「んー」
………いつも通りの朝だ。なんとなく朝を感じて目が覚める。外の世界の住人はけたたましいくらいの鶏の鳴き声と共に目覚めるんだと紫はよく言うがそんな起き方をしたことは残念ながら一度もない。というかあのインチキ妖怪のいうことなのだからどこまでが本当かも分かったものではない。外は外、うちはうちだ。
「おーい霊夢ーって誰だこいつ!おい霊夢!」
いつものやかましい声がする。魔理沙はいつもこうだ。ここに来る度に騒いで帰る。とりあえず寝間着から着替える暇くらいはもらってもいいだろう。声を無視して寝間着から巫女服に着替える。
「おい霊夢!居ないのか?上がるぞ!」
いつもより口調が厳しい。さては何かあったな、これ。そんなことを考えながら頭のリボンを整えていると、物凄い勢いで玄関口が開けられた。着替えも終わったし飛び込んできた友人に何を言われるかと思って外に出ると………友人が誰かに肩を貸した状態で入ってきた。
「おい霊夢居るなら開けてくれよ………こいつ背負って玄関開けるの大変だったんだぞ………」
「あはは………悪かったわね」
「ところでそいつは誰?」
魔理沙の肩に寄りかかっている――といっても意識はなさそうだ――男について問うた。すると友人の口からは意外な言葉が帰ってきた。
「え?お前の知り合いじゃないのか?」
「え?」
口調から察するに魔理沙の知り合いではないようだ。すると一つ疑問が生ずる。魔理沙はいったいどこからその男を仕入れて来たのか。
「神社の前に倒れてたからてっきりお前の知り合いかなんかだと………」
場の空気を察してか聞くまでもなく友人は答えてくれた。ただひとつ問題がある。私、その男全く知らないわ。
「心当たりは………ないか。じゃあ本人に直接聞くしかないか………」
とりあえず来客用の布団を敷いて、そこに魔理沙が例の男を寝かせる。こうしてみると身長は(150cmあるかないかくらいで)私より低い。となると成人である可能性は………なくもないけど圧倒的に低いだろう。というかそもそも………里の人間ではないだろう。つい一昨日妖怪退治のために里に降りたがこんな服を着てる人間はいなかった。と、なると………
「外来人………かなぁ………」
私が思ったことを魔理沙が同じタイミングで言葉にする。けれど魔理沙の考えを聞いてみようと思い理由――根拠を聞くことにした。
「なんでそう思うの?」
「だってさ………こいつのてに握られていたこの鎌、どうみてもここのもんじゃないぞ………」
魔理沙から鎌を渡される。鎌は両柄に刃を持つS字状の鎌で、込められている魔力の質は普通の人間が手に出来るような物ではなかった。
「それにこの傷………尋常じゃないって…」
魔理沙が男の服をまくりあげ彼の背中を見せる。その背中は、どうみても戦いによる傷としか思えないほどの惨状だった。皮膚が少し焼け爛れ、鉄の破片がいくつも突き刺さっている。とりあえずこの間紫がくれたぴんせっと?なるもので鉄の破片を抜く。思ったより深くに刺さっており抜くだけでかなりの力を要したがなんとか抜いてみせた。抜いた場所からは鮮血が流れるが、すかさず魔理沙が拭き取った。
「これ………矢尻じゃないか?」
言われてみてみると確かに見えなくもない。ただなにか魔術が懸けられているようで、しばらくすると消えてしまった。私が知るなかで矢を使うのは里の猟師かどこぞの竹林のヤブ医者しかおらず、あのヤブ医者なら矢尻に術を懸けたり出来るのかもしれないが、彼女は多分そんなことはしない。意味のない暴力ではなく実験のための暴力の可能性はあるが、彼女は実験動物はしっかりと管理するはずだし、こんな鎌なんか与えないだろう。これで謎は明らかになるどころかどんどん深まっていった。
「………とりあえず待つしかないか。何か朝ごはん作ってくれ」
「しれっと人に作らせようとするんじゃないわよ………」
とは言ったものの別にそこまで食料が少ないわけではないので作ってやる。とりあえずご飯と味噌汁でいいよね。うん。
「お待たせ~」
「思ったより早かったな」
「伊達に長く一人暮らししてないわよ」
「まぁ流石、っていったところか」
「せやな(感銘)」
「「いただきます」」
「おっうまいぞこれ」
「伊達に長く一人暮らししてないわよ」
「はいはい、流石流石」
十五分ほどで完食し、食べ終わった魔理沙は「ごちそうさま」と合唱し、何故か食器を洗い始めた。遅れて食べ終わった私が流し台に自分の食器を置くと
「ええで」
と零し顔をあげてはにかんだ。めずらしい。たまにはお世話になるとしよう。
ふと気になって庭――神社の参道に出る。彼が倒れていたならなにかあるかもしれない。そう思って参道に出たが、参道には特に変わった様子はない。やはり彼が起きるのを待つしかなく、少しじれったい。魔理沙も同じような気持ちらしく腕を組ながら廊下をウロウロしている。
「くっ………」
一瞬だけ、けど確かに私の耳は捉えた。私でも、魔理沙でもない少し低い声。待っていた事象にはやる気持ちは落ち着かなかった。
(◉'ω'◉¤)
目を覚ますと、たちまち覚醒した俺の感覚器におびただしい量の情報が寄せられる。だが思い当たるような情報は少ない。記憶に照合しない情報が疑問となって俺の頭を少しずつ侵食する。
「お、目ぇ覚めたのか」
目の前にいるのは………三角帽を被った金髪の女子。とりあえずこの環境について知っていそうだ。とりあえず色々聞かせてもらおう。
「ここ、何処ですか?」
「こ、ここは………博麗神社だ」
「博麗神社………」
「お前は何者なんだ?」
「俺は…風詠雹、だ」
「へぇ、風詠雹ね。待ってな、家主を呼んでくる………必要はないようだ」
「あんた、何者?」
金髪の女子が言うにはこの人が家主のようだ。頭に大きなリボンをつけた、巫女っぽい服の女子。少し大人っぽい雰囲気が漂っている。
「あ、介抱していただきありがとうございます」
「あ、どういたしまして」
「ところであんたは里の人間なのかしら?」
「里………?」
里じゃなくて村なんじゃないか?白銀村、って皆呼んでいる。少し違和感を感じながら、俺は同意した。
「里っつーか村だと思いますが………」
「村?この辺に村なんてないわよ?」
「なぁ霊夢、やっぱり外来人じゃないか?」
「かもね………」
外来人?いや日本人だって。日本語通じてるじゃん。イントネーションも普通じゃん。少し独特な思考回路をお持ちなのかな?
「なぁお前、幻想郷って知ってるか?」
「げ、げんそうきょう?」
「ほらみろ霊夢、やっぱり外来人じゃないか」
「そうね………」
すると金髪少女がこっちに向き直って言う。
「今からお前がいる環境をざっと説明するから、よく聞いとけよ」