ゆらぎ荘の幽奈さん~誅魔の侍~ アニメ化記念第一話先行公開   作:カイナ

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ゆらぎ荘の幽奈さん~誅魔の侍~ アニメ化記念第一話先行公開

 太陽が地に落ち、満月が顔を出し始める。その月を暗雲が隠し、太陽の消えた大地は薄暗い闇へと包まれる。

 逢魔が時。魔の者に逢いやすくなるが故にそう呼ばれるようになった黄昏の時間、灰色のシャツの上に黒色のジャケットを羽織り、黒のジーパンを履いた一人の青年が竹刀を片手に人気のない廃屋へとやってきていた。

 

「……ここか」

 

 リィン、と左手首に白色の紐で巻いた鈴が音を立てる。

 この廃屋には妙な噂が立っている。曰く「夜な夜な人のすすり泣く声がする」、曰く「窓から家具が宙を浮かぶポルターガイストを見た」、曰く「興味本位で入っていった者が誰も戻らない」。

 一つ一つ不気味な噂話だが、青年にとってはよくある事。

 彼はリィンリィンと小刻みに揺れて音を立てる鈴を左手首に巻いたままその廃屋の扉を開けて中に入っていく。彼が扉から手を離すと共に、何もせずに扉は締まっていった。まるで廃屋そのものが巨大な生物で、扉という口で青年を呑み込み口を閉じたかのように。

 

「……」

 

 青年は廃屋の中を見回す。まるで焼け焦げたようにボロボロなテーブルは朽ちて足が一本折れたのかバランスを崩して倒れており、中ほどから折れたらしい足がその近くに転がっている。同じく焼け焦げた椅子も背もたれの方を下にして倒れており、その役目をはたしていない。

 ガラス張りだったらしい棚のガラスが割れて辺りにガラスの破片が散乱しており、窓を覆い隠す用途のカーテンも破れてしまっている。どう考えても人が住んでいるようには見えず、また人の気配はしない。

 リィン、と再び左手首に撒いた鈴が音を立てる。と思うと鈴はチリリリリリと小刻みに揺れ始めた。もちろん青年は左腕を全く動かしていない。つまり鈴がそんなに小刻みに揺れるなんてあり得ない……それがただの鈴であるならば、だが。

 

「来たか」

 

 そう呟き、右手に持って力なく下げていた竹刀を肩へと担ぐ。

 

「出てこい。お前の霊力にこの鈴が反応している……隠れていても無駄だ」

 

 そう。この鈴はこの世ならざる者——幽霊の持つ霊力に反応して揺れ、その存在の接近を示すレーダーのようなもの。

 そして青年は前方の何もない空間を見据え、元々吊り目の目をさらに研ぎ澄ませてそう言い放った。と、同時に彼の視線の先に半透明の姿の中年くらいだろう男性が姿を現す。

 

「お、お前ぇ……人の家に勝手に上がり込んで……」

 

「いや、もうここ持ち主のいない廃屋扱いだから」

 

 半透明の中年男性の言葉に青年はしれりとそう言い返す。実際には土地の持ち主はいるのだが持ち主からは許可を取っているため問題ない。

 

「う、嘘つけぇ! この家は俺の家だ! 持ち主はここにいる!!」

 

 しかし半透明の中年男性はまるで喚くように叫び、ぶるぶると震える。

 

「やっと、やっとローンが組めてマイホームが手に入ったのに……事もあろうに火事が起きるなんて……信じられるかぁ!!!」

 

 そう怒鳴り声を上げる半透明の中年男性に対し、青年は今回の()()を引き受けるにあたって軽く確認した資料を頭の中で思い出す。

 この廃屋には元々一人暮らしの男性が住んでいた。しかし当時連続放火事件が起きていてこの家はそれに巻き込まれて大火事。住んでいた男性も夜遅くで就寝中だったため逃げ遅れて焼死したらしい。

 

「心中お察しします……だけど、既に貴方はこの世の者ではない」

 

 青年はまるで祈るように目を閉じてうつむき、心中察すると答えた後、再び目を開くと半透明の中年男性を見た。

 

「このままこの世に留まれば貴方は悪霊となり、地獄送りになる……その前に成仏なさってください」

 

「う、うるさい! ここは俺の家なんだ!! 他に行くところなんてないんだ!!」

 

 青年の説得に聞く耳持たず、半透明の中年男性はそう喚くと両腕を掲げる。それと同時に家の中の家具が浮かび上がった。その光景に青年は「うげ」と声を出す。

 

「ポルターガイストもマジかよ……噂に尾ひれがついたくらいじゃないかと思ってたんだがなぁ……」

 

 幽霊が起こす現象とされるポルターガイスト。そんな超常現象を目の当たりにした青年は頬をヒクリと引きつかせるが、その顔は驚いているというよりはめんどくさそうなものだった。

 

「何の力もないんなら一発当てればいいだけなんだが……これじゃ余計な手間だ」

 

「出ていけえええええぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 焼け焦げたテーブルに椅子、ガラスの割れたガラス棚、挙句には包丁や鍋、フライパンなど家に散乱していた家具が次々と青年目掛けて飛んでいく。

 

「まあ――」

 

 しかし、それらの物体の終着点にいたはずの青年の姿が一瞬で消え去った。

 

「な、え!?」

「——ポルターガイストなんて見慣れてるから、この程度なら見切るのは訳ないけどな」

 

 困惑する半透明の中年男性の後ろからそんな声が聞こえる。

 

「がふ!?」

 

 それと彼の腹から一本の竹刀がまるで背中から突き刺したように突き出るのはほとんど同時だった。

 

「自主的に成仏してくれるならそれ用の儀式で払うだけだから苦しまずに済んだが……これは幽霊にはちっとばっか苦しいぞ」

 

「あ、あ、あああぁぁぁぁっ!!??」

 

 竹刀から純白の光が溢れ出る。それはこの世ならざる者を祓う浄化の霊力、まるでその光に巻き込まれるように半透明だった中年男性の身体が光の粒子となって少しずつ消えていく。

 

「ふっ!」

 

 そして竹刀を勢いよく引き抜くように抜くと共に中年男性は完全に消滅、浄化された。それと共にポルターガイストで浮かんでいた家具も次々と落下してガゴンッと音を立てる。

 先程からチリリリリと音を立てて小刻みに揺れていた(幽霊と対峙すれば意識外に置くのが癖づいているため青年は先ほどの男性と対峙した瞬間から今まで全く気にしていなかった)鈴もリィンッと最後に一つ澄んだ音を鳴らすと沈黙した。

 

「終わったか……」

 

 幽霊を探知する鈴が沈黙した。つまり辺りにこの世ならざる者はいない事を確認し、青年は息を吐く。

 それから彼は一応家の中を一通り見回ってから廃屋を出ていく。どうやら廃屋に入った者が戻ってこなかった噂は本当に尾ひれがついただけだったらしく、廃屋には他に人間はいなかった。

 

「さてと……帰ってひと風呂浴びるとするかな」

 

 一仕事終わった充実感と共に、青年はぐぐっと伸びをすると廃屋を後にして帰路につくのであった。

 

 

 

 

 

 青年が今回の依頼を受けた町から電車で数駅のその町——湯煙温泉郷には一軒の下宿がある。

 初期費用ゼロ、保証人不要、即日入居可能、食費は一万五千円で朝夕の二食、露天風呂の温泉付き。それで家賃は月千円という破格という言葉では片づけられない安値である。しかし美味い話には裏があるのがこの世の道理、ここまで至れり尽くせりで家賃が激安なのには理由がある。

 ()()のだ。この下宿——ゆらぎ荘がかつて温泉旅館として賑わっていた頃、露天風呂で学生の死体が発見されたという事件があった。それ以来その学生の霊が旅館を彷徨っているという噂が流行ったせいで客足は途絶え、温泉旅館はあえなく廃業。

 

「今や幽霊が出るという噂で持ちきりの格安下宿ってね……」

 

 現在のゆらぎ荘は良い物件にも関わらず空き室だらけ、数人の物好きが住んでいる超ド級の事故物件だ。青年もその物好きの一人といえるが、青年はククッと笑みを漏らした。

 

「ま、俺みたいな人間にとってはただ家賃が安いだけの超優良物件なんだけど」

 

 しかしそれは一般人にとっての話。青年はむしろ家賃が安い理由であるそれを全く気にもせずに帰路を急ぐのであった。

 ゆらぎ荘は家の周りにお堀があるというどこかのお城のような立地になっており、青年がその玄関へと続く橋を渡ろうとしたその時だった。

 

「ん?」

 

 気配に勘付いた青年が足を止めると同時に彼の周囲を囲むように無数の苦無が彼目掛けて宙を駆ける。

 明らかに異常な状態。しかし青年は慣れたようにふぅと短く息を吐くと腰に提げる形になっていた竹刀に右手を添えた。そしてその竹刀を抜くと同時に彼の右腕がぶれ、四方八方から迫る苦無が一本たりとも彼に届くことすらなく地面へと落下していった。それはまるで見えない何かに弾き落とされたかのように。

 そして苦無が飛んでこない事を確認した後、ぶれていた右腕が出現。右手に握っていた竹刀を先程のように腰に提げる形に戻す。

 

「チッ」

 

 するとそんな小さな舌打ちが聞こえると共に一つの影が彼のすぐ前へと出現する。

 それは一人の人間。紫色の髪を長く伸ばしてサイドテールと呼ばれる髪型に結び、紺色の服に白色のスカートを履き、黒色のストッキングを履いた美少女と呼ぶに相応しい整った顔立ちをした少女だ。しかしその目は青年を睨み眉間には皺が寄っており、端正な顔が台無しになっている。

 

「まだ貴様には及ばず、か」

 

「いや、苦無を打ち落とすのに精いっぱいでお前の位置まで看破する余裕がなかった」

 

 どうやら四方八方から狙う苦無を投げつけた下手人は彼女らしく、青年に苦無が届かなかったのを悔しがっているようだが青年の方も少女の位置を見抜くことが出来なかったと返答する。

 少女は青年に攻撃が届かなかった、しかし青年もまた防御に精いっぱいで少女の位置が分からなかった。「つまり引き分けだ」と彼は言う。

 

「そ、そうか……」

 

「? なんか嬉しそうだな?」

 

「っ! そんな事はない!」

 

 引き分けという表現が嬉しかったのか、眉間の皺が消えて嬉しそうに頬をほころばせる少女に青年がそう漏らすと、少女ははっとした顔になってぷいっと顔を逸らして彼に背を向けた。

 

「あぁそうだ」

 

 しかしそこで少女は何かを思い出したように声を出して再び青年の方に顔を向ける。

 

「仲居さんから伝えるように頼まれていたんだ。さっきゆらぎ荘に新しい入居者が来た」

 

「お、そうか。じゃあ挨拶しとかなきゃな」

 

「必要ない」

 

 新しい入居者が入ったという少女の言葉に青年は今度挨拶をしておこうと考えて口にするが、それを少女はひらひらと手を振って制する。その口には先ほどの嬉しそうなものとはまた別の笑みが浮かんでいた。

 

「そいつが入ったのは4号室だ。短い付き合いになるだろう。下手をすれば明日の朝には逃げているさ」

 

「あー、そうか……」

 

 ククク、と悪戯っぽいどころですまない邪悪な笑みを浮かべる少女に青年は苦笑で返す。

 

「ま、それならそれで縁がなかったってだけだ……やっと男が入ってきて気が楽になると思ったんだが」

 

「……? 男だと言ったか、私は?」

 

 苦笑の後、頭の後ろで両手を組むような格好になった青年の言葉に少女が不思議そうに尋ねる。と、青年は悪戯っぽく笑った。

 

「狭霧がそんな刺々しい態度を取るってことは男に決まってるだろ? お前男が苦手だからな」

 

「っ! う、うるさい! 軟弱な男が嫌いなだけだ!!」

 

 悪戯っぽく笑いながらのからかうような指摘に狭霧と呼ばれた少女は顔を真っ赤にしてまくし立て、再びぷいっと顔を逸らして歩き出す。

 

「とっとと行くぞ藤太! もう食事の時間は過ぎているんだからな!」

 

「はいはい」

 

 狭霧の照れ隠しのような言葉に青年――藤太はくつくつと笑いを零しながら彼女の後を追うように歩き出すのであった。




 ゆらぎ荘の幽奈さんアニメ化、おめでとうございます!
 というわけでアニメ化を記念してハーメルンにて連載を予定し、現在鋭意設定作成中の幽奈さん二次創作の第一話を短編形式で仕上げ、先行投稿いたしました!
 あ、ちなみに本格的な連載は[ToLOVEる~氷炎の騎士~]の連載終了後を予定しております。ジャンルが両方ともラブコメ&日常&ファンタジー&バトルで被るので平行連載はしづらいです。

 ヒロインは現在考え中ですが、少なくともメインヒロインに狭霧は確定済です。まあヒロイン兼ライバル兼パートナーと言った感じになりそうですけども……。
 そういうわけで連載はまだしばらく先の話ですが、今回のお話だけでもご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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