東方華月鏡   作:夜桜藍夜

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サッソクカオスニナリカケテイル。


弐 不知身

要約すると、ここは日本であって日本でないそうだ。加えて、常識と非常識の境界だそうだ。全然わからん。

 

「ところでえっと…あんたはどうやって来たの?」

「それがよくわかんないんです………」

「あっちの世界で死にかけながら博麗神社まで行ったことは覚えてるんですけど………」

「「博麗神社ぁ!?」」

あれ、なんかすごい驚かれた。そういえばここも神社だけど、何か仕掛けでもあるんだろうか。

 

「あっちにも博麗神社があるの………?」

「でも霊夢、紫もなんか言ってたぜ。あっちにも博麗神社があるって」

「ただ、そんなに簡単には見つけられないような山奥にあるらしいがな………」

赤い方の女の子――もう一人の呼び方からして名前は霊夢だろうか―――がこっちに向き直って尋ねる。

 

「ほんと?」

「う、うん。すごい山奥にあるんだけど、親父が昔よく連れていってくれて」

「てことは、あっちの神社とこっちの神社で何かしらの関係があるんだろうな………」

「どんなところだったの?」

「えっと………そうだ、写真があるよ」

手帳からいつも肌身放さず持ち歩いている親父との記念写真を取り出して見せる。

 

「うお………ホントにそっくりだな………ボロいけど」

「そうね………ってあれ、この人見覚えがある気がする………」

霊夢さんが親父を指して零す。けど、親父はあっちの世界で俺を育てていたし、こっちにいるわけがない。

 

「あ、裕さんじゃない。懐かしいわねぇ」

いきなり背後から声がする。霊夢さんでも魔理沙さんでもない、お上品な口調の声。振り替えると、金髪の女性が――霊夢さんとかとは違う大人っぽい女性が――上半身だけを覗かせていた。

 

「ごきげんよう、霊夢に魔理沙。それと………風詠雹さん、でいいかしら?」

「ご、ごきげんようでございます………」

「あ、いいところに来たわね、紫。この外来人なんだけど―――」

「あ、外に返す必要はないわよ。だってどうせまた帰ってくるもの。それに―――」

突然、紫さんの顔からさっきまでの笑みが消える。

 

「彼はあなたの一週間だけの恩師の、息子さんよ」

「え、それってどういう………」

俺を含めて、その場にいる誰もが明らかに話についていけていなかった。

 

 

 

 

 

「ってことは霊夢はこいつの父親を知っているのか?」

「そうね、そういうことになるわ」

「確かに覚えてるけど………息子って言われても………ねぇ」

少し困ったように霊夢さんがこっちに視線を流す。いや、そんな目で見られても困るんだけど………

 

「ところで紫、あっちに返してもまた帰ってくるってどういうことよ」

「彼はあっちに居場所を持っていないわ」

「え、それってどういう………」

「そのまんまよ。居場所がないからここに受け止められているの」

「え………」

記録が消えている?嘘だ。記憶はちゃんとある。ほら昨日だって………

 

昨日?あれ?俺は………

 

頭から大事な事が抜け落ちていくのがわかる。目眩がする。頭がぼーっとする。中から俺じゃない何かが俺を侵食しようとするかのようだった。その衝撃は内側だけでは止められず、俺は無意識のうちに膝をついた。

「おい風詠!しっかりしろ!」

 

誰かが呼んでいる。けど俺は耐えられなかった。遠ざかったり、近づいたりして聞こえる叫び声を耳に感じながら、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………み?……ざみ?」

それが俺を呼ぶ声だと気づいて、目を開く。映るのは、こちらを覗き込む顔。

 

「………大丈夫か?いきなり倒れ込むから驚いちまったぜ」

「………もう大丈夫です。度々迷惑かけてすみません」

「いや、別にいいのだけれど………」

「とりあえずお前の事情を聞かせてくれよ」

「事情?」

「あっちのことだ。ここに来るまで何をしてたとか、そういうことだ」

「事情………」

話すほどの記憶は残っていない。覚えているのは………

 

「名前は風詠雹。忍者ってのをしてたんだ。歳は15。身長は152………」

「それから、親父が風詠裕」

「………え?それだけ?」

「あとは………」

特に言うことが思い付かない。頭の中の映像を掘り起こしても何も出てこない。自分が今までどんな生活をしていたのか、自分が誰と過ごしていたのか。微かに覚えているの誰かとしゃべっている映像だって、肝心な相手が誰かわからない。頭痛が俺をまた飲み込もうとする。けど舌を噛んでそれに耐えた。

 

「ここに来るまでは何をしていたのかしら?」

「ここに来るまで………?」

そうだ。博麗神社に向かったんだ。けれどいきさつが思い出せない。触れられそうなのに、触れようとすれば逃げていく。自分の記憶さえままならない現状にじれったさを感じるが、たちまち自分のいきさつを話さねばならない。

 

「最後に覚えてるのは、あっちの世界で俺が博麗神社に行ったこと。けどなんでかは覚えてない」

「んー、そうか。他になんか手がかりは………」

「ねぇ魔理沙、あんたが持ってきたあれは?」

「お、あれがあったか。よし、ちょっと待ってろ」

魔理沙が席をたって、小走りでどこかへ向かって………すぐ帰ってきた。右手に鎌をもって。

 

「これに見覚えは?」

「えっと………」

見たことがあると言えばあるような気もするし、ないと言われればないような気もする。曖昧だけど、とりあえず初見ではなさそうだ。

 

「見たことはあると思うけど………」 

「………むぅ。手がかりはほぼなしか」

「で、霊夢はこれからどうするのかしら」

「これから?」

「この外来人よ」

「え………里に送ってやればいいんじゃない?」

「おい霊夢、あそこの風潮を知らないのか?」

「あー………めんどくさいわね」

「ここで一緒に暮らせばいいじゃない」 

「「「はぁ!?」」」

突然投げ込まれた爆弾に、俺はただただ驚くしかできなかった。

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