ、十神さんじゃダメなんです。確かにあの人は、人の上に立つ素質があると思います。でも、全部自分一人ですべてをこなすでしょう。そんな人の軍師になっても、私の出番はありません。それに、今後人を引っ張っていくとしたら、理屈や規律ではなく、人への思いやりや優しさといった“心”が重要なんです」
そう言いながら、マークさんは苗木君に手を差し伸べる。握手を求めるような形で。
「そういった意味では、自分を騙した相手さえ救おうとする苗木さんが一番ですから」
それを見たくて、私の計画を苗木さんの前で暴いたんですね。でも確かに、苗木君以上にやさしい人はいないと思う。
「そういうわけで、これからよろしくお願いしますね。苗木さん!」
「ああ、うん。よろしくお願いね」
そういって握手を交わす苗木さんとマークさん。でも時間はおそらく深夜帯。だから…
「ふぁ~」
マークさんが大きなあくびをしてしまった。私もつられそうになる。
「すみません。もう遅いので朝日奈さんの部屋に戻りますね」
「じゃあ、僕たちも寝ようか。舞園さん」
そう言って苗木君は私の部屋の鍵を出してきた。それを受け取るときに、苗木君の手に手を重ねる。
私の決意を、苗木君にしっかり伝えるために
「苗木君。私は貴方に、本来ならばどれだけ謝っても許されないことをしました。それでも、苗木君があの約束を守るのなら、ここから出してくれるのなら…私も今度こそ、助手として貴方の力になります。これから先、モノクマによるコロシアイを誘発させるための工作は次々と出てくるはずです。ですが私は、自分が一番なりたかったものを思い出しました。ですから、たとえモノクマが何をしてこようとも、もう惑わされません!必ず生きて、ここを脱出しましょう!」
苗木君が真剣な眼差しで手を握り返してくる。表情を読み取らなくても、伝わっているのが分かる。私は鍵を受け取り、部屋を後にする。
「おやすみなさい、苗木君」
「おやすみ、舞園さん」
もし、私が誰かをコロそうとしたことが世間に知られれば、アイドルとしてはおろか芸能人として終わりだろう。それでも構わない。だって私はもう見つけたから。
一度交わした約束だからと、自分を身代わりにした相手すら救おうとする、苗木君のような。
閉じ込められ、出口が無いと分かっていても自分の手で脱出してみせようとする、マークさんのような。
幼いころ、家でさみしい思いをしてた私を画面越しに勇気づけてくれた、あの日のアイドル達のような。
誰かにとっての希望に。今度こそ私はなってみせるから。